特許第6937798号(P6937798)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6937798-遮水シートの移動工法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937798
(24)【登録日】2021年9月2日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】遮水シートの移動工法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/18 20060101AFI20210909BHJP
   B09B 1/00 20060101ALN20210909BHJP
【FI】
   E02B3/18 F
   !B09B1/00 F
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-120842(P2019-120842)
(22)【出願日】2019年6月28日
(65)【公開番号】特開2021-6686(P2021-6686A)
(43)【公開日】2021年1月21日
【審査請求日】2019年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】391051119
【氏名又は名称】洋伸建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132964
【弁理士】
【氏名又は名称】信末 孝之
(74)【代理人】
【識別番号】100074055
【弁理士】
【氏名又は名称】三原 靖雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正基
(72)【発明者】
【氏名】中尾 千明
(72)【発明者】
【氏名】内山 聖児
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−108436(JP,A)
【文献】 実開昭52−062634(JP,U)
【文献】 特開平04−114674(JP,A)
【文献】 特開2019−100131(JP,A)
【文献】 特開2005−041636(JP,A)
【文献】 特開2017−149492(JP,A)
【文献】 特開2002−332684(JP,A)
【文献】 再公表特許第2009/150756(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 1/00−15/10
B09B 1/00−5/00
B09C 1/00−1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陸上で広幅加工された遮水シートを海上に移動させる遮水シートの移動工法であって、 該遮水シートを海上へ引き摺り出す際の引き摺りエリアを、下り勾配を有するスロープ面を設けて形成し、
該スロープ面では前記遮水シートにブイ等の大量の浮力体を装着する作業エリアとし、
該スロープ面上に高密度ポリエチレンを素材とする底部シートを敷設し、
前記底部シートと前記遮水シートの間に、放水により水膜層を形成しておき、
該水膜層で遊離した遮水シートを、引き摺り手段を用いて海上に牽引して移動させることを特徴とする遮水シートの移動方法。
【請求項2】
前記底部シートと前記遮水シートの間に、保持ローラと、該保持ローラの前記スロープ面の下り側に隣接した該保持ローラより小径の放水管とを設け、
放水により形成された前記水膜層の流れを保持する
ことを特徴とする請求項1記載の遮水シートの移動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遮水シートの移動工法に関し、特に、遮水シートを広幅加工した大型の遮水シートを、引摺り移動させる際、遮水シートの引き裂きや摩擦による損傷等を低減化させる遮水シートの移動工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、遮水シートは、護岸に敷設して降雨や波等による決壊を防止し、或いは廃棄物処分場等の底部に敷設して、石炭灰等廃棄物から流れ出る有害物質が地下に浸透することを防ぐために用いるものである。
【0003】
しかし、遮水シート敷設工事の規模が大きくなれば、当然、該遮水シートは巨大な大きさのシートに広幅する必要がある。しかし、遮水シートの原反ロールは、製造規格で幅2.0mであり、そのために施工現場近傍に広幅加工設備を設け、施工現場の規模に適合する幅の大型の遮水シートに加工する必要がある。
【0004】
