(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
成形品は、コネクタ、スイッチ、リレー、コンデンサ、コイル、トランス、カメラモジュール、アンテナ、チップアンテナおよびミニブレーカからなる群から選択される1種を構成する部品である、請求項2に記載の成形品。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物に使用する液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)は、いずれも当業者にサーモトロピック液晶ポリエステルと呼ばれる異方性溶融相を形成する液晶ポリエステルである。
【0018】
液晶ポリエステルの異方性溶融相の性質は、直交偏
光子を利用した通常の偏
光検査法、すなわち、ホットステージに載せた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0019】
以下、液晶ポリエステル(A)について説明する。
本発明において、液晶ポリエステル(A)は、式(I)〜(III)で表される繰返し単位を含む。
【化3】
[式中、Ar
1およびAr
2は、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、qおよびrは、それぞれ、液晶ポリエステル(A)中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
35≦p≦90、
5≦q≦30、および
5≦r≦30。]
【0020】
式(I)に係る組成比pは、40〜85モル%が好ましく、45〜80モル%がより好ましく、50〜65モル%がさらに好ましい。
【0021】
式(II)に係る組成比qと、式(III)に係る組成比rは、それぞれ、7.5〜30モル%が好ましく、10〜27.5モル%がより好ましく、17.5〜25モル%がさらに好ましい。qとrは、等モル量であるのが好ましい。
【0022】
上記の繰返し単位において、例えばAr
1(またはAr
2)が2種以上の2価の芳香族基を表すとは、式(II)(または(III))で表される繰返し単位が液晶ポリエステル中に2価の芳香族基の種類に応じて2種以上含まれることを意味する。この場合、式(II)に係る組成比q(または式(III)に係る組成比r)は、2種以上の繰返し単位を合計した組成比を表す。
【0023】
式(I)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、ならびにこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0024】
式(II)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジオールであるハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエーテルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0025】
式(III)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0026】
なかでも、液晶ポリエステル(A)として、式(II)および式(III)で表される繰返し単位に係るAr
1およびAr
2が、互いに独立して、式(1)〜(4)で表される芳香族基からなる群から選択される1種または2種以上を含むものが好ましく使用される。
【化4】
【0027】
このなかでも、式(II)で表される繰返し単位としては、式(1)および式(3)で表される芳香族基が、重合時の反応性および得られる液晶ポリエステル(A)の機械物性、耐熱性、結晶融解温度および成形加工性を適度なレベルに調整しやすいことからより好ましい。これら繰返し単位を与える単量体としては、4,4’−ジヒドロキシビフェニルおよびハイドロキノン、ならびにこれのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0028】
また、式(III)で表される繰返し単位としては、式(1)で表される芳香族基が、得られる液晶ポリエステル(A)の機械物性、耐熱性、結晶融解温度および成形加工性を適度なレベルに調整しやすいことからより好ましい。これら繰返し単位を与える単量体としては、テレフタル酸ならびにこのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0029】
さらに、液晶ポリエステル(A)として、式(II)で表される繰返し単位に式(1)および式(3)に係る繰返し単位の少なくとも2種が含まれ、式(1)に係る繰返し単位が、式(III)で表される繰返し単位100モル%中、好ましくは80〜99.9モル%、より好ましくは85〜99モル%、さらに好ましくは90〜98モル%含まれるものが特に好ましく使用される。
【0030】
本発明の液晶ポリエステル(A)において繰返し単位の組成比の合計[p+q+r]が100モル%であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲において、他の繰返し単位をさらに含んでもよい。
【0031】
他の繰返し単位を与える単量体としては、他の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ヒドロキシジカルボン酸、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオール、芳香族メルカプトフェノールおよびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0032】
他の芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、例えば、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ安息香酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0033】
これらの他の単量体成分から与えられる繰返し単位の組成比の合計は、繰返し単位全体において、10モル%以下であるのが好ましい。
【0034】
本発明に使用される液晶ポリエステル(A)の結晶融解温度は、特に限定されないが、310〜360℃が好ましい。
