特許第6937785号(P6937785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937785
(24)【登録日】2021年9月2日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】合成ダイヤモンドヒートスプレッダ
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20210909BHJP
   C30B 29/04 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
   H01L23/36 Z
   C30B29/04 A
   H01L23/36 D
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-564367(P2018-564367)
(86)(22)【出願日】2017年6月8日
(65)【公表番号】特表2019-519111(P2019-519111A)
(43)【公表日】2019年7月4日
(86)【国際出願番号】EP2017064003
(87)【国際公開番号】WO2017211977
(87)【国際公開日】20171214
【審査請求日】2019年1月30日
(31)【優先権主張番号】1610053.9
(32)【優先日】2016年6月9日
(33)【優先権主張国】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514233369
【氏名又は名称】エレメント シックス テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】トウィッチェン ダニエル
【審査官】 平林 雅行
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2015/0294922(US,A1)
【文献】 特開平04−092896(JP,A)
【文献】 特開平08−231298(JP,A)
【文献】 特開2008−179505(JP,A)
【文献】 特開2000−174166(JP,A)
【文献】 特開平10−081586(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104812946(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
H01L 23/29
H01L 23/34−23/36
H01L 23/373−23/427
H01L 23/44
H01L 23/467−23/473
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース支持層を形成している多結晶CVD合成ダイヤモンド材料の第一の層;および
前記多結晶CVD合成ダイヤモンド材料の第一の層上に設けられ、かつダイヤモンド表面層を形成している多結晶CVD合成ダイヤモンド材料の第二の層を含み、
前記ダイヤモンド表面層は前記ベース支持層の厚みと同等であるかまたはそれ未満の厚みを有し、
前記ダイヤモンド表面層は前記ベース支持層の窒素含有量未満の窒素含有量を有し、
前記ダイヤモンド表面層の窒素含有量が0.25〜5ppmの範囲内にあり、前記ベース支持層の窒素含有量が2〜10ppmの範囲内にあり、
前記ダイヤモンド表面層および前記ベース支持層の窒素含有量は、前記ベース支持層の300Kで測定された熱伝導率が1000Wm-1-1〜1800Wm-1-1の範囲内にあって、前記ダイヤモンド表面層の300Kで測定された熱伝導率が1900Wm-1-1〜2800Wm-1-1の範囲内にあるように選択される、多結晶CVD合成ダイヤモンドヒートスプレッダ。
【請求項2】
前記ダイヤモンド表面層の300Kで測定された熱伝導率が2000Wm-1-1〜2200Wm-1-1の範囲内にある、請求項に記載の多結晶CVD合成ダイヤモンドヒートスプレッダ。
【請求項3】
前記ベース支持層の300Kで測定された熱伝導率が1000Wm-1-1〜1500Wm-1-1の範囲内にある、請求項1または2に記載の多結晶CVD合成ダイヤモンドヒートスプレッダ。
【請求項4】
非ダイヤモンド熱伝達層に熱的に結合された発熱構成要素から前記ダイヤモンド表面層に熱を伝達させるための、前記ダイヤモンド表面層に接触して設けられた前記非ダイヤモンド熱伝達層をさらに含む、請求項1からまでのいずれか1項に記載の多結晶CVD合成ダイヤモンドヒートスプレッダ。
【請求項5】
前記非ダイヤモンド熱伝達層が、
金属層;
ケイ素もしくは炭化ケイ素層;
化合物半導体層;または
接着剤
のうちの少なくとも1つを含む、請求項に記載の多結晶CVD合成ダイヤモンドヒートスプレッダ。
【請求項6】
発熱構成要素および請求項1からまでのいずれか1項に記載の多結晶CVD合成ダイヤモンドヒートスプレッダを含むデバイスであって、前記多結晶CVD合成ダイヤモンドヒートスプレッダは、前記発熱構成要素に対して前記ダイヤモンド表面層を近位にし、かつ前記発熱構成要素に対して前記ベース支持層を遠位にして、前記発熱構成要素に隣接して位置する、デバイス。
【請求項7】
請求項1からまでのいずれか1項に記載の多結晶CVD合成ダイヤモンドヒートスプレッダを製造する方法であって、
炭素源ガスを用い、化学蒸着リアクター中で多結晶CVD合成ダイヤモンド材料を成長させること;ならびに
成長の間に前記化学蒸着リアクター中の窒素濃度を制御して、ベース支持層およびダイヤモンド表面層を含む二層ダイヤモンド構造を形成することを含み、
前記ダイヤモンド表面層および前記ベース支持層の窒素含有量は、前記ベース支持層の300Kで測定された熱伝導率が1000Wm-1-1〜1800Wm-1-1の範囲内にあって、前記ダイヤモンド表面層の300Kで測定された熱伝導率が1900Wm-1-1〜2800Wm-1-1の範囲内にあるように選択される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成ダイヤモンドヒートスプレッダを利用する熱管理用途に関する。
【背景技術】
【0002】
