特許第6939819号(P6939819)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6939819
(24)【登録日】2021年9月6日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】触感提示装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/01 20060101AFI20210909BHJP
   H02N 1/00 20060101ALI20210909BHJP
   B06B 1/02 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
   G06F3/01 560
   H02N1/00
   B06B1/02 Z
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-4293(P2019-4293)
(22)【出願日】2019年1月15日
(65)【公開番号】特開2020-57340(P2020-57340A)
(43)【公開日】2020年4月9日
【審査請求日】2020年7月29日
(31)【優先権主張番号】特願2018-184172(P2018-184172)
(32)【優先日】2018年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「次世代ロボット中核技術開発/革新的ロボット要素技術分野/スライドリングマテリアルを用いた柔軟センサーおよびアクチュエータの研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】米原 悠二
(72)【発明者】
【氏名】島田 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】藤原 武史
【審査官】 木村 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/092595(WO,A1)
【文献】 特開2015−197921(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/176610(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/01
B06B 1/02
H02N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加電圧に応じて面方向に伸縮するシート状の誘電エラストマーアクチュエータを備え、前記誘電エラストマーアクチュエータの伸縮に基づく振動を触感として認識させる触感提示装置であって、
前記誘電エラストマーアクチュエータが積層される基材を備え、
前記基材は、湾曲可能に構成されるとともに、
前記基材における前記誘電エラストマーアクチュエータが積層された部分は、積層された前記誘電エラストマーアクチュエータの伸縮方向に伸縮可能に構成され
前記基材は、引張弾性率が低い低弾性領域と、前記低弾性領域よりも引張弾性率が高い高弾性領域とを備え、
前記誘電エラストマーアクチュエータは、前記低弾性領域と前記高弾性領域とに跨って配置されていることを特徴とする触感提示装置。
【請求項2】
印加電圧に応じて面方向に伸縮するシート状の誘電エラストマーアクチュエータを備え、前記誘電エラストマーアクチュエータの伸縮に基づく振動を触感として認識させる触感提示装置であって、
前記誘電エラストマーアクチュエータが積層される基材を備え、
前記基材は、湾曲可能に構成されるとともに、
前記基材における前記誘電エラストマーアクチュエータが積層された部分は、積層された前記誘電エラストマーアクチュエータの伸縮方向に伸縮可能に構成され
2個の前記誘電エラストマーアクチュエータからなるアクチュエータ対を備え、
前記アクチュエータ対を構成する2個の前記誘電エラストマーアクチュエータは、その面方向において、特定の第1方向に相対的に大きく伸長するように構成されるとともに、前記第1方向が背中合わせとなるように間隔をあけて配置され、
前記アクチュエータ対を構成する2個の前記誘電エラストマーアクチュエータの各周囲には、前記誘電エラストマーアクチュエータの側縁が当接することにより、前記第1方向の反対側の方向への前記誘電エラストマーアクチュエータの伸長を制限する制限部が設けられ、
前記アクチュエータ対を構成する2個の前記誘電エラストマーアクチュエータの間であって、一方の前記誘電エラストマーアクチュエータの周囲に設けられる前記制限部と、他方の前記誘電エラストマーアクチュエータの周囲に設けられる前記制限部との間には隙間が設けられていることを特徴とする触感提示装置。
【請求項3】
