(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6940372
(24)【登録日】2021年9月6日
(45)【発行日】2021年9月29日
(54)【発明の名称】車両荷室構造
(51)【国際特許分類】
B60R 5/04 20060101AFI20210916BHJP
【FI】
B60R5/04 T
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-206141(P2017-206141)
(22)【出願日】2017年10月25日
(65)【公開番号】特開2019-77351(P2019-77351A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2020年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安部 龍平
(72)【発明者】
【氏名】原 崇志
(72)【発明者】
【氏名】江島 光昭
【審査官】
菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−098831(JP,A)
【文献】
特開2007−118837(JP,A)
【文献】
実開昭61−157034(JP,U)
【文献】
特開2012−228935(JP,A)
【文献】
米国特許第06062146(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッケージトレイを備えた車両荷室構造であって、
前記パッケージトレイは、その車両前方部と車両後方部との間において、車幅方向に延び、前記車両前方部と前記車両後方部とをそれぞれ開閉可能とするヒンジ部を備え、
前記ヒンジ部は、前記パッケージトレイの一部を折り畳み可能にする折畳部を備え、前記パッケージトレイのうち前記折畳部よりも車両前方側に位置する部分により構成される第1固定部と、前記パッケージトレイのうち前記折畳部よりも車両後方側に位置する部分により構成される第2固定部とが車両前後に重畳してなるとともに、重畳した前記第1固定部と前記第2固定部の車幅方向における両端が荷室の側壁を構成するデッキサイドトリムに固定されてなり、前記第1固定部の車両前方側には前記車両前方部を開閉するための第1ヒンジ部が、前記第2固定部の車両後方側には前記車両後方部を開閉するための第2ヒンジ部が設けられてなり、
前記第1固定部と前記第2固定部は、それぞれが車幅方向に延びた別個の板状をなし、前記折畳部において前記パッケージトレイが折られた折畳状態では、当該第1固定部の表面と当該第2固定部の表面とが向かい合う形で車両前後方向に重畳し、
前記折畳状態において重畳した前記第1固定部と前記第2固定部の車幅方向における両端かつ下側には、前記第1固定部の裏面と前記第2固定部の裏面とを部分的に覆う形のクリップが取り付けられ、
前記クリップは、前記デッキサイドトリムに設けられた凹部に固定されていることを特徴とする車両荷室構造。
【請求項2】
前記パッケージトレイにおける前記車両前方部と前記車両後方部とには、それぞれ下方に窪む凹部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両荷室構造。
【請求項3】
前記第1固定部と前記第2固定部の車幅方向における前記両端には、車両前後方向に貫通する貫通孔が設けられ、
前記クリップは、前記貫通孔に挿通され係止される係止部を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両荷室構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両荷室構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車室内の後部座席とトランクルーム(荷室)を隔離しているトノボード(パッケージトレイ)の構造として、下記特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1に記載のトノボードは、前側ボード部と後側ボード部とによる複数構成とされ、前側ボード部の車両前側端部、かつ車幅方向における両側にそれぞれ設けられた軸部によって、トノボードにおける車両前端部がデッキサイドトリムに固定されている。後側ボード部は、前側ボード部の車両後側にヒンジ部を介して接続されるとともに、バックドアと連結されており、バックドアを開く動作に連動してトノボード(後側ボード部及び前側ボード部)を上方に引き上げる構造とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−11003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような車両荷室構造の場合、バックドアの開閉動作に伴ってトノボードの開閉を行うことが可能なため、その開け閉めの利便性には優れる。