【実施例】
【0014】
[推定装置の構成]
図1は、実施例に係る推定装置の機能構成の一例を説明する図である。
図1に示すように、推定装置1は、入手可能なデータを用いて、交通システムのOD情報を推定する。OD情報とは、ある代表点(地点)から別の代表点(地点)への交通量のことをいう。なお、実施例では、鉄道の交通システムを一例として説明するが、これに限定されるものではなく、バスや高速道路などの一般の交通システムにも適用可能である。
【0015】
推定装置1は、制御部10および記憶部20を有する。
【0016】
制御部10は、CPU(Central Processing Unit)などの電子回路に対応する。そして、制御部10は、各種の処理手順を規定したプログラムや制御データを格納するための内部メモリを有し、これらによって種々の処理を実行する。制御部10は、入力部11、式変換部12、最適化部13、不定性判定部14、式修正部15および出力部16を有する。なお、式変換部12および最適化部13は、算出部の一例である。不定性判定部14は、生成部および判定部の一例である。
【0017】
記憶部20は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ(Flash Memory)などの半導体メモリ素子、または、ハードディスク、光ディスクなどの記憶装置である。記憶部20は、例えば、計測データ情報21を有する。
【0018】
計測データ情報21は、交通システムにおいて計測される複数のデータを含む情報である。例えば、計測データ情報21には、各駅の入場者数および出場者数ならびに隣接駅間での列車の乗車人数が挙げられる。各駅の入場者数および出場者数は、一例として、各駅に設置されたカメラや重量計によって計測できる。隣接駅間での列車の乗車人数は、一例として、列車の各車両に設置されたカメラや重量計によって計測できる。各駅の入場者数および出場者数ならびに隣接駅間での列車の乗車人数は、いかなる交通システムにとっても入手可能な計測データであると予想される。なお、駅は、代表点や地点の一例である。入場者数は、発生交通量の一例である。出場者数は、集中交通量の一例である。乗車人数は、配分交通量の一例である。
【0019】
入力部11は、計測データ情報21を入力する。なお、計測データ情報21の具体例は、後述する。
【0020】
式変換部12は、入力部11によって入力された計測データ情報21のそれぞれのデータを、交通システムに対応づけられたモデルであって複数の駅間の交通量を推定するモデルを記述する式に変換する。かかる式は、OD情報をパラメータ(未知数)とする。なお、式変換部12で用いられる式の一例は、後述する。
【0021】
最適化部13は、式変換部12によって変換された式のパラメータを、最適化問題を解く手法を利用して算出する。また、最適化部13は、後述する式修正部15によって修正された式のパラメータを、最適化問題を解く手法を利用して算出する。最適化問題を解く手法は、例えば、線形計画法であるが、これに限定されるものではない。なお、実施例では、最適化問題を解く手法を線形計画法として説明する。また、最適化部13の具体例は、後述する。
【0022】
不定性判定部14は、最適化部13によって最適化された解の不定性を判定する。なお、ここでいう解は、OD情報を示す。例えば、不定性判定部14は、解が不定解である場合には、解の存在範囲に関連した解の不定性の尺度を算出する。不定性判定部14は、解の不定性の尺度が予め定められた閾値以上であるか否かを判定する。不定性判定部14は、解の不定性の尺度が閾値以上であれば、解の不定性が影響を及ぼすと判断し、式修正部15に遷移する。不定性判定部14は、不定性の尺度が閾値未満であれば、解の不定性が影響を及ぼさないと判断し、解を出力部16に出力する。なお、不定性の尺度、解の存在範囲、解の不定性の影響については、後述する。
【0023】
式修正部15は、計測データ情報21を増やして、式を修正する。
【0024】
出力部16は、解から得られるOD情報を出力する。なお、出力部16は、処理が無限に繰り返されることを防ぐため、所定回数の繰り返しで解の不定性が閾値未満にならなかった場合には、その旨を出力しても良い。
【0025】
[鉄道路線図および鉄道ダイヤの一例]
実施例で取り上げる鉄道路線図および鉄道ダイヤを、
図2および
図3を参照して説明する。
【0026】
図2は、対象となる鉄道路線図の一例を示す図である。
図2に示すように、対象となる鉄道路線は、直線状であり、A駅、B駅、C駅の3駅から構成される。なお、
図2で示した鉄道路線図は、便宜的な一例であり、これに限定されるものではない。
【0027】
図3は、対象となる列車ダイヤの一例を示す図である。
図3に示すように、対象となる列車ダイヤは、昼の0時、1時、2時の定時に列車が双方向に運行する。なお、
図3で示した列車ダイヤは、便宜的な一例であり、これに限定されるものではない。
【0028】
[計測データ情報の一例]
計測データ情報21の一例を、
図4および
図5を参照して説明する。
【0029】
図4は、対象となる計測データ情報の一例を示す図である。なお、各駅の入場者数および出場者数ならびに隣接駅間での列車の乗車人数は、例えば、カメラや重量計などを用いて計測される。
図4に示すように、A駅の入場者数をG
Aとする。A駅の出場者数をA
Aとする。B駅の入場者数をG
Bとする。B駅の出場者数をA
Bとする。C駅の入場者数をG
Cとする。C駅の出場者数をA
Cとする。そして、A駅からB駅への(AB間での)列車の乗車人数はP
ABとする。B駅からA駅への(BA間での)列車の乗車人数はP
BAとする。B駅からC駅への(BC間での)列車の乗車人数はP
BCとする。C駅からB駅への(CB間での)列車の乗車人数はP
CBとする。なお、列車運行時間は十分短く、列車運行中に利用者の移動は起こらないものとする。また、利用者は、駅に入場後、最も早い列車に乗ると想定する。
