特許第6940162号(P6940162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6940162セルロース系樹脂組成物、成形体及びこれを用いた製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6940162
(24)【登録日】2021年9月6日
(45)【発行日】2021年9月22日
(54)【発明の名称】セルロース系樹脂組成物、成形体及びこれを用いた製品
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/10 20060101AFI20210909BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20210909BHJP
   C08L 33/20 20060101ALI20210909BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20210909BHJP
   C08K 5/5399 20060101ALI20210909BHJP
   C08K 5/03 20060101ALI20210909BHJP
【FI】
   C08L1/10
   C08K3/04
   C08L33/20
   C08K5/521
   C08K5/5399
   C08K5/03
【請求項の数】16
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-524008(P2018-524008)
(86)(22)【出願日】2017年6月15日
(86)【国際出願番号】JP2017022179
(87)【国際公開番号】WO2017217504
(87)【国際公開日】20171221
【審査請求日】2020年5月15日
(31)【優先権主張番号】特願2016-121280(P2016-121280)
(32)【優先日】2016年6月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515069473
【氏名又は名称】下出 祐太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】當山 清彦
(72)【発明者】
【氏名】位地 正年
(72)【発明者】
【氏名】石原 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】下出 祐太郎
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−211253(JP,A)
【文献】 特開2011−132457(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/125992(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系樹脂(A)と、高屈折率有機材料(B)と、カーボンブラック(C)を含むセルロース系樹脂組成物であって、
前記セルロース系樹脂(A)が、セルロースのヒドロキシ基の水素原子の少なくとも一部が炭素数2〜4のアシル基で置換されたアシル化セルロースであり、
前記高屈折率有機材料(B)が、芳香環を有する化合物であって、アクリロニトリルとスチレンの共重合体(AS樹脂)、リン酸エステル、ホスファゼン化合物、及びフルオレン誘導体からなる群から選ばれる化合物であり、
前記カーボンブラック(C)が、酸性カーボンブラックであり、
前記セルロース系樹脂(A)に対する前記高屈折率有機材料(B)の質量比率(B/A)が10/90〜70/30の範囲にあり、
前記カーボンブラック(C)の含有量が、該セルロース系樹脂組成物の全体に対して0.05から10質量%の範囲にある、セルロース系樹脂組成物。
【請求項2】
前記高屈折率有機材料(B)が、前記セルロース系樹脂(A)の屈折率より大きい屈折率を有する、請求項1に記載のセルロース系樹脂組成物。
【請求項3】
前記高屈折率有機材料(B)の屈折率が1.50以上である、請求項1又は2に記載のセルロース系樹脂組成物。
【請求項4】
前記高屈折率有機材料(B)として、アクリロニトリルとスチレンの共重合体(AS樹脂)からなる高屈折率樹脂を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のセルロース系樹脂組成物。
【請求項5】
前記アクリロニトリル(AN)とスチレン(St)の共重合体(AS樹脂)の共重合比(質量比AN/St)が20/80〜40/60である、請求項4に記載のセルロース系樹脂組成物。
【請求項6】
前記高屈折率有機材料(B)として、さらに、芳香環を有するリン酸エステルからなる可塑剤を含有する、請求項4又は5に記載のセルロース系樹脂組成物。
【請求項7】
前記高屈折率樹脂(B1)に対する前記可塑剤(B2)の質量比率(B2/B1)が、10/90〜70/30である、請求項に記載のセルロース系樹脂組成物。
【請求項8】
前記セルロース系樹脂(A)に対する前記高屈折率有機材料(B)の質量比率(B/A)が20/80以上である、請求項4から7のいずれか一項に記載のセルロース系樹脂組成物。
【請求項9】
前記高屈折率有機材料(B)がリン酸エステル又はホスファゼン化合物である、請求項1から3のいずれか一項に記載のセルロース系樹脂組成物。
【請求項10】
前記高屈折率有機材料(B)がフルオレン誘導体である、請求項1から3のいずれか一項に記載のセルロース系樹脂組成物。
【請求項11】
前記カーボンブラック(C)のpH値が5以下である、請求項1から10のいずれか一項に記載のセルロース系樹脂組成物。
【請求項12】
前記カーボンブラック(C)の平均粒径が1〜20nmの範囲にある、請求項1から11のいずれか一項に記載のセルロース系樹脂組成物。
【請求項13】
前記セルロース系樹脂(A)と前記高屈折率有機材料(B)の合計の含有量が、前記カーボンブラック(C)を除く該セルロース系樹脂組成物の量に対して90質量%以上である、請求項1から12のいずれか一項に記載のセルロース系樹脂組成物。
【請求項14】
前記アシル化セルロースのアシル基導入比率(置換度DSAC)が2.0以上である、請求項1から13のいずれか一項に記載のセルロース系樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載のセルロース系樹脂組成物を用いて形成された成形体。
【請求項16】
請求項15に記載の成形体を用いた製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系樹脂組成物、この樹脂組成物を用いて形成された成形体、及びこの成形体を用いた製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物を原料とするバイオプラスチックは、石油枯渇対策や温暖化対策に寄与できるため、包装、容器、繊維などの一般製品に加え、電子機器、自動車等の耐久製品への利用も開始されている。
【0003】
