特許第6938765号(P6938765)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6938765コバルト基合金粉末、コバルト基合金焼結体およびコバルト基合金焼結体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6938765
(24)【登録日】2021年9月3日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】コバルト基合金粉末、コバルト基合金焼結体およびコバルト基合金焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/07 20060101AFI20210909BHJP
   C22F 1/10 20060101ALI20210909BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20210909BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20210909BHJP
   C22C 1/05 20060101ALI20210909BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20210909BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20210909BHJP
【FI】
   C22C19/07 H
   C22F1/10 J
   B22F1/00 M
   B22F3/10 F
   C22C1/05 D
   B22F9/08 A
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 611
   !C22F1/00 621
   !C22F1/00 628
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 651B
   !C22F1/00 687
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
【請求項の数】16
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2020-509116(P2020-509116)
(86)(22)【出願日】2019年12月26日
(86)【国際出願番号】JP2019051097
(87)【国際公開番号】WO2020179207
(87)【国際公開日】20200910
【審査請求日】2020年2月17日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/009207
(32)【優先日】2019年3月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱パワー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】王 玉艇
(72)【発明者】
【氏名】今野 晋也
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−186620(JP,A)
【文献】 特開2016−102229(JP,A)
【文献】 国際公開第2019/031577(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第107513642(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/07
C22F 1/10
B22F 1/00
B22F 3/10
C22C 1/05
B22F 9/08
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.08質量%以上0.25質量%以下の炭素と、
0.1質量%以下のホウ素と、
10質量%以上30質量%以下のクロムと、
5質量%以下の鉄と、
30質量%以下のニッケルとを含み、
前記鉄と前記ニッケルを合計が30質量%以下となるように含み、
タングステンおよびモリブデンのうちの少なくとも1つを合計が5質量%以上12質量%以下となるように含み、
チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、ハフニウムおよびバナジウムのうちの少なくとも1つを合計が0.5質量%以上2質量%以下となるように含み、
0.5質量%以下のケイ素と、
0.5質量%以下のマンガンと、
0.003質量%以上0.04質量%以下の窒素と
不純物として、0.5質量%以下のアルミニウムと、0.04質量%以下の酸素とを含み、残部がコバルトと不純物とからなるコバルト基合金粉末であり、
前記コバルト基合金粉末を構成する結晶粒が偏析セルを有し、前記偏析セルの平均サイズが0.15μm以上4μm以下であることを特徴とするコバルト基合金粉末。
【請求項2】
0.08質量%以上0.25質量%以下の炭素と、
0.1質量%以下のホウ素と、
10質量%以上30質量%以下のクロムと、
5質量%以下の鉄と、
30質量%以下のニッケルとを含み、
前記鉄と前記ニッケルを合計が30質量%以下となるように含み、
