(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記予め検出された温度の総和をA、前記予め算出されたオフセット電圧の総和をB、前記予め検出された温度と前記予め算出されたオフセット電圧との積の総和をC、前記予め検出された温度の2乗の総和をDとしたとき、前記傾きが、
a=(C−AB)/(D−A2)
で与えられ、前記切片が、
b=(DB−CA)/(D−A2)
で与えられる、請求項1に記載のロータリエンコーダ。
前記複数の磁石が、前記回転体の周方向にN極とS極とが1極ずつ配置された第1の磁石と、前記回転体の周方向にN極とS極とが交互に複数配置された第2の磁石とを含み、
前記複数の磁気センサ部が、前記第1の磁石に対応する少なくとも1つの磁気センサ部と、前記第2の磁石に対応する磁気センサ部とを含み、
前記各磁気センサ部が、前記磁石の着磁面に対向して配置され、前記回転体の回転に伴って正弦波状のA相信号を出力する第1の感磁素子と、前記磁石の着磁面に対向して配置され、前記回転体の回転に伴って前記A相信号と90°の位相差を有する正弦波状のB相信号を出力する第2の感磁素子と、を有する、請求項3に記載のロータリエンコーダ。
前記オフセット電圧算出部が、前記A相信号および前記B相信号に基づいて直交座標系上にリサージュ波形を形成し、該リサージュ波形の円周を等分割する位置にある複数の点から連続する3点を選択し、該選択した3点のうち連続する2点をそれぞれ結ぶ2つの線分の垂直二等分線の交点に基づいて、前記第1の磁石に対応する少なくとも1つの磁気センサ部の前記オフセット電圧を算出する、請求項4に記載のロータリエンコーダ。
前記オフセット電圧算出部が、前記A相信号および前記B相信号に基づいて直交座標系上にリサージュ波形を形成し、該リサージュ波形と座標軸との4つの交点のそれぞれの近傍に位置する4点を特定し、該特定した4点が前記座標軸の原点からそれぞれほぼ等距離になるように前記A相信号および前記B相信号の少なくとも一方に所定値を加減したときの該所定値に基づいて、前記第2の磁石に対応する磁気センサ部の前記オフセット電圧を算出する、請求項4または5に記載のロータリエンコーダ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法には、通常動作時に比べて温度が低い起動時に感磁素子の温度が一定になるまで時間がかかったり、温度監視用抵抗膜と感磁素子との位置の違いによる基板内での温度分布によって検出誤差が生じやすかったりするという問題がある。また、感磁素子のオフセット電圧については、経年変化に対応するために、起動時のオフセット電圧として前回動作時のオフセット電圧を用いているが、これにはオフセット電圧の温度特性が考慮されていないという問題がある。すなわち、温度が高い通常動作時に記憶されたオフセット電圧を温度が低い起動時に用いた場合、検出誤差が大きくなるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、感磁素子の温度特性による影響を最小限に抑えたロータリエンコーダを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明のロータリエンコーダは、固定体に対する回転体の回転位置を検出するロータリエンコーダであって、固定体および回転体の一方に設けられた磁石と、固定体および回転体の他方で磁石に対向して設けられ、磁石からの磁界変化を検出する磁気センサ部と、回転体の回転に伴って磁気センサ部から出力される出力信号に基づいて、回転体の回転位置を算出する制御部と、を有し、制御部が、磁気センサ部の温度を検出する温度検出部と、磁気センサ部からの出力信号に基づいて、磁気センサ部のオフセット電圧を算出するオフセット電圧算出部と、温度検出部によって予め検出された温度とオフセット電圧算出部によって予め算出されたオフセット電圧との関係から算出された一次近似式の傾きおよび切片を記憶する記憶部と、を有し、制御部は、記憶部に記憶されている傾きおよび切片に基づいて、温度検出部によって検出された磁気センサ部の現在の温度から磁気センサ部のオフセット電圧を推定するオフセット電圧推定処理と、推定されたオフセット電圧に基づいて磁気センサ部からの出力信号を補正する補正処理と、を実行し、補正された出力信号を用いて回転体の回転位置を算出する。
