(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態に係る湿式駐車ブレーキ装置および湿式駐車ブレーキの組立方法について図面を参照して説明する。本実施形態に係る湿式駐車ブレーキ装置は、産業車両としてのフォークリフトが備える湿式駐車ブレーキ装置に適用した例である。なお、方向を特定する「前後」、「左右」および「上下」については、フォークリフトのオペレータが運転席の運転シートに着座して、フォークリフトの前進側を向いた状態を基準として示す。
【0014】
図1に示すように、湿式駐車ブレーキ装置10は、フロントアクスル11の軸ケース12内に備えられている。軸ケース12内には、回転軸13が収容されている。軸ケース12内にて挿通される回転軸13の軸心Pは車両の幅方向と一致する。回転軸13は、差動機構(図示せず)を介して駆動源(図示せず)からの回転力を駆動輪(図示せず)に伝達するインプットシャフトである。軸ケース12の車輪側には、開口部12Aが形成されており、軸ケース12の端面には、車輪側ケース14が接合されている。軸ケース12および車輪側ケース14により密封されたフロントアクスル11の内部には潤滑油が充填されている。本実施形態における開口部12Aの直径R1は、167.0mmである。
【0015】
図1に示すように、回転軸13の一方の端部には筒状に形成された筒状部15が備えられている。回転軸13の他方の端部は、差動機構と連結されている。軸ケース12内における回転軸13の外周面には、有孔円盤状の多数のブレーキディスク16がスプライン嵌合により配設されている。これらのブレーキディスク16は、回転軸13の軸方向と直角な摩擦面を有する。ブレーキディスク16は、スプライン嵌合されているので、回転軸13の軸方向へ移動可能であって、回転軸13に対する相対回転が規制されるように回転軸13に係止されている。したがって、ブレーキディスク16は、回転軸13が回転すると回転軸13と一体となって回転する。
【0016】
軸ケース12の内壁面には、有孔円盤状の多数のステータ17が配設されている。これらのステータ17は、軸ケース12において回転軸13の軸方向に連設されており、回転軸13の軸方向と直角な摩擦面を有する。ステータ17の外周縁には係止爪(図示せず)が形成されている。係止爪は、ステータ17の軸ケース12に対する回転軸13の回転方向への回転を規制する。軸ケース12の内壁には、ステータ17の係止爪に対応する係止用溝(図示せず)が回転軸13の軸方向に沿って形成されている。したがって、ステータ17は回転軸13の軸方向へ移動可能である。
【0017】
ブレーキディスク16とステータ17は、回転軸13の軸方向において交互に配置されている。したがって、ブレーキディスク16はステータ17の間に介在されている。ブレーキディスク16の摩擦面はステータ17の摩擦面と対向する。車輪に最も近いステータ17は、軸ケース12の内壁面に備えられた有孔円盤状のピストンプレート18と対向する。
【0018】
ピストンプレート18は、ピストン部材に相当し、回転軸13が挿通される通孔19を有している。ピストンプレート18は、軸ケース12に対して回転軸13の軸方向に移動可能であるが、次に説明する押圧機構20の押圧を受けるプレートである。
図2に示すように、ピストンプレート18の外周縁には、ステータ17と同様に複数の係止爪21が備えられている。複数の係止爪21が軸ケース12に設けられた対応する係止用溝にそれぞれ挿入されることにより、軸ケース12に対する回転軸13の回転方向へのピストンプレート18の回転は規制される。因みに回転軸13の軸方向から見たピストンプレート18の外周縁の輪郭は、ステータ17の外周縁の輪郭と同じである。ピストンプレート18には、ピストンプレート18を後方へ付勢する付勢部材(図示せず)が設けられている。
【0019】