前記制限部は、前記第1方向に交差する方向への伸長を制限する第1制限部と、前記第1方向の反対側の方向への伸長を制限する第2制限部とを備え、
前記第2制限部同士の間に前記隙間が設けられている請求項2に記載の触感提示装置。
【請求項4】
前記基材は、引張弾性率が低い低弾性領域と、前記低弾性領域よりも引張弾性率が高い高弾性領域とを備え、
前記誘電エラストマーアクチュエータは、少なくとも一部が前記低弾性領域に配置されている請求項2又は請求項3に記載の触感提示装置。
【請求項5】
前記基材は、弧状に湾曲するとともに周方向に伸縮可能な前記低弾性領域と、前記低弾性領域の周方向の両端部の変位を制限する前記高弾性領域とを備え、
前記誘電エラストマーアクチュエータは、前記低弾性領域に設けられている請求項に記載の触感提示装置。
【請求項6】
前記基材は、断面が環状となる環状部分を有し、
前記誘電エラストマーアクチュエータは、前記環状部分の内面に積層されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の触感提示装置。
【請求項7】
前記基材は、断面が環状となる環状部分を有し、
前記誘電エラストマーアクチュエータは、前記環状部分に対して、前記環状部分の周方向に分離して複数、配置され、
複数の前記誘電エラストマーアクチュエータに対して、それぞれ独立して電圧を印加可能である請求項1〜のいずれか一項に記載の触感提示装置。
【請求項8】
前記基材には、装着状態を調節する調節部が設けられている請求項1〜のいずれか一項に記載の触感提示装置。
【請求項9】
指を装着部位とし、前記誘電エラストマーアクチュエータは、指の周方向に伸縮する請求項1〜のいずれか一項に記載の触感提示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触感提示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
使用者に対して触感をフィードバックする触感提示装置として、ラテラルフォースフィールド(水平方向の力場)という現象に基づいて触感を提示する装置の研究が進められている。この種の触感提示装置は、人間の皮膚が面方向(水平方向)の振動を触感として認識する現象を利用するものであり、水平方向の振動を変化させることで、平面を凸面や凹面として認識させる。例えば、特許文献1には、人間の皮膚の面方向に振動する誘電エラストマーアクチュエータを備える触感提示装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2012−515987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
誘電エラストマーアクチュエータの面方向の振動を人体に触感として認識させるように伝達するためには、誘電エラストマーアクチュエータを人体に密着させる必要がある。しかしながら、特許文献1の触感提示装置は、剛性を有するフレームに誘電エラストマーアクチュエータが取り付けられた構造であるため、誘電エラストマーアクチュエータを人体の表面形状に合わせて密着させることや人体の動きに追従して密着させることが難しい。こうした問題は、触感提示装置をウェアラブルな装置として適用した場合に、より顕著になる。
【0005】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、誘電エラストマーアクチュエータの面方向の振動を触感として認識させる触感提示装置に関して、指や腕等の装着部位に対する誘電エラストマーアクチュエータの密着性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する触感提示装置は、印加電圧に応じて面方向に伸縮するシート状の誘電エラストマーアクチュエータを備え、前記誘電エラストマーアクチュエータの伸縮に基づく振動を触感として認識させる触感提示装置であって、前記誘電エラストマーアクチュエータが積層される基材を備え、前記基材は、湾曲可能に構成されるとともに、前記基材における前記誘電エラストマーアクチュエータが積層された部分は、積層された前記誘電エラストマーアクチュエータの伸縮方向に伸縮可能に構成されている。
【0007】
上記構成によれば、誘電エラストマーアクチュエータが積層される基材は、誘電エラストマーアクチュエータの振動方向に伸縮可能な柔軟性を有している。そのため、誘電エラストマーアクチュエータは、基材に積層された状態であっても、基材とともに振動方向に伸縮することにより、その振動を人体に伝達できる。
【0008】
加えて、基材は湾曲可能な柔軟性を有している。そのため、誘電エラストマーアクチュエータ及び基材が人体の表面の形状に合わせて変形することにより、人体に対して誘電エラストマーアクチュエータを広範囲で密着させることができる。さらに、誘電エラストマーアクチュエータ及び基材が人体の動きに追従して変形することにより、人体を動かした場合にも密着性を維持できる。
