特許第6940842号(P6940842)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6940842粉体接触部材の粗面化方法および粉体接触部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6940842
(24)【登録日】2021年9月7日
(45)【発行日】2021年9月29日
(54)【発明の名称】粉体接触部材の粗面化方法および粉体接触部材
(51)【国際特許分類】
   B65D 88/26 20060101AFI20210916BHJP
【FI】
   B65D88/26 C
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2021-27304(P2021-27304)
(22)【出願日】2021年2月24日
【審査請求日】2021年3月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511102192
【氏名又は名称】株式会社オカノブラスト
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100148275
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142745
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 世子
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】岡野 俊之
(72)【発明者】
【氏名】村田 一夫
(72)【発明者】
【氏名】太田 善規
(72)【発明者】
【氏名】小栗 泰造
【審査官】 佐藤 正宗
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−139491(JP,A)
【文献】 特開2017−186170(JP,A)
【文献】 特開2017−128101(JP,A)
【文献】 特開2007−302917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 88/26
B65G 47/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体接触部材に対して異なる条件で複数回、湿式ブラスト処理を施して、山の頂点密度Spdが×10mm−2以上8×10mm−2以下の範囲内であると共に、前記山の頂点密度Spdと算術平均高さSaとの積の中央値9.5×10μm/mm以上1.45×10μm/mm以下の範囲内である粗面を形成する
粉体接触部材の粗面化方法。
【請求項2】
粉体接触部材に対して第1条件で湿式ブラスト処理を施して、第1粗面を有する粉体接触部材を作製する第1湿式ブラスト処理工程と、
前記第1粗面を有する粉体接触部材に対して、前記第1条件とは異なる条件である第2条件で湿式ブラスト処理を施して、第2粗面を有する粉体接触部材を作製する第2湿式ブラスト処理工程と
を備え、
前記第2粗面は、山の頂点密度Spdが×10mm−2以上8×10mm−2以下の範囲内であると共に、前記山の頂点密度Spdと算術平均高さSaとの積の中央値9.5×10μm/mm以上1.45×10μm/mm以下の範囲内である
粉体接触部材の粗面化方法。
【請求項3】
前記条件には、砥粒の平均径、および、分散媒に対する前記砥粒の配合比率の少なくとも一つの因子が含まれる
請求項に記載の粉体接触部材の粗面化方法。
【請求項4】
前記第2条件における前記砥粒の平均径は、前記第1条件における前記砥粒の平均径よりも小さい
請求項3に記載の粉体接触部材の粗面化方法。
【請求項5】
前記第1湿式ブラスト処理工程および前記第2湿式ブラスト処理工程では、砥粒として、平均径が異なる二種類以上の砥粒が利用される
請求項3または4に記載の粉体接触部材の粗面化方法。
【請求項6】
山の頂点密度Spdが×10mm−2以上8×10mm−2以下の範囲内であり、且つ、前記山の頂点密度Spdと算術平均高さSaとの積の中央値9.5×10μm/mm以上1.45×10μm/mm以下の範囲内である粗面を粉体接触面とする
粉体接触部材。
【請求項7】
前記算術平均高さSaは0.10μm以上0.20μm以下の範囲内であり、
前記山の頂点密度Spdは、5×10mm−2以上7×10mm−2以下の範囲内ある
請求項6に記載の粉体接触部材。
【請求項8】
前記算術平均高さSaは0.15μm以上0.25μm以下の範囲内であり、
前記山の頂点密度Spdは、6×10mm−2以上8×10mm−2以下の範囲内ある
請求項6に記載の粉体接触部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体接触部材の粗面化方法に関する。また、本発明は、粉体接触部材にも関する。
【背景技術】
【0002】
以前から、粉体接触部材の粉体接触面を粗面化して、粉体の付着をできるだけ防ぐ試みが行われている(例えば、実全昭51−076370号公報、特開2008−230665号公報,特開2020−142831号公報等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実全昭51−076370号公報
【特許文献2】特開2008−230665号公報
【特許文献3】特開2020−142831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の試みが継続的になされてきたことによって粉体接触部材への粉体の付着をかなり抑制することができるようになってきたが、まだまだ十分とは言い難い。