【0035】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「結晶融解温度」とは、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter、以下DSCと略す)によって、昇温速度20℃/分で測定した際の結晶融解ピーク温度から求めたものである。より具体的には、液晶ポリエステルの試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20〜50℃高い温度で10分間保持し、次いで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリエステルの結晶融解温度とする。測定用機器としては、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)Exstar6000などを使用することができる。
【0036】
本発明に使用される液晶ポリエステル(A)は、キャピラリーレオメーター(東洋精機(株)製キャピログラフ1D)により、0.7mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、剪断速度1000s
−1の条件下、結晶融解温度+30℃で測定した溶融粘度が、1〜1000Pa・sであるものが好ましく、5〜300Pa・sであるものがより好ましい。
【0037】
次に、液晶ポリエステル(B)について説明する。
本発明において、液晶ポリエステル(B)としては、式(IV)および式(V)
【化5】
[式中、
sおよびtはそれぞれ、液晶ポリエステル(B)中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす;
80/20≦s/t≦60/40]
で表される繰返し単位を含むものが使用される。
【0038】
液晶ポリエステル(B)において、式(IV)で表される繰返し単位および式(V)で表される繰返し単位のモル比率[s/t]は、80/20〜60/40であり、好ましくは75/25〜70/30である。
【0039】
液晶ポリエステル(B)に係る式(IV)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、4−ヒドロキシ安息香酸、ならびにこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0040】
液晶ポリエステル(B)に係る式(V)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、ならびにこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0041】
液晶ポリエステル(B)において繰返し単位の組成比の合計[s+t]が100モル%であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲において、他の繰返し単位をさらに含有してもよい。
【0042】
液晶ポリエステル(B)を構成する他の繰返し単位を与える単量体としては、他の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸あるいは芳香族ヒドロキシジカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオール、芳香族メルカプトフェノールおよびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0043】
他の芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、例えば、3−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ安息香酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0044】
他の繰返し単位を与える単量体である芳香族ジオールの具体例は、式(II)の繰返し単位を与える単量体として述べたものと同様である。
【0045】
他の繰返し単位を与える単量体である芳香族ジカルボン酸の具体例は、式(III)の繰返し単位を与える単量体として述べたものと同様である。
【0046】
これらの他の単量体成分から与えられる繰返し単位の組成比の合計は、繰返し単位全体において、10モル%以下であるのが好ましい。
【0047】
本発明に使用される液晶ポリエステル(B)の結晶融解温度は、特に限定はされないが、例えば、250〜300℃が好ましい。
【0048】
本発明に使用される液晶ポリエステル(B)は、キャピラリーレオメーター(東洋精機(株)製キャピログラフ1D)により、0.7mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、剪断速度1000s
−1の条件下、結晶融解温度+40℃で測定した溶融粘度が、1〜1000Pa・sであるものが好ましく、5〜300Pa・sであるものがより好ましい。
【0049】
以下、液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)の製造方法について説明する。
【0050】
本発明に用いる液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)の製造方法に特に制限はなく、前記の単量体の組み合わせからなるエステル結合などを形成させる公知の重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを使用することができる。
【0051】
溶融アシドリシス法とは、本発明において用いる液晶ポリエステルを製造するのに適した方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、反応を継続することにより溶融ポリエステルを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば酢酸、水など)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0052】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0053】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法のいずれの場合においても、液晶ポリエステルを製造する際に使用する重合性単量体成分は、常温において、ヒドロキシル基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2〜5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体成分のアセチル化物を反応に用いる方法が挙げられる。
