(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6941009
(24)【登録日】2021年9月7日
(45)【発行日】2021年9月29日
(54)【発明の名称】腐食センサ
(51)【国際特許分類】
G01N 17/04 20060101AFI20210916BHJP
【FI】
G01N17/04
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-167728(P2017-167728)
(22)【出願日】2017年8月31日
(65)【公開番号】特開2019-45268(P2019-45268A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】中西 博
(72)【発明者】
【氏名】江里口 玲
(72)【発明者】
【氏名】井坂 幸俊
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 達三
【審査官】
北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−032516(JP,A)
【文献】
特開2016−180687(JP,A)
【文献】
特開2015−197307(JP,A)
【文献】
特開2006−070601(JP,A)
【文献】
特表2001−513881(JP,A)
【文献】
特開2008−128734(JP,A)
【文献】
特開2017−032515(JP,A)
【文献】
米国特許第06281671(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00−17/04
G01N 27/00ー27/10
G01N 27/14ー27/24
G01N 33/00ー33/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の腐食環境を検出する腐食センサであって、
腐食性を有する金属で形成された検知部と、
前記検知部に設けられた複数の貫通孔と、
前記検知部と対向する位置に設けられた対向電極と、
前記検知部および前記対向電極との間に設けられた誘電体と、
前記貫通孔を閉塞するように設けられ、カーボンで形成された防水部と、を備えることを特徴とする腐食センサ。
【請求項2】
鋼材の腐食環境を検出する腐食センサであって、
腐食性を有する金属で形成された検知部と、
前記検知部に設けられた複数の貫通孔と、
前記検知部と対向する位置に設けられた対向電極と、
前記検知部および前記対向電極との間に設けられた誘電体と、
前記貫通孔を閉塞するように設けられ、樹脂で形成された防水部と、を備えることを特徴とする腐食センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼材の腐食環境を検出する腐食センサに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物中の鋼材は、コンクリートがアルカリ性環境を保持していることで鋼材表面に不動態被膜を形成し、腐食から保護されている。しかしながら、例えば、空気中に二酸化炭素、下水道施設における硫酸、あるいは塩化物イオン等の腐食因子がコンクリート中に侵入すると、この不動態被膜が破壊され、コンクリート中にある水と酸素によって鋼材の腐食が開始する。また、鉄橋やプラント等の鋼材を用いた構造物では、鋼材に錆が生じないように保護塗料が用いられている。
【0003】
コンクリート構造物の鋼材が腐食すると、鋼材の体積膨張が生じ、その膨張圧でコンクリートにひび割れが生じ、ひび割れを通じてさらに腐食因子の侵入と外部からの水と酸素の供給によって鋼材の腐食は加速的に進展し、ついにはコンクリート構造物としての機能が保持できなくなる。また、鋼橋において鋼材が腐食すると、鋼材の体積膨張により保護塗膜に浮きや剥離が生じ、防錆効果が失われる。
【0004】
従って、鋼材の腐食が開始する前に腐食因子の侵入や鋼材の腐食開始を検知し、例えば、表面被覆等の対策で腐食因子や水と酸素のさらなる侵入を阻止して鋼材を腐食から守り、構造物の予防的な保全を図ることが重要となる。この問題に対し、従来から種々の腐食診断方法が提案されている。例えば、コア抜きを行なって腐食因子を分析する方法や、非破壊的に鋼材の自然電位や分極抵抗を測定する手法、化学センサやガスセンサにより腐食因子を検出する方法、鉄製の細線を模擬腐食部材としてコンクリートに埋設し、細線が断線した時に腐食を検出する手法等が知られている。
【0005】