【0005】
本発明の課題は、従前の粉体接触部材よりも粉体が付着しにくい粉体接触部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1局面に係る粉体接触部材の粗面化方法では、粉体接触部材に対して異なる条件で複数回、湿式ブラスト処理が施されて、山の頂点密度Spdが×10mm−2以上8×10mm−2以下の範囲内であると共に、山の頂点密度Spdと算術平均高さSaとの積の中央値9.5×10μm/mm以上1.45×10μm/mm以下の範囲内である粗面が形成される。なお、算術平均高さSaおよび山の頂点密度Spdは、ISO 25178に規定されている。
【0007】
発明者らの鋭意検討の結果、この粉体接触部材の粗面化方法を用いることによって従前の粉体接触部材よりも粉体が付着しにくい粉体接触部材を作製することができることが明らかになった。また、この粉体接触部材は、粒子径分布が比較的広い粉体に対しても十分な付着防止性能を有することが明らかとなった。
【0008】
本発明の第2局面に係る粉体接触部材の粗面化方法は、第1湿式ブラスト処理工程および第2湿式ブラスト処理工程を備える。なお、ここで、用いられている「第1」および「第2」の文言は、相対的に異なることを示すためだけに用いられているものであって、絶対な序列を示すために用いられているものではない(すなわち、例えば、湿式ブラスト処理工程が3回以上行われる場合、ここにいう第1湿式ブラスト処理工程および第2湿式ブラスト処理工程は、最初の2回の湿式ブラスト処理工程を意味するのではなく、最後の2回の湿式ブラスト処理工程を意味する。)。第1湿式ブラスト処理工程では、粉体接触部材に対して第1条件で湿式ブラスト処理が施されて、第1粗面を有する粉体接触部材が作製される。なお、第1湿式ブラスト処理工程の前に、粉体接触部材に対して1回または複数回の湿式ブラスト処理工程が実施されていてもかまわない。第2湿式ブラスト処理工程では、第1粗面を有する粉体接触部材に対して第2条件で湿式ブラスト処理が施されて、第2粗面を有する粉体接触部材が作製される。なお、ここで、第2条件は、第1条件とは異なる。また、ここで、第2粗面は、山の頂点密度Spdが×10mm−2以上8×10mm−2以下の範囲内であると共に、山の頂点密度Spdと算術平均高さSaとの積の中央値9.5×10μm/mm以上1.45×10μm/mm以下の範囲内である。なお、算術平均高さSaおよび山の頂点密度Spdは、ISO 25178に規定されている。
【0009】
発明者らの鋭意検討の結果、この粉体接触部材の粗面化方法を用いることによって従前の粉体接触部材よりも粉体が付着しにくい粉体接触部材を作製することができることが明らかになった。また、この粉体接触部材は、粒子径分布が比較的広い粉体に対しても十分な付着防止性能を有することが明らかとなった。
【0010】
本発明の第3局面に係る粉体接触部材の粗面化方法は、第2局面に係る粉体接触部材の粗面化方法であって、上記条件には、砥粒の平均径、および、分散媒に対する前記砥粒の配合比率の少なくとも一つの因子が含まれる。
【0011】
本発明の第4局面に係る粉体接触部材の粗面化方法は、第3局面に係る粉体接触部材の粗面化方法であって、第2条件における砥粒の平均径は、第1条件における砥粒の平均径よりも小さい。
【0012】
本発明の第5局面に係る粉体接触部材の粗面化方法は、第3局面または第4局面に係る粉体接触部材の粗面化方法であって、第1湿式ブラスト処理工程および第2湿式ブラスト処理工程では、砥粒として、平均径が異なる二種類以上の砥粒が利用される。なお、かかる場合、第2湿式ブラスト処理工程で用いられる二種類以上の砥粒の平均径は、それぞれ第1湿式ブラスト処理工程で用いられる最も大きな砥粒の平均径よりも小さければよい。
【0013】
本発明の第6局面に係る粉体接触部材は、山の頂点密度Spdが×10mm−2以上8×10mm−2以下の範囲内であり、且つ、前記山の頂点密度Spdと算術平均高さSaとの積の中央値9.5×10μm/mm以上1.45×10μm/mm以下の範囲内である粗面を粉体接触面とする。
【0014】
発明者らの鋭意検討の結果、上記粗面を粉体接触面とする粉体接触部材は、従前の粉体接触部材に比べて粉体が付着しにくいことが明らかとなった。
【0015】
本発明の第7局面に係る粉体接触部材は、第6局面に係る粉体接触部材であって、算術平均高さSaは0.10μm以上0.20μm以下の範囲内であり、山の頂点密度Spdは、5×10mm−2以上7×10mm−2以下の範囲内ある
【0016】
発明者らの鋭意検討の結果、上記粗面を粉体接触面とする粉体接触部材は、乾式ブラスト処理された粉体接触部材よりも粉体付着率を十分に低減することができることが明らかとされた。
【0017】
本発明の第8局面に係る粉体接触部材は、第6局面に係る粉体接触部材であって、算術平均高さSaは0.15μm以上0.25μm以下の範囲内であり、山の頂点密度Spdは、6×10mm−2以上8×10mm−2以下の範囲内ある
【0018】
発明者らの鋭意検討の結果、この粉体接触部材は、第7局面に係る粉体接触部材よりも、特に安息角が50°以上である粉体(例えば、抹茶粉など)について付着率を十分に低減することができることが明らかとされた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1および2ならびに比較例1〜4に係る試験板の被処理面に対する酸化アルミニウム粉末の粉体付着率に及ぼす酸化アルミニウム粉末の平均粒子径の影響を示すグラフ図である。
図2】実施例1および2ならびに比較例1〜4に係る試験板の被処理面に対するステンレス鋼粉末、小麦粉および抹茶粉の粉体付着率に及ぼす算術平均高さSaと山の頂点密度Spdの積の影響を示すグラフ図である。