【0009】
上記触感提示装置において、前記基材は、断面が環状となる環状部分を有し、前記誘電エラストマーアクチュエータは、前記環状部分の内面に積層されていることが好ましい。
上記構成によれば、装着部位に対して誘電エラストマーアクチュエータを適切な圧力で押し付けた状態とすることが容易である。これにより、誘電エラストマーアクチュエータの振動を指等の細い装着部位に効率的に伝達できる。
【0010】
上記触感提示装置において、前記誘電エラストマーアクチュエータは、その面方向において、特定の第1方向に相対的に大きく伸長するように構成されていることが好ましい。
上記構成によれば、その面方向の全方向に等しく伸長する誘電エラストマーアクチュエータと比較して、同じ電圧を印加した際に、誘電エラストマーアクチュエータにおける指との接触点の移動量が大きくなり、触感提示装置の出力が向上する。
【0011】
上記触感提示装置において、前記第1方向が背中合わせとなるように配置された2個の前記誘電エラストマーアクチュエータからなるアクチュエータ対を備えることが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、アクチュエータ対を構成する2個の誘電エラストマーアクチュエータの振動を重ねることにより指の皮膚を強く引っ張ることができ、誘電エラストマーアクチュエータの振動を効率的に触感として認識させることができる。
【0013】
上記触感提示装置において、前記基材は、引張弾性率が低い低弾性領域と、前記低弾性領域よりも引張弾性率が高い高弾性領域とを備え、前記誘電エラストマーアクチュエータは、少なくとも一部が前記低弾性領域に配置されていることが好ましい。この場合、前記誘電エラストマーアクチュエータは、前記低弾性領域と前記高弾性領域とに跨って配置されていることが特に好ましい。
【0014】
上記構成によれば、基材の一部に振動し難い部分(高弾性領域)が設けられている。これにより、誘電エラストマーアクチュエータの振動エネルギーが基材全体に分散されて、人体に伝達される振動が弱まってしまうことを抑制できる。したがって、誘電エラストマーアクチュエータの振動を人体に効率的に伝達できる。
【0015】
上記触感提示装置において、前記基材は、弧状に湾曲するとともに周方向に伸縮可能な前記低弾性領域と、前記低弾性領域の周方向の両端部の変位を制限する前記高弾性領域とを備え、前記誘電エラストマーアクチュエータは、前記低弾性領域に設けられていることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、誘電エラストマーアクチュエータの面方向の振動に加えて、面直方向の振動も発生させることが可能であり、使用者に対して、より多様な触感を提示できる。
【0017】
上記触感提示装置において、前記基材は、断面が環状となる環状部分を有し、前記誘電エラストマーアクチュエータは、前記環状部分に対して、前記環状部分の周方向に分離して複数、配置され、複数の前記誘電エラストマーアクチュエータに対して、それぞれ独立して電圧を印加可能であることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、誘電エラストマーアクチュエータの面方向の振動に加えて、面直方向の振動も発生させることが可能であり、使用者に対して、より多様な触感を提示できる。
【0019】
上記触感提示装置において、前記基材には、装着状態を調節する調節部が設けられていることが好ましい。
上記構成によれば、指等の装着部位の太さに合わせて装着状態を調節できるため、装着適合性が高い触感提示装置となる。
【0020】
上記触感提示装置において、指を装着部位とし、前記誘電エラストマーアクチュエータは、指の周方向に伸縮することが好ましい。
上記構成によれば、誘電エラストマーアクチュエータの振動を効率的に触感として認識させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、誘電エラストマーアクチュエータの面方向の振動を触感として認識させる触感提示装置に関して、人体に対する誘電エラストマーアクチュエータの密着性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態の触感提示装置の概略図。
図2】誘電エラストマーアクチュエータの概略図。
図3】基材の環状部分の断面図。
図4】基材の環状部分の内面側を示す斜視図。
図5】第2実施形態の触感提示装置の環状部分の断面図。
図6】変更例の触感提示装置の環状部分の断面図。
図7】変更例の触感提示装置の環状部分の断面図。
図8】第3実施形態の触感提示装置の側面図。