【0030】
図5は、0時から1時の計測データ情報の具体例を示す図である。
図5に示すように、A駅の入場者数を示すG
Aは50であるとする。B駅の入場者数を示すG
Bは70であるとする。C駅の入場者数を示すG
Cは60であるとする。A駅の出場者数を示すA
Aは70であるとする。B駅の出場者数を示すA
Bは40であるとする。C駅の出場者数を示すA
Cは70であるとする。そして、AB間での列車の乗車人数を示すP
ABは50であるとする。BC間での列車の乗車人数を示すP
BCは70であるとする。BA間での列車の乗車人数を示すP
BAは70であるとする。CB間での列車の乗車人数を示すP
CBは60であるとする。なお、0時から1時の計測データ情報21は、以降、符号D
01で示す場合がある。
【0031】
[式変換部で用いられる式]
式変換部12で用いられる式の一例を、
図6を参照して説明する。
【0032】
図6は、式変換部で用いられる式の一例を示す図である。なお、
図6に示すT
ABは、A駅からB駅への0時から1時のOD情報であるとする。
図6に示すT
ACは、A駅からC駅への0時から1時のOD情報であるとする。
図6に示すT
BAは、B駅からA駅への0時から1時のOD情報であるとする。
図6に示すT
BCは、B駅からC駅への0時から1時のOD情報であるとする。
図6に示すT
CAは、C駅からA駅への0時から1時のOD情報であるとする。
図6に示すT
CBは、C駅からB駅への0時から1時のOD情報であるとする。
図6に示すように、式変換部12は、計測データ情報21を、OD情報を未知数とする式に変換する。変換方法は、以下のとおりである。(1)駅の入場者数は、その駅を出発駅とするOD情報の和に等しいという制約式に変換される。(2)駅の出場者数は、その駅を到着駅とするOD情報の和に等しいという制約式に変換される。(3)乗車人数は、OD情報から予測される乗車人数と計測データである乗車人数の差の絶対値からなる評価式に変換される。(4)それぞれの評価式の和を評価関数とする。
【0033】
(1)について、駅の入場者数は、以下の制約式に変換される。A駅の入場者数を示すG
Aは、AB間のOD情報T
ABとAC間のOD情報T
ACとの和に等しいという制約式(1.1)に変換される。B駅の入場者数を示すG
Bは、BA間のOD情報T
BAとBC間のOD情報T
BCとの和に等しいという制約式(1.2)に変換される。C駅の入場者数を示すG
Cは、CA間のOD情報T
CAとCB間のOD情報T
CBとの和に等しいという制約式(1.3)に変換される。
【0034】
また、(2)について、駅の出場者数は、以下の制約式に変換される。A駅の出場者数を示すA
Aは、A駅を到着駅とするBA間のOD情報T
BAとCA間のOD情報T
CAとの和に等しいという制約式(2.1)に変換される。B駅の出場者数を示すA
Bは、B駅を到着駅とするAB間のOD情報T
ABとCB間のOD情報T
CBとの和に等しいという制約式(2.2)に変換される。C駅の出場者数を示すA
Cは、C駅を到着駅とするAC間のOD情報T
ACとBC間のOD情報T
BCとの和に等しいという制約式(2.3)に変換される。
【0035】
また、(3)について、乗車人数は、以下の評価式に変換される。乗車人数は、OD情報から予測される乗車人数T
ABおよびT
ACと、計測データであるAB間での列車の乗車人数を示すP
ABの差の絶対値からなる評価式(3.1)に変換される。乗車人数は、OD情報から予測される乗車人数T
ACおよびT
BCと、計測データであるBC間での列車の乗車人数を示すP
BCの差の絶対値からなる評価式(3.2)に変換される。乗車人数は、OD情報から予測される乗車人数T
BAおよびT
CAと、計測データであるBA間での列車の乗車人数を示すP
BAの差の絶対値からなる評価式(3.3)に変換される。乗車人数は、OD情報から予測される乗車人数T
CAおよびT
CBと、計測データであるCB間での列車の乗車人数を示すP
CBの差の絶対値からなる評価式(3.4)に変換される。
【0036】
また、(4)について、以下のように評価関数が生成される。個々の評価式(3.1)、(3.2)、(3.3)および(3.4)の和を評価関数(4)とする。また、予測される乗車人数T
AB、T
AC、T
BA、T
BC、T
CA、T
CBは、全て0以上である。
【0037】
なお、計測精度が高いデータは、例えば制約式に変換し、計測精度が低いデータは、例えば評価式に変換することが考えられる。また、制約式で誤差を許容する場合には、不等式を利用しても良い。
【0038】
各制約式は、非負条件付きの1次式である。評価関数(4)は、下に凸な区分線形関数である。各制約式および評価関数(4)は、最小化問題として表す。これは、線形計画問題になる。例えば、各制約式および評価関数(4)は、式(5)で示される標準形の線形計画問題として表される。
【0039】
Ax=b、x≧0
v、c
Txを最小化・・・式(5)
【0040】
ここで、Aは、各制約式および評価関数(4)から表わされる行列である。xは、未知の列ベクトルであり、解である。bは、計測データ情報21から表わされる列ベクトルである。「0
v」は、全要素が0の列ベクトルであるとする。「≧」は、ベクトルの要素ごとの比較である。Tは、行列の転置を表す。cは、列ベクトルである。x、b、cおよびAは、それぞれ式(6)〜式(9)で表わされる。
【0041】
x=(T
AB,T
AC,T
BA,T
BC,T
CA,T
CB,S
AB+,S
AB-,S
BC+,S
BC-,S
BA+,S
BA-,S
CB+,S
CB-,F
AB,F
BC,F
BA,F
CB)
T ・・・式(6)
【0042】
b=(G
A,A
A,G
B,A
B,G
C,A
C,P
AB,P
AB,P
BC,P
