特許第6940959号(P6940959)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6940959コージェライト質焼結体、その製法及び複合基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6940959
(24)【登録日】2021年9月7日
(45)【発行日】2021年9月29日
(54)【発明の名称】コージェライト質焼結体、その製法及び複合基板
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/195 20060101AFI20210916BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20210916BHJP
   H03H 9/25 20060101ALI20210916BHJP
【FI】
   C04B35/195
   H01L21/68 N
   H03H9/25 C
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-33437(P2017-33437)
(22)【出願日】2017年2月24日
(65)【公開番号】特開2017-178773(P2017-178773A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年10月23日
(31)【優先権主張番号】特願2016-58969(P2016-58969)
(32)【優先日】2016年3月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯田 佳範
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 能大
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】勝田 祐司
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−314215(JP,A)
【文献】 特開2003−197725(JP,A)
【文献】 特開平11−079830(JP,A)
【文献】 特開平11−219876(JP,A)
【文献】 特開平11−130520(JP,A)
【文献】 特開2004−269272(JP,A)
【文献】 特開2001−233673(JP,A)
【文献】 特開2005−210077(JP,A)
【文献】 特表昭60−502053(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/186571(WO,A1)
【文献】 米国特許第04587067(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
H01L 21/683
H03H 9/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コージェライトを主成分とし、窒化珪素を含むコージェライト質焼結体であって、
40〜400℃の熱膨張係数が2.4ppm/℃未満であり、
開気孔率が0.5%以下であり、
平均結晶粒径が1μm以下であり、
研磨面に対し、SEMにて反射電子像観察及び組成分析を実施し、像のコントラストの比からコージェライト相と窒化珪素相との面積比率を求め、それを焼結体の体積比率とした場合、コージェライト相が60〜90体積%、窒化珪素相が10〜40体積%である、
ージェライト質焼結体。
【請求項2】
コージェライトを主成分とし、炭化珪素を含むコージェライト質焼結体であって、
40〜400℃の熱膨張係数が2.4ppm/℃未満であり、
開気孔率が0.5%以下であり、
平均結晶粒径が1μm以下であり、
研磨面に対し、SEMにて反射電子像観察及び組成分析を実施し、像のコントラストの比からコージェライト相と炭化珪素相との面積比率を求め、それを焼結体の体積比率とした場合、コージェライト相が70〜90体積%、炭化珪素相が10〜30体積%である、
ージェライト質焼結体。
【請求項3】
研磨面100μm×100μmの面積当りに存在する最大長さ1μm以上の気孔の数が10個以下である、
請求項1又は2に記載のコージェライト質焼結体。
【請求項4】
ヤング率が160GPa以上である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のコージェライト質焼結体。
【請求項5】
4点曲げ強度が220MPa以上である、
請求項1〜のいずれか1項に記載のコージェライト質焼結体。
【請求項6】
