(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンの重付加反応によりポリアミド酸が得られ、ポリアミド酸の脱水閉環反応によりポリイミドが得られる。すなわち、ポリイミドはテトラカルボン酸二無水物とジアミンの重縮合反応物である。本発明のポリアミド酸およびポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物成分としてピロメリット酸無水物(以下、PMDAと称することがある)および3,3
’,4,4
’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAと称することがある)を含み、ジアミン成分として2,2
’−ビストリフルオロメチルベンジジン(以下、TFMBと称することがある)およびtrans−1,4−シクロヘキサンジアミン(以下、CHDAと称することがある)を含む。
【0013】
(テトラカルボン酸二無水物成分)
酸二無水物成分としてPMDAを有するポリイミドは、PMDA残基が剛直な構造を有するため、低熱膨張性を示す。BPDAは透明性向上に寄与する。ポリアミド酸およびポリイミドにおけるPMDAとBPDAの合計100mol%に対するPMDAの割合は、5〜80mol%が好ましく、10〜70mol%がより好ましく、20〜60mol%がさらに好ましい。PMDAの割合が5mol%以上でれば低熱膨張性を発現し、80mol%以下であれば高い透明性を発現し得る。
【0014】
ポリアミド酸およびポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物成分としてPMDAおよびBPDA以外の成分を含んでいてもよい。PMDAおよびBPDA以外のテトラカルボン酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、9,9’−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物、3,3’,4,4′−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−スルホニルジフタル酸二無水物、パラテルフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、メタテルフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(シス、シス、シス−1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物)、(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、(1R,2S,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、5−(ジオキソテトラヒドロフリル−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−テトラリン−1,2−ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,4−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、等が挙げられる。
【0015】
高透明性と低熱膨張性とを両立させる観点から、ポリアミド酸およびポリイミドにおけるテトラカルボン酸二無水物成分の全量100mol%に対するPMDAとBPDAの合計は、80mol%以上が好ましく、85mol%以上がより好ましく、90mol%以上がさらに好ましい。
【0016】
(ジアミン成分)
TFMBおよびCHDAはいずれも透明性の向上に寄与する。特に、ジアミン成分として、フッ素含有芳香族ジアミンであるTFMBに加えて脂環式ジアミンであるCHDAを含むことにより、ポリイミド膜の熱膨張係数およびヘイズが小さくなる傾向がある。ポリアミド酸およびポリイミドにおけるTFMBとCHDAの合計100mol%に対するCHDAの割合は、0.5〜40mol%が好ましく、1.0〜35mol%がより好ましく、3〜30mol%がさらに好ましく、5〜25mol%が最も好ましい。CHDAの割合が上記範囲内であれば、高透明性と低熱膨張特性とを両立しつつ、ポリイミド膜のヘイズを低減できる。
【0017】
