(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記IDT電極の電極指ピッチが最も小さい前記並列腕共振子の前記共通接続端子側に、直列に前記インダクタが接続されている、請求項1または2に記載のフィルタ装置。
前記IDT電極の電極指ピッチが最も小さい前記並列腕共振子が、前記複数の弾性波共振子のうち最も前記共通接続端子側に配置されている、請求項1、2、5または6のいずれか1項に記載のフィルタ装置。
前記IDT電極の電極指ピッチが最も小さい前記直列腕共振子が、前記複数の弾性波共振子のうち最も前記共通接続端子側に配置されている、請求項3または4に記載のフィルタ装置。
前記共通接続端子に、前記第1の帯域通過型フィルタ及び前記第2の帯域通過型フィルタと共通接続された少なくとも1つの帯域通過型フィルタをさらに備える、請求項1〜13のいずれか1項に記載のフィルタ装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0014】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0015】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るフィルタ装置の回路図である。
【0016】
フィルタ装置10は、共通接続端子3と、共通接続端子3に共通接続されている第1の帯域通過型フィルタ1及び第2の帯域通過型フィルタ2とを有する。第2の帯域通過型フィルタ2の通過帯域は、第1の帯域通過型フィルタ1の通過帯域よりも低域側に位置する。本実施形態では、共通接続端子3はアンテナに接続されるアンテナ端子である。フィルタ装置10はデュプレクサであり、第1の帯域通過型フィルタ1は受信フィルタであり、第2の帯域通過型フィルタ2は送信フィルタである。
【0017】
なお、第1の帯域通過型フィルタ1及び第2の帯域通過型フィルタ2は、受信フィルタ及び送信フィルタのうちいずれであってもよく、例えば、第1の帯域通過型フィルタ1及び第2の帯域通過型フィルタ2が両方とも受信フィルタであってもよい。フィルタ装置10は、第1の帯域通過型フィルタ1及び第2の帯域通過型フィルタ2を含む3つ以上の帯域通過型フィルタが共通接続端子3に接続された、マルチプレクサであってもよい。
【0018】
図1に示すように、第1の帯域通過型フィルタ1は、複数の直列腕共振子及び複数の並列腕共振子を有するラダー型フィルタである。複数の直列腕共振子及び複数の並列腕共振子は、いずれも弾性波共振子である。
【0019】
第1の帯域通過型フィルタ1は、共通接続端子3に接続されており、かつ共通接続端子3以外の第1の信号端子4にも接続されている。共通接続端子3と第1の信号端子4との間に、直列腕共振子S1、直列腕共振子S2、直列腕共振子S3及び直列腕共振子S4が互いに直列に接続されている。複数の直列腕共振子のうち、直列腕共振子S1が最も共通接続端子3側に配置されている。
【0020】
共通接続端子3と直列腕共振子S1との間の接続点とグラウンド電位との間には、並列腕共振子P1が接続されている。直列腕共振子S1と直列腕共振子S2との間の接続点とグラウンド電位との間には、並列腕共振子P2が接続されている。直列腕共振子S2と直列腕共振子S3との間の接続点とグラウンド電位との間には、並列腕共振子P3が接続されている。直列腕共振子S3と直列腕共振子S4との間の接続点とグラウンド電位との間には、並列腕共振子P4が接続されている。本実施形態では、最も共通接続端子3側に配置された弾性波共振子は、並列腕共振子P1である。
【0021】
第1の帯域通過型フィルタ1は、並列腕共振子P1のグラウンド電位側に直列に接続されている、インダクタLを有する。インダクタLは、チップインダクタ、あるいは、フィルタチップ上の配線またはパッケージ上の配線により形成してもよい。
【0022】
他方、第2の帯域通過型フィルタ2の回路構成は特に限定されないが、本実施形態では、第2の帯域通過型フィルタ2はラダー型フィルタである。第2の帯域通過型フィルタ2は、共通接続端子3に接続されており、かつ共通接続端子3以外の第2の信号端子5にも接続されている。共通接続端子3と第2の信号端子5とを結ぶ直列腕に、直列腕共振子S101、直列腕共振子S102、直列腕共振子S103、直列腕共振子S104及び直列腕共振子S105が配置されている。各直列腕共振子の間の接続点とグラウンド電位とを結ぶ各並列腕に、並列腕共振子P101、並列腕共振子P102、並列腕共振子P103及び並列腕共振子P104がそれぞれ配置されている。なお、第2の帯域通過型フィルタ2は縦結合共振子型弾性波フィルタなどであってもよい。