図9図8の9−9線断面図。
図10】調節部を備える基材の説明図。
図11】調節部を備える基材の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
以下、触感提示装置の第1実施形態について説明する。
図1に示すように、触感提示装置10Aは、使用者の指に装着される袋状の基材11と、基材11の内面に積層された矩形シート状の誘電エラストマーアクチュエータ12(DEA:Dielectric Elastomer Actuator)とを備えている。
【0024】
基材11は、湾曲可能かつ面方向全体に伸縮可能な柔軟材料により構成されている。基材11を構成する柔軟材料としては、例えば、シリコーンやウレタン等のエラストマー、ストレッチ生地が挙げられる。基材11は、断面環状の環状部分11aを有し、この環状部分11aの内面にDEA12が積層された状態で固定されている。
【0025】
図2に示すように、DEA12は、誘電エラストマーからなるシート状の誘電層20と、誘電層20の厚さ方向の両側に配置された電極層としての正極電極21及び負極電極22とが複数、積層された多層構造体である。DEA12の最外層には絶縁層23が積層されている。誘電エラストマーアクチュエータ12は、正極電極21と負極電極22との間に直流電圧が印加されると、印加電圧の大きさに応じて、誘電層20が厚さ方向に圧縮されるとともに誘電層20の面に沿った方向(DEA12の面方向)に伸張するように変形する。
【0026】
誘電層20を構成する誘電エラストマーは特に限定されるものではなく、公知のDEAに用いられる誘電エラストマーを用いることができる。上記誘電エラストマーとしては、例えば、架橋されたポリロタキサン、シリコーンエラストマー、アクリルエラストマー、ウレタンエラストマーが挙げられる。これら誘電エラストマーのうちの一種を用いてもよいし、複数種を併用してもよい。誘電層20の厚さは、例えば、20〜200μmである。
【0027】
正極電極21及び負極電極22を構成する材料としては、例えば、導電エラストマー、カーボンナノチューブ、ケッチェンブラック(登録商標)、金属蒸着膜が挙げられる。上記導電エラストマーとしては、例えば、絶縁性高分子及び導電性フィラーを含有する導電エラストマーが挙げられる。
【0028】
上記絶縁性高分子としては、例えば、架橋されたポリロタキサン、シリコーンエラストマー、アクリルエラストマー、ウレタンエラストマーが挙げられる。これら絶縁性高分子のうちの一種を用いてもよいし、複数種を併用してもよい。上記導電性フィラーとしては、例えば、ケッチェンブラック(登録商標)、カーボンブラック、銅や銀等の金属粒子が挙げられる。これら導電性フィラーのうちの一種を用いてもよいし、複数種を併用してもよい。正極電極21及び負極電極22の厚さは、例えば、10〜100μmである。
【0029】
絶縁層23を構成する絶縁エラストマーは特に限定されるものではなく、公知のDEAの絶側縁分に用いられる公知の絶縁エラストマーを用いることができる。上記絶縁エラストマーとしては、例えば、架橋されたポリロタキサン、シリコーンエラストマー、アクリルエラストマー、ウレタンエラストマーが挙げられる。これら絶縁エラストマーのうちの一種を用いてもよいし、複数種を併用してもよい。絶縁層23の厚さは、例えば、10〜100μmである。
【0030】
図1に示すように、基材11の環状部分11aの内面には、複数のDEA12が積層されている。詳述すると、環状部分11aの周方向に2個のDEA12が間隔をあけて並ぶように配置されるとともに、環状部分11aの軸方向に4個のDEA12が間隔をあけて並ぶように配置されている。周方向に並設される2個のDEA12は、アクチュエータ対12aを構成する。したがって、環状部分11aには、その軸方向に4組のアクチュエータ対12aが並設されている。アクチュエータ対12aを構成するDEA12間の間隔は、例えば、2〜5mmであることが好ましい。
【0031】
図3及び図4に示すように、DEA12は、その面方向において、相対的に大きく伸長する方向(第1方向A)を有するように構成されている。そして、アクチュエータ対12aを構成する2個のDEA12は、第1方向Aが背中合わせになるように配置されている。
【0032】
詳述すると、基材11の内面における各DEA12の側方位置には、PP、ABS等の硬質樹脂により構成され、DEA12を囲むように位置する制限部13が設けられている。制限部13は、DEA12の伸長方向を制限するための部位であり、第1方向Aに交差する方向へのDEA12の伸長を制限する第1制限部13aと、第1方向Aの反対側の方向へのDEA12の伸長を制限する第2制限部13bとを備えている。なお、本実施形態において、第1方向Aは、環状部分11aの周方向に沿った方向に設定されている。