大型の遮水シートの広幅加工方法は、複数本の原反ロールを前後二列で千鳥状に並列しておき、これらの各原反ロールから遮水シートを送りだし、隣接する遮水シート端片同士を、融着等の固着手段を用いてして繋ぎ合わせ、施工現場の幅寸法に合うよう広幅加工して、大型の遮水シートに構成するものである。
【0005】
そして、遮水シートの広幅加工は、前述のように敷設施工現場に広幅加工設備を設置して行われており、海上施工であれば1500トン級の作業用台船を設け、該台船上で広幅加工し、加工された大型の遮水シートにはブイ等の浮力体を多数取り付け、船上より直に海上へ進水できるよう構成している。例えば、特許文献1のように。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6351085号公報
【0007】
しかし、施工現場は大抵が海上施工であるが、海岸際での施工条件が合えば、広幅加工設備も台船上に代えて陸上に設ける事もある。そのためには該広幅加工設備は通常なるべく岸壁近くに設けて遮水シートを加工するが、立地条件が合わなければ広幅加工設備の手前には、施工現場で使用する大型の遮水シートの幅寸法を有する引き摺りエリアを必要としている。
【0008】
そして、遮水シートの拡幅加工を終えた大型の遮水シートは、引き摺りエリアから海上に引き摺って移動させるが、強引に引き摺りだすと、遮水シートと地面との接触による摩擦が生じ、遮水シートの素材が超軟質であるため、遮水シートが引き裂かれたり、該シート面が摩擦により傷ついてしまうという問題が生じていた。また、引き摺り延長が長くなる程、遮水シート重量が増し、引き摺り移動は不可能に近い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこでこの発明は、陸上において遮水シートを広幅加工し、該広幅加工により形成された大型の遮水シートを海上に引き摺り移動させる際に生ずる強引な牽引による遮水シートの引き裂かれを防止し、摩擦を低減させる遮水シートの移動工法を開発・提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の遮水シートの移動工法は、陸上で広幅加工された遮水シートを海上に移動させる遮水シートの移動工法であって、該遮水シートを海上へ引き摺り出す際の引き摺りエリアを、下り勾配を有するスロープ面を設けて形成し、該スロープ面上に底部シートを敷設し、前記底部シートの間に、放水により水膜層を形成しておき、該水膜層で遊離した遮水シートを、引き摺り手段を用いて海上に牽引して移動させることを特徴とする。
【0011】
さらに、前記底部シートと前記遮水シートの間に、保持ローラと、該保持ローラの前記スロープ面の下り側に隣接した該保持ローラより小径の放水管とを設け、放水により形成された前記水膜層の流れを保持することを特徴とする。
【0012】
また、前記底部シートを、建屋内の作業ステージの床面にも敷設したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明によると、スロープ面の遮水シートの下部に底部シートを敷設し、これらシートの間に水膜層を形成し、該水膜層によって遊離する事で遮水シートの摩擦低減化を図り、海上に引き摺って移動することが容易に可能になる。また、遮水シートの引き裂きや摩擦が軽減され、遮水シートの保護が図れる等の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明の使用設備の一部の実施例であり、建屋とシートの引出装置を示す一部を切り欠いた説明図である。
図2】この発明の使用設備の他部の実施例であり、引出装置から海上までのスロープ面を示す一部を切り欠いた説明図である。
図3】この発明に使用する既存の遮水シート(1、1´)の移動工法の一実施例を示し、(A)は、保持ローラと放水管の上部を移動する状態の3層一体の遮水シートの一部を切り欠いた断面図であり、(B)は、図3(A)中a部分の一部を切り欠いた拡大断面図であり、(C)は、保持ローラと放水管の上部を移動する状態の5層一体の遮水シートの一部を切り欠いた断面図であり、(D)は、図3(C)中b部分の一部を切り欠いた拡大断面図である。
図4】この発明に使用する広幅遮水シートを海中に引き摺り出した状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の好適な実施の形態について説明するが、この発明においては、以下の記述に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲においては適宜変更可能である。
【実施例】
【0016】