しかし、通常のバイオプラスチック、例えば、ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカネート、デンプン変性物などは、いずれもデンプン系材料、すなわち可食部を原料としている。そのため、将来の食料不足への懸念から、非可食部を原料とする新しいバイオプラスチックの開発が求められている。
【0004】
非可食部の原料としては、木材や草木の主要成分であるセルロースが代表的であり、これを利用した種々のバイオプラスチックが開発され、製品化されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、セルロース樹脂と、ホスファゼン化合物とを含み、その含有量がセルロース樹脂に対して5〜300質量%である樹脂組成物が記載されている。この樹脂組成物を成形して得られた成形体は耐湿熱性に優れることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、平均置換度2.7以下のセルロースエステル(酢酸セルロース)、可塑剤としてリン酸エステル、及び充填剤で構成された樹脂組成物が記載されている。このような樹脂組成物は、環境負荷が小さく、流動性に優れ、この樹脂組成物を成形して得られた成形体は、剛性、寸法精度および難燃性が良好であることが記載されている。
【0007】
特許文献3には、セルロース系樹脂と、非セルロース系熱可塑性樹脂(芳香環を有する熱可塑性樹脂、例えば芳香族ポリカーボネート系樹脂)と、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するフルオレン化合物とを含む樹脂組成物が記載されている。このような樹脂組成物は、成形性または加工性を向上できることが記載されている。また、フルオレン化合物が複合化されていることで、透明性、耐熱性、耐水性、表面硬度などの特性の優れたセルロース系樹脂組成物が得られることが記載されている。
【0008】
特許文献4には、セルロースプロピオネート樹脂10〜80重量%と、アクリロニトリルスチレン樹脂20〜90重量%とを配合した樹脂組成物が記載されている。このような樹脂組成物は、セルロースプロピオネート樹脂より耐熱性が向上し、パール調光沢を有する成形品を形成できることが記載されている。
【0009】
一方で、近年、塗装をしなくても、高品位な外観をもつ樹脂成形品が求められている。樹脂成形品に塗装をしない場合、製造時においては、揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)の排出や塗装コストを抑えることができ、また、得られた成形品については、塗膜の剥がれや劣化に起因する外観の悪化の問題を解決できる。
【0010】
例えば、特許文献5には、ゴム質重合体を用いて形成したグラフト共重合体と、特定のビニル系単量体を用いて形成した共重合体と、特定のポリエステルと、着色剤としてカーボンブラック及び/又は染料とを特定の比率で含む熱可塑性樹脂組成物が記載されている。また、その組成物を射出成形して得られる射出成形体は、高い耐衝撃性と高品位な外観(光沢や漆黒性)を有することが記載されている。
【0011】
特許文献6には、特定の共重合ポリカーボネート樹脂と、着色剤(カーボンブラック及び/又は黒色有機染料)と、ヒンダードアミン系安定剤を含有し、特定の特性(鉛筆硬度、低温衝撃性、脆性破壊率、光沢度、明度)を有する黒色樹脂組成物が記載されている。また、この黒色樹脂組成物の黒色成形品は、優れた漆黒性を有し、耐低温衝撃性、耐候性、耐擦傷性、耐熱性に優れることが記載されている。
【0012】
特許文献7には、特定の共重合ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、衝撃改質剤(ゴム変性樹脂)、カーボンブラックを特定の配合比率で含有する黒色樹脂組成物が記載されている。また、この黒色樹脂組成物の成形品は、優れた漆黒性を有し、耐衝撃性、流動性、耐擦傷性、耐熱性に優れることが記載されている。
【0013】
特許文献8には、特定のグラフト共重合体1〜99質量部と、ビニル系共重合体99〜1質量部と、その他の熱可塑性樹脂0〜80質量部を含有し、特定の有機染料が配合された熱可塑性樹脂組成物が記載されている。また、この組成物の成形体は、耐衝撃性、耐候性、漆黒性、表面平滑性、耐傷付き性に優れることが記載されている。さらに、比較例3の熱可塑性樹脂組成物では、有機染料の代わりに、顔料(カーボンブラック:三菱化学(株)製の商品名:三菱カーボン♯2600)を含有したので、漆黒性と表面平滑性が低いことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2012−36326号公報
【特許文献2】特開2005−194302号公報
【特許文献3】特開2012−211253号公報
【特許文献4】特公平3−59097号公報
【特許文献5】国際公開第2013/147143号
【特許文献6】特開2015−172150号公報
【特許文献7】特開2013−112781号公報
【特許文献8】特開2005−132970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、高品位な外観を有する成形体を形成できるセルロース系樹脂組成物、その樹脂組成物を用いて形成された成形体、及びこの成形体を用いた製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様によれば、セルロース系樹脂(A)と、高屈折率有機材料(B)と、カーボンブラック(C)を含むセルロース系樹脂組成物であって、
前記セルロース系樹脂(A)が、セルロースのヒドロキシ基の水素原子の少なくとも一部が炭素数2〜4のアシル基で置換されたアシル化セルロースであり、
前記カーボンブラック(C)が、酸性カーボンブラックであり、
前記セルロース系樹脂(A)に対する前記高屈折率有機材料(B)の質量比率(B/A)が10/90〜70/30の範囲にあり、
前記カーボンブラック(C)の含有量が、該セルロース系樹脂組成物の全体に対して0.05から10質量%の範囲にある、セルロース系樹脂組成物が提供される。
【0017】
本発明の他の態様によれば、上記のセルロース系樹脂組成物を用いて形成された成形体が提供される。
【0018】
本発明の他の態様によれば、上記の成形体を用いた製品が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の実施形態によれば、高品位な外観を有する成形体を形成できるセルロース系樹脂組成物、その樹脂組成物を用いて形成された成形体、及びこの成形体を用いた製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0021】
本発明の実施形態によるセルロース系樹脂組成物は、セルロース系樹脂(A)と、高屈折率有機材料(B)と、カーボンブラック(C)を含む。セルロース系樹脂(A)に対する高屈折率有機材料(B)の質量比率(B/A)が10/90〜70/30の範囲にあることが好ましい。カーボンブラック(C)は酸性カーボンブラックであり、その含有量が、該セルロース系樹脂組成物の全体に対して0.05から10質量%の範囲にあることが好ましい。
