【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0046】
実施例1: ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌による反応
(1)2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロパノールの酸化反応
蒸留水1.0Lに、ポリペプトン5.0g,肉エキス5.0g,塩化ナトリウム2.0g,酵母抽出物3.0g,2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロパノール3.0gを混合し、培地(pH7.0)を調整した。ロドコッカス エスピー(Rhodococcus sp.)2N株を、上記培地40mLが入った振とうフラスコを用い、28℃、120rpmで2.5日間培養した。遠心分離した菌体を0.15M塩化ナトリウム水溶液で洗浄したのち、4mLに懸濁したものを菌体懸濁液とした。
終濃度で60mMの2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロパノール、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)、25v/v%菌体懸濁液を含む反応液4mLを調製し、50mL容サンプル瓶中、30℃、120rpmで72時間反応させた。反応液を下記条件のHPLCで分析したところ、93.3%の変換率で2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロピオン酸が生成していることが確認された。
カラム: YMC−Triart C18
溶媒: 50mM NaH
2PO
4/H
3PO
4(pH2.8):アセトニトリル=4:1
流速: 1.0mL/min
検出波長: 210nm
【0047】
(2)2−エチル−2−メチル−3−ヒドロキシプロパノールの酸化反応
2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロパノールの代わりに2−エチル−2−メチル−3−ヒドロキシプロパノールを用いた以外は上記(1)と同様に反応を行った。その結果、47.0%の変換率で64.7%eeの(R)−2−エチル−2−メチル−3−ヒドロキシプロピオン酸が生成していることが確認された。
【0048】
(3)2−エチル−2−メチル−3−ヒドロキシプロパノールの酸化反応
ロドコッカス エスピー2N株の代わりに、ロドコッカス エスピー(Rhodococcus sp.)NCIMB 11215株、ロドコッカス エスピー(Rhodococcus sp.)NCIMB 11216株、またはロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)NCIMB 11148株を用いて上記(2)と同様に試験したところ、上記のジオールに対して2N株と同様の立体選択的な酸化活性が認められた。
【0049】
実施例2: アグロマイセス(Agromyces)属細菌による反応
蒸留水1.0Lに、グルコース10.0g,ペプトン10.0g,塩化ナトリウム6.0g,カゼインペプトン2.0g,酵母抽出物2.0g,2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロパノール2.0gを混合し、培地(pH7.5)を調製した。アグロマイセス エスピー(Agromyces sp.)E2株を、上記培地40mLが入った振とうフラスコを用い、28℃、120rpmで2日間培養した。遠心分離した菌体を0.15M塩化ナトリウム水溶液で洗浄したのち4mLに懸濁したものを菌体懸濁液とした。
終濃度で10mMの2−エチル−2−メチル−3−ヒドロキシプロパノール、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、25v/v%菌体懸濁液を含む反応液4mLを調製し、30mL容サンプル瓶中、35℃、120rpmで72時間反応させた。反応液を上記実施例1(1)と同様の条件で分析したところ、62.5%の変換率で32.5%eeの(S)−2−エチル−2−メチル−3−ヒドロキシプロピオン酸が生成していることが確認された。
【0050】
実施例3: ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌およびアグロマイセス(Agromyces)属細菌の誘導物質による反応性向上
上記実施例1(1)および実施例2において、培地に2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロパノールを添加しなかった以外は同様にして菌体懸濁液を調製し、得られた菌体懸濁液を用いて反応を行ったが、2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロパノールおよび2−エチル−2−メチル−3−ヒドロキシプロパノールは酸化されなかった。よって、上記実施例1および実施例2において2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロパノールおよび2−エチル−2−メチル−3−ヒドロキシプロパノールを酸化した酵素は、何れも誘導酵素であると考えられた。
【0051】
実施例4: ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌の誘導物質による反応性向上
上記実施例1(1)において、ロドコッカス エスピー(Rhodococcus sp.)2N株を培養する培地に、3.0gの2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロパノールの代わりに種々のジオールを終濃度が0.3w/v%になるように加えて培養すること以外は同様にして菌体懸濁液を調製した。つぎに、終濃度0.13w/vの2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロパノール、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)、25v/v%菌体懸濁液を含む反応液4mLを調製し、50mL容サンプル瓶を用いて30℃、120rpmで24時間反応させた。反応後、生成した2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロピオン酸を定量して酸化活性を調べた。酸化酵素の誘導物質として2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロパノールを用いたときの活性を100%とし、誘導物質として他のジオールを用いた場合の相対活性を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示す結果の通り、2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロパノールが最も効果的な酸化酵素誘導物質として作用した。
【0054】
実施例5: アグロマイセス(Agromyces)属細菌の誘導物質による反応性向上