【0033】
第1制限部13aは、DEA12における第1方向Aに直交する方向(環状部分11aの軸方向)の端部をなす側縁に当接又は近接する位置に設けられている。第1制限部13aは、DEA12の側縁が当接することにより、第1方向Aに交差する方向へのそれ以上のDEA12の伸長を制限する。第2制限部13bは、DEA12における第1方向Aの反対側の方向の端部をなす側縁に当接又は近接する位置に設けられている。第2制限部13bは、DEA12の側縁が当接することにより、第1方向Aの反対側の方向へのそれ以上のDEA12の伸長を制限する。
【0034】
次に、本実施形態の作用について説明する。
図1及び図3に示すように、触感提示装置10Aは、使用者の指に袋状の基材11を被せて、基材11の内面に取り付けられたDEA12を指の腹に接触させることにより装着状態とされる。この装着状態において、DEA12に印加する電圧を上昇させると、DEA12は、第1方向A(指の腹の周方向)に伸長する。その後、DEA12に印加する電圧を降下させるとDEA12は元の状態に戻るように収縮する。DEA12に対する印加電圧の上昇及び降下を繰り返すこと(例えば、パルス的に電圧を印加すること)により、DEA12は伸縮を繰り返して指の腹の周方向に振動する。
【0035】
使用者は、DEA12の振動が指に伝達されることにより、その振動を触感として認識する。その結果、触感提示装置10Aから使用者に疑似力覚(触感)が提示される。DEA12に対する印加電圧の大きさや印加電圧の切り替えのタイミングを変化させて、DEA12の振動パターンを変化させることにより、使用者に様々な触感を認識させることができる。
【0036】
DEA12が積層される基材11は、面方向に伸縮可能な柔軟性を有している。そのため、DEA12は、基材11に積層されるように取り付けられた状態であっても、基材11とともに第1方向Aに伸縮することが可能であり、その振動を指に伝達できる。
【0037】
また、基材11は、湾曲可能な柔軟性を有している。そのため、触感提示装置10Aを装着した際に、DEA12及び基材11が指の表面形状に合わせて変形することにより、指に対してDEA12を広範囲で密着させることができる。さらに、DEA12及び基材11が指の動きに追従して変形することにより、触感提示装置10Aを装着した指を動かした場合にも指に対するDEA12の密着性を維持できる。
【0038】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)印加電圧に応じて面方向に沿って伸縮するシート状のDEA12を備え、DEA12の伸縮に基づく振動を触感として認識させる触感提示装置10Aは、DEA12が積層される基材11を備えている。基材11は、湾曲可能かつ積層されたDEA12の伸縮方向に伸縮可能に構成されている。
【0039】
上記構成によれば、装着部位に対するDEA12の密着性を向上させることができる。そのため、上記構成の触感提示装置10Aは、ウェアラブルな装置として適している。
(2)基材11は、断面が環状となる環状部分11aを有している。DEA12は、環状部分11aの内面に積層されている。
【0040】
上記構成によれば、装着部位に対してDEA12を適切な圧力で押し付けた状態とすることが容易である。これにより、DEA12の振動を指等の細い装着部位に効率的に伝達できる。
【0041】
(3)DEA12は、その面方向において、特定の第1方向Aに相対的に大きく伸長するように構成されている。
上記構成によれば、その面方向の全方向に等しく伸長する構成と比較して、DEA12に対して同じ電圧を印加した際に、DEA12における指との接触点の移動量が大きくなり、触感提示装置10Aの出力が向上する。
【0042】
(4)第1方向A側が背中合わせに配置された2個のDEA12からなるアクチュエータ対12aを備えている。
上記構成によれば、アクチュエータ対12aを構成する2個のDEA12の振動を重ねることにより指の皮膚を強く引っ張ることができ、DEA12の振動を効率的に触感として認識させることができる。
【0043】
(5)触感提示装置10Aは、指を装着部位とし、DEA12は、指の周方向に伸縮する。
上記構成によれば、DEA12の振動を効率的に触感として認識させることができる。
【0044】
(第2実施形態)
以下、触感提示装置の第2実施形態について説明する。
第2実施形態の触感提示装置10Bは、基材11の構成、及び制限部13が省略されている点が第1実施形態と異なっており、その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0045】
