【実施例】
【0034】
本発明は、自閉症スペクトラム障害を治療するための、D−アミノ酸オキシダーゼ阻害剤である安息香酸ナトリウムの有効性および安全性を調べた。
12週間にわたって、250mg/日〜500mg/日の安息香酸ナトリウムで、6名のASDsの子供を治療した。ベースラインおよび最後(12週目)の訪問時に、受容的・表出的語彙検査(receptive and expressive vocabulary test、以下、REVTとも称す)、コア語彙コミュニケーションシステムから得られたコア語彙、中国児童発達インベントリー(Chinese child developmental inventory)、適応行動評価システム−II(adaptive behavior assessment system−II、以下、ABAS−IIとも称す)、育児ストレス指数(parenting stress index、以下、PSIとも称す)、臨床全般印象改善尺度(clinical global impression−improvement scale、以下、CGI−Iとも称す)の評価を行った。
【0035】
参加者
本試験は、安息香酸ナトリウムを用いてASDsの非社交的な子供(non−communicative children)を治療するために経験を積むことを目的とした12週間の非盲検試験であった。参加者は、台湾の高雄医学大学病院の小児科から募集された外来小児患者の便宜的なサンプル(convenient sample)であった。
これらの子供たちは全員、DSM−IV(Association,2000)により自閉症障礙と診断された。本試験に入る前に、彼らは全員、DSM−5基準を用いて精密な再評価を受けて、ASD基準(American Psychiatric Association,2013)を満たしていることを確認された。本試験への参加に関する他の選択基準は、(1)子供は現在深刻なコミュニケーション問題を抱えていること;(2)子供はコミュニケーションのために拡張画像交換コミュニケーションシステムを受けていないこと;および(3)親は在宅訓練の要求に協力できることであった。他の精神科薬物治療を受けている子供については、本試験に入る前に、少なくとも2ヶ月間において薬物を安定な投与量で維持しており、臨床試験中においても変更しないことが必要であった。付随する教育的、職業的、身体的または行為的な治療は許可されたが、本試験で提供されるコミュニケーション訓練以外、新たな治療の追加は許可されなかった。研究プロトコルは、上記の病院の施設内審査委員会(登録番号:F(I)−20150003)によって承認された。
【0036】
試験デザイン
年齢が3年7ヶ月〜9年10ヶ月である5人の男の子および1人の女の子からなる6名の子供に、12週間の安息香酸ナトリウム治療を受けさせた。体重が15kg以上である子供には、500mg/日の安息香酸塩を与えた。体重が15kg未満である子供には、250mg/日の安息香酸塩を与えた。安息香酸ナトリウムは、Excelsior Pharmatech Labs社(台湾)から提供された。
この試験に参加する全ての子供は、中国語版のコア語彙コミュニケーションシステム(Unlimiter Assistive Technology Engineering Lab、台湾)を使用したコミュニケーション訓練を受け始めた。親は、このシステムを使用して自宅で1日40分間子供に教えるように要求された。親は、12週間の期間内において、2週間ごとに、子供を病院に連れ戻すように要求された。ベースラインおよび最後(12週目)の訪問時は、以下の評価を受けさせた。
【0037】
評価
1.中国語版の受容的・表出的語彙検査(REVT)
REVTは、年齢が3歳〜6歳11ヶ月である子供の言語能力を評価し、また、言語発達遅延の7歳以上の子供をも評価する。規範的データを有するREVTの中国語版は、2011年から市販されている(Hwang,2011)。中国語版REVTには、受容的部分および表出的部分という二つの部分がある。検査の結果は、通常、点数であり、基準準拠の標準点数として表示された。しかしながら、これらの非言語的な参加者は検査不可能であったか、またはフロア点数で完成したため、結果は、標準化された基準と比べて、達成された百分位数で二つの領域(すなわち、受容的および表出的)により報告された。
【0038】
2.コア語彙コミュニケーションシステムから得られたコア語彙
中国語版のコア語彙コミュニケーションシステムにおいて、合計で72個のコア語彙が絵に描かれており、(1)「私の言っている言葉を示す絵に指差すこと」により絵を特定するように参加者に依頼すること、および(2)それぞれの絵に名前を付けるように参加者に依頼すること、という二つの方式で検査された。結果は、子供が12週間の期間内で学習した語彙で報告した。
【0039】
3.中国語版の中国児童発達インベントリー(CCDI)
中国児童発達インベントリー(CCDI中国語版)(Chu,2007;Ko et al.,2008)は、7つの領域(すなわち、粗大運動、微細運動、理解力、表出的言語、状況理解、個人−社会化および自立性)について、320個の項目の発達の親報告尺度であった。「一般的な発達」と称される総合領域は、7つの領域に由来するものであり、通常、全般的な発達の指数として使用された。発達指数(DQ)は、一般的な発達で得られた月数を暦年齢で割り、100を掛けるによって算出した。結果は、前−DQおよび後−DQで報告された。