広バンドギャップ電子デバイス(例えば、GaN系)の有望な性能は、接点およびチャネル領域において、現在の技術水準の熱管理構成によって提供されうるよりもかなり高い電力散逸および局所化された発熱をもたらすことになる。結果として、従来の冷却技術の使用は、広バンドギャップデバイスの性能および信頼性に対して上限を課す。そのような障害を克服するには、接合近傍温度上昇および構成要素の熱抵抗の有意な低下をもたらすことができる、マクロ、ミクロ、およびナノスケールにおける熱工学を必要とする。
具体的な挑戦は、ある特定の種類の無線周波数(rf)電源デバイスおける熱拡散に関する。そのようなデバイスにおいては、局所的な出力密度は1MW/cm2を超過し得る。この熱の拡散および接合温度の降下は、増大した信頼性、また、連続波の実行を可能とする。電子デバイス用途に加えて、ある特定の極限的光学用途においては、現在の技術水準の熱管理構成を改良する要望もある。
合成ダイヤモンド材料が、そのような材料の高い面内熱電導率により、極限的な熱管理用途における理想的な解決として提案されてきた。例えば、化学蒸着(CVD)によって成長させた種々のグレードの合成ダイヤモンド材料は、多結晶および単結晶合成ダイヤモンド材料の双方を含めて、熱拡散用途で既に市販されている。
【0003】
特定の合成ダイヤモンド材料の熱的性能は、そのマクロ、ミクロ、およびナノスケールの構造に依存することになる。熱的性能に寄与する因子は、合成ダイヤモンド材料内のフォノンの散乱を導くものである[J.E. Graebner, Diamond Films Technol.,(日本国) 3 (1993) p77は、ダイヤモンド薄膜におけるフォノン散乱の概観を含む]。例えば、合成ダイヤモンド材料においては、フォノンの散乱を導く因子は:固有のメカニズム(フォノン−フォノン関連);点欠陥(例えば、窒素および空格子点クラスターなどの欠陥);および拡張欠陥(例えば、積層欠陥および転位)を含む。このように、熱的性能の改良のために最適化された合成ダイヤモンド材料は、点欠陥および拡張欠陥の双方の点で欠陥が減少したものである。さらに、熱的性能の改良のために最適化された合成ダイヤモンド材料は、固有のフォノン散乱メカニズムを低下させるように適合させることもできる。
【0004】
固有のフォノン散乱メカニズムの中で支配的なのは、12Cおよび13Cの相対的質量に関するものである。13Cの天然存在度は1.1%であり、100個の原子毎にほぼ1個は質量が12/13異なり、よって、異なるフォノンエネルギーを有することを意味する。同位体的に制御された単結晶ダイヤモンドの理論[R. Berman, Thermal Conductivity in Solids (Clarendon Press 1976)]および実験[例えば、General Electric, L. Wei,, P.K. Kuo, R.L. Thomas, T.R Anthony, W.F. Banholzer, Phys Rev Lett 70 (1993) p3764]は、バルク熱電導率が、ほぼ2倍に、最大4000W/mKに増大することができることを示している。このように、合成ダイヤモンド材料における13C含有量の低下は、特に、単結晶合成ダイヤモンド材料に関して、固有のフォノン散乱を低下させ、バルク熱伝導率を増加させることができるのは当技術分野で公知である。しかしながら、このアプローチに関する1つの問題は、そのような同位体的に精製された合成ダイヤモンド材料が、同位体的に精製された炭素源を利用する製造プロセスを必要とすることである。そのような同位体的に精製された炭素源は高価であり、かくして、同位体的に精製された合成ダイヤモンド材料は改良された熱的性能を有することができるが、この改良は、増大した価格によって相殺されかねず、その結果、ある種の用途においては商業的実行可能性が低下した材料がもたらされる。
米国特許第9,214,407号は、前述の問題に対する解決を提案している。米国特許第9,214,407号は、合成ダイヤモンド材料における13Cの同位体存在度の低下は、合成ダイヤモンド材料の熱伝導率を改良できることを認識している。さらに、米国特許第9,214,407号は、そのような製造プロセスに必要とされる同位体的に精製された炭素源は炭素の天然同位体存在度を持つものよりも高価であるゆえに、これは、合成ダイヤモンド製造プロセスの出費を増大させることを認識している。なおさらに、米国特許第9,214,407号は、熱拡散用途において、ヒートスプレッダと発熱構成要素との間の界面における熱障壁抵抗は、特に、ヒートスプレッダとして合成ダイヤモンド材料を用いる場合、ヒートスプレッダの効率をしばしば支配していることを認識している。
【0005】
上記に照らして、米国特許第9,214,407号は、非ダイヤモンド熱伝達層と接触して設置されるダイヤモンド材料の表面熱界面層が、増大した熱伝導率を有するように13Cの量を低下させることによって同位体的に精製され、該ダイヤモンド材料の大部分が、炭素の天然同位体存在度を有する(または少なくとも、表面熱界面層としてそのように同位体的に精製されていない)ダイヤモンド材料で形成されている、合成ダイヤモンドヒートスプレッダを提供することを提案している。そのようなヒートスプレッダは、炭素の天然同位体存在度を有する合成ダイヤモンド材料で形成されたヒートスプレッダと比較した場合に、改良された熱拡散特徴を有するであろう。さらに、そのようなヒートスプレッダは、その厚み全体を通じて同位体的に精製されたダイヤモンドヒートスプレッダのそれに近い熱拡散性能を、僅かなコストで有するであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
米国特許第9,214,407号に続いて、そこに記載された解決の実行に関していくつかの問題があることが認識されている。ヒートスプレッダにおけるダイヤモンド材料の比較的薄い表面層のみが同位体的に精製されたガスを用いて製造される場合でさえ、そのようなガスは高価である。この問題は、同位体的に精製されたガスを合成の間にCVDリアクターの出口から入口に戻すように再循環させて、同位体的に精製されたダイヤモンド材料の表面層を合成するのに必要な同位体的に精製されたガスの容量を制限することによって緩和することができる。しかしながら、同位体的に精製された炭素源ガスの使用においてさらなる問題が存在することが判明した。すなわち、同位体的に精製された炭素源ガスの市販の原料は、かなりの量の不純物、特に窒素を含有することが判明した。CVDダイヤモンド合成用の原料ガス中の窒素不純物は問題である。というのは、他の関連欠陥と共に窒素が、そのようなガスを用いて成長させたCVDダイヤモンド材料に取り込まれるからである。ダイヤモンド格子内のそのような欠陥に加えて、CVD合成雰囲気中の窒素などの不純物の存在は、成長方法を変化させ、熱拡散用途において熱性能の低下を導きかねない。例えば、より低い熱伝導率の多結晶CVDダイヤモンド材料は、大きな円柱状形状の結晶粒で形成されたより高い熱伝導率の多結晶CVDダイヤモンド材料と比較して、より小さな粒度およびより高い窒素含有量を有する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に照らして、本発明のある実施形態の目的は、製造コストを有意に増加させることなく改良された熱的性能を有する合成ダイヤモンド材料を提供し、同位体的に精製された原料ガスを用いる先に概説した問題を回避し、極限的な熱管理用途のためのより商業的に実現可能な製品に繋げることにある。本発明の1つの態様によると、
