【実施例】
【0016】
次に、この発明の一実施例を図面に従って説明すると、陸上(R)で広幅加工された遮水シート(1)を設け、該遮水シートを海上へ引き摺り出す際、引き摺りエリアとして、下り勾配を有するスロープ面(S)を形成し、該スロープ面(S)上に底部シート(2)を敷設し、前記底部シート(2)と前記遮水シート(1)の間に放水により水膜層(3)を形成しておき、該水膜層(3)で遊離した遮水シート(1)を、引き摺り手段を用いて海上に牽引して移動させることを特徴とする遮水シートの移動工法から構成されるものである。
【0017】
次に、この発明である「遮水シートの移動工法」に使用する主な設備及び器具の一具体例を
図1〜
図3に基づいて説明すると、
1.建屋(X)
海岸より適宜な距離を有し、且つ適宜な高さを有する位置に設置し、原反ロール(Y)(Y´)からそれぞれ引き出した遮水ロール(1)を作業ステージ(WS)で拡幅加工する。
2.引出装置(Z)
建屋に隣接され、建屋内で広幅加工された遮水シート(1)を海岸方向に送り出す。
3.スロープ面(S)
建屋(X)の高さ位置より、引出装置(Z)で引き出された遮水シート(1)を海岸に向け引き摺り出す引き摺りエリアであり、ブイ等の浮力体(8)を装着する作業エリアでもあり、適宜な角度の下り勾配を有する傾斜面である。
4.牽引具(V)
スロープ面(S)に移動した遮水ロール(1)を海上へ牽引する器具である。
この発明は主にこれらの設備及び器具を用いた遮水シートの移動工法である。
【0018】
即ち、海上・陸上の境の水際、あるいは岸壁(G)より90m先の陸上(R)であって、海面より4mの高さ位置に、前方が開放された建屋(X)を設け、該建屋(X)内において遮水シート(1)の広幅加工を行うものである。そして、該建屋(X)内の後方付近に、遮水シート(1)を巻き取った複数の原反ロール(Y、Y´)を広幅規模に応じた複数個を並列して設け、しかも前列と後列を千鳥状に配列して設ける。
【0019】
このように配列された各原反ロール(Y、Y´)の各遮水シート(1・・・)は、後述の引出装置(Z)によってそれぞれ順次引き出され、それぞれ隣接の遮水シート(1)との重なり合う端部を、建屋(X)内部の中央部に形成した作業ステージ(WS)で融着器具を用いて融着し、広幅加工を行うものである。
【0020】
そして、建屋(X)の開放されている前方には、拡幅加工作業を行う前記建屋(X)の海側に隣接した前記引出装置(Z)を設けており、該装置により建屋(X)内で広幅加工を終えた遮水シート(1)を、引き摺りエリアであるスロープ面(S)に向けて引き出すものである。
【0021】
このスロープ面(S)は、広幅加工作業を行う前記建屋(X)の海側に設けた引出装置(Z)に隣接して設けている。該スロープ面の最高部は、前記建屋(X)よりやや低く、最低部は水面より1mの岸壁(G)で、スロープ面の長さは、建屋(X)から岸壁(G)まで90mの長さを有する陸地(R)上に形成し、3.3%勾配を有している。
【0022】
尚、前記広幅加工設備を有する建屋(X)から岸壁(G)までのスロープ面(S)の長さを90mとしたが、施工現場に敷設する遮水シートに合った長さを示したものであり、施工現場の大・小により広幅加工された遮水シート(1)の幅寸法は異なる。また、スロープ面(S)の横幅寸法に関しても特に問わない。
【0023】
前記広幅加工する遮水シート(1)の構造は、
図3(A)、(B)に示すように、既存の遮水シート材(1a)の表裏面にそれぞれ保護マット材(1b)(1b)を設けた3層一体とした遮水シート(1)と、
図3(C)(D)に示すように、前記保護マット材(1b)の表裏両面に遮水シート材(1a)、(1a)を設け、さらに、両遮水シート材(1a)の外側面に保護マット材(1b)をそれぞれ設けて5層一体とした既存の遮水シート(1´)が存在している。
【0024】
この発明は、前記底部シート(2)をスロープ面(S)に敷設し、遮水シート(1)の引き摺りで生ずる引き裂きや摩擦の低減化を図ることを目的としたものであるが、遮水シート材(1a)の素材が超軟質のシートであるため、摩擦による遮水シートの引出しの可否を判断するために、次の静止摩擦係数を計測した。
相手側: 底部シート(2) 引張試料: 保護マット材(1b)
テーブル試験結果 μ=0.45
さらに、底部シート(2)と遮水シート(1)の間に水を流して静止摩擦係数を計測したところ