次に、この発明の一実施例を図面に従って説明すると、陸上(R)で広幅加工された遮水シート(1)を設け、該遮水シートを海上へ引き摺り出す際、引き摺りエリアとして、下り勾配を有するスロープ面(S)を形成し、該スロープ面(S)上に底部シート(2)を敷設し、前記底部シート(2)と前記遮水シート(1)の間に放水により水膜層(3)を形成しておき、該水膜層(3)で遊離した遮水シート(1)を、引き摺り手段を用いて海上に牽引して移動させることを特徴とする遮水シートの移動工法から構成されるものである。
【0017】
次に、この発明である「遮水シートの移動工法」に使用する主な設備及び器具の一具体例を図1図3に基づいて説明すると、
1.建屋(X)
海岸より適宜な距離を有し、且つ適宜な高さを有する位置に設置し、原反ロール(Y)(Y´)からそれぞれ引き出した遮水ロール(1)を作業ステージ(WS)で拡幅加工する。
2.引出装置(Z)
建屋に隣接され、建屋内で広幅加工された遮水シート(1)を海岸方向に送り出す。
3.スロープ面(S)
建屋(X)の高さ位置より、引出装置(Z)で引き出された遮水シート(1)を海岸に向け引き摺り出す引き摺りエリアであり、ブイ等の浮力体(8)を装着する作業エリアでもあり、適宜な角度の下り勾配を有する傾斜面である。
4.牽引具(V)
スロープ面(S)に移動した遮水ロール(1)を海上へ牽引する器具である。
この発明は主にこれらの設備及び器具を用いた遮水シートの移動工法である。
【0018】
即ち、海上・陸上の境の水際、あるいは岸壁(G)より90m先の陸上(R)であって、海面より4mの高さ位置に、前方が開放された建屋(X)を設け、該建屋(X)内において遮水シート(1)の広幅加工を行うものである。そして、該建屋(X)内の後方付近に、遮水シート(1)を巻き取った複数の原反ロール(Y、Y´)を広幅規模に応じた複数個を並列して設け、しかも前列と後列を千鳥状に配列して設ける。
【0019】
このように配列された各原反ロール(Y、Y´)の各遮水シート(1・・・)は、後述の引出装置(Z)によってそれぞれ順次引き出され、それぞれ隣接の遮水シート(1)との重なり合う端部を、建屋(X)内部の中央部に形成した作業ステージ(WS)で融着器具を用いて融着し、広幅加工を行うものである。
【0020】
そして、建屋(X)の開放されている前方には、拡幅加工作業を行う前記建屋(X)の海側に隣接した前記引出装置(Z)を設けており、該装置により建屋(X)内で広幅加工を終えた遮水シート(1)を、引き摺りエリアであるスロープ面(S)に向けて引き出すものである。
【0021】
このスロープ面(S)は、広幅加工作業を行う前記建屋(X)の海側に設けた引出装置(Z)に隣接して設けている。該スロープ面の最高部は、前記建屋(X)よりやや低く、最低部は水面より1mの岸壁(G)で、スロープ面の長さは、建屋(X)から岸壁(G)まで90mの長さを有する陸地(R)上に形成し、3.3%勾配を有している。
【0022】
尚、前記広幅加工設備を有する建屋(X)から岸壁(G)までのスロープ面(S)の長さを90mとしたが、施工現場に敷設する遮水シートに合った長さを示したものであり、施工現場の大・小により広幅加工された遮水シート(1)の幅寸法は異なる。また、スロープ面(S)の横幅寸法に関しても特に問わない。
【0023】
前記広幅加工する遮水シート(1)の構造は、図3(A)、(B)に示すように、既存の遮水シート材(1a)の表裏面にそれぞれ保護マット材(1b)(1b)を設けた3層一体とした遮水シート(1)と、図3(C)(D)に示すように、前記保護マット材(1b)の表裏両面に遮水シート材(1a)、(1a)を設け、さらに、両遮水シート材(1a)の外側面に保護マット材(1b)をそれぞれ設けて5層一体とした既存の遮水シート(1´)が存在している。
【0024】
この発明は、前記底部シート(2)をスロープ面(S)に敷設し、遮水シート(1)の引き摺りで生ずる引き裂きや摩擦の低減化を図ることを目的としたものであるが、遮水シート材(1a)の素材が超軟質のシートであるため、摩擦による遮水シートの引出しの可否を判断するために、次の静止摩擦係数を計測した。

相手側: 底部シート(2) 引張試料: 保護マット材(1b)
テーブル試験結果 μ=0.45
さらに、底部シート(2)と遮水シート(1)の間に水を流して静止摩擦係数を計測したところ
テーブル試験結果 μ=0.25
という数値を得た。本願発明は、上記試験結果により水膜層で摩擦低減が図れることが確認できたので出願に踏み切ったものである。
【0025】
なお、この発明に使用する素材の一例を述べると、前記遮水シート材(1a)の素材は、超軟質PVCであり、保護マット材(1b)の素材は、ポリエステル製スパンボンド不織布であり、底部シート(2)の素材は、高密度ポリエチレンである。