タングステンおよびモリブデンのうちの少なくとも1つを合計が5質量%以上12質量%以下となるように含み、
チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、ハフニウムおよびバナジウムのうちの少なくとも1つを合計が0.5質量%以上2質量%以下となるように含み、
0.5質量%以下のケイ素と、
0.5質量%以下のマンガンと、
0.04質量%より大きく0.1質量%以下の窒素と
不純物として、0.5質量%以下のアルミニウムと、0.04質量%以下の酸素とを含み、残部がコバルトと不純物とからなるコバルト基合金粉末であり、
前記コバルト基合金粉末を構成する結晶粒が偏析セルを有し、前記偏析セルの平均サイズが0.15μm以上4μm以下であることを特徴とするコバルト基合金粉末。
【請求項3】
前記コバルト基合金粉末の粒径が5μm以上85μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のコバルト基合金粉末。
【請求項4】
前記コバルト基合金粉末の粒径が5〜25μmであることを特徴とする請求項1または2に記載のコバルト基合金粉末。
【請求項5】
前記コバルト基合金粉末の粒径が10〜85μmであることを特徴とする請求項1または2に記載のコバルト基合金粉末。
【請求項6】
前記チタンを含む場合該チタンは0.01質量%以上1質量%以下であり、
前記ジルコニウムを含む場合該ジルコニウムは0.05質量%以上1.5質量%以下であり、
前記ニオブを含む場合該ニオブは0.02質量%以上1質量%以下であり、
前記タンタルを含む場合該タンタルは0.05質量%以上1.5質量%以下であり、
前記ハフニウムを含む場合該ハフニウムは0.01質量%以上0.5質量%以下であり、
前記バナジウムを含む場合該バナジウムは0.01質量%以上0.5質量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のコバルト基合金粉末。
【請求項7】
0.08質量%以上0.25質量%以下の炭素と、
0.1質量%以下のホウ素と、
10質量%以上30質量%以下のクロムと、
5質量%以下の鉄と、
30質量%以下のニッケルとを含み、
前記鉄と前記ニッケルを合計が30質量%以下となるように含み、
タングステンおよびモリブデンのうちの少なくとも1つを合計が5質量%以上12質量%以下となるように含み、
チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、ハフニウムおよびバナジウムのうちの少なくとも1つを合計が0.5質量%以上2質量%以下となるように含み、
0.5質量%以下のケイ素と、
0.5質量%以下のマンガンと、
0.003質量%以上0.04質量%以下の窒素と
不純物として、0.5質量%以下のアルミニウムと、0.04質量%以下の酸素とを含み、
残部がコバルトと不純物とからなるコバルト基合金焼結体であり、
前記コバルト基合金焼結体を構成する結晶粒が偏析セルを有し、前記偏析セルの平均サイズが0.15μm以上4μm以下であることを特徴とするコバルト基合金焼結体。
【請求項8】
0.08質量%以上0.25質量%以下の炭素と、
0.1質量%以下のホウ素と、
10質量%以上30質量%以下のクロムと、
5質量%以下の鉄と、
30質量%以下のニッケルとを含み、
前記鉄と前記ニッケルを合計が30質量%以下となるように含み、
タングステンおよびモリブデンのうちの少なくとも1つを合計が5質量%以上12質量%以下となるように含み、
チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、ハフニウムおよびバナジウムのうちの少なくとも1つを合計が0.5質量%以上2質量%以下となるように含み、
0.5質量%以下のケイ素と、
0.5質量%以下のマンガンと、
0.04質量%より大きく0.1質量%以下の窒素と
不純物として、0.5質量%以下のアルミニウムと、0.04質量%以下の酸素とを含み、残部がコバルトと不純物とからなるコバルト基合金焼結体であり、
前記コバルト基合金焼結体を構成する結晶粒が偏析セルを有し、前記偏析セルの平均サイズが0.15μm以上4μm以下であることを特徴とするコバルト基合金焼結体。
【請求項9】
前記コバルト基合金焼結体の粒径が5μm以上85μm以下であることを特徴とする請求項7または8に記載のコバルト基合金焼結体。
【請求項10】
前記コバルト基合金焼結体の粒径が5μm以上25μm以下であることを特徴とする請求項7または8に記載のコバルト基合金焼結体。
【請求項11】
前記コバルト基合金焼結体の粒径が10μm以上85μm以下であることを特徴とする請求項7または8に記載のコバルト基合金焼結体。
【請求項12】
前記チタンを含む場合該チタンは0.01質量%以上1質量%以下であり、
前記ジルコニウムを含む場合該ジルコニウムは0.05質量%以上1.5質量%以下であり、
前記ニオブを含む場合該ニオブは0.02質量%以上1質量%以下であり、
前記タンタルを含む場合該タンタルは0.05質量%以上1.5質量%以下であり、
前記ハフニウムを含む場合該ハフニウムは0.01質量%以上0.5質量%以下であり、
前記バナジウムを含む場合該バナジウムは0.01質量%以上0.5質量%以下であることを特徴とする請求項7または8に記載のコバルト基合金焼結体。
【請求項13】
前記偏析セルに炭化物が析出していることを特徴とする請求項7または8に記載のコバルト基合金焼結体。
