(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6940133
(24)【登録日】2021年9月6日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】浮消波堤
(51)【国際特許分類】
E02B 3/06 20060101AFI20210909BHJP
【FI】
E02B3/06 302
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-80299(P2017-80299)
(22)【出願日】2017年4月14日
(65)【公開番号】特開2018-178551(P2018-178551A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】596066677
【氏名又は名称】株式会社古川組
(74)【代理人】
【識別番号】100098936
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100098888
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 明子
(72)【発明者】
【氏名】若杉 聡
(72)【発明者】
【氏名】竹下 博実
【審査官】
湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−150783(JP,A)
【文献】
特開平11−229322(JP,A)
【文献】
特開平11−229351(JP,A)
【文献】
実開昭56−150218(JP,U)
【文献】
特公昭45−028872(JP,B1)
【文献】
特開昭55−084644(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0330046(US,A1)
【文献】
実開昭59−014822(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に浮かべた状態で係留されて備えられる浮消波堤であって、略円筒状の本体と、前記本体の開口を閉鎖する蓋体と、前記本体に設けられ板状で、且つ本体の長手方向の略全長に渡って延び、下方に垂直に延びて水中へ突出するエネルギー減衰部材を鋼製で具備しており、
前記エネルギー減衰部材として、前記本体の軸心の延長線を挟んで距離が等しくなるように互いに間隔を開けて配置された一対の遮板が、前記本体の長手方向に互いに間隔を開けて複数設けられ、且つ、前記遮板の水中へ突出する寸法は前記本体の直径のほぼ二分の一に設定されており、
前記本体の内部には、発泡スチロール製の円柱体がほぼ隙間のない状態となるように収容されており、前記円柱体は浮力付与材として前記本体の軸心が水面位置程度となる浮力を付与するものであることを特徴とする浮消波堤。
【請求項2】
請求項1に記載した浮消波堤において、エネルギー減衰部材は、一対の遮板と本体の外周面とを連結する連結部材を備えたことを特徴とする浮消波堤。
【請求項3】
請求項1または2に記載した浮消波堤において、本体は複数の円筒状部材を連結して構成されていることを特徴とする浮消波堤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水面上に係留した状態で備える浮消波堤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の浮消波堤は特許文献1に示されたものがあり、この浮消波堤は消波堤本体の内部が仕切壁によって上下2室に仕切られ、その下室が底無しタンク状に形成されると共に、その上室の内部に波の進行方向に沿って3つのタンクが形成され、該上室の両舷タンクは、水密箱状に形成されて、その内部に所定量の液体が封入されると共に、連通路を介して互いに連通され、上室の中央タンクは、その上面が開放されると共に、仕切壁に貫設した流通孔を介して下室に連通されている。
【0003】
そして、消波堤本体が透過波に乗って縦揺れしたり横揺れしたりした場合には、その縦揺れは中央タンクと下室との間で海水が流通孔を通って交互に流通することにより著しく小さくされ、横揺れは両舷タンク内の液体が連通路を通過して交互に流通することにより著しく小さくされるため、消波堤本体を安定的に係留することができるとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−119124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の浮消波堤は構造が複雑で製作コストが嵩むという問題点がある。
本発明は構造が簡単で製作コストが低く、しかも波のエネルギーを減衰でき、本体が回転するのを抑制することが可能で、波の透過を安定して抑えることができる浮消波堤の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、請求項1の発明は、水に浮かべた状態で係留されて備えられる浮消波堤であって、略円筒状の本体と、前記本体の開口を閉鎖する蓋体と、前記本体に設けられ板状で、且つ本体の長手方向の略全長に渡って延び、
下方に垂直に延びて水中へ突出するエネルギー減衰部材を
鋼製で具備
しており、前記エネルギー減衰部材として、前記本体の軸心の延長線を挟んで距離が等しくなるように互いに間隔を開けて配置された一対の遮板が、前記本体の長手方向に互いに間隔を開けて複数設けられ、且つ、前記遮板の水中へ突出する寸法は前記本体の直径のほぼ二分の一に設定されており、前記本体の内部には、発泡スチロール製の円柱体がほぼ隙間のない状態となるように収容されており、前記円柱体は浮力付与材として前記本体の軸心が水面位置程度となる浮力を付与するものであることを特徴とする浮消波堤である。
