(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6937982
(24)【登録日】2021年9月3日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】細胞の分取方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/24 20060101AFI20210909BHJP
C12M 1/26 20060101ALI20210909BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
C12Q1/24
C12M1/26
C12M1/34 B
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-46597(P2017-46597)
(22)【出願日】2017年3月10日
(65)【公開番号】特開2018-148830(P2018-148830A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2020年3月3日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「次世代医療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業(国際基準に適合した次世代抗体医薬等の製造技術)」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】巌倉 正寛
(72)【発明者】
【氏名】堀内 貴之
(72)【発明者】
【氏名】名須川 将史
【審査官】
川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−083010(JP,A)
【文献】
特開2013−057636(JP,A)
【文献】
特開2015−065822(JP,A)
【文献】
特開2008−152044(JP,A)
【文献】
特開2011−120582(JP,A)
【文献】
生物工学会誌,2011, Vol. 89, No. 2, pp. 72-78
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−1/70
C12M 1/00−3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡、動画撮影装置、電動ステージおよび採取用ピペットを装着したマニピュレーターを用いて細胞の分取を行う方法において、
(1)マニピユレーターに装着した電動ステージに細胞溶液を入れた保存容器および培養容器を装着する工程、
(2)保存容器を電動ステージの水平上の動きによりマニピュレーターの細胞採取部の下に移動させる工程、
(3)採取用ピペットを装着したマニピュレーター上部を下降させ、採取用ピペットを細胞溶液に挿入させる工程、
(4)細胞溶液から一つの細胞を、マニピュレーターに装着した採取用ピペットを用いて吸入した後、採取用ピペット先端から気体を吸入することにより、吸入した細胞を採取用ピペット中で単一性を保ちながら保持し、細胞の単一性を上方向にある第一動画撮影装置、横方向にある第二動画撮影装置および斜め上方の俯瞰できる位置にある第三動画撮影装置の3つの撮影装置の画像に記録する工程、
(5)採取用ピペットを装着したマニピュレーター上部を上昇させ、採取用ピペットを細胞溶液から離脱させる工程、
(6)保存容器を電動ステージの水平上の動きにより、マニピュレーターの細胞採取部の下から離脱させる工程、
(7)培養容器の空のウエルの一つを電動ステージの水平上の動きにより、マニピュレーターの細胞採取部の下に移動させる工程、
(8)培養容器の空のウエルの中に採取した一つの細胞を細胞採取部から排出する工程、
(9)電動ステージの水平上の動きによりマニピュレーターの細胞採取部の下から排出された細胞をいれたウエルを離脱させ、保存容器をマニピュレーターの細胞採取部の下に移動させる工程、
および、前記(2)〜(9)の操作を繰り返して行うことにより個々のウエルに細胞を一個ずつ分取することを特徴とする方法。
【請求項2】
採取用ピペットによる一つの細胞の採取、静止および排出をマイクロポンプにより行うことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
