【文献】
重川秀実、吉田昭二、武内修、大井川治宏,“光ポンププローブSTM”,顕微鏡,日本顕微鏡学会,2017年04月30日,Vol.52,No.1,pp.46-50,https://www.jstage.jst.go.jp/article/kenbikyo/52/1/52_46/_pdf/-char/ja
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1導電性物体と前記第2導電性物体との間の間隙へのテラヘルツ波パルスの1パルス照射期間に流れるトンネル電流を電流測定部により測定する電流測定ステップと、
前記電流測定部により測定されたトンネル電流と前記CEP調整部におけるCEP調整量との間の関係を求める処理ステップと、
を更に含み、
前記CEP調整ステップにおいて、前記処理ステップにおいて求められた関係に基づいてCEP調整部におけるCEP調整量を設定する、
請求項5または6に記載のトンネル電流制御方法。
光源から出力された光パルスを分岐部により2分岐して、その2分岐した光パルスのうちの一方を前記テラヘルツ波発生素子におけるテラヘルツ波パルスの発生のためのポンプ光パルスとして出力し、他方をプローブ光パルスとして出力する分岐ステップと、
前記CEP調整部から出力されたテラヘルツ波パルスと、前記分岐部から出力されたプローブ光パルスとを入力するテラヘルツ波検出素子を含む遠方場電場波形検出部により、前記テラヘルツ波検出素子に入力されるテラヘルツ波パルスおよびプローブ光パルスそれぞれのタイミングの差を掃引することにより、テラヘルツ波パルスの遠方場の電場波形を検出する遠方場電場波形検出ステップと、
を更に含む、
請求項5〜7の何れか1項に記載のトンネル電流制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0021】
図1は、トンネル電流制御装置を含むテラヘルツ波システム1の構成を示す図である。本実施形態のトンネル電流制御装置は、テラヘルツ波パルスを発生し出力するテラヘルツ波発生素子20、テラヘルツ波パルスのCEPを調整するCEP調整部30、および、テラヘルツ波パルスを第1導電性物体Aと第2導電性物体Bとの間の間隙に集光する集光素子としての軸外し放物面鏡M7を、少なくとも備える。この図に示されるテラヘルツ波システム1は、トンネル電流制御装置の構成に加えて他の構成をも備える。
【0022】
テラヘルツ波システム1は、光源11、分岐部12、チョッパ13、光路長差調整部14、偏光子15、テラヘルツ波発生素子20、CEP調整部30、テラヘルツ波検出素子40、1/4波長板51、偏光分離素子52、光検出器53a,53b、差動増幅器54、ロックイン増幅器55、電流測定部60、処理部70、ミラーM1〜M6、軸外し放物面鏡M7,M8を備える。
【0023】
光源11は、一定の繰返し周期でパルス光を出力するものであり、好適にはパルス幅がフェムト秒程度である光パルスを出力するフェムト秒パルスレーザ光源である。分岐部12は、例えばビームスプリッタであり、光源11から出力された光パルスを2分岐して、その2分岐した光パルスのうち一方をポンプ光パルスとしてミラーM1へ出力し、他方をプローブ光パルスとしてミラーM3へ出力する。
【0024】
チョッパ13は、分岐部12とミラーM1との間のポンプ光パルスの光路上に設けられ、一定の周期でポンプ光パルスの通過および遮断を交互に繰り返す。分岐部12から出力されチョッパ13を通過したポンプ光パルスは、ミラーM1により反射されて、テラヘルツ波発生素子20に入力される。なお、分岐部12からテラヘルツ波発生素子20に到るまでのポンプ光パルスの光学系を、以下では「ポンプ光学系」という。
【0025】