【請求項14】
所定の化学組成を有するコバルト基合金粉末の原料を混合・溶解して溶湯を作製する原料混合溶解工程と、前記溶湯から急冷凝固合金粉末を形成する溶湯−粉末化工程と、前記急冷凝固合金粉末を焼結する焼結工程とを有し、
前記コバルト基合金粉末は、0.08質量%以上0.25質量%以下の炭素と、
0.1質量%以下のホウ素と、
10質量%以上30質量%以下のクロムと、
5質量%以下の鉄と、
30質量%以下のニッケルとを含み、
前記鉄と前記ニッケルを合計が30質量%以下となるように含み、
タングステンおよびモリブデンのうちの少なくとも1つを合計が5質量%以上12質量%以下となるように含み、
チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、ハフニウムおよびバナジウムの少なくとも1つの合計が0.5質量%以上2質量%以下となるように含み、
0.5質量%以下のケイ素と、
0.5質量%以下のマンガンと、
0.003質量%以上0.04質量%以下の窒素と
不純物として、0.5質量%以下のアルミニウムと、0.04質量%以下の酸素とを含み、残部がコバルトと不純物とからなり、前記コバルト基合金粉末を構成する結晶粒が偏析セルを有し、前記偏析セルの平均サイズが0.15μm以上4μm以下であることを特徴とするコバルト基合金焼結体の製造方法。
【請求項15】
前記溶湯−粉末化工程は、ガスアトマイズまたはプラズマアトマイズによって前記急冷凝固合金粉末を形成することを特徴とする請求項14に記載のコバルト基合金焼結体の製造方法。
【請求項16】
コバルト基合金焼結体の原料は、前記コバルト基合金粉末を75質量%以上含むことを特徴とする請求項14または15に記載のコバルト基合金焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルト基合金粉末、コバルト基合金焼結体およびコバルト基合金焼結体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コバルト(Co)基合金材は、ニッケル(Ni)基合金材とともに代表的な耐熱合金材料であり、超合金とも称されてタービン(例えば、ガスタービン、蒸気タービン)の高温部材に広く用いられている。Co基合金材は、Ni基合金材と比べて材料コストは高いものの耐食性や耐摩耗性が優れており、固溶強化し易いことから、タービン静翼や燃焼器部材として用いられてきた。
【0003】
耐熱合金材料において、現在までに行われてきた種々の合金組成の改良および製造プロセスの改良によって、Ni基合金材では、γ’相(例えばNi(Al,Ti)相)の析出による強化が開発され現在主流になっている。一方、Co基合金材においては、Ni基合金材のγ’相のような機械的特性向上に大きく寄与する金属間化合物相が析出しづらいことから、炭化物相による析出強化が研究されてきた。
【0004】
例えば、特許文献1(特開昭61−243143)には、結晶粒径が10μm以下であるコバルト基合金の基地に、粒径が0.5から10μmである塊状及び粒状の炭化物を析出させてなることを特徴とするCo基超塑性合金が開示されている。また、前記コバルト基合金は、重量比でC:0.15〜1%、Cr:15〜40%、W及び又はMo:3〜15%、B:1%以下、Ni:0〜20%、Nb:0〜1.0%、Zr:0〜1.0%、Ta:0〜1.0%、Ti:0〜3%、Al:0〜3%、及び残部Coからなること、が開示されている。特許文献1によると、低い温度領域(例えば、950℃)でも超塑性を示して70%以上の伸び率を有し、かつ鍛造加工等の塑性加工により複雑形状物を作製しえるCo基超塑性合金を提供できる、とされている。
【0005】
特許文献2(特開平7−179967)には、重量%にて、Cr:21〜29%、Mo:15〜24%、B:0.5〜2%、Si:0.1%以上で0.5%未満、C:1%を越えて2%以下、Fe:2%以下、Ni:2%以下及び残部実質的にCoからなる、耐食性、耐摩耗性及び高温強度にすぐれるCo基合金が開示されている。特許文献2によると、当該Co基合金は、Co、Cr、Mo、Siの4元系合金相にモリブデン硼化物及びクロム炭化物が比較的微細に分散した複合組織を有し、良好な耐食
性及び耐摩耗性、並びに高い強度を備える、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−243143号公報
【特許文献2】特開平7−179967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜2に記載されたようなCo基合金材は、それら以前のCo基合金材に比して高い機械的特性を有すると考えられるが、近年の析出強化Ni基合金材と比較すると、十分な機械的特性を有しているとは言えない。しかしながら、γ’相析出強化Ni基合金材と同等以上の機械的特性(例えば、58MPaで10万時間のクリープ耐用温度が875℃以上、室温の引張耐力が500MPa以上)を達成することができれば、Co基合金材は、タービン高温部材に適した材料となりうる。
【0008】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、析出強化Ni基合金材と同等以上の機械的特性を有するCo基合金材を提供可能なCo基合金粉末、Co基合金焼結体およびCo基合金焼結体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明のコバルト基合金粉末の一態様は、