【0023】
ここで、第1の帯域通過型フィルタは圧電性基板6を有する。圧電性基板6上において、上記複数の弾性波共振子が構成されている。以下において、第1の帯域通過型フィルタ1の弾性波共振子の詳細を説明する。
【0024】
図2は、第1の実施形態における第1の帯域通過型フィルタの弾性波共振子の平面図である。なお、
図2に示す弾性波共振子は、最も共通接続端子側に配置されている並列腕共振子P1である。
図2において、並列腕共振子P1に接続された配線は省略している。
【0025】
並列腕共振子P1は、圧電性基板6と、圧電性基板6上に設けられているIDT電極7とを有する。IDT電極7に交流電圧を印加することにより、弾性波が励振される。圧電性基板6上におけるIDT電極7の弾性波伝搬方向両側に、一対の反射器8及び反射器9が設けられている。
【0026】
圧電性基板6は、本実施形態では圧電体層のみからな
る基板である。より具体的には、圧電性基板6はタンタル酸リチウム基板である。もっとも、圧電性基板6は圧電体層を含む積層体であってもよい。
【0027】
IDT電極7は、対向し合う第1のバスバー13及び第2のバスバー14を有する。IDT電極7は、第1のバスバー13にそれぞれ一端が接続された複数の第1の電極指15を有する。さらに、IDT電極7は、第2のバスバー14にそれぞれ一端が接続された複数の第2の電極指16を有する。複数の第1の電極指15と複数の第2の電極指16とは互いに間挿し合っている。
【0028】
IDT電極7は、複数の金属層が積層された積層金属膜からなっていてもよく、あるいは単層の金属膜からなっていてもよい。反射器8及び反射器9も、IDT電極7と同様の材料からなる。
【0029】
並列腕共振子P1以外の各弾性波共振子も同様に、圧電性基板6上に設けられたIDT電極及び反射器を有する。本実施形態においては、第1の帯域通過型フィルタ1の並列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチのうち、最も共通接続端子3側に配置されている並列腕共振子P1におけるIDT電極7の電極指ピッチが最も小さい。より具体的には、並列腕共振子P1におけるIDT電極7の電極指ピッチは、第1の帯域通過型フィルタ1の他のどの並列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチよりも小さい。なお、電極指ピッチとは、隣り合う電極指における電極指中心間距離をいう。この並列腕共振子P1に直列に上記インダクタLが接続されている。インダクタLのインダクタンスは特に限定されないが、本実施形態では1.5nHである。
【0030】
第1の帯域通過型フィルタ1の各弾性波共振子においては、主モードとして、SHタイプの表面波であるリーキー波が励振される。本実施形態のフィルタ装置10はSH波の一種であるリーキー波を利用している。なお、第1の帯域通過型フィルタ1においては、不要波であるレイリー波のレスポンスも生じることとなる。
【0031】
第1の帯域通過型フィルタ1及び第2の帯域通過型フィルタ2は同一チップ内において構成されている。本明細書において、同一チップ内において構成されているとは、同じ圧電性基板6において構成されていることをいう。なお、第1の帯域通過型フィルタ1及び第2の帯域通過型フィルタ2は、異なる基板において構成されていてもよい。
【0032】
本実施形態の特徴は、SH波を利用しており、第1の帯域通過型フィルタ1の複数の並列腕共振子のうちIDT電極の電極指ピッチが最も小さい並列腕共振子P1に、直列にインダクタが接続されていることにある。それによって、第1の帯域通過型フィルタ1のフィルタ特性の劣化を招かずして、第2の帯域通過型フィルタ2の通過帯域に対するレイリー波によるレスポンスの影響を抑制することができる。これを、本実施形態と第1〜第3の比較例とを比較することにより、以下において説明する。
【0033】
第1の比較例は、インダクタを有しない点と、最も共通接続端子側に配置された並列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチが他の並列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチと同じである点とにおいて、第1の実施形態と異なる。第2の比較例は、最も共通接続端子側に配置された並列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチが他の並列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチと同じである点において第1の実施形態と異なる。第3の比較例は、インダクタを有しない点において第1の実施形態と異なる。