ピストンプレート18のブレーキディスク16と対向するプレート面22の反対側のプレート面23には、通孔19を挟むように上下一対の被押圧部24が備えられている。被押圧部24は押圧機構20により押圧される部位である。本実施形態の被押圧部24は、プレート面23から隆起する隆起部24Aにより形成されている。隆起部24Aには断面円弧状の凹曲面24Bが形成されている。上下の凹曲面24Bの互いに同軸であり、上下の凹曲面24Bの径方向の中心は一致する。
【0020】
押圧機構20は、パーキングレバー(図示せず)の操作によりピストンプレート18を押圧し、ピストンプレート18の押圧により、ブレーキディスク16とステータ17とを当接させて回転軸13に対する制動力を得るための機構である。押圧機構20は、軸ケース12に回動可能に支持されるパーキングロッド25を備えている。パーキングロッド25は、ロッド本体部26と、ロッド本体部26の上部に備えられる上軸部27と、ロッド本体部26の下部に備えられる下軸部28とを備えている。上軸部27および下軸部28は回動軸部に相当する。本実施形態のパーキングロッド25は鍛造によって製作されている。
【0021】
図3はピストンプレート18側からみたパーキングロッド25の斜視図である。
図3に示すように、上軸部27の直径R2は20.0mmであり、下軸部28の直径R3は、23.8mmである。パーキングロッド25の長さLは、軸ケース12の開口部12Aの直径R1の約1.28倍である(R1<L)。本実施形態では長さLは213.5mmである。ロッド本体部26は、鉛直方向の長手方向および水平方向の短手方向を有する形状を呈している。ロッド本体部26の形状は、制動時および非制動時に回転軸13に干渉しない形状である。ロッド本体部26の中心には、回転軸13が挿通可能な挿通孔30が備えられている。ロッド本体部26におけるピストンプレート18と対向する対向面31には、押圧部32が挿通孔30を挟むように上下一対設けられている。押圧部32は制動力を得るときに被押圧部24を押圧する部位である。したがって、上下の押圧部32は、上下の被押圧部24とそれぞれ当接可能な位置に形成されている。
【0022】
本実施形態の押圧部32は、対向面31から突出する突出部32Aにより形成されている。突出部32Aには断面円弧状の凸曲面32Bが形成されている。上下の凸曲面32Bは同軸であり、上下の凸曲面32Bの軸線の径方向の中心は一致する。
図4に示すように、水平方向における凹曲面24Bの中心を通る軸方向の直線Sとすると、凹曲面24Bに当接する状態の凸曲面32Bは、回転軸13の軸心Pに対して軸心Pと直線R間の距離dだけオフセットしている。
【0023】
ロッド本体部26の上部に備えられる上軸部27と、ロッド本体部26の下部に備えられ下軸部28とは同軸である。軸ケース12の上部には、上軸部27が挿入可能な上部軸孔35が形成されている。上部軸孔35は軸ケース12の外側と内側を連通する貫通孔である。
図1に示す上部軸孔35の直径R4は、23.0mmである。上軸部27は、メタルブシュ36を介して軸ケース12に回動可能に挿入されている。上部軸孔35を軸ケース12の外側から塞ぐプラグ37が装着されている。
【0024】
軸ケース12の下部には上部軸孔35と同軸となるように下部軸孔38が形成されている。下部軸孔38は軸ケース12の外側と内側を連通する貫通孔である。
図1に示す下部軸孔38の直径R5は、34.0mmである。したがって、下部軸孔38の直径R5は下軸部28の直径R3の約1.43倍である(R3<R5)。下軸部28はスプライン歯29が形成されており、下部軸孔38に挿入された後、スプライン嵌合される連結軸39を備える。したがって、下部軸孔38は、連結軸39の外径に対応する直径に設定されている。下部軸孔38にはニードル軸受40およびシール部材41が備えられている。連結軸39はニードル軸受40を介して軸ケース12に回動可能に挿入されている。シール部材41は潤滑油の漏洩および異物の混入を防止する。パーキングロッド25は、上軸部27および下軸部28の軸心Qを中心に軸ケース12に対して回動可能である。つまり、軸心Qは、パーキングロッド25の回動軸心に相当する。
【0025】