研磨面の中心平均粗さRaが1.5nm以下である、
請求項1〜のいずれか1項に記載のコージェライト質焼結体。
【請求項7】
(a)平均粒径0.1〜1μmのコージェライト粉末60〜90体積%と平均粒径0.1〜1μmの窒化珪素粉末10〜40体積%とを合計100体積%となるように混合して混合原料粉末を得るか、又は、平均粒径0.1〜1μmのコージェライト粉末70〜90体積%と平均粒径0.1〜1μmの炭化珪素粉末10〜30体積%とを合計100体積%となるように混合して混合原料粉末を得る工程と、
(b)前記混合原料粉末を所定形状の成形体に成形し、前記成形体をプレス圧20〜300kgf/cm2、焼成温度1350〜1450℃でホットプレス焼成を行うことにより、コージェライト質焼結体を得る工程と、
を含むコージェライト質焼結体の製法。
【請求項8】
機能性基板と支持基板とが接合された複合基板であって、
前記支持基板は、請求項1〜のいずれか1項に記載のコージェライト質焼結体である、
複合基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コージェライト質焼結体、その製法及び複合基板に関する。
【背景技術】
【0002】
コージェライトは、耐熱性が高く、熱膨張係数が小さい材料であることから、熱衝撃性の高い材料として知られている。コージェライトの機械的特性を向上させるために、コージェライトにヤング率や強度の高い窒化珪素や炭化珪素などを複合化することも知られている(特許文献1,2)。特許文献1では、平均粒径1.2μmのコージェライトに、希土類酸化物と窒化珪素又は炭化珪素とを添加して大気中で焼成することにより、相対密度97〜98%のコージェライト質焼結体が得られている。特許文献2では、平均粒径3μmのコージェライトに、平均粒径が1μmの窒化珪素又は炭化珪素を添加し窒素雰囲気で常圧焼成することにより、ヤング率の高いコージェライト質焼結体が得られている。
【0003】
一方、特許文献3には、タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウム等からなる機能性基板とコージェライト焼結体製の支持基板とが直接接合により接合された複合基板を、弾性表面波素子などの弾性波デバイスに利用した例が記載されている。こうした弾性波デバイスでは、支持基板であるコージェライト焼結体の熱膨張係数が1.1ppm/℃(40−400℃)程度と非常に小さいため、周波数温度依存性が大きく改善される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3574560号公報
【特許文献2】特許第4416191号公報
【特許文献3】国際公開第2015/186571号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3のように機能性基板と支持基板とを接合する場合、両基板の表面において高い平坦性が求められる。しかしながら、特許文献1のコージェライト質焼結体では、相対密度が97〜98%と低く、数パーセントの気孔が存在するため、この焼結体の表面を研磨仕上げしても高い平坦性が得られない。また、特許文献2のコージェライト質焼結体では、コージェライト原料粒子が3μmと大きく、更に焼結助剤を添加しているため、焼結粒径はコージェライト原料粒子以上の大きさになる。そのため、研磨仕上げしても高い平坦性が得られない。また、こうしたコージェライト質焼結体を弾性波デバイスに適用すると、電極同士の間隔よりも焼結粒径が大きくなることがあり、その場合、複合基板の音速バラツキが生じて素子特性にバラツキが生じる可能性がある。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、コージェライト質焼結体において、コージェライトの低い熱膨張係数を維持したまま剛性を高くすると共に研磨面の平坦性を高くすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のコージェライト質焼結体は、コージェライトを主成分とし、窒化珪素又は炭化珪素を含むコージェライト質焼結体であって、40〜400℃の熱膨張係数が2.4ppm/℃未満であり、開気孔率が0.5%以下であり、平均結晶粒径(焼結粒子の平均粒径)が1μm以下のものである。このコージェライト質焼結体によれば、コージェライトの低い熱膨張係数を維持したまま剛性を高くすると共に研磨面の平坦性を高くすることができる。
【0008】