【0034】
第1の実施形態の構成を有するフィルタ装置及び第1〜第3の比較例のフィルタ装置をそれぞれ作製した。各フィルタ装置の条件は以下の通りである。
【0035】
通信バンド…Band66
第1の帯域通過型フィルタの通過帯域…2110MHz〜2200MHz
第2の帯域通過型フィルタの通過帯域…1710MHz〜1780MHz
圧電性基板の材料…タンタル酸リチウム(LiTaO
3)
圧電性基板のオイラー角…(0°±5°,θ,0°±5°)、θ
=−54°〜−42°
【0036】
なお、上記オイラー角における0°±5°は、−5°以上、5°以下の範囲内であることを示す。第1の実施形態及び第2の比較例におけるインダクタのインダクタンスは1.5nHとした。
【0037】
第1の実施形態及び第3の比較例における第1の帯域通過型フィルタの各弾性波共振子の設計パラメータは下記の表1に示す通りである。他方、第1の比較例及び第2の比較例における第1の帯域通過型フィルタの各弾性波共振子の設計パラメータは下記の表2に示す通りである。ここで、IDT電極において、弾性波伝搬方向に見て第1の電極指及び第2の電極指が重なり合う領域を交叉領域とする。交叉領域の、弾性波伝搬方向に直交する方向に沿う寸法を交叉幅とする。表1及び表2における波長は、IDT電極の電極指ピッチにより規定される波長である。
【0040】
図3は、第1の比較例のフィルタ装置の減衰量周波数特性を示す図である。実線は第1の帯域通過型フィルタの結果を示し、一点鎖線は第2の帯域通過型フィルタの結果を示す。
図3中の矢印R1は、第1の比較例におけるレイリー波のレスポンスを示す。
図3以外の図面においても同様である。
【0041】
図3に示すように、第1の比較例においては、第2の帯域通過型フィルタの通過帯域W2内にリップルが生じていることがわかる。このリップルは、矢印R1で示すレイリー波のレスポンスの周波数において生じている。このように、第2の帯域通過型フィルタの通過帯域W2内に生じるリップルは、第1の帯域通過型フィルタにおけるレイリー波に起因する。
【0042】
図4は、第1の比較例及び第2の比較例における第1の帯域通過型フィルタの減衰量周波数特性を示す図である。
図4において、実線は第2の比較例の結果を示し、破線は第1の比較例の結果を示す。矢印R2は第2の比較例におけるレイリー波のレスポンスを示す。
【0043】
図4中の矢印R1及び矢印R2で示すように、第1の比較例及び第2の比較例においては、第1の帯域通過型フィルタにおけるレイリー波によるレスポンスの周波数は変わらないことがわかる。第2の比較例においては、第1の比較例とは異なり、最も共通接続端子側に配置された並列腕共振子に直列にインダクタが接続されている。このように、並列腕共振子にインダクタを接続したことによっては、レイリー波によるレスポンスの周波数は変化しないことがわかる。なお、第2の比較例の減衰極の周波数は、第1の比較例の減衰極の周波数よりも低くなっている。
【0044】
図5は、第3の比較例のフィルタ装置の減衰量周波数特性を示す図である。実線は第1の帯域通過型フィルタの結果を示し、一点鎖線は第2の帯域通過型フィルタの結果を示す。矢印R3は第3の比較例におけるレイリー波のレスポンスを示す。
【0045】
図5に示すように、第3の比較例においては、レイリー波に起因するリップルは、第2の帯域通過型フィルタの通過帯域W2外に位置している。第3の比較例では、第1の実施形態と同様に、最も共通接続端子側に配置された並列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチが、第1の帯域通過型フィルタの他のどの並列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチよりも小さい。そのため、矢印R3で示す、第1の帯域通過型フィルタにおけるレイリー波によるレスポンスの周波数が第1の比較例とは異なっている。
【0046】
しかしながら、第3の比較例においては、
図3に示した第1の比較例よりも、第1の帯域通過型フィルタの通過帯域W1における挿入損失が大きくなっている。より具体的には、第1の比較例においては、挿入損失は−5.4dBであり、第2の比較例においては、挿入損失は−5.6dBである。なお、本明細書において、通過帯域における挿入損失とは、通過帯域において絶対値が最も大きい挿入損失をいう。このように、第3の比較例では、第1の帯域通過型フィルタのフィルタ特性は劣化している。
【0047】
図6は、第1の実施形態に係るフィルタ装置の減衰量周波数特性を示す図である。