図3】実施例1および2ならびに比較例1〜4に係る試験板の被処理面に対する各種粉体の粉体付着率に及ぼす粉体の安息角の影響を示すグラフ図である。
図4】実施例1および2ならびに比較例1〜4に係る試験板の被処理面に対するPTFE粉末、漢方薬粉末およびファンデーションの粉体付着率に及ぼす算術平均高さSaと山の頂点密度Spdの積の影響を示すグラフ図である。
図5】実施例3および4ならびに比較例5に係る粉体付着試験において粗面化メッシュまたは未処理メッシュを通過した酸化アルミニウム粉末の重量の時系列変化を示すグラフである。
図6】実施例5に係る粉体付着試験後の粗面化メッシュの写真図である。
図7】実施例6に係る粉体付着試験後の粗面化メッシュの写真図である。
図8】実施例7に係る粉体付着試験後の粗面化メッシュの写真図である。
図9】比較例6に係る粉体付着試験後の未処理メッシュの写真図である。
図10】比較例7に係る粉体付着試験後の未処理メッシュの写真図である。
図11】比較例8に係る粉体付着試験後の未処理メッシュの写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<本発明の実施の形態に係る粉体接触部材>
本発明の実施の形態に係る粉体接触部材は、例えば、ホッパー、シューター、バケット、フィーダー、コンベアベルト(トラフ式等)の搬送装置を構成する部材や、篩(ふるい)等である。そして、この粉体接触部材では、山の頂点密度Spdが3×10mm−2以上であり、且つ、山の頂点密度Spdと算術平均高さSaとの積が5×10μm/mm以上である粗面が粉体接触面とされる。
【0021】
なお、ここで、山の頂点密度Spdは4×10mm−2以上であることが好ましく、5×10mm−2以上であることがより好ましく、6×10mm−2以上であることがさらに好ましく、7×10mm−2以上であることが特に好ましい。なお、山の頂点密度Spdには特に上限はないが、現時点で確認されている上限は8×10mm−2である。
【0022】
また、ここで、算術平均高さSaは0.10μm以上であり、0.15μm以上であることが好ましく、0.20μm以上であることがより好ましい。なお、算術平均高さSaには特に上限はないが、現時点で確認されている上限は0.25μmである。
【0023】
また、ここで、山の頂点密度Spdと算術平均高さSaとの積は、6×10μm/mm以上であることが好ましく、7×10μm/mm以上であることがより好ましく、8×10μm/mm以上であることがさらに好ましく、9×10μm/mm以上であることがさらに好ましく、1×10μm/mm以上であることがさらに好ましく、1.5×10μm/mm以上であることが特に好ましい。なお、山の頂点密度Spdと算術平均高さSaとの積には特に上限はないが、現時点で確認されている上限は2×10μm/mmである。
【0024】
なお、算術平均高さSaおよび山の頂点密度Spdは独立して調整することができるものではない。現時点でその効果を確認することができたものの代表例に係る粗面のパラメータは以下の通りであるが、本発明がこれらの代表例に限定されることはない。
【0025】
(代表例1)
算術平均高さSa:0.15μm以上0.25μm以下の範囲
山の頂点密度Spd:6×10mm−2以上8×10mm−2以下の範囲
山の頂点密度Spdと算術平均高さSaとの積:9×10μm/mm以上2×10μm/mm以下の範囲
【0026】
(代表例2)
算術平均高さSa:0.10μm以上0.20μm以下の範囲
山の頂点密度Spd:5×10mm−2以上7×10mm−2以下の範囲
山の頂点密度Spdと算術平均高さSaとの積:5×10μm/mm以上1.4×10μm/mm以下の範囲
【0027】
<本発明の実施の形態に係る粉体接触部材の作製方法>
ところで、本発明の実施の形態に係る粉体接触部材は、第1湿式ブラスト処理工程および第2湿式ブラスト処理工程を経て製造される。なお、必要に応じて、第1湿式ブラスト処理工程前に前処理工程が実施されてもかまわない。以下、これらの工程について詳述する。
【0028】
(1)第1湿式ブラスト処理工程
第1湿式ブラスト処理工程では、粉体接触部材に対して第1条件で湿式ブラスト処理が施されて、第1粗面を有する粉体接触部材が作製される。
【0029】
第1条件の項目としては、例えば、砥粒の形状や構造、砥粒の材質、砥粒の平均粒子径(50%粒子径)、分散媒の種類、分散媒に対する砥粒の割合、砥粒分散液の吐出圧、砥粒分散液の吐出角度、砥粒分散液噴射ノズルの被処理面までの距離、処理時間等が挙げられる。
【0030】
砥粒の形状は多角形または球形であることが好ましい。砥粒の構造としては単層構造であることが好ましい。砥粒の材質はセラミックであることが好ましい。分散媒は水であることが好ましい。分散媒には、平均粒子径の異なる二種以上の砥粒を分散させるのが好ましい。なお、平均粒子径の異なる二種の砥粒を分散媒に分散させる場合、大きい平均粒子径を有する砥粒は分散媒100gに対して3.5g以上5.0g以下の範囲内で含まれることが好ましく、4.0g以上4.5g以下の範囲内で含まれることがより好ましく、小さい平均粒子径を有する砥粒は分散媒100gに対して1.5g以上3.0g以下の範囲内で含まれることが好ましく、2.0g以上2.5g以下の範囲内で含まれることがより好ましい。砥粒分散液の吐出圧は0.2MPa以上0.4MPa以下の範囲内であることが好ましい。砥粒分散液の吐出角度は被処理面に対して45°以上90°以下の範囲内であることが好ましい。砥粒分散液噴射ノズルの被処理面までの距離は100mm以上300mm以下の範囲内であることが好ましい。処理時間は、例えば300mm×300mmの面積を処理する場合、3分以上とすることが好ましい。
【0031】