【0040】
4.中国語版の適応行動評価システム−II(ABAS−II)
ABAS−IIは、適応行動の別々に管理される基準準拠尺度である(Harrison and Oakland,2003)。親には、本技術分野におけるコミュニケーション、コミュニティ利用、機能的学問、家庭生活、健康/安全、余暇、自己主導性および社交技能の情報を提供した。全般適応複合(GAC)点数は、9つの技能領域点数全てから算出され、基準準拠の標準点数として表示された。結果は、前−GAC、後−GACの点数および社交点数で報告された。
【0041】
5.中国語版の育児ストレス指数(PSI)
主な介護者が中国語版の育児ストレス指数(Wen,2003)を記入し、それはAbdinにより開発されたオリジナルの質問紙(Abidin,1986)の検証済みの中国語版であり、親の機能の側面について評価するものであった。PSIにおける親領域の尺度には54個の項目が、子供領域の尺度には47個の項目が、それぞれ含まれた。13個の下位尺度に加えて、親領域および子供領域は、総合点数および派生した原始百分位数点数(derived raw−to−percentile score)を生成した。験證済みの中国語版PSIのマニュアルで報告されているように、「総合ストレス点数」は、異常なバンドのための286のカットオフ点数(85%の百分位数を超える前記派生した原始百分位数点数に相当)を使用した(Wen,2003)。
【0042】
6.子供の全般評価尺度(CGAS)
CGASは、18歳未満の子供および若者に対して、子供の心理および社会機能に関連する側面の評価に基づいて、臨床医が1〜100点における単一の点数を与えることで、完成された。前記点数は、「極度に障害がある」(1〜10)から「非常にうまくやっている」(91〜100)までの10個のカテゴリーのいずれかに分類された。
【0043】
7.臨床全般印象改善尺度(CGI−I)
CGI−Iは、試験への参加時の状態と比べて、全般的な疾患の改善を評価する観察者評価尺度であった(Guy,1976)。前記改善は、(1)極めて著しい改善、(2)著しい改善、(3)僅かな改善、(4)変化なし、(5)僅かな悪化、(6)著しい悪化、および(7)極めて著しい悪化、という1〜7の範囲の応答で評価された。
【0044】
結果
子供Aは、3歳1ヶ月の時にASDと診断された男の子であった。彼は、すでに共同注意、個別の言語治療、行為訓練および運動訓練を中心とした機軸反応訓練を受けていた。本試験に入る際に、彼は年齢が4歳4ヶ月であり、いくらかの異なる種類の自動車およびブルドーザーの名称を言えた。彼は扉を指差して出かけたいと示したり、数字を指差して親に大きな声で朗読するように要求したりことができた。彼は少し微笑んで、普段は床に横たわったり、自分で車を押し回ったりした。本試験に入ってから12週間後、子供Aは著しく改善したと見なされた。最後の評価の当日に、彼は微笑んで自発的に短い言葉で喋った(例えば、お茶の写真を見ながら「お茶は欲しくない。お水が欲しい。」)。「目」の絵を見せて彼を試す時、彼は「目、僕の目に目薬が入るのはいやだ」と答えた(目の感染症のために眼科医を訪れた経験をご参照)。しかしながら、彼は依然として相互の会話ができなかった。
【0045】
子供Bは、本試験に入る際に年齢が5歳9ヶ月であり、コミュニケーション会話能力のない女の子であった。彼女は、3歳8ヶ月の時にASDと診断された。ベースラインでは、彼女は文脈に意味のない言葉を繰り返して、相互の会話ができなかった。彼女はいつも楽しそうでいたが、好きな日常活動が乱れると苛立たしくなった。本試験の過程において、子供Bは、全てのコア語彙を習得し、徐々に小声でいくつかの絵の命名作業ができた。彼女の親は彼女の話す量が明らかに増加することに気付き、彼女は進んで催促と訂正を受け入れた。この臨床試験では、本発明者らは、子供Bが著しく改善されたと結論付けた。
【0046】
子供Cは、本試験に入る際に、年齢が9歳6ヶ月であり、語彙数が限られた男の子であった。彼はいくつかの食品の名称を言い出して要求を示せるが、他の有意義な言葉は表現できなかった。彼は一人でいる時に、彼自身にずっと「20秒、20秒」と繰り返した。子供Cは、年齢が2歳6ヶ月の時にASDと診断された。コミュニケーション能力が限られるため、小学校1年生の時から特別支援学級に入られた。また、彼は情緒不安定で怒りやすく、情動不安で眠りが浅いため、6歳9ヶ月の時からメチルフェニデートおよびリスペリドルの精神薬物治療を受けており、投与量は年齢が8歳3ヶ月の時から変わっていなかった。試験に入った後、唯一で明確な収穫は、彼は曜日の名称を精通するようになったことであった(例えば、月曜日、火曜日、水曜日…)。最後の評価の日に、彼が唯一即答できる問題は「今日は何曜日ですか?」であった。また、安息香酸塩を使用した最初の3日間において、リスペリドル使用の夜間の薬物療法は変更されなかったものの、彼は普段の睡眠時間で眠ることができなかった。母親の報告によると、彼はベッドで目を覚めたまま、自分を落ち着かせるように1時間以上も理解できない音でつぶやいた。本発明者らは、子供Cが僅かに改善されたと結論付けた。