図6においては、実線は第1の帯域通過型フィルタの結果を示し、一点鎖線は第2の帯域通過型フィルタの結果を示す。矢印R0は第1の実施形態におけるレイリー波のレスポンスを示す。
図6以外の図面においても同様である。
【0048】
図6に示すように、第1の実施形態においては、レイリー波に起因するリップルは、第2の帯域通過型フィルタの通過帯域W2外に位置している。第1の実施形態では、最も共通接続端子側に配置された並列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチが、第1の帯域通過型フィルタの他のどの並列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチよりも小さい。それによって、矢印R0で示す第1の帯域通過型フィルタにおけるレイリー波によるレスポンスの周波数を、第2の帯域通過型フィルタの通過帯域W2内の周波数と異ならせることができる。
【0049】
図7は、第1の実施形態及び第1の比較例における第1の帯域通過型フィルタの減衰量周波数特性を示す図である。
図8は、第1の実施形態及び第1の比較例における第1の帯域通過型フィルタのリターンロスを示す図である。
図7及び
図8においては、実線は第1の実施形態の結果を示し、破線は第1の比較例の結果を示す。
【0050】
上述したように、第1の比較例においては、レイリー波のレスポンスが第2の帯域通過型フィルタの通過帯域W2内に生じていた。これに対して、
図7及び
図8に示すように、第1の実施形態においては、第1の比較例よりも、レイリー波によるレスポンスの周波数が高くなっていることがわかる。従って、上記のように、レイリー波に起因するリップルを、第2の帯域通過型フィルタの通過帯域W2外に位置させることができる。
【0051】
図6に戻り、第1の実施形態では、第1の帯域通過型フィルタの挿入損失は−5.4dBである。第1の実施形態においては、第1の帯域通過型フィルタの挿入損失が第3の比較例よりも小さく、かつ第1の比較例よりも劣化していない。第1の実施形態では、IDT電極の電極指ピッチが最も小さい並列腕共振子にインダクタが直列に接続されている。それによって、挿入損失の劣化を抑制することができる。このように、第1の実施形態においては、第1の帯域通過型フィルタのフィルタ特性の劣化を招かずして、第2の帯域通過型フィルタの通過帯域W2に対するレイリー波によるレスポンスの影響を抑制することができる。
【0052】
なお、
図4及び
図7に示すように、第1の実施形態においては、第2の比較例よりも、第1の帯域通過型フィルタの減衰極が高域側に位置しており、第1の帯域通過型フィルタの通過帯域W1に近い。それによって、通過帯域W1の端部付近における急峻性の劣化を抑制することができる。本明細書において急峻性が高いとは、通過帯域の端部付近において、ある一定の減衰量の変化量に対して、周波数の変化量が小さいことをいう。
【0053】
ところで、
図1に示す、共通接続された第2の帯域通過型フィルタ2に対する、第1の帯域通過型フィルタ1の不要波の影響のうち、最も共通接続端子3側の弾性波共振子の不要波の影響が最も大きい。本実施形態のように、第1の帯域通過型フィルタ1において、最も共通接続端子3側に配置された並列腕共振子P1におけるIDT電極7の電極指ピッチが最も小さいことが好ましい。それによって、第2の帯域通過型フィルタ2に対するレイリー波によるレスポンスの影響をより一層抑制することができる。
【0054】
第1の実施形態においては、インダクタLは並列腕共振子P1のグラウンド電位側に、直列に接続されている。なお、インダクタLは、IDT電極の電極指ピッチが最も小さい並列腕共振子に、直列に接続されていればよい。このような例として、以下において、第1の実施形態の第1の変形例及び第2の変形例を示す。第1の変形例及び第2の変形例においても、第1の実施形態と同様に、第1の帯域通過型フィルタのフィルタ特性の劣化を招かずして、第2の帯域通過型フィルタの通過帯域に対するレイリー波によるレスポンスの影響を抑制することができる。
【0055】
図9に示す第1の変形例における第1の帯域通過型フィルタ21Aでは、並列腕共振子P1の共通接続端子3側に、直列にインダクタLが接続されている。なお、インダクタLは、直列腕共振子S1と共通接続端子3との間には接続されていない。より具体的には、共通接続端子3と直列腕共振子S1との間の接続点であって、並列腕共振子P1が接続されている接続点と、並列腕共振子P1との間に、インダクタLが接続されている。
【0056】