BC,P
BA,P
BA,P
CB,P
CB)
T ・・・式(7)
【0043】
c=(0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,1,1,1,1)
T ・・・式(8)
【0044】
【数1】
【0045】
ここで、式(6)のF
ABは、評価式(3.1)に対応する。式(6)のF
BCは、評価式(3.2)に対応する。式(6)のF
BAは、評価式(3.3)に対応する。式(6)のF
CBは、評価式(3.4)に対応する。
【0046】
次に、最適化部13は、式(5)で示される線形計画問題を解き、評価式(3.1)〜(3.4)で構成される評価関数(4)を最小にする解xを算出する。すなわち、最適化部13は、与えられた線形計画問題を解き、評価関数を最小にするOD情報の値を算出する。
【0047】
[最適化部の具体例]
最適化部13が線形計画問題を解いた結果の一例を、
図7を参照して説明する。
【0048】
図7は、最適化部の具体例を示す図である。
【0049】
ここでは、解xは、以下のように算出される。
x=(0,50,50,20,20,40,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0)
T【0050】
評価関数(4)の値は、0である。xの1要素目により、AB間のOD情報T
ABは、0である。xの2要素目により、AC間のOD情報T
ACは、50である。xの3要素目により、BA間のOD情報T
BAは、50である。xの4要素目により、BC間のOD情報T
BCは、20である。xの5要素目により、CA間のOD情報T
CAは、20である。xの6要素目により、CB間のOD情報T
CBは、40である。
【0051】
この結果、解として得られた0時から1時のOD情報は、
図7上図に表わされる。すなわち、A駅からB駅への0時から1時のOD情報T
ABは、0である。A駅からC駅への0時から1時のOD情報T
ACは、50である。B駅からA駅への0時から1時のOD情報T
BAは、50である。B駅からC駅への0時から1時のOD情報T
BCは、20である。C駅からA駅への0時から1時のOD情報T
CAは、20である。C駅からB駅への0時から1時のOD情報T
CBは、40である。
【0052】
なお、与えられた線形計画問題の解xは、以下のようにも算出される。
x=(40,10,10,60,60,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0)
T解として得られた0時から1時のOD情報は、
図7下図に表わされる。したがって、与えられた線形計画問題により最適化された解は、一意的でないことがわかる。すなわち、不定解であることがわかる。
【0053】
そこで、不定性判定部14は、与えられた線形計画問題の解が不定解である場合には、解の存在範囲に関連した解の不定性の尺度を算出する。ここで、線形計画問題の解の一意性の判定および解の不定性の尺度を算出する1つの手法について説明する。
【0054】
[解の一意性の判定および解の不定性の程度の算出]
まず、与えられた線形計画問題を、式(5)のように標準形で表わす。最適化部13で得られた解をx
0とする。x
0の要素のうち、値が0であるような添え字の集合をK、値が正であるような添え字の集合をJとする。また、Aの最下行にc
Tを追加した行列をA’とする。線形計画問題の解の一意性の判定および解の不定性の程度の算出には、以下の定理を用いる。
【0055】
[定理]
x
0が一意的であることは、以下の条件と同値である。A’
Jの列ベクトルは線形独立であり、かつA’x=0
v、x≧−x
0の制約条件で1
vTx
Kを最大化するxの絶対値ノルム(要素の絶対値の和)|x|は0である。但し、A’
Jは、A’から要素Jの列ベクトルだけを抜き出した部分行列であるとする。0
vは、全要素が0の列ベクトルであるとする。x
Kは、xから要素Kだけを抜き出した列ベクトルであるとする。1
vは、全要素が1の列ベクトルであるとする。
【0056】
[証明(対偶の証明)]
x
0以外に解が存在すると仮定する。x
0以外の解をx
0+xと置くと、x
0+xはx
0以外の解であるので、xは0
vでない。また、明らかに、A’x=0
v、x≧−x
0が成り立つ。x≧−x
0とKの定義からx
K≧0
vがしたがう。ここで、A’
Jの列ベクトルが線形独立、かつx
K=0
vと仮定すると、A’x=0
vよりA’
Jx
J=0
vとなり、x
J=0
vが導かれ、xが0
vでないことと矛盾する。但し、x
Jは、xから要素Jだけを抜き出した列ベクトルである。したがって、x
0以外に解が存在すると仮定した場合には、x
Kが0
vでないか、A’
Jの列ベクトルが線形従属であるかのどちらかが成り立つ。x
Kが0
vでない場合、1
vTx
Kの最大値を与えるxは0
vでない。逆向きの証明も、A’
Jの列ベクトルが線形従属である場合、A’
Jx
J=0
vを満たす0
vでないx
Jが取れ、x
K=0
vを用い、大きさを十分小さく取れば制約条件x≧−x
0を満たすことに留意すれば、同様に証明できる。
【0057】
かかる定理から、最適化部13で得られた解x
0に対して、A’
Jの列ベクトルが線形従属、または、A’
Jの列ベクトルが線形独立で(定理の制約条件を満たし)1
vTx
Kを最大化するxが0
vでない場合には、解が一意的でない場合と判定する。A’
Jの列ベクトルが線形従属の場合の不定性判定部14の処理は後述する。A’
Jの列ベクトルが線形独立の場合、上記定理の証明から、x
0+xも与えられた線形計画問題の解になることがわかる。
【0058】
[解の存在範囲]
これらの解を高次元空間の点として、
図8を参照して、解の存在範囲について説明する。
図8は、解の存在範囲を説明する図である。
図8に示すように、解の凸性から、x
0とx