図5に示すように、触感提示装置10Bの基材11の環状部分11aは、周方向の一部が、引張弾性率が低い低弾性領域R1により構成されるとともに、周方向の残りの部分が低弾性領域R1よりも引張弾性率が高い高弾性領域R2により構成されている。低弾性領域R1及び高弾性領域R2は、基材11を構成する柔軟材料の種類を異ならせることによって形成されている。
【0046】
例えば、シリコーンやウレタン等の軟質のエラストマーにより低弾性領域R1を形成し、シリコーンやウレタン等の軟質のエラストマーにより高弾性領域R2を形成する。なお、高弾性領域R2は、引張弾性率が低弾性領域R1よりも相対的に低いものの、湾曲可能かつ面方向全体に伸縮可能な性質を有している。
【0047】
触感提示装置10BのDEA12は、環状部分11aの周方向において、低弾性領域R1と高弾性領域R2とに跨って配置されている。具体的には、環状部分11aの周方向において、DEA12におけるアクチュエータ対12aの外側に位置する部分が高弾性領域R2に積層されるように取り付けられるとともに、アクチュエータ対12aの内側に位置する部分が低弾性領域R1に積層されるように取り付けられている。
【0048】
高弾性領域R2におけるDEA12が積層されて配置される部分は、DEA12の高弾性領域R2側への伸長を制限する制限部として機能する。そのため、DEA12は、低弾性領域R1側、特に高弾性領域R2と反対側を向く方向(第1方向A)に大きく伸長する。したがって、第2実施形態のアクチュエータ対12aを構成する2個のDEA12は、第1方向A側が向かい合わせに配置された状態になっている。そして、矢印Bで示すように、DEA12は、第1方向Aへの伸長と、その反対方向への収縮と繰り返すことにより、低弾性領域R1に配置されている部分が大きく振動する。
【0049】
第2実施形態の場合にも、上記(1)〜(3)、(5)の効果が得られる。また、第2実施形態によれば以下に記載する効果が得られる。
(6)基材11は、引張弾性率が低い低弾性領域R1と、低弾性領域R1よりも引張弾性率が高い高弾性領域R2とを備えている。DEA12の一部は、低弾性領域R1に配置されている。
【0050】
上記構成によれば、基材11の一部に振動し難い部分(高弾性領域R2)が設けられている。これにより、DEA12の振動エネルギーが基材11全体に分散されて、人体に伝達される振動が弱まってしまうことを抑制できる。したがって、人体に対してDEA12の振動を効率的に伝達できる。
【0051】
(7)DEA12は、環状部分11aの周方向(DEA12が収縮可能な方向)において、低弾性領域R1と高弾性領域R2とに跨って配置されている。
上記構成によれば、DEA12の振動エネルギーが基材11全体に分散されて、人体に伝達される振動が弱まることを抑制することを更に効果的に抑制することができ、人体に対してDEA12の振動を更に効率的に伝達できる。
【0052】
(8)第1方向A側が向かい合わせに配置された2個のDEA12からなるアクチュエータ対12aを備えている。
上記構成によれば、アクチュエータ対12aを構成する2個のDEA12の振動を重ねることにより指の皮膚を強く引き付けることができ、DEA12の振動を効率的に触感として認識させることができる。
【0053】
(第3実施形態)
以下、触感提示装置の第3実施形態について説明する。
図8及び図9に示すように、第3実施形態の触感提示装置10Cの基材11は、弧状に湾曲する帯状の伸縮部30を備えている。伸縮部30は、周方向に伸縮可能な柔軟材料により構成され、伸縮部30の内部には一つのDEA12が配置されている。詳述すると、伸縮部30は、シリコーンやウレタン等のエラストマーからなる2枚の膜により構成され、2枚の膜の間にDEA12を挟み込んだ状態で膜同士が一体に接続されている。
【0054】
また、基材11は、伸縮部30の周方向の両端部を固定する固定部31を備えている。固定部31は、PP、ABS等の硬質樹脂により構成される剛体状の部位である。
第3実施形態においては、伸縮部30が低弾性領域R1に相当し、固定部31が高弾性領域R2に相当する。そして、基材11は、低弾性領域R1としての伸縮部30と、高弾性領域R2としての固定部31とによって、全体として断面環状に形成されている。
【0055】
次に、本実施形態の作用について説明する。
触感提示装置10Cは、基材11の伸縮部30と固定部31との間に、使用者の指を挟み込むことにより装着状態とされる。この装着状態において、DEA12に印加する電圧を上昇させると、DEA12は面方向に伸長し、その後、DEA12に印加する電圧を降下させるとDEA12は元の状態に戻るように収縮する。こうしたDEA12の伸長及び収縮に追従して伸縮部30が伸長及び収縮することにより、使用者の指にDEA12の面方向の振動が伝達される。
【0056】
