【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る出願(平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
炭素間に二重結合を有する物質には、幾何異性体が存在するものが含まれている。幾何異性体とは、組成は同じであるが、立体構造が異なる物質であり、E体(トランス構造)/Z体(シス構造)と呼ばれている。
【0007】
幾何異性体が存在する物質は、常温では、どちらか一方の単一物質(E体またはZ体)として存在しうる。しかしながら、長時間高温環境に曝されることにより、単一物質の一部が物性(特に沸点)の異なる幾何異性体に変化する(以下、異性化と呼ぶ)ものがある。
【0008】
そのため、単一冷媒を想定して設計した冷凍サイクル/加熱サイクルを備えた機器では、幾何異性体が存在する物質を冷媒として使用できないという課題がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、幾何異性体が存在する物質を冷媒として安定的に使用できるヒートポンプおよびその設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究の結果、幾何異性体が存在しうる冷媒物質(分子内に二重結合を有する化合物)には、異性化が生じない温度があり、異性化が生じる温度に達した場合であっても、幾何異性体が一定の割合になると安定化する傾向があるという知見を得た。異性化が安定化する割合は、温度によって異なる。
【0011】
参考発明は、圧縮機、凝縮器、膨張弁および蒸発器が順次接続されてなる閉回路に、幾何異性体が存在しうる冷媒物質を含む冷媒が封入されたヒートポンプの設計方法であって、前記冷媒物質の異性化が進行しない安定温度の上限を把握し、前記ヒートポンプの異常停止上限温度を設定することで前記安定温度の上限を超えないよう使用上限温度を設定するヒートポンプの設計方法を提供する。
【0012】
上記
参考発明では、冷媒物質の異性化の温度特性(異性化が生じない温度、または異性化が進行しない温度)を把握することで、運転中に冷媒物質が異性化しないヒートポンプを設計できる。それにより、幾何異性体が存在しうる冷媒物質を単一冷媒として採用した場合であっても安定な熱サイクルを実現できる。
【0013】
また、本発明は、圧縮機、凝縮器、膨張弁および蒸発器が順次接続されてなる閉回路に、幾何異性体が存在しうる冷媒物質を含む冷媒が封入されたヒートポンプの設計方法であって、前記ヒートポンプの使用上限温度における、前記冷媒物質と前記冷媒物質の幾何異性体との第1平衡濃度を把握し、前記冷媒物質および
前記冷媒物質と異なる沸点を有する前記幾何異性体が混在し、かつ、前記幾何異性体が前記第1平衡濃度以上含まれる
ことによってなる非共沸混合冷媒を、初期冷媒とするヒートポンプの設計方法を提供する。
【0014】
上記発明では、異性化が安定する濃度(平衡濃度)を把握し、幾何異性体濃度を平衡濃度以上にしておく。そのような混合溶媒は、それ以上異性化が発生しない。そのため、単一物質では異性化が発生する温度に達した場合であっても、異性化による冷媒の物性変化は生じない。
【0015】
上記発明において、前記凝縮器内の温度における前記冷媒物質と前記幾何異性体との第2平衡濃度を把握し、前記凝縮器で凝縮された混合冷媒液中の前記幾何異性体の濃度が、前記第2平衡濃度以上を維持するよう、前記凝縮器における熱交換媒体の温度を
前記凝縮器通過後の膨張弁にて前記凝縮器内の冷媒量を調整することで制御する。
【0016】
冷媒物質の沸点とその幾何異性体の沸点とが異なる場合、混合冷媒は非共沸混合冷媒となる。非共沸混合冷媒は、凝縮器での凝縮工程中、凝縮液中の幾何異性体濃度が変化する場面がある。上記のように熱交換媒体の温度を制御し、凝縮液中の幾何異性体濃度を平衡濃度以上に維持することで、冷媒物質の異性化を抑制できる。
【0017】
参考発明は、圧縮機、凝縮器、膨張弁および蒸発器が順次接続されてなる閉回路に、幾何異性体が存在しうる冷媒物質を含む冷媒が封入されたヒートポンプであって、前記冷媒物質の異性化が進行しない安定温度の上限を把握し、前記冷媒の作動温度が前記安定温度の上限を超えないよう使用上限温度が設定されたヒートポンプを提供する。
【0018】
本発明は、圧縮機、凝縮器、膨張弁および蒸発器が順次接続されてなる閉回路に、幾何異性体が存在しうる冷媒物質を含む冷媒が封入されたヒートポンプであって、前記ヒートポンプの使用上限温度における、前記冷媒物質と前記冷媒物質の幾何異性体との第1平衡濃度を把握し、前記冷媒物質および
前記冷媒物質と異なる沸点を有する前記幾何異性体が混在し、かつ、前記幾何異性体が前記第1平衡濃度以上含まれる
ことによってなる非共沸混合冷媒が、初期冷媒として前記閉回路内に封入され、前記凝縮器内の温度における前記冷媒物質と前記幾何異性体との第2平衡濃度を把握し、前記凝縮器で凝縮された混合冷媒液中の前記幾何異性体の濃度が、前記第2平衡濃度以上を維持するよう、
前記凝縮器通過後の膨張弁にて前記凝縮器内の冷媒量を調整することで前記凝縮器における熱交換媒体の温度が制御されるヒートポンプを提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、冷媒の異性化の温度特性を把握してヒートポンプを設計することで、幾何異性体が存在する物質を冷媒として安定的に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係るヒートポンプの基本的な構成を、