しかしながら、トノボードにおける車両前端部がデッキサイドトリムに固定されているため、例えば車両走行中などバックドアを閉めた状態で、乗員が後部座席(車両前方側)から荷室内にアクセスできないという点で、改善の余地があった。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、車両前方及び車両後方から荷室内にアクセス可能な車両荷室構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、パッケージトレイを備えた車両荷室構造であって、前記パッケージトレイは、その車両前方部と車両後方部との間において、車幅方向に延び、前記車両前方部と前記車両後方部とをそれぞれ開閉可能とするヒンジ部を備え、前記ヒンジ部は、前記パッケージトレイの一部を折り畳み可能にする折畳部を備え、前記パッケージトレイのうち前記折畳部よりも車両前方側に位置する部分により構成される第1固定部と、前記パッケージトレイのうち前記折畳部よりも車両後方側に位置する部分により構成される第2固定部とが車両前後に重畳してなるとともに、重畳した前記第1固定部と前記第2固定部の車幅方向における両端が荷室の側壁を構成するデッキサイドトリムに固定されてなり、前記第1固定部の車両前方側には前記車両前方部を開閉するための第1ヒンジ部が、前記第2固定部の車両後方側には前記車両後方部を開閉するための第2ヒンジ部が設けられてなることを特徴とする。
【0007】
このような車両荷室構造によると、パッケージトレイの車両前方部と車両後方部との間において、車幅方向に延び、車両前方部と車両後方部とをそれぞれ開閉可能とするヒンジ部を備え、当該ヒンジ部を構成する第1固定部と第2固定部が車両前後に重畳した状態で、その車幅方向における両端が荷室の側壁を構成するデッキサイドトリムに固定されているため、パッケージトレイにおける車両前方部と車両後方部とがそれぞれ単独で開閉でき、車両前方及び車両後方から荷室内にアクセス可能となる。また、ヒンジ構造を採用し、パッケージトレイの一部を折り畳むことで車両前方部と車両後方部とを構成しているため、例えばパッケージトレイを車両前後で分割することなく、その前後開きが実現可能となる。また、ヒンジ部において、第1固定部と第2固定部とが車両前後に重畳してなることで、簡易な構成でありながら比較的面積の大きいパッケージトレイの剛性を確保でき、例えばリンフォース等の補強材を配する必要もなく経済的である。なお、本明細書で言う「折畳部よりも車両前方側(後方側)」或いは「第1固定部の車両前方側(第2固定部の車両後方側)」には、実質的な前方(後方)側位置のみでなく、パッケージトレイにおける前方(後方)側も含むものとし、折り畳みの態様等で必ずしも実質的な位置が折畳部よりも車両前方(後方)側にあるとは限らないものとする(例えば、折畳部の真上等に第1固定部や第1ヒンジ部等が配される場合もある)。
【0008】
上記車両荷室構造において、重畳した前記第1固定部と前記第2固定部の車幅方向におけるにおける両端かつ下側にはクリップが取り付けられ、前記クリップは、前記デッキサイドトリムに設けられた凹部に固定されているものとすることができる。
【0009】
このような車両荷室構造によると、ヒンジ部にクリップを取り付けることで、パッケージトレイのデッキサイドトリムに対する固定がしやすくなる。また、クリップという比較的簡易な構成を採用しており経済的である。
【0010】
上記車両荷室構造において、前記パッケージトレイにおける前記車両前方部と前記車両後方部とには、それぞれ下方に窪む凹部が形成されているものとすることができる。
【0011】
このような車両荷室構造によると、ヒンジ部に負荷がかかる際、パッケージトレイが車幅方向に撓む可能性があるが、車両前方部と車両後方部とに下方に窪む凹部をそれぞれ形成することで、車両前方部と車両後方部のそれぞれにおいて板面の強度を確保することができ、開閉動作がしやすくなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車両前方及び車両後方から荷室内にアクセス可能な車両荷室構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】車両荷室の一部切欠斜視図(荷室内におけるパッケージトレイの定常状態を示す図)
【
図2】パッケージトレイ単体の開閉態様を模式的に示す、荷室内を車両側方から視た図
