特許第6939062号(P6939062)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6939062
(24)【登録日】2021年9月6日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】インジェクションブロー成形容器
(51)【国際特許分類】
   B65D 1/00 20060101AFI20210909BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20210909BHJP
   B29C 49/06 20060101ALI20210909BHJP
   B29C 49/22 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
   B65D1/00 110
   C08L77/00
   B29C49/06
   B29C49/22
【請求項の数】15
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-90678(P2017-90678)
(22)【出願日】2017年4月28日
(65)【公開番号】特開2018-188177(P2018-188177A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2020年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮部 高徳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智則
【審査官】 新田 亮二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−169027(JP,A)
【文献】 特開2016−145064(JP,A)
【文献】 特開2016−160382(JP,A)
【文献】 特開2016−078373(JP,A)
【文献】 特開平01−320159(JP,A)
【文献】 特開2004−067238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/00
C08L 77/00
B29C 49/06
B29C 49/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)60〜95質量部と、ポリアミド樹脂(B)5〜40質量部とを含有する層を少なくとも1層有し(ポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)の合計を100質量部とする)、
前記ポリアミド樹脂(A)が、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来する構成単位であり、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4〜12のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位であり、かつ、30モル%以下がイソフタル酸に由来する構成単位であり、
前記ポリアミド樹脂(B)が、キシリレンジアミンに由来する構成単位を含まず、かつ、炭素数5〜12のアルキレン基を有するポリアミド樹脂であることを特徴とする
インジェクションブロー成形容器。
【請求項2】
前記容器が単層容器である、請求項1に記載の容器。
【請求項3】
前記容器が、前記ポリアミド樹脂(A)60〜95質量部と、ポリアミド樹脂(B)5〜40質量部とを含有する層と、更に他の層とを有する二層容器である、請求項1に記載の容器。
【請求項4】
前記炭素数4〜12のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸が、アジピン酸を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の容器。
【請求項5】
前記キシリレンジアミンが、メタキシリレンジアミンを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の容器。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂(B)が、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド666、ポリアミド11、ポリアミド12、及びポリアミド6I6Tよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の容器。
【請求項7】
前記ポリアミド樹脂(A)と前記ポリアミド樹脂(B)との合計を100質量部としたとき、前記ポリアミド樹脂(A)を80〜95質量部含有する、請求項1〜6のいずれかに記載の容器。
【請求項8】
前記ポリアミド樹脂(A)のジカルボン酸由来の構成単位の1モル%以上がイソフタル酸に由来する構成単位である、請求項1〜7のいずれかに記載の容器。
【請求項9】
前記ポリアミド樹脂(A)のジカルボン酸由来の構成単位の3〜10モル%がイソフタル酸に由来する構成単位である、請求項1〜8のいずれかに記載の容器。
【請求項10】
前記ポリアミド樹脂(A)のガラス転移温度をTg(A)(℃)、前記ポリアミド樹脂(B)のガラス転移温度をTg(B)(℃)としたとき、下記式(1)を満たす、請求項1〜9のいずれかに記載の容器。
Tg(A)−Tg(B)≧25 (1)
【請求項11】
前記インジェクションブロー成形容器が、インジェクション工程とブロー工程が同一の装置内で実施され、インジェクション工程時のプリフォームが保有する余熱を利用してブロー成形する方法により得られる、請求項1〜10のいずれかに記載の容器。
【請求項12】
炭化水素類、アルコール類、エステル類、ケトン類、及びエーテル類よりなる群から選択される少なくとも1種の有機化合物を含む液体を収容する、請求項1〜11のいずれかに記載の容器。
【請求項13】
容器胴部の平均厚みが0.4mm以上である、請求項1〜12のいずれかに記載の容器。
【請求項14】
下記式(i)で表される胴部寸法の変化率が2%未満である、請求項1〜13のいずれかに記載の容器。
(A−B)/A×100 ・・・式(i)
(Aはトルエンを収容直後の容器の胴部寸法を表し、Bはトルエンを収容した容器を50℃、90%RHの雰囲気下で60日間保管した後の容器の胴部寸法を表す。)
【請求項15】
前記ポリアミド樹脂(A)のジカルボン酸由来の構成単位の3〜10モル%がイソフタル酸に由来する構成単位である、請求項1〜14のいずれかに記載の容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジェクションブロー成形容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、耐衝撃性、耐摩耗性などの機械的強度に優れ、耐熱性にも優れたエンジニアリングプラスチックスとして、自動車部品、電子・電気機器部品、OA機器部品、建材・住設関連部品などの分野で広く使用されており、近年更に使用分野が広がっている。