テーブル試験結果 μ=0.25
という数値を得た。本願発明は、上記試験結果により水膜層で摩擦低減が図れることが確認できたので出願に踏み切ったものである。
【0025】
なお、この発明に使用する素材の一例を述べると、前記遮水シート材(1a)の素材は、超軟質PVCであり、保護マット材(1b)の素材は、ポリエステル製スパンボンド不織布であり、底部シート(2)の素材は、高密度ポリエチレンである。
【0026】
次に、複数本の軒梁材(T)で組み立てられた建屋(X)内で行う遮水シート(1)の広幅加工作業の一実施例を説明すると、遮水シート(1)の原反ロール(Y,Y´)は、前後2列にそれぞれ複数組の原反ロールを千鳥状に順次配備しておき、前列の原反ロール(Y)に対して後列の原反ロール(Y´)は、前列の原反ロール(Y)の両端より少し内側にセットしておく。
【0027】
そして、前後の各両ロール(Y,Y´)から前記引出装置(Z)で、同一のスピードで引き出される遮水シート(1)の端部の重ね合った部分を、作業ステージ(WS)で融着器具を用いて融着作業を行って広幅加工作業を行うものである。
【0028】
さらに、広幅加工された遮水シート(1)をスロープ面(S)に向けて引き出す引出装置(Z)の構造を詳細に説明すると、該引出装置(Z)は、前記建屋(X)の海岸側に隣接しており、長尺な4本のローラとトラス構造の長尺な枠本体(7)から構成されている。
【0029】
前記4本のローラは、ギアモータを動力源とする駆動ローラ(4)と、該ローラに挟み込んで送り出される遮水シート(1)を上部から押さえる押さえローラ(5)と、
駆動ローラ(4)の前後に位置するスナップローラ(6、6´)からなる。
そして、前記該押さえローラ(5)には、ライニングゴムが巻回されており、挟んだ遮水シート(1)の滑りを防止している。
【0030】
また、スナップローラ(6)(6´)は、駆動ローラ(4)の前・後にそれぞれ位置し、前記駆動ローラ(4)より下方側に設け、遮水シート(1)の折り返しを設けることにより、駆動ローラ(4)に遮水シート(1)を食い込ませて送り出し効率を高めることができる。
【0031】
さらに、前記ギアモータにはブレーキ機構を設けることにより、ギアモータの停止時は、駆動ローラ(4)はブレーキされるため遮水シート(1)の逸走を防止できる。そして、前記枠本体(7)は、押さえローラ(5)とスナップローラ(6、6´)を軸着して支えており、駆動ローラ(4)は、別個に架台(7a)に軸着されている。
【0032】
そして、引出装置(Z)により引き出された遮水シート(1)は、スロープ面(S)に移動する。該スロープ面(S)の上端付近には送られて来る該遮水シート(1)と、スロープ面(S)に敷設された底部シート(2)との間に保持ローラ(9)を設け、該保持ローラ(9)の下降側に隣接して小径の放水管(10)を併設して設けており、遮水シート(1)を引き摺る直前に放水管(10)より放水し、放水した直後、牽引具(V)を用いて引き摺ることにより海上に向けて遮水シート(1)がスロープ面上を降下して行くよう構成している。
【0033】
なお、広幅加工された遮水シート(1)は、
図4に示すように、海上に向け牽引される前にスロープ面(S)でブイ等の大量の浮力体(8)を付着しておくものであり、該遮水シート(1)の先端部には着脱自在に装着した長尺のバーに浮力体を設けた牽引具(V)で海上まで引き摺って牽引するものである。
【0034】
さらに、前記遮水シート(1)は、保護マット材(1b)を介在させて積層して、3層一体若しくは、5層一体構造に形成した2種類の遮水シートを用意し、敷設施工目的や敷設施工現場の規模に合わせるようにしたものである。
【0035】
また、前記スロープ面(S)に敷設した底部シート(2)と前記遮水シート(1)の間に、保持ローラ(9)を設けると共に、該保持ローラに隣接した下り側に、該保持ローラより小径の放水管(10)を設けることにより、該放水管から放出される水は、遮水シート(1)に塞がれて水量を落とすことなく、常時、一定量の水を保持でき水膜層(3)が保持できるものである。
【0036】
なお、前記底部シート(2)は、スロープ面(S)だけでなく、建屋(X)内の作業ステージ(WS)の床面に敷設してもよく、これにより、融着作業により広幅加工を終えた遮水シート(1)を引出装置(Z)で摩擦抵抗を少なくしてスロープ面(S)方向に送り出すことができる。