0.08質量%以上0.25質量%以下の炭素と、
0.1質量%以下のホウ素と、
10質量%以上30質量%以下のクロムと、
5質量%以下の鉄と、
30質量%以下のニッケルとを含み、
鉄とニッケルを合計が30質量%以下となるように含み、
タングステンおよびモリブデンのうちの少なくとも1つを合計が5質量%以上12質量%以下となるように含み、
チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、ハフニウムおよびバナジウムうちの少なくとも1つを合計が0.5質量%以上2質量%以下となるように含み、
0.5質量%以下のケイ素と、
0.5質量%以下のマンガンと、
0.003質量%以上0.04質量%以下の窒素と
不純物として、0.5質量%以下のアルミニウムと、0.04質量%以下の酸素とを含み、残部がコバルトと不純物とからなり、コバルト基合金粉末を構成する結晶粒が偏析セルを有し、偏析セルの平均サイズが0.15μm以上4μm以下であることを特徴とする。
【0010】
また、上記目的を達成するための本発明のコバルト基合金焼結体の一態様は、
0.08質量%以上0.25質量%以下の炭素と、
0.1質量%以下のホウ素と、
10質量%以上30質量%以下のクロムと、
5質量%以下の鉄と、
30質量%以下のニッケルとを含み、
鉄とニッケルを合計が30質量%以下となるように含み、
タングステンおよびモリブデンのうちの少なくとも1つを合計が5質量%
以上12質量%以下となるように含み、
チタン、ジルコニウム、ニオブおよびタンタルのうちの少なくとも1つを
合計が0.5質量%以上2質量%以下となるように含み、
0.5質量%以下のケイ素と、
0.5質量%以下のマンガンと、
0.003質量%以上0.04質量%以下の窒素と
不純物として、0.5質量%以下のアルミニウムと、0.04質量%以下の酸素とを含み、残部がコバルトと不純物とからなることを特徴とする。
【0011】
また、上記目的を達成するための本発明のコバルト基合金焼結体の製造方法の一態様は、上述した化学組成を有するコバルト基合金粉末の原料を混合・溶解して溶湯を作製する原料混合溶解工程と、溶湯から急冷凝固合金粉末を形成する溶湯−粉末化工程と、急冷凝固合金粉末を焼結する焼結工程とを有し、コバルト基合金粉末が上述した本発明のコバルト基合金粉末の組成を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、析出強化Ni基合金材と同等以上の機械的特性を有するCo基合金材を提供可能なCo基合金粉末、Co基合金焼結体およびCo基合金焼結体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のCo基合金粉末の粉末表面を模式的に示す図である。
図2】本発明のCo基合金粉末の製造方法の工程例を示すフロー図である。
図3】本発明のCo基合金焼結体を用いた製造物の一例であり、タービン高温部材としてのタービン静翼を示す斜視模式図である。
図4】本発明のCo基合金焼結体を用いた製造物を装備するガスタービンの一例を示す断面模式図である。
図5】本発明のCo基合金焼結体のSEM観察写真である。
図6】Co基合金焼結体および鋳造体における偏析セルの平均サイズと800℃における0.2%耐力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[本発明の基本思想]
前述したように、Co基合金材では、炭化物相の析出による強化が種々研究開発されてきた。析出強化に寄与する炭化物相としては、例えば、Ti、Zr、Nb、Ta、HfおよびVのMC型炭化物相(Mは遷移金属を意味し、Cは炭素を意味する。)、およびそれら金属元素の複合炭化物相が挙げられる。
【0015】
Ti、Zr、Nb、Ta、HfおよびVの各成分と炭化物相を形成する上で不可欠なC成分とは、Co基合金の溶融凝固の際に、最終凝固部(例えば、デンドライト境界や結晶粒界)に著しく偏析する性状がある。そのため、従来のCo基合金材では、当該炭化物相粒子は、母相のデンドライト境界や結晶粒界に沿って析出する。例えば、Co基合金の普通鋳造材では、通常、デンドライト境界の平均間隔や平均結晶粒径が10〜10μmオーダになるため、炭化物相粒子の平均間隔も10〜10μmオーダになる。また、レーザ溶接などの凝固速度が比較的速いプロセスであっても、凝固部における炭化物相粒子の平均間隔は5μm程度である。
【0016】
合金における析出強化は、析出物同士の平均間隔に反比例することが一般的に知られており、析出強化が有効になるのは、析出物同士の平均間隔が2μm程度以下の場合と言われている。しかしながら、上述した従来技術では、析出物同士の平均間隔がそのレベルに達しておらず、十分な析出強化の作用効果が得られない。言い換えると、従来技術では、合金強化に寄与する炭化物相粒子を微細分散析出させることが難しかった。これが、析出強化Ni基合金材に比して、Co基合金材は機械的特性が不十分と言われてきた主な要因である。
【0017】
なお、Co基合金において析出しうる他の炭化物相として、Cr炭化物相がある。Cr成分はCo基合金母相への固溶性が高く偏析しづらいことから、Cr炭化物相は母相結晶粒内に分散析出させることが可能である。しかしながら、Cr炭化物相は、Co基合金母相結晶との格子整合性が低く、析出強化相としてはそれほど有効でないことが知られている。
