(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6938481
(24)【登録日】2021年9月3日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】油井セメント用添加剤並びに該油井セメント用添加剤を用いたセメント組成物及びセメントスラリー
(51)【国際特許分類】
C09K 8/44 20060101AFI20210909BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20210909BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
C09K8/44
C04B28/02
C04B24/26 B
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-517072(P2018-517072)
(86)(22)【出願日】2017年5月11日
(86)【国際出願番号】JP2017017787
(87)【国際公開番号】WO2017195855
(87)【国際公開日】20171116
【審査請求日】2020年4月15日
(31)【優先権主張番号】特願2016-96672(P2016-96672)
(32)【優先日】2016年5月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】玉井 大史
【審査官】
横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−104853(JP,A)
【文献】
特表2008−510846(JP,A)
【文献】
特開2015−196733(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/146348(WO,A1)
【文献】
国際公開第2009/056430(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 8/00−8/94
C04B 28/02
C04B 24/26
C08F 8/12
C08F 8/08
E21B 33/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケン化度が75〜85mol%、かつ、粘度平均重合度が2800〜4500であるポリビニルアルコールを含有する油井セメント用添加剤。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールの粒度は、75μm以下が30質量%以下、500μm以上が10質量%以下である請求項1記載の油井セメント用添加剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の油井セメント用添加剤を0.01〜30%bwoc含有する、油井セメント用セメント組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の油井セメント用添加剤を0.01〜30%bwoc含有する、油井セメント用セメントスラリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコールを含有する油井セメント用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
油井・ガス井・水井戸のセメンチングで使用される油井セメントは、鋼管(ケーシング)を保護するために鋼管と坑井の隙間へ充填される。注入時の高圧及び地中の熱によりセメントスラリーから含有水分が失われると流動性、及び硬化後の強度が損なわれてしまうため、逸水防止剤を添加している。
【0003】
通常、逸水防止剤にはポリビニルアルコール(以下、PVAという。)が用いられている。近年、特にシェールガス坑井は、より深く採掘されるようになってきていることから、圧力、温度条件がより厳しくなってきており、逸水防止剤の添加量も増量して対応している。しかし、逸水防止剤の添加量を増量すると、セメントスラリー増粘による流動性低下が問題になることがあり、また、逸水防止剤の添加量の増量により、コストアップすることから、添加剤の逸水防止性能向上が求められている。
【0004】
特許文献1、2には、逸水防止剤に用いられるPVAについての記載があるが、高温高圧下で注入するセメントスラリーに求められる逸水性能は不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2007/146348
【特許文献2】特願2015−196733
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の通り、PVAを含有した逸水防止剤は、様々な改良がなされているが、高温高圧下で注入される油井セメント用としては、逸水防止性能がまだまだ不十分であるのが実情である。
【0007】
そこで、本発明では、逸水防止性能が良好な、PVAを含有する油井セメント用添加剤を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、油井セメント用添加剤に用いるPVAについて、鋭意研究を行った結果、PVAのケン化度と粘度平均重合度が、PVAを含有する添加剤の逸水防止性能に大きく影響することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明では、まず、ケン化度が75〜85mol%、かつ、粘度平均重合度が2800〜4500であるポリビニルアルコールを含有する油井セメント用添加剤を提供する。
本発明に係る油井セメント用添加剤に含有させるポリビニルアルコールの粒度としては、75μm以下が30質量%以下、500μm以上が10質量%以下に設定することができる。
【0010】
本発明では、次に、前述した油井セメント用添加剤を0.01〜30%bwoc含有するセメント組成物、及び、前述した油井セメント用添加剤を0.01〜30%bwoc含有するセメントスラリーを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、PVAを含有する油井セメント用添加剤の逸水防止性能を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0013】
本発明は、油井・ガス井・水井戸のセメンチングで使用される油井セメントの添加剤として好適に使用可能な、ケン化度、粘度平均重合度を制御したポリビニルアルコール(以下「PVA」ともいう)を提供するものである。
【0014】