また、上記代表例1のパラメータを有する粗面を形成するには、45μm以上55μm以下の範囲内の平均粒子径を有する砥粒(以下「大砥粒」という場合がある)と、1.5μm以上2.5μm以下の範囲内の平均粒子径を有する砥粒(以下「小砥粒」という場合がある)とを分散媒に分散させることが好ましい。また、かかる場合、大砥粒は分散媒100gに対して4.0g以上4.5g以下の範囲内で分散媒に含まれることが好ましく、小砥粒は分散媒100gに対して1.0g以上2.5g以下の範囲内で分散媒に含まれていることが好ましい。
【0032】
また、上記代表例2のパラメータを有する粗面を形成するには、15μm以上25μm以下の範囲内の平均粒子径を有する砥粒(以下「大砥粒」という場合がある)と、2.5μm以上3.5μm以下の範囲内の平均粒子径を有する砥粒(以下「小砥粒」という場合がある)とを分散媒に分散させることが好ましい。また、かかる場合、大砥粒は分散媒100gに対して4.0g以上4.5g以下の範囲内で分散媒に含まれることが好ましく、小砥粒は分散媒100gに対して1.5g以上2.5g以下の範囲内で分散媒に含まれていることが好ましい。
【0033】
(2)第2湿式ブラスト処理工程
第2湿式ブラスト処理工程では、第1粗面を有する粉体接触部材に対して第2条件で湿式ブラスト処理が施されて、第2粗面を有する粉体接触部材が作製される。
【0034】
第2条件の項目は、第1条件の項目と同様であって、例えば、砥粒の形状や構造、砥粒の材質、砥粒の平均粒子径(50%粒子径)、分散媒の種類、分散媒に対する砥粒の割合、砥粒分散液の吐出圧、砥粒分散液の吐出角度、処理時間等である。
【0035】
砥粒の形状は多角形または球形であることが好ましい。砥粒の構造としては単層構造であることが好ましい。砥粒の材質はセラミックであることが好ましい。なお、ここで、使用される砥粒の平均粒子径は、第1湿式ブラスト処理工程で用いられる砥粒の平均粒子径よりも小さい。分散媒は水であることが好ましい。また、ここで、分散媒100gに対して添加する砥粒の量は、第1湿式ブラスト処理工程における量よりも僅かに少ないことが好ましい。分散媒には、平均粒子径の異なる二種以上の砥粒を分散させるのが好ましい。なお、平均粒子径の異なる二種の砥粒を分散媒に分散させる場合、大きい平均粒子径を有する砥粒は分散媒100gに対して3.5g以上5.0g以下の範囲内で含まれることが好ましく、4.0g以上4.5g以下の範囲内で含まれることがより好ましく、小さい平均粒子径を有する砥粒は分散媒100gに対して1.0g以上2.5g以下の範囲内で含まれることが好ましく、1.5g以上2.0g以下の範囲内で含まれることがより好ましい。砥粒分散液の吐出圧は0.2MPa以上0.4MPa以下の範囲内であることが好ましい。砥粒分散液の吐出角度は被処理面に対して45°以上90°以下の範囲内であることが好ましい。砥粒分散液噴射ノズルの被処理面までの距離は100mm以上300mm以下の範囲内であることが好ましい。処理時間は、例えば300mm×300mmの面積を処理する場合、4分以上とすることが好ましい。
【0036】
なお、この第2湿式ブラスト処理工程では、被処理面の山の頂点密度Spdが3×10mm−2以上となると共に、山の頂点密度Spdと算術平均高さSaとの積が5×10μm/mm以上となるように被処理面が粗面化される。
【0037】
また、上記代表例1のパラメータを有する粗面を形成するには、1.5μm以上2.5μm以下の範囲内の平均粒子径を有する砥粒(以下「大砥粒」という場合がある)と、0.1μm以上1.0μm以下の範囲内の平均粒子径を有する砥粒(以下「小砥粒」という場合がある)とを分散媒に分散させることが好ましい。また、かかる場合、大砥粒は分散媒100gに対して4.5g以上5.0g以下の範囲内で分散媒に含まれることが好ましく、小砥粒は分散媒100gに対して1.0g以上2.0g以下の範囲内で分散媒に含まれていることが好ましい。
【0038】
また、上記代表例2のパラメータを有する粗面を形成するには、2.5μm以上3.5μm以下の範囲内の平均粒子径を有する砥粒(以下「大砥粒」という場合がある)と、0.1μm以上1.0μm以下の範囲内の平均粒子径を有する砥粒(以下「小砥粒」という場合がある)とを分散媒に分散させることが好ましい。また、かかる場合、大砥粒は分散媒100gに対して3.5g以上4.5g以下の範囲内で分散媒に含まれることが好ましく、小砥粒は分散媒100gに対して2.0g以上3.0g以下の範囲内で分散媒に含まれていることが好ましい。
【0039】
(3)前処理工程
前処理工程は、粉体接触部材の被処理面の算術平均高さSaが1.0μm以上である場合に行われることが好ましい。これは、後工程の第2湿式ブラスト処理工程において所望の粗面度の表面を得るためである。前処理としては、例えば、特殊研磨等の研磨処理等が挙げられる。特殊研磨処理では、被処理面に対して、樹脂やゴム等の弾性コア材に微細な砥粒を積層した粒子が圧縮空気または遠心力で滑走させられて、切削や研磨等により形成された凹凸痕が除去されて表面粗さが低減される。なお、ここで、粒子としては樹脂製のコアに砥粒を被覆した粒子であることが好ましい。また、そのコアの直径は0.1mm以上0.8mm以下の範囲内であることが好ましく、砥粒の直径は1μm以上8μm以下の範囲内であることが好ましく、圧縮空気の圧力は0.2MPa以上0.5MPa以下の範囲内であることが好ましい。また、粒子の投射角度は被処理面に対して45°以上60°以下の範囲内であることが好ましく、処理時間は30分以上45分以下の範囲内であることが好ましい。
【0040】
<湿式ブラスト処理の特徴>
本発明の実施の形態に係る粉体接触部材の作製に用いられる湿式ブラスト処理は以下の特徴を有する。
(1)乾式ブラスト処理に比べて細かい凹凸を形成することができる。