ポリアミド酸およびポリイミドは、ジアミン成分としてTFMBおよびCHDA以外の成分を含んでいてもよい。TFMBおよびCHDA以外のジアミンとしては、4,4’−ジアミノベンズアニリド、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、9,9’−(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9’−(4−アミノ−3−メチルフェニル)フルオレン、1,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−メチレンビス(シクロへキサンアミン)、3,3−ジアミノー4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,2−ビス(3−アミノ4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、等が挙げられる。
【0018】
高い透明性と低熱膨張性とを両立させる観点から、ポリアミド酸およびポリイミドにおけるジアミン成分の全量100mol%に対するTFMBとCHDAの合計は、80mol%以上が好ましく、85mol%以上がより好ましく、90mol%以上がさらに好ましい。ジアミン成分全量100mol%に対するCHDAの割合は、0.5〜40.0mol%が好ましく、1.0〜35.0mol%がより好ましく、3〜30mol%がさらに好ましく、5〜25mol%が最も好ましい。
【0019】
(ポリアミド酸およびポリアミド酸溶液)
本発明のポリアミド酸は、公知の一般的な方法により合成できる。例えば、有機溶媒中でジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを反応させることにより、ポリアミド酸溶液が得られる。ポリアミド酸の重合に使用する有機溶媒は、モノマー成分としてのテトラカルボン酸二無水物およびジアミンを溶解し、かつ重付加により生成するポリアミド酸を溶解するものが好ましい。有機溶媒としては、テトラメチル尿素、N,N−ジメチルエチルウレア等のウレア系溶媒;ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、テトラメチルスルホン等のスルホン系溶媒;N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒;γ−ブチロラクトン等のエステル系溶媒;クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化アルキル系溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒;フェノール、クレゾール等のフェノール系溶媒;シクロペンタノン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、p−クレゾールメチルエーテル等のエーテル系溶媒が挙げられる。通常、これらの溶媒は単独で用いるが、必要に応じて2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。ポリアミド酸の溶解性および反応性を高めるために、有機溶媒は、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒およびエーテル系溶媒からなる群から選択されることが好ましく、特にN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒が好ましい。
【0020】
ジアミン成分全量のモル数と、テトラカルボン酸二無水物成分全量のモル数との比を調整することにより、ポリアミド酸の分子量を調整できる。ポリアミド酸の合成に用いるモノマー成分には、ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物以外が含まれていてもよい。例えば、分子量の調整等を目的として、一官能のアミンや一官能の酸無水物を用いてもよい。
【0021】
ジアミンとテトラカルボン酸二無水物との重付加によるポリアミド酸の合成は、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気中で実施することが好ましい。不活性雰囲気中で、有機溶媒中にジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物を溶解させ、混合することにより、重合が進行する。ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物の添加順序は特に限定されない。例えば、ジアミンを有機溶媒中に溶解またはスラリー状に分散させて、ジアミン溶液とし、テトラカルボン酸二無水物をジアミン溶液中に添加すればよい。テトラカルボン酸二無水物は、固体の状態で添加してもよく、有機溶媒に溶解、またはスラリー状に分散させた状態で添加してもよい。
【0022】