また、本実施形態では、DEA12に追従して伸縮する伸縮部30の周方向の両端部が固定部31に固定されて、当該両端部の変位が制限された状態になっている。これにより、DEA12に印加する電圧を大きく上昇させて、DEA12を面方向に大きく伸長させると、図9の矢印C1で示すように、伸縮部30の円弧の中央部が、円弧の中心から離れる方向に移動するように撓む。また、DEA12に印加する電圧を大きく降下させて、DEA12を面方向に大きく収縮させると、図9の矢印C2で示すように、伸縮部30の円弧の中央部が、円弧の中心に向かう方向に移動するように撓む。こうした伸縮部30の円弧の中央部を円弧の中心から離れる方向又は円弧の中心に向かう方向に撓ませる伸縮部30の動作により、使用者の指にDEA12の面直方向の振動、即ち、指の表面を押し付ける方向の振動が伝達される。
【0057】
次に、第3実施形態の効果について説明する。第3実施形態の場合にも、上記(1)の効果が得られる。また、第3実施形態によれば以下に記載する効果が得られる。
(9)基材11は、弧状に湾曲するとともに周方向に伸縮可能な伸縮部30と、伸縮部30の周方向の両端部の変位を制限する固定部31とを備えている。DEA12は、伸縮部30に設けられている。
【0058】
上記構成によれば、DEA12の面方向の振動に加えて、DEA12の面直方向の振動も発生させることが可能であり、使用者に対して、より多様な触感を提示できる。
さらに、上記構成によれば、基材11の伸縮部30と固定部31との間に、使用者の指を挟み込むことにより容易に装着状態とすることができる。また、装着する際に指の太さに合わせて伸縮部30が伸長するため、装着適合性が高い。
【0059】
なお、上記の各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記の各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0060】
・基材11を装着した後、装着部位に対してDEA12を適切な圧力で押し付けた状態とするために、弾性バンド等の拘束部材を用いて、基材11を締め付けてもよい。
・基材11は、少なくともDEA12が積層された部分の一部が伸縮可能であればよく、一部に伸縮できない部分を有していてもよい。例えば、第2実施形態の高弾性領域R2を伸縮しない材料により構成してもよい。
【0061】
・基材11におけるDEA12が積層された部分は、面方向全体に伸縮可能である構成に限定されず、積層されたDEA12が伸縮可能な方向のうちの少なくとも一方向(例えば、第1方向Aに平行な方向)に伸縮可能であればよい。
【0062】
・基材11の形状は、装着部分に応じて適宜、変更できる。例えば、装着部位が腕である場合には、リストバンドのような形状の基材としてもよい。また、基材11の環状部分11aは、帯状の基材11を指や腕等に巻き付けて、面ファスナー等により固定されることにより環状となる部分であってもよい。また、環状部分11aのない基材11であってもよい。
【0063】
・基材11におけるDEA12の配置は特に限定されるものではない。例えば、第1及び第2実施形態では、2個のDEA12がアクチュエータ対12aをなすようにDEA12を規則的に配置していたが、複数のDEA12を不規則に配置してもよい。また、基材11に設けられるDEA12は1個であってもよい。
【0064】
・DEA12は、相対的に大きく伸長する方向である第1方向Aを複数、有していてもよい。例えば、第2制限部13bを省略して、第1制限部13aのみの制限部13とした場合、DEA12は、基材11の環状部分11aの周方向の両側に大きく伸長できる。この場合、上記周方向の両方向が第1方向Aとなる。
【0065】
・各DEA12の第1方向Aは、全て同じ方向であってもよいし、一部又は全部のDEA12の第1方向Aが異なっていてもよい。また、面方向の全方向に等しく伸長するDEA12であってもよい。
【0066】
・上記第2実施形態において、DEA12は、少なくとも一部が低弾性領域R1に配置されていればよい。例えば、図6に示すように、DEA12全体を低弾性領域R1に配置してもよい。
【0067】
・基材11に低弾性領域R1及び高弾性領域R2を設ける方法は、基材11を構成する柔軟材料の種類を異ならせる方法に限定されない。例えば、図7に示すように、一種のエラストマー材料からなる基材11の一部に、布等の芯材11bをインサートすることにより、基材11の一部の引張弾性率を部分的に高めた高弾性領域R2としてもよい。また、基材11の厚さを部分的に厚くすることにより高弾性領域R2を設けてもよい。
【0068】
・DEA12の表面における指に接触する部分に、滑りをよくするための滑面処理が施してもよい。例えば、図6に示すように、ナイロンやテフロン(登録商標)等により構成される複数の球状体12bをDEA12の表面に接着して、指とDEA12との接触面積を低下させる処理を施してもよい。
【0069】