特許文献1には、ガスバリア性樹脂として、ポリメタキシリレンアジパミドを使用した多層容器が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−214344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、特許文献1に記載されているように、ポリメタキシリレンアジパミドに代表される、キシリレンジアミンに由来する構成単位と、α,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位とを有するポリアミド樹脂は、ガスバリア層を形成するためのガスバリア性樹脂として使用されてきたが、より優れた成形性、耐衝撃性及び耐溶剤性を有する容器が求められるようになっている。
本発明は、成形性及び耐衝撃性に優れ、更に、耐溶剤性に優れたインジェクションブロー容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、かかる実情に鑑みなされたものであり、本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来する構成単位であり、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4〜12のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位であり、かつ、30モル%以下がイソフタル酸に由来する構成単位であるポリアミド樹脂(A)と、キシリレンジアミンに由来する構成単位を含まず、かつ、炭素数5〜12のアルキレン基を有するポリアミド樹脂(B)とを、特定の範囲で含有する樹脂組成物を用いて、インジェクションブロー成形により得られた容器が成形性及び耐衝撃性に優れ、更に、耐溶剤性にも優れることを見出し、本発明を完成するに到った。
すなわち、本発明は以下の<1>〜<12>に関する。
【0006】
<1> ポリアミド樹脂(A)60〜95質量部と、ポリアミド樹脂(B)5〜40質量部とを含有する層を少なくとも1層有し(ポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)の合計を100質量部とする)、前記ポリアミド樹脂(A)が、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来する構成単位であり、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4〜12のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位であり、かつ、30モル%以下がイソフタル酸に由来する構成単位であり、前記ポリアミド樹脂(B)が、キシリレンジアミンに由来する構成単位を含まず、かつ、炭素数5〜12のアルキレン基を有するポリアミド樹脂であることを特徴とするインジェクションブロー成形容器。
<2> 前記容器が単層容器である、<1>に記載の容器。
<3> 前記容器が、前記ポリアミド樹脂(A)60〜95質量と、ポリアミド樹脂(B)5〜40質量部とを含有する層と、更に他の層とを有する二層容器である、<1>に記載の容器。
<4> 前記炭素数4〜12のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸が、アジピン酸を含む、<1>〜<3>のいずれかに記載の容器。
<5> 前記キシリレンジアミンが、メタキシリレンジアミンを含む、<1>〜<4>のいずれかに記載の容器。
<6> 前記ポリアミド樹脂(B)が、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド666、ポリアミド11、ポリアミド12、及びポリアミド6I6Tよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、<1>〜<5>のいずれかに記載の容器。
<7> 前記ポリアミド樹脂(A)のジカルボン酸由来の構成単位の3〜10モル%がイソフタル酸に由来する構成単位である、<1>〜<6>のいずれかに記載の容器。
<8> 前記ポリアミド樹脂(A)のガラス転移温度をTg(A)(℃)、前記ポリアミド樹脂(B)のガラス転移温度をTg(B)(℃)としたとき、下記式(1)を満たす、<1>〜<7>のいずれかに記載の容器。
Tg(A)−Tg(B)≧25 (1)
<9> 前記インジェクションブロー成形容器が、インジェクション工程とブロー工程が同一の装置内で実施され、インジェクション工程時のプリフォームが保有する余熱を利用してブロー成形する方法により得られる、<1>〜<8>のいずれかに記載の容器。
<10> 炭化水素類、アルコール類、エステル類、ケトン類、及びエーテル類よりなる群から選択される少なくとも1種の有機化合物を含む液体を収容する、<1>〜<9>のいずれかに記載の容器。
<11> 容器胴部の平均厚みが0.4mm以上である、<1>〜<10>のいずれかに記載の容器。
<12> 下記式(i)で表される胴部寸法の変化率が2%未満である、<1>〜<11>のいずれかに記載の容器。
(A−B)/A×100 ・・・式(i)
(Aはトルエンを収容直後の容器の胴部寸法を表し、Bはトルエンを収容した容器を50℃、90%RHの雰囲気下で60日間保管した後の容器の胴部寸法を表す。)
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、成形性及び耐衝撃性に優れ、更に、耐溶剤性に優れたインジェクションブロー容器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下の説明において、数値範囲を表す「A〜B」の記載は、「A以上B以下」(A<Bの場合)、又は、「A以下B以上」(A>Bの場合)を意味する。
[インジェクションブロー成形容器]
本発明のインジェクションブロー成形容器(以下、単に「容器」ともいう。)は、ポリアミド樹脂(A)60〜95質量部と、ポリアミド樹脂(B)5〜40質量部とを含有する層(以下、「層(X)」ともいう。)を少なくとも1層有し(ポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)の合計を100質量部とする)、前記ポリアミド樹脂(A)が、ジアミン由来の構成単位(以下、「ジアミン由来の構成単位」を、単に「ジアミン単位」ともいう。)と、ジカルボン酸由来の構成単位(以下、「ジカルボン酸由来の構成単位」を、単に「ジカルボン酸単位」ともいう。)を含み、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来する構成単位であり、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4〜12のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位であり、かつ、30モル%以下がイソフタル酸に由来する構成単位であり、前記ポリアミド樹脂(B)が、キシリレンジアミンに由来する構成単位を含まず、かつ、炭素数5〜12のアルキレン基を有するポリアミド樹脂であることを特徴とする。