本発明のコージェライト質焼結体の製法は、(a)平均粒径0.1〜1μmのコージェライト粉末60〜90体積%と平均粒径0.1〜1μmの窒化珪素粉末10〜40体積%とを合計100体積%となるように混合して混合原料粉末を得るか、又は、平均粒径0.1〜1μmのコージェライト粉末70〜90体積%と平均粒径0.1〜1μmの炭化珪素粉末10〜30体積%とを合計100体積%となるように混合して混合原料粉末を得る工程と、(b)前記混合原料粉末を所定形状の成形体に成形し、前記成形体をプレス圧20〜300kgf/cm2、焼成温度(最高温度)1350〜1450℃でホットプレス焼成を行うことにより、コージェライト質焼結体を得る工程と、を含むものである。この製法は、上述した本発明のコージェライト質焼結体を製造するのに適している。なお、粉末の平均粒径は、レーザー回折法によって測定された値である(以下同じ)。
【0009】
本発明の複合基板は、機能性基板と支持基板とが接合された複合基板であって、前記支持基板は、上述したコージェライト質焼結体である。この複合基板は、支持基板であるコージェライト質焼結体の研磨面の平坦性が高いため、機能性基板と良好に接合される。また、この複合基板を弾性表面波デバイスに利用した場合、周波数温度依存性が大きく改善される。また、光導波路デバイス、LEDデバイス、スイッチデバイスにおいても支持基板の熱膨張係数が小さいことで性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】コージェライト質焼結体の製造工程図。
図2】複合基板10の斜視図。
図3】複合基板10を用いて作製した電子デバイス30の斜視図。
図4】実験例3のコージェライト質焼結体の研磨面のSEM画像であり、(a)は生データ、(b)は二値化処理後のデータである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0012】
本実施形態のコージェライト質焼結体は、コージェライトを主成分とし、窒化珪素又は炭化珪素を含むものである。なお、主成分とは、焼結体中に最も体積が多く含まれる成分のことをいう。このコージェライト質焼結体は、40〜400℃の熱膨張係数が2.4ppm/℃未満であり、開気孔率が0.5%以下であり、平均結晶粒径が1μm以下であることが好ましい。このコージェライト質焼結体は、コージェライトよりも熱膨張係数の高い窒化珪素又は炭化珪素を含んでいるが、低い熱膨張係数を維持している。また、このコージェライト質焼結体は、コージェライトよりもヤング率の高い窒化珪素又は炭化珪素を含んでいるため、コージェライト単独に比べて剛性が高くなる。更に、このコージェライト質焼結体は、開気孔率が0.5%以下であり気孔をほとんど有さず、平均結晶粒径が1μm以下と小さいため、研磨仕上げした面(研磨面)の平坦性が高くなる。
【0013】
本実施形態のコージェライト質焼結体は、研磨面100μm×100μmの面積当りに存在する最大長さ1μm以上の気孔の数が10個以下であることが好ましい。気孔の数が10個以下であれば、研磨仕上げした面の平坦性がより高くなる。こうした気孔の数は、3個以下であることがより好ましく、ゼロであることが更に好ましい。
【0014】
本実施形態のコージェライト質焼結体は、ヤング率が160GPa以上であることが好ましく、4点曲げ強度が220MPa以上であることが好ましい。窒化珪素や炭化珪素はコージェライトよりもヤング率や強度が高いため、コージェライトに対する添加割合を調節することによりコージェライト質焼結体のヤング率を160GPa以上にしたり4点曲げ強度を220MPa以上にしたりすることができる。
【0015】
本実施形態のコージェライト質焼結体は、研磨面の中心平均粗さRaが1.5nm以下であることが好ましい。弾性波デバイスなどに利用される複合基板として、機能性基板と支持基板とを接合したものが知られているが、このように研磨面のRaが1.5nm以下のコージェライト質焼結体を支持基板として用いることで、支持基板と機能性基板との接合性が良好になる。例えば、接合界面のうち実際に接合している面積の割合(接合面積割合)が80%以上(好ましくは90%以上)になる。研磨面の中心平均粗さRaは1.1nm以下であることがより好ましく、1.0nm以下であることが更に好ましく、0.8nm以下であることが特に好ましい。
【0016】
本実施形態のコージェライト質焼結体は、40〜400℃の熱膨張係数が2.0ppm/℃以下であることがより好ましい。こうしたコージェライト質焼結体を支持基板とする複合基板を弾性波デバイスに利用することで、弾性波デバイスの温度が上昇した場合に機能性基板は本来の熱膨張よりも小さな熱膨張になるため、弾性波デバイスの周波数温度依存性が改善される。40〜400℃の熱膨張係数は1.8ppm/℃以下であることがより好ましい。
【0017】