【0022】
本実施形態によるセルロース系樹脂組成物を用いることにより、高品位の外観を有する成形体を形成できる。成形体の光沢度が高いほど、且つ明度が低いほど、より高品位の外観が得られる。その際、明度が低いほど、より漆黒性が高くなる。
【0023】
このセルロース系樹脂組成物において、セルロース系樹脂(A)と高屈折率有機材料(B)の合計の含有量が、カーボンブラック(C)を除く該セルロース系樹脂組成物の量に対して90質量%以上であることが好ましい。
【0024】
セルロース系樹脂(A)は、セルロースのヒドロキシ基の水素原子の少なくとも一部が炭素数2〜4のアシル基で置換されたアシル化セルロースである。このアシル基は、炭素数2〜4のアシル基から選ばれる少なくとも一種のアシル基であり、アセチル基又は/及びプロピオニル基が好ましい。
【0025】
高屈折率有機材料(B)は、セルロース系樹脂(A)の屈折率より大きい屈折率を有することが好ましい。
この高屈折率有機材料は、芳香環、リン原子含有基、イオウ原子含有基、フッ素以外のハロゲン基、脂環式基、有機金属部位から選ばれる少なくとも一種を有する有機化合物であることが好ましい。この高屈折率有機材料は、少なくとも芳香環を有することがより好ましい。
この高屈折率有機材料は、高屈折率樹脂、リン系有機化合物、硫黄系有機化合物、トリアジン系化合物、フルオレン誘導体、ベンゾフェノン系化合物から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0026】
高屈折率有機材料(B)として、少なくとも高屈折率樹脂(B1)を含むことが好ましい。この高屈折率樹脂(B1)はアクリロニトリルとスチレンの共重合体であることが好ましい。高屈折率樹脂(B1)を含む場合、高屈折率有機材料(B)として、さらに可塑剤(B2)を含有することが好ましい。この可塑剤(B2)はリン系有機化合物であることが好ましく、リン酸エステルであることがより好ましい。
このリン酸エステルは、セルロース系樹脂(A)の屈折率より大きい屈折率を有することが好ましい。また、このリン酸エステルは、芳香環を有する有機化合物であることが好ましい。
高屈折率樹脂(B1)に対する可塑剤(B2)の質量比率(B2/B1)が、10/90〜70/30であることが好ましい。
【0027】
高屈折率有機材料(B)がリン系有機化合物であってもよい(高屈折率樹脂を含まない)。このリン系有機化合物がリン酸エステルであることが好ましい。
このリン酸エステルは、セルロース系樹脂(A)の屈折率より大きい屈折率を有することが好ましい。
このリン酸エステルは、芳香環を有する有機化合物であることが好ましい。
【0028】
また、高屈折率有機材料(B)がホスファゼン化合物であってもよい(高屈折率樹脂を含まない)。
このホスファゼン化合物は、セルロース系樹脂(A)の屈折率より大きい屈折率を有することが好ましい。
このホスファゼン化合物は、芳香環を有する有機化合物であることが好ましい。
【0029】
また、高屈折率有機材料(B)がフルオレン誘導体であってもよい(高屈折率樹脂を含まない)。このフルオレン誘導体は、セルロース系樹脂(A)の屈折率より大きい屈折率を有することが好ましい。
【0030】
本実施形態において、「芳香環」は芳香環基(芳香族基)として化合物の分子構造内に有することができる。この芳香環基は、芳香族性を有する環状の基を意味し、単環の基であっても縮合環の基であってもよく、芳香族炭化水素環式基(アリール基)でも芳香族へテロ環式基(ヘテロアリール基)でもよく、またさらに置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい。芳香環基を構成する芳香環としては、例えば、アリール基をもたらすものとしてベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられ、ヘテロアリール基をもたらすものとしてフラン環、チオフェン環、ピロール環、イミダゾール環、ピリジン環が挙げられるが、これらに限定されない。アリール基の例としては、芳香環であるベンゼン環由来のフェニル基や芳香環であるナフタレン環由来の1−ナフチル基および2−ナフチル基等が挙げられる。また、ヘテロアリール基は1以上のヘテロ原子を含むヘテロ芳香族環基であり、ヘテロ原子の例としては、酸素、窒素および硫黄が挙げられる。ヘテロアリール基は、ヘテロ原子を含めて5または6個の環原子を有することが好ましい。ヘテロアリール基の具体例としては、フリル基、チエニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピリジル基等が挙げられる。
芳香環基は置換されていてもよく、芳香環基が「置換」されている場合の置換基としては、ヒドロキシ基;ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子);アミノ基;モノまたはジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基およびジブチルアミノ基);ニトロ基;シアノ基;アルキル基(例えば、C1−8アルキル基);C1−8アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基);C3−8シクロアルキル基などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0031】
高屈折率有機材料(B)の屈折率は1.50以上であることが好ましい。また、高屈折率有機材料(B)は、セルロース系樹脂(A)と相溶し得る相溶性有機材料であることが好ましい。
【0032】
カーボンブラック(C)は、酸性カーボンブラックであり、pH値が5以下であることが好ましい。また、カーボンブラックの平均粒径が1〜20nmの範囲にあることが好ましい。
【0033】
以下、本発明の実施形態についてさらに詳細に説明する。
【0034】
(セルロース系樹脂)
本発明の実施形態によるセルロース系樹脂組成物に含まれるセルロース系樹脂(セルロース誘導体)としては、セルロースを原料としてそのヒドロキシ基の少なくとも一部に炭素数2〜4のアシル基が導入されたものを用いることができる。
【0035】
<セルロース>
セルロースは、下記式(1)で示されるβ−D−グルコース分子(β−D−グルコピラノース)がβ(1→4)グリコシド結合により重合した直鎖状の高分子である。セルロースを構成する各グルコース単位は三つのヒドロキシ基を有している(式中のnは自然数を示す)。本発明の実施形態では、このようなセルロースに、これらのヒドロキシ基を利用して、アシル基が導入されたものである。
【0036】
【化1】
【0037】
セルロースは、草木類の主成分であり、草木類からリグニン等の他の成分を分離処理することによって得られる。このように得られたものの他、セルロース含有量の高い綿(例えばコットンリンター)やパルプ(例えば木材パルプ)を精製してあるいはそのまま用いることができる。原料に用いるセルロース又はその誘導体の形状やサイズ、形態は、反応性や固液分離、取り扱い性の点から、適度な粒子サイズ、粒子形状を持つ粉末形態のものを用いることが好ましい。例えば、直径1〜100μm(好ましくは10〜50μm)、長さ10μm〜100mm(好ましくは100μm〜10mm)の繊維状物あるいは粉末状物を用いることができる。