【0026】
次に、複数本の軒梁材(T)で組み立てられた建屋(X)内で行う遮水シート(1)の広幅加工作業の一実施例を説明すると、遮水シート(1)の原反ロール(Y,Y´)は、前後2列にそれぞれ複数組の原反ロールを千鳥状に順次配備しておき、前列の原反ロール(Y)に対して後列の原反ロール(Y´)は、前列の原反ロール(Y)の両端より少し内側にセットしておく。
【0027】
そして、前後の各両ロール(Y,Y´)から前記引出装置(Z)で、同一のスピードで引き出される遮水シート(1)の端部の重ね合った部分を、作業ステージ(WS)で融着器具を用いて融着作業を行って広幅加工作業を行うものである。
【0028】
さらに、広幅加工された遮水シート(1)をスロープ面(S)に向けて引き出す引出装置(Z)の構造を詳細に説明すると、該引出装置(Z)は、前記建屋(X)の海岸側に隣接しており、長尺な4本のローラとトラス構造の長尺な枠本体(7)から構成されている。
【0029】
前記4本のローラは、ギアモータを動力源とする駆動ローラ(4)と、該ローラに挟み込んで送り出される遮水シート(1)を上部から押さえる押さえローラ(5)と、
駆動ローラ(4)の前後に位置するスナップローラ(6、6´)からなる。
そして、前記該押さえローラ(5)には、ライニングゴムが巻回されており、挟んだ遮水シート(1)の滑りを防止している。
【0030】
また、スナップローラ(6)(6´)は、駆動ローラ(4)の前・後にそれぞれ位置し、前記駆動ローラ(4)より下方側に設け、遮水シート(1)の折り返しを設けることにより、駆動ローラ(4)に遮水シート(1)を食い込ませて送り出し効率を高めることができる。
【0031】
さらに、前記ギアモータにはブレーキ機構を設けることにより、ギアモータの停止時は、駆動ローラ(4)はブレーキされるため遮水シート(1)の逸走を防止できる。そして、前記枠本体(7)は、押さえローラ(5)とスナップローラ(6、6´)を軸着して支えており、駆動ローラ(4)は、別個に架台(7a)に軸着されている。
【0032】
そして、引出装置(Z)により引き出された遮水シート(1)は、スロープ面(S)に移動する。該スロープ面(S)の上端付近には送られて来る該遮水シート(1)と、スロープ面(S)に敷設された底部シート(2)との間に保持ローラ(9)を設け、該保持ローラ(9)の下降側に隣接して小径の放水管(10)を併設して設けており、遮水シート(1)を引き摺る直前に放水管(10)より放水し、放水した直後、牽引具(V)を用いて引き摺ることにより海上に向けて遮水シート(1)がスロープ面上を降下して行くよう構成している。
【0033】
なお、広幅加工された遮水シート(1)は、図4に示すように、海上に向け牽引される前にスロープ面(S)でブイ等の大量の浮力体(8)を付着しておくものであり、該遮水シート(1)の先端部には着脱自在に装着した長尺のバーに浮力体を設けた牽引具(V)で海上まで引き摺って牽引するものである。
【0034】
さらに、前記遮水シート(1)は、保護マット材(1b)を介在させて積層して、3層一体若しくは、5層一体構造に形成した2種類の遮水シートを用意し、敷設施工目的や敷設施工現場の規模に合わせるようにしたものである。
【0035】
また、前記スロープ面(S)に敷設した底部シート(2)と前記遮水シート(1)の間に、保持ローラ(9)を設けると共に、該保持ローラに隣接した下り側に、該保持ローラより小径の放水管(10)を設けることにより、該放水管から放出される水は、遮水シート(1)に塞がれて水量を落とすことなく、常時、一定量の水を保持でき水膜層(3)が保持できるものである。
【0036】
なお、前記底部シート(2)は、スロープ面(S)だけでなく、建屋(X)内の作業ステージ(WS)の床面に敷設してもよく、これにより、融着作業により広幅加工を終えた遮水シート(1)を引出装置(Z)で摩擦抵抗を少なくしてスロープ面(S)方向に送り出すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
この発明の遮水シートの移動工法の技術を確立し、実施することにより産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0038】
1,1´ 遮水シート
1a 遮水シート材
1b 保護マット材
2 底部シート
3 水膜層
4 駆動ローラ
5 押さえローラ
6,6´ スナップローラ
7 枠本体
7a 架台
8 浮力体
9 保持ローラ
10 放水管
G 岸壁
S スロープ面
T 軒梁材
R 陸上
V 牽引具
WS 作業ステージ
X 建屋
Y,Y´ 原反ロール
Z 引出装置
図1
図2
図3
図4