(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6940109
(24)【登録日】2021年9月6日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】認知症における認知機能改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20210909BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20210909BHJP
A23L 33/16 20160101ALI20210909BHJP
A61K 31/01 20060101ALI20210909BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20210909BHJP
A61K 31/455 20060101ALI20210909BHJP
A61K 31/7084 20060101ALI20210909BHJP
A61K 33/00 20060101ALI20210909BHJP
A61K 35/614 20150101ALI20210909BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L33/105
A23L33/16
A61K31/01
A61K31/192
A61K31/455
A61K31/7084
A61K33/00
A61K35/614
A61P25/28
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2020-519884(P2020-519884)
(86)(22)【出願日】2019年5月15日
(86)【国際出願番号】JP2019019256
(87)【国際公開番号】WO2019221165
(87)【国際公開日】20191121
【審査請求日】2020年8月7日
【審判番号】不服2021-6541(P2021-6541/J1)
【審判請求日】2021年5月21日
(31)【優先権主張番号】特願2018-94885(P2018-94885)
(32)【優先日】2018年5月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513265884
【氏名又は名称】株式会社M.R.D.
(73)【特許権者】
【識別番号】520292305
【氏名又は名称】有限会社愛和
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 亨
【合議体】
【審判長】
村上 騎見高
【審判官】
冨永 みどり
【審判官】
吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2015/16285(WO,A1)
【文献】
ANDERSON, D. W., BRADBURY, K. A., and SCHNEIDER, J. S.,Broad neuroprotective profile of nicotinamide in different mouse models of MPTP−induced parkinsonism,European Journal of Neuroscience,2008年,Vol.28,p.610−617
【文献】
HOU, Yujun et al.,NAD+ supplementation normalizes key Alzheimer’s features and DNA damage responses in a new AD mouse model with introduced DNA repair deficiency,PNAS,2018年 2月 5日,E1876−E1885
【文献】
History of Changes for Study: NCT03462680,ClinicalTrials.gov archive,2018年 3月 5日,v1,p.1−8
【文献】
MORRIS, M. C. et al.,Dietary niacin and the risk of incident Alzheimer’s disease and of cognitive decline,J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry,2004年,Vol.75,p.1093−1099
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L5/40-5/49,31/00-33/29
Google
PubMed
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンゴカルシウム、けい皮酸誘導体、およびニコチンアミド誘導体を含有し、
ニコチンアミド誘導体がナイアシンまたはNADであり、
けい皮酸誘導体がフェルラ酸、コーヒー酸、および/またはシナピン酸から選ばれ、
サンゴカルシウム1重量部に対し、けい皮酸誘導体が1〜4重量部、ニコチンアミド誘導体が0.5〜3重量部の比率で含有する、
認知症に関する脳機能改善用内服組成物。
【請求項2】
けい皮酸誘導体がフェルラ酸である、請求項1の組成物。
【請求項3】
ニコチンアミド誘導体がNADである、請求項1または2の組成物。
【請求項4】
ニコチンアミド誘導体がナイアシンである、請求項1または2の組成物。
【請求項5】
サンゴカルシウム1重量部に対し、けい皮酸誘導体が1.5〜3重量部、ニコチンアミド誘導体が1〜2重量部の比率で含有する、請求項1〜4のいずれかの組成物。
【請求項6】
更にアスコルビン酸および/またはリコピンを含有する、請求項1〜5のいずれかの組成物。
【請求項7】
更に抹茶粉末、ココア粉末、ハイドロキシシリカ粉末、および/または日本山人参乾燥粉末を含有する、請求項1〜6のいずれかの組成物。
【請求項8】
請求項1〜7いずれかに記載の組成物を含有させた補助食品。
【請求項9】