テラヘルツ波発生素子20は、ポンプ光パルスを入力することでテラヘルツ波パルスを発生し出力する。テラヘルツ波発生素子20は、例えば、非線形光学結晶(例えばZnTe)、光導電アンテナ素子(例えばGaAsを用いた光スイッチ)、半導体(例えばInAs)および超伝導体の何れかを含んで構成される。テラヘルツ波発生素子20が非線形光学結晶を含む場合、このテラヘルツ波発生素子20は、ポンプ光パルスの入射に伴って発現する非線形光学現象によりテラヘルツ波パルスを発生することができる。
【0026】
テラヘルツ波パルスは、光波と電波との中間領域に相当する0.01THz〜100THz程度の周波数を有する電磁波であり、光波と電波との間の中間的な性質を有している。また、テラヘルツ波パルスは、一定の繰返し周期で発生し、パルス幅が数ピコ秒程度である。
【0027】
CEP調整部30は、テラヘルツ波発生素子20から出力されたテラヘルツ波パルスを入力し、その入力したテラヘルツ波パルスのCEPを調整して、そのCEP調整後のテラヘルツ波パルスを出力する。CEP調整部30の詳細については後述する。
【0028】
ミラーM2は、CEP調整部30から出力されるテラヘルツ波パルスの光路上に挿入され、また、その光路から待避可能に設けられる。光路からミラーM2が待避しているとき、集光素子としての軸外し放物面鏡M7は、CEP調整部30から出力されたテラヘルツ波パルスを入力し、その入力したテラヘルツ波パルスを第1導電性物体Aと第2導電性物体Bとの間の間隙に集光する。なお、この図では、第1導電性物体Aは、第2導電性物体Bに対向する先端が鋭く尖っている形状を有する探針として示されている。
【0029】
ミラーM2が光路上に挿入されているとき、CEP調整部30から出力されたテラヘルツ波パルスは、そのミラーM2により反射された後、軸外し放物面鏡M8により更に反射される。なお、このときのテラヘルツ波発生素子20からミラーM2を経て軸外し放物面鏡M8の反射面に到るまでのテラヘルツ波パルスの光学系を、以下では「テラヘルツ波光学系」という。
【0030】
一方、分岐部12から出力されたプローブ光パルスは、ミラーM3〜M6により順次に反射され、偏光子15を通過して、軸外し放物面鏡M8に入力される。プローブ光パルスが通過する貫通孔が軸外し放物面鏡M8に設けられており、その貫通孔を通過したプローブ光パルスは、軸外し放物面鏡M8の反射面においてテラヘルツ波パルスと合波される。すなわち、軸外し放物面鏡M8は、プローブ光パルスとテラヘルツ波パルスとを合波する合波部として作用する。なお、分岐部12から軸外し放物面鏡M8の反射面に到るまでのプローブ光パルスの光学系を、以下では「プローブ光学系」という。
【0031】
4個のミラーM3〜M6は光路長差調整部14を構成している。すなわち、ミラーM4およびM5が移動することで、ミラーM3とミラーM4との間の光路長が調整されるとともに、ミラーM5とミラーM6との間の光路長が調整され、これによりプローブ光学系の光路長が調整される。すなわち、光路長差調整部14は、分岐部12から軸外し放物面鏡M8の反射面に到るまでのポンプ光学系およびテラヘルツ波光学系の光路長と、分岐部12から軸外し放物面鏡M8の反射面に到るまでのプローブ光学系の光路長との差を、調整することができる。
【0032】
軸外し放物面鏡M8は、テラヘルツ波発生素子20から出力されCEP調整部30およびミラーM2を経て到達したテラヘルツ波パルスと、分岐部12から出力されて到達したプローブ光パルスとを入力する。そして、軸外し放物面鏡M8は、これら入力したテラヘルツ波パルスおよびプローブ光パルスを互いに同軸となるように合波して、テラヘルツ波検出素子40へ出力する。
【0033】
テラヘルツ波検出素子40は、テラヘルツ波パルスとプローブ光パルスとの間の相関