0+xの2点を結んだ線分上の全ての点も解になる。
【0059】
さらに、上記の定理の系として、解が一意的でなくA’
Jの列ベクトルが線形独立の場合には、x
0とx
0+xの2点を結んだ線分を外側に延長した点(
図8の破線)は解にならない。つまり、この線分は、解の存在範囲を表わしている。これにより、与えられた線形計画問題の解の不定性の尺度として、この線分の長さを用いることができる。
【0060】
この線分の長さは、例えば、変位ベクトルxの絶対値ノルム|x|で(
図8のa+bに相当)求めることができる。しかしながら、変位ベクトルxの絶対値ノルム|x|はOD情報の未知数の個数に伴って大きくなるため、OD情報の未知数の個数で割った平均値(
図8の(a+b)/2に相当)がより好ましい。これにより、実施例では、与えられた線形計画問題の解の不定性の尺度として、1
vTx
Kを最大化するxの絶対値ノルム|x|をOD情報の未知数の個数で割った値を用いることとする。
【0061】
したがって、不定性の尺度が0であることと、解が一意的であることとは等価になる。解の不定性の程度が定量的に評価できるようになったので、解の不定性が小さく影響を及ぼさない場合と、解の不定性が大きく影響を及ぼす場合を区別することが可能となる。
【0062】
なお、x
0とx
0+xの2点を結んだ線分の最長性に関して補足する。上記の定理では、処理の効率性の観点から要素Kの値の総和1
vTx
K(
図8のbに相当)が最大となる線分を求めているが、必ずしも絶対値ノルム|x|(
図8のa+bに相当)が最大になるとは限らない。しかしながら、交通システムのOD情報の推定で用いられる線形計画問題においては、行列Aの要素は0や1が多く、各次元のスケールはほぼ等しくなると考えられる。このことから、上記の定理によって近似的には、絶対値ノルム|x|が最大の線分になると予想される。
【0063】
上述した解の不定性の尺度の算出に際し、不定性判定部14は、解によってはA’
Jの列ベクトルが線形従属になることがあるので、その場合には、線形独立になるように解を修正してから尺度を算出する。解の修正には、解において値0を取る要素を増やすことで、A’
Jの列ベクトルの本数を減らし、列ベクトルを線形独立化する。値0を取る要素を増やす方法としては、例えば、値が0に一致するという制約を付け加えた線形計画問題を解くことが考えられる。また、1
vTx
Kの最大化は、線形計画問題なので、従来技術の手法で解くことができる。
【0064】
[解の不定性の尺度の算出の具体例]
不定性判定部14は、上記方法を、
図2〜
図7で取り上げた問題に適用して、解の不定性の尺度を算出する。なお、OD情報の未知数の個数は、6である。
【0065】
まず、x
0が、以下で表わされる(
図7上図)。
x
0=(0,50,50,20,20,40,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0)
T【0066】
不定性判定部14は、x
0の要素より、値が正であるような添え字の集合Jおよび値が0であるような添え字の集合Kを、以下のように求める。なお、添え字は、1から数えるものとする。
J={2,3,4,5,6}
K={1,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18}
【0067】
したがって、不定性判定部14は、A’
Jを式(10)のように求める。
【数2】
【0068】
式(10)で表わされるA’
Jの行列の列ベクトルは、線形独立であることがわかる。
【0069】
そこで、不定性判定部14は、A’x=0、x≧−x
0の制約条件で1
vTx
Kを最大化する。なお、xの各要素をx
1、x
2、・・・、x
18で表わす。
【0070】
すると、制約条件を満たすxは、以下のように表わされる。
x=x
1(1,-1,-1,1,1,-1,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0)
T、x
1≧0、x
1≦40
評価関数1
vTx
Kは、x
1に等しくなる。したがって、不定性判定部14は、この線形計画問題の最大値を40として求め、絶対値ノルム|x|を240として求める。そして、不定性判定部14は、絶対値ノルム|x|としての240を未知数の個数6で割った値40を不定性の尺度として求める。なお、かかる40という値は、
図7上図および
図7下図のOD情報の各要素の差に等しい。
【0071】
そして、不定性判定部14は、不定性の尺度が予め定められた閾値以上であるか否かを判定する。ここでは、閾値を1とする。すると、不定性判定部14は、不定性の尺度が閾値を超えているので、与えられたデータではOD情報を定めることはできないと判定する。すなわち、不定性判定部14は、OD情報の不定性が影響を及ぼすと判断する。
【0072】
[OD情報の不定性の影響]
ここで、OD情報の不定性の影響について説明する。OD情報が一意的に定まらないとしても、計測データ情報21から得られた制約式を満たし評価関数を最小にするので、交通利用環境が変わらなければ、交通システムの混雑予測や渋滞予測に用いることができる。しかしながら、例えば事故などの異常発生時の場合には、OD情報の不定性により精度が劣化した非現実的な予測結果が得られることがある。そこで、
図2で取り上げた鉄道路線図を一例として、列車が遅延する場合を取り上げて、OD情報の不定性が影響を及ぼす、すなわち予測精度の低下を引き起こすことを示す。
【0073】
図9A〜
図9Dは、OD情報の不定性の影響を説明する図である。
【0074】
まず、
図9Aに示すように、0時から1時の正解OD情報、1時から2時の正解OD情報が得られたとする。それぞれの正解OD情報は、対象となる鉄道を利用する利用者に対する調査(アンケート)などにより、得られる。ここでは、