すなわち、本発明の容器は、ポリアミド樹脂(A)60〜95質量部と、ポリアミド樹脂(B)5〜40質量部と(ポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)の合計を100質量部とする)を含有する樹脂組成物(以下、「ポリアミド系樹脂組成物」ともいう。)をインジェクションブロー成形することにより得られた容器である。
本発明者は、ポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)を特定の比率で含有する樹脂組成物を用いて、インジェクションブロー成形容器を作製すると、該容器は成形性及び耐衝撃性に優れ、更に、耐溶剤性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
上記の効果が得られる理由は明確ではないが、一部は以下のように推定される。具体的には、ポリアミド樹脂(A)は、耐溶剤性等に優れたポリアミド樹脂として、従来より知られていたが、ポリアミド樹脂(A)を単独で使用した容器では、十分な耐衝撃性が得られなかった。発明者は、ポリアミド樹脂(A)が有するキシリレンジアミンに由来する構成単位が耐溶剤性には効果を発揮するものの、耐衝撃性を減じる原因となりうるのではないかと考え、キシリレンジアミンに由来する構成単位を含有しないポリアミド樹脂(B)と併用し、ポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)を特定の範囲で含有する層を設けることで、耐衝撃性に優れる容器が得られることを見出した。
また、ダイレクトブロー成形法では、樹脂組成物を円筒状のパリソンとする必要があり、樹脂の温度を高くして押出す必要がある。このため、ダイから円筒状に押出された樹脂組成物は、樹脂が合流する部分にウェルドラインが発生してしまうと考えられる。また、製造上の観点から、円筒状に押出された中空パリソンの両端が開放となっており、パリソンをブロー成形容器として得るためには、一方の端を高圧エアーの封入口とし、他方の端を円筒状のパリソンを融着する部分(以下、「ピンチオフ(食切)部」ともいう。)とする必要がある。ダイレクトブロー成形法から得られる容器では、ピンチオフ部での耐衝撃性の低下が認められるが、上述したインジェクションブロー成形法を採用した場合には、容器にピンチオフ部が発生しないため、得られる容器の耐衝撃性が大幅に改善されたものと推定される。
以下、各成分について詳細に説明する。
【0010】
<ポリアミド樹脂(A)>
本発明の容器は、ポリアミド樹脂(A)及び後述するポリアミド樹脂(B)を含有する層(X)を少なくとも1層有する。
本発明で用いるポリアミド樹脂(A)は、ジアミンに由来する構成単位と、ジカルボン酸に由来する構成単位とを含み、ジアミンに由来する構成単位の70モル%以上(70〜100モル%)がキシリレンジアミンに由来する構成単位であり、ジカルボン酸に由来する構成単位の70モル%以上(70〜100モル%)が炭素数4〜12のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位であり、30モル%以下(0〜30モル%)がイソフタル酸に由来する構成単位である(但し、合計が100モル%を超えることはない。)。
【0011】
ジアミンに由来する構成単位(ジアミン単位)は、キシリレンジアミンに由来する構成単位を70モル%以上含有し、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上含有する。
キシリレンジアミンに由来する構成単位は、メタキシリレンジアミンに由来する構成単位、パラキシリレンジアミンに由来する構成単位、又はオルトキシリレンジアミンに由来する構成単位のいずれでもよく、また、1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、キシリレンジアミンに由来する構成単位は、メタキシリレンジアミンに由来する構成単位及びパラキシリレンジアミンに由来する構成単位の少なくとも1種を含有することが好ましく、メタキシリレンジアミンに由来する構成単位のみを含有するか、又はメタキシリレンジアミンに由来する構成単位とパラキシリレンジアミンに由来する構成単位とを含有することがより好ましい。
キシリレンジアミンに由来する構成単位は、キシリレンジアミンに由来する構成単位を100モル%としたとき、パラキシリレンジアミンに由来する構成単位0〜70モル%及びメタキシリレンジアミンに由来する構成単位30〜100モル%を含有することが好ましく、パラキシリレンジアミンに由来する構成単位0〜50モル%及びメタキシリレンジアミンに由来する構成単位50〜100モル%を含有することがより好ましい。
【0012】
キシリレンジアミン以外に使用できるジアミンとしては、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸に由来する構成単位を含み、ジカルボン酸に由来する構成単位の70モル%以上が炭素数4〜12のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位であり、30モル%以下がイソフタル酸に由来する構成単位である(但し、合計が100モル%を超えることはない。)。
ポリアミド樹脂(A)を構成するジカルボン酸単位は、成形性及び耐溶剤性を向上させる観点から、炭素数4〜12のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸を70モル%以上含有し、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは92モル%以上含有する。上限は特に限定されないが、100モル%以下であり、好ましくは99モル%以下、より好ましくは97モル%以下、更に好ましくは96モル%以下である。
炭素数4〜12のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸としてはスベリン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン酸等が挙げられるが、成形性及び耐溶剤性の観点から、アジピン酸及びセバシン酸が好ましく、アジピン酸がより好ましい。
【0014】
ポリアミド樹脂(A)を構成するジカルボン酸単位は、成形性及び耐衝撃性を向上させる観点から、イソフタル酸に由来する構成単位を30モル%以下(0〜30モル%)含有する。イソフタル酸に由来する構成単位の含有量は、ジカルボン酸単位の好ましくは1〜20モル%、より好ましくは3〜10モル%、更に好ましくは4〜8モル%である。