反応の温度条件は特に限定されない。解重合によるポリアミド酸の分子量低下を抑制する観点から、反応温度は80℃以下が好ましい。重合反応を適度に進行させる観点から、反応温度は0〜50℃がより好ましい。反応時間は10分〜30時間の範囲で任意に設定すればよい。
【0023】
本発明のポリアミド酸の重量平均分子量は、10,000〜200,000の範囲が好ましく、30,000〜180,000の範囲がより好ましく、40,000〜150,000の範囲がさらに好ましい。重量平均分子量が10,000以上であれば、ポリアミド酸およびポリイミドの膜強度を確保できる。ポリアミド酸の重量平均分子量が200,000以下であれば、溶媒に対して十分な溶解性を示すため、表面が平滑で膜厚が均一な塗膜またはフィルムが得られやすい。分子量は、ゲルパーミレーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリエチレングリコール換算の値である。
【0024】
有機溶媒中でジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを反応させることにより、ポリアミド酸溶液が得られる。ポリアミド酸溶液に溶媒を添加して、溶液の固形分濃度を調整してもよい。ポリアミド酸溶液には、ポリアミド酸の脱水閉環によるイミド化の促進や、イミド化の抑制による溶液保管性(ポットライフ)向上等を目的とした添加剤が含まれていてもよい。
【0025】
本発明のポリアミド酸溶液は、イミダゾール類を含有することが好ましい。ポリアミド酸溶液がイミダゾール類を含有する場合に、ポリアミド酸の熱イミド化により得られるポリイミド膜の熱寸法安定性が向上し、熱膨張係数が小さくなる傾向がある。イミダゾール類とは、1,3−ジアゾール環構造を含有する化合物であり、1H−イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル2−フェニルイミダゾール等が挙げられる
。中でも、ポリイミド膜の熱寸法安定性向上の観点から、1,2−ジメチルイミダゾール、および1−ベンジル−2−メチルイミダゾールが好ましい。
【0026】
ポリアミド酸溶液中のイミダゾール類の含有量は、ポリアミド酸のアミド基1モルに対して0.005〜0.1モルが好ましく、0.01〜0.08モルがより好ましく、0.015〜0.050モルがさらに好ましい。「ポリアミド酸のアミド基」とは、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の重付加反応によって生成したアミド基であり、1モルのジアミンと1モルのテトラカルボン酸二無水物の重付加により得られるポリアミド酸は2モルのアミド基を含んでいる。
【0027】
ポリアミド酸溶液にイミダゾール類を添加することにより、ポリイミド膜の熱寸法安定性が向上する理由は定かではないが、イミダゾール類がポリアミド酸の脱水閉環によるイミド化を促進し、低温でイミド化が進行しやすいことが、熱寸法安定性向上に関与していると推定される。低温で膜中に溶媒が残存している状態では、ポリマー鎖が適度な運動性を有しており、この状態でイミド化が進行すると、安定性の高い剛直なコンフォメーションでポリマーの配向が固定されやすいことが、熱寸法安定性向上の一要因として挙げられる。
【0028】
テトラカルボン酸二無水物成分としてPMDAおよびBPDAを含み、ジアミン成分としてTFMBおよびCHDAを含むポリアミド酸は、溶液中に含まれるイミダゾール類の量がアミド基に対して0.1当量以下の場合でも、熱イミド化後のポリイミド膜が十分に小さい熱膨張係を有する。イミダゾールの添加量が少ないため、溶液保存状態でのイミド化が抑制され、ポリアミド酸溶液の安定性を向上できる。また、ポリイミド膜中のイミダゾール類の残存量の低減により、透明性が向上する傾向がある。上記の通り、低熱膨張性のポリイミド膜を得るためには、ポリアミド酸のアミド基に対するイミダゾール類の含有量は0.005当量以上が好ましい。
【0029】
イミダゾール類を含むポリアミド酸溶液の調製方法は特に制限されない。有機溶媒中でのテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの重合により得られたポリアミド酸溶液にイミダゾール類を添加してもよく、重合反応前または重合反応中の溶液にイミダゾール類を添加してもよい。反応系にイミダゾール類が含まれると、テトラカルボン酸二無水物が開環してジアミンとの反応性が低下する場合がある。そのため、ポリアミド酸の分子量制御の観点から、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの重合により得られたポリアミド酸溶液にイミダゾール類を添加方法が好ましい。イミダゾール類はそのままポリアミド酸に添加してもよく、あらかじめ溶媒と混合したイミダゾール類をポリアミド酸に添加してもよい。