【0018】
本発明者等は、Co基合金材において、析出強化に寄与する炭化物相粒子を母相結晶粒内に分散析出させることができれば、Co基合金材の機械的特性を飛躍的に向上させることができると考えた。また、Co基合金材が元々有する良好な耐食性や耐摩耗性と併せると、析出強化Ni基合金材を凌駕する耐熱合金材を提供できると考えた。
【0019】
そこで、本発明者等は、そのようなCo基合金材を得るための合金組成および製造方法について鋭意研究した。その結果、合金組成を最適化することにより、Co基合金材の母相結晶粒内に合金強化に寄与する炭化物相粒子を分散析出させられることを見出した。本発明は、当該知見に基づいて完成されたものである。
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る実施形態を説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、公知技術と適宜組み合わせたり公知技術に基づいて改良したりすることが可能である。
【0021】
[Co基合金粉末の化学組成]
上述した本発明のCo基合金粉末の化学組成について、以下に説明する。
【0022】
C:0.08質量%以上0.25質量%以下
C成分は、析出強化相となるMC型炭化物相(Ti、Zr、Nb、Ta、Hfおよび/またはVの炭化物相、強化炭化物相と称する場合がある)を構成する重要な成分である。C成分の含有率は、0.08質量%以上0.25質量%以下が好ましく、0.1質量%以上0.2質量%以下がより好ましく、0.12質量%以上0.18質量%以下が更に好ましい。C含有率が0.08質量%未満になると、強化炭化物相の析出量が不足し、機械的特性向上の作用効果が十分に得られない。一方、C含有率が0.25質量%超になると、過度に硬化することで、Co基合金を焼結して得た焼結体の延性や靭性が低下する。
【0023】
B:0.1質量%以下
B成分は、結晶粒界の接合性の向上(いわゆる粒界強化)に寄与する成分である。B成分は必須成分ではないが、含有させる場合、0.1質量%以下が好ましく、0.005質量%以上0.05質量%以下がより好ましい。B含有率が0.1質量%超になると、Co基合金の焼結時やその後の熱処理で割れが発生し易くなる。
【0024】
Cr:10質量%以上30質量%以下
Cr成分は、耐食性や耐酸化性の向上に寄与する成分である。Cr成分の含有率は、10質量%以上30質量%以下が好ましく、10質量%以上25質量%以下がより好ましい。Co基合金製造物の最表面に耐食性被覆層を別途設けるような場合は、Cr成分の含有率は、10質量%以上18質量%以下が更に好ましい。Cr含有率が10質量%未満になると、耐食性や耐酸化性が不十分になる。一方、Cr含有率が30質量%超になると、脆性のσ相が生成したりCr炭化物相が生成したりして機械的特性(靱性、延性、強さ)が低下する。
【0025】
Ni:30質量%以下
Ni成分は、Co成分と類似した特性を有しかつCoに比して安価なことから、Co成分の一部を置き換えるかたちで含有させることができる成分である。Ni成分は必須成分ではないが、含有させる場合、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、5質量%以上15質量%以下が更に好ましい。Ni含有率が30質量%超になると、Co基合金の特徴である耐摩耗性や局所応力への耐性が低下する。これは、Coの積層欠陥エネルギーとNiのそれとの差異に起因すると考えられる。
【0026】
Fe:5質量%以下
Fe成分は、Niよりもはるかに安価でありかつNi成分と類似した性状を有することから、Ni成分の一部を置き換えるかたちで含有させることができる成分である。すなわち、FeおよびNiの合計含有率は30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、5質量%以上15質量%以下が更に好ましい。Fe成分は必須成分ではないが、含有させる場合、Ni含有率よりも少ない範囲で5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。Fe含有率が5質量%超になると、耐食性や機械的特性の低下要因になる。
【0027】
Wおよび/またはMo:合計5質量%以上12質量%以下
W成分およびMo成分は、母相の固溶強化に寄与する成分である。W成分および/またはMo成分の含有率は、合計で5質量%以上12質量%以下が好ましく、7質量%以上10質量%以下がより好ましい。W成分とMo成分との合計含有率が5質量%未満になると、母相の固溶強化が不十分になる。一方、W成分とMo成分との合計含有率が12質量%超になると、脆性のσ相が生成し易くなって機械的特性(靱性、延性)が低下する。
【0028】
Re:2質量%以下
Re成分は、母相の固溶強化に寄与すると共に、耐食性の向上に寄与する成分である。Re成分は必須成分ではないが、含有させる場合、W成分またはMo成分の一部を置き換えるかたちで2質量%以下が好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下がより好ましい。Re含有率が2質量%超になると、Re成分の作用効果が飽和するのに加えて、材料コストの増加がデメリットになる。
【0029】
Ti、Zr、Nb、Ta、HfおよびVの1種以上:合計0.5質量%以上2質量%以下