【
図3】パッケージトレイにおけるヒンジ部の成形態様を示す図
【
図4】パッケージトレイの固定部の下側に固定クリップが取り付けられた状態を示す斜視図(左側固定部のみ)
【
図5】パッケージトレイのデッキサイドトリムに対する固定状態を示す斜視図(定常状態にあるパッケージトレイの右側固定部を斜め下方かつ車両後方左寄りから視た図)
【
図6】
図5の状態におけるパッケージトレイの固定部分を示す断面図(
図5のA−A線断面図)
【
図7】
図1の状態から、パッケージトレイの車両前方部のみが開いた状態を示す図
【
図8】
図1の状態から、パッケージトレイの車両後方部のみが開いた状態を示す図
【
図9】車両後方部に紐部材を備えたパッケージトレイの斜視図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態を
図1ないし
図9によって説明する。各図において、FRとは車両前方を、RRとは車両後方を、それぞれ意味する。
図1は、車両荷室5の一部切欠斜視図である。
図1に示すように、車両後部には荷室5が設けられており、車両後方ドア(不図示)を開けた状態で車両後部開口3から荷室5内へアクセス可能とされている。また、荷室5の車両前方には、シートバック7が略鉛直方向に沿って立ち上がる形で後部座席6が配設されており、車両進行方向における左右両側には、一対のデッキサイドトリム2,2(車両進行方向右側のみ図示)が設置されている。各デッキサイドトリム2は、全体として鉛直方向及び車両前後方向に延び、荷室5内の側壁を構成する。荷室5は、主に一対のデッキサイドトリム2,2と、床面をなすデッキボード1と、車両前方壁をなす後部座席6のシートバック7と、で囲まれた収容空間とされている。
【0015】
荷室5は、車室内の後部座席6と荷室5とを隔離するパッケージトレイ100を備えている。パッケージトレイ100は、
図1に示すように、車両前方部10と車両後方部20とによって構成され、その定常状態(
図2において実線で示す閉状態)においては車両前方部10と車両後方部20が連なって略平板状をなす一枚のトレイである。車両前方部10と車両後方部20とには、それぞれ下方に窪む凹部10A,20Aが形成されている(
図9参照)。パッケージトレイ100は、その車両前方部10と車両後方部20との間において、車幅方向に延び、車両前方部10と車両後方部20とをそれぞれ開閉可能とするヒンジ部50を備え、このヒンジ部50がデッキサイドトリム2,2に固定されることで(
図5参照)、パッケージトレイ100の車両前後方向における中間位置(やや前方寄り)が荷室5内に取付固定されている。ヒンジ部50は、
図3に示すように、パッケージトレイ100の成形時に、下方に凹む略V字状の溝を形成しておき(Aの状態)、当該V字状をなす2つの斜面(第1固定部41,第2固定部42となる箇所)を車両前後に合わせるように重畳させてなる(Bの状態)。
【0016】
ヒンジ部50は、パッケージトレイ100の一部(車両前後方向におけるやや前方寄りの中間位置)を折り畳み可能にする折畳部30を備えている。折畳部30は、パッケージトレイ100に設けられた曲げヒンジ部で当該パッケージトレイ100を谷折りすることにより形成されている(
図3参照)。また、ヒンジ部50は、折畳部30よりも車両前方側に位置する部分により構成される第1固定部41と、折畳部30よりも車両後方側に位置する部分により構成される第2固定部42とを備えている。言い換えると、第1固定41部と第2固定部42は、それぞれ折畳部30から連なる部分とされ、これら第1固定41部と第2固定部42は、折畳部30においてパッケージトレイ100が谷折りされる際、その表(上)面同士が互いに車両前後方向に重畳してヒンジ部50を構成している。なお、本願発明で言う「折畳部よりも車両前方側(後方側)」には、実質的な前方(後方)側位置のみでなく、このようにパッケージトレイ100における前方(後方)側も含むものとする。ここでは、折畳部30よりも車両前方側に位置する部分により構成される第1固定部41、及び折畳部30よりも車両後方側に位置する部分により構成される第2固定部42は、パッケージトレイ100の一部が折り畳まれてヒンジ部50を形成することにより、それぞれ折畳部30の上方に位置している(
図6参照)。
【0017】
互いに重畳された第1固定部41と第2固定部42(まとめて固定部40と呼ぶ)の車幅方向における両端(右側固定部40R、左側固定部40L)は、荷室5の側壁を構成するデッキサイドトリム2,2にそれぞれ固定されてなる(右側固定部40Rのみ