【0030】
ポリアミド酸およびポリイミドに加工特性や各種機能性を付与するために、様々な有機または無機の低分子または高分子化合物を配合してもよい。例えば、ポリアミド酸溶液は、染料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、微粒子、増感剤、シランカップリング剤等を含んでいてもよい。微粒子は、有機微粒子および無機微粒子のいずれでもよく、多孔質や中空構造であってもよい。
【0031】
ポリアミド酸溶液にシランカップリング剤を配合することにより、ポリアミド酸の塗膜および脱水閉環により生成するポリイミド膜と基材との密着性が向上する傾向がある。シランカップリング剤の配合量は、ポリアミド酸100重量部に対して0.5重量部以下が好ましく、0.1重量部以下がより好ましく、0.05重量部以下がさらに好ましい。基材との密着性向上等を目的として、ポリアミド酸100重量部に対して0.01重量部以上のシランカップリング剤を配合してもよい。シランカップリング剤は、ポリアミド酸溶液に添加してもよく、ポリアミド酸の重合反応前または重合反応中の溶液に添加してもよい。例えば、アミノ基を有するシランカップリング剤を用いることにより、ポリアミド酸の末端にシランカップリング剤に由来する構造を導入できる。ポリアミド酸の重合系にアミノ基を有するシランカップリング剤を添加する場合は、ポリアミド酸の分子量を高く保つために、ポリアミド酸(テトラカルボン酸二無水物とジアミンの合計)100重量部に対するシランカップリング剤の配合割合を0.50重量部以下とすることが好ましい。
【0032】
(ポリイミドおよびポリイミド膜)
上記のポリアミド酸およびポリアミド酸溶液は、そのまま、製品や部材を作製するための材料として用いてもよく、バインダー樹脂や添加剤等を配合して、樹脂組成物を調製してもよい。耐熱性および機械特性に優れることから、ポリアミド酸を脱水閉環によりイミド化し、ポリイミドとして実用することが好ましい。脱水閉環は、共沸溶媒を用いた共沸法、熱的手法または化学的手法により行われる。溶液の状態でイミド化を行う場合は、イミド化剤および/または脱水触媒をポリアミド酸溶液に添加して、化学的イミド化を行うことが好ましい。ポリアミド酸溶液から溶媒を除去して膜状のポリアミド酸を形成し、膜状のポリアミド酸をイミド化する場合は、熱イミド化が好ましい。例えば、ガラス、シリコンウエハー、銅板やアルミ板等の金属板、PET(ポリエチレンテレフタレート)等のフィルム基材に、ポリアミド酸溶液を塗布して塗膜を形成した後、熱処理を行えばよい。
【0033】
ポリアミド酸溶液の基材への塗布は、グラビアコート法、スピンコート法、シルクスクリーン法、ディップコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ダイコート法等の公知の方法により行い得る。イミド化の際の加熱温度および加熱時間は、適宜決定すればよい。加熱温度は、例えば80℃〜500℃の範囲内である。
【0034】
本発明のポリイミドは、透明性および熱寸法安定性に優れるため、ガラス代替用途の透明基板として使用可能であり、TFT基板材料、透明電極基板材料、印刷物、カラーフィルター、フレキシブルディスプレイ部材、反射防止膜、ホログラム、建築材料、構造物等への利用が期待される。特に、本発明のポリイミド膜は、熱寸法安定性に優れるため、TFT基板や電極基板等の電子デバイス透明基板として好適に用いられる。電子デバイスとしては、液晶表示装置、有機ELおよび電子ペーパー等の画像表示装置、タッチパネル、太陽電池等が挙げられる。これらの用途において、ポリイミド膜の厚みは、1〜200μm程度であり、5〜100μm程度が好ましい。
【0035】
電子デバイスの製造プロセスでは、基板上に、薄膜トランジスタや透明電極等の電子素子が設けられる。フィルム基板上への素子の形成プロセスは、バッチタイプとロール・トゥ・ロールタイプに分けられる。ロール・トゥ・ロールプロセスでは、長尺のフィルム基板を搬送しながら、フィルム基板上に電子素子が順次設けられる。バッチプロセスでは、無アルカリガラス等の剛性基材上にフィルム基板を形成して積層体を形成し、積層体のフィルム基板上に電子素子を設けた後、フィルム基板から基材を剥離する。本発明のポリイミド膜はいずれのプロセスにも適用可能である。バッチプロセスは、現行のガラス基板用の設備を利用することができるため、コスト面で優位である。以下では、ガラス基材上にポリイミド膜が設けられた積層体を経由するポリイミド膜の製造方法の一例について説明する。
【0036】