【0015】
炭素数4〜12のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸及びイソフタル酸以外のジカルボン酸単位としては、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸や1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
なお、炭素数4〜12のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸及びイソフタル酸に由来する構成単位の含有量は、合計して、ジカルボン酸単位全体の80モル%以上であることが好ましく、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは98モル%以上、より更に好ましくは100モル%である。
【0016】
また前述したジアミン単位及びジカルボン酸単位以外にも、ポリアミド樹脂(A)を構成する単位として、本発明の効果を損なわない範囲でε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類、p−アミノメチル安息香酸のような芳香族アミノカルボン酸等を共重合単位として使用できる。
【0017】
ポリアミド樹脂(A)は溶融重縮合法(溶融重合法)により製造される。例えばジアミンとジカルボン酸とからなるナイロン塩を水の存在下に、加圧下で昇温し、加えた水及び縮合水を除きながら溶融状態で重合させる方法がある。また、ジアミンを溶融状態のジカルボン酸に直接加えて、重縮合する方法によっても製造される。この場合、反応系を均一な液状状態に保つために、ジアミンをジカルボン酸に連続的に加え、その間、反応温度が生成するオリゴアミド及びポリアミドの融点よりも下回らないように反応系を昇温しつつ、重縮合が進められる。
【0018】
ポリアミド樹脂(A)の重縮合系内にはアミド化反応を促進する効果や、重縮合時の着色を防止する効果を得るために、リン原子含有化合物を添加してもよい。
リン原子含有化合物としては、ジメチルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸エチル、フェニル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸ナトリウム、フェニル亜ホスホン酸カリウム、フェニル亜ホスホン酸リチウム、フェニル亜ホスホン酸エチル、フェニルホスホン酸、エチルホスホン酸、フェニルホスホン酸ナトリウム、フェニルホスホン酸カリウム、フェニルホスホン酸リチウム、フェニルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸ナトリウム、エチルホスホン酸カリウム、亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸等が挙げられる。これらの中でも特に次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム、次亜リン酸カルシウム等の次亜リン酸金属塩がアミド化反応を促進する効果が高く、かつ着色防止効果にも優れるため好ましく用いられ、特に次亜リン酸ナトリウムが好ましいが、本発明で使用できるリン原子含有化合物はこれらの化合物に限定されない。
ポリアミド樹脂(A)の重縮合系内に添加するリン原子含有化合物の添加量は、重縮合中のポリアミド樹脂(A)の着色を防止する観点から、ポリアミド樹脂(A)中のリン原子濃度換算で好ましくは1〜500ppm、より好ましくは5〜450ppm、更に好ましくは10〜400ppmである。
【0019】
ポリアミド樹脂(A)の重縮合系内には、リン原子含有化合物と併用してアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を添加することが好ましい。重縮合中のポリアミド樹脂(A)の着色を防止するためにはリン原子含有化合物を十分な量存在させる必要があるが、アミド化反応速度を調整するためにもアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を共存させることが好ましい。
例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ金属/アルカリ土類金属の水酸化物や、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ルビジウム、酢酸セシウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム等のアルカリ金属/アルカリ土類金属の酢酸塩等が挙げられるが、これらの化合物に限定されることなく用いることができる。これらの中でも、アルカリ金属の水酸化物又はアルカリ金属の酢酸塩が好ましい。
ポリアミド樹脂(A)の重縮合系内にアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を添加する場合、該化合物のモル数をリン原子含有化合物のモル数で除した値が、好ましくは0.5〜2.0、より好ましくは0.6〜1.8、更に好ましくは0.7〜1.5である。アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の添加量を上述の範囲とすることでリン原子含有化合物によるアミド化反応促進効果を得つつゲルの生成を抑制することが可能となる。
【0020】
溶融重縮合で得られたポリアミド樹脂(A)は一旦取り出され、ペレット化された後、乾燥して使用される。また更に重合度を高めるために固相重合してもよい。乾燥乃至固相重合で用いられる加熱装置としては、連続式の加熱乾燥装置やタンブルドライヤー、コニカルドライヤー、ロータリードライヤー等と称される回転ドラム式の加熱装置及びナウタミキサーと称される内部に回転翼を備えた円錐型の加熱装置が好適に使用できるが、これらに限定されることなく公知の方法、装置を使用することができる。特にポリアミドの固相重合を行う場合は、上述の装置の中で回転ドラム式の加熱装置が、系内を密閉化でき、かつ着色の原因となる酸素を除去した状態で重縮合を進めやすいことから好ましく用いられる。
【0021】
本発明で用いるポリアミド樹脂(A)の重合度については、相対粘度が一般的に使われる。ポリアミド樹脂(A)の相対粘度(96質量%濃硫酸を溶媒とし、温度25℃、濃度0.2g/20mLの条件で測定した際の相対粘度)は、成形性の観点から、好ましく1.5〜4.2であり、より好ましくは1.7〜4.0、更に好ましくは2.0〜3.8である。
なお、相対粘度は、キャノンフェンスケ型粘度計にて25℃で測定した落下時間(t)と、同様に測定した96質量%硫酸そのものの落下時間(t)の比であり、次式で示される。