図5参照)。右側固定部40R、及び左側固定部40Lには下側から固定クリップ(本発明の「クリップ」)60がそれぞれ取り付けられ、当該固定クリップ60が、各デッキサイドトリム2に設けられた凹部2A内に固定されることによって、パッケージトレイ100はその左右両側がデッキサイドトリム2,2に固定されている。固定クリップ60は、樹脂製の略U字状部材とされ、右側固定部40R、及び左側固定部40Lをそれぞれ下側から覆うように取り付けられている(左側固定部40Lのみ
図4参照)。なお、
図4,6に示すように、固定クリップ60の表面には突部62が形成されており、この突部62がデッキサイドトリム2の凹部2A内壁に当接することで当該凹部2A内に固定されている。また、右側固定部40R、左側固定部40Lには車両前後方向に貫通する貫通孔40Bがそれぞれ設けられており、各固定クリップ60が備える係止部61が当該貫通孔40Bに挿通され係止されることで、固定クリップ60,60は右側固定部40R、左側固定部40Lにそれぞれ固定されている(右側固定部40Rのみ
図6参照)。
【0018】
また、
図6に示すように、第1固定部41の上方かつ車両前方側には車両前方部10を開閉するための第1ヒンジ部31が、第2固定部42の上方かつ車両後方側には車両後方部20を開閉するための第2ヒンジ部32が、それぞれ設けられている。第1ヒンジ部31及び第2ヒンジ部32は、パッケージトレイ100の車幅方向に沿って設けられた曲げヒンジ部で当該パッケージトレイ100をそれぞれ山折りすることにより形成されている。第1ヒンジ部31は、第1固定部41よりも車両前方側に位置する部分により構成され、第2ヒンジ部32は、第2固定部42よりも車両後方側に位置する部分により構成されている(
図3参照)。
【0019】
第1ヒンジ部31及び第2ヒンジ部32は、パッケージトレイ100をデッキサイドトリム2,2に固定するための固定クリップ60によって覆われていないため(
図4,6参照)、固定クリップ60による固定状態を維持したまま、パッケージトレイ100の車両前方部10と車両後方部20は、第1ヒンジ部31及び第2ヒンジ部32においてそれぞれ折り曲げ可能とされている。車両前方部10と車両後方部20は、それぞれ単独で開閉可能とされ(
図7,8参照)、また、双方同時に開閉することも可能とされている(
図2の破線参照)。なお、
図9に示すように、車両後方部20における後端部の左右両側に紐部材25,25を取り付け、この紐部材25,25を車両後方ドア(不図示)と連結させることで、車両後方ドアの開閉に伴ってパッケージトレイ100の車両後方部20を開閉させることが可能とされている。
【0020】
次に、本実施形態の効果について説明する。上記説明したような車両荷室構造によると、パッケージトレイ100の車両前方部10と車両後方部20との間において、車幅方向に延び、車両前方部10と車両後方部20とをそれぞれ開閉可能とするヒンジ部50を備え、当該ヒンジ部50を構成する第1固定部41と第2固定部42が車両前後に重畳した状態で、その車幅方向における両端40L,40Rが荷室5の側壁を構成するデッキサイドトリム2,2に固定されている。このため、パッケージトレイ100における車両前方部10と車両後方部20とがそれぞれ単独で開閉でき、車両前方(後部座席側)及び車両後方から荷室5内にアクセス可能となる。また、ヒンジ構造を採用し、パッケージトレイ100の一部を折り畳むことで車両前方部10と車両後方部20とを構成しているため、例えばパッケージトレイ100を車両前後で分割することなく、その前後開きが実現可能となる。また、ヒンジ部50において、第1固定部41と第2固定部42とが車両前後に重畳してなることで、簡易な構成でありながら比較的面積の大きいパッケージトレイ100の剛性を確保でき、例えばリンフォース等の補強材を配する必要もなく経済的である。
【0021】
また、ヒンジ部50に固定クリップ60を取り付けることで、パッケージトレイ100のデッキサイドトリム2,2に対する固定がしやすくなる。また、固定クリップ60という比較的簡易な構成を採用しており経済的である。また、パッケージトレイ100における車両前方部10と車両後方部20とには、それぞれ下方に窪む凹部10A,20Aが形成されているため、パッケージトレイ100の開閉時、ヒンジ部50に負荷がかかる際にパッケージトレイ100が車幅方向に撓む可能性があるが、これら凹部10A,20Aによって、車両前方部10と車両後方部20のそれぞれにおいて板面の強度が確保され、開閉動作がしやすくなる。
【符号の説明】
【0022】
2…デッキサイドトリム、5…荷室、10…車両前方部、20…車両後方部、30…折畳部、31…第1ヒンジ部、32…第2ヒンジ部、40L,40R…重畳した第1固定部41と第2固定部42の車幅方向における両端、41…第1固定部、42…第2固定部、50…ヒンジ部、100…パッケージトレイ