(テラヘルツ波検出素子40へのプローブ光パルスの入力タイミングにおけるテラヘルツ波パルスの電場の振幅)を検出するものである。テラヘルツ波検出素子40は、例えば電気光学結晶および光導電アンテナ素子の何れかを含んで構成される。テラヘルツ波検出素子40が電気光学結晶を含む場合、このテラヘルツ波検出素子40は、軸外し放物面鏡M8から到達したテラヘルツ波パルスおよびプローブ光パルスを入力し、テラヘルツ波パルスの伝搬に伴いポッケルス効果により複屈折が誘起され、その複屈折によりプローブ光パルスの偏光状態を変化させて、そのプローブ光パルスを出力する。このときの複屈折量はテラヘルツ波パルスの電場強度に依存するので、テラヘルツ波検出素子40におけるプローブ光パルスの偏光状態の変化量はテラヘルツ波パルスの電場強度に依存する。
【0034】
偏光分離素子52は、例えばウォラストンプリズムである。偏光分離素子52は、テラヘルツ波検出素子40から出力され1/4波長板51を経たプローブ光パルスを入力し、この入力したプローブ光パルスを互いに直交する2つの偏光成分に分離して出力する。光検出器53a,53bは、例えばフォトダイオードを含み、偏光分離素子52により偏光分離されたプローブ光パルスの2つの偏光成分のパワーを検出して、その検出したパワーに応じた値の電気信号を差動増幅器54へ出力する。
【0035】
差動増幅器54は、光検出器53a,53bそれぞれから出力された電気信号を入力し、両電気信号の値の差に応じた値を有する電気信号をロックイン増幅器55へ出力する。ロックイン増幅器55は、チョッパ13におけるポンプ光パルスの通過および遮断の繰返し周波数で、差動増幅器54から出力される電気信号を同期検出する。このロックイン増幅器55から出力される信号は、テラヘルツ波パルスの電場強度に依存する値を有する。このようにして、テラヘルツ波パルスとプローブ光パルスとの間の相関を検出し、集光前に自由空間を伝搬する遠方場のテラヘルツ波パルスの電場波形を検出することができる。したがって、遠方場のテラヘルツ波パルスの実際のCEPを検出することができる。
【0036】
遠方場のテラヘルツ波パルスの電場波形は具体的には次のようにして検出される。光源11から出力された光パルスは、分岐部12により2分岐されてポンプ光パルスおよびプローブ光パルスとされる。分岐部12から出力されたポンプ光パルスは、ミラーM1により反射されてテラヘルツ波発生素子20に入力される。テラヘルツ波発生素子20では、ポンプ光パルスの入力に応じてテラヘルツ波パルスが発生し出力される。テラヘルツ波発生素子20から出力されたテラヘルツ波パルスは、CEP調整部30によりCEPが調整され、ミラーM2を経て軸外し放物面鏡M8に入力される。一方、分岐部12から出力されたプローブ光パルスは、ミラーM3〜M6により順次に反射され、偏光子15により直線偏光とされ、軸外し放物面鏡M8に入力される。
【0037】
軸外し放物面鏡M8に入力されたテラヘルツ波パルスおよびプローブ光パルスは、軸外し放物面鏡M8により互いに同軸となるように合波されて、略同一タイミングでテラヘルツ波検出素子40に入力される。テラヘルツ波パルスおよびプローブ光パルスが入力されたテラヘルツ波検出素子40では、テラヘルツ波パルスの伝搬に伴い複屈折が誘起され、その複屈折によりプローブ光パルスの偏光状態が変化する。そして、このテラヘルツ波検出素子40におけるプローブ光パルスの偏光状態は、1/4波長板51、偏光分離素子52、光検出器53a、光検出器53b、差動増幅器54およびロックイン増幅器55により検出される。このようにして、テラヘルツ波検出素子40におけるプローブ光パルスの偏光状態の変化が検出され、ひいては、テラヘルツ波パルスの電場振幅が検出される。
【0038】
また、光路長差調整部14により、テラヘルツ波検出素子40に入力されるテラヘルツ波パルスおよびプローブ光パルスそれぞれのタイミング差が調整される。前述したように、一般に、テラヘルツ波パルスのパルス幅はピコ秒程度であるのに対して、プローブ光パルスのパルス幅はフェムト秒程度であり、テラヘルツ波パルスと比べてプローブ光パルスのパルス幅は数桁狭い。このことから、光路長差調整部14によりテラヘルツ波検出素子40へのプローブ光パルスの入射タイミングが掃引されることで、テラヘルツ波パルスの電場振幅の時間波形が得られる。このようにして、遠方場のテラヘルツ波パルスの電場波形が検出され、更にはテラヘルツ波パルスの実際のCEPが検出される。