本実施形態のコージェライト質焼結体は、窒化珪素を含む場合には、コージェライト相が60〜90体積%、窒化珪素相が10〜40体積%であることが好ましく、炭化珪素を含む場合には、コージェライト相が70〜90体積%、炭化珪素相が10〜30体積%であることが好ましい。このような組成割合であれば、気孔の数やヤング率、研磨面の中心平均粗さRa、40〜400℃の熱膨張係数などの特性が良好な値になるため好ましい。各相の体積%は、以下のようにして求めた。すなわち、本実施形態のコージェライト質焼結体の研磨面に対し、SEMにて反射電子像観察及び組成分析を実施し、像のコントラストの比から求めた各相の面積比率を、便宜上、焼結体の各相の体積比率(体積%)とした。
【0018】
次に、本発明のコージェライト質焼結体の製造方法の一実施形態について説明する。コージェライト質焼結体の製造フローは、図1に示すように、(a)混合原料粉末を調製する工程と、(b)コージェライト質焼結体を作製する工程とを含む。
【0019】
・工程(a):混合原料粉末の調製
コージェライト原料としては、純度が高く、平均粒径が小さい粉末を使用するのが好ましい。純度は99.0%以上が好ましく、99.5%以上がより好ましく、99.8%以上が更に好ましい。純度の単位は質量%である。また、平均粒径(D50)は1μm以下が好ましく、0.1〜1μmがより好ましい。コージェライト原料は、市販品を用いてもよいし、高純度なマグネシア、アルミナ、シリカ粉末を用いて作製したものを用いてもよい。コージェライト原料を作製する方法としては、例えば特許文献3に記載された方法が挙げられる。窒化珪素原料や炭化珪素原料としては、平均粒径が小さい粉末を使用するのが好ましい。平均粒径は1μm以下が好ましく、0.1〜1μmがより好ましい。コージェライト原料と窒化珪素原料との混合原料粉末を調製する場合、例えば、コージェライト原料60〜90体積%と窒化珪素原料10〜40体積%とを合計100体積%となるように秤量し、ポットミル等の混合機で混合し、必要に応じてスプレードライヤーで乾燥して混合原料粉末を得るようにしてもよい。一方、コージェライト原料と炭化珪素原料との混合原料粉末を調製する場合、例えば、コージェライト原料70〜90体積%と炭化珪素原料10〜30体積%とを合計100体積%となるように秤量し、ポットミル等の混合機で混合し、必要に応じてスプレードライヤーで乾燥して混合原料粉末を得るようにしてもよい。
【0020】
・工程(b):コージェライト質焼結体の作製
工程(a)で得られた混合原料粉末を所定形状の成形体に成形する。成形の方法に特に制限はなく、一般的な成形法を用いることができる。例えば、混合原料粉末をそのまま金型によってプレス成形してもよい。プレス成形の場合は、混合原料粉末をスプレードライによって顆粒状にしておくと、成形性が良好になる。他に、有機バインダーを加えて坏土を作製し押出し成形したり、スラリーを作製しシート成形することができる。これらのプロセスでは焼成工程前あるいは焼成工程中に有機バインダー成分を除去することが必要になる。また、CIP(冷間静水圧プレス)にて高圧成形してもよい。
【0021】
次に、得られた成形体を焼成してコージェライト質焼結体を作製する。この際、焼結粒子を微細に維持し、焼結中に気孔を排出することがコージェライト質焼結体の表面平坦性を高めるうえで好ましい。その手法として、ホットプレス法が非常に有効である。このホットプレス法を用いることで常圧焼結に比べて低温で微細粒の状態で緻密化が進み、常圧焼結でよく見られる粗大な気孔の残留を抑制することができる。このホットプレス時の焼成温度は1350〜1450℃が好ましく、1375〜1425℃がより好ましい。また、ホットプレス時のプレス圧力は20〜300kgf/cm2とすることが好ましい。特に低いプレス圧力では、ホットプレス治具の小型化や長寿命化が可能であるため好ましい。焼成温度(最高温度)での保持時間は、成形体の形状や大きさ、加熱炉の特性などを考慮し、適宜、適当な時間を選択することができる。具体的な好ましい保持時間は、例えば1〜12時間、更に好ましくは2〜8時間である。焼成雰囲気にも特に制限はなく、ホットプレス時の雰囲気は窒素、アルゴン等の不活性雰囲気が一般的である。昇温速度や降温速度は、成形体の形状や大きさ、加熱炉の特性などを考慮し、適宜、設定すればよく、例えば50〜300℃/hrの範囲に設定すればよい。
【0022】
