(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、嫌気性処理後の被処理排水から硫化水素を除去する処理において、より短い時間で硫化水素を除去することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、硫化水素を含む嫌気処理後の被処理排水に体してマイクロバブルを供給することにより、被処理排水中の硫化水素を素早く除去できることを見出し、更には、被処理排水中から揮散する硫化水素の量が低下することを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の臭気減少装置及び臭気減少方法である。
【0007】
上記課題を解決するための本発明の臭気減少装置は、硫化水素を含む嫌気処理後の被処理排水の臭気を減少させる臭気減少装置であって、前記被処理排水に対してマイクロバブルを供給するマイクロバブル供給装置を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明の臭気減少装置によれば、被処理排水中にマイクロバブルを供給することにより、被処理排水中の硫黄酸化菌の活性が高まり、同時に物理的酸化が促進されるため、被処理排水中の硫化水素を短時間で除去することができる。これにより、被処理排水を好気処理するための好気処理槽を縮小化できるという効果を奏する。
【0009】
また、被処理排水中にマイクロバブルを供給することにより、被処理排水中から揮散するガス中の硫化水素量が低下するという効果が認められた。
被処理排水を曝気により好気処理すると、被処理排水中の硫化水素が空気と共にガス中に揮散するため、好気処理槽の排気ガスは、活性炭等の臭気成分除去装置で処理され、排気ガス中の硫化水素を除去している。本発明の臭気減少装置によれば、被処理排水中から揮散する硫化水素の量が低下するため、活性炭の交換頻度を低下できるなど、臭気成分除去装置の負荷を低減することができる。
【0010】
更に、本発明の臭気減少装置の一実施態様としては、マイクロバブル供給装置が、被処理排水を用いてマイクロバブルを発生させるという特徴を有する。
マイクロバブルを発生するための給水として被処理排水の一部を利用することにより、好気処理槽の外部からの給水量を低減することができるため、好気処理槽の容量がより縮小されるという効果を奏する。
その他、好気処理槽の外部の給水源からマイクロバブル供給装置へ給水するための大掛かりな配管工事等を行う必要がないため、既設の好気処理槽に簡易的に設置することができるという効果も奏する。
【0011】
また、上記課題を解決するための本発明の臭気減少方法は、硫化水素を含む嫌気処理後の被処理排水の臭気を減少させる臭気減少方法であって、前記被処理排水に対してマイクロバブルを供給する工程を備えたことを特徴とする。
【0012】
この本発明の臭気減少方法によれば、上記の本発明の臭気減少装置と同様、被処理排水中の硫化水素を短時間で除去することできるため、被処理排水の処理作業を軽減することができる。
また、被処理排水中から揮散する硫化水素の量が低下するため、活性炭の交換頻度を低下できるなど、排気ガス中の臭気成分を除去するための作業を軽減することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、嫌気性処理後の被処理排水から硫化水素を除去する処理において、より短い時間で硫化水素を除去することができる。
更には、被処理排水中から揮散する硫化水素の量を低下するという効果も認められる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の臭気減少装置は、嫌気性処理後の硫化水素を含有する被処理排水を処理して、被処理排水内の硫化水素を低減するための装置であって、被処理排水に対してマイクロバブルを供給するマイクロバブル供給装置を備えている。
【0016】
次に、この発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、この実施形態は、本発明を限定するものではない。
[第1の実施態様]
図1は、本発明の第1の実施態様の臭気減少装置1a、及び、その前段に設置された嫌気性処理槽10の構造を示す概略説明図である。
【0017】
(嫌気処理槽)
嫌気処理槽10は、有機性排水等の排水W2を嫌気性微生物により嫌気処理するための生物処理槽であり、硫化水素を発生する処理であれば、どのような嫌気処理を行ってもよい。例えば、酸生成槽およびメタン発酵槽により構成された嫌気性処理装置等が挙げられる。排水W2は、特に制限されないが、例えば、下水処理場や食品工場等の有機性排水等が挙げられる。
【0018】
(臭気減少装置)
本発明の第1の実施態様の臭気減少装置1aは、被処理排水W0を貯留する好気処理槽2と、好気処理槽2内の被処理排水W0に対してマイクロバブルを供給するマイクロバブル供給装置3を備えた構成である。マイクロバブルが被処理排水W0に供給されると、被処理排水W0に含まれる硫黄酸化菌の作用により、硫化水素が除去される。
【0019】