ベース支持層を形成している合成ダイヤモンド材料の第一の層;および
該合成ダイヤモンド材料の第一の層上に設けられ、かつダイヤモンド表面層を形成している合成ダイヤモンド材料の第二の層
を含み、
該ダイヤモンド表面層は、該ベース支持層の厚みと同等であるかまたはそれ未満の厚みを有し、
該ダイヤモンド表面層は、該ベース支持層の窒素含有量未満の窒素含有量を有し、
該ダイヤモンド表面層および該ダイヤモンド支持層の窒素含有量は、該ベース支持層の熱伝導率が1000W/mK〜1800W/mKの範囲内にあって、該表面支持層の熱伝導率が1900W/mK〜2800W/mKの範囲内にあるように選択される、合成ダイヤモンドヒートスプレッダが提供される。
【0008】
本発明のさらなる態様によると、発熱構成要素および上記定義の合成ダイヤモンドヒートスプレッダを含むデバイスであって、該ダイヤモンド表面層が該発熱構成要素に隣接して位置し、該ダイヤモンド表面層は該発熱構成要素の少なくとも一部に対して近位にあるデバイスが提供される。該発熱構成要素は、電子デバイスにおけるような、電子半導性構成要素を含んでよい。別法として、該発熱構成要素は、光学デバイスにおけるような光学構成要素を含んでよい。該デバイスは、有利には、通常、該合成ダイヤモンド層の成長表面側である、最高の熱伝導率を持つ該ダイヤモンド表面に載せられる。しかしながら、ダイヤモンド成長は、有意に性能を犠牲とすることなく、コストおよび能力の理由で、層の残りについて、より速い成長速度でより低い熱伝導率のダイヤモンド材料まで移動する前に、合計ダイヤモンド層厚みの最初の25〜50%について高熱伝導率ダイヤモンド材料を成長させるように制御してよいことも考えられる。そのような代替構成において、最高熱伝導率のダイヤモンド材料は、合成ダイヤモンド層の核形成表面側に向けて位置させてよく、該デバイスは該合成ダイヤモンド層の核形成側に結合される。より高い成長速度でより低い熱伝導率のダイヤモンド層に移動する前に、ダイヤモンド材料の高熱伝導率層を最初にGaNウエハー(または他の化合物半導体)上に成長させるダイヤモンド上GaN(GaN−on−Diamond)ウエハーを製造する場合に、そのような構成を利用することができる。
【0009】
該合成ダイヤモンドヒートスプレッダは、非ダイヤモンド熱伝達層に熱的に結合させた発熱構成要素から熱をダイヤモンド表面層に伝達させるための、ダイヤモンド表面層に接触して設けられた非ダイヤモンド熱伝達層をさらに含んでよい。非ダイヤモンド熱伝達層は、メタライゼーション層、または発熱構成要素およびダイヤモンド表面層の間に位置する他の結合層であってよい。別法として、発熱構成要素は、熱をダイヤモンド表面層に伝達させるために該表面層に接触して設けられた非ダイヤモンド熱伝達層を形成してよい。
【0010】
本発明のなおもう1つの態様によると、上記定義のヒートスプレッダで用いる合成ダイヤモンド材料を製造する方法であって、
炭素源ガスを用い、化学蒸着リアクター中で合成ダイヤモンド材料を成長させること;ならびに
成長の間に化学蒸着リアクター中の窒素濃度を制御して、先に定義されたベース支持層およびダイヤモンド表面層を含む二層ダイヤモンド構造を形成することを含み、
該ダイヤモンド表面層および該ダイヤモンド支持層の窒素含有量は、該ベース支持層の熱伝導率が1000W/mK〜1800W/mKの範囲内にあって、該表面支持層の熱伝導率が1900W/mK〜2800W/mKの範囲内にあるように選択される、方法が提供される。
【0011】
本明細書中において、熱伝導率測定は、公知のレーザーフラッシュ熱伝導率測定方法を用い、300Kで行われることに注意すべきである。
本発明の良好な理解のために、かつどのようにしてそれを実施してよいかを示すために、本発明の実施形態を添付の図面を参照して、例としてのみ記載する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】熱基板と上側デバイス層との間の界面領域におけるフォノン散乱メカニズムを示す図である。
図2】熱基板と上側デバイス層との間の界面領域におけるフォノン輸送についての基礎となる理論を示す図である。
図3(a)(b)】多結晶CVD合成ダイヤモンド材料の熱伝導率が、多結晶CVD合成ダイヤモンド材料の核形成面から多結晶CVD合成ダイヤモンド材料の成長面への通過に際してどのように増大するかを示す図である。
図4】高熱伝導率の多結晶CVDダイヤモンド材料およびより低い熱伝導率の多結晶CVDダイヤモンド材料についての異なる結晶粒組織を示す図である。
図5】本発明の実施形態による二層合成ダイヤモンドヒートスプレッダ構造を示す図である。
図6(a)】ダイヤモンドヒートスプレッダを備えていない(すなわち、本発明によるものではない)SiC上GaN(GaN on SiC)RF電力増幅デバイスの構成の例を示す図である。
図6(b)】CuW熱パッケージの頂部にダイヤモンドヒートスプレッダを備えたSiC上GaN RF電力増幅デバイスの構成の例を示す図である。
図7】種々のタイプのヒートスプレッダについての図6(a)および6(b)のデバイス構成に基づく、最高接合温度maxTj(℃)を示すモデリング結果を示す図である。
図8】最高接合温度maxTj(℃)が、より低い熱伝導率のダイヤモンド層(各々、1000W/mKおよび1500W/mKの熱伝導率を有するTM100またはTM150)上の高熱伝導率ダイヤモンド層(2500W/mKの熱伝導率を有するTM250)の厚みに従ってどのように変化するかの例を示す図である。