次に、本発明の複合基板の一実施形態について説明する。本実施形態の複合基板は、機能性基板と、上述したコージェライト質焼結体製の支持基板とが接合されたものである。この複合基板は、両基板の接合面積割合が大きくなり、良好な接合性を示す。機能性基板としては、特に限定されないが、例えばタンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、窒化ガリウム、シリコンなどが挙げられる。接合方法は、直接接合が好ましい。直接接合の場合には、機能性基板と支持基板とのそれぞれの接合面を研磨したあと活性化し、両接合面を向かい合わせにした状態で両基板を押圧する。接合面の活性化は、例えば、接合面への不活性ガス(アルゴンなど)のイオンビームの照射のほか、プラズマや中性原子ビームの照射などで行う。機能性基板と支持基板の厚みの比(機能性基板の厚み/支持基板の厚み)は0.1以下であることが好ましい。図2に複合基板の一例を示す。複合基板10は、機能性基板である圧電基板12と支持基板14とが直接接合により接合されたものである。
【0023】
本実施形態の複合基板は、電子デバイス等に利用可能である。こうした電子デバイスとしては、弾性波デバイス(弾性表面波デバイスやラム波素子、薄膜共振子(FBAR)など)のほか、LEDデバイス、光導波路デバイス、スイッチデバイスなどが挙げられる。弾性波デバイスに上述した複合基板を利用する場合には、支持基板であるコージェライト質焼結体の熱膨張係数が2.4ppm/℃(40〜400℃)未満と非常に小さいため、周波数温度依存性が大きく改善される。図3に複合基板10を用いて作製した電子デバイス30の一例を示す。電子デバイス30は、1ポートSAW共振子つまり弾性表面波デバイスである。まず、複合基板10の圧電基板12に一般的なフォトリソグラフィ技術を用いて多数の電子デバイス30のパターンを形成し、その後、ダイシングにより1つ1つの電子デバイス30に切り出す。電子デバイス30は、フォトリソグラフィ技術により、圧電基板12の表面にIDT(Interdigital Transducer)電極32,34と反射電極36とが形成されたものである。
【0024】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0025】
1.混合原料粉末の作製
コージェライト原料は、市販の平均粒径1μm以下、純度99.9%以上の高純度なマグネシア、アルミナ、シリカ粉末を用いて作製した。すなわち、各粉末を、コージェライト組成になるように秤量、混合し、1400℃で5時間大気雰囲気下で加熱し、コージェライト粗粒物を得た。得られたコージェライト粗粒物に対し、アルミナを玉石(φ3mm)とし、溶媒にイオン交換水を用いたポットミルにて70時間粉砕し、平均粒径0.5〜0.6μm程度のコージェライト粉砕物を作製した。得られたスラリーを大気下、110℃で乾燥し、乾燥物を篩に通してコージェライト粉末を得た。このコージェライト原料と窒化珪素原料または炭化珪素原料を、表1の実験例1〜9の原料粉末組成の割合で秤量し、φ5mmのアルミナ玉石を用いてポットミル混合し、スプレードライにより混合原料粉末を作製した。なお、窒化珪素原料は市販の平均粒径0.8μm、純度97%以上、炭化珪素原料は市販の平均粒径0.5μm、純度97%以上の各粉末を用いた。
【0026】
【表1】
【0027】
2.コージェライト質焼結体の作製
実験例1〜9の混合原料粉末を、50kgf/cm2にて一軸金型プレス成形し、φ100mmで厚さ25mm程度の成形体を得た。各成形体を、黒鉛製のモールドに収容し、ホットプレス炉を用いて、プレス圧力200kgf/cm2下で焼成温度(最高温度)1375〜1425℃で5時間焼成し、コージェライト質焼結体を作製した。各実験例の焼成温度は表1の通りである。焼成雰囲気はアルゴン雰囲気とし、昇温速度は100℃/hr、降温速度は200℃/hrとし、降温時は1200℃以下から炉冷とした。また、実験例10では、コージェライト粉末のみで同様にして成形体を作製し、ホットプレス炉を用いて、プレス圧力200kgf/cm2下で焼成温度(最高温度)1425℃で5時間焼成し、コージェライト単独の焼結体を作製した。
【0028】
3.特性評価
実験例1〜10のコージェライト質焼結体から、試験片(4×3×40mmサイズの抗折棒等)を切り出し、評価試験に供した。また、焼結体の研磨面は、4×3×10mm程度の試験片の一面を研磨によって鏡面状に仕上げたものとした。研磨は3μmのダイヤモンド砥粒、0.5μmのダイヤモンド砥粒の順に進め、最終仕上げには0.1μm以下のダイヤモンド砥粒を用いたラップ研磨を行った。評価した特性は以下のとおり。
【0029】
(1)結晶相
焼結体を粉砕し、X線回折装置により、結晶相の同定を行った。測定条件はCuKα、50kV、300mA、2θ=5−70°とし、回転対陰極型X線回折装置(理学電機製RINT)を用いた。
【0030】
(2)焼結体の組成