【0047】
子供Dは、年齢が3歳7ヶ月である男の子であり、1歳8ヶ月の時にASDと診断された。彼は、すでに共同注意において機軸反応訓練を受けていた。ベースラインでは、子供Dは、有意義な言葉を表現できず、活動レベルが高かった。彼は走り続けたり、床の上を滑ったり、上下に登ったりしていた。最後の評価の日に、子供Dは、何らかの改善も示さなかった。彼は依然として有意義な言葉を表現できず、また、訓練に使う絵、コミュニケーションボードおよび音声ペンに興味を示さなかった。彼はいつも楽しそうで、活動レベルがさらに高くなった。過剰に走ることによる危険から彼を守るために、常に大人の監視が必要であった。彼の睡眠パターンは変わらなかった。
【0048】
子供Eは、年齢が8歳4ヶ月である男の子であり、母親の強烈の要求があっても簡単な言葉しか喋れなかった(例えば、「クッキーを食べる」または「ちょっと待って」)。彼は、3歳6ヶ月の時にASDと診断された。コミュニケーション能力が限られるため、小学校1年生の時から特別支援学級に入られた。本試験に入った後、子供Eは最初から音声ペンおよびコミュニケーションボードを使用することに興味を示した。彼は進んで親の言葉を繰り返すことにより発言の長さを長くした。自宅での独り言も増えた。試験の56日目で、彼は「お母さん、クッキーが食べたい」と喋るようになった。最後の訪問(試験期間における84回目)の時に、彼は、本発明者らに会った際は、母親の提示で小声で「先生、こんにちは」と言い出せ、また、別れた際は、自発的に「先生、バイバイ」と言い出せるようになった。しかしながら、試験の最初の2週間で、彼は活動レベルが高くなった。彼の母親は、彼を「いつも急いで出したり入ったり、昇ったり降りたりしていた」と説明した。1ヶ月後、彼は活動レベルが徐々にベースラインに戻った。彼の睡眠パターンは変わらなかった。本発明者らは、子供Eが著しく改善されたと結論付けた。
【0049】
子供Fは、年齢が4歳1ヶ月である男の子であり、1歳6ヶ月の時にASDと診断された。本試験のベースラインでは、母親の強烈な提示があっても特定の食物の名称しか言い出せなかった。彼は、床に横たわって自分の世界に没頭して自動車玩具を並べて、大人の呼びかけを完全に無視した。試験終了の時に、彼はコミュニケーションシステムにおける4分の1のコア語彙を指差して名前を付けることができたが、依然としてそれらを使用していなかった。とはいえ、彼は、遊んでいる時に弟に対する観察を増やすことにより、日常の家庭活動での変化が明らかになることが注目された。彼はもはや単調な自動車並べゲームに夢中しなくなった。本発明者らは、子供Fが僅かに改善されたと結論付けた。
【0050】
以上の例の結果を表1にまとめた。
【0051】
【表1】
DQ:中国児童発達インベントリーに由来する発達指数
×:評価できなかった
REVT−R:受容的・表出的語彙検査において、受容的部分の結果が、標準化した基準と比べて、達成された百分位数で報告される
REVT−E:受容的・表出的語彙検査において、表出的部分の結果が、標準化した基準と比べて、達成された百分位数で報告される
CV−I:コミュニケーションシステムの絵において、子供が指差すことにより特定できるコア語彙(最大は72であり、#の印をつけた)
CV−N:コミュニケーションシステムの絵において、子供が指差すことにより特定できるコア語彙(最大は72であり、#の印をつけた)
ABAS−GCS:適応行動評価システム−IIより親が報告した全般適応複合点数
ABAS−S:適応行動評価システム−IIより親が報告した社交点数
PSI:育児ストレス指数。派生した原始百分位数点数が85%を超える場合は、*の印をつけた
CGAS:子供の全般評価尺度
CGI:臨床全般印象改善尺度
【0052】
本試験の結果では、親および臨床医によって観察されたように、安息香酸塩は、コミュニケーションスキルの教育に対して有益的な効果を有することが示された。参加者の半分(子供A、B、E)は著しく改善されたと判断された。また、安息香酸塩は、2人の対象(子供D、E)の元々高い活動レベルをさらに高め、睡眠に影響を与える(子供C)という有害な活性化効果を示した。それにもかかわらず、この3人の子供の活動レベルは、早急な医療的注意または試験からの退出を必要とするまで妨害していなかった。よって、本発明は、安息香酸ナトリウムのような安息香酸塩(DAAO阻害剤の一つ)がADSに対して有益であることを証明した。
【0053】
上記の実施態様の説明は、本発明の原理および作用を闡明するために開示しているが、本発明の範疇はこれらに限定されるものではない。当業者は、本発明の開示内容における精神および原理に基づいた全ての修飾および変更は特許請求の範囲の範疇に含まれており、明細書段落および実施態様は例示的なものであることを理解すべきであり、本発明の実際の範囲は特許請求の範囲で示される。
【0054】
本願において以下に記載される参考文献は、それぞれ引用の方式で本明細書に組み込まれている。