図9】最高接合温度maxTj(℃)が、ヒートスプレッダのタイプおよびヒートスプレッダのサイズの双方に従ってどのように変化するかの例を示す図である。
図10】最高接合温度maxTj(℃)が、ヒートスプレッダの2つの異なるサイズにつき、より低い熱伝導率のダイヤモンド層(TM100またはTM150)上の高熱伝導率のダイヤモンド層(TM250)の厚みに従ってどのように変化するかの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
とりわけ、コスト、熱的性能、誘電性搭載、パッケージ束縛、機械的頑強性、および熱膨張係数の問題を考慮した、改良された熱拡散に対する要望が存在する。ヒートスプレッダを用いるための設計規則は、しばしば、単純なコスト対熱伝導率以外の考慮が関与することを意味することに留意するのは重要である。ダイヤモンドヒートスプレッダの脆性などの問題でさえ考慮されなければならない。例えば、熱的性能のほとんどは50μmの厚みのダイヤモンドヒートスプレッダで達成できるかもしれないが、そのようなヒートスプレッダの脆性またはパッケージ設計は、誘電性搭載と共に考慮すると、熱モデリング単独が提案するよりも大きな厚みの要件を生じさせる。
【0014】
特定のクラスのデバイスは、現在の熱管理の解決のために出力密度の限界(kW/cm2)を推し進めている。これらは、無線周波数(rf)デバイス、レーザーダイオード、およびシリコンデバイスを含む。これらのデバイスのいくつかは、今や、現在の熱拡散技術の限界に到達しつつある。さらに、コストを低減させつつ熱的性能を改良する継続した要望が存在する。
【0015】
合成ダイヤモンド材料の熱的性能に対するメリットの立役者は、熱障壁抵抗(TBR)および平均バルク熱伝導率(TC)である。高い熱的性能のためには、平均バルク熱伝導率を最大化しつつ熱障壁抵抗が最小化される、すなわち、TC/TBRができる限り大きいことが望ましい。合成ダイヤモンドを熱管理で用いるいずれの形状においても、これらの特性が関与する。例えば、メタライゼーション結合化アプローチにおいて、金属の厚み、その熱伝導率、および界面間熱障壁が、全て、全熱障壁抵抗に寄与し、他方、熱伝導率は、従って、一旦熱が界面を通って移動したならば、ダイヤモンド層の熱拡散能力を決定する。
熱障壁抵抗を最小化するためには、材料間の音速をマッチさせるのが望ましく、明らかに、合成ダイヤモンド材料についての最良のマッチはダイヤモンド上ダイヤモンド(diamond on diamond)である。しかしながら、多数の実用的および統合的理由で、結合材料で妥協する必要があり、よって、熱障壁抵抗に寄与する全ての他の因子はできるかぎり低いことが望ましい。
【0016】
ダイヤモンド材料における熱障壁抵抗およびバルク熱伝導率に寄与する因子は、フォノンの散乱を導くものである。背景技術の欄で既に示したように、合成ダイヤモンド材料のダイヤモンドにおいて、これらの因子は:(例えば、13Cの天然存在度による)固有のメカニズム;点欠陥(例えば、窒素および空格子点関連欠陥などの欠陥);および拡張欠陥(例えば、積層欠陥および転位)を含む。このように、欠陥の低下、および/または同位体的に精製された合成ダイヤモンド材料の製造は熱的性能を改良することができるのは先行技術で認識されてきた。
【0017】
2500W/mKまでの室温熱伝導率の値が、IIa型ダイヤモンド材料の最高品質の単結晶で報告されている。熱伝導率が伝導帯電子の移動度によって供される金属とは対照的に、電気絶縁性ダイヤモンド材料における熱伝達は格子振動、すなわち、フォノンによって運ばれるのみである。ダイヤモンド材料の傑出した熱伝導率、および2000Kのその高いデバイ温度の理由は、炭素原子の低い質量と一緒になってその剛直な構造を形成するsp3結合の強固なことである。ほとんどの用途において、温度はデバイ温度を十分下回り、よって、フォノン−フォノン散乱は小さく、その結果、大きな高純度ダイヤモンド結晶においてフォノン媒介熱輸送に対するインピーダンスはほとんど生じない。
【0018】
固有のフォノン散乱メカニズムは、余り純粋でないダイヤモンド材料における熱抵抗の主な原因である。単結晶ダイヤモンド材料では、試料の境界における、不純物における、および空格子点における散乱が主たる寄与である。多結晶ダイヤモンド材料では、追加の寄与は、粒界、転位、および拡張欠陥から生起する。熱伝導率に影響する全ての寄与は、寄与するフォノンの波長および、従って、試料の温度に依存する。よって、フォノン散乱メカニズムおよびそれらの相対的寄与を理解するためには、温度依存性熱伝導率の測定が基本的に重要である。
【0019】
熱伝導率および熱抵抗は、量子化された格子振動としてのフォノンに基づき、熱伝導率の気体分子運動論的規定による微視的特性に関連する巨視的量である。この物理像において、熱伝導率Kは:
K=(1/3)Cν2τ1
[式中、Cは単位体積当たりの熱容量に対するフォノンの寄与であり、νはフォノンの速度であり、およびτはフォノン散乱速度である]
によって記載することができる。温度依存性スペクトルにわたる範囲の異なる波長のフォノンは熱の輸送に寄与するので、クレメンス−カラウェイ(Clemens−Callaway)モデルに従ったKのより完全な記載は、温度−依存性デバイフォノン波長スペクトルにわたる積分によって与えることができる。
フォノン−フォノン散乱は、散乱速度がフォノンの波長に依存するダイヤモンド材料において、空格子点および不純物部位で起こる。格子振動の波長よりもかなり小さなサイズを持つ外来性または無秩序原子のクラスターまたは集合体のような拡張欠陥については、散乱は点欠陥のそれと類似である。サイズが拡張欠陥に類似するフォノン波長については、散乱速度はフォノン波長から独立するようになる。転位は熱抵抗のもう1つの原因である。というのは、フォノンは転位の近傍において歪場で散乱されるからである。境界における散乱は、フォノン波長が結晶の幾何学的寸法に匹敵するか、またはそれよりも大きな最低温度において最も重要である。反射のタイプ、すなわち、鏡面または散漫は、境界の微細構造に臨界的に依存し、熱抵抗に対する影響力を決定する。
高品質材料において、熱伝導率は結晶の純度によって決定される。熱伝導率を降下させるための最も重要な不純物は、窒素、水素、および炭素の13C同位体である。最も純粋なIIa型材料は最高の熱伝導率を有し、他方、窒素不純物を有するIaおよびIb型材料において、熱伝導率は有意により低い。いくつかのグループは、温度の関数としての、天然単結晶ダイヤモンドの熱伝導率を測定している。