【0039】
電流測定部60は、第1導電性物体Aと第2導電性物体Bとの間の間隙へのテラヘルツ波パルスの集光によって第1導電性物体Aと第2導電性物体Bとの間に流れるトンネル電流を測定する。このトンネル電流はパルス毎の時間積分値として得られる。例えば、テラヘルツ波パルスの或る1パルス照射期間に第1導電性物体Aと第2導電性物体Bとの間においてトンネル効果により移動する電子の量が正方向と負方向とで互いに等しければ、その1パルス照射期間に測定されるトンネル電流は値0となる。また、後に登場する移動電子数とは、このトンネル電流値に対応するものである。
【0040】
処理部70は、ロックイン増幅器55からの出力信号に基づき検出された遠方場のテラヘルツ波パルスの電場波形およびCEPを入力する。また、処理部は、電流測定部60により測定されたトンネル電流値を入力する。処理部70は、CEP調整部30によるCEP調整の各値について得られた遠方場のテラヘルツ波パルスの電場波形およびCEPならびにトンネル電流値を入力し、これらの入力データを処理する。処理例については後述する。
【0041】
次に、CEP調整部30の第1構成例について説明する。
図2は、第1構成例のCEP調整部30Aの構成を示す図である。第1構成例のCEP調整部30Aは、1/4波長板110、1/2波長板120および1/4波長板130を備える。
【0042】
1/4波長板110は、入力した光パルス(テラヘルツ波パルス)を円偏光にして出力する円偏光パルス生成素子である。1/4波長板110は、光パルスP1の入力方向に平行な軸を中心にして回転自在であるのが好適である。入力する光パルスP1が直線偏光である場合、1/4波長板110の高速軸(fast軸)または低速軸(slow軸)と光パルスP1の直線偏光の方位とがなす角度が45°または−45°となるように1/4波長板110の方位を設定することで、1/4波長板110は円偏光の光パルスP2を出力することができる。
【0043】
入力する光パルスが直線偏光でない場合には、例えば、偏光子および1/4波長板を含む円偏光パルス生成素子の構成とし、先ず偏光子を用いて直線偏光にした後に、その直線偏光の光パルスを1/4波長板に入力させることで、1/4波長板から円偏光の光パルスP2を出力することができる。
【0044】
1/2波長板120は、円偏光パルス生成素子である1/4波長板110から出力された光パルスP2を入力する。1/2波長板120は、光パルスP2の入力方向に平行な軸を中心にして回転自在である。そして、1/2波長板120は、その回転方位に応じたCEPを有する光パルスP3を出力する。
【0045】
1/4波長板130は、1/2波長板120から出力された円偏光の光パルスP3を入力して、直線偏光の光パルスP4を出力する直線偏光パルス生成素子である。1/4波長板130は、光パルスP3の入力方向に平行な軸を中心にして回転自在であるのが好適である。
【0046】
1/4波長板110、1/2波長板120および1/4波長板130それぞれは、波長依存性が小さいものであるのが好ましい。好適には、1/4波長板110、1/2波長板120および1/4波長板130それぞれは、プリズム型波長板、水晶スタック型波長板、金属平板スタック型波長板などである。特に、プリズム型波長板は、材質の屈折率が一定であると見なせる波長範囲においては全ての波長の光に対して設定された位相変化を与えることができる。
【0047】
図3は、1/4波長板110の断面図である。この図に示される1/4波長板110は、プリズム型波長板である。1/4波長板110は、光パルスP1の波長域において透明であって高い屈折率を有する材料からなる。光パルスP1がテラヘルツ波である場合、1/4波長板110は、テラヘルツ波の波長域で屈折率が3.41であるシリコンからなるのが好適である。1/4波長板110は、入射面111、出射面112、全反射面113a〜113dおよび保持面114a〜114fを有する。