また、制御部は、所定の温度においてオフセット電圧算出部によって算出されたオフセット電圧と、所定の温度における推定されたオフセット電圧との差が所定値以上である場合、差に基づいて、記憶部に記憶されている切片を更新する。
【0008】
このようなロータリエンコーダによれば、起動時に恒温制御を行う必要がないため、起動直後から適切なオフセット電圧に基づいて出力信号の補正を行うことで、回転体の回転位置を高精度に検出することができる。
また、オフセット電圧の温度特性の経年変化に対応することができ、より高精度にオフセット電圧を推定することができる。
【0009】
本発明の一態様では、予め検出された温度の総和をA、予め算出されたオフセット電圧の総和をB、予め検出された温度と予め算出されたオフセット電圧との積の総和をC、予め検出された温度の2乗の総和をDとしたとき、傾きが、a=(C−AB)/(D−A
2)で与えられ、切片が、b=(DB−CA)/(D−A
2)で与えられる。この場合、記憶部に記憶されている傾きおよび切片を更新する必要が生じた場合にも、それらを簡単に求めることができる。
【0011】
また、本発明のロータリエンコーダは、複数の磁石と、複数の磁気センサ部と、を有していてよく、制御部は、複数の磁気センサ部からの複数の出力信号に基づいて回転体の回転位置を算出し、その際に複数の磁気センサ部のそれぞれに対して上記オフセット電圧推定処理と上記補正処理とを実行するようになっていてもよい。この場合、好ましくは、複数の磁石が、回転体の周方向にN極とS極とが1極ずつ配置された第1の磁石と、前記回転体の周方向にN極とS極とが交互に複数配置された第2の磁石とを含み、複数の磁気センサ部が、第1の磁石に対応する少なくとも1つの磁気センサ部と、第2の磁石に対応する磁気センサ部とを含み、各磁気センサ部が、磁石の着磁面に対向して配置され、回転体の回転に伴って正弦波状のA相信号を出力する第1の感磁素子と、磁石の着磁面に対向して配置され、回転体の回転に伴ってA相信号と90°の位相差を有する正弦波状のB相信号を出力する第2の感磁素子と、を有している。このような構成によれば、回転体の回転位置の検出精度を向上させることができる。
【0012】
また、オフセット電圧算出部が、A相信号およびB相信号に基づいて直交座標系上にリサージュ波形を形成し、リサージュ波形の円周を等分割する位置にある複数の点から連続する3点を選択し、選択した3点のうち連続する2点をそれぞれ結ぶ2つの線分の垂直二等分線の交点に基づいて、第1の磁石に対応する少なくとも1つの磁気センサ部のオフセット電圧を算出するようになっていてもよい。これにより、回転体が限られた角度範囲しか回転できない場合にも、オフセット電圧を精度良く算出することができる。
【0013】
また、オフセット電圧算出部が、A相信号およびB相信号に基づいて直交座標系上にリサージュ波形を形成し、リサージュ波形と座標軸との4つの交点のそれぞれの近傍に位置する4点を特定し、特定した4点が座標軸の原点からそれぞれほぼ等距離になるようにA相信号およびB相信号の少なくとも一方に所定値を加減したときの所定値に基づいて、第2の磁石に対応する磁気センサ部のオフセット電圧を算出するようになっていてもよい。これにより、リサージュ波形の歪みが大きい場合にも、オフセット電圧を精度良く算出することができる。
【0014】
また、各感磁素子が、磁気抵抗効果素子を有していることが好ましい。これにより、1つの素子からA相信号およびB相信号を簡単に得ることができる。
【0015】