相対粘度=t/t
【0022】
ポリアミド樹脂(A)の融点は、180〜280℃であることが好ましく、200〜260℃であることがより好ましく、220〜240℃であることが更に好ましい。ポリアミド樹脂(A)の融点が上記範囲内であると、ポリアミド樹脂(B)との相溶性に優れ、その結果、耐衝撃性や耐溶剤性が良好となるので好ましい。
【0023】
<ポリアミド樹脂(B)>
本発明の容器は、前述したポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)を含有する層(X)を少なくとも一層有し、ポリアミド樹脂(B)は、キシリレンジアミンに由来する構成単位を含まず、かつ、炭素数5〜12のアルキレン基を有するポリアミド樹脂である。ポリアミド樹脂(B)を含有することにより、耐衝撃性が向上する。
ポリアミド樹脂(B)としては、脂肪族ポリアミド及び半芳香族ポリアミドが例示される。
メタキシリレンジアミンに由来する構成単位を含まず、かつ、炭素数5〜12のアルキレン基を有する脂肪族ポリアミドとしては、ポリアミド6(別名:ナイロン6)、ポリアミド66(別名:ナイロン66)、ポリアミド666(ポリアミド6とポリアミド66との共重合体、別名:ナイロン666)、ポリアミド10(別名:ナイロン10)ポリアミド11(別名:ナイロン11)、ポリアミド12(別名:ナイロン12)、ポリアミド46(別名:ナイロン46)、ポリアミド610(別名:ナイロン610)、ポリアミド612(別名:ナイロン612)が例示される。ポリアミド樹脂(B)として、上記脂肪族ポリアミドを使用すると、後述するポリアミド樹脂(A)とのガラス転移温度の差が得やすく、また、柔軟性の付与により、耐落下衝撃性に優れる容器が得られるので好ましい。
また、メタキシリレンジアミンに由来する構成単位を含まず、かつ、炭素数5〜12のアルキレン基を有する半芳香族ポリアミドとしては、ポリアミド6T(別名:ナイロン6T、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド6I(別名:ナイロン6I、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリアミド6I6T(別名:ナイロン6I6T、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド)等が例示される。ポリアミド樹脂(B)として、上記半芳香族ポリアミドを使用すると、柔軟性の付与により、耐落下衝撃性の向上した容器が得られ、また、結晶化遅延により、容器成形性が改善するので好ましい。
【0024】
これらの中でもポリアミド樹脂(B)としては、耐衝撃性向上の観点から、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド666、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6I6Tが好ましく、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド666、ポリアミド12がより好ましく、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド666が更に好ましく、ポリアミド6、ポリアミド666がより更に好ましく、ポリアミド666が特に好ましい。
【0025】
ポリアミド樹脂(A)のガラス転移温度をTg(A)(℃)、ポリアミド樹脂(B)のガラス転移温度をTg(B)(℃)としたとき、下記式(1)を満たすことが好ましい。
Tg(A)−Tg(B)≧25 (1)
Tg(A)とTg(B)との差が25℃以上であると、より成形性に優れるので好ましい。
Tg(A)−Tg(B)は、より好ましくは27℃以上、更に好ましくは30℃以上、より更に好ましくは35℃以上である。また、その上限は特に限定されないが、入手容易性等の観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは70℃以下である。
本発明において、Tg(A)−Tg(B)が25℃以上であると、成形時及び成形後にポリアミド樹脂(A)に発生する応力をポリアミド樹脂(B)が緩和することによって、耐落下衝撃性が向上するので好ましい。
ここで、ポリアミド樹脂(A)のガラス転移温度Tg(A)は、容器の成形性や寸法安定性の観点から、好ましくは70〜150℃、より好ましくは75〜130℃、更に好ましくは80〜110℃である。
また、ポリアミド樹脂(B)のガラス転移温度Tg(B)は、容器の耐衝撃性の観点から、好ましくは20〜120℃、より好ましくは25〜80℃、更に好ましくは30〜60℃、より更に好ましくは40〜55℃である。
【0026】
<配合比率>
本発明で使用されるポリアミド系樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との合計を100質量部としたとき、ポリアミド樹脂(A)を60〜95質量部、及びポリアミド樹脂(B)を5〜40質量部を含有する。
ポリアミド樹脂(A)の含有量は、好ましくは70質量部以上、より好ましくは80質量部以上、更に好ましくは85質量部以上であり、そして、好ましくは92質量部以下である。
また、ポリアミド樹脂(B)の含有量は、好ましくは8質量部以上であり、そして、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは15質量部以下である。
ポリアミド樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との合計に対する、ポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)の含有量を上記範囲内とすることにより、成形性及び耐衝撃性に優れ、更に、耐溶剤性にも優れる容器が得られる。
【0027】
本発明で使用されるポリアミド系樹脂組成物は、上記ポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)に加えて、その他の樹脂成分を含有していてもよいが、その他の樹脂成分の含有量は、樹脂成分全体の好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは含有しないことである。
その他の樹脂成分としては、ポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)以外のポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)等の変性又は未変性エラストマー等が挙げられる。また、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含有してもよい。
【0028】
<添加剤>