【0048】
入射面111と出射面112とは互いに平行である。直線偏光の光パルスP1は入射面111に垂直に入射する。入射面111に入射した光パルスは、4つの全反射面113a〜113dそれぞれにおいて順次に全反射される。そして、出射面112から垂直に円偏光の光パルスP2が出射する。入射面111に入射する光パルスP1と出射面112から出射する光パルスP2とは同軸とすることができる。したがって、その軸を中心にして1/4波長板110を回転させても、出射面112から出射する光パルスP2の位置は変わらない。保持面114a〜114fは、光パルスの入射,全反射および出射の何れにも寄与しない面であり、1/4波長板110の配置や方位設定の為の支持部材が当接される面である。
【0049】
全反射面113a〜113dそれぞれにおける光パルスの全反射の際にp偏光成分とs偏光成分との間に位相差が生じる。その位相差は、全反射面113a〜113dにおける光パルスの入射角θ1〜θ4、およひ、1/4波長板110の材料と周囲の媒質(一般には空気)との屈折率比に依存する。したがって、これらを適切に設定することで、全反射面113a〜113dそれぞれにおける光パルスの全反射の際に生じるp偏光成分とs偏光成分との間の位相差の総和をπ/2とすることができ、これにより1/4波長板を構成することができる。同様にして、1/2波長板および3/4波長板などを構成することもできる。
【0050】
次に、本構成例のCEP調整部30Aの動作について説明するとともに、本構成例のCEP制御方法について説明する。入力する光パルスP1が直線偏光であるとして、その直線偏光の方位に対して、1/4波長板110の高速軸が45°だけ傾いているとし、1/2波長板120の高速軸がα°だけ傾いているとし、1/4波長板130の高速軸がβ°だけ傾いているとし、また、1/4波長板130から出力される光パルスP4の直線偏光の方位がθ°だけ傾いているとする。αおよびβは可変である。
【0051】
光パルスP3の入力方向に平行な軸を中心にして1/4波長板130を回転させて、1/4波長板130の方位角βを変化させると、1/4波長板130から出力される光パルスP4の直線偏光の方位角θを下記(1)式に従って変化させることができる。また、1/2波長板120の方位角αまたは1/4波長板130の方位角βを変化させると、光パルスP4のCEP(φ
CEP)を下記(2)式に従って変化させることができる。φ
CEP0はCEPの初期値である。
【0052】
θ=β−45° …(1)
φ
CEP=2α−β−45°+φ
CEP0 …(2)
【0053】
図4〜
図6は、1/4波長板130の方位角βを各値に設定した場合に1/4波長板130から出力される光パルスP4の光電場の時間的変化を示す図である。
図4はβ=0°の場合を示し、
図5はβ=45°の場合を示し、
図6はβ=90°の場合を示す。ここでは、α=0°に固定した。これらの図は、光パルスの進行方向に直交する2軸をx軸およびy軸とし、時刻tに1/4波長板130から出力される光パルスP4の光電場の振幅および方位を示す。これらの図に示されるように、1/4波長板130の方位角βの変化に従って、1/4波長板130から出力される光パルスP4の直線偏光の方位角θが変化する。
【0054】
図7は、1/2波長板120の方位角αを各値に設定した場合に1/4波長板130から出力される光パルスP4の光電場の時間的変化を示す図である。α=0°、45°、90°の各値とし、β=45°に固定した。破線は光パルスの振幅のエンベロープを示す。この図に示されるように、1/2波長板120の方位角αの変化に従って、1/4波長板130から出力される光パルスP4のCEPが変化する。
【0055】