図1に示すように、軸ケース12の下部には、支持板42が取り付けられている。支持板42は、軸ケース12から張り出しており、支持板42の板面は水平である。パーキングロッド25に連結されている連結軸39は、下方へ向けて支持板42を貫通しており、連結軸39の下端には、連結軸39の径方向に延在するアーム部材43が固定されている。
図4、
図5に示すように、アーム部材43の先端部は、クレビス46を介してワイヤー44の一端と接続されている。ワイヤー44の他端は、運転席に設けられるパーキングレバー(又はパーキングペダル)と連結されている。このため、アーム部材43は、パーキングレバーの操作によってパーキングロッド25の上軸部27および下軸部28の軸心Qを中心に回動する。本実施形態ではアーム部材43の回動は約10度である。また、支持板42とアーム部材43とを連結する付勢部材としてのコイルスプリング45が備えられている。コイルスプリング45は、引っ張りばねであり、制動が解除されるときアーム部材43を原位置へ復帰する方向へ付勢する。なお、説明の便宜上、
図5、
図6では、軸ケース12の図示を省略している。
【0026】
次に、パーキングロッド25の軸ケース12への挿入条件について
図6に基づいて説明する。
図6は、説明の便宜上、軸ケース12およびパーキングロッド25を簡略化して示す。軸ケース12における開口部12Aの直径はR1であり、上部軸孔35の直径はR4であり、下部軸孔38の直径はR5である。パーキングロッド25の長さはLであり、パーキングロッド25の上軸部27の直径はR2であり、下軸部28の直径はR3である。軸ケース12の駆動輪側の端面から下部軸孔38までの距離はTである。
【0027】
図6では、パーキングロッド25の鉛直方向に対する傾斜角度がθのとき、下軸部28が軸ケース12に挿入可能である。傾斜角度θは、開口部12Aの直径R1、距離Eのときの最小角度である。パーキングロッド25の寸法条件が変わらない場合、直径R1が小さくなるにつれて傾斜角度θは大きくなり、距離Tが大きくなるにつれて傾斜角度θは大きくなる。傾斜角度θのとき、パーキングロッド25を斜め下方へ向けて距離Aだけ移動させることで、パーキングロッド25の下軸部28を下部軸孔38に挿入した状態で傾斜を解消することが可能な状態となる。距離Aは、パーキングロッド25の長さLから開口部12Aの直径R1を引いた値に等しい(A=L−R1)。
図6では距離Aを移動したパーキングロッド25を二点鎖線にて示す。
【0028】
傾斜角度がθのとき、パーキングロッド25を移動させる前の状態では、下軸部28の最下端からパーキングロッド25の最も差動機構側の部位までの回転軸13の軸方向における距離はHである。パーキングロッド25の距離Aの移動によって、下軸部28は下部軸孔38に挿入され、パーキングロッド25の最も差動機構側の部位は、回転軸13の軸方向へ進む距離はBである。このため、傾斜角度θのとき、距離Hと距離Bの和よりも大きい下部軸孔38の直径R5であれば、パーキングロッド25の下軸部28を下部軸孔38に挿入した状態で傾斜を解消することが可能となる。
【0029】
下部軸孔38の直径R5が、距離Hと距離Bとの和よりも大きいので、次の式(1)が求められる
R5>H+B・・・式(1)
図6に示すように、
H=R3cosθ、B=Asinθ
であるから、式(1)から次の式(2)が求められる。
R5>R3cosθ+Asinθ・・・式(2)
式(2)を満たす条件では、パーキングロッド25を斜め下方へ向けて距離Aだけ移動でき、パーキングロッド25の下軸部28を下部軸孔38に挿入した状態で傾斜を解消することが可能である。
【0030】
次に、本実施形態の湿式駐車ブレーキ装置10の組立方法について説明する。
図7(a)に示すように、パーキングロッド25が組み付けされる前の軸ケース12には、多数のステータ17が組み付けられており、ステータ17間にはブレーキディスク16が介在されている。軸ケース12におけるステータ17の開口部12A側には、ピストンプレート18が組み付けられている。上部軸孔35にはメタルブシュ36が組み付けられており、下部軸孔38にはニードル軸受40が組み付けられている。