まず、基材にポリアミド酸溶液を塗布してポリアミド酸溶液の塗膜を形成し、基材と塗膜との積層体を40〜200℃の温度で3〜120分加熱することにより溶媒を乾燥して、ポリアミド酸膜を得る。例えば、50℃にて30分、続いて100℃にて30分のように、2段階以上の設定温度で乾燥を行ってもよい。この基材とポリアミド酸膜との積層体を加熱することにより、ポリアミド酸の脱水閉環によるイミド化を行う。イミド化のための加熱は、例えば温度200〜400℃で行われ、加熱時間は例えば3分〜300分である。イミド化のための加熱は、低温から徐々に高温にして、最高温度まで昇温することが好ましい。昇温速度は2〜10℃/分が好ましく、4〜10℃/分がより好ましい。最高温度は250〜400℃が好ましい。最高温度が250℃以上であれば、十分にイミド化が進行し、最高温度が400℃以下であれば、ポリイミドの熱劣化や着色を抑制できる。最高温度に到達するまでに任意の温度で任意の時間保持してもよい。イミド化は、空気下、減圧下、または窒素等の不活性ガス中のいずれで行ってもよい。透明性の高いポリイミド膜を得るためには、減圧下、または窒素等の不活性ガス中での加熱が好ましい。加熱装置としては、熱風オーブン、赤外オーブン、真空オーブン、イナートオーブン、ホットプレート等の公知の装置が用いられる。加熱時間の短縮や特性発現のために、イミド化剤や脱水触媒を添加したポリアミド酸溶液を上記のような方法で加熱してイミド化してもよい。
【0037】
バッチプロセスにより基板上に電子素子を形成する場合は、ガラス等の基材上にポリイミド膜が設けられた積層体上に素子を形成した後、ポリイミド膜から基材を剥離することが好ましい。基材から剥離後のポリイミド膜上に素子を形成してもよい。
【0038】
基材からポリイミド膜を剥離する方法は特に限定されない。例えば、手で引き剥がしてもよく、駆動ロール、ロボット等の剥離装置を用いてもよい。基材とポリイミド膜との密着性を低下させることにより剥離を行ってもよい。例えば、剥離層を設けた基材上にポリイミド膜を形成してもよい。多数の溝を有する基板上に酸化シリコン膜を形成し、エッチング液を浸潤させることにより剥離を促進してもよい。レーザー光の照射より剥離を行ってもよい。
【0039】
レーザー照射により基材とポリイミドを剥離する場合は、ポリイミド膜にレーザー光を吸収させる必要があるため、ポリイミド膜のカットオフ波長(透過率が0.1%以下となる波長)は、剥離に使用するレーザー光の波長よりも長波長であることが求められる。例えば、波長308nmのXeClエキシマレーザーを用いる場合は、ポリイミド膜のカットオフ波長は310nm以上が好ましく、320nm以上がより好ましい。波長355nmの固体UVレーザーを用いる場合は、ポリイミド膜のカットオフ波長は360nm以上が好ましく、365nm以上がより好ましい。
【0040】
一般的にポリイミドは短波長側の光を吸収しやすく、カットオフ波長が長波長側に移動すると可視光の吸収に起因して膜が黄色に着色する場合がある。本発明のポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物成分におけるPMDA比率を高めると、カットオフ波長が長波長側に移動する傾向がある。カットオフ波長が可視光領域に及ばない範囲で、テトラカルボン酸二無水物成分としてPMDAを含めることにより、透明性および熱寸法安定性に加えて、UVレーザーによる剥離プロセスに適した紫外線吸収特性を持たせることができる。ポリイミド膜のカットオフ波長は390nm以下が好ましく、385nm以下がより好ましく、380nm以下がさらに好ましい。
【0041】
透明フレキシブル基板用途において、ポリイミド膜は可視光の全波長領域で透過率が高いことが要求される。透明フレキシブル基板用のポリイミド膜は、波長450nmにおける光透過率が75%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。本発明のポリイミドは、膜厚が10μmのフィルムを形成した際の光透過率が上記範囲であることが好ましい。
【0042】
ポリイミド膜の透明性は、例えば、JIS K7105−1981に従った全光線透過率およびヘイズによって評価することもできる。ポリイミド膜の全光線透過率は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。ポリイミド膜のヘイズは、1.2%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましく、0.8%以下がさらに好ましい。本発明のポリイミドは、膜厚が10μmのフィルムを形成した際の全光線透過率透過率およびヘイズが上記範囲であることが好ましい。前述のように、ジアミン成分としてCHDAを含むことにより、ポリイミド膜のヘイズが低減する傾向がある。