図9A上左図が、0時から1時の正解OD情報である。以降、0時から1時の正解OD情報のことを正解OD
01という。
図9A上右図が、1時から2時の正解OD情報である。なお、以降、1時から2時の正解OD情報のことを正解OD
12という。
【0075】
次に、正解OD
01と正解OD
12とから、1時から2時の各駅の入出場者数および2時の列車の乗車人数を示す計測データ情報21が計算される。ここでは、
図9A中図が、1時から2時の各駅の入出場者数および2時の列車の乗車人数である。A駅の入場者数G
Aは、70である。A駅の出場者数A
Aは、40である。B駅の入場者数G
Bは、50である。B駅の出場者数A
Bは、70である。C駅の入場者数G
Cは、60である。C駅の出場者数A
Cは、70である。そして、A駅からB駅への(AB間での)列車の乗車人数P
ABは、70である。B駅からA駅への(BA間での)列車の乗車人数P
BAは、40である。B駅からC駅への(BC間での)列車の乗車人数P
BCは、70である。C駅からB駅への(CB間での)列車の乗車人数P
CBは、60である。なお、1時から2時の各駅の入場者数および2時の列車の乗車人数を示す計測データ情報21は、符号D
12で示す場合がある。0時から1時の各駅の入場者数および1時の列車の乗車人数は、
図5の符号D
01で示したとおりである。
【0076】
図9A中図で示した計測データ情報21に対して、式変換部12による処理、最適化部13による処理が行われ、OD情報が算出される。ここでは、
図9A下図が、解として得られた1時から2時のOD情報である。A駅からB駅への1時から2時のOD情報T
ABは、50である。A駅からC駅への1時から2時のOD情報T
ACは、20である。B駅からA駅への1時から2時のOD情報T
BAは、0である。B駅からC駅への1時から2時のOD情報T
BCは、50である。C駅からA駅への1時から2時のOD情報T
CAは、40である。C駅からB駅への1時から2時のOD情報T
CBは、20である。なお、以降、解として得られた1時から2時のOD情報のことを解OD
12という。また、解として得られた0時から1時のOD情報(解OD
01)は、
図7上図に示したとおりである。
【0077】
次に、
図9Bに示すように、1時の列車が次の2パターンで30分遅延するときに、各駅の入出場者数と各列車の乗車人数がどうなるかを考察する。
図9B上図は、遅延パターンxであり、A駅で30分遅延してA駅を1時半に出発した場合である。
図9B下図は、遅延パターンyであり、B駅で30分遅延してB駅を1時半に出発した場合である。なお、説明の便宜上、利用者が以下のように行動する場合とする。利用者は、正解OD情報にしたがって、鉄道を利用する。利用者は、各時間帯で一様に駅に到着する。利用者は、列車が遅延しても他の行動を行わず、遅延した列車を待つ。
【0078】
次に、
図9Cに示すように、遅延パターンxおよび遅延パターンyに対する、正解の各駅の入出場者数および各列車の乗車人数が、正解OD
01および正解OD
12を用いて、算出される。
図9Cには、遅延パターンxの正解として、0時から1時の各駅の入出場者数および1時と1時半の列車の乗車人数が算出されている(Dx
01)。遅延パターンxの正解として、1時から2時の各駅の入出場者数および2時の列車の乗車人数が算出されている(Dx
12)。遅延パターンyの正解として、0時から1時の各駅の入出場者数および1時と1時半の列車の乗車人数が算出されている(Dy
01)。遅延パターンyの正解として、1時から2時の各駅の入出場者数および2時の列車の乗車人数が算出されている(Dy
12)。
【0079】
これに対して、
図9Dに示すように、遅延パターンxおよび遅延パターンyに対する、各駅の入出場者数および各列車の乗車人数が、解として得られたOD情報(解OD
01および解OD
12)を用いて、算出される。
図9Dには、遅延パターンxの推定値として、0時から1時の各駅の入出場者数および1時と1時半の列車の乗車人数が算出されている(Dx
01´)。遅延パターンxの推定値として、1時から2時の各駅の入出場者数および2時の列車の乗車人数が算出されている(Dx
12´)。遅延パターンyの推定値として、0時から1時の各駅の入出場者数および1時と1時半の列車の乗車人数が算出されている(Dy
01´)。遅延パターンyの推定値として、1時から2時の各駅の入出場者数および2時の列車の乗車人数が算出されている(Dy
12´)。
【0080】
ここで、
図9Cで示される遅延パターンの正解と、
図9Dで示される遅延パターンの推定値とを比較する。
【0081】
例えば、遅延パターンxの正解Dx
01と遅延パターンxの推定値Dx
01´とを比較する。すると、遅延パターンxの正解Dx
01におけるB駅の出場者数A
Bが20であるのに対して、遅延パターンxの推定値Dx
01´におけるB駅の出場者数A
Bが40である。したがって、遅延パターンxの推定値Dx
01´におけるB駅の出場者数A
Bは、遅延パターンxの正解Dx
01と異なることがわかる。
【0082】
また、遅延パターンxの正解Dx
12と遅延パターンxの推定値Dx
12´とを比較する。すると、遅延パターンxの正解Dx
12におけるB駅の出場者数A
Bが90であるのに対して、遅延パターンxの推定値Dx
12´におけるB駅の出場者数A
Bが70である。したがって、遅延パターンxの推定値Dx
12´におけるB駅の出場者数A
Bは、遅延パターンxの正解Dx
12と異なることがわかる。
【0083】
また、遅延パターンyの正解Dy
01と遅延パターンyの推定値Dy
01´とを比較する。すると、遅延パターンyの正解Dy
01におけるB駅からA駅への(BA間での)列車の乗車人数P
BAが80であるのに対して、遅延パターンyの推定値Dy
01´におけるBA間での列車の乗車人数P
BAが70である。したがって、遅延パターンyの推定値Dy