【0031】
まず、作業者は、
図7(b)に示すように、パーキングロッド25の長手方向が鉛直方向に対して傾斜するようにパーキングロッド25を傾け、下軸部28を先に開口部12Aへ挿入する。次に、作業者は、
図7(c)に示すように、パーキングロッド25をピストンプレート18に近づけつつ、下軸部28を下部軸孔38へ挿入させる。下軸部28を下部軸孔38に挿入させつつ、パーキングロッド25の長手方向が鉛直方向になる方向にパーキングロッド25の姿勢を変更する。下軸部28は下部軸孔38に挿入されることによりニードル軸受40に挿通され、パーキングロッド25の上軸部27が上部軸孔35の下方へ位置する。上軸部27が上部軸孔35の下方へ位置すると、パーキングロッド25の長手方向はほぼ鉛直方向となる。
【0032】
次に、作業者は、パーキングロッド25を上昇させて上軸部27を上部軸孔35に挿入させる。上軸部27が上部軸孔35に挿入されることにより、
図7(d)に示すように、上軸部27はメタルブシュ36に挿通される。上軸部27がメタルブシュ36に挿通された後、作業者は連結軸39を下部軸孔38へ挿入する。連結軸39が下部軸孔38に挿入されると、下軸部28は連結軸39とスプライン嵌合し、連結軸39はニードル軸受40に挿通される。連結軸39の下端は軸ケース12から突出する。
【0033】
この段階でパーキングロッド25の軸ケース12への組み付けは完了する。図示はしないが、作業者は、シール部材41を下部軸孔38に挿入し、その後に支持板42を軸ケース12に固定する。連結軸39の下端は支持板42から下方へ向けて突出しており、作業者は連結軸39の下端にアーム部材43を固定する。プラグ37、ワイヤー44、コイルスプリング45、クレビス46を取り付け、押圧機構20の組み付けが完了し、回転軸13を組み付けることにより、湿式駐車ブレーキ装置10の組み付けが完了する。
【0034】
次に、本実施形態の湿式駐車ブレーキ装置10の作用について説明する。フォークリフトのオペレータが、湿式駐車ブレーキ装置10を制動状態とするように、パーキングレバー(又はパーキングペダル)を操作すると、アーム部材43が連動してパーキングロッド25の軸心Qを支点として回動する。
図4では、アーム部材43が時計回りに回動するので、パーキングロッド25は時計回りに回動する。
【0035】
パーキングロッド25の回動により、パーキングロッド25がピストンプレート18を押圧する。このとき、ロッド本体部26の押圧部32はピストンプレート18の被押圧部24を押圧する。ピストンプレート18がパーキングロッド25に押圧することにより、ピストンプレート18が軸方向へ移動する。ピストンプレート18の押圧によりステータ17とブレーキディスク16との間隙が狭くなり、ステータ17とブレーキディスク16は互いに圧接され、湿式駐車ブレーキ装置10は、回転軸13に対する制動力を得る制動状態となる。制動状態では、パーキングロッド25の挿通孔30の軸心と回転軸13の軸心Pが一致する。
【0036】
フォークリフトのオペレータが、湿式駐車ブレーキ装置10の制動状態を解除するように、パーキングレバー(又はパーキングペダル)を操作すると、アーム部材43が連動してパーキングロッド25の軸心Qを支点として回動する。
図5では、アーム部材43が反時計回りに回動するので、パーキングロッド25は反時計回りに回動する。パーキングロッド25はピストンプレート18から離隔し、ピストンプレート18は付勢部材の付勢力を受けて原位置へ向けて移動する。ピストンプレート18の原位置への移動により、ステータ17とブレーキディスク16との間隙が広がり、湿式駐車ブレーキ装置10の制動状態が解除される。制動力が解除された解除状態では、パーキングロッド25の挿通孔30の軸心は回転軸13の軸心Pに対して傾斜する。
【0037】
本実施形態の湿式駐車ブレーキ装置10および湿式駐車ブレーキ装置10の組付方法は以下の作用効果を奏する。