また、好気処理槽2の上部には、排気ガスGを排出するための排気ガス流出部が設けられ、排気ガス流出部には、臭気成分除去装置(図示しない)を備えている。臭気成分除去装置により、被処理排水W0から揮散した臭気成分が除去され、排気ガスGによる異臭の放出を防ぐことができる。
【0020】
なお、臭気成分除去装置は、臭気成分が除去されれば、どのような装置でもよく、例えば、活性炭やイオン交換膜のような吸着材料に臭気成分を吸着させる装置や、臭気成分を高温で燃焼させて分解する装置や、臭気成分をアルカリ溶液に溶解させる装置や、オゾン等の酸化剤により臭気成分を酸化させる装置等が挙げられる。装置の簡素化の観点から、活性炭等の吸着材料に臭気成分を吸着させる装置を使用することが好ましい。
【0021】
マイクロバブル供給装置3は、マイクロバブルを生成し、好気処理槽2に供給するための構成であれば、特に制限されない。マイクロバブルとは、100μm以下の気泡であり、被処理排水W0中の硫黄酸化菌を活性化する。マイクロバブルを形成する気体は、硫黄酸化菌を活性化する作用を有するものであれば制限されず、例えば、第1の実施例のように空気Aのマイクロバブルを形成する他、酸素等のマイクロバブルを形成してもよい。
【0022】
また、本発明において、被処理排水W0にマイクロバブルを供給する作用としては、硫黄酸化菌を活性化することによる生物的な硫黄酸化作用だけでなく、マイクロバブルの酸化力による物理的な硫黄酸化作用も期待される。そのため、マイクロバブルに使用する気体の種類は、これらの作用を鑑みて選択すればよい。例えば、オゾンのマイクロバブルを使用すると、物理的硫黄酸化作用が高まるものの、強い酸化力により硫黄酸化菌の作用を低下させる恐れがあるため、生物的硫黄酸化作用と物理的硫黄酸化作用のバランスを考慮すると、空気又は酸素のマイクロバブルを使用することが好ましい。
【0023】
マイクロバブルの生成に使用する液体としては、特に制限されず、第1の実施態様のように、被処理排水W0の一部を抜いてマイクロバブルの生成に使用する他、処理水W1や、水道水、工業用水等の臭気減少装置の外部の給水源を使用してもよい。
処理水W1や、水道水等の外部の給水源を利用すると、流入する給水量の分だけ好気処理槽2の容量を大きくする必要があり、また、配管工事等の大掛かりな設置作業も必要である。そのため、被処理排水W0の一部を抜いてマイクロバブルの生成用の液体として利用することが好ましい。
【0024】
マイクロバブルの生成法としては、例えば、液体の渦流の中に気体を巻き込み、その渦流を破壊させる気液剪断法や、高圧下で気体を大量に液体に溶解させ、減圧により再気泡化させる加圧減圧法等がある。
【0025】
気液剪断法によりマイクロバブルを生成するマイクロバブル供給装置としては、液体の渦流の中に気体を巻き込み、その渦流を破壊することが可能な構造物であればどのような構成でもよい。
例えば、梵鐘のような形状の部材(以下、「梵鐘様部材」という。)に横から液体を給水して、内部に渦流を形成するものが挙げられる。この梵鐘様部材では、液体が梵鐘様部材の内壁面に沿って旋回しながら上昇し、上方で反転する。反転した液体は、上昇する旋回流の内側で渦流となって下降する。気体は、梵鐘様部材の頂部から取り込まれ、下降する渦流に巻き込まれる。そして、下降する渦流が梵鐘様部材の底部から放出されると、横方向にはじき飛ばされて、渦流が破壊され、その際、気体に強い剪断力が加わり、マイクロバブルが発生する。
【0026】
この他、筒状の部材の内部に、旋回板や、シャフトに付けたプロペラ等を設置することにより、渦流を形成することもできる。
また、渦流を破壊する方法としては、障害物を利用したり、相対的に停止したバルク水中にはき出したりする等の方法がある。
【0027】
加圧減圧法によるマイクロバブル発生装置としては、高圧下で気体を液体に溶解後、減圧により再気泡化することができればどのような構成でもよく、例えば、縮径した吐出口を有するノズル等を利用することができる。このノズルでは、吐出口手前において、高圧力の液体及び気体を供給して、気体を液体中に溶解させる。次に、吐出口から液体が吐出されることにより減圧され、液体に溶解していた気体が再気泡化することによりマイクロバブルが発生する。
【0028】
気液剪断法では、気体を自給することによりマイクロバブルを生成することができるため、液体と気体に高圧力を与える加圧減圧法と比べて、省電力化の観点において優れた効果を奏する。
【0029】
マイクロバブル供給装置3を設置する位置は、被処理排水W0にマイクロバブルを供給することができれば、どの位置に設置してもよい。例えば、好気処理槽2の内部に設置してもよいし、好気処理槽2へ被処理排水W0を供給する配管に設置してもよい。被処理排水W0に早く供給することができるという観点から、被処理排水W0を供給する配管に設置することが好ましい。
【0030】
好気処理槽2は、被処理排水W0から硫化水素を除去するために十分な滞留時間を与えるための構成であり、その容量は、被処理排水W0の供給量と硫化水素の除去能力によって適宜設定される。
なお、好気処理槽は、槽である必要はなく、十分な滞留時間を与えることができれば配管でもよい。
【0031】
好気処理槽のその他の態様としては、マイクロバブル供給装置3と併用して、散気装置等の曝気装置により空気を供給してもよい。