01´におけるBA間での列車の乗車人数P
BAは、遅延パターンyの正解Dy
01と異なることがわかる。
【0084】
また、遅延パターンyの正解Dy
12と遅延パターンyの推定値Dy
12´とを比較する。すると、遅延パターンyの正解Dy
12におけるBA間での列車の乗車人数P
BAが30であるのに対して、遅延パターンyの推定値Dy
12´におけるBA間での列車の乗車人数P
BAが40である。したがって、遅延パターンyの推定値Dy
12´におけるBA間での列車の乗車人数P
BAは、遅延パターンyの正解Dy
12と異なることがわかる。
【0085】
これにより、OD情報の不定性は、影響を及ぼす、すなわち、予測精度の低下を引き起こすことがわかる。
【0086】
[式修正部の具体例]
そこで、式修正部15は、OD情報の不定性が減少するように、計測データ情報21を増やして、式を修正する。代表的な方法として、未知数の共通化が挙げられる。これは、複数の計測データ情報21に対して共通の平均的なOD情報を定めるものである。式修正部15は、類似した交通利用環境で計測された計測データ情報21を用いることで、OD情報を共通化することによる誤差を低く抑制できる。
【0087】
現に用いられている計測データ情報21は、
図5で示した0時から1時の計測データ情報21(D
01)である。すなわち、0時から1時の各駅の入出場者数および1時の列車の乗車人数である。増やす計測データ情報21の一例として、
図9A中図で示した遅延がないときの1時から2時の計測データ情報21(D
12)および
図9Cで示した遅延パターンxの正解の計測データ情報21(Dx
01、Dx
12)が挙げられる。かかる例では、OD情報は、0時から1時および1時から2時の2種類となる。式修正部15は、遅延がないときの計測データ情報21と遅延パターンxの計測データ情報21とを合わせて未知数を共通化した式を生成する。未知数の個数は、0時から1時の場合と1時から2時の場合とを加えた12となる。
【0088】
この後、最適化部13は、式修正部15によって修正された式に対して、与えられた線形計画問題を解き、評価関数を最小にするOD情報の値を算出する。算出されたOD情報は、0時から1時については、
図9Aに示した0時から1時の正解OD情報(正解OD
01)と一致する。また、算出されたOD情報は、1時から2時については、
図9Aに示した1時から2時のOD情報(解OD
12)と一致する。
【0089】
次に、不定性判定部14は、最適化部13によって最適化された解であるOD情報の不定性の尺度を算出する。すなわち、不定性判定部14は、解の存在範囲を算出する。ここでは、A’
Jの列ベクトルは線形独立であり、1
vTx
Kを最大化するxの絶対値ノルム|x|は、240である。したがって、不定性判定部14は、絶対値ノルム240をOD情報の未知数の個数12で割った値20を、OD情報の尺度として算出する。
【0090】
そして、不定性判定部14は、不定性の尺度が予め定められた閾値以上であるか否かを判定する。ここでは、閾値を1とする。すると、不定性判定部14は、不定性の尺度「20」が閾値「1」を超えているので、与えられたデータではOD情報を定めることはできないと判定する。すなわち、不定性判定部14は、OD情報の不定性の影響があると判断する。
【0091】
そして、式修正部15は、OD情報の不定性が減少するように、計測データ情報21を増やして、式を修正する。増やす計測データ情報21の一例として、
図9A中図で示した遅延がないときの1時から2時の計測データ情報21(D
12)および
図9Cで示した遅延パターンxの正解の計測データ情報21(Dx
01、Dx
12)が挙げられる。さらに、増やす計測データ情報21の一例として、
図9Cで示した遅延パターンyの正解の計測データ情報21(Dy
01、Dy
12)が挙げられる。
【0092】
この後、最適化部13は、式修正部15によって修正された式に対して、与えられた線形計画問題を解き、評価関数を最小にするOD情報の値を算出する。算出されたOD情報は、0時から1時については、
図9Aに示した0時から1時の正解OD情報(正解OD
01)と一致する。また、算出されたOD情報は、1時から2時については、
図9Aに示した1時から2時の正解OD情報(正解OD
12)と一致する。
【0093】
次に、不定性判定部14は、最適化部13によって最適化された解であるOD情報の不定性の尺度を算出する。すなわち、不定性判定部14は、解の存在範囲を算出する。ここでは、A’
Jの列ベクトルは線形独立であり、1
vTx
Kを最大化するxの絶対値ノルム|x|は、0である。したがって、不定性判定部14は、絶対値ノルム0をOD情報の未知数の個数で割った値0を、OD情報の尺度として算出する。
【0094】
そして、不定性判定部14は、不定性の尺度が予め定められた閾値以上であるか否かを判定する。ここでは、閾値を1とする。すると、不定性判定部14は、不定性の尺度「0」が閾値「1」未満であるので、不定性は許容範囲であり、与えられたデータでOD情報を定めることは可能と判定する。すなわち、不定性判定部14は、OD情報の不定性の影響がないと判断する。
【0095】
この後、出力部16は、算出されたOD情報を出力する。
【0096】
[推定処理のフローチャート]
次に、実施例に係る推定処理のフローチャートを、
図10を参照して説明する。
図10は、実施例に係る推定処理のフローチャートの一例を示す図である。
【0097】
まず、入力部11は、計測データ情報21を読み込む(ステップS11)。例えば、入力部11は、所定期間の各駅の入場者数および出場者数ならびに隣接駅間での列車の乗車人数を計測データ情報21として入力する。計測データ情報21は、一例として、カメラや重量計などを用いて計測された情報である。
【0098】