細胞溶液から一つの細胞を採取用ピペットに採取する工程を肉眼または画像処理による自動化機能を用いて行うことを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
保存容器が6wellプレートであることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
培養容器が96wellプレートであることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
電動ステージがXYテーブルであることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
第一動画撮影装置および第二動画撮影装置が顕微鏡を介して装着されていることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項記載の細胞の分取方法を用いることを特徴とするモノクローナリティーの検査方法。
【請求項9】
第一動画撮影装置、第二動画撮影装置および第三動画撮影装置により撮影された画像が時間情報即ち撮影時刻と対応させて記録装置に記録されることを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載の細胞の分取方法を用いるマスターセルバンクの単一性の証明方法。
【請求項10】
顕微鏡、動画撮影装置、電動ステージおよび採取用ピペットを装着し、顕微鏡の視野内で採取用ピペットを操作するマニピュレーションシステムを有し、前記採取用ピペットを用いて1ウエルに1細胞ずつ分取する細胞分取装置であって、単一細胞を採取用ピペット中に保持できる機能を有し、前記採取用ピペット中の単一細胞を上方から観察するために前記顕微鏡を介して画像を撮影する第一動画撮影装置、前記採取用ピペット中の単一細胞を水平方向から観察する顕微鏡を介して画像を撮影する第二動画撮影装置、装置全体を俯瞰できる画像を撮影する第三動画撮影装置、並びに前記第一動画撮影装置、前記第二動画撮影装置および前記第三動画撮影装置により撮影された画像を単一細胞の撮影画像の時間情報と対応させて記録する記録装置を有することを特徴とする細胞分取装置。
【請求項11】
前記第一動画撮影装置、前記第二動画撮影装置および前記第三動画撮影装置により撮影された各画像を同時に表示する表示装置を有することを特徴とする請求項10記載の細胞分取装置。
【請求項12】
撮影手段から出力される画像信号に基づいて、溶液中の細胞を認識する認識手段と、前記認識手段により認識された細胞の位置を演算する位置演算手段とを備え、前記位置演算手段から出力される前記細胞の位置情報に基づいて、採取用ピペットの先端を溶液中の単一細胞の近傍に相対移動させる吸入制御手段を持つことを特徴とする請求項10又は11記載の装置。
【請求項13】
電動ステージが、モータで駆動される位置決め用XYテーブル(ステージ)装置であって、プログラムにより制御され保存容器および培養容器中のウエルを交互に顕微鏡の下方の所定の位置に移動させることができることを特徴とする請求項10から12いずれか1項記載の装置。
【請求項14】
マニピュレーターが、ピペットを駆動対象として、外周側にねじ部を有するねじ軸と、回転軸をその軸方向への移動を自在に支持するとともに前記回転軸を回転駆動するモータと、前記回転軸に固定されて前記ねじ軸にねじ結合され、前記ねじ軸をその軸方向への移動を自在に支持するねじ要素と、圧電素子への印加電圧に応じて前記回転軸をその軸方向に沿って微動駆動させる微動機構を有することを特徴とする請求項10から13いずれか1項記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品製造用細胞の生産技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ医薬品の製造工程においては、そのバイオ医薬品を生産する細胞のセルバンクシステムが重要であり、その中でも単一細胞株からの分注液で、選択されたクローン細胞株から一定の方法で調整されたマスターセルバンクの構築は非常に重要である。一方で、バイオ医薬品の品質および安全性を確保するために、マスターセルバンクを構築する際の履歴、記録を詳細に記録保存することが重要であるとされている。
【0003】