鋼管と坑井の隙間へセメントを注入する際に、セメント、水、及び各種添加剤をスラリー混合してポンプ注入する方法が広く採用されている。添加剤のうち、逸水防止剤としてPVAを用いると、該樹脂はスラリー中で膨潤して、注入時の高圧及び地中の熱によりセメントスラリーから含有水分が失われることを防止する。
【0015】
その際、PVAのケン化度、粘度平均重合度を制御することで、油井セメント用添加剤の逸水防止性能を向上させることができる。また、ケン化度、粘度平均重合度に加えて、PVAの粒度を制御することで、油井セメント用添加剤の逸水防止性能を、更に向上させることができる。
【0016】
<油井セメント用添加剤>
本発明に係る油井セメント用添加剤は、特定のケン化度で、かつ、特定の粘度平均重合度のPVAを含有することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る油井セメント用添加剤に含有するPVAのケン化度は、75〜85mol%が好ましく、より好ましくは78〜82mol%である。ケン化度を85mol%以下とすることで、PVA分子間の水素結合が強くなりすぎるのを防止し、膨潤性が低下するのを抑制して、逸水防止性能が低下するのを防止することができる。また、ケン化度を75mol%以上にすることで、PVAの水溶性が上がりすぎるのを防止して、セメントスラリー中で溶解してしまうことを防ぎ、逸水防止性能が低下するのを防止することができる。尚、本明細書における「ケン化度」は、JIS K6726「3.5 けん化度」に準じて測定することにより算出される値を示す。
【0018】
本発明に係る油井セメント用添加剤に含有するPVAの粘度平均重合度は、2800〜4500であることが好ましく、より好ましくは3000〜3800であり、更に好ましくは3300〜3700である。粘度平均重合度を4500以下にすることで、PVAを製造しやすくなり、生産性を向上させることができる。粘度平均重合度を2800以上にすることで、PVAの水溶性が上がりすぎるのを防止して、セメントスラリー中で溶解してしまうことを防ぎ、逸水防止性能が低下するのを防止することができる。
【0019】
尚、本明細書における「粘度平均重合度」は、イオン交換水を溶媒としたオストワルド粘度計により30℃で測定した際の極限粘度[η](g/dL)から、下記式(1)により算出される。
log(P)=1.613×log([η]×104/8.29)・・・(1)
ここで、Pは粘度平均重合度を示す。
【0020】
本発明に係る油井セメント用添加剤に含有するPVAの粒度は、75μm以下が30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは25質量%以下であり、更に好ましくは15質量%以下である。PVAの粒度が細かすぎると、セメントスラリー中で溶解し、逸水防止性能が低下する問題が発生する場合があるが、粒度75μm以下を30質量%以下に制御することで、セメントスラリー中におけるPVAの溶解を防止し、逸水防止性能を向上させることができる。
【0021】
本発明に係る油井セメント用添加剤に含有するPVAの粒度は、500μm以上が10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは8質量%以下であり、更に好ましくは5質量%以下である。PVAの粒度が粗すぎると、セメントへ均一に混合・分散できない問題が発生する場合があるが、粒度500μm以上を10質量%以下に制御することで、セメントへ均一に混合・分散することができる。
【0022】
本明細書においてPVAは、例えば、酢酸ビニル等のビニルエステルを重合して得られるポリビニルエステルの全部、又は一部をケン化することにより得られるポリマーであってよい。「ポリマー」とは、国際純正応用化学連合(IUPAC)高分子命名法委員会による「ポリマー」の定義に従う。国際純正応用化学連合(IUPAC)高分子命名法委員会では、「ポリマー分子とは、相対分子質量の大きい分子で、相対分子質量の小さい分子から実質的または概念的に得られる単位の多数回の繰返しで構成された構造をもつものをいう。」と定義されている。
【0023】
PVAは、ビニルエステルの単独重合体であってよく、ビニルエステルと、前記ビニルエステルと共重合可能なビニルエステル以外の単量体との共重合体であってもよい。得られるPVAの安定性の観点からは、ビニルエステルの単独重合体であることが好ましい。
【0024】
ビニルエステルとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げられ、重合のし易さの観点から、酢酸ビニルが好ましい。
【0025】
ビニルエステルと共重合可能なビニルエステル以外の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン等のα−オレフィン単量体、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等の不飽和アミド単量体、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸単量体、不飽和カルボン酸のアルキル(メチル、エチル、プロピル等)エステル単量体、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸の無水物、不飽和カルボン酸のナトリウム、カリウム、アンモニウム等との塩、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有単量体、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基含有単量体又はその塩、アシッドホスホオキシエチルメタアクリレート、アシッドホスホオキシプロピルメタアクリレート等のリン酸基含有単量体、アルキルビニルエーテル単量体等が挙げられる。
【0026】
ポリビニルエステルの重合方法としては、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されず、溶液重合、懸濁重合、バルク重合等の既知の重合方法を用いることができる。操作の容易さや次工程となるケン化反応と共通の溶媒が使用可能な観点から、アルコール中での溶液重合方法を用いることが好ましい。
【0027】