・第3実施形態について、伸縮部30に設けられるDEA12の数、配置は特に限定されるものではない。例えば、図6及び図7に示す構成のように、伸縮部30の周方向に分離して並ぶように複数のDEA12を配置してもよい。
【0070】
・DEA12に印加される電圧のパターンは、特に限定されるものではなく、使用者に提示する触感に応じて適宜、設定することができる。また、複数のDEA12を備える場合、各DEA12に印加される電圧のパターンは、同じであってもよいし、それぞれ異なっていてもよい。なお、複数のDEA12を備える場合、複数のDEA12に対して、それぞれ独立して電圧を印加可能であることが好ましい。
【0071】
例えば、図6及び図7に示す構成のように、低弾性領域R1及び高弾性領域R2を備える基材11の低弾性領域R1の周方向に分離して並ぶように配置される2個のDEA12に対して、同じパターンの電圧を印加して、2個のDEA12の伸長及び収縮のタイミングを一致させる。この場合、2個のDEA12が配置された伸縮部30は、伸縮部30の中央部分が面直方向の振動し、使用者の指に対して、指の表面を押し付ける方向の振動が伝達される。すなわち、1個のDEA12が配置されている第3実施形態と同様に動作する。
【0072】
また、上記2個のDEA12に対して、伸長するタイミングと収縮するタイミングが互い違いになるパターンの電圧を印加する。この場合、伸縮部30は、DEA12の面方向に振動する。このように、周方向に分離して配置される複数のDEA12に対して、それぞれ独立して電圧を印加可能とし、印加する電圧を制御することにより、使用者の指に対して、異なる方向の振動を伝達することができる。したがって、使用者に対して、より多様な触感を提示できる。
【0073】
・第1実施形態及び第2実施形態の基材11として、第3実施形態の基材11を適用してもよい。また、第3実施形態の基材11として、第1実施形態及び第2実施形態の基材11を適用してもよい。なお、第3実施形態の基材11の固定部31は、伸縮部30の端部を固定する構成に限定されるものではなく、少なくとも、DEA12を伸縮させた際に、伸縮部30の端部を変位し難くする構成であればよい。
【0074】
・基材11に対して、例えば、図10及び図11に示すように、基材11の装着状態を調節する調節部を設けてもよい。この場合には、指等の装着部位の太さに合わせて装着状態を調節できるため、装着適合性が高い触感提示装置となる。
【0075】
図10に示す構成では、第3実施形態の触感提示装置10Cの基材11について、伸縮部30と固定部31とを別体として形成している。伸縮部30には、その両端部に帯状や紐状等の長尺状の挿通部30aが一体に設けられ、固定部31には、挿通部30aが挿通される二つの挿通孔31aが設けられている。本例では、挿通部30a及び挿通孔31aにより調節部が構成されている。
【0076】
この基材11を装着する場合には、伸縮部30の挿通部30aを固定部31の挿通孔31aに挿通させた状態として、伸縮部30と固定部31との間に使用者の指を挿入した後、挿通部30aの挿通度合を変化させて固定部31の位置を変更する。これにより、伸縮部30及び固定部31が指を締める強さを調節できる。
【0077】
図11に示す構成では、第3実施形態の触感提示装置10Cの基材11について、伸縮部30の一方の端部30bを固定部31から分離可能に構成し、端部30bの内面及び固定部31の外面に面ファスナー32を設けている。本例では、伸縮部30の端部30b及び固定部31の外面に設けられる面ファスナー32により調節部が構成されている。
【0078】
この基材11を装着する場合には、伸縮部30及び固定部31を使用者の指に巻き付けた後、固定部31の外面に対して、伸縮部30の端部30bを任意の位置で面ファスナー32により固定する。これにより、伸縮部30及び固定部31が指を締める強さを調節できる。
【0079】
・一つの高弾性領域R2に対して、複数の低弾性領域R1を設け、複数の低弾性領域R1のそれぞれにDEA12を配置してもよい。例えば、図11に示す例では、高弾性領域R2に相当する一つの固定部31に対して、低弾性領域R1に相当する三つの伸縮部30を接続している。
【符号の説明】
【0080】
R1…低弾性領域、R2…高弾性領域、10A,10B…触感提示装置、11…基材、11a…環状部分、12…誘電エラストマーアクチュエータ(DEA)、12a…アクチュエータ対、13…制限部、13a…第1制限部、13b…第2制限部、20…誘電層、21…正極電極、22…負極電極、23…絶縁層、30…伸縮部、31…固定部。
図1
図2
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図6
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