【0012】
請求項
2の発明は、請求項
1に記載した浮消波堤において、
エネルギー減衰部材は、一対の遮板と本体の外周面とを連結する連結部材を備えたことを特徴とする浮消波堤である。
【0016】
請求項
3の発明は、請求項1
または2に記載した浮消波堤において、本体は複数の円筒状部材を連結して構成されていることを特徴とする浮消波堤である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の浮消波堤では、構造が簡単で製作コストを低く抑えることができる。また、波のエネルギーを減衰でき、本体が回転するのを抑制することが可能で、波の透過を安定して抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態に係る浮消波堤を係留した状態の斜視図である。
【
図3】(A)は
図2のA−A断面図、(B)は
図2のB−B断面図、(C)は
図2のC−C断面図、(D)は
図2のD−D断面図である。
【
図4】
図1の浮消波堤の構成部材である蓋体の平面図である。
【
図5】
図1の浮消波堤の構成部材である円筒状部材の正面図である。
【
図7】
図5の円筒状部材に連結される円筒状部材の正面図である。
【
図9】
図5、
図6の円筒状部材と、この円筒状部材に組み付けられる部材の斜視図である。
【
図10】
図7、
図8の円筒状部材と、この円筒状部材に組み付けられる部材の斜視図である。
【
図11】
図1の浮消波堤を水面上に係留した状態の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態に係る浮消波堤1を図面にしたがって説明する。
図1、
図2に示すように浮消波堤1は長手方向の中心を境に左右対称の形状を為している。浮消波堤1は略円筒状の本体3、この本体3の左右の開口を閉鎖する蓋体5、本体3に設けられ板状で、且つ本体の長手方向の略全長に渡って延び、後述するように水中へ突出するエネルギー減衰部材としての遮板7、9、11、13等を具備している。本体3、蓋体5及び遮板7、9、11、13は鋼材によって構成されている。
【0020】
浮消波堤1を構成する部材について詳細に説明する。
符号15は円筒状部材を示し、この円筒状部材15の左右両端部にはフランジ17が形成されている。フランジ17と円筒状部材15の外周面は略二等辺三角形の板状を為す複数の補強板を介して連結されている。また、フランジ17には複数のボルト挿通穴21が形成されている。
【0021】
円筒状部材15の外周面には、各々一対を一組とする遮板7、9、11が三組取り付けられており、遮板7、9、11は下方へ垂直に延びている。また、遮板7、9、11の突出寸法(幅寸法)は円筒状部材15の直径のほぼ二分の一に設定されている。
一対の遮板7は互いに間隔を開けて対向して設けられ、円筒状部材15の軸心Cの延長線Lを挟んで備えられている。そして、一対の遮板7は延長線Lからの距離が等しくなるように配置されている。一対の遮板9、一対の遮板11も同様に配置されている。
遮板7が最も大きな長さ寸法を有し、遮板9、遮板11の順に大きな長さ寸法を有しており、遮板7は遮板11のほぼ2倍の長さ寸法となっている。
【0022】
一対の遮板7どうしの間には3枚の連結板18が渡設されている。連結板18は一対の遮板7と円筒状部材15の外周面とに固定されており、連結板18を介して一対の遮板7どうしと、円筒状部材15の外周面とが連結されている。連結板18は一対の遮板7の長手方向に互いに等間隔を開けて配置されている。
一対の遮板9どうしの間にも3枚の連結板18が渡設されており、一対の遮板9どうしと、円筒状部材15の外周面とが連結されている。連結板18を介して一対の遮板9どうしと、円筒状部材15の外周面とが連結されている。連結板18は一対の遮板9の長手方向に互いに等間隔を開けて配置されている。
更に、一対の遮板11どうしの間には2枚の連結板18が渡設されており、一対の遮板11どうしと、円筒状部材15の外周面とが連結されている。連結板18は一対の遮板11の両端部に配置されている。
【0023】
遮板7の右端部と遮板9の左端部との間、遮板9の右端部と遮板11の左端部との間には隙間が開いている。すなわち、遮板7と遮板9は互いに間隔を開けて設けられ、遮板9と遮板11は互いに間隔を開けて設けられている。
円筒状部材15の外周面には一対の係留用ピース29が固定されている。係留用ピース29は遮板7の右端部と遮板9の左端部との隙間に対応する箇所に斜め下方を向く姿勢で備えられている。
【0024】
また、円筒状部材15の外周面には標識灯取付台33が取り付けられており、この標識灯取付台33は、遮板9、11と反対側になる位置、すなわち上方へ向く姿勢で備えられている。
遮板9には円筒状部材15、遮板7、9、11等が錆びるのを抑制するための防食部材35が取り付けられている。
【0025】
符号23は円筒状部材を示し、この円筒状部材23の左右両端部にはフランジ25が形成されている。フランジ25と円筒状部材23の外周面は略二等辺三角形の板状を為す複数の補強板を介して連結されている。また、フランジ25には複数のボルト挿通穴27が形成されている(
図10参照)。
【0026】
円筒状部材23の外周面には、一対の遮板13が取り付けられており、一対の遮板13は下方へ垂直に延びている。また、遮板13の水中へ突出する寸法(幅寸法)は、円筒状部材23の直径のほぼ二分の一に設定されている。