【0054】
単量体の低級アシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリエステルの製造時にモノマーに無水酢酸などのアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0055】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法のいずれの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0056】
触媒の具体例としては、例えば、有機スズ化合物(ジブチルスズオキシドなどのジアルキルスズオキシド、ジアリールスズオキシドなど)、有機チタン化合物(二酸化チタン、三酸化アンチモン、アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなど)、カルボン酸のアルカリおよびアルカリ土類金属塩(酢酸カリウム、酢酸ナトリウムなど)、ルイス酸(BF
3など)、ハロゲン化水素などの気体状酸触媒(HClなど)などが挙げられる。
【0057】
触媒の使用量は、モノマー質量に対し10〜1000ppmが好ましく、20〜200ppmがより好ましい。
【0058】
このような重縮合反応によって得られた液晶ポリエステルは、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工され、成形加工や溶融混練に供される。
【0059】
ペレット状、フレーク状、または粉末状の液晶ポリエステルは、分子量を高めて耐熱性を向上させる目的で、減圧下、真空下または不活性ガスである窒素やヘリウムなどの雰囲気下において、実質的に固相状態で熱処理を行ってもよい。
【0060】
このようにして得られた、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工された液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)は、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などを用いて繊維状酸化チタン(C)と共に溶融混練され、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物とすることができる。また、繊維状酸化チタン(C)を含まない液晶ポリエステル(A)と液晶ポリエステル(B)との液晶ポリエステル樹脂組成物(以下、溶融ブレンド樹脂と称することもある)を予め調製した後に、上記と同様にして、これに繊維状酸化チタン(C)を配合することにより、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を得ることもできる。
【0061】
液晶ポリエステル(A)と液晶ポリエステル(B)の質量比[A/B]は、90/10〜45/55であり、好ましくは85/15〜75/25である。
【0062】
[A/B]が90/10を超えると、液晶ポリエステル樹脂組成物の強度が十分に改善されず、[A/B]が45/55未満であると、液晶ポリエステル樹脂組成物の耐熱性が低くなるだけでなく十分な曲げ弾性率が得られなくなる。
【0063】
液晶ポリエステル(A)と液晶ポリエステル(B)の質量比は、予め溶融混練などによる溶融ブレンド樹脂とする際に調整されてもよく、(A)および(B)が個別または同時に繊維状酸化チタン(C)と配合されて液晶ポリエステル樹脂組成物とする際に調整されてもよい。
【0064】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物における繊維状酸化チタン(C)の含有量は、液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)の合計量100質量部に対して、1〜150質量部であり、好ましくは2〜120質量部であり、より好ましくは5〜110質量部であり、さらに好ましくは10〜80質量部である。
【0065】
繊維状酸化チタン(C)の含有量が上記下限値を下回ると、液晶ポリエステル樹脂組成物の強度および難燃性向上効果が得られにくく、またパーティクル発生抑制効果も不十分となることがある。繊維状酸化チタン(C)の含有量が上記上限値を上回ると、流動性が不十分となるとともに、成形機のシリンダーや金型の磨耗が大きくなることがある。
【0066】
液晶ポリエステルに繊維状酸化チタンを含有させると、液晶ポリエステルと繊維状酸化チタンとの界面の濡れ性が良いことから、超音波洗浄によるパーティクル発生を抑制すると考えられる。パーティクルには、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物から構成される成形品から剥落した樹脂や充填材などが含まれる。
【0067】
本発明における繊維状酸化チタンの数平均繊維長(L)は、1μm〜50μmであることが好ましく、2μm〜40μmであることがより好ましく、3μm〜30μmであることがさらに好ましい。繊維状酸化チタンの数平均繊維長(L)が上記下限値を下回ると機械強度が維持できない傾向があり、上記上限値を上回るとパーティクル発生の抑制効果が不十分となる傾向がある。
【0068】
繊維状酸化チタンの数平均繊維径(D)は、0.05μm〜2.0μmであることが好ましく、0.1μm〜1.5μmであることがより好ましく、0.1μm〜1.0μmであることがさらに好ましい。繊維状酸化チタンの数平均繊維径(D)が上記下限値を下回ると機械強度が維持できない傾向があり、上記上限値を上回るとパーティクル発生の抑制効果が不十分となる傾向がある。
【0069】
また、剛性とパーティクル発生抑制をバランスよく実現するためには、数平均繊維長(L)と数平均繊維径(D)のL/Dは3〜50であることが好ましく、3.5〜40であることがより好ましく、4〜30であることがさらに好ましい。L/Dが上記下限値を下回ると機械強度が維持できない傾向があり、上記上限値を上回るとパーティクル発生の抑制効果が不十分となる傾向がある。
【0070】
なお、数平均繊維長(L)および数平均繊維径(D)の測定方法は、走査型電子顕微鏡(日立製作所製S2100A)を用いて観察、10000倍で写真撮影し、ランダムに500本サンプリングし、各繊維(粒子)の最長部の長さの数平均値を数平均繊維長、最短部の長さの数平均値を数平均繊維径とした。
【0071】