【0020】
図1は、熱基板と上側デバイス層との間の界面領域におけるフォノン散乱メカニズムを示す。示されたデバイスの構造は、その間に設けられた遷移層と共にダイヤモンド基板層上に設けられた窒化ガリウム緩衝層を含む。窒化ガリウム層内に位置するフォノンは、遷移層に伝搬され、界面散乱、不純物散乱、粒界散乱、および結晶欠陥散乱の対象となる。次いで、遷移領域内に位置するフォノンは基板層に伝搬され、ダイヤモンド基板内の表面粗さおよび界面近傍乱れを介することを含めた散乱メカニズムの対象ともなる。
【0021】
図2は、熱基板と上側デバイス層との間の界面領域におけるフォノン輸送についての基礎となる理論を示す。フォノンボルツマン輸送方程式に対する近似解は、熱容量、群速度、および散乱時間の関数である項を含む。散乱項は、示されたフォノン−フォノン散乱、フォノン−点欠陥散乱、フォノン−転位散乱、およびフォノン−界面散乱を含めた一定範囲の散乱メカニズムからの寄与を含むであろう。この分析は、J. Callaway, Physic. Rev., vol. 113, 1959から引用される。先行技術においては、その間に設けられた窒化アルミニウム界面層と共に炭化ケイ素基板上に設けられた窒化ガリウム層について分析が行われている。しかしながら、該分析は、ダイヤモンド熱拡散基板に同等に適用可能であり、事実、先に述べたように、熱界面における散乱効果はダイヤモンド材料ではより重要であり得る。
【0022】
多結晶CVD合成ダイヤモンドウエハーの核形成面が、多結晶CVD合成ダイヤモンドウエハーの成長面よりも小さな粒度およびより低い熱伝導率を有することは知られている。図3(a)および3(b)は、多結晶CVD合成ダイヤモンド材料の熱伝導率が、多結晶CVD合成ダイヤモンド材料の核形成面から多結晶CVD合成ダイヤモンド材料の成長面まで通過するに際してどのように増大するかを示す。このように、多結晶CVD合成ダイヤモンドウエハーのどの面を発熱構成要素の近くに位置させるべきかの選択を仮定すれば、より大きな粒度およびより低い結晶欠陥含有量を有する成長面が選択されるであろう。
最高品質の多結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、点欠陥によるフォノンプロセスが、熱伝導率および熱障壁抵抗を低下させる支配的な(支配的でなくても)散乱メカニズムの1つである熱伝導率を有することもできる。この点に関し、より低い品質の多結晶CVD合成ダイヤモンド材料の熱伝導率は、拡張欠陥によって支配されていると考えられ、他方、高品質の多結晶CVD合成ダイヤモンド材料の熱伝導率は点欠陥によって支配され得ることに留意することができる。
【0023】
図4は、高熱伝導率「光学グレード」多結晶CVDダイヤモンド材料(図4の左側)およびより低い熱伝導率「機械的グレード」の多結晶CVDダイヤモンド材料(図4の右側)についての異なる結晶粒組織を示す。明瞭に示されるように、高熱伝導率「光学グレード」多結晶CVDダイヤモンド材料は大きな円柱形状の結晶粒からなる。対照的に、より低い熱伝導率「機械的グレード」の多結晶CVDダイヤモンド材料は、よりランダムな結晶粒組織を備えたより小さな結晶粒からなる。
図5は、本発明の実施形態による、二層合成ダイヤモンドヒートスプレッダ構造を示す。該構造は、より低い熱伝導率の多結晶CVDダイヤモンド材料のベース層、およびより高い熱伝導率の多結晶CVDダイヤモンド材料の表面層を含む。該ベース層は、大きな円柱形状の結晶粒からなる表面層と比較してよりランダムな結晶粒組織を備えたより小さな結晶粒からなる。該ベース層は、また、表面層よりも高い窒素含有量を含む。そのような組織は、部分的に成長プロセスを通じて成長条件を変化させて、より高い窒素のより高い成長速度の合成プロセスからより低い窒素のより低い成長速度の合成プロセスに切り替えることによって、単一のCVD成長プロセスで合成することができる。別法として、ベース層の成長後に、ウエハーをCVDリアクターから取り出し、表面層の成長に先立って表面を処理してよい。
【0024】
ベース支持層を形成している合成ダイヤモンド材料の第一の層;および
該合成ダイヤモンド材料の第一の層上に設けられ、かつダイヤモンド表面層を形成している合成ダイヤモンド材料の第二の層を含み、
該ダイヤモンド表面層は、該ベース支持層の厚みと同等であるかまたはそれ未満の厚みを有し、
該ダイヤモンド表面層は、該ベース支持層の窒素含有量未満の窒素含有量を有し、
該ダイヤモンド表面層および該ダイヤモンド支持層の窒素含有量は、該ベース支持層の熱伝導率が1000W/mK〜1800W/mK、場合により1000W/mK〜1500W/mKの範囲内にあって、該表面支持層の熱伝導率が1900W/mK〜2800W/mK、場合により1900W/mK〜2500W/mKまたは2000W/mK〜2200W/mKの範囲内にあるように選択される、合成ダイヤモンドヒートスプレッダが提供される。
【0025】
合成ダイヤモンドヒートスプレッダは、炭素源ガスを用い、化学蒸着リアクター中で合成ダイヤモンド材料を成長させること;ならびに成長の間に化学蒸着リアクター中の窒素濃度を制御して、ベース支持層およびダイヤモンド表面層を含む二層ダイヤモンド構造を形成することによって製造され、該ダイヤモンド表面層および該ベース支持層の窒素含有量は、該ベース支持層の熱伝導率が1000W/mK〜1800W/mKの範囲内にあって、該表面支持層の熱伝導率が1900W/mK〜2800W/mKの範囲内にあるように選択される。
【0026】
本明細書中に記載された層の組合せは、有意なコスト軽減を提供しつつ、全てが高熱伝導率ダイヤモンド材料から製造されたヒートスプレッダの熱的利点のほとんどを提供するように計算されている。電源デバイスのある種のクラスは、典型的には、小さなヒートスポットを作り出し、競合するコスト順位が10〜50%コスト軽減の選択肢が要求されることを意味しつつ、(スプレッダの最適な厚みよりも大きくてよい)合計厚みに合致する最大熱拡散能力を要求することに留意することは重要である。この点に関し、高熱伝導率ダイヤモンド材料は、一般には、ゆっくりと成長し、これは、厚い(例えば、1mm)ダイヤモンドヒートスプレッダがより薄い代替法よりも高価であることのみならず、製造能力に対して有意な影響力を有することを意味する。このように、有利には、一回の成長実行内で成長させた、より低いグレードおよびより高いグレードのダイヤモンド材料を含むダイヤモンドヒートスプレッダを提供して、低下したコストおよび増大した能力/リアクターの利点を備えた高ダイヤモンドグレードの均一なヒートスプレッダに匹敵する熱的性能を与えるのが有利であることが判明した。この解決は、現在記載されている解決と比較して、より高い成長速度および同一の低下したコストおよび増大した能力/リアクターを提供しない従前に開示された同位体精製アプローチよりも有利である。本発明の実施形態は、1500W/mKを超える熱伝導率を備えたヒートスプレッダを必要とするそれらのクラスのデバイスに特に関連する。