本発明において、ポリアミド系樹脂組成物の成形性、容器に要求される性能に応じて、ポリアミド系樹脂組成物中に滑剤、結晶化核剤、艶消剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、離型剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、酸化防止剤、エラストマー、無機顔料、有機顔料、分散剤、無機顔料マスターバッチ、有機顔料マスターバッチ、リサイクル助剤、末端官能基反応剤、増粘剤等の添加剤を添加することができる。これらの添加剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて添加することができる。
【0029】
<ポリアミド系樹脂組成物の調製方法>
本発明において、ポリアミド系樹脂組成物の調製方法は特に限定されないが、例えば、ポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)を押出機内で溶融混練して所望のポリアミド系樹脂組成物を得ることができる。この際、ポリアミド系樹脂組成物の各成分を同時に混合溶融混練してもよいし、含有割合の少ない成分の混練分散性を高めるために、予めマスターバッチを調製したうえで改めて溶融混練し、ポリアミド系樹脂組成物を製造してもよい。
具体的には、予め、ポリアミド樹脂(A)と、ポリアミド樹脂(B)と、必要に応じ
て末端官能基反応剤、リサイクル助剤、着色剤等のその他の成分とを溶融混練してマスターバッチを調製し、前記マスターバッチと、ポリアミド樹脂(A)とを溶融混練してもよい。また、ポリアミド樹脂(A)とその他の成分とを溶融混練してマスターバッチを調製し、前記マスターバッチと、ポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)とを溶融混練してもよく、特に限定されない。
【0030】
マスターバッチとポリアミド樹脂(A)とを、予めドライブレンド方式で混合した後に、溶融混練してもよい。また、マスターバッチとポリアミド樹脂(A)とをドライブレンドし、得られたドライブレンド品をそのまま射出成形機等の成形機に投入してもよい。
更に、マスターバッチとポリアミド樹脂(A)とをフィーダーにて計量後、そのまま射出成形機等の成形機で成形してもよい。
また、マスターバッチとポリアミド樹脂(A)とをドライブレンドした後に、溶融混練してポリアミド系樹脂組成物のペレットを得た後、成形してもよい。
溶融混練時のシリンダーの設定温度は、210〜280℃であることが好ましく、220〜270℃であることがより好ましく、230〜260℃であることが更に好ましい。
溶融混練の時間は特に限定されないが、1秒〜5分であることが好ましく、3秒〜4分であることがより好ましく、5秒〜3分であることが更に好ましい。
溶融混練に使用される装置は特に限定されないが、開放型のミキシングロール、非開放型のバンバリーミキサー、ニーダー、連続混練機(単軸混練機、二軸混練機、多軸混練機等)などが挙げられる。
【0031】
<インジェクションブロー成形容器>
本発明の容器は、前記ポリアミド系樹脂組成物を用いてインジェクションブロー成形することによって得られる。本発明の容器は、中空容器であることが好ましい。また、本発明の容器は、上記ポリアミド系樹脂組成物を用いて得られた層(X)を少なくとも一層有するが、上記層(X)と、更に他の層とを有する二層容器、又は上記層(X)のみからなる単層容器であることが好ましく、層(X)のみならなる単層容器であることがより好ましく、単層の中空容器であることが更に好ましい。
なお、本発明の容器が二層容器である場合、他の層としては特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン樹脂からなる層が挙げられる。
【0032】
本発明の容器の容量は、2mL〜3Lであることが好ましく、5mL〜1Lであることがより好ましく、8mL〜500mLであることが更に好ましく、10mL〜100mLであることが特に好ましい。
本発明の容器の胴部の平均厚みは、0.1mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましく、0.4mm以上であることが更に好ましく、0.5mm以上であることがより更に好ましく、0.8mm以上であることが特に好ましい。また、3mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましく、1.5mm以下であることが更に好ましい。容器の胴部の平均厚みが上記範囲内であると、耐衝撃性及び耐溶媒性に優れ、かつ、軽量な容器が得られるので好ましい。
【0033】
本発明の容器の形状は特に限定されないが、中空容器であることが好ましく、ボトル状、カップ状、トレイ状、タンク状等の種々の形状を採用することができる。これらの中でも、ボトル状又はタンク状であることが好ましく、ボトル状であることがより好ましい。従来はダイレクトブロー法にて作製されていた容器、特に、ボトル状の容器に比して、本発明によれば、耐衝撃性、耐溶媒性に優れた容器が提供されるので、本発明の容器はボトル状の容器として特に好適である。
【0034】
収容する物品としては特に限定されないが、例えば、ガソリン、灯油、軽油等の燃料、エンジンオイル、ブレーキオイル等の潤滑油、漂白剤、洗剤等の各種トイレタリー用品、シャンプー、リンス、化粧水等の各種化粧品、エタノール、オキシドール等の化学物質、農薬、パーマ液、香料、入浴剤等の各種有機薬品、野菜ジュースや乳飲料等の各種飲料、調味料、食用油等の様々な物品が挙げられる。
これらの中でも、本発明の容器は、有機化合物を含む液体を収容することが好ましく、炭化水素類、アルコール類、エステル類、ケトン類、及びエーテル類よりなる群から選択される少なくとも1種の有機化合物を含む液体を収容することがより好ましく、炭化水素類、アルコール類、エステル類、ケトン類、及びエーテル類よりなる群から選択される有機溶剤を収容することが更に好ましい。
【0035】
炭化水素類としては、ヘキサン、ペンタン、2−エチルヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、IPソルベント1016(出光興産(株)製)、IPソルベント1620(出光興産(株)製)等の飽和炭化水素溶媒;ヘキセン、ヘプテン、シクロヘキセン等の不飽和炭化水素溶媒;トルエン、キシレン、エチルベンゼン、デカリン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、イプゾール100(出光興産(株)製)、イプゾール150(出光興産(株)製)等の芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒が例示される。
アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等が例示される。
エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル等が例示される。