本発明に使用する繊維状酸化チタンの結晶構造は、特に限定されないが、ルチル型、アナターゼ型およびブルサイト型からなる群から選択される一種以上のものを用いることができる。超音波洗浄した際のパーティクル発生低減効果に優れる点でルチル型が好ましい。また、樹脂への分散を良くするために、マグネシウム、カルシウムなど他の金属酸化物がドープされたものであってもよい。
【0072】
本発明に使用する繊維状酸化チタンとしては、例えば、針状酸化チタンおよび棒状酸化チタンが挙げられる。
【0073】
本発明に使用する繊維状酸化チタンは、その表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミ系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。
【0074】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述の針状酸化チタン(C)以外に、例えば、他の繊維状、板状、粒状の無機充填材または有機充填剤を含有してよい。好ましくは、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、充填材として繊維状酸化チタン(C)のみを含む。
【0075】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物が繊維状酸化チタン(C)以外の無機充填材または有機充填剤を含有する場合、その含有量は、液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)の合計量100質量部に対して、好ましくは0.1〜30質量部、より好ましくは0.5〜20質量部である。これら他の添加剤の含有量が上記上限値を超えると、成形加工性が低下したり熱安定性が悪くなる傾向がある。
【0076】
他の繊維状充填材としては、例えば、ミルドガラス、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、チタン酸カリウムウイスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカ、ウォラストナイトなどが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0077】
他の板状充填材としては、例えば、タルク、マイカ、カオリン、クレー、バーミキュライト、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、長石粉、酸性白土、ロウ石クレー、セリサイト、シリマナイト、ベントナイト、ガラスフレーク、スレート粉、シラン等の珪酸塩、炭酸カルシウム、胡粉、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩、バライト粉、沈降性硫酸カルシウム、焼石膏、硫酸バリウム等の硫酸塩、水和アルミナ等の水酸化物、アルミナ、酸化アンチモン、マグネシア、板状酸化チタン、亜鉛華、シリカ、珪砂、石英、ホワイトカーボン、珪藻土等の酸化物、二硫化モリブデン等の硫化物、板状のウォラストナイトなどが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0078】
他の粒状の充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、硫酸バリウム、粒状酸化チタンなどが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0079】
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の添加剤を含有することができる。
【0080】
他の添加剤としては、例えば、滑剤である高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩(ここで高級脂肪酸とは、例えば炭素原子数10〜25のものをいう)など、離型改良剤であるポリシロキサン、フッ素樹脂など、着色剤である染料、顔料、カーボンブラックなど、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤、酸化防止剤であるリン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤など、耐候剤、熱安定剤、中和剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0081】
これらの他の添加剤の含有量は、液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)の合計量100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.5〜5質量部である。これら他の添加剤の含有量が上記上限値を超えると、成形加工性が低下したり熱安定性が悪くなる傾向がある。
【0082】
高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの外部滑剤効果を有する添加剤については、液晶ポリエステル樹脂組成物を成形するに際して、予め、液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットの表面に付着させてもよい。
【0083】
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに、他の樹脂成分を含有させてもよい。他の樹脂成分としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0084】
他の樹脂成分は、単独でまたは2種以上を組み合わせて含有することができる。他の樹脂成分の含有量は特に限定されず、液晶ポリエステル樹脂組成物の用途や目的に応じて適宜定めればよい。典型的には、液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)の合計量100質量部に対する他の樹脂の合計含有量が、好ましくは0.1〜100質量部、より好ましくは0.1〜80質量部となる範囲で添加される。
【0085】
液晶ポリエステル(A)、液晶ポリエステル(B)および繊維状酸化チタン(C)と、所望により他の無機充填材および/または有機充填材、他の添加剤や他の樹脂成分などを所定の組成で配合し、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などを用いて溶融混練することによって、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物とすることができる。