請求項1〜7いずれかに記載の組成物を含有させた認知症に関する脳機能改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳機能改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高齢化社会の到来にともない、高齢者の脳の変性疾患、特にアルツハイマー病、レヴィー小体認知症、パーキンソン病等に由来する脳機能の低下が広く問題視されつつある。
【0003】
このような脳の変性疾患に罹患し認知症を発症すると、ヒトの尊厳までも脅かされる深刻な事態を招く場合があることから、認知症の予防と治療の研究が、近年、精力的に進められている。
【0004】
本発明者は認知症の原因となる危険因子など研究する中、サプリメント的な安全な成分の組み合わせによる、手軽で且つ効果的な脳機能改善効果を有する組成物の実用化を試み、特許文献1においては、所定のけい皮酸誘導体化合物とサンゴカルシウム粉末を所定の割合で混合した組成物が脳機能改善に有用であることを見出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO 2015/016285
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、新たな認知症の治療方法を見出すことであり、具体的には特許文献1で示された主成分で構成される組成物における脳機能改善作用を、より効果的にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、既にアルツハイマー病の発症原因に、メチオニンの酸化体であるホモシステイン酸(HCA)が危険因子の一つとして関与していることを発見しており、HCAのNMDAレセプターへの結合阻害をターゲットとした発明について特許文献1を出願している。今回、更にHCAに関する種々の研究を重ねた結果、HCAの体内濃度を下げる手段を検討する中で、その代謝を促すことに着目し、その代謝酵素やその酵素を活性化する物質を種々検討したところ、グルタメートデヒドロゲナーゼを活性化するニコチン酸アミド誘導体に脳機能改善効果があることを発見し、更にサンゴカルシウムとけい皮酸誘導体化合物の混合物に、ニコチン酸アミド誘導体を含有させることで脳機能改善効果が顕著に向上することを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
本発明は下記の態様のものを含む。
[項1]サンゴカルシウム、けい皮酸誘導体化合物、およびニコチンアミド誘導体を含有する脳機能改善用組成物。
【0009】
[項2]けい皮酸誘導体がフェルラ酸、コーヒー酸、および/またはシナピン酸から選ばれる、項1の組成物。
【0010】
[項3]けい皮酸誘導体がフェルラ酸である、項1の組成物。
【0011】
[項4]ニコチンアミド誘導体がニコチンアミド、ナイアシン、またはNADである、項1〜3のいずれかの組成物。
【0012】
[項5]ニコチンアミド誘導体がNADである、項1〜3のいずれかの組成物。
【0013】
[項6]ニコチンアミド誘導体がナイアシンである、項1〜3のいずれかの組成物。
【0014】
[項7]サンゴカルシウム1重量部に対し、けい皮酸誘導体が1.5〜3重量部、ニコチンアミド誘導体が1〜2重量部の比率で含有する、項1〜6のいずれかの組成物。
【0015】
[項8]更にアスコルビン酸および/またはリコピンを含有する、項1〜7のいずれかの組成物。
【0016】
[項9]更に抹茶粉末、ココア粉末、ハイドロキシシリカ粉末、および/または日本山人参乾燥粉末を含有する、項1〜8のいずれかの組成物。
【0017】
[項10]項1〜9いずれかに記載の組成物を含有させた補助食品。
【0018】
[項11]項1〜9いずれかに記載の組成物を含有させた脳機能改善剤。
【0019】
[項12]治療上の有効量のサンゴカルシウム、けい皮酸誘導体化合物、およびニコチンアミド誘導体の組み合わせを、治療が必要な患者に投与することを特徴とする、脳機能改善方法。
【0020】
[項13]脳機能改善剤を製造するための、サンゴカルシウム、けい皮酸誘導体化合物、およびニコチンアミド誘導体の組み合わせの使用。
【0021】
[項14]ニコチンアミド誘導体を含有する脳機能改善用組成物。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、特許文献1に記載のように、アルツハイマー病、レヴィー小体認知症、パーキンソン病等の神経変性疾患の発症機序の一つとして考えられるホモシステイン酸の濃度上昇に伴うNMDAレセプターへの過剰結合を、サンゴカルシウムとけい皮酸誘導体化合物の組み合わせによる効果で阻害して脳機能改善を発揮すると共に、新たにニコチン酸アミド誘導体を添加することで、更にその脳機能改善を顕著に向上することが期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
サンゴカルシウムとは化石サンゴを原料とする物質で、通常粉末として用いられ、カルシウムやマグネシウムを主とした海洋ミネラル源として健康食品として市販されている。また、サンゴカルシウム粉末中には、約5%の割合で水素化カルシウムを含有しているとされており、この水素化カルシウムから活性な水素が摂取できる水素サプリメントとしても広く用いられている。なお、一般化学用語的に水素化カルシウムとは水と激しく反応するCaH
2を意味するが、ここでのサンゴカルシウム粉末中の水素化カルシウムはこれとは異なり、活性な水素化合物を吸着させた炭酸カルシウムを意味しており、広く健康サプリメントの分野では用いられる用語である。
【0024】
けい皮酸誘導体化合物とは、けい皮酸において、主にはそのベンゼン環部分への置換基導入による誘導体であり、例えばベンゼン環上に1〜3個の水酸基またはアルコキシ基を有するけい皮酸で、具体的には下記の構造の化合物である。
更に具体的には、上記R1がメトキシ基、R2が水酸基、R3が水素のフェラル酸、R1とR2が水酸基、R3が水素のコーヒー酸、R1とR3がメトキシ基、R2が水酸基のシナピン酸が挙げられる。