図1を参照して説明する。
ヒートポンプ1は、圧縮機2、凝縮器3、膨張弁4、および蒸発器5を備えている。圧縮機2、凝縮器3、膨張弁4および蒸発器5は、順次、配管6で接続され閉回路(ヒートポンプサイクル)を形成する。ヒートポンプ1の各構成部材は、冷媒からの圧力に耐えうるよう設計されている。ヒートポンプサイクル内には、冷媒が配置(封入)されている。
【0022】
圧縮機2は、蒸発器5から流れてくる冷媒を吸入し、圧縮した後、該圧縮した冷媒を凝縮器3に向けて吐出するものである。圧縮機2は、ターボ圧縮機などの公知のものを用いることができる。圧縮機2は、多段式圧縮機であってもよい。圧縮機2は、複数設けられてもよい。
【0023】
圧縮機2は、冷媒を吸入する吸入口、および、圧縮した冷媒を吐出する吐出口を備えている。圧縮機2の吐出口には、圧縮された冷媒ガスを凝縮器3へ向けて吐出するための吐出配管が接続されている。
【0024】
凝縮器3は、圧縮機2で圧縮された冷媒を冷却して凝縮し、冷媒液とすることができる。凝縮器3は、プレート式熱交換器またはシェルアンドチューブ型熱交換器などとされ得る。凝縮器3は、1つまたは複数設けられてよい。凝縮器3は、圧縮された冷媒が流入する流入配管と、凝縮器3で凝縮した冷媒を流出する流出配管とを備えている。
【0025】
膨張弁4は、凝縮器3で凝縮された冷媒液を断熱膨張させて減圧する弁である。膨張弁4としては、公知のものを用いることができる。
【0026】
蒸発器5は、膨張弁4により断熱膨張させた冷媒液を蒸発させるものである。蒸発器5は、プレート式熱交換器またはシェルアンドチューブ型熱交換器などとされ得る。
【0027】
冷媒は、冷媒物質を主成分とする。冷媒物質は、分子構造中に炭素−炭素二重結合を有し、幾何異性体が存在しうる化合物である。主成分とは、最も多く含まれる成分を意味する。
【0028】
具体的に、冷媒物質は、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)またはハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)である。
【0029】
例えば、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)は、(Z)−1,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(HFO1234ze(Z))、(E)−1,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(HFO1234ze(E))、(Z)−1,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(HFO1234ye(Z))、(E)−1,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(HFO1234ye(E))、(Z)−1,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロペン(HFO1225ye(Z))、(E)−1,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロペン(HFO1225ye(E))、(Z)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン(HFO1336mzz(Z))、(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン(HFO1336mzz(E))、(Z)−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン(HFO−1438mzz(Z))、または(E)−1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロ−2−ペンテン(HFO−1438mzz(E))などである。
【0030】
例えば、ハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)は、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO1233zd(E))、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO1233zd(Z))、(E)−1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO1223xd(E))、(Z)−1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO1223xd(Z))、(E)−1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HCFO−1224yd(E))または(Z)−1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HCFO−1224yd(Z))などである。
【0031】
冷媒は、添加物を含んでいてもよい。添加物は、ハロカーボン類、その他のハイドロフルオロカーボン類(HFC)、アルコール類、飽和炭化水素類などが挙げられる。
【0032】
<ハロカーボン類、および、その他のハイドロフルオロカーボン類>