また、微生物を固定した担体を含む構成としてもよい。担体を設けることにより、硫黄酸化菌の濃度が高まるため、更に処理時間を短縮することができる。
【0032】
次に、マイクロバブルおよび1mm程度の微細気泡を用いた比較試験を行い、マイクロバブルの作用効果について検証した。試験結果を
図2、3に示す。なお、この試験は、マイクロバブルと1mm程度の微細気泡における作用効果の差異を明確にするものであって、硫化水素の除去率、処理水量あたりの硫化水素発生量、滞留時間等の条件について本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0033】
図2は、気泡径が100μ以下のマイクロバブルと、気泡径が1mm程度の微細気泡を用いた比較試験について、被処理排水の滞留時間と、被処理排水中の硫化水素除去率(%)の関係を示すグラフである。硫化水素除去率(%)は、被処理排水から除去された硫化水素の割合を示す値であり、以下の式(1)により得られる。
硫化水素除去率(%)={(被処理排水W0のH
2S濃度−処理水W1のH
2S濃度)/被処理排水W0のH
2S濃度}×100 …式(1)
【0034】
図2を見ると、マイクロバブルを使用した場合には、滞留時間が30分〜2時間で被処理排水中の硫化水素がほぼ全て除去されることがわかる。一方、微細気泡を使用した場合には、3時間で60〜80%程度の硫化水素除去率であった。よって、マイクロバブルを被処理排水W0に供給すると、硫化水素の除去において優れた効果が認められる。
【0035】
図3は、気泡径が100μ以下のマイクロバブルと、気泡径が1mm程度の微細気泡を用いた比較試験について、被処理排水の滞留時間と、処理水量あたりの硫化水素発生量(μgH
2S/l)の関係を示すグラフである。処理水量あたりの硫化水素発生量(μgH
2S/l)は、処理水W1の量(1リットル)に対して、被処理排水W0から揮散して排気ガスGとして排出された硫化水素量(μg)を示す値であり、以下の式(2)により得られる。
処理水量あたりの硫化水素発生量(μgH
2S/l)=排気ガスGから回収された硫化水素量(μg)/処理水量(l) …式(2)
【0036】
図3を見ると、微細気泡を使用した場合には、滞留時間3時間(硫化水素除去率は、60〜80%程度(
図2参照。))において、処理水1リットルあたりに30〜70μg程度の硫化水素が揮散したことがわかる。一方、マイクロバブルを使用した場合には、滞留時間30分(硫化水素除去率は、60〜100%程度)において、処理水1リットルあたりに0〜30μg程度しか硫化水素が揮散していなかった。すなわち、硫化水素除去率が同定度となるまでに被処理排水W0から揮散した硫化水素の量は、微細気泡を使用した場合では30〜70μg程度であったのに対して、マイクロバブルを使用した場合では0〜30μg程度と大きく低減されたことがわかる。
【0037】
この結果から、マイクロバブルを使用した場合には、マイクロバブルによる硫黄酸化菌の活性化やマイクロバブルの酸化力による物理的硫黄酸化の作用が加わるため、被処理排水中での硫黄の除去量が増加し、硫化水素の揮散量が減少したと推察される。
【0038】
[第2の実施態様]
図4は、本発明の第2の実施態様の臭気減少装置1b、及び、その前段に設置された嫌気性処理槽10の構造を示す概略説明図である。
第2の実施態様では、マイクロバブルの生成に使用する液体として、処理水W1を利用した例である。
【0039】
また、第2の実施態様では、マイクロバブル供給装置3に処理水W1を安定的に供給するための構成として、好気処理槽2から流出する処理水W1の一部を貯留する処理水槽4を備えている。処理水槽4により、処理水W1の流量が低下した場合でも、マイクロバブル供給装置3によるマイクロバブルの生成量を一時的に確保することができる。
【0040】
[第3の実施態様]
図5は、本発明の第3の実施態様の臭気減少装置1c、及び、その前段に設置された嫌気性処理槽10の構造を示す概略説明図である。
第3の実施態様では、マイクロバブル供給装置3を設置する位置として、被処理排水W0を好気処理槽2に供給するための配管に設置した例である。
【0041】
この構成によれば、被処理排水W0にマイクロバブルを早く供給することができるため、滞留時間を確保するための好気処理槽2の容量を小さくすることができる。また、マイクロバブルを配管に供給することにより、撹拌力等を与えなくても、被処理排水W0中に均等にマイクロバブルを分配することができるという効果を奏する。
【0042】
また、第3の実施態様の臭気減少装置1cでは、好気処理槽2に曝気装置5を備えている。
【0043】
[第4の実施態様]
図6は、本発明の第4の実施態様の臭気減少装置1d、及び、その前段に設置された嫌気性処理槽10の構造を示す概略説明図である。
第4の実施態様では、好気処理槽2の代わりに、長距離の配管を設けた例である。また、マイクロバブル供給装置3は、長距離の配管の複数の箇所にマイクロバブルを供給する構成とし、マイクロバブルの生成のための液体として処理水W1を使用している。
【0044】
配管により好気性処理を行うことにより、好気処理の次工程に処理水W1を移送している間に、硫化水素等の臭気物質を除去することができる。