【0038】
セルロースの重合度は、グルコース重合度(平均重合度)として、50〜5000の範囲が好ましく、100〜3000がより好ましく、500〜3000がさらに好ましい。重合度が低すぎると、製造した樹脂の強度、耐熱性などが十分でない場合がある。逆に、重合度が高すぎると、製造した樹脂の溶融粘度が高くなりすぎて成形に支障をきたす場合がある。
【0039】
<セルロース誘導体>
本発明の実施形態におけるセルロース系樹脂(セルロース誘導体)は、セルロースのヒドロキシ基を利用して、炭素数2〜4のアシル基を導入して得ることができる。このアシル基は1種あるいは2種以上を導入できる。
【0040】
上記のアシル基は、セルロース中のヒドロキシ基とアシル化剤とが反応することで導入することができる。このアシル基は、セルロースのヒドロキシ基の水素原子に代えて導入された有機基部分に相当する。このアシル化剤は、セルロース中のヒドロキシ基と反応できる官能基を少なくとも一つ持つ化合物であり、例えばカルボキシル基、カルボン酸ハライド基、カルボン酸無水物基を有する化合物が挙げられる。具体的には、脂肪族モノカルボン酸、その酸ハロゲン化物、その酸無水物が挙げられる。
【0041】
炭素数が2〜4のアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基が挙げられ、炭素数が2又は3のアシル基(アセチル基、プロピオニル基)が好ましい。これらのアシル基の1種又は2種以上をセルロースに導入することができる。すなわち、本発明の実施形態におけるセルロース系樹脂は、セルロースのヒドロキシ基の水素原子が炭素数2〜4のアシル基で置換されたものであり、このアシル基はアセチル基または/及びプロピオニル基であることが好ましい。このようなセルロース系樹脂としては、アセチルセルロース、プロピオニルセルロース、アセチルプロピオニルセルロースが挙げられる。
【0042】
セルロースのグルコース単位あたりの導入されたアシル基の平均個数(DSAC)(アシル基導入比率)、すなわちグルコース単位あたりのアシル基で置換されたヒドロキシ基の平均個数(水酸基置換度)は、0.1〜3.0の範囲に設定することができる。アシル基の導入効果を十分に得る点から、特に、耐水性、流動性などの観点からは、DSACは2.0以上が好ましく、2.2以上がより好ましく、2.4以上がさらに好ましい。アシル基の導入効果を得ながら、他の基(ヒドロキシ基等)の効果を十分に得る点から、DSACは2.9以下が好ましく、2.8以下がより好ましい。
【0043】
上述のアシル基をセルロースに導入することにより、セルロースの分子間力(分子間結合)を低減することができ、可塑性を向上できる。
【0044】
ヒドロキシ基の残留量が多いほど、セルロース系樹脂の最大強度や耐熱性が大きくなる傾向がある一方で、吸水性が高くなる傾向がある。一方、ヒドロキシ基の変換率(置換度)が高いほど、吸水性が低下し、可塑性や破断歪みが増加する傾向がある一方で、最大強度や耐熱性が低下する傾向がある。これらの傾向等を考慮して、ヒドロキシ基の変換率を適宜設定することができる。
【0045】
セルロース系樹脂のグルコース単位あたりの残存するヒドロキシ基の平均個数(水酸基残存度)は、0〜2.9の範囲に設定することができる。ヒドロキシ基は、最大強度や耐熱性等の観点から、残存していてもよく、例えば、水酸基残存度は0.01以上であってもよく、さらに0.1以上であってもよい。特に、流動性の観点からは、最終生成セルロース系樹脂の水酸基残存度は、1.0以下が好ましく、0.8以下がさらに好ましく、0.6以下が特に好ましい。また、水酸基残存度は、流動性に加えて耐水性や耐衝撃性などの観点からも0.6以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.4以下がさらに好ましく、0.2以下が特に好ましい。
【0046】
セルロース系樹脂の分子量は、重量平均分子量として、10000〜200000の範囲が好ましく、50000〜200000の範囲がより好ましく、50000〜150000の範囲がさらに好ましい。分子量が大きすぎると、流動性が低くなり加工が困難になることに加え、均一な混合が困難になる。逆に分子量が小さすぎると、耐衝撃性などの物性が低下する。この重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により決定することができる(標準試料として市販の標準ポリスチレンを用いることができる)。
【0047】
(高屈折率有機材料)
本発明の実施形態によるセルロース系樹脂組成物に含まれる高屈折率有機材料としては、セルロース系樹脂組成物の屈折率を大幅に低下させないものが好ましく、屈折率が1.50以上の高屈折率有機材料を用いることが好ましい。また、使用するセルロース系樹脂の屈折率より大きい屈折率をもつ高屈折率有機材料が好ましい。そのような高屈折率有機材料としては、芳香環、リン原子含有基、イオウ原子含有基、フッ素以外のハロゲン基、脂環式基、有機金属部位から選ばれる少なくとも一種を有する有機化合物を用いることができ、少なくとも芳香環を有するものが好ましい。
【0048】
なお、この屈折率は、ナトリウムランプのD線(波長589.3nmの光)についての屈折率nであり、アッベ屈折計を使用して測定できる。
【0049】
高屈折率有機材料は、セルロース系樹脂に対して溶解性(セルロース系樹脂との相溶性)があるものが好ましい。この溶解性は、Fedors法により計算されるSP値(相溶性パラメータ、単位:(cal/cm3)1/2)に基づいて示すことができる。高屈折率有機材料は、その高屈折率有機材料のSP値とセルロース系樹脂のSP値との差の絶対値が3以下のものを好適に用いることができ、例えば2以下のものを用いることができる。一般に、SP値の差の絶対値が小さいほど、相溶性が高くなる傾向があり、相溶性が高いと、成形体の(着色剤を除いた場合の)透明度が高くなる傾向があり、相分離による白濁、斑点やブリードアウトといった課題を回避することができ、成形体の外観の品位を高めることができる。
【0050】
なお、SP値は次式で示される。
SP値(δ)=(ΔH/V)1/2
式中のΔHはモル蒸発熱(cal/mol)を表し、Vはモル体積(cm/mol)を表す。
【0051】
式中のΔH及びVは、POLYMER ENGINEERING AND FEBRUARY,1974,Vol.14,No.2,Robert F.Fedors.(151〜153頁)に記載の原子団のモル蒸発熱の合計(ΔH)とモル体積の合計(V)を用いることができる。
【0052】
セルロース系樹脂と相溶しやすい高屈折率有機材料としては、極性基を有する化合物を用いることができる。その極性基としては、シアノ基(CN)、トリアジン基等の窒素原子含有基;リン酸基(PO基)、ホスファゼン基等のリン原子含有基;スルホニル(SO)基、スルフィド基(−S−)、ジスルフィド基(−S−S−)等のイオウ原子含有基;カルボニル基(C=O)、ヒドロキシ基(OH)、エーテル基(C−O−C)等の酸素原子含有基が挙げられる。