マスターセルバンクの単一性を確保するために、従来はシングルセルクローニングが行われてきた。この方法は、限界希釈法もしくはセルソーターシステムを用いてマイクロプレートに細胞を幡種し、顕微鏡観察によりコロニーの成長と単クローン性コロニーの選択を行う方法である(非特許文献1、非特許文献2)。また、最近ではマイクロプレートに幡種した細胞の単一クローン性をイメージング装置により測定する方法が行われている(非特許文献3)。細胞に遺伝子を注入する技術や受精卵を作成する技術において、顕微鏡下でマニピュレーションシステムを用いる方法が開発されている(非特許文献4)。また、浮遊する細胞をキャピラリにより採取し、採取した細胞にマイクロインジェクションを行うために開発されたマニピュレーションシステムが特許文献1〜3に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「シングルセルクローニング」、CeLLaviSta(セラビスタ社)、AppLication Note(アプリケーション ノート)2017年3月8日検索インターネット<URL:http://www.primetech.co.jp/Portals/0/db/product/SynenTec/Cellavista_App_Single_Cell_Cloning_J_rev00_201303.pdf>
【非特許文献2】良元伸男、徐傑、黒川正也、近藤昭彦、藤井郁雄、黒田俊一、「全自動1細胞単離解析装置の開発」、2011年、生物工学会誌、第89巻、第2号、72頁〜78頁
【非特許文献3】「The Cell Metric CLD System (ザ セル メトリック CLDシステム)」、2014年Solentim(ソレンチム)社刊
【非特許文献4】田中伸明「微細操作用マニピュレーションシステムの開発」,2016年、NSK TECHNICAL JOURNAL(NSK テクニカルジャーナル)、No.688、p35〜p44
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−152044号公報
【特許文献2】特開2008−221423号公報
【特許文献3】特開2009−211027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
限界希釈法もしくはセルソーターシステムを用いたシングルセルクローニングでは、非常に時間がかかるとともに、単一性に対する信頼性が乏しいことが問題である。そのため、イメージングを用いた方法で単一性を保証する手段がとられるが、無作為に播種した単一細胞の画像の撮影には非常に多くの手間がかかるとともに、単一性の確認における画像精度が悪かった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、鋭意検討を行った結果、マニピュレーターを用いて細胞をひとつずつマイクロプレートのウエルに幡種し、これを顕微鏡に装着した動画撮影装置で記録すれば、単一性が確保されたセルバンクが簡単に得られるとともに、マスターセルバンクの作成記録が確実かつ正確に記録保存できることを発案した。
【0008】
本発明は、
〔1〕顕微鏡、動画撮影装置、電動ステージおよび採取用ピペットを装着したマニピュレーターを用いて細胞の分取を行う方法において、
(1)マニピュレーターに装着した電動ステージに細胞溶液を入れた保存容器および培養容器を装着する工程、
(2)保存容器を電動ステージの水平上の動きによりマニピュレーターの細胞採取部の下に移動させる工程、
(3)採取用ピペットを装着したマニピュレーター上部を下降させ、採取用ピペットを細胞溶液に挿入させる工程、
(4)細胞溶液から一つの細胞をマニピュレーターに装着した採取用ピペットを用いて採取する工程、
(5)採取用ピペットを装着したマニピュレーター上部を上昇させ、採取用ピペットを細胞溶液から離脱させる工程、
(6)保存容器を電動ステージの水平上の動きにより、マニピュレーターの細胞採取部の下から離脱させる工程、
(7)培養容器の空のウエルの一つを電動ステージの水平上の動きにより、マニピュレーターの細胞採取部の下に移動させる工程、
(8)培養容器の空のウエルの中に採取した一つの細胞を細胞採取部から排出する工程、
(9)電動ステージの水平上の動きによりマニピュレーターの細胞採取部の下から排出された細胞をいれたウエルを離脱させ、保存容器をマニピュレーターの細胞採取部の下に移動させる工程
および、前記(2)〜(9)の操作を繰り返して行うことにより個々のウエルに細胞を一個ずつ分取することを特徴とする方法に関する。
【0009】
本発明はまた、