図10に示す第2の変形例における第1の帯域通過型フィルタ21Bでは、IDT電極7の電極指ピッチが最も小さい並列腕共振子P22は、共通接続端子3に2番目に近い並列腕共振子である。インダクタLは、直列腕共振子S1と直列腕共振子S2との間の接続点と、並列腕共振子P22との間に接続されている。なお、最も共通接続端子3側に配置された並列腕共振子P21には、インダクタは接続されていない。このように、IDT電極7の電極指ピッチが最も小さい並列腕共振子P22の配置は特に限定されない。もっとも、上述したように、IDT電極7の電極指ピッチが最も小さい並列腕共振子P22は、最も共通接続端子3側に配置されていることが好ましい。
【0057】
第1の実施形態では、圧電性基板6は圧電体層のみからな
る基板である。なお、これに限られず、圧電性基板は積層体であってもよい。フィルタ装置がSH波を利用するものであればよい。以下において、圧電性基板の構成のみが第1の実施形態と異なる、第1の実施形態の第3〜第5の変形例を示す。第3〜第5の変形例においても、第1の実施形態と同様に、第1の帯域通過型フィルタのフィルタ特性の劣化を招かずして、第2の帯域通過型フィルタの通過帯域に対するレイリー波によるレスポンスの影響を抑制することができる。
【0058】
図11に示す第3の変形例においては、圧電性基板26Aは、高音速材料層と、高音速材料層上に設けられている圧電体層25とを有する。圧電体層25がオイラー角(0°±5°,θ,0°±5°)であり、θが−54°〜−42°であるタンタル酸リチウム層である場合、SH波が優勢に励振される。高音速部材層は相対的に高音速な層である。より具体的には、高音速材料層を伝搬するバルク波の音速は、圧電体層25を伝搬する弾性波の音速よりも高い。本変形例においては、高音速材料層は高音速支持基板22Aである。圧電体層25は、高音速支持基板22A上に直接的に設けられている。
【0059】
高音速支持基板22Aの材料としては、例えば、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、シリコン、サファイア、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶、アルミナ、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、マグネシア、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜またはダイヤモンドなど、上記材料を主成分とする媒質を用いることができる。
【0060】
本変形例のように、圧電性基板26Aが圧電体層25及び高音速材料層を含む積層体である場合には、圧電体層25の材料はタンタル酸リチウムには限られない。圧電体層25の材料は、例えば、ニオブ酸リチウムなどであってもよい。
【0061】
本変形例においては、圧電性基板26Aが、高音速材料層及び圧電体層25が積層された積層構造を有するため、弾性波のエネルギーを圧電体層25側に効果的に閉じ込めることができる。
【0062】
図12に示す第4の変形例においては、圧電性基板26Bは、高音速支持基板22Aと、高音速支持基板22A上に設けられている低音速膜24と、低音速膜24上に設けられている圧電体層25とを有する。低音速膜24は相対的に低音速な膜である。より具体的には、低音速膜24を伝搬するバルク波の音速は、圧電体層25を伝搬するバルク波の音速よりも低い。
【0063】
低音速膜24の材料としては、酸窒化ケイ素、酸化タンタル、酸化ケイ素、また、酸化ケイ素にフッ素や炭素やホウ素を加えた化合物など、上記材料を主成分とした媒質を用いることもできる。
【0064】
本変形例においては、圧電性基板26Bが、高音速支持基板22A、低音速膜24及び圧電体層25がこの順序で積層された積層構造を有するため、弾性波のエネルギーを圧電体層25側に効果的に閉じ込めることができる。
【0065】
図13に示す第5の変形例においては、圧電性基板26Cは、支持基板22Bと、支持基板22B上に設けられている高音速材料層と、高音速材料層上に設けられている低音速膜24と、低音速膜24上に設けられている圧電体層25とを有する。本変形例においては、高音速材料層は高音速膜23である。圧電体層25は、高音速膜23上に低音速膜24を介して間接的に設けられている。高音速材料層が高音速膜23である場合には、支持基板22Bは相対的に高音速ではなくともよい。
【0066】
高音速膜23の材料としては、例えば、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、シリコン、サファイア、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶、アルミナ、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、マグネシア、DLC膜またはダイヤモンドなど、上記材料を主成分とする媒質を用いることができる。