(1)パーキングロッド25を開口部12Aから回転軸13の軸方向に挿入し、下軸部28を下部軸孔38へ挿入することが可能である。このため、従来のような開口部を軸ケースの側部に設ける必要がない。その結果、軸ケース12の搭載スペースの制約を受けることなく、軸ケース12に必要な強度を保つことができる。
【0038】
(2)ロッド本体部26が回転軸13を挿通する挿通孔30を備えたパーキングロッド25である。パーキングロッド25を軸ケース12の開口部12Aから挿入して、パーキングロッド25の下軸部28を下部軸孔38に挿入することができる。回転軸13を挿通する挿通孔30を備えたパーキングロッド25は、従来のパーキングロッドと比較して組み付け易いほか、パーキングロッドとしての機能に優れている。
【0039】
(3)パーキングロッド25は軸ケース12の開口部12Aから回転軸13の軸方向に挿入され、開口部12Aに挿入されたパーキングロッド25の下軸部28は下部軸孔38へ挿入される。下部軸孔38における下軸部28に連結軸39がスプライン嵌合される。このため、従来のような開口部を軸ケースの側部に設ける必要がない。その結果、軸ケース12の搭載スペースの制約を受けることなく、軸ケース12に必要な強度を保つことができる湿式駐車ブレーキ装置10を製造することができる。
【0040】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る湿式駐車ブレーキ装置および湿式駐車ブレーキ装置の組立方法について説明する。本実施形態に係る湿式駐車ブレーキ装置は、第1の実施形態と同様に、産業車両としてのフォークリフトが備える湿式駐車ブレーキ装置に適用した例であるが、第1の実施形態とは構成が異なる。
【0041】
図8に示すように、湿式駐車ブレーキ装置50は、フロントアクスル51の軸ケース52内に備えられている。軸ケース52内には、回転軸53が収容されている。軸ケース52内にて挿通される回転軸53の軸心Pは車両の幅方向と一致する。回転軸13は、差動機構(図示せず)を介して駆動源(図示せず)からの回転力を駆動輪(図示せず)に伝達するインプットシャフトである。軸ケース52は、差動機構側の第1軸ケース部54と、第1軸ケース部54に接合される駆動輪側の第2軸ケース部55を有する。第1軸ケース部54の駆動輪側には、開口部54Aが形成されており、第1軸ケース部54の駆動輪側の端面には、第2軸ケース部55が接合されている。軸ケース52を備えたフロントアクスル51の内部には潤滑油が充填されている。本実施形態における開口部54Aの直径R1は、138.7mmである。
【0042】
回転軸53の一方の端部は駆動輪と連結され、回転軸53の他方の端部は、差動機構と連結されている。第2軸ケース部55内における回転軸53の外周面には、有孔円盤状の多数のブレーキディスク56がスプライン嵌合により配設されている。これらのブレーキディスク56は、回転軸53の軸方向と直角な摩擦面を有する。ブレーキディスク56は、スプライン嵌合されているので、回転軸53の軸方向へ移動可能であって、回転軸53に対する相対回転が規制されるように回転軸53に係止されている。したがって、ブレーキディスク56は、回転軸53が回転すると回転軸53と一体となって回転する。
【0043】
第2軸ケース部55の内壁面には、有孔円盤状の多数のステータ57が配設されている。これらのステータ57は、第2軸ケース部55において回転軸53の軸方向に連設されており、回転軸53の軸方向と直角な摩擦面を有する。ステータ57の外周縁には係止爪(図示せず)が形成されている。係止爪は、ステータ57の第2軸ケース部55に対する回転軸53の回転方向への回転を規制する。第2軸ケース部55の内壁には、ステータ57の係止爪に対応する係止用溝(図示せず)が回転軸53の軸方向に沿って形成されている。したがって、ステータ57は回転軸53の軸方向へ移動可能である。
【0044】