〔2〕動画撮影下に細胞分取を行うことを特徴とする〔1〕記載の細胞の分取方法、
〔3〕採取用ピペットによる一つの細胞の採取および排出をマイクロポンプにより行うことを特徴とする〔1〕〜〔2〕記載の細胞の分取方法、
〔4〕細胞溶液から一つの細胞を採取用ピペットに採取する工程を肉眼または画像処理による自動化機能を用いて行うことを特徴とする〔1〕〜〔3〕記載の細胞の分取方法、
〔5〕水平方向から採取用ピペット中の細胞を撮影する第二動画撮影装置を有することを特徴とする〔1〕〜〔4〕記載の細胞の分取方法、
〔6〕全体の細胞分取操作を記録するための第三動画撮影装置を有することを特徴とする〔1〕〜〔5〕記載の細胞の分取方法、
〔7〕保存容器が6wellプレートであることを特徴とする〔1〕〜〔6〕記載の細胞の分取方法、
〔8〕培養容器が96wellプレートであることを特徴とする〔1〕〜〔7〕記載の細胞の分取方法、
〔9〕電動ステージがXYテーブルであることを特徴とする〔1〕〜〔8〕記載の細胞の分取方法、および
〔10〕〔2〕〜〔9〕記載の細胞の分取方法を用いることを特徴とするモノクローナリティーの検査方法に関する。
【0010】
本発明は更に
〔11〕顕微鏡の視野内で採取用ピペットを操作するマニピュレーションシステムを有し、前記採取用ピペットを用いて1ウエルに1細胞ずつ分取する細胞分取装置であって、前記採取用ピペットを上方から観察するために前記顕微鏡を介して画像を撮影する第一動画撮影装置、前記採取用ピペットを水平方向から観察する顕微鏡を介して画像を撮影する第二動画撮影装置、装置全体を俯瞰できる画像を撮影する第三動画撮影装置、並びに前記第一動画撮影装置、前記第二動画撮影装置および前記第三動画撮影装置により撮影された画像を時間情報と対応させて記録する記録装置を有することを特徴とする細胞分取装置、
〔12〕時間情報が前記第一動画撮影装置、前記第二動画撮影装置および前記第三動画撮影装置により撮影された各画像の撮影時刻であることを特徴とする〔11〕記載の細胞分取装置、および
〔13〕前記第一動画撮影装置、前記第二動画撮影装置および前記第三動画撮影装置により撮影された各画像を同時に表示する表示装置を有することを特徴とする〔12〕記載の細胞分取装置に関する。
【0011】
本発明における顕微鏡、動画撮影装置、電動ステージおよび採取用ピペットを装着したマニピュレーターとは、保存容器および培養容器を載せてXY方向に自動的に移動させることができる電動ステージ(Ss)の上方にZ軸方向に移動できるアクチュエーター(Sz)と結合しかつ動画撮影装置のカメラ(C1)を装着した顕微鏡(M1)を有し、この顕微鏡の下方において採取用ピペットを操作し得るようにしたマニピュレーターであればどのようなものでも良いが、具体的には
図1に断面図を示した装置を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、単一細胞から構成されるモノクローンマスターセルバンクが迅速にかつ確実に構築されるとともに、セルバンクの単一性が画像記録として完全に保存できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に用いる顕微鏡は、カメラを装着できる実体顕微鏡であればどのようなものでも良いが、好ましくは顕微鏡下方で行われるピペット操作およびピペット中の細胞に対して自動的に焦点を合わせられるものが好ましい。また本発明においては
図1のM1のようにピペット操作を上方から観察する顕微鏡のみならず、カメラを装着し真横からピペット操作を観察する
図1のM2のような第二顕微鏡を設けたほうが好ましい。
【0015】
本発明に用いるカメラは、実体顕微鏡に装着できかつ動画を撮影できるものであればどのようなものでも良いが、カメラは
図1のC1のように顕微鏡に装着されたものに限らず、
図1のC2のように第二顕微鏡M2に装着され横方向から細胞を撮影するカメラ、C3のようにピペット操作全体を俯瞰できる位置に装着されたカメラをC1と併せて用いることが好ましい。
【0016】
本発明に用いる電動ステージとは、モータで駆動される位置決め用XYテーブル(ステージ)装置であればどのようなものでも良いが、プログラムにより制御され保存容器および培養容器中のウエルを交互に顕微鏡の下方の所定の位置に移動させることができ、当該培養容器中のウエルは順次細胞の無い空のウエルを自動的に選択して顕微鏡の下方の所定の位置に移動させることができるものを用いることが好ましい。空のウエルの選択方法は装着するプレートのウエルの配列に従って予め選択順を決定しておいてもよいし、センサー等により細胞の無い空のウエルを検索し所定の顕微鏡下の位置に移動させるものであっても良い。