上記実施例2において、アグロマイセス エスピー(Agromyces sp.)E2株を培養する培地に、2.0gの2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロパノールの代わりに種々のジオールを終濃度が0.2w/v%になるように加えて培養すること以外は同様にして菌体懸濁液を調製した。つぎに、終濃度0.13w/vの2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロパノール、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、25v/v%菌体懸濁液を含む反応液4mLを調製し、50mL容サンプル瓶を用いて35℃、120rpmで65時間反応させた。反応後、生成した2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロピオン酸を定量して酸化活性を調べた。酸化酵素の誘導物質として2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロパノールを用いたときの活性を100%とし、誘導物質として他のジオールを用いた場合の相対活性を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2に示す結果の通り、ロドコッカス属細菌の場合にも、2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロパノールが最も効果的な誘導物質として作用した。
【0057】
実施例6: ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌の基質特異性
上記実施例1(1)において、2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロパノールに変えて濃度10mMの種々のジオールを用いて菌体反応を行った。2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロパノールを用いたときの活性を100%とした相対活性を表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
表3に示す結果の通り、2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロパノールにより誘導された酸化酵素であっても、他の1,3−ジオール化合物に対して酸化活性を示すことが証明された。
【0060】
実施例7: アグロマイセス(Agromyces)属細菌の基質特異性
上記実施例1(1)において、2−エチル−2−メチル−3−ヒドロキシプロパノールに変えて濃度10mMの種々のジオールを用いて菌体反応を行った。2−エチル−2−メチル−3−ヒドロキシプロパノールを用いたときの活性を100%とした相対活性を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
表4に示す結果の通り、2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロパノールにより誘導された酸化酵素であっても、他の1,3−ジオール化合物に対して酸化活性を示すことが証明された。
【0063】
実施例8: ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌の酵素活性
上記実施例1(1)と同様にロドコッカス エスピー(Rhodococcus sp.)2N株を培養して得られた菌体を、終濃度で1mMジチオスレイトールを含む50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、超音波破砕機を用いて破砕した。破砕液を12000rpm、4℃で30分間遠心分離し、上清を無細胞抽出液として得た。10mM 2−エチル−2−メチル−3−ヒドロキシプロパノール、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)、無細胞抽出液25v/v%(v/v)、1mM NAD
+を含む反応液で、8mL容ガラス試験管を用いて30℃、120rpmで24時間酵素反応を行った。反応後の反応液を上記実施例1と同様にHPLCで分析し、2−エチル−2−メチル−3−ヒドロキシプロピオン酸の生成を確認した。
【0064】
実施例9: アグロマイセス(Agromyces)属細菌の基質特異性
上記実施例2と同様にアグロマイセス エスピー(Agromyces sp.)E2株を培養して得られた菌体を、終濃度で1mMジチオスレイトールを含む50mMリン酸カリウム緩衝液に懸濁し、超音波破砕機を用いて破砕した。破砕液を12000rpm、4℃で30分間遠心分離し、上清を無細胞抽出液として得た。10mM 2−エチル−2−メチル−3−ヒドロキシプロパノール、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、無細胞抽出液25v/v%、1mM NAD
+を含む反応液で、8mL容ガラス試験管を用いて30℃、120rpmで24時間反応を行った。反応液を実施例1と同様にHPLCで分析し、2−エチル−2−メチル−3−ヒドロキシプロピオン酸の生成を確認した。
【0065】
実施例10: 反応生成物の単離と構造確認
上記実施例1(1)および実施例2と同様に培養して得られた菌体を用いて、100mM 2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロパノールを含む反応液50mLで30℃、96時間振とうして菌体反応を行ったのち、反応液上清に2N塩酸を添加してpHを3.0に調整した。ジエチルエーテルで生成物を抽出したのち、有機層を濃縮し、濃縮物に1M水酸化ナトリウム水溶液を加えて溶解して中性の水溶液を得た。その水溶液を減圧乾燥し、ジエチルエーテルで洗浄して白色固体を得た。得られた白色固体をNMRで分析し、2,2−ジエチル−3−ヒドロキシプロピオン酸のナトリウム塩と同定した。
1H NMR(600MHz,D
2O):δ(ppm) 0.59(3H×2,t,J=7.2Hz),1.29(3H×2,q,J=7.7Hz),3.47(2H,s)
13C NMR(150MHz,D
2O):δ(ppm) 8.23,26.24,52.56,61.44,184.34
【0066】
実施例11: 反応生成物の単離と構造確認
上記実施例1(1)および実施例2と同様に培養して得られた菌体を用いて、20mM 2−エチル−2−メチル−3−ヒドロキシプロパノールを含む反応液40mLで30℃、20時間振とうして菌体反応を行ったのち、反応液上清に6N塩酸を添加してpHを3.0に調整した。ジエチルエーテルで生成物を抽出したのち、有機層を濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーを行い、TLC分析でカルボン酸を検出した画分を集めて濃縮した。NMRを用いて構造解析した結果、反応生成物を2−エチル−2−メチル−3−ヒドロキシプロピオン酸と同定した。
1H NMR(600MHz,CDCl
3):δ(ppm) 0.92(3H,t,J=14.1Hz),1.25(3H,s),1.68(2H,dq,J=12.0Hz),3.55(1H,d,J=18.0Hz),3.73(1H,d,J=18.0Hz)
13C NMR(150MHz,CDCl
3):δ(ppm) 8.53,18.90,28.35,47.76,67.65,181.17
【0067】
実施例12: アルデヒド中間体の検出
ロドコッカス エスピー(Rhodococcus sp.)2N株およびアグロマイセス エスピー(Agromyces sp.)E2株を用いた菌体反応後の反応液を酢酸エチルで抽出し、酸性条件下で2,4−ジニトロフェニルヒドラジンを加えて反応させた。反応液を分取用TLCに付し、単離された化合物をNMRで分析することによりヒドラゾンと同定した。よって、反応中間体としてアルデヒド体ができていることを確認した。