【0053】
屈折率と相溶性の観点から、高屈折率有機材料としては、芳香環と極性基の両方を有する有機化合物が好ましい。
【0054】
このような高屈折率有機材料としては、アクリロニトリルとスチレンの共重合体(AS樹脂)等の高屈折率樹脂;リン酸エステル、ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼン等のリン系有機化合物;ジフェニルスルホン、ジフェニルスルフィド、ジフェニルジスルフィド、DBSP(2,4-ビスフェニルスルホニルフェノール)等の硫黄系有機化合物;トリアジン系化合物;ビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)等のフルオレン誘導体;ベンゾフェノン系化合物が挙げられる。
【0055】
AS樹脂は、アクリロニトリル(AN)とスチレン(St)の共重合比(質量比AN/St)が20/80〜40/60が好ましく、20/80〜35/65がより好ましく、25/75〜30/70が特に好ましい。
【0056】
AS樹脂の分子量は、重量平均分子量として、10000〜200000の範囲が好ましく、20000〜150000の範囲がより好ましく、20000〜100000の範囲がさらに好ましい。分子量が大きすぎると、流動性が低くなり加工が困難になることに加え、均一な混合が困難になる。逆に分子量が小さすぎると、耐衝撃性などの物性が低下する。この重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により決定することができる(標準ポリスチレン基準)。
【0057】
リン酸エステルとしては、以下の芳香族リン酸エステルから選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
下記式で示される芳香族縮合リン酸エステル化合物(例えば大八化学工業(株)製のPX−200(商品名)):
【化2】
(CO)P(O)OCOP(O)(OC)で示される芳香族縮合リン酸エステル化合物(例えば大八化学工業(株)製のCR−733S(商品名));
(CO)P(O)OCC(CHOP(O)(OC)で示される芳香族縮合リン酸エステル化合物(例えば大八化学工業(株)製のCR−741(商品名));
トリフェニルホスフェート(例えば、大八化学工業(株)製のTPP(商品名));
トリクレジルホスフェート(例えば、大八化学工業(株)製のTCP(商品名));
トリキシレニルホスフェート(例えば、大八化学工業(株)製のTXP(商品名));
クレジルジフェニルホスフェート(例えば、大八化学工業(株)製のCDP(商品名));
クレジルジ2,6−キシレニルホスフェート(例えば、大八化学工業(株)製のPX−110(商品名))。
芳香族リン酸エステルの中でも、成形体の外観の観点から、分子量が大きく揮発しにくい芳香族縮合リン酸エステルが好ましい。
【0058】
トリアジン系化合物としては、以下の化学式で示される化合物が挙げられる。
【0059】
【化3】
【0060】
ベンゾフェノン系化合物としては、以下の化学式で示される化合物が挙げられる。
【0061】
【化4】
【0062】
(カーボンブラック)
本発明の実施形態によるセルロース系樹脂組成物に含まれるカーボンブラックとしては、酸性であることが好ましく、具体的にはpH5以下が好ましく、pH4以下がより好ましく、pH3.5以下がさらに好ましい。このような酸性(pH値が低い)カーボンブラックを用いることにより、成形体の明度を下げることができる。例えば、好ましくはpH2.5〜4、より好ましくはpH2.5〜3.5のカーボンブラックを好適に用いることができる。
【0063】
このpH値は、カーボンブラックと蒸留水の混合液をガラス電極pHメーターで測定した値である。具体的な測定方法は次の通りである。試料10gに対して、煮沸脱気した純水100mlを加え、ホットプレート上で15分間煮沸し室温まで冷却後、上澄液を取り除き、得られた泥状物のpHをガラス電極pHメーターで測定する。
【0064】
このような酸性カーボンブラックの表面の酸性基(例えばカルボン酸基)とセルロース系樹脂の極性基(例えばヒドロキシ基)との相互作用あるは結合により親和性が向上し、カーボンブラックの高分散化が生じ、明度の低下に寄与していると考えられる。
【0065】
このカーボンブラックの平均粒径は、1〜20nmが好ましく、5〜20nmがより好ましく、8〜18nmがさらに好ましい。平均粒径が小さいほど、成形体の明度が低下し、高品位の黒色(漆黒)の外観が得られる傾向がある。逆に平均粒径が大きいほど、分散性が高くなる傾向にある。これらの観点から上記の範囲にある粒子径のカーボンブラックを用いることが好ましい。
【0066】
この平均粒径は、カーボンブラックの粒子を電子顕微鏡で観察して求めた粒子の算術平均径である。
【0067】
このカーボンブラックの比表面積は、成形体の漆黒性等の観点から、140m/g以上が好ましく、180m/g以上がより好ましい。また、分散性等の観点から、1000m/g以下のものを用いることができ、700m/g以下のものを用いることができ、さらには500m/g以下のものを用いることができる。粒子径と比表面積の関係は、一般に粒子径が小さいほど比表面積は大きくなる。成形体の明度および外観、粒子の分散性の観点から、上記の範囲にあるBET比表面積のカーボンブラックを用いることが好ましい。
この比表面積は、窒素吸着量からS-BET式で求めたBET比表面積(JISK6217)である。
【0068】
(セルロース系樹脂組成物)
本発明の実施形態によるセルロース系樹脂組成物は、セルロース系樹脂(A)と、高屈折率有機材料(B)と、カーボンブラック(C)を含む。
【0069】
セルロース系樹脂(A)に対する高屈折率有機材料(B)の質量比率(B/A)が10/90〜70/30の範囲にあることが好ましく、15/85〜65/35の範囲にあることがより好ましい。質量比率(B/A)がこの範囲にあることにより、主にセルロース系樹脂による機械特性を得ながら、高品位の外観をもつ(特に光沢度の高い)成形体を得ることができる。
【0070】
高屈折率有機材料(B)として少なくとも高屈折率樹脂を用いる場合、この高屈折率樹脂がセルロース系樹脂と十分に相溶するときは、高屈折率樹脂が多いほど屈折率が高くなり、成形体の光沢度を高めることができるため、質量比率(B/A)が20/80以上に設定でき、また30/70以上に設定できる。
【0071】
一方、高屈折率有機材料(B)として低分子化合物(例えばリン酸エステル)のみを用いた場合は、その含有量が多くなるにつれてブリードアウトしやすくなるため、質量比率(B/A)が50/50以下が好ましく、30/70以下がより好ましく、20/80以下がさらに好ましい。
【0072】
高屈折率有機材料(B)として高屈折率樹脂を用いる場合は、可塑剤として機能する高屈折率有機材料と併用することが好ましい。可塑剤を用いることにより、まず、成形温度を下げることができ、樹脂同士の相分離が起きにくくなる。さらに、可塑剤自体も高屈折率であるため、セルロース系樹脂組成物の屈折率を高めることができ、これらの結果、高品位の外観をもつ成形体を得ることができる。