【0027】
ダイヤモンド表面層の窒素含有量は、0.25〜5ppmの範囲(EPRによって測定されたNS0)内にあってよい。さらに、ベース支持層の窒素含有量は、2〜10ppmの範囲(EPRによって測定されたNS0)内にあってよい。これは、製造プロセスの途中で、より高い窒素含有量のCVD成長法からより低い窒素含有量の成長法に切り替えることによって達成することができる。多結晶CVDダイヤモンドヒートスプレッダでは、ダイヤモンド表面層の平均粒度は、ベース支持層の平均粒度よりも大きい。ダイヤモンド材料の2つの層は、それらの結晶粒テキスチャーの点で、ならびに窒素濃度測定を介して容易に識別することができる。
【0028】
ベース支持層は、50μm、100μm、130μm、150μm、180μm、200μm、250μm、350μm、500μm、または1000μm以上、場合により、3000μm未満の厚みを有してよい。合成ダイヤモンド材料の厚みの少なくとも50%、60%、70%、80%、または90%は、ベース支持層で形成されていてよい。ベース支持層の厚みは、特定の最終用途についての熱的性能の要件および機械的強度要件の双方に依存するであろう。熱的用途は、通常、ダイヤモンド材料を利用することからの最大熱的利点を達成するために、ダイヤモンド材料の最小合計厚みを必要とする。例えば、ある種の無線周波数電源デバイスにおいては、約150μmのダイヤモンドヒートスプレッダ厚みが、ダイヤモンド材料を利用することからの最大熱的利点を達成するのに必要とされるが、熱障壁抵抗は最初の数μmのみによって支配されていることが判明した。加えて、ある種の用途では、合成ダイヤモンド材料は、それが自立式ウエハーを形成することができる十分な機械的強度を有することが要求されるであろう。同時に、合成ダイヤモンド材料は、これはコストを増大させるので特定の用途で要求されるのでなければ、過度に厚くすべきではないことが認識されるべきである。最大の利点は、本発明を、高純度、低窒素、高熱伝導率の合成ダイヤモンド材料から全てを成長させるのは非常にコストがかかるであろう比較的厚いダイヤモンドウエハーを必要とする構成に適用することによって達成されるであろうと考えられる。
【0029】
ダイヤモンド表面層は、300μm、250μm、200μm、150μm、100μm、または50μm以下、場合により20μm以上の厚みを有してよい。ダイヤモンド表面層の厚みを増加させると、コストの関連する増大に関するのを除き、ヒートスプレッダの熱的性能を増加させることができる。このように、ダイヤモンド表面層の正確な窒素含有量に加えて、ダイヤモンド表面層の正確な厚みは、特定の用途に対するコスト対性能分析に依存するであろう。
【0030】
ある実施形態によると、合成ダイヤモンド材料は、2つの層、すなわち、先に定義されたベース支持層およびダイヤモンド表面層のみを含む。しかしながら、ある実施形態では、さらなる層が提供され得る。そうは言うものの、高い熱的性能および低い製造コストの組合せを達成するには、より安価なベース支持層は、合成ダイヤモンド材料の大部分を形成すべきである。
【0031】
上記に関連して、遷移領域は、本発明に従って形成された異なる熱伝導率を有するダイヤモンド材料の2つの層の間で確認できることに注意するのは重要である。遷移は、合成プロセスにおける遷移の開始においてダイヤモンド表面の粗さよりもいずれの短い時間を取ることもできない。多結晶CVDダイヤモンド成長の間におけるダイヤモンド表面粗さは、ダイヤモンド材料の成長厚みのほぼ10%である。従って、300μmの厚みの最初のダイヤモンド層では、異なる熱伝導率のダイヤモンド材料の第二の層へ遷移することができる最も速いのは、300μm厚みの最初の層上での30μmの成長後である。このように、少なくとも30μmの厚みの遷移領域は、ダイヤモンド材料の最初の層の厚みが300μmである場合、最終生成物に存在するであろう。
非常に重要な注目すべきことは、遷移をできる限り急にすることの重要性である。部分的には、これは、発達しつつあるテキスチャーおよび結晶粒の粗さによって強く影響される。これらは、合成プロセスを停止させ、成長面を平坦に加工し、次いで、加工された表面上で新しい合成の実行を開始させることによって低下させることができる一方で、これのコストおよび複雑性は望ましくないが、選択肢は残されている。成長がダイヤモンド材料の層1から層2に遷移する場合には、層1の平均バルク熱特性から層2のものへ移動させるのに必要な成長の平均厚みによって定義された遷移層は、層1の厚みの<30%、好ましくは<20%、最も好ましくは<15%である。
【0032】
合成ダイヤモンド材料は、多結晶CVD合成ダイヤモンド材料であってよい。多結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、少なくとも50mm、60mm、70mm、80mm、90mm、100mm、110mm、120mm、130mm、または140mm、場合により、200mm、150mm、または145mm未満の最大長さ寸法を有してよい。別法として、合成ダイヤモンド材料は、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料であってよい。
合成ダイヤモンドヒートスプレッダは、非ダイヤモンド熱伝達層に熱的に結合された発熱構成要素からダイヤモンド表面層に熱を伝達させるための、ダイヤモンド表面層に接触して設けられた非ダイヤモンド熱伝達層をさらに含んでよい。非ダイヤモンド熱伝達層は合成ダイヤモンド材料の表面層に結合していてよく、または単に、合成ダイヤモンド材料の表面層に接触させて設置してよい。
【0033】