【0067】
支持基板22Bの材料としては、例えば、酸化アルミニウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶などの圧電体、アルミナ、マグネシア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライトなどの各種セラミック、サファイア、ダイヤモンド、ガラスなどの誘電体、シリコン、窒化ガリウム等の半導体または樹脂などを用いることができる。
【0068】
本変形例においても、圧電性基板26Cが、高音速膜23、低音速膜24及び圧電体層25がこの順序で積層された積層構造を有するため、弾性波のエネルギーを圧電体層25側に効果的に閉じ込めることができる。
【0069】
図14は、第2の実施形態に係るフィルタ装置の回路図である。
【0070】
本実施形態では、第1の帯域通過型フィルタ31の構成が第1の実施形態と異なる。上記の点以外においては、本実施形態のフィルタ装置は第1の実施形態のフィルタ装置10と同様の構成を有する。
【0071】
より具体的には、第1の帯域通過型フィルタ31においては、共通接続端子3と第1の信号端子4との間に、直列腕共振子S31、直列腕共振子S32、直列腕共振子S33、直列腕共振子S34及び直列腕共振子S35が互いに直列に接続されている。複数の直列腕共振子のうち、直列腕共振子S31が最も共通接続端子3側に配置されている。
【0072】
直列腕共振子S31と直列腕共振子S32との間の接続点とグラウンド電位との間には、並列腕共振子P31が接続されている。直列腕共振子S32と直列腕共振子S33との間の接続点とグラウンド電位との間には、並列腕共振子P32が接続されている。直列腕共振子S33と直列腕共振子S34との間の接続点とグラウンド電位との間には、並列腕共振子P33が接続されている。直列腕共振子S34と直列腕共振子S35との間の接続点とグラウンド電位との間には、並列腕共振子P34が接続されている。
【0073】
本実施形態では、最も共通接続端子3側に配置された弾性波共振子は、直列腕共振子S31である。第1の帯域通過型フィルタ31の直列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチのうち、最も共通接続端子3側に配置されている直列腕共振子S31におけるIDT電極の電極指ピッチが最も小さい。より具体的には、直列腕共振子S31におけるIDT電極の電極指ピッチは、第1の帯域通過型フィルタ31の他のどの直列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチよりも小さい。この直列腕共振子S31の共通接続端子3側に、直列にインダクタLが接続されている。インダクタLのインダクタンスは、本実施形態では1.5nHである。
【0074】
本実施形態の特徴は、SH波を利用しており、第1の帯域通過型フィルタ31の複数の直列腕共振子のうちIDT電極の電極指ピッチが最も小さい直列腕共振子S31の共通接続端子3側に、直列にインダクタLが接続されていることにある。それによって、第1の帯域通過型フィルタ31のフィルタ特性の劣化を招かずして、第2の帯域通過型フィルタ2の通過帯域に対するレイリー波によるレスポンスの影響を抑制することができる。これを、本実施形態と第4〜第6の比較例とを比較することにより、以下において説明する。
【0075】
第4の比較例は、インダクタを有しない点と、最も共通接続端子側に配置された直列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチとが第2の実施形態と異なる。第5の比較例は、最も共通接続端子側に配置された直列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチが第2の実施形態と異なる。第6の比較例は、インダクタを有しない点において第2の実施形態と異なる。
【0076】
第2の実施形態の構成を有するフィルタ装置及び第4〜第6の比較例のフィルタ装置をそれぞれ作製した。各フィルタ装置の条件は以下の通りである。
【0077】
通信バンド…Band66
第1の帯域通過型フィルタの通過帯域…2110MHz〜2200MHz
第2の帯域通過型フィルタの通過帯域…1710MHz〜1780MHz
圧電性基板の材料…タンタル酸リチウム(LiTaO
3)
圧電性基板のオイラー角…(0°±5°,θ,0°±5°)、θ
=−54°〜−42°
【0078】