Ti成分、Zr成分、Nb成分、Ta成分、Hf成分およびV成分は、強化炭化物相(MC型炭化物相)を構成する重要な成分である。Ti、Zr、Nb、Ta、HfおよびV成分の1種以上の合計含有率は、0.5質量%以上2質量%以下が好ましく、合計0.5質量%以上1.8質量%以下がより好ましい。合計含有率が0.5質量%未満になると、強化炭化物相の析出量が不足し、機械的特性向上の作用効果が十分に得られない。一方、当該合計含有率が2質量%超になると、強化炭化物相粒子が粗大化したり脆性相(例えばσ相)の生成を促進したり析出強化に寄与しない酸化物相粒子を生成したりして機械的特性が低下する。
【0030】
より具体的には、Tiを含有させる場合の含有率は、0.01質量%以上1質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.8質量%以下がより好ましい。Zrを含有させる場合の含有率は、0.05質量%以上1.5質量%以下が好ましく、0.1質量%以上1.2質量%以下がより好ましい。Nbを含有させる場合の含有率は、0.02質量%以上1質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.8質量%以下がより好ましい。Taを含有させる場合の含有率は、0.05質量%以上1.5質量%以下が好ましく、0.1質量%以上1.2質量%以下がより好ましい。Hfを含有させる場合の含有率は、0.01質量%以上0.5質量%以下が好ましく、0.02質量%以上0.1質量%以下がより好ましい。Vを含有させる場合の含有率は、0.01質量%以上0.5質量%以下が好ましく、0.02質量%以上0.1質量%以下がより好ましい。
【0031】
Si:0.5質量%以下
Si成分は、脱酸素の役割を担って機械的特性の向上に寄与する成分である。Si成分は必須成分ではないが、含有させる場合、0.5質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.3質量%以下がより好ましい。Si含有率が0.5質量%超になると、酸化物(例えばSiO)の粗大粒子を形成して機械的特性の低下要因になる。
【0032】
Mn:0.5質量%以下
Mn成分は、脱酸素・脱硫の役割を担って機械的特性の向上や耐腐食性の向上に寄与する成分である。Mn成分は必須成分ではないが、含有させる場合、0.5質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.3質量%以下がより好ましい。Mn含有率が0.5質量%超になると、硫化物(例えばMnS)の粗大粒子を形成して機械的特性や耐食性の低下要因になる。
【0033】
N:0.003質量%以上0.04質量%以下または0.04質量%より大きく0.1質量%以下
N成分は、Co基合金粉末を製造する際のガスアトマイズの雰囲気によって含有量が異なる。ガスアトマイズをアルゴンガス雰囲気中で行った場合にはN成分の含有量は低くなり(N:0.003質量%以上0.04質量%以下)、ガスアトマイズを窒素ガス雰囲気中で行った場合にはN成分の含有量は高くなる(N:0.04質量%以上0.1質量%以下)。
【0034】
N成分は、強化炭化物相の安定生成に寄与する成分である。N含有率が0.003質量%未満になると、N成分の作用効果が十分に得られない。一方、N含有率が0.1質量%超になると、窒化物(例えばCr窒化物)の粗大粒子を形成して機械的特性の低下要因になる。
【0035】
残部:Co成分+不純物
Co成分は、本合金の主要成分の一つであり、最大含有率の成分である。前述したように、Co基合金材は、Ni基合金材と同等以上の耐食性や耐摩耗性を有する利点がある。
【0036】
Al成分は、本合金の不純物の一つであり、意図的に含有させる成分ではない。ただし、0.5質量%以下のAl含有率であれば、Co基合金製造物の機械的特性に大きな悪影響を及ぼさないことから許容される。Al含有率が0.5質量%超になると、酸化物や窒化物(例えばAlやAlN)の粗大粒子を形成して機械的特性の低下要因になる。
【0037】
O成分も、本合金の不純物の一つであり、意図的に含有させる成分ではない。ただし、0.04質量%以下のO含有率であれば、Co基合金製造物の機械的特性に大きな悪影響を及ぼさないことから許容される。O含有率が0.04質量%超になると、各種酸化物(例えば、Ti酸化物、Zr酸化物、Al酸化物、Fe酸化物、Si酸化物)の粗大粒子を形成して機械的特性の低下要因になる。
【0038】
[Co基合金粉末の製造方法]
図2は本発明に係るCo基合金粉末およびCo基合金焼結体の製造方法の工程例を示すフロー図である。図2に示すように、まず、上述した本発明のCo基合金粉末の組成となるように、Co基合金粉末の原料を混合・溶解して溶湯10を形成する原料混合溶解工程(ステップ1:S1)を行う。溶解方法に特段の限定はなく、高耐熱合金に対する従前の方法(例えば、誘導溶解法、電子ビーム溶解法、プラズマアーク溶解法)を好適に利用できる。
【0039】
なお、合金中の不純物成分の含有率をより低減する(合金の清浄度を高める)ため、原料混合溶解工程S1において、溶湯10を形成した後に一旦凝固させて原料合金塊を形成し、その後、該原料合金塊を再溶解して清浄化溶湯を形成することは好ましい。合金の清浄度を高められる限り再溶解方法に特段の限定はないが、例えば、真空アーク再溶解(VAR)法を好ましく利用できる。
【0040】