また、温度検出部が、制御部を構成するマイクロコンピュータに内蔵された温度センサを用いて、磁気センサ部の温度を算出するようになっていてもよい。これにより、温度監視用の別の素子を用いることなく感磁素子の温度を検出することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、感磁素子の温度特性による影響を最小限に抑えたロータリエンコーダを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。本発明のロータリエンコーダは、固定体に対する回転体の回転位置を検出するものである。本明細書では、本発明について、回転体に磁石が設けられ、固定体に磁気センサ部(感磁素子)が設けられているロータリエンコーダを例に挙げて説明するが、ロータリエンコーダの構成はこれに限定されるものではなく、その逆であってもよい。すなわち、本発明は、回転体に感磁素子が設けられ、固定体に磁石が設けられたロータリエンコーダにも適用可能である。
図1は、本発明の一実施形態に係るロータリエンコーダの構成を示す概略図である。
図1(a)は、本実施形態のロータリエンコーダの概略斜視図であり、
図1(b)は、本実施形態のロータリエンコーダのブロック図である。
【0019】
本実施形態のロータリエンコーダ10は、
図1(a)および
図1(b)に示すように、第1の磁石20と、第2の磁石30と、第1の磁気センサ部40と、第2の磁気センサ部50と、第3の磁気センサ部60と、制御部70とを有している。第1の磁石20と第2の磁石30は、回転軸Lを中心として回転する回転体(図示せず)に設けられ、回転体と共に回転可能である。第1の磁気センサ部40と第2の磁気センサ部50と第3の磁気センサ部60は、固定体(図示せず)に設けられている。例えば、回転体は、モータの出力軸に連結され、固定体は、モータのフレームに固定されている。第1から第3の磁気センサ部40,50,60は、それぞれ増幅回路(図示せず)を介して制御部70に接続されている。
【0020】
第1の磁石20は、回転体の回転軸L上に配置され、その中心が回転軸Lに一致する円盤状の永久磁石(例えばボンド磁石)からなり、周方向にN極とS極とが1極ずつ配置された着磁面21を有している。一方、第2の磁石30は、第1の磁石20の半径方向外側を囲うように配置され、その中心が回転軸Lに一致する円筒状の永久磁石(例えばボンド磁石)からなり、周方向にN極とS極とが交互に複数配置された環状の着磁面31を有している。第2の磁石30の着磁面31には、回転体の半径方向に並列して配置された複数(図示した実施形態では2つ)のトラック32a,32bが形成されている。各トラック32a,32bには、それぞれN極とS極からなる合計n個(nは2以上の整数、例えばN=64)の磁極対が形成されている。半径方向に隣接する2つのトラック32a,32bは、周方向にずれて配置され、本実施形態では、周方向に1極分ずれて配置されている。
【0021】
第1の磁気センサ部40と第2の磁気センサ部50とは、第1の磁石20からの磁界変化を検出するものであり、それぞれ第1の磁石20の着磁面21に対向して配置されている。第3の磁気センサ部60は、第2の磁石30からの磁界変化を検出するものであり、第2の磁石30の着磁面31に対向して配置されている。
【0022】
第1の磁気センサ部40は、それぞれが2つの磁気抵抗効果(MR)素子からなる4つの磁気抵抗パターン41〜44から構成された2つのセンサ(感磁素子)を備えている。具体的には、第1の磁気センサ部40は、回転体の回転に伴って正弦波状のA相信号(sin)を出力するA相センサと、回転体の回転に伴ってA相信号と90°の位相差を有する正弦波状のB相信号(cos)を出力するB相センサとを備えている。A相センサは、正弦波状の+a相信号(sin+)を出力する磁気抵抗パターン43と、+a相信号と180°の位相差を有する正弦波状の−a相信号(sin−)を出力する磁気抵抗パターン41とを有している。各磁気抵抗パターン43,41は、直列に接続された2つのMR素子からなり、これら2つの磁気抵抗パターン43,41が並列に接続されてブリッジ回路を構成している。B相センサは、正弦波状の+b相信号(cos+)を出力する磁気抵抗パターン44と、+b相信号と180°の位相差を有する正弦波状の−b相信号(cos−)を出力する磁気抵抗パターン42とを有している。各磁気抵抗パターン44,42は、直列に接続された2つのMR素子からなり、A相センサと同様に、これら2つの磁気抵抗パターン44,42が並列に接続されてブリッジ回路を構成している。