ブレーキディスク56とステータ57は、回転軸53の軸方向において交互に配置されている。したがって、ブレーキディスク56はステータ57の間に介在されている。ブレーキディスク56の摩擦面はステータ57の摩擦面と対向する。差動機構に最も近いステータ57は、第2軸ケース部55内に備えられたプッシュシリンダ58と対向する。
【0045】
プッシュシリンダ58は、筒状のシリンダ本体部59と、シリンダ本体部59の端部に形成されたフランジ部60とを有する。フランジ部60はステータ57側の端部に形成されておりフランジ部60の端面には軸方向へ窪み通孔62を有する複数の凹部61が形成されている。凹部61には、ボルト63が挿通され、ボルト63は第2軸ケース部55に固定されている。ボルト63の軸線は回転軸53の軸心Pと平行である。ボルト63の頭部と凹部61の底部との間にはコイルスプリング64が設けられている。コイルスプリング64は、プッシュシリンダ58を第1軸ケース部54へ向けて付勢する付勢力をプッシュシリンダ58に付与する。プッシュシリンダ58は、次に説明する中空ピストン65の押圧によりブレーキディスク56に向けて回転軸53の軸方向に移動可能である。
【0046】
中空ピストン65は、プッシュシリンダ58とともにピストン部材を構成する。中空ピストン65は第1軸ケース部54内に備えられており、第1軸ケース部54に対して回転軸53の軸方向に移動可能である。中空ピストン65は、ピストン本体部66と、ピストン本体部66に形成され、回転軸53が挿通される通孔67と、差動機構へ向けて突出する上下一対の突出部68を有している。押圧機構70の押圧を受ける部位である。中空ピストン65は、第1軸ケース部54に対する回転軸13の回転方向への回転を規制する規制手段(図示せず)を備えている。中空ピストン65の上下一対の突出部68の先端は被押圧部69である。被押圧部69は押圧機構70により押圧される部位である。
【0047】
押圧機構70は、パーキングレバー(図示せず)の操作により中空ピストン65を押圧し、中空ピストン65の押圧により、プッシュシリンダ58を介してブレーキディスク56とステータ57とを当接させて回転軸53に対する制動力を得るための機構である。押圧機構70は、第1軸ケース部54に回動可能に支持されるパーキングロッド71を備えている。パーキングロッド71は、ロッド本体部72と、ロッド本体部72の上部に備えられる上軸部73と、ロッド本体部72の下部に備えられる下軸部74とを備えている。上軸部73および下軸部74は回動軸部に相当する。本実施形態のパーキングロッド71は鍛造によって製作されている。
【0048】
上軸部73の直径R2は20.0mmであり、下軸部74の直径R3は、23.8mmである。本実施形態ではパーキングロッド71の長さLは175.7mmである。パーキングロッド71の長さLは、第1軸ケース部54の開口部54Aの直径R1の約1.27倍である(R1<L)。ロッド本体部72は、鉛直方向の長手方向および水平方向の短手方向を有する形状を呈している。ロッド本体部72の形状は、制動時および非制動時に回転軸53に干渉しない形状である。ロッド本体部72の中心には、回転軸13が挿通可能な挿通孔75が備えられている。ロッド本体部72における中空ピストン65と対向する対向面には、押圧部77が挿通孔75を挟むように上下一対設けられている。押圧部77は制動力を得るときに被押圧部69を押圧する部位である。したがって、上下の押圧部77は、上下の被押圧部69とそれぞれ当接可能な位置に形成されている。なお、図示はされないが、本実施形態の押圧部77は、第1の実施形態と同様に回転軸53の軸心Pに対して距離dだけオフセットしている。
【0049】
ロッド本体部72の上部に備えられる上軸部73と、ロッド本体部72の下部に備えられ下軸部74とは同軸である。第1軸ケース部54の上部には、上軸部73が挿入可能な上部軸孔78が形成されている。上部軸孔78は第1軸ケース部54の外側と内側を連通する貫通孔である。
図8に示す上部軸孔35の直径R4は、23.0mmである。上軸部73は、メタルブシュ79を介して第1軸ケース部54に回動可能に挿入されている。上部軸孔78を第1軸ケース部54の外側から塞ぐプラグ80が装着されている。