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン、メチル−n−ブチルケトン等が例示される。
エーテル類としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アニソール、フェネトール等が例示される。
【0036】
これらの中でも、本発明の容器は、ヘキサン、ヘプタン、キシレン、トルエン、エチルベンゼン、酢酸ブチル、酢酸エチル、イソプロピルアルコール、ブチルアルコールよりなる群から選択される少なくとも1つの有機化合物を含有する液体を収容することが好ましく、キシレン、トルエン、及び酢酸ブチルよりなる群から選択される少なくとも1つの有機化合物を含有する液体を収容することがより好ましい。
本発明の容器は、収容する有機化合物による容器の変形が抑制され、高い保存性を有する容器として、有効に利用することができる。
【0037】
本発明の容器は、下記式(i)で表される胴部寸法の変化率が2%未満であることが好ましい。
(A−B)/A×100 ・・・式(i)
(Aはトルエンを収容直後の容器の胴部寸法を表し、Bはトルエンを収容した容器を50℃、90%RHの雰囲気下で60日間保管した後の容器の胴部寸法を表す。)
なお、胴部寸法は、以下の4方向の外寸法を測定した。具体的には、容器のブロー金型のパーティングライン上の2点を結んだ線を基準線(方向1)としたとき、容器の胴部の中心を通り、基準線から45度ずつ右回りに回転させることで3本の線(方向2、3、4)を描くことができる。これらの4本の線と容器の各交点の距離を測定することで、各方向における外寸法を測定した。得られた外寸法のうち、値が最も小さいものを便宜的に当該容器の胴部寸法として用いた。
胴部寸法の変化率は、2%未満が好ましく、1.4%以下がより好ましく、1.0%以下が更に好ましい。
胴部寸法の変化率が上記範囲内であると、耐溶剤性に優れ、容器の変形が抑制される。
【0038】
<インジェクションブロー成形>
本発明のインジェクションブロー成形容器はインジェクションブロー成形により製造される。インジェクションブロー成形では、まず射出成形により試験管状のプリフォーム(パリソン)を成形し、次いでインジェクション時のプリフォームの余熱を利用し、例えばボトル状にブローされる。プリフォームの温度安定化のために、必要に応じて、再加熱ヒーターポッドや温調ポッド等の温調ゾーンを設けてもよい。具体的には、プリフォームをある程度加熱された状態を保ったまま最終形状金型(ブロー金型)に嵌め、口部から空気を吹込み、プリフォームを膨らませて金型に密着させ、冷却固化させることで、例えばボトル状に成形することができる。容器の形状や要求物性に応じて、ストレッチロッドを併用してもよい。
【0039】
パリソンの成形には、通常の射出成形法を適用することができる。
本発明では、例えば、射出機を備えた成形機及び射出用金型を用いて、ポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)を含有するポリアミド系樹脂組成物を射出シリンダーから金型ホットランナーを通して、キャビティー内に射出して、射出用金型の形状に対応したパリソンを製造することができる。
上述した最終形状金型を加熱して、ブロー時に、成形体の器壁の外側を金型内面に所定時間接触させる。
【0040】
本発明のインジェクションブロー成形容器は、ホットパリソン成形法により得ることが好ましい。ここで、ホットパリソン成形法は、インジェクション工程とブロー工程が同一の装置内で実施され、インジェクション工程時のプリフォームが保有する余熱を利用してブロー成形する方法である。一方、コールドパリソン成形法は、成形されたプリフォームを室温まで冷却し、室温から再加熱して、同一のブロー前温度にするものである。
【0041】
他のブロー成形体の製造方法としては、前記プリフォームを、一次ストレッチブロー金型を用いて最終ブロー成形体よりも大きい寸法の一次ブロー成形体とし、次いでこの一次ブロー成形体を加熱収縮させた後、二次金型を用いてストレッチブロー成形を行って最終ブロー成形体とする二段ブロー成形を採用してもよい。このブロー成形体の製造方法によれば、ブロー成形体の底部が十分に延伸薄肉化され、熱間充填、加熱滅菌時の底部の変形、耐衝撃性に優れたブロー成形体を得ることができる。
【0042】
本発明の容器には、無機物又は無機酸化物の蒸着膜や、アモルファスカーボン膜をコーティングしてもよい。
無機物又は無機酸化物としては、アルミニウムやアルミナ、酸化珪素等が挙げられる。無機物又は無機酸化物の蒸着膜は、本発明の容器から、アセトアルデヒドやホルムアルデヒド等の有機化合物の溶出や透過を遮蔽できる。蒸着膜の形成方法は特に限定されず、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法や、PECVD等の化学蒸着法等が挙げられる。蒸着膜の厚みは、ガスバリア性、遮光性及び耐屈曲性等の観点から、好ましくは5〜500nm、より好ましくは5〜200nmである。
アモルファスカーボン膜はダイヤモンド状炭素膜で、iカーボン膜又は水素化アモルファスカーボン膜とも呼ばれる硬質炭素膜である。膜の形成法としては、排気により中空成形体の内部を真空にし、そこへ炭素源ガスを供給し、プラズマ発生用エネルギーを供給することにより、その炭素源ガスをプラズマ化させる方法が例示され、これにより、容器内面にアモルファスカーボン膜を形成させることができる。アモルファスカーボン膜は酸素や二酸化炭素のような低分子無機ガスの透過度を著しく減少させることができるだけでなく、臭いを有する各種の低分子有機化合物の収着を抑制することができる。アモルファスカーボン膜の厚みは、低分子有機化合物の収着抑制効果、ガスバリア性の向上効果、プラスチックとの密着性、耐久性及び透明性等の観点から、50〜5,000nmが好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお本発明における評価のための測定は以下の方法によった。
(1)ポリアミド樹脂の相対粘度
ポリアミド樹脂0.2gを精秤し、96質量%硫酸20mlに20〜30℃で撹拌溶解した。完全に溶解した後、速やかにキャノンフェンスケ型粘度計に溶液5mlを取り、25℃の恒温漕中で10分間放置後、落下時間(t)を測定した。また、96質量%硫酸そのものの落下時間(t)も同様に測定した。そして、これらのt及びtから下記式により相対粘度を算出した。
相対粘度=t/t
【0044】
(2)ガラス転移温度及び融点測定
示差走査熱量計((株)島津製作所製、商品名:DSC−60)を用い、昇温速度10℃/分で窒素気流下にDSC測定(示差走査熱量測定)を行い、ガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm)を求めた。
【0045】
(3)容器のブロー成形性の評価
容器のブロー成形性は、以下の評価基準にて評価した。
A:ブロー成形性が良好である(容器形状になり、表面外観にも優れる)