【0017】
本発明における採取用ピペットとは細胞を採取できる形状およびマニピュレーターにより操作できるものであればどのようなものでもよい。
【0018】
本発明においてマニピュレーターとは、装着されたピペットを可動させて細かい細胞採取動作を行えるものであればどのようなものでも良いが、具体的にはピペットを駆動対象として、外周側にねじ部を有するねじ軸と、回転軸をその軸方向への移動を自在に支持するとともに前記回転軸を回転駆動するモータと、前記回転軸に固定されて前記ねじ軸にねじ結合され、前記ねじ軸をその軸方向への移動を自在に支持するねじ要素と、圧電素子への印加電圧に応じて前記回転軸をその軸方向に沿って微動駆動させる微動機構を有し、前記微動機構を伴って三次元空間を移動して前記ピペットの位置を制御する三次元軸移動テーブルとを有する一対のマニピュレーターと、前記マニピュレーターにより採取される細胞を観察する顕微鏡手段と、前記マニピュレーターの駆動を制御する制御手段と、前記制御手段を介して前記マニピュレーターを駆動する操作手段とを備えるものであれば良い。なお、制御手段はプログラムにより自動化されたものであっても、あるいは手動であっても良い。なお、前記マニピュレーターのモータに対して駆動を指令するコントローラを備えてもよく、前記コントローラは、モータに駆動を指令した後、圧電素子に駆動を指令し、ピペットを制御していてもよい。
【0019】
マニピュレーターシステムを構成するに際しては、以下の要素を付加することができる。
(1)前記のコントローラは、切替えスイッチに接続され、前記切替えスイッチの切替え操作に従って前記モータまたは前記圧電素子に対して駆動を指令する要素。
(2)前記のコントローラは、顕微鏡の倍率を認識する倍率認識装置に接続され、前記倍率認識装置の認識結果に従って前記モータまたは前記圧電素子に対して駆動を指令する要素。
(3)前記コントローラは、ジョイスティックに接続され、前記ジョイスティックの操作に従って前記モータまたは圧電素子に対して駆動を指令する要素。
(4)前記コントローラは、顕微鏡画像を表示するパソコンディスプレイに接続され、前記顕微鏡画像を操作するマウスの動作に従って前記モータまたは前記圧電素子に対して駆動を指令する要素。
【0020】
本発明において、(1)のマニピュレーターに装着した電動ステージに細胞溶液を入れた保存容器および培養容器を装着する工程とは、前記電動ステージの指定された位置に細胞溶液を入れた保存容器と空の培養容器を装着する工程を示し、保存容器とはシャーレ、ビーカー細胞培養用ウエル等通常浮遊培養細胞を入れる容器であればどのようなものでも良いが、細胞培養用6穴ウエルプレートを用いることが好ましい。空の培養容器とは細胞が入っていない状態のウエルを有する容器を示し、細胞培養ウエルプレートであれば6穴プレート、12穴プレート、24穴プレート、48穴プレート、96穴プレート、384穴プレート等どのようなものでもよいが、48穴プレート、96穴プレート等を用いることが好ましい。なお、細胞培養容器の各ウエルには一つずつ配布される細胞を培養するために、予め培地を加えておくほうが好ましい。本発明に用いる細胞培養液とは、iPS細胞、ES細胞、A549細胞、CTC細胞、ハイブリドーマ、CHO細胞、リンパ球、白血球、酵母等モノクローン株の作成を必要とする細胞であるならどのような細胞でも良いが、とりわけCHO細胞、iPS細胞等を用いることが好ましい。培養液に用いる培地は、例示した細胞の生育に適した培地であればどのようなものでも良い(CD CHO Medium、CD OptiCHO Medium等)。細胞溶液の濃度は、1 X 10
4Cells/mL〜1 X 10
8Cells/mL、好ましくは1 X 10
5Cells/mL〜1 X 10
7Cells/mL、とりわけ好ましくは5 X 10
6Cells/mL〜5 X 10
7Cells/mLである。
【0021】
本発明において、(2)の保存容器を電動ステージの水平上の動きによりマニピュレーターの細胞採取部の下に移動させる工程とは、X方向(水平方向)への駆動機構を持つ電動ステージが駆動信号に応じて保存容器を細胞採取部の下に移動させる工程を示す。
【0022】