【0050】
第1軸ケース部54の下部には上部軸孔35と同軸となるように下部軸孔82が形成されている。下部軸孔82は第1軸ケース部54の外側と内側を連通する貫通孔である。
図8に示す下部軸孔82の直径R5は、42.0mmである。したがって、下部軸孔82の直径R5は下軸部74の直径R3の約1.83倍である(R3<R5)。下軸部74は、スプライン歯76が形成されており、下部軸孔82に挿入された後、スプライン嵌合される連結軸83を備える。したがって、下部軸孔82は、連結軸83の外径に対応する直径に設定されている。下部軸孔82にはメタルブシュ84およびシール部材85が備えられている。連結軸83はメタルブシュ84を介して第1軸ケース部54に回動可能に挿入されている。シール部材85は潤滑油の漏洩および異物の混入を防止する。パーキングロッド71は、上軸部73および下軸部74の軸心Qを中心に第1軸ケース部54に対して回動可能である。つまり、軸心Qは、パーキングロッド71の回動軸心に相当する。
【0051】
第1軸ケース部54の下部には、支持板86が取り付けられている。支持板86は、第1軸ケース部54から張り出しており、支持板86の板面は水平である。パーキングロッド71に連結されている連結軸83は、下方へ向けて支持板86を貫通しており、連結軸83の下端には、連結軸39の径方向に延在するアーム部材87が固定されている。図示はされないが、アーム部材87の先端部は、クレビス(図示せず)を介してワイヤー(図示せず)の一端と接続されている。ワイヤーの他端は、運転席に設けられるパーキングレバー(又はパーキングペダル)と連結されている。このため、アーム部材87は、パーキングレバーの操作によってパーキングロッド71の上軸部73および下軸部74の軸心Qを中心に回動する。本実施形態ではアーム部材43の回動は約10度である。また、支持板86とアーム部材87とを連結する付勢部材としてのコイルスプリング(図示せず)が備えられている。コイルスプリングは、引っ張りばねであり、制動が解除されるときアーム部材87を原位置へ復帰する方向へ付勢する。なお、クレビス、ワイヤー、コイルスプリングは第1の実施形態のクレビス、ワイヤー、コイルスプリングと同一である。
【0052】
本実施形態のパーキングロッド71の第1軸ケース部54への挿入条件は、第1の実施形態と同じであり、式(1)、式(2)を満たすことにより成立する。
【0053】
次に、本実施形態の湿式駐車ブレーキ装置50の組立方法について説明する。
図9(a)に示すように、パーキングロッド71が組み付けされる前の軸ケース52の第1軸ケース部54は、第2軸ケース部55と接合されず、中空ピストン65が組み付けられていない状態である。上部軸孔78にはメタルブシュ79が組み付けられており、下部軸孔82にはメタルブシュ84が組み付けられている。
【0054】
まず、作業者は、
図9(b)に示すように、パーキングロッド71の長手方向が鉛直方向に対して傾斜するようにパーキングロッド71を傾け、下軸部74を先に開口部54Aへ挿入する。次に、作業者は、
図9(c)に示すように、パーキングロッド71を開口部54Aへ挿入しつつ、下軸部74を下部軸孔82へ挿入させる。下軸部74を下部軸孔82に挿入させつつ、パーキングロッド71の長手方向が鉛直方向になる方向にパーキングロッド71の姿勢を変更する。下軸部74は下部軸孔82に挿入されることによりメタルブシュ84に挿通され、パーキングロッド71の上軸部73が上部軸孔78の下方へ位置する。上軸部73が上部軸孔78の下方へ位置すると、パーキングロッド71の長手方向はほぼ鉛直方向となる。
【0055】
次に、作業者は、パーキングロッド71を上昇させて上軸部73を上部軸孔78に挿入させる。上軸部73が上部軸孔78に挿入されることにより、
図9(d)に示すように、上軸部73はメタルブシュ79に挿通される。上軸部73がメタルブシュ79に挿通された後、作業者は連結軸83を下部軸孔82へ挿入する。連結軸83が下部軸孔82に挿入されると、下軸部74は連結軸83とスプライン嵌合し、連結軸83はメタルブシュ84に挿通される。連結軸83の下端は軸ケース12から突出する。