上記のように仕上げた焼結体の研磨面に対し、SEMにて反射電子像観察及び組成分析を実施し、像のコントラストの比からコージェライト相とその他の結晶相の面積比率を求め、それを焼結体の体積比率とした。研磨面のSEM画像の一例を図4に示す。図4は実験例3のコージェライト質焼結体の研磨面のSEM画像であり、(a)は生データ、(b)は二値化処理後のデータである。図4(a)で黒っぽい部分がコージェライト相であり、白っぽい部分が窒化珪素相である。
【0031】
(3)嵩密度、開気孔率
抗折棒を用い、純水を用いたアルキメデス法により、嵩密度、開気孔率を測定した。
【0032】
(4)相対密度
焼結体の組成と各成分の密度から焼結体の計算密度を算出し、上記で測定した嵩密度と計算密度の比を相対密度とした。ここでは、コージェライトの密度を2.505g/cm3、窒化珪素の密度を3.20g/cm3、炭化珪素の密度を3.21g/cm3とした。ここで用いた窒化珪素、炭化珪素の密度は原料中の不純物酸素等による影響を無視した値である。
【0033】
(5)曲げ強度
JIS R1601に準じて、4点曲げ強度を測定した。試験片形状は3mm×4mm×40mm抗折棒もしくは、そのハーフサイズとした。
【0034】
(6)ヤング率
JIS R1602に準じた、静的撓み法で測定した。試験片形状は3mm×4mm×40mm抗折棒とした。
【0035】
(7)熱膨張係数(40〜400℃)
JIS R1618に準じて、押し棒示差式で測定した。試験片形状は3mm×4mm×20mmとした。
【0036】
(8)気孔の数
上記のように仕上げた焼結体の研磨面をSEM観察し、100μm×100μm当りに存在する、最大長さが1μm以上の気孔の数を計測した。
【0037】
(9)表面平坦性(Ra)
上記のように仕上げた焼結体の研磨面に対し、AFMを用いて中心性平均粗さRaを測定した。測定範囲は、10μm×10μmとした。
【0038】
(10)焼結粒子の平均粒径
上記のように仕上げた焼結体の研磨面を、1200〜1400℃で2hrサーマルエッチングし、SEMにて焼結粒子の大きさを200個以上測定し、線分法を用いて平均粒径を算出した。線分法の係数は1.5とし、SEMにて実測された長さに1.5を乗じた値を平均粒径とした。
【0039】
(11)接合性
実験例1〜10の焼結体から直径100mm、厚さ600μm程度の円板を切り出した。この円板を上記の通りに研磨仕上げした後に、洗浄して表面のパーティクルや汚染物質等を取り除いた。次に、この円板を支持基板とし、支持基板と機能性基板との直接接合を実施して複合基板を得た。すなわち、まず支持基板と機能性基板のそれぞれの接合面をアルゴンのイオンビームによって活性化し、その後に両接合面を向かい合わせて10tonfで押圧し、接合して複合基板を得た。機能性基板としては、タンタル酸リチウム(LT)基板とニオブ酸リチウム(LN)基板を用いた。接合性の評価は、IR透過像から接合面積が90%以上のものを「最良」、80%以上90%未満のものを「良」、80%未満のものを「不良」とした。
【0040】
4.評価結果
実験例1〜9のコージェライト質焼結体は、窒化珪素又は炭化珪素を含んでいるため、実験例10のコージェライト単独の焼結体に比べて曲げ強度及びヤング率が向上した。すなわちヤング率は160GPa以上、4点曲げ強度が220MPa以上に向上した。また、実験例1〜4,6〜8のコージェライト質焼結体は、40〜400℃の熱膨張係数が2.4ppm/℃未満(窒化珪素を添加した実験例1〜4は1.4〜1.8ppm/℃、炭化珪素を添加した実験例6〜8は1.8〜2.3ppm/℃)であり、実験例10のコージェライト単独の焼結体に比べると若干高い値になったものの、低い熱膨張係数を維持していた。更に、実験例1〜4,6〜8のコージェライト質焼結体は、開気孔率が0.1%未満、平均結晶粒径が1μm以下であったため、研磨面の中心平均粗さRaは1.1nm以下と小さくなった。そのため、実験例1〜3,6,7のコージェライト質焼結体から切り出した円板を機能性基板と直接接合したときの接合性は、いずれも接合面積が90%以上の「最良」であり、実験例4,8のコージェライト質焼結体から切り出した円板を機能性基板と直接接合したときの接合性は、接合面積が80%以上90%未満の「良」であった。なお、研磨面の中心平均粗さRaがこのように小さな値になったのは、気孔の数が3個以下と少なかったことも寄与している。また、実験例1〜9で平均結晶粒径が1μm以下になったのは、希土類酸化物のような焼結助剤を用いずに焼結したことも一因だと思われる。
【0041】
なお、実験例1〜4,6〜8が本発明の実施例に相当し、実験例5,9,10が比較例に相当する。これらの実験例は本発明を何ら限定するものではない。
【符号の説明】
【0042】
10 複合基板、12 圧電基板、14 支持基板、30 電子デバイス、32,34 IDT電極、36 反射電極。
図1
図2
図3
図4