(2)乾式ブラスト処理に比べて凹凸構造の均一性が高い。
(3)砥粒の残留リスクが少なく、クリーンな表面仕上げを行うことができると共に、処理後の洗浄工程を省略し得る。
(4)乾式ブラスト処理に比べて被処理面の変形リスクが低く、薄板材にも適用可能である。
(5)乾式ブラスト処理に比べて被処理面の発熱が少なく、処理焼けが生じない。
(6)粒度が異なる砥粒を混ぜて使用することができるため、乾式ブラスト処理に比べて砥粒の選択の幅が広くなり、Spd値(山の頂点密度)を向上させやすい。
【0041】
<本発明の実施の形態に係る粉体接触部材の特徴>
本発明の実施の形態に係る粉体接触部材は、従前の粉体接触部材よりも粉体を付着しにくくすることができる。特に、同粉体接触部材は、平均粒子径1μm〜100μmの範囲で、従来の粉体接触部材の表面凹凸構造より大きい付着防止性(滑り性)を示し、かつ、その付着防止性(滑り性)が略フラットな粒子径依存性を示す。
【0042】
なお、本発明の実施の形態に係る粉体接触部材が上記のような性能を示すのは、作製時の第1湿式ブラスト処理工程において比較的な大きなスケールの複雑な凹凸が形成され、第2湿式ブラスト処理工程においてその比較的大きなスケールの凹凸に比較的小さなスケールの複雑な凹凸が形成されるからであると推察される。
【0043】
以下、本発明をより詳細に説明するために実施例および比較例を示すが、本発明がこの実施例には限定されることはない。
【実施例1】
【0044】
1.ステンレス鋼板の粗面化処理
ステンレス鋼板(SUS304)の被処理面に対して、第1湿式ブラスト処理および第2湿式ブラスト処理をこの順序で施して、被処理面を目的の粗面構造とした。
【0045】
なお、上記処理に先立って各処理用の砥粒分散液を調製した。具体的には、50%平均粒径(メジアン径)50μmのセラミック粒子を41g、50%平均粒径(メジアン径)2.0μmのセラミック粒子を22g、1000gの水に添加して撹拌し、それを第1湿式ブラスト処理用の砥粒分散液とした。また、50%平均粒径(メジアン径)2.0μmのセラミック粒子を46g、50%平均粒径(メジアン径)0.5μmのセラミック粒子を17g、1000gの水に添加して撹拌し、それを第2湿式ブラスト処理用の砥粒分散液とした。
【0046】
第1湿式ブラスト処理では、第1湿式ブラスト処理用の砥粒分散液を、0.4MPaの圧縮空気で、ステンレス鋼板(SUS304)の被処理面に対して投射角度90°で2分間噴射した。第2湿式ブラスト処理では、第2湿式ブラスト処理用の砥粒分散液を、0.4MPaの圧縮空気で、ステンレス鋼板(SUS304)の被処理面に対して投射角度90°で2分間噴射した。
【0047】
2.被処理面の表面分析
(1)算術平均高さSaおよび山の頂点密度Spdの測定
ISO 25178に基づいて上記処理済みの試験板の被処理面の10点の算術平均高さSaおよび山の頂点密度Spdを求めたところ、算術平均高さSaは0.15〜0.25μmであり、山の頂点密度Spdは6×10〜8×10mm−2であった。すなわち、算術平均高さSaと山の頂点密度Spdの積は9×10〜2×10μm/mmであり、その中央値は1.45×10μm/mmであった。なお、実測値に基づいた算術平均高さSaと山の頂点密度Spdの積は1.0×10〜1.9×10μm/mmであり、その平均値は約1.4×10μm/mmであった。
【0048】
(2)粉体付着試験
本試験では、試験板固定板、粉体投入ホッパー、粉体受皿、電子天秤、粉体落下調整駆動装置および粉体落下流量制御装置(開口調整シャッターおよび振動発生器から成るもの)から成る粉体流動特性評価装置を用いて試験板を60°傾斜させた状態における酸化アルミニウム粉末(純度:99%以上)の試験板の被処理面への付着性(逆に言えば落下性)を評価した。なお、評価は具体的には以下の通りにして行った。
【0049】
先ず、電子天秤の上に粉体受皿を載置して風袋引きを行った。次に、粉体受皿の上方において水平面に対して60°の角度で傾斜配置される試験板固定板に、試験板の被処理面が上を向くようにして試験板を固定した。なお、試験板固定板の上方には粉体落下調整駆動装置および粉体投入ホッパーが配設されており、粉体投入ホッパーに投入された粉体は、粉体落下調整駆動装置を通って試験板の被処理面に供給される(被処理面に付着しなかった粉体は粉体受皿に落下していく。)。また、粉体落下調整駆動装置は、粉体落下流量制御装置によってその粉体落下速度が一定となるように調整される(一定量の酸化アルミニウム粉末を1分かけて試験板の被処理面に落下させる。)。また、粉体流動特性評価装置の設置室の温度および相対湿度を計測したところ、温度は20℃±1℃であり、相対湿度は58%±3%であった。
【0050】
上述の通りに準備した後、粉体投入ホッパーから試験板の被処理面に対して平均粒子径1、5、10、20、30、50および100μmの酸化アルミニウム粉末(純度:99%以上)を順に落下させていった(粒子径が異なる酸化アルミニウム粉末を落下させる前に粉体流動特性評価装置の粉体通過部分を洗浄した。)。その結果、以下の表1に示される結果が得られた。
【0051】
【表1】
【実施例2】
【0052】
1.ステンレス鋼板の粗面化処理
ステンレス鋼板(SUS304)の被処理面に対して、第1湿式ブラスト処理および第2湿式ブラスト処理をこの順序で施して、被処理面を目的の粗面構造とした。
【0053】
なお、上記処理に先立って各処理用の砥粒分散液を調製した。具体的には、50%平均粒径(メジアン径)20μmのセラミック粒子を43g、50%平均粒径(メジアン径)3.0μmのセラミック粒子を20g、1000gの水に添加して撹拌し、それを第1湿式ブラスト処理用の砥粒分散液とした。また、50%平均粒径(メジアン径)3.0μmのセラミック粒子を39g、50%平均粒径(メジアン径)0.5μmのセラミック粒子を26g、1000gの水に添加して撹拌し、それを第2湿式ブラスト処理用の砥粒分散液とした。