次に、溶湯10(または清浄化溶湯)から急冷凝固したCo基合金粉末20を形成する溶湯−粉末化工程(ステップ2:S2)を行う。本発明のCo基合金粉末は、冷却速度の速い急冷凝固によって作製するため、図1に示すような、Co基合金製品の強度を向上する偏析セルを得ることができる。偏析セルの平均サイズは、冷却速度が速いほど小さくなる。
【0041】
高清浄・均質組成が得られる限り溶湯−粉末化方法に特段の限定はなく、従前の合金粉末製造方法(例えば、アトマイズ法(ガスアトマイズ法、プラズマアトマイズ法)、水アトマイズ法)を好ましく利用できる。
【0042】
[Co基合金粉末の組織構造]
図1は本発明のCo基合金粉末の粉末表面を模式的に示す図である。図1に示すように、本発明のCo基合金粉末20は、平均粉末粒径が5μm以上150μm以下の粉末21で構成される多結晶体であり、粉末21の表面及び内部には、偏析セル22が形成されている。偏析セル22は、後述するCo基合金粉末を製造する工程(粉末化工程)における冷却速度によって形が変わる。冷却速度が比較的速いと球状の偏析セルとなり、冷却速度が比較的遅いとデンドライト状(樹枝状)の偏析セルとなる。図1では、偏析セルがデンドライト状(樹枝状)である例を示している。Co基合金粉末20を焼結後、この偏析セルに沿って炭化物が析出されると考えられる。
【0043】
偏析セルの平均サイズは、0.15μm以上4μm以下であることが好ましい。図1に示すデンドライト組織22は、凝固方向に沿って伸びた一次枝24と、一次枝24から伸びた二次枝25とを有する。デンドライト組織における偏析セルの平均サイズは、この二次枝25の平均幅(アーム間隔)23(図1中、矢印で示す部分)となる。
【0044】
なお、球状の偏析セルの場合、「偏析セルの平均サイズ」は、直径を指すものとする。 本発明において「偏析セルの平均サイズ」とは、SEM(Scanning Electron Microscope)等の観察画像の所定領域における偏析セルのサイズを平均した値とする。
【0045】
[Co基合金粉末の粒径]
本発明のCo基合金粉末の粒径は、5μm以上85μm以下であることが好ましい。より好ましくは10μm以上85μm以下であり、さらに好ましくは5μm以上25μm以下である。
【0046】
本発明のCo基合金粉末の好ましい組成を、以下の表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
[Co基合金焼結体の製造方法]
図2に示すように、急冷凝固によって生成したCo基合金粉末20を焼結する焼結工程(ステップ3:S3)を行うことで、本発明のCo基合金焼結体を得ることができる。焼結方法に特に限定は無く、例えば熱間静水圧プレス(Hot Isostatic Pressing)を用いることができる。
【0049】
(IA−2粉末を用いた焼結体およびCA−5粉末を用いた焼結体の作製)
表1のIA−2およびCA−5の粒度Sの合金粉末を用いてHIPにより成形体(直径8mm×高さ10mm)を形成した。HIPの焼結条件は、1150℃、150MPa、1時間とした。その後、980℃で4時間の熱処理を行い、IA−2粉末を用いた焼結体よびCA−5粉末を用いた焼結体を作製した。
【0050】
(IA−2粉末を用いた鋳造合金製造物およびCA−5粉末を用いた鋳造合金製造物の作製)
上述したIA−2およびCA−5の粒度Lの合金粉末を用いて精密鋳造法により鋳造体(直径8mm×高さ10mm)を形成し、上記と同様の溶体化熱処理工程と時効熱処理工程とを行って、IA−2粉末を用いた鋳造合金製造物(鋳造体)およびCA−5粉末を用いた鋳造合金製造物(鋳造体)を作製した。
【0051】
(微細組織観察および機械的特性試験)
上記で作製した焼結体および鋳造体から、微細組織観察用および機械的特性試験用の試験片をそれぞれ採取し、微細組織観察および機械的特性試験を行った。
【0052】
微細組織観察はSEMにより行った。また、得られたSEM観察像に対して画像処理ソフトウェア(ImageJ、National Institutes of Health(NIH)開発のパブリックドメインソフトウェア)を用いた画像解析により、偏析セルの平均サイズ、ミクロ偏析の平均間隔、および炭化物相粒子の平均粒子間距離を測定した。
【0053】
機械的特性試験としては、800℃において引張試験を行い、0.2%耐力を測定した。
【0054】
図5は本発明のCo基合金焼結体のSEM観察写真である。図5には3種類の粒径(5〜25μm、10〜85μmおよび70μm以上)のそれぞれのCo基合金粉末について、HIP直後およびHIP後に熱処理(982℃、4時間)を施したものについて、SEM(Scanning Electron Microscope)にて観察を行った写真である。熱処理前後において、焼結体の組織は維持されていることが分かる。また、いずれの粒径の粉末を用いた焼結体も、強化炭化物相粒子が析出した微細組織を有していた。この強化炭化物相粒子は、焼結によってCo基合金粉末の偏析セルに沿って析出したと考えられる。
【0055】
表2に本発明のCo基合金焼結体の0.2%耐力および引張強さを、表3にCo基合金焼結体の平均析出物間隔Lと引張強さを示す。表2には鋳造材の結果も示している。表2に示すように、各粒径ともに鋳造材よりも高い0.2%耐力および引張強さを達成している。また、表3より、平均析出物間隔Lが1〜1.49μmで、特に高い引張強さ(460Mpa以上)を達成していることが分かる。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