本発明において、(3)の採取用ピペットを装着したマニピュレーター上部を下降させ、採取用ピペット先端が保存容器の中の細胞溶液内部に挿入できるまで、採取用ピペットを細胞溶液に挿入させる工程とは、自動的にY方向(垂直)に上昇および下降が可能なマニピュレーター上部が下降することにより、当該マニピュレーター上部に結合している採取用ピペットも下降し、その先端部分が保存容器中の細胞溶液内に挿入する操作を示す。
【0023】
本発明において、(4)の細胞溶液から一つの細胞をマニピュレーターに装着した採取用ピペットを用いて採取する工程とは、細胞溶液中の一つの細胞を採取用ピペットにおいてマイクロポンプの吸引力により吸引採取する工程を示す。細胞溶液中から一つの細胞の採取は肉眼および手動で行ってもよいし、画像処理による自動化機能を用いても良い。画像処理による自動化機能とは、吸入制御手段により採取用ピペットの先端を細胞の近傍へ相対移動させ、マイクロポンプにより細胞を吸入さ
せる機能を示す。当該制御手段は、撮影手段から出力される画像信号に基づいて、溶液中の細胞を認識する認識手段と、前記認識手段により認識された細胞の位置を演算する位置演算手段とを備え、前記位置演算手段から出力される前記細胞の位置情報に基づいて、採取用ピペットの先端を溶液中の単一細胞の近傍に相対移動させることを特徴としている。また、本発明の吸入手段は液体中の細胞を一つ吸入した後、採取用ピペット先端から気体を吸入することにより、吸入した細胞を採取用ピペット中の適切な位置で保持でき、かつ細胞の単一性を保つことができる。
採取された細胞の単一性は、上方向にある第一動画撮影装置、横方向にある第二動画撮影装置および斜め上方の俯瞰できる位置にある第三動画撮影装置の3つの撮影装置の画像記録により確認することができる。
【0024】
本発明において、(5)の採取用ピペットを装着したマニピュレーター上部を上昇させ、採取用ピペットを細胞溶液から離脱させる工程とは、ピペット先端部分が保存容器中の細胞溶液内から離脱する操作を示す。
【0025】
本発明において、(6)の保存容器を電動ステージの水平上の動きにより、マニピュレーターの細胞採取部の下から離脱させる工程とは、予め決められたプログラムによりX方向(水平方向)への駆動機構を持つ電動ステージが駆動信号に応じて保存容器を細胞採取部の下から別の位置に移動させる工程を示す。
【0026】
本発明において、(7)の培養容器の空のウエルの一つを電動ステージの水平上の動きにより、マニピュレーターの細胞採取部の下に移動させる工程とは、予め決められたプログラムによりX方向(水平方向)への駆動機構を持つ電動ステージが駆動信号に応じて培養容器の細胞を挿入していない空のウエルを細胞採取部の下に移動させる工程を示す。
【0027】
本発明において、(8)の培養容器の空のウエルの中に採取した一つの細胞を細胞採取部から排出する工程とは、自動的にY方向(垂直)に上昇および下降が可能なマニピュレーター上部が下降することにより、当該マニピュレーター上部に結合し、その中にただ1個の細胞を保持している採取用ピペットも下降し、その先端部分が培養容器中の空のウエルの上方で静止し、採取用ピペットから細胞がマイクロポンプの排出力により当該空のウエルに排出される工程を示す。また、排出された細胞の単一性は、上方向にある第一動画撮影装置、横方向にある第二動画撮影装置および斜め上方の俯瞰できる位置にある第三動画撮影装置の3つの撮影装置の画像記録により確認することができる。
【0028】
本発明において、(9)の電動ステージの水平上の動きによりマニピュレーターの細胞採取部の下から排出された細胞をいれたウエルを離脱させ、保存容器をマニピュレーターの細胞採取部の下に移動させる工程とは、X方向(水平方向)への駆動機構を持つ電動ステージが駆動信号に応じて単一の細胞を入れた培養容器のウエル部分を細胞採取部の下から、離脱させ、保存容器を細胞採取部の下に移動させる工程を示す。なお、例えば保存容器として6wellプレート等複数のウエルのある容器を用いる場合、一つのウエルに液体培地を入れ洗浄容器として用いても良い。それにより一回の単一細胞の培養容器のウエルへの移し替えが行われた後、洗浄容器の液体培地の中でマイクロポンプによるエアの噴出を行い採取用ピペットを洗浄することが可能になる。
【0029】
本発明において、前記(2)〜(9)の操作を繰り返して行うことにより個々のウエルに細胞を一個ずつ分取することを特徴とする方法とは、前記(2)〜(9)に記載された一連の操作を自動的に繰り返し行うことを意味し、この繰り返し操作により保存溶液中の