【0023】
第2の磁気センサ部50は、第1のホール素子51と、回転軸Lを中心として第1のホール素子51に対して90°離れた位置に配置された第2のホール素子52とを有している。
【0024】
第3の磁気センサ部60は、それぞれが2つのMR素子からなる4つの磁気抵抗パターン61〜64から構成された2つのセンサ(感磁素子)を備えている。具体的には、第3の磁気センサ部60は、回転体の回転に伴って正弦波状のA相信号(sin)を出力するA相センサと、回転体の回転に伴ってA相信号と90°の位相差を有する正弦波状のB相信号(cos)を出力するB相センサとを備えている。A相センサは、正弦波状の+a相信号(sin+)を出力する磁気抵抗パターン64と、+a相信号と180°の位相差を有する正弦波状の−a相信号(sin−)を出力する磁気抵抗パターン62とを有している。各磁気抵抗パターン64,62は、直列に接続された2つのMR素子からなり、これら2つの磁気抵抗パターン64,62が並列に接続されてブリッジ回路を構成している。B相センサは、正弦波状の+b相信号(cos+)を出力する磁気抵抗パターン63と、+b相信号と180°の位相差を有する正弦波状の−b相信号(cos−)を出力する磁気抵抗パターン61とを有している。各磁気抵抗パターン63,61は、直列に接続された2つのMR素子からなり、これら2つの磁気抵抗パターン63,61が並列に接続されてブリッジ回路を構成している。
【0025】
制御部70は、中央演算処理装置(CPU)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)などを備えたマイクロコンピュータから構成され、第1から第3の磁気センサ部40,50,60から出力される出力信号に基づいて、回転体の回転位置(絶対角度位置)を算出するものである。
【0026】
ここで、
図2を参照して、本実施形態における回転体の絶対角度位置の検出原理について説明する。
図2(a)は、特定の基準位置からの回転体の機械角の変化に対して、第1の磁石の磁極および強度、第1の磁気センサ部からの出力信号、第1のホール素子からの出力信号、および第2のホール素子からの出力信号を示している。
図2(b)は、その出力信号と電気角θとの関係を示している。ここで、機械角とは、幾何学的または機械的に定められる角度を指し、電気角とは、感磁素子からの出力信号の位相から定められる角度を指す。なお、
図2(a)では、第1および第2のホール素子からの出力信号は、コンパレータを介して得られるHまたはLの二値信号で示されている。
【0027】
回転体が1回転すると、第1の磁石20も1回転(機械角で360°回転)する。そのため、第1の磁気センサ部40からは、
図2(a)に示すように、それぞれ2周期分、すなわち電気角(出力信号の位相によって定まる角度)で720°分のA相信号(sin)およびB相信号(cos)が出力される。これらA相信号およびB相信号から、電気角θは、
図2(b)に示すように、θ=tan
−1(sin/cos)という関係式を用いて算出される。ただし、回転体が機械角で360°回転する間、電気角では720°回転するため、電気角θが算出されただけでは、回転体の絶対角度位置を求めることができない。そこで、回転軸Lを中心として互いに90°離れた位置に配置された2つのホール素子51,52が利用される。すなわち、2つのホール素子51,52から出力される出力信号から、第1の磁石20が発生する磁界の極性が判別され、そこから、
図2(a)の一点鎖線で示すように、機械角による回転位置が平面座標系のどの象限に位置しているのかが判別される。こうして、回転体の絶対角度位置を算出することができる。