ハロカーボン類としては、ハロゲン原子を含む塩化メチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等を挙げることができる。
ハイドロフルオロカーボン類としては、ジフルオロメタン(HFC−32)、1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタン(HFC−125)、フルオロエタン(HFC−161)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、ジフルオロエタン(HFC−152a)、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFC−227ea)、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−236ea)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236fa)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245eb)、1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245ca)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソブタン(HFC−356mmz)、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(HFC−43−10−mee)等を挙げることができる。
【0033】
<アルコール類>
アルコール類としては、炭素数1〜4のアルコールを挙げることができ、具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、ペンタフルオロプロパノール、テトラフルオロプロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール等を挙げることができる。
【0034】
<飽和炭化水素類>
飽和炭化水素類としては、炭素数3以上8以下の飽和炭化水素を挙げることができ、具体的には、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、ネオペンタン、n−ペンタン、i−ペンタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、n−ヘキサン、およびシクロヘキサンを含む群から選ばれる少なくとも1以上の化合物を混合することができる。これらのうち、特に好ましい物質としてはネオペンタン、n−ペンタン、i−ペンタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサンが挙げられる。
【0035】
〔
参考実施形態〕
本実施形態に係るヒートポンプの設計方法について説明する。
本実施形態では、初期冷媒として、冷媒物質を主成分とする単一冷媒がヒートポンプサイクル内に封入される。単一冷媒とは、主成分物質が99.5%以上の冷媒物質のことである。
【0036】
まず、単一冷媒中において冷媒物質の異性化が進行しない安定温度の上限を把握する。
【0037】
「異性化」は、Z体の冷媒物質がE体に変化する、またはE体の冷媒物質がZ体に変化することである。「異性化が進行しない」とは、冷媒物質の立体構造が初期状態から変化しない、または、異性化により生じた幾何異性体の濃度が0.5%以下に抑えられている状態を含む。
【0038】
冷媒物質の安定温度の上限の把握は、以下のように実施する。
【0039】
シールドチューブ試験(JIS K 2211)に準拠した方法で、温度毎に熱安定性、安定組成を評価する。
【0040】
次に、把握した安定温度の上限を超えないよう、ヒートポンプの使用上限温度を定め、ヒートポンプを設計する。
【0041】
使用上限温度は、ヒートポンプの異常停止上限温度を設定することで調整できる。
【0042】
上記のように使用上限温度を定めてヒートポンプを設計することで、ヒートポンプサイクル内を循環する冷媒物質の異性化が抑えられるため、安定的な熱サイクルを維持できる。
【0043】
〔第
1実施形態〕
本実施形態では、初期冷媒として、冷媒物質を主成分とし、かつ、冷媒物質の幾何異性体を所定濃度以上含む混合冷媒をヒートポンプサイクル内に封入する。
【0044】
所定濃度は、ヒートポンプの使用上限温度において、幾何異性体の異性化が安定する濃度(第1平衡濃度)である。「異性化が安定する」とは、幾何異性体の濃度が変化しない、または、幾何異性体の濃度変化幅が、±0.5%内であることを許容する。
【0045】
本実施形態では、まず、封入する冷媒物質を定め、ヒートポンプの使用上限温度における冷媒物質とその幾何異性体との第1平衡濃度を把握する。
【0046】
次に、冷媒物質と幾何異性体とが混在し、かつ、幾何異性体の濃度が第1平衡濃度以上である混合冷媒を用意し、初期冷媒として冷媒循環回路内に封入する。
【0047】
以下に、平衡濃度を把握するために実施した試験例を示す。
【0048】
試験チューブを減圧して真空(約1Pa)とし、冷媒物質(100g)を入れた。所定温度で一定期間静置した後、冷媒物質の幾何異性体濃度を計測した。
【0049】
試験条件は以下の通りである。
冷媒物質:HCFO−1223xd(Z)(純度100GC%)
試験温度:175℃,225℃,250℃