第2の実施形態及び第5の比較例におけるインダクタのインダクタンスは1.5nHとした。
【0079】
第2の実施形態及び第6の比較例における第1の帯域通過型フィルタの各弾性波共振子の設計パラメータは下記の表3に示す通りである。他方、第4の比較例及び第5の比較例における第1の帯域通過型フィルタの各弾性波共振子の設計パラメータは下記の表4に示す通りである。
【0082】
図15は、第4の比較例のフィルタ装置の減衰量周波数特性を示す図である。実線は第1の帯域通過型フィルタの結果を示し、一点鎖線は第2の帯域通過型フィルタの結果を示す。矢印R4は、第4の比較例におけるレイリー波のレスポンスを示す。
図15以外の図面においても同様である。
【0083】
図15に示すように、第4の比較例においては、第2の帯域通過型フィルタの通過帯域W2内にリップルが生じていることがわかる。このリップルは、矢印R4で示すレイリー波のレスポンスの周波数において生じている。このように、第2の帯域通過型フィルタの通過帯域W2内に生じるリップルは、第1の帯域通過型フィルタにおけるレイリー波に起因する。
【0084】
図16は、第4の比較例及び第5の比較例における第1の帯域通過型フィルタの減衰量周波数特性を示す図である。
図16において、実線は第5の比較例の結果を示し、破線は第4の比較例の結果を示す。矢印R5は第5の比較例におけるレイリー波のレスポンスを示す。
【0085】
図16中の矢印R4及び矢印R5で示すように、第4の比較例及び第5の比較例においては、第1の帯域通過型フィルタにおけるレイリー波によるレスポンスの周波数は変わらないことがわかる。第5の比較例においては、第4の比較例とは異なり、最も共通接続端子側に配置された直列腕共振子の共通接続端子側に直列にインダクタが接続されている。このように、直列腕共振子にインダクタを接続したことによっては、レイリー波によるレスポンスの周波数は変化しないことがわかる。
【0086】
図17は、第6の比較例のフィルタ装置の減衰量周波数特性を示す図である。実線は第1の帯域通過型フィルタの結果を示し、一点鎖線は第2の帯域通過型フィルタの結果を示す。矢印R6は第6の比較例におけるレイリー波のレスポンスを示す。
【0087】
図17に示すように、第6の比較例においては、レイリー波に起因するリップルは、第2の帯域通過型フィルタの通過帯域W2外に位置している。第6の比較例では、第2の実施形態と同様に、最も共通接続端子側に配置された直列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチが、第1の帯域通過型フィルタの他のどの直列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチよりも小さい。そのため、矢印R6で示す、第1の帯域通過型フィルタにおけるレイリー波によるレスポンスの周波数が第4の比較例とは異なっている。
【0088】
しかしながら、第6の比較例においては、
図15に示した第4の比較例よりも、第1の帯域通過型フィルタの挿入損失が大きくなっている。より具体的には、第4の比較例においては、挿入損失は−5.4dBであり、第6の比較例においては、挿入損失は−5.5dBである。このように、第6の比較例では、第1の帯域通過型フィルタのフィルタ特性は劣化している。
【0089】
図18は、第2の実施形態に係るフィルタ装置の減衰量周波数特性を示す図である。
図18においては、実線は第1の帯域通過型フィルタの結果を示し、一点鎖線は第2の帯域通過型フィルタの結果を示す。矢印R30は第2の実施形態におけるレイリー波のレスポンスを示す。
図18以外の図面においても同様である。
【0090】
図18に示すように、第2の実施形態においては、レイリー波に起因するリップルは、第2の帯域通過型フィルタの通過帯域W2外に位置している。第2の実施形態では、最も共通接続端子側に配置された直列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチが、第1の帯域通過型フィルタの他のどの直列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチよりも小さい。それによって、矢印R30で示す第1の帯域通過型フィルタにおけるレイリー波によるレスポンスの周波数を、第2の帯域通過型フィルタの通過帯域W2内の周波数と異ならせることができる。なお、最も共通接続端子側に配置された直列腕共振子以外の直列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチが最も小さくともよい。
【0091】