【0054】
第1ブラスト処理では、第1湿式ブラスト処理用の砥粒分散液を、0.4MPaの圧縮空気で、ステンレス鋼板(SUS304)の被処理面に対して投射角度90°で2分間噴射した。第2ブラスト処理では、第2湿式ブラスト処理用の砥粒分散液を、0.4MPaの圧縮空気で、ステンレス鋼板(SUS304)の被処理面に対して投射角度90°で2分間噴射した。
【0055】
2.被処理面の表面特性
(1)算術平均高さSaおよび山の頂点密度Spdの測定
ISO 25178に基づいて上記処理済みの試験板の被処理面の10点の算術平均高さSaおよび山の頂点密度Spdを求めたところ、算術平均高さSaは0.10〜0.20μmであり、山の頂点密度Spdは5×10〜7×10mm−2であった。すなわち、算術平均高さSaと山の頂点密度Spdの積は5×10〜1.4×10μm/mmであり、その中央値は9.5×10μm/mmであった。なお、実測値に基づいた算術平均高さSaと山の頂点密度Spdの積は7.5×10〜1.2×10μm/mmであり、その平均値は約9.5×10μm/mmであった。
【0056】
(2)粉体付着試験
実施例1の「(2)粉体付着試験」と同様にして試験板の被処理面に対する各種粒子径の酸化アルミニウム粉末の粉体付着率を求めたところ、以下の表2に示される結果が得られた。
【0057】
【表2】
【0058】
(比較例1)
1.ステンレス鋼板の粗面化処理
50%平均粒径(メジアン径)20μmのセラミック粒子を、0.4MPaの圧縮空気で、ステンレス鋼板(SUS304)の被処理面に対して投射角度90°で2分間投射して、その被処理面を目的の粗面構造とした。
【0059】
2.被処理面の表面特性
(1)算術平均高さSaおよび山の頂点密度Spdの測定
ISO 25178に基づいて上記処理済みの試験板の被処理面の10点の算術平均高さSaおよび山の頂点密度Spdを求めたところ、算術平均高さSaは0.50〜1.50μmであり、山の頂点密度Spdは5×10〜7×10mm−2であった。すなわち、算術平均高さSaと山の頂点密度Spdの積は2.5×10〜1.05×10μm/mmであり、その中央値は6.5×10μm/mmであった。なお、実測値に基づいた算術平均高さSaと山の頂点密度Spdの積は4.9×10〜8.3×10μm/mmであり、その平均値は約6.4×10μm/mmであった。
【0060】
(2)粉体付着試験
実施例1の「(2)粉体付着試験」と同様にして試験板の被処理面に対する各種粒子径の酸化アルミニウム粉末の粉体付着率を求めたところ、以下の表3に示される結果が得られた。
【0061】
【表3】
【0062】
(比較例2)
1.ステンレス鋼板の研磨処理
ステンレス鋼板(SUS304)の被処理面に対してダイヤモンドペースト仕上げを実施して、その被処理面を目的の粗面構造とした。
【0063】
2.被処理面の表面特性
(1)算術平均高さSaおよび山の頂点密度Spdの測定
ISO 25178に基づいて上記処理済みの試験板の被処理面の10点の算術平均高さSaおよび山の頂点密度Spdを求めたところ、算術平均高さSaは0.10〜0.20μmであり、山の頂点密度Spdは2×10〜4×10mm−2であった。すなわち、算術平均高さSaと山の頂点密度Spdの積は2×10〜8×10μm/mmであり、その中央値は5.0×10μm/mmであった。なお、実測値に基づいた算術平均高さSaと山の頂点密度Spdの積は3.6×10〜6.9×10μm/mmであり、その平均値は約4.7×10μm/mmであった。
【0064】
(2)粉体付着試験
実施例1の「(2)粉体付着試験」と同様にして試験板の被処理面に対する各種粒子径の酸化アルミニウム粉末の粉体付着率を求めたところ、以下の表4に示される結果が得られた。
【0065】
【表4】
【0066】
(比較例3)
1.ステンレス鋼板の研磨処理
ステンレス鋼板(SUS304)の被処理面に対してバフ研磨を実施して、その被処理面を目的の粗面構造とした。
【0067】
2.被処理面の表面特性
ISO 25178に基づいて上記処理済みの試験板の被処理面の10点の算術平均高さSaおよび山の頂点密度Spdを求めたところ、算術平均高さSaは0.01〜0.10μmであり、山の頂点密度Spdは4×10〜6×10mm−2であった。すなわち、算術平均高さSaと山の頂点密度Spdの積は4×10〜6×10μm/mmであり、その中央値は3.2×10μm/mmであった。なお、実測値に基づいた算術平均高さSaと山の頂点密度Spdの積は2.0×10〜4.1×10μm/mmであり、その平均値は約3.1×10μm/mmであった。
【0068】
(2)粉体付着試験
実施例1の「(2)粉体付着試験」と同様にして試験板の被処理面に対する各種粒子径の酸化アルミニウム粉末の粉体付着率を求めたところ、以下の表5に示される結果が得られた。
【0069】
【表5】
【0070】
(比較例4)
1.ステンレス鋼板の研磨処理
ステンレス鋼板(SUS304)の被処理面に対して電解研磨を実施して、その被処理面を目的の粗面構造とした。
【0071】
2.被処理面の表面特性
ISO 25178に基づいて上記処理済みの試験板の被処理面の10点の算術平均高さSaおよび山の頂点密度Spdを求めたところ、算術平均高さSaは0.05〜0.15μmであり、山の頂点密度Spdは5×10〜7×10mm−2であった。すなわち、算術平均高さSaと山の頂点密度Spdの積は2.5×10〜1.05×10μm/mmであり、その中央値は6.5×10μm/mmであった。なお、実測値に基づいた算術平均高さSaと山の頂点密度Spdの積は4.7×10〜7.8×10μm/mmであり、その平均値は約6.2×10μm/mmであった。