試験日数:14日,28日,56日,90日
試験チューブ:SUS316(容量120ml,SUSはステンレススチールの略)
【0050】
なお、ヒートポンプの実機を想定し、各試験チューブ内には、外径1.6mm長さ50mmの銅片(JIS C3102)、鉄片(JIS C2504)およびアルミニウム片(JIS H4040)の3種類の金属片を混在させるとともに、空気100ppm。水10ppmをコンタミさせた。
【0051】
幾何異性体濃度の計測には、水素炎イオン化検出器(FID)を備えるガスクロマトグラフ(島津製作所製,2010plus)を用いた。
【0052】
図2に試験結果を示す。同図において、横軸は試験日数(日)、縦軸は幾何異性体(HCFO−1223xd(E))の発生濃度(GC%)である。
【0053】
図2によれば、試験温度が高いほど幾何異性体は多く生じていた。幾何異性体の濃度は、175℃の試験チューブで約1.8GC%、225℃の試験チューブで約2.6%、250℃の試験チューブで約3.2%だった。
【0054】
図2によれば、試験温度に関わらず、14日から100日の間、幾何異性体の濃度は増えることなく安定していた。
【0055】
上記結果から、幾何異性体が存在しうる冷媒物質の異性化は、一定の濃度(割合)で安定する傾向にあり、その濃度(第1平衡濃度)は温度毎に異なることが確認された。
【0056】
本発明者らの検討によれば、HFO、HCFOおよびそれらの幾何異性体に関し、温度が一定であれば数年、数十年単位で異性化反応はほとんど生じないことが確認されている。すなわち、第1平衡濃度以上で存在する幾何異性体は、温度が一定であれば、それ以上異性化が進まない。
【0057】
ヒートポンプの使用上限温度において冷媒物質の異性化が安定する濃度(第1平衡濃度)を把握し、第1平衡濃度以上なるよう幾何異性体を冷媒物質とともに冷媒中に混在させておくことで、ヒートポンプ運転中に幾何異性体がそれ以上増えることはないため、異性化による濃度変化のない混合冷媒として取り扱うことができる。このような混合冷媒は、単一物質では異性化してしまうような高温でも安定に使用できる。
【0058】
上記試験の結果に基づき、温度毎に幾何異性体濃度の平均値を算出してグラフ化したものを
図3に示す。同図において、横軸は試験温度(℃)、縦軸は幾何異性体の第1平衡濃度の平均値(GC%)である。
【0059】
図3によれば、冷媒物質(HCFO−1223xd(Z))およびその幾何異性体(HCFO−1223xd(E))の平衡濃度は、温度と比例関係にあることが示唆された。
【0060】
上記結果から、幾何異性体が存在しうる冷媒物質の異性化は、温度が上昇するにつれて増加する傾向にあることが確認された。
【0061】
〔第
2実施形態〕
本実施形態では、第
1実施形態に基づいて、混合冷媒を初期冷媒としてヒートポンプサイクル内に封入する。混合冷媒は、冷媒物質の沸点と、その幾何異性体の沸点とが異なる非共沸混合冷媒である。
【0062】
本実施形態では、熱交換器(特に凝縮器)内における非共沸混合冷媒の温度および混合濃度を適正に制御する。具体的には、熱交換器内における相変化過程で生じた凝縮液(非共沸混合冷媒液)中の幾何異性体濃度が、その温度での平衡濃度(第2平衡濃度)以上に維持されるよう、熱交換媒体の温度を制御する。
【0063】
具体的に、制御は以下のように実施する。
熱交換媒体側の熱交換器(特に凝縮器)通過後の膨張弁にて、熱交換媒体側の熱交換器出口温度を確認しながら凝縮器内の冷媒量を調整することで、非共沸混合冷媒の温度を制御する。
【0064】
図4に、2成分系非共沸混合冷媒の相変化特性を示す。同図において、横軸は低沸点成分のモル分率、縦軸は温度、Gは気相領域、Lは液相領域、G+Lは気相と液相が共存する2相領域である。
【0065】
図4に示すように、非共沸混合冷媒の気相線(蒸発温度)や液相線(凝縮温度)は成分濃度により変化する。非共沸混合冷媒では、例えば、低沸点成分のモル分率が0.1のとき、T
1は露点、T
2は沸点となる。
【0066】
同圧下での蒸発に際しては低沸点成分が先に蒸発しやすく、また凝縮時には高沸点成分が先に凝縮しやすい。このため、圧力一定下での蒸発あるいは凝縮に際して、蒸気および凝縮液の成分濃度ならびに温度が変化する。
【0067】
図5に、非共沸混合冷媒を等圧下で蒸発および凝縮させた場合の理想熱サイクルの温度−比エントロピー(T−S)線図(ロ−レンツサイクル)を示す。同図において、横軸はエントロピー(S)、縦軸は温度、破線は飽和液線および飽和蒸気線である。ローレンツサイクルは、
図5の1→2→3→4→1のようになる。
【0068】
非共沸混合冷媒ガスの凝縮時には、高沸点成分ガスが先に凝縮し、低沸点成分濃度が大きくなってガス温度(露点)が降下する。非共沸混合冷媒ガスの蒸発時には、低沸点成分液が先に蒸発し、高沸点成分濃度が大きくなって液温度(沸点)が上昇する。そのため、ローレンツサイクルでは、凝縮過程および蒸発過程で2→3、4→1のような温度すべりが生じる。
【0069】
ローレンツサイクルでは、凝縮工程および蒸発工程における非共沸混合冷媒の温度差(2→3の傾き、または4→1の傾き)=熱交換媒体(
図5では冷却水または冷水)の温度差(C→BまたはD→Aの傾き)を満たすようにシステムを設計することで、高効率なローレンツサイクルを実現できる。
【0070】
非共沸混合冷媒の温度差の値は、高沸点成分と低沸点成分の濃度比率により変えることができる。濃度比率は、熱交換媒体の温度を制御することで調整できる。