図19は、第2の実施形態及び第4の比較例における第1の帯域通過型フィルタの減衰量周波数特性を示す図である。
図20は、第2の実施形態及び第4の比較例における第1の帯域通過型フィルタのリターンロスを示す図である。
図19及び
図20においては、実線は第2の実施形態の結果を示し、破線は第4の比較例の結果を示す。
【0092】
上述したように、第4の比較例においては、レイリー波のレスポンスが第2の帯域通過型フィルタの通過帯域W2内に生じていた。これに対して、
図19及び
図20に示すように、第2の実施形態においては、第4の比較例よりも、レイリー波によるレスポンスの周波数が高くなっていることがわかる。従って、上記のように、レイリー波に起因するリップルを、第2の帯域通過型フィルタの通過帯域W2外に位置させることができる。
【0093】
図18に戻り、第2の実施形態では、第1の帯域通過型フィルタの通過帯域W1における挿入損失は−5.1dBである。第2の実施形態においては、第1の帯域通過型フィルタの通過帯域W1における挿入損失が第6の比較例及び第4の比較例よりも小さい。第2の実施形態では、IDT電極の電極指ピッチが最も小さい直列腕共振子の共通接続端子側にインダクタが直列に接続されている。それによって、通過帯域W1における挿入損失の劣化を抑制することができる。このように、第2の実施形態においては、第1の帯域通過型フィルタのフィルタ特性の劣化を招かずして、第2の帯域通過型フィルタの通過帯域W2に対するレイリー波によるレスポンスの影響を抑制することができる。
【0094】
図14に示す本実施形態のように、第1の帯域通過型フィルタ31において、最も共通接続端子3側に配置された直列腕共振子S31におけるIDT電極7の電極指ピッチが最も小さいことが好ましい。それによって、第2の帯域通過型フィルタ2に対するレイリー波によるレスポンスの影響をより一層抑制することができる。
【0095】
なお、インダクタLは、IDT電極の電極指ピッチが最も小さい直列腕共振子の共通接続端子側に、直列に接続されていればよい。このような例として、以下において、第2の実施形態の変形例を示す。
【0096】
図21に示す変形例における第1の帯域通過型フィルタ41では、IDT電極の電極指ピッチが最も小さい直列腕共振子S42は、共通接続端子3に2番目に近い直列腕共振子である。この直列腕共振子S42の共通接続端子3側に直列にインダクタLが接続されている。より具体的には、直列腕共振子S41と直列腕共振子S42との間の接続点であって、並列腕共振子P31が接続されている接続点と、直列腕共振子S42との間に、インダクタLが接続されている。このように、IDT電極7の電極指ピッチが最も小さい直列腕共振子S42の配置は特に限定されない。もっとも、上述したように、IDT電極の電極指ピッチが最も小さい直列腕共振子S42は、最も共通接続端子3側に配置されていることが好ましい。
【0097】
本変形例においても、第2の実施形態と同様に、第1の帯域通過型フィルタ41のフィルタ特性の劣化を招かずして、第2の帯域通過型フィルタ2の通過帯域に対するレイリー波によるレスポンスの影響を抑制することができる。
【0098】
図22は、第3の実施形態に係るフィルタ装置の模式図である。
【0099】
第3の実施形態のフィルタ装置50は、共通接続端子3に3つ以上の帯域通過型フィルタが共通接続されたマルチプレクサである。より具体的には、フィルタ装置50は、共通接続端子3に共通接続された、第1の帯域通過型フィルタ1と、第2の帯域通過型フィルタ2と、第3の帯域通過型フィルタ53とを有する。第1の帯域通過型フィルタ1及び第2の帯域通過型フィルタ2は、第1の実施形態における第1の帯域通過型フィルタ1及び第2の帯域通過型フィルタ2と同様との構成を有する。他方、第3の帯域通過型フィルタ53の回路構成は特に限定されない。
【0100】
フィルタ装置50がマルチプレクサの場合であっても、第1の実施形態、第2の実施形態またはこれらの各変形例と同様の第1の帯域通過型フィルタ及び第2の帯域通過型フィルタを有していればよい。共通接続端子3に共通接続された帯域通過型フィルタの個数は特に限定されない。本実施形態のフィルタ装置50の共通接続端子3には、第1の帯域通過型フィルタ1、第2の帯域通過型フィルタ2及び第3の帯域通過型フィルタ53以外の帯域通過型フィルタも接続されている。
【0101】
本実施形態のフィルタ装置50は、第1の実施形態と同様の第1の帯域通過型フィルタ1及び第2の帯域通過型フィルタ2を有する。従って、第1の実施形態と同様に、第1の帯域通過型フィルタ1のフィルタ特性の劣化を招かずして、第2の帯域通過型フィルタ2の通過帯域に対するレイリー波によるレスポンスの影響を抑制することができる。