【0072】
(2)粉体付着試験
実施例1の「(2)粉体付着試験」と同様にして試験板の被処理面に対する各種粒子径の酸化アルミニウム粉末の粉体付着率を求めたところ、以下の表6に示される結果が得られた。
【0073】
【表6】
【0074】
[酸化アルミニウム粉末の粉体付着率に及ぼす酸化アルミニウム粉末の平均粒子径の影響等の検証]
実施例1および2ならびに比較例1〜4に示される粉体付着試験の結果を、図1のグラフに表した。図1のグラフから明らかなように、いずれの例でも酸化アルミニウム粉末の平均粒子径が大きくなる程、その粉体付着率が低下している。
【0075】
また、図1から、いずれの平均粒子径においても算術平均高さSaと山の頂点密度Spdの積が大きくなる程、その被処理面に対する酸化アルミニウム粉末の粉体付着率が低くなることがわかる。特に、実施例1および2で作製された試験板の被処理面は、比較例1〜4で作製された試験板の被処理面よりも、平均粒子径の小さい酸化アルミニウム粉末の付着を抑制する効果が高いことがわかる。
【0076】
(検証例1)
実施例1および2ならびに比較例1〜4で作製された試験板それぞれについて、実施例1の「(2)粉体付着試験」と同様にして試験板の被処理面に対するステンレス鋼粉末(SUS304粉末)、小麦粉および抹茶粉の粉体付着率を求めたところ、以下の表7に示される結果が得られた。なお、ステンレス鋼粉末の平均粒子径(50%粒子径)は1μmであり、安息角は一般的に30°〜50°である。また、小麦粉の平均粒子径は20μmであり、安息角は一般的に40°〜60°である。また、抹茶粉の平均粒子径は1μm〜5μmであり、安息角は一般的に50°〜70°である。
【0077】
【表7】
【0078】
そして、この結果を図2のグラフに表した。なお、図2の横軸に記載の数値は各実施例および比較例で求められた算術平均高さSaと山の頂点密度Spdの積の中央値である。図2のグラフから明らかなように、実施例1および2ならびに比較例1で作製された試験板の被処理面は、粉体の種類に関わらず、比較例2〜4で作製された試験板の被処理面よりも顕著に良好な粉体付着率を示した。ただし、図2に示されるように、抹茶粉については、実施例1および2で作製された試験板の被処理面は、比較例1で作製された試験板の被処理面よりも良好な粉体付着率を示した。なお、図2に示されるように、抹茶粉については、実施例1で作製された試験板の被処理面は、実施例2で作製された試験板の被処理面よりも良好な粉体付着率を示した。また、図2から明らかなように、各粉体において、算術平均高さSaと山の頂点密度Spdの積が大きくなる程、その粉体付着率が低くなっていることがわかる。
【0079】
また、図2に示されるグラフの横軸を粉体の安息角に置き換えたグラフを図3に示した。なお、これらのグラフにおいて安息角40°のプロットはステンレス鋼粉末に対する粉体付着率に対応し、安息角50°のプロットは小麦粉に対する粉体付着率に対応し、安息角60°のプロットは抹茶粉に対する粉体付着率に対応する。図3から明らかなように、比較例2〜4で作製された試験板の被処理面の粉体付着率は、安息角が大きくなる程、減少する傾向にあるが、実施例1および2ならびに比較例1で作製された試験板の被処理面の粉体付着率は、安息角が大きくなる程、増加する傾向にある。
【0080】
(検証例2)
実施例1および2ならびに比較例1で作製された試験板それぞれについて、実施例1の「(2)粉体付着試験」と同様にして試験板の被処理面に対するポリテトラフルオロエチレン粉末(PTFE粉末)、漢方薬粉末およびファンデーションの粉体付着率を求めたところ、以下の表8に示される結果が得られた。なお、PTFE粉末の平均粒子径(50%粒子径)は5μmであり、安息角は一般的に30°〜50°である。また、漢方薬粉末の平均粒子径は20μmであり、安息角は一般的に40°〜60°である。また、ファンデーションの平均粒子径は5μmであり、安息角は一般的に50°〜70°である。
【0081】
【表8】
【0082】
そして、この結果を図4のグラフに表した。なお、図4の横軸に記載の数値は各実施例および比較例で求められた算術平均高さSaと山の頂点密度Spdの積の中央値である。図4に示される通り、いずれの粉体についても、実施例1および2で作製された試験板の被処理面は、比較例1で作製された試験板の被処理面よりも良好な粉体付着率を示した。なお、図4から明らかなように、いずれの粉体についても、実施例1で作製された試験板の被処理面は、実施例2で作製された試験板の被処理面よりも良好な粉体付着率を示した。また、図4から明らかなように、各粉体において、算術平均高さSaと山の頂点密度Spdの積が大きくなる程、その粉体付着率が低くなっていることがわかる。
【実施例3】
【0083】
1.ステンレス製メッシュの粗面化処理
目開き38μmの#400のステンレス製メッシュに対して、実施例1に記載の粗面化処理における第1湿式ブラスト処理および第2湿式ブラスト処理をこの順序で施して、メッシュ表面を目的の粗面構造とした。
【0084】
2.粉体付着試験
斜め下排出シューター・振動機付き「ふるい」ならびに粉体受皿および電子天秤を用いて上記の粗面化メッシュに対する酸化アルミニウム粉末(純度:99%以上,平均粒子径:3μm,安息角:40°以上)の付着性(逆に言えば落下性)を評価した。なお、評価は具体的には以下の通りにして行った。
【0085】