【0056】
この段階でパーキングロッド71の第1軸ケース部54への組み付けは完了する。図示はしないが、作業者は、支持板86を第1軸ケース部54に固定し、連結軸83の下端にアーム部材87を固定する。プラグ80、ワイヤー、コイルスプリング、クレビスを取り付ける。次に、中空ピストン65を開口部54Aに挿入し、第1軸ケース部54に装着する。その後にプッシュシリンダ58を備えた第2軸ケース部55を第1軸ケース部54に接合すると、押圧機構70の組み付けが完了する。その後、回転軸53を組み付け、ステータ57を第2軸ケース部55に取り付けるとともに、ブレーキディスク56を回転軸53にスプライン嵌合させることにより、湿式駐車ブレーキ装置10の組み付けが完了する。
【0057】
次に、本実施形態の湿式駐車ブレーキ装置50の作用について説明する。フォークリフトのオペレータが、湿式駐車ブレーキ装置50を制動状態とするように、パーキングレバー(又はパーキングペダル)を操作すると、アーム部材87が連動してパーキングロッド71の軸心Qを支点として一方向へ向けて回動する。
【0058】
パーキングロッド71の一方向への回動により、ロッド本体部72の押圧部77は中空ピストン65の被押圧部69を押圧し、パーキングロッド25が中空ピストン65を回転軸53の軸方向へ押圧する。中空ピストン65が押圧されると、プッシュシリンダ58が中空ピストン65の押圧によって軸方向へ移動し、ステータ57を駆動輪側へ向けて押圧する。プッシュシリンダ58の押圧によりステータ57とブレーキディスク56との間隙が狭くなり、ステータ57とブレーキディスク56は互いに圧接され、湿式駐車ブレーキ装置50は、回転軸53に対する制動力を得る制動状態となる。制動状態では、パーキングロッド71の挿通孔75の軸心と回転軸53の軸心Pが一致する。
【0059】
フォークリフトのオペレータが、湿式駐車ブレーキ装置50の制動状態を解除するように、パーキングレバー(又はパーキングペダル)を操作すると、アーム部材87が連動してパーキングロッド71の軸心Qを支点として回動する。このとき、パーキングロッド71は他方向へ向けて回動する。パーキングロッド71は中空ピストン65から離隔し、プッシュシリンダ58はコイルスプリング64の付勢力を受けて原位置へ向けて移動する。このため、中空ピストン65はプッシュシリンダ58とともに原位置に移動する。プッシュシリンダ58および中空ピストン65の原位置への移動により、ステータ57とブレーキディスク56との間隙が広がり、湿式駐車ブレーキ装置50の制動状態が解除される。制動力が解除された解除状態では、パーキングロッド71の挿通孔75の軸心は回転軸13の軸心Pに対して傾斜する。
【0060】
本実施形態によれば、第1の実施形態の作用効果(1)〜(3)と同等の作用効果を奏する。また、ピストン部材が、単体のピストンプレートではなく、中空ピストン65とプッシュシリンダ58を有する場合であっても、軸ケース52の搭載スペースの制約を受けることなく、軸ケース52に必要な強度を保つことができる。
【0061】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0062】
○ 上記の実施形態では、連結軸が挿入される軸孔が軸ケースの下部に設けられたが、この限りではない。連結軸が挿入される軸孔は、軸ケースの上部に設けてもよい。この場合、連結軸に設けられるアーム部材は軸ケースの上方に位置する。
○ 上記の実施形態では、回転軸を挿通する挿通孔を備えたパーキングロッドの例について説明したが、この限りではない。パーキングロッドは、回転軸を挿通する挿通孔を備えたパーキングロッド以外の構成のパーキングロッドに適用してもよい。
○ 上記の実施形態では、産業車両としてのフォークリフトに本発明を適用した例を説明したが、この限りではない。産業車両として、フォークリフト以外の荷役車両、あるいは建設車両に本発明を適用してもよい。