このように、本構成例では、1/4波長板130の方位角βの調整によって、1/4波長板130から出力される光パルスP4の直線偏光の方位角θを制御することができる。さらに、1/4波長板130の方位角βの調整に加えて1/2波長板120の方位角αの調整によって、光パルスP4のCEP(φ
CEP)を制御することができる。本構成例では、光パルスP4のCEPを制御するために波長板を回転させるだけでよいので、簡易な構成で容易に光パルスのCEPを制御することができる。
【0056】
なお、入力する光パルスP1の直線偏光の方位に対して1/4波長板110の高速軸が−45°だけ傾いていてもよいし、また、1/4波長板110または1/4波長板130に替えて3/4波長板を用いてもよい。これら何れの場合も、上記(1)式,(2)式の中の符号が異なるだけで、実質的には、入力する光パルスP1の直線偏光の方位に対して1/4波長板110の高速軸が45°だけ傾いている上記の場合と等価である。
【0057】
次に、CEP調整部30の第2構成例について説明する。
図8は、第2構成例のCEP調整部30Bの構成を示す図である。この第2構成例のCEP調整部30Bは、1/4波長板110A、1/2波長板120および1/4波長板130を備える。
図2に示された第1構成例のCEP調整部30Aの構成と比較すると、
図8に示される第2構成例のCEP調整部30Bは、1/4波長板110に替えて1/4波長板110Aを円偏光パルス生成素子として備える点で相違する。
【0058】
図9は、1/4波長板110Aの断面図である。この図に示される1/4波長板110Aは、入射面111、出射面112、全反射面113a,113bおよび保持面114a〜114dを有する。入射面111と出射面112とは互いに平行である。直線偏光の光パルスP1は入射面111に垂直に入射する。入射面111に入射した光パルスは、2つの全反射面113a,113bそれぞれにおいて順次に全反射される。そして、出射面112から垂直に円偏光の光パルスP2が出射する。入射面111に入射する光パルスP1と出射面112から出射する光パルスP2とは、互いに平行にすることができるものの、同軸ではない。したがって、その軸を中心にして1/4波長板110Aを回転させると、出射面112から出射する光パルスP2の位置は変化する。保持面114a〜114dは、光パルスの入射,全反射および出射の何れにも寄与しない面であり、1/4波長板110Aの配置や方位設定の為の支持部材が当接される面である。
【0059】
CEP調整部30Bでは、光パルスP1の入力方向に平行な軸を中心として1/4波長板110Aを回転させることができない。しかし、光パルスP1の直線偏光の方位に応じて1/4波長板110Aの高速軸の方位を適切に固定することで、1/4波長板110Aから円偏光の光パルスP2を出力することができる。
【0060】
第1構成例の構成と比較すると、回転できない1/4波長板110Aを用いる第2構成例のCEP調整部30Bは、価格、入手性および操作性の点で好ましい。
【0061】
次に、CEP調整部30の第3構成例について説明する。
図10は、第3構成例のCEP調整部30Cの構成を示す図である。この第3構成例のCEP調整部30Cは、1/4波長板110A、1/2波長板120および1/4波長板130Aを備える。
図8に示された第2構成例のCEP調整部30Bの構成と比較すると、
図10に示される第3構成例のCEP調整部30Cは、1/4波長板130に替えて1/4波長板130Aを備える点で相違する。
【0062】
1/4波長板130Aは、前述の1/4波長板110Aと同様の構成を有する。1/4波長板130Aにおいても、入射面に入射する光パルスP3と出射面から出射する光パルスP4とは、互いに平行にすることができるものの、同軸ではない。したがって、その軸を中心にして1/4波長板130Aを回転させると、出射面から出射する光パルスP4の位置は変化する。
【0063】