【0043】
本発明のポリイミド膜は、昇温時の熱膨張係数(CTE)および降温時のCTEがいずれも小さいことが好ましい。ポリイミド膜の昇温時CTEおよび降温時CTEは、いずれも、−15〜15ppm/Kが好ましく、−10〜12ppm/Kがさらに好ましく、−5〜10ppm/Kが特に好ましい。昇温時CTEおよび降温時CTEは、100〜300℃の範囲での単位温度あたりの試料の歪み量であり、熱機械分析(TMA)により、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【実施例】
【0044】
[評価方法]
材料特性値等は以下の評価法により測定した。
<ポリアミド酸の分子量>
表1の条件にて重量平均分子量(Mw)を求めた。
【表1】
<ポリイミド膜の光透過率>
日本分光製紫外可視近赤外分光光度計(V−650)を用いて、ポリイミド膜の200〜800nmにおける光透過率を測定し、450nmの波長における光透過率を透明性の指標とした。
<ポリイミド膜の全光線透過率およびヘイズ>
日本電色工業製積分球式ヘイズメーター300Aを用い、JIS K7105−1981記載の方法により測定した。
<ポリイミド膜の熱膨張係数(CTE)>
日立ハイテクサイエンス製TMA/SS7100を用い、幅3mm、長さ10mmの試料に29.4mNの荷重をかけ、10℃/minで10℃から350℃まで昇温後、40℃/minで10℃まで降温し、昇温時および降温時のそれぞれの100〜300℃における歪み量から熱膨張係数を求めた。
【0045】
[ポリアミド酸の合成]
(実施例1)
ステンレス製撹拌棒を備えた撹拌機および窒素導入管を装着した2Lのガラス製セパラブルフラスコに、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと称する)400.00g、およびTFMB50.47gを仕込み、撹拌して溶解させた後、CHDA2.00gを加えて撹拌し、溶解させた。溶液を撹拌しながら、BPDA36.07gおよびPMDA11.46gを順に加えて24時間撹拌し、ポリアミド酸溶液を得た。この反応溶液におけるジアミン成分およびテトラカルボン酸二無水物成分の仕込み濃度は、反応溶液全量に対して20.0重量%であった。
【0046】
(実施例2)
実施例1と同様に合成した20.0重量%ポリアミド酸溶液500gに、1,2−ジメチルイミダゾール(以下、DMIと称することがある)を1g(ポリアミド酸100重量部に対して1重量部、ポリアミド酸のアミド基1モルに対して0.03モル)添加してポリアミド酸溶液を調製した。
【0047】
(実施例3)
ジアミンの仕込み量をTFMB51.16gおよびCHDA2.03gに変更し、酸二無水物の仕込み量をBPDA31.33gおよびPMDA15.49gに変更して、実施例1と同様にして重合を行い、ポリアミド酸溶液を得た。
【0048】
(実施例4)
実施例3と同様に合成したポリアミド酸溶液500gに、DMIを1g添加してポリアミド酸溶液を調製した。
【0049】
(実施例5)
ジアミンの仕込み量をTFMB51.86gおよびCHDA2.07gに変更し、酸二無水物の仕込み量をBPDA26.47gおよびPMDA19.62gに変更し、実施例1と同様にして重合を行い、ポリアミド酸溶液を得た。
【0050】
(実施例6)
実施例5と同様に合成したポリアミド酸溶液500gに、DMIを1g添加してポリアミド酸溶液を調製した。
【0051】
(実施例7)
実施例5と同様に合成したポリアミド酸溶液500gに、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール(以下、1B2MZ)を1g(ポリアミド酸100重量部に対して1重量部、ポリアミド酸のアミド基1モルに対して0.02モル)添加してポリアミド酸溶液を調製した。
【0052】
(実施例8)
ジアミンの仕込み量をTFMB47.87gおよびCHDA4.27gに変更し、酸二無水物の仕込み量をBPDA27.49gおよびPMDA20.38gに変更し、実施例1と同様にして重合を行い、ポリアミド酸溶液を得た。
【0053】
(実施例9)
実施例8と同様に合成したポリアミド酸溶液500gに、DMIを1g添加してポリアミド酸溶液を調製した。
【0054】
(実施例10)
ジアミンの仕込み量をTFMB54.48gおよびCHDA0.61gに変更し、酸二無水物の仕込み量をBPDA25.80gおよびPMDA19.13gに変更し、実施例1と同様にして重合を行い、ポリアミド酸溶液を得た。
【0055】
(実施例11)
実施例10と同様に合成したポリアミド酸溶液500gに、DMIを1g添加してポリアミド酸溶液を調製した。
【0056】
(実施例12)