非ダイヤモンド熱伝達層は、金属層;ケイ素もしくは炭化ケイ素層;化合物半導体層;または接着剤のうちの少なくとも1つを含んでよい。例えば、非ダイヤモンド熱伝達層は、合成ダイヤモンド材料の表面層上に設けられた金属層を含んでよい。これは、チタン/白金/金のメタライゼーションなどの表面層のメタライゼーションによって達成され得る。そのようなメタライゼーションはパターン化することができ、かつ結合および/または電気的連結をもたらすように機能することができる。別法として、非ダイヤモンド熱伝達層は、その上の化合物半導体デバイス層構造の引き続いての蒸着のために、成長層として機能することができるケイ素または炭化ケイ素の層などの無機層を含んでよい。
【0034】
非ダイヤモンド熱伝達層は、1つまたは複数の化合物半導体層、例えば、1つまたは複数の窒化ガリウムを含めた窒化物層を含んでよい。そのような材料は、効果的な熱拡散が必要とされる高出力のエレクトロニクス用途に用いるのに有利である。これらの化合物半導体層は、合成ダイヤモンド材料の表面層に直接接触させて設置してよく、または先に記載した金属層または無機層を介して結合させてよい。
【0035】
本発明の有利な技術的効果は、高出力密度において作動させる場合、特に高出力密度の半導体構成要素に集積させる場合に最良に実現される。半導体構成要素の同等なCW面積出力密度は、少なくとも1kW/cm2、2kW/cm2、5kW/cm2、10kW/cm2、20kW/cm2、50kW/cm2または100kW/cm2、1MW/cm2、2MW/cm2、4MW/cm2、6MW/cm2、8MW/cm2、または10MW/cm2であってよい。別法として、または加えて、半導体構成要素の線出力密度は、少なくとも1W/mm、2W/mm、2.5W/mm、3W/mm、4W/mm、6W/mm、8W/mm、または10W/mmであってよい。一般には、出力密度がより大きければ、半導体デバイス構成要素に隣接する非常に高い熱伝導率のダイヤモンド表面層を用いる利点はより大きいことが判明した。最も適切な出力密度の定義は、半導体デバイスのタイプに依存するであろう。高い出力密度のRFデバイスでは、出力密度は、通常、単位ゲート幅当たりのワットで表した線出力密度として定義される。しかしながら、レーザーダイオード、発光ダイオード、パワースイッチおよびマイクロプロセッサなどの他のデバイスでは、面積出力密度測定がより適切である。後者の場合、発光または電流切替えであれ、鍵となるのは活性領域の面積である。
なおもう1つの代替法は、合成ダイヤモンド材料の表面層を、鏡、レンズ、角柱、エタロン、光学ウィンドウ、またはレーザー材料などの光学構成要素に接触させて設置することである。この場合、光学構成要素は非ダイヤモンド熱伝達層を形成することができる。そのような構成は、光学構成要素を、光学吸光度および/または熱レンズ効果の増加などの悪影響を妨げるために非常に効果的な熱拡散を必要とする加熱の対象とすることができる高エネルギー光学用途において有利である。
例として、現在のrfデバイス構成のモデリングは、ダイヤモンドヒートスプレッダの有りまたは無しにて行われ、高/低熱伝導率ダイヤモンド層の厚みが感度分析の一部である段階的ダイヤモンドヒートスプレッダと比較されてきた。
【0036】
分析は、本明細書中に記載された段階的ダイヤモンドヒートスプレッダが、同様な熱的性能を、材料のコスト低減および増大した容量の有意な利点を備えた均一な高熱伝導率ダイヤモンドヒートスプレッダに与えることを示した。1500W/mKベースダイヤモンド層およびより高い熱伝導率のダイヤモンド表面層からなるダイヤモンドヒートスプレッダのための製造コストモデルの使用は、製造能力の>1.5倍相当の増加と共に材料のコスト低減>20%のための経路を示す。
【0037】
ベンチマークデバイスは、ダイヤモンドヒートスプレッダを備えていない図6(a)に示されたリアルパッケージ(real package)上の、SiC上GaN RF電力増幅器である。図6(b)は、CuW熱パッケージの頂部上に(寸法6mm×4mm×0.5mmの)ダイヤモンドヒートスプレッダを備えた比較デバイスを示す。Element Six Limitedからのダイヤモンド材料の商業的に入手可能なグレードの種々の組合せに対してモデリングが行われている。結果は、銅ヒートスプレッダ(ほぼ200℃)を用い、種々のグレードのダイヤモンドヒートスプレッダ(TM250ではほぼ163℃まで低下した最高接合温度maxTj)を用い、および本発明による種々のグレードのダイヤモンド基板を用い、CuWパッケージ(>210℃)上にヒートスプレッダを備えていないデバイス構成要素について、最高接合温度maxTj(℃)を示す図7に示される。重要なことには、50%TM150および50%TM250の層状構造などのある種のグレードの構成では、最高接合温度は、より高価なTM250で全部が作成されたヒートスプレッダで達成されるものに近づき、ダイヤモンドヒートスプレッダを備えていないデバイスと比較して最高接合温度の20%低下を提供することが示される。
【0038】
図8は、最高接合温度maxTj(℃)が、より低い熱伝導率のダイヤモンド層(TM100またはTM150)上の高熱伝導率ダイヤモンド層(TM250)の厚みと共にどのように変化するかの例を示す。注目すべきことには、TM150の400μm厚みの層の頂部の上のTM250の100μm厚みの層は、500μm厚みのTM250ヒートスプレッダと同一の熱的性能を与える。もしTM100ダイヤモンド材料をベース層として利用するならば、TM100の250μm厚みの層上のTM250の250μm厚みの層は、500μm厚みのTM250ヒートスプレッダと同一の熱的性能を与える。
【0039】
図9は、最高接合温度maxTj(℃)が、ヒートスプレッダのタイプおよびヒートスプレッダのサイズの双方と共にどのように変化するかの例を示し、6mm×4mmヒートスプレッダを10mm×10mmサイズのヒートスプレッダと比較する。結果は、段階式ダイヤモンドヒートスプレッダプローチが、効果的に、異なるサイズのヒートスプレッダの規模とすることができ、最高接合温度のさらなる低下は、より大きなヒートスプレッダまで移動することによって達成することができることを示す。最高接合温度の25%低下はより大きなヒートスプレッダで達成され、最高接合温度の20%低下は、ヒートスプレッダを備えていないデバイス構成と比較してより小さなヒートスプレッダで達成される。
図10は、最高接合温度maxTj(℃)が、2つの異なるサイズのヒートスプレッダにつき、より低い熱伝導率のダイヤモンド層(TM100またはTM150)上の高熱伝導率ダイヤモンド層(TM250)の厚みと共にどのように変化するかの例を示す。再度、結果は、段階式ダイヤモンドヒートスプレッダプローチが、効果的に、ヒートスプレッダの異なるサイズの規模とすることができることを示す。