CEP調整部30Cでは、光パルスP1の入力方向に平行な軸を中心として1/4波長板110Aを回転させることができないだけでなく、光パルスP3の入力方向に平行な軸を中心として1/4波長板130Aを回転させることができない。すなわち、1/4波長板130Aの方位角βは、一定値とされ、例えば45°に固定される。この場合、1/4波長板130Aから出力される光パルスP4の直線偏光の方位角θは、1/4波長板110Aに入力される光パルスP1の直線偏光の方位角と一致する。
【0064】
第2構成例の構成と比較すると、回転できない1/4波長板130Aを用いる第3構成例のCEP調整部30Cは、価格、入手性および操作性の点で更に好ましい。
【0065】
次に、CEP調整部30の第4構成例について説明する。
図11は、第4構成例のCEP調整部30Dの構成を示す図である。第4構成例のCEP調整部30Dは、1/4波長板110、1/2波長板120および偏光子140を備える。
図2に示された第1構成例のCEP調整部30Aの構成と比較すると、
図11に示される第4構成例のCEP調整部30Dは、1/4波長板130に替えて偏光子140を備える点で相違する。
【0066】
偏光子140は、1/2波長板120から出力された円偏光の光パルスP3を入力し、この光パルスP3の特定方位の直線偏光成分を光パルスP4として出力する直線偏光パルス生成素子である。偏光子140は、光パルスP3の入力方向に平行な軸を中心にして回転自在であるのが好適である。
【0067】
入力する光パルスP1が直線偏光であるとして、その直線偏光の方位に対して、1/4波長板110の高速軸が45°だけ傾いているとし、1/2波長板120の高速軸がα°だけ傾いているとし、偏光子140の光学軸の方位がβ°だけ傾いているとし、また、偏光子140から出力される光パルスP4の直線偏光の方位がθ°だけ傾いているとする。αおよびβは可変である。本構成例では、θ=βであり、偏光子140の光学軸の方位角βを変化させると、偏光子140から出力される光パルスP4の直線偏光の方位角θを変化させることができる。また、1/2波長板120の方位角αまたは偏光子140の方位角βを変化させると、光パルスP4のCEPを式(2)に従って変化させることができる。
【0068】
本構成例では、1/4波長板と比べて安価でアライメントが容易である偏光子を用いるので、光パルスP4の直線偏光の方位角θおよびCEPを高精度に制御することができる。また、光パルスが偏光子を通過する際の分散を小さくすることができる。
【0069】
次に、処理部70における処理例について説明する。
図12および
図13は、テラヘルツ波パルスの1パルス照射期間にトンネル効果により移動した電子の数と、CEP調整部30によるCEP調整値との関係を示すグラフである。これらの図は、電流測定部60により測定されたトンネル電流値から得られた移動電子数、および、遠方場のテラヘルツ波パルスの電場波形に基づいてSimmonsモデルにより計算して得られた移動電子数を示している。
図13は、第1導電性物体Aとして用いた3種類の探針(Tip1〜Tip3)それぞれについて、電流測定部60により測定されたトンネル電流値から得られた移動電子数を示している。
図14は、第1導電性物体Aとしての探針(Tip1〜Tip3)の先端部の写真である。
【0070】
このように、処理部70は、探針毎にトンネル効果による移動電子数の測定値および計算値を求めることができる。また、処理部70は、これら移動電子数の測定値および計算値それぞれとCEP調整量との関係を求めることができる。
【0071】
図12から分かるように、電流測定部60により測定されたトンネル電流値から得られた移動電子数と、遠方場のテラヘルツ波パルスの電場波形に基づいて計算して得られた移動電子数との間には、明らかな差異が存在することが認められる。また、
図13から分かるように、その差異は探針の形状に依存していることが認められる。
【0072】