そして、式変換部12は、読み込んだ計測データ情報21のそれぞれのデータを、交通システムに対応づけられたモデルであって複数の駅間の交通量を推定するモデルを記述する式に変換する(ステップS12)。例えば、式変換部12は、計測データ情報21のそれぞれのデータを、
図6に示した制約式、評価式および評価関数を含む式に変換する。かかる式は、OD情報を未知数とするものである。
【0099】
そして、最適化部13は、式変換部12によって変換された式から構成される線形計画問題の最適化を行う(ステップS13)。例えば、最適化部13は、変換された制約式、評価式および評価関数を式(5)で示される標準形の線形計画問題として表し、式(6)で表わされるxを算出する。
【0100】
そして、不定性判定部14は、最適化部13によって最適化された解の不定性の尺度を算出する(ステップS14)。なお、解の不定性の尺度を算出する処理のフローチャートは、後述する。
【0101】
そして、不定性判定部14は、解の不定性の尺度が閾値未満であるか否かを判定する(ステップS15)。
【0102】
解の不定性の尺度が閾値未満でないと判定した場合には(ステップS15;No)、不定性判定部14は、与えられたデータではOD情報を定めることはできないと判定する。すなわち、不定性判定部14は、OD情報の不定性の影響があると判断する。そして、式修正部15は、OD情報の不定性が減少するように、計測データ情報21を増やして、式を修正する(ステップS16)。そして、式修正部15は、最適化部13に最適化処理をさせるべく、ステップS13に移行する。
【0103】
一方、解の不定性の尺度が閾値未満であると判定した場合には(ステップS15;Yes)、不定性判定部14は、不定性は許容範囲であり、与えられたデータでOD情報を定めることは可能であると判定する。すなわち、不定性判定部14は、OD情報の不定性の影響がないと判断する。そして、出力部16は、最適化された結果をOD情報として出力する(ステップS17)。そして、推定処理は、終了する。
【0104】
[解の不定性の尺度を算出する処理のフローチャート]
次に、実施例に係る解の不定性の尺度を算出する処理のフローチャートを、
図11を参照して説明する。
図11は、実施例に係る解の不定性の尺度を算出する処理のフローチャートの一例を示す図である。
【0105】
図11に示すように、不定性判定部14は、A’
Jの列ベクトルは線形独立であるか否かを判定する(ステップS21)。ここでいうA’は、Aの最下行にc
Tを追加した行列のことをいう。A’
Jは、A’から要素Jの列ベクトルだけを抜き出した部分行列である。Jは、解x
0の要素のうち、値が正であるような添え字の集合を示す。
【0106】
A’
Jの列ベクトルは線形独立でないと判定した場合には(ステップS21;No)、不定性判定部14は、A’
Jの列ベクトルが線形独立になるように、解を修正する(ステップS22)。そして、不定性判定部14は、ステップS21に移行する。
【0107】
一方、A’
Jの列ベクトルは線形独立であると判定した場合には(ステップS21;Yes)、不定性判定部14は、1
vTx
Kを最大化するxの絶対値ノルムを算出する(ステップS23)。
【0108】
そして、不定性判定部14は、算出した絶対値ノルムをOD情報の未知数の個数で割った値を、不定性の尺度として算出する(ステップS24)。そして、解の不定性の尺度を算出する処理は、終了する。
【0109】
[実施例の効果]
上記実施例によれば、推定装置1は、複数の地点を結ぶ交通システムにおいて計測される複数の計測データを用いて、交通システムに対応づけられた、複数の地点間の交通量を推定するモデルを記述する式のパラメータを、最適化問題を解く手法を利用して算出する。推定装置1は、算出により不定解が得られた場合、最適化問題を解く手法における不定解の範囲に関連した不定性情報を生成する。推定装置1は、不定性情報に応じて、複数の計測データの追加、または不定解の出力を判定する。かかる構成によれば、推定装置1は、複数の計測データを式に用いることで、OD情報の推定に活用できる。そして、推定装置は、解が不定解であっても、不定解の範囲に関連した不定性情報を用いることで、計測データを追加することが可能となり、さらに追加した計測データを含んだ複数の計測データを式に用いることで、妥当なOD情報を推定することができる。また、推定装置1は、交通システムにおいて、入手可能なデータを用いて、妥当なOD情報を推定することができる。また、推定装置1は、計測データの入手困難な交通システムに対応づけられたモデルについて、モデルの妥当性の評価を反映した、複数の地点間の交通量を示すOD情報の推定を行うことができる。
【0110】
また、上記実施例によれば、推定装置1は、最適化問題を解く手法における不定解の範囲と複数の地点の数に基づき不定性情報を生成する。かかる構成によれば、推定装置1は、不定解の範囲が複数の地点の数に伴って大きくなるため、不定性情報を不定解の範囲と複数の地点の数に基づき生成することで、不定解の範囲の尺度を定量的に求めることが可能となる。
【0111】
また、計測データは、地点での発生交通量、地点での集中交通量および交通手段の配分交通量である。かかる構成によれば、推定装置1は、いかなる交通システムであっても、入手可能な計測データを用いて、妥当なOD情報を推定することができる。
【0112】
また、推定装置1は、複数の計測データを、OD情報の総量の制約が与えられた発生交通量に等しいとする1次式等式制約に変換する。推定装置1は、複数の計測データを、OD情報の総量の制約が与えられた集中交通量に等しいとする1次式等式制約に変換する。推定装置1は、OD情報から推定される配分交通量と与えられた配分交通量との差から構成される評価関数に変換する。そして、推定装置1は、変換した式の、OD情報に関わるパラメータを、最適化問題を解く手法を利用して算出する。かかる構成によれば、推定装置1は、複数の計測データを用いた最適化問題を解く手法を利用してOD情報に関わるパラメータを算出することで、OD情報を推定することができる。