得られたポリビニルエステルは、アルコールに溶解させ、アルカリ触媒又は酸触媒の存在下でケン化する。アルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられる。アルコール中のポリビニルエステル濃度は、特に限定されないが、固形分濃度で5〜80質量%が好ましい。アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラートなどのアルカリ金属の水酸化物や、アルコラートなどのアルカリ触媒を用いることができ、酸触媒としては、塩酸、硫酸などの無機酸水溶液、p−トルエンスルホン酸などの有機酸を用いることができる。これら触媒の使用量も特に限定されないが、酢酸ビニルに対して0.1〜100ミリモル当量にすることが好ましい。ケン化時の反応温度も特に限定されないが、10〜70℃の範囲で行うことが好ましく、30〜50℃の範囲で行うことがより好ましい。反応時間も特に限定されず、例えば1〜10時間で行うことができる。
【0028】
<セメント組成物・セメントスラリー>
本発明に係るセメント組成物及びセメントスラリーは、前述した本発明に係る油井セメント用添加剤を、特定量含有することを特徴とする。
【0029】
セメントスラリーへのPVAの添加方法は、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されず、あらかじめ乾燥セメント組成物と混合しておく方法、セメントスラリー化する際に混合する方法などの定法が用いられる。
【0030】
PVAの添加量も、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、0.01〜30%bwocが好ましく、より好ましくは0.05〜10%bwocであり、更に好ましくは0.1〜5%bwocである。尚、「セメント重量基準」(bwoc)という用語は、セメントの固形分のみを基準としたセメント組成物に加える乾燥形態の添加剤の重量を指す。
【実施例】
【0031】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。なお、特に断りがない限り、「部」及び「%」は「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0032】
<PVAの製造>
【0033】
[実施例1]
還流冷却器、滴下漏斗、攪拌機を備えた重合缶に、酢酸ビニル100質量部、メタノール5.3質量部、及びアゾビスイソブチロニトリル0.02モル%を仕込み、窒素気流下で攪拌しながら沸点下で4.0時間重合を行った。次いで、未反応の酢酸ビニルモノマーを重合系外に除去し、重合度3500のポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を得た。
【0034】
前記で得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液に、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(酢酸ビニルに対し水酸化ナトリウム0.004モル換算)を添加し、40℃で150分間ケン化反応を行った。得られた反応溶液を加熱乾燥して、ケン化度80mol%の実施例1に係るPVAを得た。
【0035】
乾燥したPVAを目開き500μmの篩を使用して篩った。篩上品は、粉砕機で粉砕し、先の篩下品と良く混合した。粒度75μm以下が22%の粒度を調整したPVAを得た。
【0036】
[実施例2〜6、比較例1〜7]
重合時のメタノール量、鹸化時の水酸化ナトリウム量、粒度調整時の篩目開きをそれぞれ下記の表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜6及び比較例1〜7に係るPVAを得た。
【0037】
<PVAの粘度平均重合度の算出>
前記で得られた実施例1〜6及び比較例1〜7に係るPVAについて、極限粘度[η](g/dL)を測定し、前記式(1)を用いて、粘度平均重合度を算出した。
【0038】
<逸水防止性能評価>
PVAの逸水防止性能は、米国石油協会規格(API)10B−2(2013年4月)の逸水量評価に従って測定し、ccで示した。以下の実施例では、1900kg/m
3のスラリー密度で測定した。また、PVA添加量は、評価温度20℃で0.25%bwoc、40℃で0.4%bwoc、60℃で0.6%bwocの条件で測定した。
【0039】
<結果>
結果を下記表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示す通り、ケン化度が75〜85mol%、かつ、粘度平均重合度が2800〜4500であるPVAを用いた実施例1〜7は、ケン化度及び/又は粘度平均重合度が本発明の範囲外である比較例1〜6に比べて、逸水量が低い結果であった。より詳細に検討すると、例えば、実施例1と比較例3を比較すると、どちらもケン化度は80mol%で同一であるが、粘度平均重合度が2800〜4500の範囲内であるPVAを用いた実施例1に比べ、粘度平均重合度が2800未満のPVAを用いた比較例3は、逸水量が多い結果であった。また、実施例5と比較例6を比較すると、どちらも粘度平均重合度は2800であるが、ケン化度が75〜85mol%の範囲内であるPVAを用いた実施例5に比べ、ケン化度が85mol%を超える比較例6は、60℃における逸水量が非常に多い結果であった。
【0042】
これらの結果から、ケン化度が75〜85mol%、かつ、粘度平均重合度が2800〜4500であるPVAを用いることで、逸水防止性能が向上することが分かった。
【0043】
実施例内で比較すると、ケン化度が78〜82mol%の範囲内であるPVAを用いた実施例1の方が、ケン化度がこの範囲外のPVAを用いた実施例2及び3に比べて、逸水量が少ないことが分かった。この結果から、本発明に係る油井セメント用添加剤に含有するPVAのケン化度は、78〜82mol%に制御すると、より好ましいことが分かった。
【0044】
また、粘度平均重合度が3000以上のPVAを用いた実施例1の方が、粘度平均重合度が3000未満のPVAを用いた実施例5に比べて、逸水量が少ないことが分かった。この結果から、本発明に係る油井セメント用添加剤に含有するPVAの粘度平均重合度は、3000以上に制御すると、より好ましいことが分かった。
【0045】
更に、実施例5と7を比較すると、どちらもケン化度と粘度平均重合度は同一であるが、PVAの粒度について、75μm以下が30%以下である実施例5の方が、逸水量が少ないことが分かった。また、実施例1と6を比較すると、どちらもケン化度と粘度平均重合度は同一であるが、75μm以下が15%以下である実施例6の方が、逸水量が少ないことが分かった。この結果から、本発明に係る油井セメント用添加剤に含有するPVAの粒度は、75μm以下が30%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましいことが分かった。