【0040】
本明細書中に記載された合成ダイヤモンドヒートスプレッダは、そうでなければ材料を商業的に実行不可能とするであろう過剰なコストの増加を引き起こさずに、例外的な熱的性能を生じさせるように適合される。それらは、熱界面領域においてのみ熱的性能の改良を目標に定めることによって、構成要件のこの有利な組合せを達成する。使用に際して、本明細書中に記載された発熱構成要素および合成ダイヤモンドヒートスプレッダを含むデバイスを提供することができ、ここで、合成ダイヤモンド材料は、発熱構成要素の少なくとも一部に対してダイヤモンド表面層を近位にして、発熱構成要素に隣接して位置する。例えば、合成ダイヤモンド材料は、ダイヤモンド表面層を介して発熱構成要素に結合させることができる。
【0041】
本発明を好ましい実施形態を参照して特別に示し、記載してきたが、添付の請求の範囲によって規定される発明の範囲を逸脱することなく、形態および詳細の種々の変形をなすことができるのは当業者に理解されるであろう。
次に、本発明の好ましい態様を示す。
1. ベース支持層を形成している合成ダイヤモンド材料の第一の層;および
前記合成ダイヤモンド材料の第一の層上に設けられ、かつダイヤモンド表面層を形成している合成ダイヤモンド材料の第二の層を含み、
前記ダイヤモンド表面層は前記ベース支持層の厚みと同等であるかまたはそれ未満の厚みを有し、
前記ダイヤモンド表面層は前記ベース支持層の窒素含有量未満の窒素含有量を有し、
前記ダイヤモンド表面層および前記ダイヤモンド支持層の窒素含有量は、前記ベース支持層の熱伝導率が1000W/mK〜1800W/mKの範囲内にあって、前記表面支持層の熱伝導率が1900W/mK〜2800W/mKの範囲内にあるように選択される、合成ダイヤモンドヒートスプレッダ。
2. 前記ダイヤモンド表面層の窒素含有量が0.25〜5ppmの範囲内にある、上記1に記載の合成ダイヤモンドヒートスプレッダ。
3. 前記ベース支持層の窒素含有量が2〜10ppmの範囲内にある、上記1または2に記載の合成ダイヤモンドヒートスプレッダ。
4. 前記ダイヤモンド表面層の熱伝導率が2000W/mK〜2200W/mKの範囲内にある、上記1から3までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンドヒートスプレッダ。
5. 前記ベース支持層の熱伝導率が1000W/mK〜1500W/mKの範囲内にある、上記1から4までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンドヒートスプレッダ。
6. 前記ベース支持層が、50μm、100μm、130μm、150μm、180μm、200μm、250μm、350μm、500μm、または1000μm以上の厚みを有する、上記1から5までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンドヒートスプレッダ。
7. 前記合成ダイヤモンド材料の厚みの少なくとも50%、60%、70%、80%、または90%が前記ベース支持層から形成されている、上記1から6までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンドヒートスプレッダ。
8. 前記ダイヤモンド表面層が、300μm、250μm、200μm、150μm、100μm、または50μm以下の厚みを有する、上記1から7までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンドヒートスプレッダ。
9. 前記合成ダイヤモンド材料が多結晶CVD合成ダイヤモンド材料である、上記1から8までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンドヒートスプレッダ。
10. 前記多結晶CVD合成ダイヤモンド材料が、少なくとも50mm、60mm、70mm、80mm、90mm、100mm、110mm、120mm、130mm、または140mmの最大長さ寸法を有する、上記9に記載の合成ダイヤモンドヒートスプレッダ。
11. 前記合成ダイヤモンド材料が単結晶CVD合成ダイヤモンド材料である、上記1から8までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンドヒートスプレッダ。
12. 非ダイヤモンド熱伝達層に熱的に結合された発熱構成要素から前記ダイヤモンド表面層に熱を伝達させるための、前記ダイヤモンド表面層に接触して設けられた前記非ダイヤモンド熱伝達層をさらに含む、上記1から11までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンドヒートスプレッダ。
13. 前記非ダイヤモンド熱伝達層が、
金属層;
ケイ素もしくは炭化ケイ素層;
化合物半導体層;または
接着剤
のうちの少なくとも1つを含む、上記1から12までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンドヒートスプレッダ。
14. 発熱構成要素および上記1から13までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンドヒートスプレッダを含むデバイスであって、前記合成ダイヤモンドヒートスプレッダは、前記発熱構成要素に対して前記ダイヤモンド表面層を近位にし、かつ前記発熱構成要素に対して前記ベース支持層を遠位にして、前記発熱構成要素に隣接して位置する、デバイス。
15. 上記1から13までのいずれか1項に記載の合成ダイヤモンドヒートスプレッダを製造する方法であって、
炭素源ガスを用い、化学蒸着リアクター中で合成ダイヤモンド材料を成長させること;ならびに
成長の間に前記化学蒸着リアクター中の窒素濃度を制御して、ベース支持層およびダイヤモンド表面層を含む二層ダイヤモンド構造を形成することを含み、
前記ダイヤモンド表面層および前記ベース支持層の窒素含有量は、前記ベース支持層の熱伝導率が1000W/mK〜1800W/mKの範囲内にあって、前記表面支持層の熱伝導率が1900W/mK〜2800W/mKの範囲内にあるように選択される、方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10