実施例10と同様に合成したポリアミド酸溶液500gに、1B2MZを1g添加してポリアミド酸溶液を調製した。
【0057】
(実施例13)
ジアミンの仕込み量をTFMB53.03gおよびCHDA1.00gに変更し、酸二無水物の仕込み量をBPDA30.77gおよびPMDA15.21gに変更し、実施例1と同様にして重合を行った。得られたポリアミド酸溶液500gにDMIを1g添加してポリアミド酸溶液を調製した。
【0058】
(実施例14)
実施例13と同様に重合を行い、DMIに代えて1B2MZを1g添加してポリアミド酸溶液を調製した。
【0059】
(比較例1)
ステンレス製撹拌棒を備えた撹拌機および窒素導入管を装着した2Lのガラス製セパラブルフラスコに、NMP400.00g、およびTFMB47.88gを仕込み、撹拌して溶解させた後、溶液を攪拌しながらBPDA52.12gを加えて72時間撹拌し、ポリアミド酸溶液を得た。
【0060】
(比較例2)
比較例1と同様に合成したポリアミド酸溶液500gに、DMIを3g(ポリアミド酸100重量部に対して3重量部、ポリアミド酸のアミド基1モルに対して0.09モル)添加してポリアミド酸溶液を調製した。
【0061】
(比較例3)
ステンレス製撹拌棒を備えた撹拌機および窒素導入管を装着した2Lのガラス製セパラブルフラスコに、NMP400.00g、およびTFMB55.56gを仕込み、撹拌して溶解させた後、溶液を攪拌しながらBPDA25.52gおよびPMDA18.92gを順に加えて24時間撹拌し、ポリアミド酸溶液を得た。
【0062】
(比較例4)
TFMBの仕込み量を54.13gに変更し、酸二無水物の仕込み量をBPDA34.81gおよびPMDA11.06gに変更して、比較例3と同様にして重合を行い、ポリアミド酸溶液を得た。
【0063】
(比較例5)
比較例4と同様に合成したポリアミド酸溶液500gに、DMIを1g添加してポリアミド酸溶液を調製した。
【0064】
(比較例6)
ステンレス製撹拌棒を備えた撹拌機および窒素導入管を装着した2Lのガラス製セパラブルフラスコに、NMP400.00g、およびTFMB46.65gを仕込み、撹拌して溶解させた後、CHDA2.94gを加えて撹拌し、溶解させた。溶液を攪拌しながらBPDA50.42gを添加し、24時間撹拌して、ポリアミド酸溶液を得た。
【0065】
[ポリイミド膜の作製]
上記の実施例および比較例で得られたポリアミド酸溶液のそれぞれに、NMPを加えてポリアミド酸濃度が10.0重量%となるように希釈した。バーコーターを用いて、150mm×150mmの正方形の無アルカリガラス板(コーニング製 イーグルXG、厚さ0.7mm)上に、乾燥後の厚みが10μmになるようにポリアミド酸溶液を流延し、熱風オーブン内で80℃にて30分乾燥してポリアミド酸膜を形成した。窒素雰囲気下で20℃から350℃まで5℃/分で昇温した後、350℃で1時間加熱してイミド化を行い、厚みが10μmのポリイミド膜とガラスとの積層体を得た。得られた積層体のガラス基材からポリイミド膜を剥離して、特性の評価を行った。
【0066】
各実施例および比較例のポリアミド酸溶液の組成、ポリアミド酸の分子量、ならびにポリイミド膜の評価結果を表2に示す。表2における組成は、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンのそれぞれの合計を100mol%として表している。イミダゾールの添加量は、ポリアミド酸(樹脂分)100重量部に対する添加量である。
【0067】
【表2】
【0068】
表2に示した結果から、実施例のポリイミド膜は、いずれもヘイズが0.8%以下、昇温時CTEおよび降温時CTEがともに15ppm/K未満であり、高い透明性と熱寸法安定性とを兼ね備えていた。ジアミン成分としてCHDAを含まない比較例1〜5のポリイミドは、フィルムのヘイズが1.2%以上であった。テトラカルボン酸二無水物としてPMDAを含まない比較例1,5のポリイミド膜は、昇温時CTEおよび降温時CTEがいずれも21ppm/K以上であり、熱寸法安定性が劣っていた。テトラカルボン酸二無水物成分が同一である実施例実施例1,2と比較例4,5との対比から、ジアミン成分としてCHDAを含有することにより、透明性向上に加えて、CTEが低減することが分かる。
【0069】
イミダゾール類を含むポリアミド酸溶液を用いて熱イミド化を行った実施例2、実施例4、実施例6、実施例7、実施例9、実施例11、実施例12、実施例13および実施例14では、イミダゾール類を用いない場合に比べて、高透明性(低ヘイズ)維持したままCTEが低減していた。これらの結果から、ポリアミド酸溶液への少量のイミダゾール類の添加が、透明性と熱寸法安定性に優れるポリイミド膜の作製に有用であることが分かる。