【0086】
これらの繊維状酸化チタン(C)、他の充填材、他の添加剤や他の樹脂成分などの配合は、液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)のいずれか一方または両方に対して行ってよく、あるいは、(A)および(B)からなる溶融ブレンド樹脂に対して行ってよい。
【0087】
この様にして得られた、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、射出成形機、押出機などを用いる公知の成形方法によって成形ないし加工され、所望の成形品を得ることができる。
【0088】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の短冊状の試験片(長さ127mm、幅12.7mm、厚さ3.2mm)を使用した荷重たわみ温度(ASTM D648、荷重1.82MPa)は、好ましくは240℃以上、より好ましくは245℃以上、さらに好ましくは250℃以上で、通常300℃以下ある。
【0089】
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、短冊状の試験片(長さ127mm、幅12.7mm、厚さ0.5mm)を用いた曲げ試験において、曲げ強度は好ましくは190MPa以上、より好ましくは195MPa以上、さらに好ましくは200MPa以上であり、曲げ弾性率は好ましくは10GPa以上、より好ましくは11GPa以上である。上記曲げ強度の上限値は、特に限定されないが、例えば400MPaである。また、上記曲げ弾性率の上限値は、特に限定されないが、例えば30Gpaである。したがって、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、上記曲げ強度が例えば190〜400MPa、195〜400MPa、200MPa〜400MPaであり、上記曲げ弾性率が例えば10〜30GPa、11〜30GPa等である。
【0090】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は優れた難燃性を有する。本明細書において、難燃性は、170.0mm×12.5mm×0.8mmのバーフロー形状試験片を成形し、23℃、相対湿度50%の条件で48時間静置した後、UL−94規格に準拠して評価される。本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、上記評価によればV−0相当であることを特徴とする。
【0091】
液晶エステル組成物からなる成形品は、通常、その成形品表面が剥離しやすく、超音波洗浄すると表面が剥離して起毛するフィブリル化が生じやすく、このフィブリル化した部分からは樹脂組成物からなる小さな粉や塵(以下、パーティクルと称する)が発生しやすい。本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物によると、パーティクルの発生が抑制されるため、その成形品をカメラモジュール等の光学部材における組立時および使用時に異物となることなく、良好な光学特性を得ることができる。
【0092】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物におけるパーティクル発生数は、成形品を超音波洗浄した際に生じるパーティクルの個数として評価することができ、好ましいパーティクル発生数は1000個以下であり、より好ましくは800個以下であり、さらに好ましくは500個以下であり、特に好ましくは300個以下である。パーティクル発生数が上記上限値を超える場合には、電子部品の光学特性は不十分となる傾向にある。なお、パーティクル発生数の評価方法の詳細は、実施例に記載のとおりである。
【0093】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物によれば、良好な流動性および機械強度が得られるため、コネクタ、スイッチ、リレー、コンデンサ、コイル、トランス、カメラモジュール、アンテナ
、チップアンテナおよびミニブレーカなどの電子部品に好適に用いられる。また、難燃性が向上しかつパーティクルの発生が抑制されることから、とりわけカメラモジュールなどの光学電子部品やミニブレーカなどのデバイス部品などの用途に特に好適に用いられる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例中の結晶融解温度、溶融粘度、荷重たわみ温度、曲げ強度、曲げ弾性率、難燃性およびパーティクル発生数の測定、評価は以下に記載の方法で行った。
【0095】
〈結晶融解温度〉
示差走査熱量計としてセイコーインスツルメンツ株式会社製Exstar6000を用いて、試料を室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)を測定した後、Tm1より50℃高い温度で10分間保持した。次いで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却し、さらに再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を結晶融解温度(Tm)とした。
【0096】
〈溶融粘度〉
溶融粘度測定装置(東洋精機(株)製キャピログラフ1D)により、1.0mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、剪断速度1000sec
−1の条件下、試料の結晶融解温度(Tm)+20℃での溶融粘度をそれぞれ測定した。
【0097】
〈荷重たわみ温度〉
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000−110)を用いて、短冊状試験片(長さ127mm×幅12.7mm×厚さ3.2mm)を成形し、これを用いてASTM D648に準拠し、荷重1.82MPa、昇温速度2℃/分で所定たわみ量(0.254mm)になる温度を測定した。
【0098】
〈曲げ強度、曲げ弾性率〉
荷重たわみ温度の測定に用いた試験片と同じ試験片を用いてASTM D790に準拠して測定した。
【0099】
〈難燃性〉
樹脂組成物のペレットを、射出成形機(日精樹脂工業株式会社製PS40)を用いて、長さ170mm、幅12.7mm、厚さ0.8mmのバーフロー形状試験片に成形し、23℃、相対湿度50%の条件で48時間静置した後、UL−94規格に準拠して評価した。
【0100】