B:ブロー成形性を有する(容器形状になるが、表面外観が不良である)
C:ブロー成形性が劣る(一部、容器形状にならない部分や、容器形状とならないサンプルがある)
D:ブロー成形性が著しく劣る(容器形状にならない)
なお、上記のC及びDの評価の場合には、後述する(4)胴部寸法変化率の評価、及び(5)容器の耐落下衝撃性の評価は行わなかった。
【0046】
(4)胴部寸法変化率の評価
実施例及び比較例で作製した容器に、容器容量の80%(30ml容器は24ml)までトルエンを入れた後、口栓開口部にポリプロピレン樹脂製のキャップをつけて保管用液体収容容器とした。
トルエンを収容直後の前記保管用液体収容容器の胴部寸法を測定した。
次いで、前記保管用液体収容容器を50℃、90%RHの恒温恒湿室に60日間保管し、恒温恒湿室から取り出した保管用液体収容容器を室温まで冷却し、保管後の保管用液体収容容器の胴部寸法を測定した。
なお、胴部寸法は、容器底面から高さ35mmの位置の外寸法を、デジタルノギス(ミツトヨ(株)製、商品名:ABSデジマチックキャリパCD−AX/APX)を用いて測定した。より具体的には、容器のブロー金型のパーティングライン上の2点を結んだ線を基準線(方向1)としたとき、容器の胴部の中心を通り、基準線から45度ずつ右回りに回転させることで3本の線(方向2、3、4)を描き、これらの4本の線と容器の各交点の距離を測定し、各方向における外寸法を測定した。得られた外寸法のうち、値が最も小さいものを当該容器の胴部寸法として用いた。
胴部寸法の変化率は、下記式(i)で表される。
胴部寸法の変化率=(A−B)/A×100 式(i)
式(i)中、Aはトルエン収容直後の容器の胴部寸法を表し、Bは保管後の容器の胴部寸法を表す。
評価基準は、以下の通りである。
A:胴部寸法の変化率が1%以下
B:胴部寸法の変化率が1%を超え1.4%以下
C:胴部寸法の変化率が1.4%を超え2%未満
D:胴部寸法の変化率が2%以上
【0047】
(5)容器の耐落下衝撃性の評価
実施例及び比較例で作製した容器に、容量の80%の水道水を充填してポリプロピレン樹脂製のキャップを閉め、5℃の冷蔵庫にて2時間冷却した。次に、80cmの高さからコンクリート床に向かって、容器の底面、側面の二方向から自由落下させた。
容器にクラックが確認されるまで落下を繰り返した。なお、落下回数は、各方向5回の合計10回を限度として実施した。
評価基準は以下の通りである。
A:クラックが確認されるまでの落下回数が7回以上
B:クラックが確認されるまでの落下回数が3回以上、6回以下
C:クラックが確認されるまでの落下回数が2回以下
【0048】
[使用した樹脂]
<ポリアミド樹脂(A)>
・A−1
ポリ(メタキシリレンアジパミド)、三菱ガス化学(株)製、商品名:MXナイロン S6121、相対粘度=3.5、ガラス転移温度=85℃、融点=237℃
・A−2
イソフタル酸共重合ポリ(メタキシリレンアジパミド):下記の方法により調製した。
撹拌機、分縮器、冷却器、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えたジャケット付きの3L反応缶にアジピン酸(AA)4.70molとイソフタル酸(IPA)0.30molとを秤量して仕込み、十分窒素置換し、更に少量の窒素気流下に160℃で撹拌混合しながら溶融させスラリー状とした。これに、メタキシリレンジアミン(MXDA)4.97molを撹拌下に160分を要して滴下した。この間、内温は連続的に250℃まで上昇させた。メタキシリレンジアミンの滴下と共に留出する水は、分縮器及び冷却器を通して系外に除いた。メタキシリレンジアミン滴下終了後、内温を260℃まで昇温し、1時間反応を継続した。得られたポリマーを反応缶下部のノズルからストランドとして取り出し、水冷した後ペレット形状に切断し、アジピン酸とイソフタル酸のモル比が94:6となるポリアミド樹脂ペレットを得た。
次に、このペレットをステンレス製の回転ドラム式の加熱装置に仕込み、5rpmで回転させた。十分窒素置換し、更に少量の窒素気流下にて反応系内を室温から140℃まで昇温した。反応系内温度が140℃に達した時点で1torr(133.322Pa)以下まで減圧を行い、更に系内温度を130分間で190℃まで昇温した。系内温度が190℃に達した時点から、同温度にて30分間、固相重合反応を継続した。
反応終了後、減圧を終了し窒素気流下にて系内温度を下げ、60℃に達した時点でペレットを取り出し、ポリアミド樹脂(A−2)を得た。ポリアミド樹脂(A−2)の相対粘度は2.68であった。また、ガラス転移温度は92℃、融点は229℃であった。
【0049】
<ポリアミド樹脂(B)>
・B−1
ポリアミド666、DSM社製、商品名:Novamid 2030FC、ガラス転移温度=50℃、融点=199℃
・B−2
ポリアミド12、宇部興産(株)製、製品名:UBESTA 3030U、ガラス転移温度=50℃、融点=178℃
・B−3
ポリアミド6、宇部興産(株)製、商品名:UBEナイロン 1022B、ガラス転移温度=48℃、融点=225℃
【0050】
実施例1〜24、比較例1〜17
(容器の製造)
表1及び表2に示す配合比率で、ポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)を計量後、ドライブレンドし、ブレンドした材料をインジェクションブロー成形機のホッパーに投入し、樹脂射出シリンダーから必要量の溶融樹脂を射出して、射出金型内を満たすことにより、単層プリフォーム(10g)を得た。得られたプリフォームを所定の温度まで温調後、二次加工として、ブロー金型へ移行しブロー成形を行うことで単層容器(全長95mm、外径22mmφ、胴部平均厚み1.0mm)を製造した。射出シリンダーと射出金型を有するプリフォーム射出成形ゾーンと、温調ユニットとブロー金型を有するブロー成形ゾーンからなる射出ブロー一体型成形機を使用した。
(容器の成形条件)
射出シリンダー温度 :260℃
射出金型内樹脂流路温度 :265℃
射出成形後パリソン表面温度:130℃
ブロー前パリソン温度 :125℃
ブロー金型冷却水温度 : 35℃
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
表1及び表2によれば、本発明の要件を満たす実施例1〜24では、ブロー成形性に優れ、容器の耐落下衝撃性に優れると共に、トルエンを収容しても胴部寸法変化率が少なく、耐溶剤性に優れていた容器が得られた。
一方、比較例1〜17の中空容器は、ポリアミド樹脂(B)の含有量が多い比較例では、成形性が十分ではなく、容器を安定して得ることができなかった。一方、ポリアミド樹脂(B)の含有量が少ない比較例では、容器の耐落下衝撃性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明で得られる容器は、成形性及び耐衝撃性に優れており、更に、耐溶剤性に優れ、各種有機化合物、及びこれを含有する組成物を収容する容器として利用できる。