一対の遮板13は互いに間隔を開けて対向して設けられ、円筒状部材23の軸心Cの延長線Lを挟んで備えられている(
図11参照)。そして、一対の遮板13は延長線Lからの距離が等しくなるように配置されている。
【0027】
一対の遮板13どうしの間には連結部材としての6枚の連結板18が渡設されている。連結板18は一対の遮板13と円筒状部材23の外周面とに固定されて、一対の遮板13どうしと、円筒状部材23の外周面とを連結している。連結板18は一対の遮板13の長手方向に互いに等間隔を開けて配置されている。
【0028】
符号37は円筒状部材を示し、この円筒状部材37は円筒状部材15と線対称の形状を有している。この円筒状部材37は円筒状部材15に備えられる遮板7、9、11等の部材も線対称形状であり、且つ線対称となる位置に備えられているので、円筒状部材37に備えられる各部材については円筒状部材15に備えられた各部材の説明で用いた符号を付す。
蓋体5は円板状で、円筒状部材15、37のフランジ17に形成されたボルト挿通穴21に対応するボルト挿通穴39が形成されている。
【0029】
浮消波堤1の組み立て方法を説明する。
図9、
図10に示すように円筒状部材15、23に、浮力付与部材としての発泡スチロール製の円柱体41を収容する。この円柱体41は円筒状部材15、23の内側空間部に対し10mm〜20mm程度小さい直径となっている。円柱体41を切断して長さ寸法を調節して、円柱体41を円筒状部材15、23の内部、すなわち本体3内に僅かな隙間を開けて備える。
円柱体41は、本体3の軸心が水面位置程度となる浮力を付与するように設定されている(
図11参照)。
【0030】
そして、円筒状部材15の右端部のフランジ17と円筒状部材23の左端部のフランジ25とを接合し、円筒状部材23の右端部のフランジ25と円筒状部材37の左端部のフランジ17を接合する。次いで、各フランジのボルト挿通穴21とボルト挿通穴27にボルト(図示せず)を挿通し、ボルトにナット(図示せず)を螺合して締結することで、円筒状部材15、23、37を連結する。
円筒状部材15の左端部のフランジ17と、円筒状部材37の右端部のフランジ17に蓋体5を宛がい、ボルト挿通穴21とボルト挿通穴39を対応させる。そして、ボルト挿通穴21とボルト挿通穴39にボルト(図示せず)を挿通し、ボルトにナット(図示せず)を螺合して締結することで、蓋体5によって円筒状部材15の左端部の開口と、円筒状部材37の右端部の開口を閉鎖する。
また、標識灯取付台33に標識灯43を取り付ける。
【0031】
以上のようにして組み立てた浮消波堤1を係留場所へ曳航し、
図1に示すように、4つのアンカーブロック45にチェーン47の一端部を連結し、他端部を係留用ピース29に連結して、浮消波堤1を係留する。
前述のように本体3の軸心Cが水面位置程度の浮力を付与するように設定されているので、
図11に示す状態となる。
本体3の長手方向の略全長に渡って延びる遮板7、9、11、13が水中へ垂直に突出しているので、本体3が波を受けた場合に、波のエネルギーを減衰でき、しかも本体3が回転するのを抑制することが可能である。従って、波の透過を安定して抑えることができる。
【0032】
また、一対の遮板7、一対の遮板9、一対の遮板11、一対の遮板13はそれぞれ互いに間隔を開けて対向して設けられ、本体3の軸心Cの延長線Lを挟み、且つ延長線Lからの距離が等しくなるように備えられているので、
図11において右方向、左方向のいずれの方向から波が来ても、上記のように波のエネルギーを減衰でき、しかも本体3が回転するのを抑制することが可能であり、波の透過を安定して抑えることができる。
【0033】
更に、連結板18が設けられているので、遮板7、9、11、13にかなり大きな圧力が加わっても、遮板7、9、11、13が変形するのを防止することが可能である。
【0034】
また、本体に発泡スチロール製の円柱体41がほぼ隙間のない状態となるように備えられているので、本体3に穴が開くなどしても、浮消波堤1が沈没することはない。
また、本体3を構成する円筒状部材15、23、37は市販の鋼管に僅かな加工を施すことで製作されているので、浮消波堤1の製作コストを低く抑えることができる。
【0035】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、上記実施の形態では、本体を3本の円筒状部材によって構成したが、本発明はこれに限定されず、1本または2本、または4本以上の円筒状部材によって構成してもよい。
円筒状部材の数や使用する円筒状部材の長さ寸法を変更して本体の長さ寸法を変えることができる。従って、本発明の浮消波堤では、係留場所等に応じて本体の長さ寸法を容易に変更することが可能である。
また、各遮板の水中へ突出する寸法(幅寸法)、長さ寸法、数は係留場所等の条件に応じて変えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の浮消波堤は、浮消波堤製造業、港湾土木業において利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0037】
1…浮消波堤 3…本体 5…蓋体
7、9、11、13…遮板 15…円筒状部材 17…フランジ
18…連結板 21…ボルト挿通穴 23…円筒状部材
25…フランジ 27…ボルト挿通穴 29…係留用ピース
33…標識灯取付台 35…防食部材 37…円筒状部材
39…ボルト挿通穴 41…発泡スチロール 43…標識灯
45…アンカーブロック 47…チェーン
C…本体の軸心 L…本体の軸心の延長線