細胞は一つずつ単一細胞としてマニピュレーターに結合した採取用ピペットにより採取され、単一細胞として一つずつ培養容器上の別々のウエルに排出される。
【0030】
当該、方法を用いることに自動的に細胞の単一クローンを作成できるとともに、一連の繰り返し操作を、上方向にある第一動画撮影装置、横方向にある第二動画撮影装置および斜め上方の俯瞰できる位置にある第三動画撮影装置の3つの撮影装置の画像記録により保存することができ、マスターセルバンクの単一性を証明することができる。
【0031】
具体的には、第一動画撮影装置、第二動画撮影装置および第三動画撮影装置により撮影された画像は時間情報即ち撮影時刻と対応させて記録装置に記録され、同一撮影時刻を持つ第一動画撮影装置、第二動画撮影装置および第三動画撮影装置により撮影された各画像は複数の画像を同時に表示する機能を有する表示装置により、いつでも確認できることから、細胞が確実に一細胞毎に分注されたかどうかは、細胞分注時のみならず長期間記録を保存した後にも確認することができるため、一細胞毎に分注された細胞が増殖しマスターセルとなった場合にGMP準拠のモノクローナリティーの検査方法となる。なお、時間情報に対応した第一動画撮影装置、第二動画撮影装置および第三動画撮影装置により撮影された画像を何らかの情報記録媒体に記録することにより、表示装置は本発明のマニピュレーターに装着されたものでなくても、
ノート型パーソナルコンピューター等の移動型の表示装置あるいは本発明のマニピュレーターと別の場所にある表示装置によっても、同一撮影時刻を持つ第一動画撮影装置、第二動画撮影装置および第三動画撮影装置により撮影された各画像は再生され、細胞の単一性を確認することができる。
【0032】
図1にその構成が記載された本発明の、顕微鏡、動画撮影装置、電動ステージおよび採取用ピペットを装着したマニピュレーターを用いた細胞分取装置において、保存容器および培養容器を載せてXY方向に自動的に移動させることにより、採取用ピペットが、保存容器および培養容器の所望のウエル上に保持される機能を持った電動ステージ(Ss)、マイクロポンプ(Mp)と接続した採取用ピペットを装着した電動XYZマニピュレーター、並びにZ軸方向に移動できるアクチュエーター(Sz)と結合し、かつ第一動画撮影装置のカメラ(C1)を装着した第一顕微鏡(M1)、細胞を採取した採取用ピペットを真横から観察できるように垂直状のM2ホルダ(A1)に水平方向に取り付けられ、第二動画撮影装置のカメラ(C2)を装着した第二顕微鏡(M2)、および垂直状C3ホルダ(A2)の細胞分取操作が俯瞰できる位置に取り付けられた第三動画撮影装置のカメラ(C3)を備えることを特徴とする細胞分取装置(以下、本件装置という)を説明する。
【0033】
本件装置のベース板(B1)は精密装置のため防振部材(G1)を介して、テーブル、実験台等に設置される。電動XYZマニピュレーターは第一顕微鏡の下部およびその周辺において採取用ピペットを操作できる位置に設置し、第一または第二動画撮影装置により映し出される画像装置の画面または第一顕微鏡の視野を見ながら操作を行えるよう。装置を構成する。なお、その操作はパーソナルコンピューターに接続したジョイスティックを用いて行うことができる。なお動画撮影装置はいずれも撮影映像記録機能を持ち、撮影された細胞分取操作の映像は全てモノクローンの証明として用いることができる。なお、採取した細胞が単一であるか否かを確認するために第一動画撮影装置は上方Z軸方向から、第二動画撮影装置は横方向XまたはY軸方向から細胞を撮影し、二つの映像により単一細胞であると確認されたものだけが単一細胞であると認定されるため、採取用ピペットが保持される部分を明るくするバックライト(L)も本件装置の構成に必要である。なお、本件装置の電動駆動部は電装盤と接続され、パーソナルコンピューターにはその電装盤とジョイスティックを接続して使用する。また、前記第一動画撮影装置、前記第二動画撮影装置および前記第三動画撮影装置により撮影された画像は、時間情報と対応させて記録する機能を有する記録装置(R)に記録され、表示装置(D)により再生画像を確認することができる。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明の実施例を記載する。なお、本発明を実施するために主として日本精工
株式会社製の機器を組み合わせ
図1のシステムを構成した。
【0035】
1.細胞溶液の調製
(1)1×10