先ず、電子天秤の上に粉体受皿を載置して風袋引きを行った。次に、斜め下排出シューター・振動機付き「ふるい」の斜め下排出シューターの出口が粉体受皿の上方に位置するように斜め下排出シューター・振動機付き「ふるい」を配設した。次いで、斜め下排出シューター・振動機付き「ふるい」のふるいとして上記の粗面化メッシュをセットして振動機を運転させた。続いて、その粗面化メッシュの上から1kgの酸化アルミニウム粉末を落とし、一定時間毎に電子天秤の秤量値を読み取った。その結果を図5にグラフとして示した。図5のグラフに基づいてこの粗面化メッシュの酸化アルミニウム粉末処理速度を求めたところその酸化アルミニウム粉末処理速度は約0.44g/秒であった。
【実施例4】
【0086】
1.ステンレス製メッシュの粗面化処理
目開き38μmの#400のステンレス製メッシュに対して、実施例2に記載の粗面化処理における第1湿式ブラスト処理および第2湿式ブラスト処理をこの順序で施して、メッシュ表面を目的の粗面構造とした。
【0087】
2.粉体付着試験
実施例5の「2.粉体付着試験」と同様にして粗面化メッシュの粉体付着試験を行ったところ、図5に示されるグラフが得られた。また、図5のグラフに基づいてこの粗面化メッシュの酸化アルミニウム粉末処理速度を求めたところその酸化アルミニウム粉末処理速度は約0.34g/秒であった。
【実施例5】
【0088】
1.ステンレス製メッシュの粗面化処理
目開き1.7μmの#10のステンレス製メッシュに対して、実施例1に記載の粗面化処理における第1湿式ブラスト処理および第2湿式ブラスト処理をこの順序で施して、メッシュ表面を目的の粗面構造とした。
【0089】
2.粉体付着試験
酸化アルミニウム粉末をチョコレート粉末に代えた以外は、実施例3の「2.粉体付着試験」と同様にして粗面化メッシュの粉体付着試験を行った。その試験後に粗面化メッシュを撮像したところ、図6に示される写真図が得られた。図6に示されるように、粗面化メッシュにはほとんどチョコレート粉末が付着していなかった。
【実施例6】
【0090】
1.ステンレス製メッシュの粗面化処理
目開き106μmの#150のステンレス製メッシュに対して、実施例1に記載の粗面化処理における第1湿式ブラスト処理および第2湿式ブラスト処理をこの順序で施して、メッシュ表面を目的の粗面構造とした。
【0091】
2.粉体付着試験
酸化アルミニウム粉末を抹茶粉に代えた以外は、実施例3の「2.粉体付着試験」と同様にして粗面化メッシュの粉体付着試験を行った。その試験後に粗面化メッシュの撮像したところ、図7に示される写真図が得られた。図7に示されるように、粗面化メッシュにはほとんど抹茶粉が付着していなかった。
【実施例7】
【0092】
1.ステンレス製メッシュの粗面化処理
目開き90μmの#170のステンレス製メッシュに対して、実施例1に記載の粗面化処理における第1湿式ブラスト処理および第2湿式ブラスト処理をこの順序で施して、メッシュ表面を目的の粗面構造とした。
【0093】
2.粉体付着試験
酸化アルミニウム粉末を小麦粉(薄力粉)に代えた以外は、実施例3の「2.粉体付着試験」と同様にして粗面化メッシュの粉体付着試験を行った。その試験後に粗面化メッシュの撮像したところ、図8に示される写真図が得られた。図8に示されるように、粗面化メッシュにはほとんど小麦粉(薄力粉)が付着していなかった。
【0094】
(比較例5)
実施例3の「2.粉体付着試験」と同様にして未処理メッシュの粉体付着試験を行ったところ、図5に示されるグラフが得られた。図5のグラフに基づいてこの未処理メッシュの酸化アルミニウム粉末処理速度を求めたところその酸化アルミニウム粉末処理速度は約0.16g/秒であった。
【0095】
(比較例6)
酸化アルミニウム粉末をチョコレート粉末に代えた以外は、比較例5と同様にして未処理メッシュの粉体付着試験を行った。その試験後に未処理メッシュの撮像したところ、図9に示される写真図が得られた。図9に示されるように、未処理メッシュには全面に亘って比較的均一にチョコレート粉末が付着していた。
【0096】
(比較例7)
酸化アルミニウム粉末を抹茶粉に代えた以外は、比較例5と同様にして未処理メッシュの粉体付着試験を行った。その試験後に未処理メッシュの撮像したところ、図10に示される写真図が得られた。図10に示されるように、未処理メッシュの交点部分には全面に亘って抹茶粉が付着していると共に、一部が抹茶粉で目詰まりをおこしている箇所が観られた。
【0097】
(比較例8)
2.粉体付着試験
酸化アルミニウム粉末を小麦粉(薄力粉)に代えた以外は、実施例3の「2.粉体付着試験」と同様にして粗面化メッシュの粉体付着試験を行った。その試験後に粗面化メッシュの撮像したところ、図11に示される写真図が得られた。図11に示されるように、未処理メッシュには全面に亘って比較的均一に小麦粉(薄力粉)が付着していた。
【0098】
[実施例3および4で作製された粗面化メッシュおよび比較例5の未処理メッシュの酸化アルミニウム粉末処理速度の比較検証]
図5から明らかなように、実施例3および4で作製された粗面化メッシュは、比較例5の未処理メッシュに比べて格段に高い酸化アルミニウム粉末処理速度を示した。また、実施例3で作製された粗面化メッシュは、実施例4の粗面化メッシュよりも優れた酸化アルミニウム粉末処理速度を示した。
【要約】
【課題】本発明の課題は、従前よりも粉体が付着しにくい粉体接触部材を提供することにある。
【解決手段】本発明に係る粉体接触部材の粗面化方法では、粉体接触部材に対して異なる条件で複数回、湿式ブラスト処理が施されて、山の頂点密度Spdが3×10mm−2以上であると共に、前記山の頂点密度Spdと算術平均高さSaとの積が5×10μm/mm以上である粗面が形成される。なお、上記条件には、砥粒の平均径、および、分散媒に対する前記砥粒の配合比率が少なくとも一つの因子が含まれるのが好ましい。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11