【0113】
また、最適化問題を解く手法は、線形計画法である。かかる構成によれば、推定装置1は、線形計画法を用いることで、OD情報を高速に推定することができる。
【0114】
[その他]
なお、実施例では、OD情報は、所定の一定時間間隔(例えば、1時間)で出発地を基準に集計したが、これに限定されない。OD情報は、任意の時間の間隔で出発地を基準に集計しても良いし、所定の一定時間間隔または任意の時間の間隔で到着地を基準に集計しても良い。出発地基準は、利用者が事故などの交通環境の変化を知らない場合に有用であると考えられる。到着地基準は、利用者が交通環境の変化を知る将来的な交通需要の予測において有用であると考えられる。また、OD情報は、快速および各駅停車などの列車の種別ごとに推定されても良い。
【0115】
また、式変換部12は、駅の入出場者数について、制約式に変換すると説明したが、これに限定されない。式変換部12は、駅内のプラットフォームなどの、駅より細かい粒度で入出場者数を計測可能な場合には、粒度に応じてOD情報の和を取る制約式に変換しても良い。
【0116】
また、式変換部12は、駅間の列車運行時間は十分短いものとしたが、駅間の列車運行時間が無視できない場合には、列車での移動時間を考慮したOD情報の和の制約式に変換しても良い。
【0117】
また、式変換部12は、快速と各駅停車などの複数の列車の種別が存在する場合には、例えば、最短時間を与える列車に乗車すると想定して、評価式に変換しても良い。これは、一般の交通システムでは、2地点間に複数の経路が存在する場合に対応する。
【0118】
また、式変換部12は、乗車人数の計測値が誤差を含み、[a、b]の範囲と表わされる場合、差の絶対値の代わりに、例えば、max(a−z,0,z−b)で表わされる関数f(z)でOD情報から予測される乗車人数zを評価する評価式を用いても良い。
【0119】
また、式修正部15は、OD情報の不定性が減少するように、計測データ情報21を増やして、式を修正すると説明した。しかしながら、式修正部15は、OD情報の不定性が減少するように、予め定められた式を追加して、式を修正しても良い。例えば、過去の統計によって駅iから駅jへのOD情報の平均値μ
ijが得られている場合、式修正部15は、εΣ
ij|T
ij−μ
ij|を評価関数に加えることで、式を修正する。ここで、εは、所定の正数である。Σ
ijは、全てのijの組み合わせに対して和を取ることを示す。
【0120】
また、推定装置1は、既知のパーソナルコンピュータ、ワークステーションなどの情報処理装置に、上記した制御部10および記憶部20などの各機能を搭載することによって実現することができる。
【0121】
また、図示した装置の各構成要素は、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、装置の分散・統合の具体的態様は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。例えば、入力部11と出力部16とを1個の部として統合しても良い。一方、不定性判定部14を、解が不定解であるか否かを判定する第1の判定部と、解が不定解である場合に不定性の尺度を算出する算出部と、不定性の尺度が閾値以上であるか否かを判定する第2の判定部とに分散しても良い。また、記憶部20を推定装置1の外部装置として接続するようにしても良いし、ネットワーク経由で接続するようにしても良い。
【0122】
また、上記実施例で説明した各種の処理は、あらかじめ用意されたプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することによって実現することができる。そこで、以下では、
図1に示した推定装置1と同様の機能を実現する推定プログラムを実行するコンピュータの一例を説明する。
図12は、推定プログラムを実行するコンピュータの一例を示す図である。
【0123】
図12に示すように、コンピュータ200は、各種演算処理を実行するCPU203と、ユーザからのデータの入力を受け付ける入力装置215と、表示装置209を制御する表示制御部207とを有する。また、コンピュータ200は、記憶媒体からプログラムなどを読取るドライブ装置213と、ネットワークを介して他のコンピュータとの間でデータの授受を行う通信制御部217とを有する。また、コンピュータ200は、各種情報を一時記憶するメモリ201と、HDD205を有する。そして、メモリ201、CPU203、HDD205、表示制御部207、ドライブ装置213、入力装置215、通信制御部217は、バス219で接続されている。
【0124】
ドライブ装置213は、例えばリムーバブルディスク210用の装置である。HDD205は、推定プログラム205aおよび推定関連情報205bを記憶する。
【0125】
CPU203は、推定プログラム205aを読み出して、メモリ201に展開し、プロセスとして実行する。かかるプロセスは、推定装置1の各機能部に対応する。推定関連情報205bは、例えば、計測データ情報21に対応する。そして、例えばリムーバブルディスク210が、推定プログラム205aなどの各情報を記憶する。
【0126】
なお、推定プログラム205aについては、必ずしも最初からHDD205に記憶させておかなくても良い。例えば、コンピュータ200に挿入されるフレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、DVDディスク、光磁気ディスク、ICカード等の「可搬用の物理媒体」に当該プログラムを記憶させておく。そして、コンピュータ200がこれらから推定プログラム205aを読み出して実行するようにしても良い。