【0028】
一方で、第3の磁気センサ部60からは、回転体が第2の磁石30における1対の磁極分だけ回転する度に、
図2(a)に示したものと同様に、それぞれ2周期分(すなわち電気角で720°分)のA相信号(sin)およびB相信号(cos)が出力される。したがって、第3の磁気センサ部60から出力されるA相信号およびB相信号からも、上述した第1の磁気センサ部40と同様の原理で、第2の磁石30の1対の磁極に相当する角度内での回転体の絶対角度位置が算出される。第3の磁気センサ部60による絶対角度位置の検出分解能は第1の磁気センサ部40によるそれよりも高いため、これらを組み合わせることで、高い分解能で回転体の絶対角度位置を算出することができる。
【0029】
ところで、複数のMR素子からなるブリッジ回路を備えた磁気センサでは、MR素子を構成する磁気抵抗効果膜の温度特性がそれぞれ等しい場合には、磁気センサの出力に温度変化は生じないはずである。しかしながら、実際には、様々な要因によって出力に温度変化が生じ、それにより検出誤差が発生することが知られている。そのため、環境温度が変化した場合にも安定した検出精度を維持するためには、特に、MR素子のばらつきなどによって生じるオフセット電圧(出力信号の中心電圧)の温度特性を正確に把握し、適切なオフセット電圧によって出力を補正することが必要になる。
【0030】
そこで、本実施形態では、制御部70が、現在の温度から各磁気センサ部40,50,60のオフセット電圧を推定するオフセット電圧推定処理と、推定されたオフセット電圧に基づいて各磁気センサ部40,50,60からの出力信号を補正する補正処理とを実行する機能を有している。これにより、例えば通常動作時に比べて温度が低い起動直後においても、適切なオフセット電圧に基づいて出力信号を補正し、これら補正された出力信号を用いて回転体の回転位置を算出することで、高い検出精度を維持することができる。
【0031】
以下では、再び
図1(b)を参照しながら、主にこのオフセット電圧推定処理に関する機能に着目して、制御部70の機能的な構成について説明する。
【0032】
制御部70は、A/D変換部(ADC)71と、角度算出部72と、オフセット電圧推定部73とを有し、オフセット電圧推定部73は、温度検出部74と、オフセット電圧算出部75と、記憶部76とを有している。
【0033】
ADC71は、第1から第3の磁気センサ部40,50,60から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して角度算出部72およびオフセット電圧推定部73へ出力する。角度算出部72は、ADC71でデジタル変換された第1から第3の磁気センサ部40,50,60からの出力信号に基づいて、上述した回転体の回転位置を算出する。このとき、角度算出部72は、オフセット電圧推定部73から第1から第3の磁気センサ部40,50,60の現在の温度でのオフセット電圧の推定値を取得し、取得したオフセット電圧の推定値に基づいて上記出力信号を補正し、上述の算出方法により、補正された出力信号を用いて回転体の回転位置を算出する。
【0034】
オフセット電圧推定部73は、記憶部76に記憶されている各磁気センサ部40,50,60のオフセット電圧の温度特性に関する情報に基づいて、温度検出部74によって検出された現在の温度から、各磁気センサ部40,50,60のオフセット電圧を推定する。温度特性に関する具体的な情報については後述する。
【0035】