6Cells/mLの細胞密度で抗体発現遺伝子を組み込んだCHO細胞を(遠沈管100 /mL、AGCテクノグラス社製)中の液体培地(CD CHO Medium、Thermo Fisher Scientific社製)へと懸濁した。
(2)上記細胞懸濁液を細胞保存容器として用いる6 well プレート(Falcon
TM 6ウェル透明平底未処理マルチウェル・セルカルチャープレート、Corning社製)の一つのウエルへと分取した。なお6 wellプレート(Falcon
TM 6ウェル透明平底未処理マルチウェル・セルカルチャープレート、Corning社製)の一つのウエルは洗浄容器として用いるため液体培地(CD CHO Medium、Thermo Fisher Scientific社製)のみを入れた。
(3)上記細胞保存容器を1000 rpmで5分間遠心分離し、細胞をディッシュ底面へ沈めた。なお、単一細胞の単離および搬送工程は室温、CO
2インキュベーター外にて行われるため、細胞懸濁の調整後は速やかに細胞の単離工程に移行した。
(4)予め、培養容器として用いる96 well プレートに培地を100 μL程度分注した。
【0036】
2.単一細胞の単離工程
(1)アクチュエーター(Sz:Z軸モータ)へと採取用ピペットを取り付けた。
(2)電動ステージ(Ss:電動試料ステージ)へ細胞の入った前記6 wellプレートの保存容器および前記96 wellプレートの培養容器を取り付けた。
(3)電動ステージが水平方向自動的に動き採取用ピペットの直下に保存容器の6 wellプレートの細胞溶液を入れたウエルを配置するとともに、アクチュレーターが自動的に下降し、採取用ピペットの先端を保存容器のソースデ底面に配置した。
(4)第一顕微鏡(M1:実体顕微鏡SZX16、オリンパス株式会社製)第一動画撮影装置(C1:第一カメラ、Basler社製)の映し出す映像の観察下にて、ジョイスティック(JS:操作インターフェース、Saitek社製)を操作し単一細胞をピペットへと吸引した。
(5)単一細胞の吸引後は、アクチュエーター(Sz)および電動ステージ(Ss)が自動的に動き、第二動画撮影装置を装着する第二顕微鏡(M2)の観察位置までピペットを移動させた。
(6)第一撮影装置が撮影した単一細胞像が誤りで無いことを確認するため、第二動画撮影装置(C2:第二カメラ、Basler社製)を用いて、第一動画撮影装置(C1)から90度の角度でもピペット中に単一細胞のみが存在することを確認し、映像として記録した。また、第二顕微鏡(M2:第二顕微鏡、EdmundOptics社製)の焦点深度を自動で変動させ、ピペット外壁への異物付着を否定するための映像も記録した。
(7)上記(6)工程での映像撮影後、電動ステージ(Ss)が自動的に保存容器を移動させるとともに培養容器の96 well プレートを採取用ピペットの下に配置し、アクチュエーター(Sz)が自動的に下降し、96 well プレートの任意のwell底面に細胞を吐出した。その後採取用ピペットを上昇させた。
(8)上記(5)から(7)までの工程中、C1はピペット中の細胞に焦点を合わせたまま動画として単一細胞の単離過程を記録した。
(9)上記(7)工程での細胞の吐出後は、電動ステージ(Ss)が自動的に培養容器を移動させるとともに洗浄用容器として用いる保存容器の6wellプレートの培地のみを入れたウエルを採取用ピペット下方に配置させた。
(10)アクチュエーター(Sz)が自動的に下降し、採取用ピペットを洗浄容器の液体培地中に入れるとともにマイクロポンプ(MP:電動マイクロポンプ)でエアを噴出し、ピペット内を洗浄した。
(11)(3)工程から(10)工程までの動作を繰り返し行うことにより、96wellプレートの各ウエル上に単一細胞のクローンを作成した。
(12)上記(1)〜(11)の操作は第三動画撮影装置により俯瞰画像が撮影されたが、同一撮影時刻を持つ第一動画撮影装置、第二動画撮影装置、第三動画撮影装置により撮影された画像は記録装置(R)に記録され、表示装置(D)の同一画面上に再生されたため、マスターセルのモノクローナリティーが検証された。
【符号の説明】
【0037】
M1:第一顕微鏡
M2:第二顕微鏡
C1:第一カメラ
C2:第二カメラ
C3:第三カメラ&レンズ
Sz:Z軸モータ
Ss:電動試料ステージ
M p:電動マイクロポンプ
St:マニュピレータ
A1:M2ホルダ
A2:C3ホルダ
N:専用針
L:バックライト
B1:ベース板
G1:防振部材
R:記録装置
D:表示装置