【0073】
このような観点から、高屈折率樹脂(B1)に対する可塑剤(B2)の質量比率(B2/B1)は、10/90〜70/30が好ましく、20/80〜50/50がより好ましく、25/75〜40/60がさらに好ましい。可塑剤(B2)が多いほど、相溶性を高めることができるが、多すぎるとブリードアウトしやすくなるため、質量比率(B2/B1)を上記の範囲に設定することが好ましい。可塑剤成分(B2)と樹脂成分(A+B1)の比率B2/(A+B1)は、3/97〜50/50が好ましく、5/95〜30/70がより好ましく、5/95〜20/80がさらに好ましい。
【0074】
この可塑剤としては、リン系有機化合物が好ましく、その中でも、可塑化性能の高いリン酸エステルが好ましい。また、セルロース系樹脂の屈折率より大きな屈折率を有するリン系化合物が好ましく、その屈折率が1.50より大きいことがより好ましい。このようなリン系有機化合物として、芳香環を有するリン系有機化合物、好ましくは芳香環を有するリン酸エステルを用いることができる。
【0075】
本発明の実施形態によるセルロース系樹脂組成物中のカーボンブラック(C)の含有量は、該セルロース系樹脂組成物の全体に対して0.05から10質量%の範囲に設定できる。十分な着色効果を得る点から、カーボンブラックの含有量は0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましい。十分な着色効果を得ながらカーボンブラックの余剰量を抑える点から5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましく、例えば1質量%以下に設定できる。
【0076】
本発明の実施形態によるセルロース系樹脂組成物は、成形体にしたときに所望の外観や特性を損なわない範囲で、その他の成分を含有してもよいが、高品位の外観の成形体を得る観点から、セルロース系樹脂(A)と高屈折率有機材料(B)の合計の含有量が多いほど好ましい。例えば、セルロース系樹脂(A)と高屈折率有機材料(B)の合計の含有量は、前記カーボンブラック(C)を除く該セルロース系樹脂組成物の量(セルース系樹脂組成物からカーボンブラック(C)を除いた残りの量)に対して90〜100質量%の範囲に設定できるが、95質量%以上が好ましく、98質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましい。
【0077】
その他の成分として、通常の成形用樹脂材料に一般に使用される添加剤を含んでいてもよい。そのような添加剤としては、例えばフェノール系やリン系などの酸化防止剤、着色剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、抗菌・防かび剤、難燃剤、可塑剤等が挙げられる。特に、通常のセルロース樹脂に一般に使用される添加剤を含んでもいてもよい。そのような添加剤としては、例えば、可塑剤、難燃剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0078】
(組成物の製造方法)
本発明の実施形態によるセルロース系樹脂組成物の製造方法は、特に限定はなく、例えばセルロース系樹脂と高屈折率有機材料とカーボンブラックと、必要に応じて添加剤とを、通常の混合機で溶融混合することでセルロース系樹脂組成物を得ることができる。混合機としては、例えばタンブラーミキサー、リボンブレンダー、単軸や多軸混合押出機、混練ニーダー、混練ロール等のコンパウンディング装置を用いることができる。溶融混合後は、必要に応じて適当な形状に造粒を行うことができ、例えばペレタイザーを用いてペレット化することができる。
【0079】
(成形体)
本発明の実施形態によるセルロース系樹脂組成物を用いて形成された成形体は、通常の成形方法により所望の形状にすることができ、その形状は限定されず、その成形体の厚みも制限されないが、より高品位の外観を確保する点から0.5mm以上が好ましく、0.8mm以上がより好ましい。一方、成形体の厚みの上限も特に制限されず、求められる形状や強度等に応じて適宜設定することができるが、例えば10mm以下、さらに5mm以下の厚みに設定しても、十分な機械強度とともに、高品位の外観を得ることができる。成形体の全体(厚み方向を含む任意の方向の全体)にわたってカーボンブラックが分布しているため、塗装や化粧フィルム等を設けなくても、任意の形状において高品位の外観を得ることができる。
【0080】
本発明の実施形態によるセルロース系樹脂組成物は、射出成形、射出圧縮成形、インジェクションブロー成形、押し出し成形、ブロー成形などの通常の成形方法により、使用目的に応じた成形体にすることができる。
【0081】
本発明の実施形態によるセルロース系樹脂組成物を用いて形成された成形体は、高品位な外観を有し、且つ機械特性に優れるため、電子機器、家電製品、各種の容器、建材、家具、文具、自動車、家庭用品に使用されている部材に代えて用いることができる。例えば、電子機器や家電製品の筐体および外装部品、各種の収納ケース、食器類、建材のインテリア部材、自動車の内装材、その他の日常生活用品にも使用することができる。
【0082】
本発明の実施形態によれば、本発明による樹脂組成物を用いて形成された成形体を含む電子機器あるいは家電製品、自動車、建材、家具、文具、家庭用品等の製品を提供できる。
電子機器あるいは家電製品の用途としては、パソコン、固定電話、携帯電話端末、スマートフォン、タブレット、POS端末、ルーター、プロジェクター、スピーカー、照明器具、電卓、リモコン、冷蔵庫、洗濯機、加湿器、除湿器、ビデオレコーダー・プレイヤー、掃除機、エアコン、炊飯器、電動髭剃り、電動歯ブラシ、食洗機などの筐体、スマートフォンなど携帯端末のケース類が挙げられる。
自動車用途としては、内装のインストルメントパネル、ダッシュボード、カップホルダー、ドアトリム、アームレスト、ドアハンドル、ドアロック、ハンドル、ブレーキレバー、ベンチレーター、シフトレバーなどが挙げられる。
建材としては、インテリア部材の壁材、床材、窓枠、ドアノブなどが挙げられる。
家具用途としては、タンス、本棚、テーブル、イスなどの外装が挙げられる。
文具用途としては、ペン、ペンケース、ブックカバー、はさみ、カッターなどの外装が挙げられる。
生活用品用途としては、めがねのフレームが挙げられる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例を挙げてさらに詳細に説明する。
【0084】
(実施例1)
目的の組成物の構成材料として、セルロース系樹脂(セルロースアセテートプロピオネート、プロピオニル基のDS=2.49、アセチル基のDS=0.18、イーストマンケミカル社製、商品名:CAP−482−20)、AS樹脂(アクリロニトリル(AN)とスチレン(St)の共重合体、質量比AN/St=30/70、旭化成(株)製、商品名:スタイラック AS 789)、酸性カーボンブラック(平均粒径13nm、酸性度:pH3、三菱化学(株)製、商品名:三菱カーボンブラック♯2650)を用意した。