【0025】
ニコチンアミド誘導体とは、ニコチンアミド、またはニコチンアミド構造を含む化合物で、医薬品、食品等で用いられている化合物の総称であり、ニコチンアデニンジヌクレオチド(NAD)やナイアシンが例示される。
ナイアシンとはニコチン酸とニコチン酸アミドの総称であり、ビタミンB
3とも称されることがある。
ニコチンアデニンジヌクレオチド(NAD)は、下記の構造を有するエネルギー代謝に関係する補酵素として知られ、サプリメントとしても利用されている。
【0026】
本発明で用いるサンゴカルシウムの量は、ヒトが通常摂取するカルシウム量を考慮して決定すれば特に制限はないが、1日50〜3000mg、好ましくは100〜300mg、より好ましくは150〜250mgである。
【0027】
本発明で用いるけい皮酸誘導体化合物の量は、ヒトが通常摂取する量であれば特に制限はないが、1日300〜700mg、好ましくは400〜600mg、より好ましくは500〜600mgである。またサンゴカルシウムとの混合比は、サンゴカルシウム1重量部に対し、けい皮酸誘導体が1〜4重量部、好ましくは1.5〜3重量部、より好ましくは1.5〜2.5重量部である。
【0028】
本発明で用いるニコチン酸アミド誘導体の量は、ヒトが通常摂取する量であれば特に制限はないが、1日50〜300mg、好ましくは100〜300mg、より好ましくは200〜300mgである。またサンゴカルシウムとの混合比は、サンゴカルシウム1重量部に対し、ニコチン酸アミド誘導体が0.5〜3重量部、好ましくは1〜2重量部、より好ましくは1〜1.5重量部である。
【0029】
本発明では、サンゴカルシウム、けい皮酸誘導体化合物、およびNADの混合物に、アスコルビン酸、リコピン等を含有させて、本発明の効果を助長させることができる。添加する量としては、アスコルビン酸の場合サンゴカルシウム1重量部に対し、1〜3重量部、好ましくは1.5〜2.5重量部、より好ましくは1.8〜2.2重量部であり、リコピンの場合サンゴカルシウム1重量部に対し、1〜2重量部、好ましくは1.2〜1.5重量部、より好ましくは1.3〜1.5重量部である。
【0030】
更に本発明では、香味を付ける目的から、抹茶粉末、ココア粉末、ハイドロキシシリカ粉末、日本山人参乾燥粉末等を更に添加してもよく、しかもこれらの成分は、脳機能改善効果を助長することが期待できる。これらの成分の添加量はサンゴカルシウム1重量部に対し、抹茶粉末およびココア粉末が1〜6重量部、ハイドロキシシリカ粉末が0.5〜2重量部、日本山人参乾燥粉末が0.1〜0.5重量部である。
【0031】
本発明の組成物は1日1〜数回、具体的には1日1回、2回、3回、4回などに分けて服用してもよい。
【0032】
本発明において、脳機能改善とは、脳の変性疾患に対する改善を意味し、具体的には認知症、アルツハイマー病、レヴィー小体認知症、パーキンソン病等の神経変性疾患に対する改善が含まれる。
本発明の脳機能改善用組成物は、NMDAレセプターにホモシステイン酸が結合するのを拮抗阻害して、細胞が傷害されることを防止する。また、本発明の脳機能改善用組成物は、広くMMSE(ミニメンタルステート検査)で認知症等の脳機能障害と診断される疾患に効果がある。
【0033】
本発明の脳機能改善用組成物は、補助食品またはその原料として、また脳機能改善剤またはその原料として使用することもできる。
【0034】
本実施形態に係る脳機能改善用組成物は、そのまま混合粉末として用いてもよく、通常用いられる製剤成分を添加して、製剤化した製剤として用いてもよい。剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤が挙げられる。錠剤及び顆粒剤の場合は周知の方法でコーティングしてもよい。製剤は、製薬学的に許容される添加剤を用いて、公知の方法で製造される。
【0035】
添加剤は、目的に応じて、賦形剤、崩壊剤、結合剤、流動化剤、滑沢剤、コーティング剤、溶解剤、溶解補助剤、増粘剤、分散剤、安定化剤、甘味剤、香料等を用いることができる。具体的には、例えば、乳糖、マンニトール、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、トウモロコシデンプン、部分α化デンプン、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ステアリン酸マグネシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、酸化チタン、タルク等が挙げられる。
【0036】
本発明の化合物が単一の製剤で調製される場合、これに限らないが、例えば本発明の混合物の組成物がその製剤の組成物全体に対して0.1〜70重量%含まれ得る。
【実施例】
【0037】
以下に本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
実施例1(NAD添加の効果試験)
(試験方法)
被験者5名に下記の表の混合物を1日2回服用させ、2か月経過した時点で、認知機能テストのMMSEを行った。
【0039】
(結果)
試験開始前の結果と共に、2か月経過後の結果を下記の表に示す。被験者全員で認知機能の改善が見られた。
【0040】
試験2.(ナイアシン添加/無添加の比較試験)
サンゴカルシウムとけい皮酸誘導体化合物の脳機能改善効果に対し、ナイアシンの添加によってその効果がより改善するかどうかについて、比較実験を行った。
(試験方法)
同じ介護施設に入所している被験者6名を3名ずつの2群に分け、下記の表に示す処方の混合物を一方の群に、下記の表の処方からナイアシンを除いた混合物を他方の群に、1日1回服用させ、1か月経過した時点で、認知機能テストのMMSEを行った。
【0041】
(結果)
試験開始前の結果と共に、1か月経過後の結果を下記の表に示す。ナイアシンを含まない処方を投与した群においては、MMSEに変化がないかわずかに減少した。一方、ナイアシンを含む処方を投与した群では、MMSEが上昇し、認知機能の改善が見られた。