図6はCo基合金焼結体および鋳造体における偏析セルの平均サイズと800℃における0.2%耐力との関係を示すグラフである。なお、図6には、比較として鋳造体のデータも示した。鋳造体においては、ミクロ偏析の平均間隔で偏析セルの平均サイズを代用した。図中、「IA−2」および「CA−5」は、表1に記載の組成を有するCo基合金粉末である。
【0059】
図6に示すように、CA−5粉末を用いて作製したCo基合金焼結体は、偏析セルの平均サイズに影響されず、ほとんど一定の0.2%耐力を示した。一方、IA−2粉末を用いて作製したCo基合金焼結体は、偏析セルの平均サイズによって0.2%耐力が大きく変化した。
【0060】
CA−5粉末は、「Ti+Zr+Nb+Ta+Hf+V」の合計含有率が過少である(ほとんど含まれていない)。そのため、CA−5粉末を用いた焼結体では、組織観察の結果、強化炭化物相は析出せずにCr炭化物粒子が析出した微細組織を有していた。この結果から、Cr炭化物粒子は、析出強化粒子としてはそれほど有効でないことが確認される。これに対し、IA−2粉末を用いた焼結体は、強化炭化物相粒子が析出した微細組織を有していた。そのため、偏析セルの平均サイズ(その結果としての炭化物相粒子の平均粒子間距離)によって0.2%耐力が大きく変化したと考えられる。
【0061】
また、本発明が対象とするタービン高温部材に対する要求特性を勘案すると、800℃における0.2%耐力は250MPa以上が必要とされている。そこで、250MPa超の0.2%耐力を「合格」と判定し、250MPa未満を「不合格」と判定すると、偏析セルの平均サイズ(その結果としての炭化物相粒子の平均粒子間距離)が0.15〜4μmの範囲において「合格」となる機械的特性が得られることが確認された。言い換えると、従来の炭化物相析出Co基合金材において十分な機械的特性が得られなかった要因の一つは、強化炭化物相粒子の平均粒子間距離を望ましい範囲に制御できなかったためと考えられる。
【0062】
偏析セルの平均間隔が0.1μm以下では、熱処理によって偏析セル上の炭化物が凝集し、炭化物相粒子の粒子間距離が拡大してしまい、0.2%耐力が低下するものと考えられる。また、4μm以上を超えても、0.2%耐力に対する影響は小さくなる。
【0063】
上記結果から、本発明のCo基合金粉末を構成する偏析セルの平均サイズも、0.15〜4μmが好ましいと考えられる。偏析セルの平均サイズは、0.15〜2μmがより好ましく、0.15〜1.5μmがさらに好ましい。本発明のCo合金粉末を焼結したCo基合金焼結体においても、適切な焼結によってCo合金粉末の偏析セルの平均サイズと同程度の偏析セルの平均サイズを有すると考えられ、0.15〜4μmの間隔で炭化物が析出したCo基合金粉末焼結体を得られるものと考えられる。
【0064】
なお、本発明のCo基合金焼結体の原料は、上述したCo基合金粉末を75質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましい。
【0065】
[Co基合金焼結体を用いた製造物]
図3は、本発明のCo基合金製造物の一例であり、タービン高温部材としてのタービン静翼を示す斜視模式図である。図3に示したように、タービン静翼100は、概略的に、内輪側エンドウォール101と翼部102と外輪側エンドウォール103とから構成される。翼部の内部には、しばしば冷却構造が形成される。なお、例えば、出力30MW級の発電用ガスタービンの場合、タービン静翼の翼部の長さ(両エンドウォールの間の距離)は170mm程度である。
【0066】
図4は、本発明に係るCo基合金製造物を装備するガスタービンの一例を示す断面模式図である。図4に示したように、ガスタービン200は、概略的に、吸気を圧縮する圧縮機部210と燃料の燃焼ガスをタービン翼に吹き付けて回転動力を得るタービン部220とから構成される。本発明のタービン高温部材は、タービン部220内のタービンノズル221やタービン静翼100として好適に用いることができる。なお、本発明のタービン高温部材は、ガスタービン用途に限定されるものではなく、他のタービン用途(例えば、蒸気タービン用途)であってもよい。
【0067】
上述した実施形態や実験例は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、実施形態の構成の一部を当業者の技術常識の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に当業者の技術常識の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態や実験例の構成の一部について、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
【符号の説明】
【0068】
20…Co基合金粉末、21…Co基合金粉末の結晶粒、22…デンドライト組織、100…タービン静翼、101…内輪側エンドウォール、102…翼部、103…外輪側エンドウォール、200…ガスタービン、210…圧縮機部、220…タービン部、221…タービンノズル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6