【0085】
次いで、セルロース系樹脂79質量部、AS樹脂20質量部、酸性カーボンブラック1質量部をハンドミキシングにより十分に混合した。なお、樹脂材料は事前に80℃で5時間乾燥した。
【0086】
得られた混合物を用いて、以下の成形体の作製方法1に従って樹脂組成物を形成し、それを用いて成形体(評価用試料)を形成した。得られた成形体について、以下に示す測定方法で光沢度と明度の評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
(実施例2)
目的の組成物の構成材料を表1に示す材料および配合比とした以外は、実施例1と同様にして混合物を得た。
【0088】
得られた混合物を用いて、以下の成形体の作製方法1及び2に従って樹脂組成物を形成し、次いで成形体(評価1及び2用の試料)を形成した。得られた成形体について、以下に示す測定方法で光沢度と明度の評価を行った。結果を表1に示す。なお、表中の評価1は、成形体の作製方法1で形成された成形体の評価結果を示し、評価2は成形体の作製方法2で形成された成形体の評価結果を示す。
【0089】
(実施例3)
目的の組成物の構成材料を表1に示す材料および配合比とした以外は、実施例1と同様にして混合物を得た。セルロース系樹脂とカーボンブラックは実施例1と同じものを用い、リン酸エステルは芳香族縮合リン酸エステル(大八化学工業(株)製、商品名:PX−200)を用いた。
【0090】
得られた混合物を用いて、以下の成形体の作製方法1及び2に従って樹脂組成物を形成し、次いで成形体(評価1及び2用の試料)を形成した。得られた成形体について、以下に示す測定方法で光沢度と明度の評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例4)
目的の組成物の構成材料を表1に示す材料および配合比とした以外は、実施例1と同様にして混合物を得た。セルロース系樹脂とAS樹脂とカーボンブラックは実施例1と同じものを用い、リン酸エステルは芳香族縮合リン酸エステル(商品名:大八化学工業(株)製、PX−200)を用いた。
【0092】
得られた混合物を用いて、以下の成形体の作製方法1及び2に従って樹脂組成物を形成し、次いで成形体(評価1及び2用の試料)を形成した。得られた成形体について、以下に示す測定方法で光沢度と明度の評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
(実施例5)
目的の組成物の構成材料を表1に示す材料および配合比とした以外は、実施例1と同様にして混合物を得た。セルロース系樹脂とカーボンブラックは実施例1と同じものを用い、ホスファゼン化合物は、ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼン(大塚化学(株)製、商品名:SPS−100)を用いた。
【0094】
得られた混合物を用いて、以下の成形体の作製方法1に従って樹脂組成物を形成し、次いで成形体(評価1用の試料)を形成した。得られた成形体について、以下に示す測定方法で光沢度と明度の評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
(実施例6および7)
目的の組成物の構成材料を表1に示す材料および配合比とした以外は、実施例1と同様にして混合物を得た。セルロース系樹脂とカーボンブラックは実施例1と同じものを用い、フルオレン誘導体は、ビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)(大阪ガスケミカル(株)製、商品名:BPEF)を用いた。
【0096】
得られた混合物を用いて、以下の成形体の作製方法1に従って樹脂組成物を形成し、次いで成形体(評価1用の試料)を形成した。得られた成形体について、以下に示す測定方法で光沢度と明度の評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
(比較例1〜7、参考例1〜2)
目的の組成物の構成材料を表1に示す材料および配合比とした以外は実施例1と同様にして混合物を得た。
【0098】
得られた各混合物を用いて、以下の成形体の作製方法1及び2に従って樹脂組成物を形成し、次いで成形体(評価1及び2用の試料)を形成した。得られた成形体について、以下に示す測定方法で光沢度と明度の評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
実施例、参考例および比較例で使用した構成材料は以下の通りである。
セルロース系樹脂:セルロースアセテートプロピオネート、プロピオニル基のDS=2.49、アセチル基のDS=0.18(イーストマンケミカル社製、商品名:CAP−482−20)、重量平均分子量12万(標準ポリスチレン基準)、数平均分子量=3.9万(標準ポリスチレン基準)
AS樹脂:アクリロニトリル(AN)とスチレン(St)の共重合体(質量比AN/St=30/70)(旭化成(株)製、商品名:スタイラック AS 789)、重量平均分子量4.2万(標準ポリスチレン基準)、数平均分子量=1.5万(標準ポリスチレン基準)
リン酸エステル:芳香族縮合リン酸エステル(大八化学工業(株)製、商品名:PX−200)
ホスファゼン化合物:ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼン(大塚化学(株)製、商品名:SPS−100)
フルオレン誘導体:ビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)(大阪ガスケミカル(株)製、商品名:BPEF、化学名:9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン)
PBS樹脂:ポリブチレンサクシネート(三菱化学製、商品名:GSPla、グレード:FZ71PD)
カーボンブラック1:酸性カーボンブラック(平均粒径:13nm、pH3)(三菱化学(株)製、商品名:三菱カーボンブラック♯2650)
カーボンブラック2:中性カーボンブラック(平均粒径:13nm、pH6.5)(三菱化学(株)製、商品名:三菱カーボンブラック♯2600)
カーボンブラック3:中性カーボンブラック(平均粒径:24nm、pH7.5)(三菱化学(株)製、商品名:三菱カーボンブラック♯40B)
【0100】
(成形体の作製方法1/評価用試料1の調製)
<混練方法>
得られた混合物を、小型二軸連続式混練機(栗本鐵工所製、製品名:S1KRCニーダ)に投入し、混練温度205−220℃、回転数140−150m/分で混練し、水冷回収してペレット化した。得られたペレットは80℃で5時間乾燥した。実施例1、2、参考例1、比較例1、2、5は混練温度220℃、参考例2、比較例3、4は混練温度205℃、その他は混練温度210℃とした。
【0101】
<成形方法>
得られたペレットを成形直前に再度80℃で5時間乾燥して使用し、小型射出成形機(Thermo Electron Corporation製、製品名:HAAKE MiniJet II)により、下記形状の成形体を作製した。