温度検出部74は、制御部70を構成するマイクロコンピュータのCPUに内蔵された温度センサ(サーマルダイオード)を用い、その出力値を各磁気センサ部40,50,60の温度として算出する。温度検出(温度演算処理)は、例えば、ロータリエンコーダ10を制御する上位の制御装置との通信周期(例えば、回転速度算出のための通信周期)毎に1回のタイミングで実行される。温度演算処理は数10μsで終了するため、それよりも十分に長い通信周期内に処理を確実に完了することができる。通信周期毎に温度検出を行うことで、割り込み処理などで非定期的に行うよりも、処理を簡潔にすることができる。なお、温度検出部74は、感磁素子自体の抵抗値に基づいて、各磁気センサ部40,50,60の温度を直接検出するようになっていてもよい。また、磁気センサ部40,50,60が形成された基板上にそれぞれ温度監視用の別の抵抗膜(磁気抵抗効果を示さない導電膜)が設けられていてもよく、温度検出部74は、その抵抗値に基づいて、各磁気センサ部40,50,60の温度を検出するようになっていてもよい。
【0036】
オフセット電圧算出部75は、各磁気センサ部40,50,60からの出力信号に基づいて、各磁気センサ部40,50,60のオフセット電圧を算出する。オフセット電圧の算出は、上述した温度特性に関する情報を得るためにロータリエンコーダ10が工場から出荷される前に行われる他、その情報を更新するためにロータリエンコーダ10の動作中にも行われる。オフセット電圧算出部75によるオフセット電圧の算出方法の具体例については後述する。
【0037】
記憶部76は、上述したように、各磁気センサ部40,50,60のオフセット電圧の温度特性に関する情報を記憶する。具体的には、温度検出部74によって予め検出された温度と、オフセット電圧算出部75によって予め算出されたオフセット電圧との関係から算出された一次近似式の傾きおよび切片を記憶する。
【0038】
この一次近似式の算出は、上述したように、ロータリエンコーダ10が工場から出荷される前に行われる。具体的には、ロータリエンコーダ10を動作させたときのモータの発熱によって各磁気センサ部40,50,60の温度が所定の温度(例えば30℃)だけ上昇する間、上述の温度センサの最小分解能(0.5℃)ごとに256回、オフセット電圧の算出が行なわれる。そして、それらを平均化したものが当該温度におけるオフセット電圧の算出値として収集される。こうして収集された温度およびオフセット電圧のデータから一次近似式が算出され、そのときの傾きおよび切片が記憶部76に記憶される。収集されたデータは、一次近似式が算出された後で破棄される。
【0039】
したがって、本実施形態では、特定の磁気センサ部において現在の温度からオフセット電圧を推定するために、記憶部76には2つの情報(一次近似式の傾きおよび切片)だけが記憶されていればよい。そのため、記憶部76の容量を大幅に節約することができる。また、この情報は、ロータリエンコーダ10が工場から出荷する前に収集されて蓄積されたデータに基づいて得られたものである。そのため、出荷直後から高精度でオフセット電圧を推定することができ、高い検出精度を維持することができる。
【0040】
なお、一次近似式の算出は最小二乗法を用いて行われる。具体的には、予め検出された温度の総和をA、予め算出されたオフセット電圧の総和をB、予め検出された温度と予め算出されたオフセット電圧との積の総和をC、予め検出された温度の2乗の総和をDとしたとき、傾きaおよび切片bは、それぞれ、
a=(C−AB)/(D−A
2)
b=(DB−CA)/(D−A
2)
で与えられる。
【0041】
ロータリエンコーダ10を長期間にわたって使用すると、各磁気センサ部40,50,60のオフセット電圧やその温度特性に経年変化が生じることがある。その場合には、その経年変化に応じて、記憶部76に記憶されている傾きおよび切片の少なくとも一方を更新するようになっていてもよい。例えば、ロータリエンコーダ10の動作中に、所定の温度において、実際の出力信号からオフセット電圧算出部75によってオフセット電圧を算出し、この算出値と、その温度でのオフセット電圧推定部72によるオフセット電圧の推定値とを比較する。そして、この差が所定値以上である場合、一次近似式を平行移動させるように、その差を記憶部76に記憶されている切片に加算または減算したものを、新たな切片として記憶部76に記憶するようになっていてもよい。一方で、出荷前に行ったデータの収集と一次近似式の算出とを再び行い、傾きおよび切片の両方を更新するようになっていてもよい。あるいは、出荷前に収集したデータを破棄せずに記憶部76に記憶させておき、新たなデータを取得するごとに、上述の関係式を用いて傾きおよび切片を算出することようになっていてもよい。この場合、直近のデータに重み付けしたものを上述の関係式に適用することで、最新のオフセット電圧の温度特性を反映した傾きおよび切片を得ることもできる。