〈パーティクル発生数〉
樹脂組成物のペレットを型締め圧15tの射出成形機(住友重機械工業株式会社製 MINIMAT M26/15)を用いて、結晶融解温度(Tm)よりも20℃高いシリンダー温度、金型温度70℃で、長さ64mm、幅12.7mm、厚み2mmの短冊状曲げ試験片を作製し、パーティクル数測定の試験片とした。
純水50mLを備えた外径50mm、内径45mm、高さ100mmの円筒ガラス容器に、
図1の通り各試験片1個をゲート部が水に浸からないように載置した後、円筒ガラス容器を、水1000mLを備えた縦140mm、横240mm、深さ100mの超音波洗浄槽に設置した。
38kHz、100Wの出力で10分間超音波洗浄を行った後、純水1mL中に含まれる最大径2μm以上の脱落物(パーティクル)の個数を、パーティクルカウンター(スペクトリス社製LiQuilaz−05)を使用して3回測定し、平均値を測定結果とした。
【0101】
実施例および比較例において下記の略号は以下の化合物を表す。
POB:パラヒドロキシ安息香酸
BON6:6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸
BP:4,4’−ジヒドロキシビフェニル
HQ:ハイドロキノン
TPA:テレフタル酸
NDA:2,6−ナフタレンジカルボン酸
【0102】
[合成例1(LCP−1)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、BON6:660.5g(54.0モル%)、BP:254.2g(21.0モル%)、HQ:14.3g(2.0モル%)およびTPA:248.3g(23.0モル%)を仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0103】
窒素ガス雰囲気下に室温から150℃まで1時間かけて昇温し、150℃で60分保持した。次いで、副生する酢酸を留出させつつ350℃まで7時間かけて昇温した後、90分かけて10mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステルのペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたペレットの結晶融解温度(Tm)は338℃であり、溶融粘度は23Pa・sであった。
【0104】
[合成例2(LCP−2)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB:655.4g(73モル%)およびBON6:330.2g(27モル%)を仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.02倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0105】
窒素ガス雰囲気下に室温から145℃まで1時間で昇温し、145℃にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ320℃まで7時間かけて昇温した後、80分かけて10mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステルのペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたペレットの結晶融解温度(Tm)は279℃であり、溶融粘度は21Pa・sであった。
【0106】
[合成例3(LCP−3)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB:641.9g(71.5モル%)、BON6:30.6g(2.5モル%)、HQ:93.0g(13モル%)およびNDA:182.7g(13モル%)を仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0107】
窒素ガス雰囲気下に室温から145℃まで1時間かけて昇温し、145℃で30分保持した。次いで、副生する酢酸を留出させつつ345℃まで7時間かけて昇温した後、80分かけて10mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステルのペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたペレットの結晶融解温度(Tm)は321℃であり、溶融粘度は23Pa・sであった。
【0108】
以下の実施例および比較例で使用した充填材を示す。
繊維状酸化チタン(A−1):石原産業(株)社製、針状酸化チタン「FTL−400」(数平均繊維長(L)=10.1μm、数平均繊維径(D)=0.5μm、L/D=20)
繊維状酸化チタン(A−2):石原産業(株)社製、棒状酸化チタン「PFR404」(数平均繊維長(L)=2.91μm、数平均繊維径(D)=0.4μm、L/D=7)
ガラス繊維:CPIC社製、ECS3010A(
数平均繊維
径10.5μm)
タルク:富士タルク(株)社製、「DS−34」(数平均粒径23μm)
【0109】
実施例1
液晶ポリエステル(A)であるLCP−1を70質量部、液晶ポリエステル(B)であるLCP−2を30質量部、および繊維状酸化チタン(A−1)を5.4質量部の割合で配合し、2軸押出機(日本製鋼(株)製TEX−30)を用いて、350℃にて溶融混練を行い、液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットを得た。上記の方法により、溶融粘度、荷重たわみ温度、曲げ強度、曲げ弾性率、難燃性およびパーティクル発生数について測定・評価した。結果を表1に示す。
【0110】
実施例2〜5、比較例1〜7
LCP−1〜3、繊維状酸化チタン(A−1、A−2)、ガラス繊維およびタルクについて、表1に記載の含有量となるように配合し、実施例1と同様にしてペレットを得て、上記の方法により測定・評価を行った。結果を表1に示す。
【0111】
表1に示すように、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物(実施例1〜5)はいずれにおいても、荷重たわみ温度が250℃以上、曲げ強度が200MPa以上、曲げ弾性率が11GPa以上であり、かつ、良好な難燃性およびパーティクル発生数の評価結果を示すものであった。
【0112】
これに対して、比較例1〜7のように、本発明の技術的特徴を充足しない場合は、曲げ強度、曲げ弾性率またはそのバランスが不十分であり、難燃性およびパーティクル発生数の評価結果も好ましくないものであった。
【0113】
【表1】