成形体サイズ:厚み2.4mm、幅12.4mm、長さ80mm
その際、成形条件を次の通りに設定した。
成形機のシリンダー温度:210−230℃、
金型温度:65−100℃、
射出圧力:1200bar(120MPa)/射出時間:20秒間、
保圧:800bar(80MPa)/保圧時間:10秒間。
実施例1、2、参考例1、比較例1、2、5はシリンダー温度230℃、金型温度80−100℃、その他の例はシリンダー温度210℃、金型温度65℃とした。
金型は、鏡面研磨処理により表面粗さRa=10nmとしたものを使用した(表面粗さはOLYMPUS製、レーザー顕微鏡OLS4100(製品名)にて評価した)。
【0102】
(成形体の作製方法2/評価試料2の調製)
<混練方法>
得られた混合物を、二軸連続式混練機(Φ42、L/D=38、ベルストルフ社製、製品名:ZE40A)にて、混練温度205−220℃、回転数120rpmで混練し、水冷回収してペレット化した。得られたペレットは80℃で5時間乾燥した。
実施例2は混練温度220℃、実施例3及び4は混練温度210℃、参考例2及び比較例4は混練温度205℃とした。
【0103】
<成形方法>
得られたペレットを成形直前に再度80℃で5時間乾燥して使用し、射出成形機(日精樹脂工業製、製品名:NEX50)により、下記形状の成形体を作製した。
成形体サイズ:厚み2.0mm、幅70mm、長さ70mm
その際、成形条件を次の通りに設定した。
成形機のシリンダー温度:200〜210℃、
金型温度:65℃、
射出圧力:70−100MPa、
保圧:60−80MPa。
実施例2、3はシリンダー温度210℃、その他の例は200℃とした。
金型は、鏡面研磨処理により表面粗さRa=1nmとしたものを使用した(表面粗さはOLYMPUS製、レーザー顕微鏡OLS4100(製品名)にて評価した)。
【0104】
(光沢度の測定)
得られた評価用試料の20°鏡面光沢度(GS20°)を、光沢計(コニカミノルタ製、製品名:光沢計GM−268Plus、適合規格:ISO 2813、ISO 7668、ASTM D 523、ASTM D 2457、DIN 67 530、JIS Z 8741、BS 3900、BS 6161(Part12))で測定した。
【0105】
(明度の測定)
得られた評価用試料のSCE方式(正反射光除去)よる反射測定で明度を、分光測色計(コニカミノルタ製、製品名:分光測色計CM−3700A、JIS Z 8722 条件c、ISO7724/1、CIE No.15、ASTM E1164 、DIN5033 Teil7に準拠)で測定した。測定径/照明径は、SAV:3x5mm/5x7mmとした。反射測定条件は、di:8°,de:8°(拡散照明・8°方向受光)とし、視野は10°とし、光源はD65光源を使用し、UV条件は100%Fullとした。ここで、明度とは、CIE1976L*a*b*色空間のL*を指す。
【0106】
【表1】
【0107】
実施例1〜7と、高屈折率材料を含まない参考例1及び比較例1〜2とを対比すると、実施例1〜7の成形体は、光沢度が高いことが分かる。
また、特に比較例2と対比すると、光沢度が高いことに加えて、明度が低い(漆黒性が高い)ことが分かる。比較例2では、高屈折率材料を使用せず、またカーボンブラックは中性であり平均粒径が24nmと比較的大きいのに対して、実施例1〜7では、高屈折率材料を使用し、カーボンブラックが酸性であり平均粒径が13nmと小さい。高屈折率材料の有無と、カーボンブラックの酸性度と粒径の違いが評価結果に影響しているといえる。したがって、本発明の実施形態によれば、漆の塗布製品の外観に近い、高品位な外観(漆黒)の成形体を形成できることが分かる。
【0108】
また、同じカーボンブラックを使用している実施例1と2を対比すると、高屈折率有機材料(AS樹脂)の含有率が多いほど、高い光沢度を得ることができることが分かる。実施例4はさらに高屈折率有機材料(AS樹脂とリン酸エステルの合計)の含有率が多く、より高い光沢度が得られている。
このように、高屈折率材料を多く含有することにより、光沢度が向上することが分かる。
【0109】
また、同じカーボンブラックを使用している実施例1と参考例2を対比すると、低屈折率のPBS樹脂を用いた参考例2に比べて、高屈折率のAS樹脂を用いた実施例1の成形体の光沢度が高い。同様に、比較例5と比較例3とを対比すると、低屈折率のPBS樹脂を用いた比較例3に比べて、高屈折率のAS樹脂を用いた比較例5の成形体の光沢度が高い。このように添加する材料の含有量が同じでも、材料自体の屈折率が大きいほど、光沢度が向上することが分かる。
【0110】
実施例1と比較例5の対比、実施例3と比較例6の対比、実施例4と比較例7の対比において(高屈折率有機材料を含む場合)、中性カーボンブラックを用いた場合に比べて(比較例5、6、7)、酸性カーボンブラックを用いた場合は明度が低い(実施例1、3、4)。
【0111】
これに対して、高屈折率有機材料を含まない場合、参考例1と比較例1との間、参考例2と比較例3との間では、カーボンブラックが酸性であっても中性であっても明度は大きく違わない。
【0112】
このように、高屈折率材料の存在下では、使用するカーボンブラックの酸性度の違いが、成形体の明度に影響を与えることが分かる。すなわち、酸性カーボンブラックを用いることにより、高屈折率材料の添加による明度の上昇を抑制することができるといえる。
なお、比較例2及び4の評価結果が示すように、カーボンブラックの粒径が大きいと、明度が増大する。
【0113】
前述のように、光沢度を高くするためには、高屈折率有機材料の含有率が大きいほど好ましいが、高屈折率有機材料が低分子化合物であるとブリードアウトしやすくなる。このようなブリードアウトを抑える点から、高屈折率有機材料として高屈折率樹脂を用いることが好ましい。この高屈折率樹脂としては、セルロース系樹脂との相溶性に優れるものが好ましいが、成形時の温度条件を緩和して相分離を抑制する点から、実施例4のように、高屈折率樹脂(例えばAS樹脂)と高屈折率の可塑剤成分(低分子化合物:例えばリン酸エステル)とを併用することが好ましい。
【0114】
実施例4では、AS樹脂(高屈折率樹脂)と、リン酸エステル(高屈折率の可塑剤成分)を含み、これらの合計の含有率、すなわち高屈折率有機材料の含有率(質量比B/A)が60/39と大きく、高光沢度が得られている。また、より大型の混練機で多量の樹脂組成物を十分に混練し、成形体を形成したところ(成形体の作製方法2)、外観の品位を低下させる相分離は認められなかった。これに対して、実施例2では、AS樹脂(高屈折率樹脂)の含有量が多い(B/A=50/49)が可塑剤を含有していないため、成形温度を上げる必要が生じたことから、わずかに相分離によると想定する微小の斑点が認められた。
【0115】
以上、実施形態及び実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0116】
この出願は、2016年6月17日に出願された日本出願特願2016−121280を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。