【0042】
ここで、オフセット電圧算出部75によるオフセット電圧の算出方法の2つの例について簡単に説明する。第1の算出方法は、第1の磁気センサ部40に好適に適用され、第2の算出方法は、第3の磁気センサ部60に好適に適用される。
図3は、第1の算出方法を説明するための図であり、
図4は、第2の算出方法を説明するための図である。
【0043】
いずれの算出方法においても、まず、
図2(a)に示す出力信号(A相信号およびB相信号)に基づいて、直交座標上にリサージュ波形を算出する(
図2(b)の破線参照)。リサージュ波形は、B相信号(cos)を直交座標系のx軸上にプロットし、A相信号(sin)を直交座標系のy軸上にプロットして得られる波形である。A相信号およびB相信号が理想的な正弦波であると仮定すると、リサージュ波形は、中心ずれや歪みのない円形であり、オフセット電圧はゼロである。しかしながら、実際には、MR素子のばらつきや幾何学的な要因により、リサージュ波形は、中心ずれや歪みのある円形となり、オフセット電圧は有限になる。
【0044】
第1の算出方法では、リサージュ波形を算出した後、リサージュ波形の円周を等分割する複数の点を特定し、それら複数の点から連続する3点を選択する。そして、選択した3点のうち連続する2点をそれぞれ結ぶ2つの線分の垂直二等分線を求め、その交点をオフセット電圧として算出する。
図3(a)および
図3(b)は、この算出方法を説明するための図であり、
図3(a)は、リサージュ波形を4等分する複数の点から、
図3(b)は、8等分する複数の点からそれぞれオフセット電圧を算出する例を示している。
【0045】
図3(a)に示す例では、リサージュ波形を4等分する複数の点として、座標軸(x軸およびy軸)との4つの交点P1〜P4が特定され、そのうち連続する3点として、P1〜P3が選択される。そして、線分P1P2の中点Pm1を通る垂直二等分線L1と、線分P2P3の中点Pm2を通る垂直二等分線L2との交点P0がオフセット電圧として算出される。一般に、リサージュ波形は、座標軸との交点では歪みが少ない。この例では、オフセット電圧を非常に正確な値として算出することができ、さらに、リサージュ波形に歪みが生じている場合でも、その補正を行うことなく、十分な精度でオフセット電圧を算出することができる。また、この例では、電気角で180°、すなわち、第1の磁石20を機械角で90°回転させただけでオフセット電圧の算出が可能となる。
【0046】
一方、
図3(b)に示す例では、リサージュ波形を8等分する複数の点として、座標軸との4つの交点とそれらの間をさらに2等分する4つの点との8つの点P1〜P8が特定され、そのうち連続する3点として、P3〜P5が選択される。そして、線分P3P4の中点Pm1を通る垂直二等分線L1と、線分P3P4の中点Pm2を通る垂直二等分線L2との交点P0がオフセット電圧として算出される。ここで、8つの点P1〜P8から連続する3点を選択する場合、少なくとも1点はリサージュ波形と座標軸との交点であるが、それ以外の点は、原点に対して±45度の位置にあり、A相信号とB相信号との交点に対応する。この位置では、リサージュ波形の歪みが大きいため、理想円になるように歪みを補正した後の値が用いられることが好ましい。これにより、交点P0で与えられるオフセット電圧を非常に正確な値として算出することができる。また、この例では、電気角で90°、すなわち、第1の磁石20を機械角で45°回転させただけでオフセット電圧の算出が可能となる。
【0047】