このように、第1導電性物体(探針)Aと第2導電性物体(観察対象物)Bとの間の間隙に集光されたテラヘルツ波パルスのCEPは、意図したCEPと異なる場合があり、また、その差異は探針の先端の形状に依存する。その結果、探針の先端と観察対象物との間に実際に流れるトンネル電流は、意図した値と異なる場合がある。また、非特許文献2に記載された技術では、或る基準となるCEPに対する調整量はπ/2またはπであるが、基準となるCEPの値は明らかでない。
【0073】
これに対して、本実施形態では、CEP調整量を任意に設定することができるCEP調整部30を備えていることにより、実際のトンネル電流とCEP調整部30におけるCEP調整量との関係(
図12または
図13における測定値のグラフ)を求めることができる。この関係に基づいてCEP調整部30におけるCEP調整量を設定することにより、所望のトンネル電流(大きさ及び方向)を得ることができる。すなわち、本実施形態では、第1導電性物体と第2導電性物体との間に流れるトンネル電流を精度よく制御することができる。
【0074】
以上では、本実施形態のトンネル電流制御装置について説明した。本実施形態のトンネル電流制御方法は、このトンネル電流制御装置を用いて、第1導電性物体Aと第2導電性物体Bとの間に流れるトンネル電流を制御する。本実施形態のトンネル電流制御方法は以下のとおりである。
【0075】
発生ステップにおいて、テラヘルツ波発生素子20によりテラヘルツ波パルスを発生し出力する。次に、CEP調整ステップにおいて、テラヘルツ波発生素子20から出力されたテラヘルツ波パルスを入力するCEP調整部30により、その入力したテラヘルツ波パルスのCEPを調整して、そのCEP調整後のテラヘルツ波パルスを出力する。そして、集光ステップにおいて、CEP調整部30から出力されたテラヘルツ波パルスを入力する集光素子としての軸外し放物面鏡M7により、その入力したテラヘルツ波パルスを第1導電性物体Aと第2導電性物体Bとの間の間隙に集光する。
【0076】
特に、CEP調整ステップにおいては、テラヘルツ波発生素子20から出力されたテラヘルツ波パルスを入力する円偏光パルス生成素子である1/4波長板110により、そのテラヘルツ波を円偏光にして出力する。次に、1/4波長板110から出力されたテラヘルツ波パルスを入力するとともに当該入力方向に平行な軸を中心にして回転自在である1/2波長板120により、その回転方位に応じたCEPを有するテラヘルツ波パルスを出力する。そして、1/2波長板120から出力されたテラヘルツ波パルスを入力する直線偏光パルス生成素子である1/4波長板130または偏光子140により、そのテラヘルツ波パルスを直線偏光にして出力する。
【0077】
本実施形態のトンネル電流制御方法は、電流測定ステップおよび処理ステップを更に含んでいてもよい。電流測定ステップにおいて、第1導電性物体Aと第2導電性物体Bとの間の間隙へのテラヘルツ波パルスの1パルス照射期間に流れるトンネル電流を電流測定部60により測定する。処理ステップにおいて、電流測定部60により測定されたトンネル電流とCEP調整部30におけるCEP調整量との間の関係を求める。そして、CEP調整ステップにおいて、処理ステップにおいて求められた関係に基づいてCEP調整部30におけるCEP調整量を設定する。
【0078】
また、本実施形態のトンネル電流制御方法は、分岐ステップおよび
遠方場電場波形検出ステップを更に含んでいてもよい。分岐ステップにおいて、光源11から出力された光パルスを分岐部12により2分岐して、その2分岐した光パルスのうちの一方をテラヘルツ波発生素子20におけるテラヘルツ波パルスの発生のためのポンプ光パルスとして出力し、他方をプローブ光パルスとして出力する。
遠方場電場波形検出ステップにおいて、CEP調整部30から出力されたテラヘルツ波パルスと、分岐部12から出力されたプローブ光パルスとの間の相関を、テラヘルツ波検出素子40により検出する。