以上のように、第1の算出方法によれば、回転体が限られた角度範囲しか回転できない場合にも、オフセット電圧を精度良く算出することができる。第1の磁気センサ部40では、得られるリサージュ波形の歪みが少ないため、第1の算出方法を用いることで、回転体を小さい角度だけ回転させただけでオフセット電圧を精度良く算出することができる。なお、この算出方法では、処理の簡単化のために、リサージュ波形と座標軸との交点を、A相信号およびB相信号の一方がゼロになるときの値と、他方の値との組み合わせから算出することもできる。
【0048】
また、第2の算出方法では、リサージュ波形を算出した後、リサージュ波形と座標軸(x軸およびy軸)との4つの交点のそれぞれの近傍に位置する4点を特定する。そして、特定した4点が座標軸の原点からそれぞれほぼ等距離になるようにA相信号およびB相信号の少なくとも一方に所定値を加減したときの所定値をオフセット電圧として算出する。以下、
図4(a)および
図4(b)を参照して、この算出方法について具体的に説明する。
【0049】
まず、
図4(a)に示すように、リサージュ波形とy軸との2つの交点のそれぞれの近傍に位置する2点a1,a2を特定する。リサージュ波形とx軸との2つの交点のそれぞれの近傍に位置する2点b1,b2との合計4点を特定する。このとき、4点a1,a2,b1,b2は、それぞれリサージュ波形の円周上に位置しており、オフセット電圧が有限である場合、座標軸の原点Dからの距離は、点a1と点a2で異なり、点b1と点b2で異なっている。なお、図面には、4点a1,a2,b1,b2は、それぞれリサージュ波形と座標軸との交点上に示されているが、実際には、必ずしも交点と一致しているわけではない。これら4点を特定する方法としては、例えば、上述したように、A相信号およびB相信号の一方がゼロ(あるいは所定の範囲内)になるときの値と、他方の値との組み合わせから求める方法を用いることができる。
【0050】
次に、点a1と原点Dとの距離と、点a2と原点Dとの距離とがほぼ等距離になるように、A相信号(sin)に所定値を加減する。具体的には、a1+a2の値が所定範囲内にあるか否かを判断し、所定範囲内にない場合には、a1+a2の値が所定範囲内に収まるようにA相信号に所定値を加減する。同様に、点b1と原点Dとの距離と、点b2と原点Dとの距離とがほぼ等距離になるように、B相信号(cos)に所定値を加減する。具体的には、b1+b2の値が所定範囲内にあるか否かを判断し、所定範囲内にない場合には、b1+b2の値が所定範囲内に収まるようにB相信号に所定値を加減する。
図4(a)に示す例では、a1+a2の値が所定の範囲の下限値以下であるため、リサージュ波形がy軸の正方向に移動するように、A相信号に所定値を加算し、b1+b2の値が所定の範囲の上限値以上であるため、リサージュ波形がx軸の負方向に移動するように、B相信号から所定値を減算する。こうして、
図4(b)の破線で示すように、特定した4点a1,a2,b1,b2が原点Dからそれぞれほぼ等距離になり、そのときのそれぞれの所定値からオフセット電圧を算出する。
【0051】
なお、A相信号およびB相信号のそれぞれに加減される所定値を微小値(例えば1未満の小数値)として、4点a1,a2,b1,b2と原点Dとの距離が徐々に等距離になるように、リサージュ波形の算出、4点の特定、および所定値の加減という一連のステップを繰り返し行うようになっていてもよい。これにより、オフセット電圧の算出精度を向上させることができる。また、明らかなように、A相信号およびB相信号の一方のみに所定値を加減してリサージュ波形の補正を行うようになっていてもよい。さらに、演算処理の負荷を軽減するために、A相信号についてはsinθ1=θ1の近似式を利用し、B相信号についてはcosθ2=cos(θ1+π/2)=−sinθ2=−θ2の近似式を利用することもできる。
【0052】
以上のように、第2の算出方法によれば、得られるリサージュ波形の歪みが比較的大きい場合でも、オフセット電圧の算出精度を向上させることができる。したがって、第2の算出方法は、第1の磁気センサ部40と比べて得られるリサージュ波形の歪みが大きい第3の磁気センサ部60において好適に用いられる。