これらの腐食診断手法のうち、細線の断線によって腐食を検知する方法は、(a)予めセンサを埋設することでコア抜き等コンクリートを傷めることがない、(b)コンクリート表面と鋼材との間に細線を深さに応じて数本設置することで表面からの腐食因子の侵入の時間依存性をモニタリングでき維持管理計画の立案を容易とする、(c)直接的に鉄の腐食を捉えるので、腐食因子だけでなく水や酸素の供給状態をも含めた腐食の可能性を検知できる、(d)電気抵抗の変化を捉えるので、きわめて低消費電力での検出が可能で長期モニタリングに適する、というメリットがあり、細線切断を検出することによる腐食診断方法が、種々提案されている。また、感度が高く、設計自由度を大きくするために、鉄箔材を用いた腐食センサも提案されている。
【0006】
また、従来の腐食センサは、検知部の電気抵抗を捉えるものが多い。導電率の高い鉄は、破断しなければ、抵抗値に変化が現れにくく、センサの感度が線径や線幅等に依存しやすいことに加え、破断後はセンサとしての機能を失うことから、静電容量を捉えることにより腐食環境を検知する提案がある(特許文献1)。この腐食センサでは、検知部の面積の変化で腐食を捉えることができるため、腐食がコンクリート構造物内でどのくらい進展しているのかを把握することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017−032516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、静電容量型腐食センサをコンクリートや水溶液内に設置した場合に、静電容量の値が変動してしまう場合がある。
図5は、従来の腐食センサの概略を示す図である。
図5に示すように、腐食センサ1の感度を向上させることと、鉄箔部3の一部が欠損しても電気的導通を確保することを可能とするために、腐食センサ1の検知面である鉄箔部3に貫通孔5が設けられているが、鉄箔部3に設けられた貫通孔5に水分が侵入して帯電することにより、センサ検知面の面積が見かけ上大きくなってしまう。その結果、コンクリートの湿潤・乾燥状況によって静電容量が変動してしまうことが考えられる。
【0009】
また、コンクリートや水溶液内に腐食センサを設置した後、静電容量が時間と共に徐々に増加する。増加した静電容量は、腐食センサ設置直後の静電容量の2割程度になることもある。誘電体の材料が吸水する材料である場合、吸水することにより変化する誘電率の影響や誘電材料自体の劣化することがあり、安定した静電容量を計測することが困難である。また、ポリイミド材料を用いた場合、吸水による劣化が知られている。水を吸水することでポリイミドが劣化し、その結果、静電容量が不安定な挙動を示す。このような状況下では、正確な腐食状態を静電容量値から把握することができなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の腐食センサは、鋼材の腐食環境を検出する腐食センサであって、腐食性を有する金属で形成された検知部と、前記検知部に設けられた複数の貫通孔と、前記検知部と対向する位置に設けられた対向電極と、前記検知部および前記対向電極との間に設けられた誘電体と、前記貫通孔を閉塞するように設けられ、防水性および耐腐食性を有する材料で形成された防水部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
このように、腐食センサは、腐食性を有する金属で形成された検知部と、検知部に設けられた複数の貫通孔と、検知部と対向する位置に設けられた対向電極と、検知部および対向電極との間に設けられた誘電体と、前記貫通孔を閉塞するように設けられ、防水性および耐腐食性を有する材料で形成された防水部と、を備えるので、誘電体への水等の水分の侵入を防ぐことが可能となる。その結果、誘電体の変質や静電容量が安定し、正確な腐食状況を把握することが可能となる。
【0012】
(2)本発明の腐食センサにおいて、前記防水部は、カーボンで形成されていることを特徴とする。
【0013】
このように、防水部は、カーボンで形成されているので、腐食することなく、貫通孔への水分の滞留や誘電体への水等の水分の侵入を防ぎ、さらに導通を確保することが可能となる。
【0014】
(3)本発明の腐食センサにおいて、前記防水部は、樹脂で形成されていることを特徴とする。
【0015】
このように、防水部は、樹脂で形成されているので、腐食することなく、貫通孔への水分の滞留や誘電体への水等の水分の侵入を防ぐことが可能となる。
【0016】
(4)本発明の腐食センサにおいて、前記防水部は、鉄より貴な金属で形成されていることを特徴とする。
【0017】
このように、防水部は、鉄より貴な金属で形成されているので、腐食することなく、貫通孔への水分の滞留や誘電体への水等の水分の侵入を防ぎ、導通を確保することが可能となる。さらに、カソード効果により腐食環境を高感度に検知させることが可能となる。
【0018】
本発明によれば、防水性および耐腐食性を有する材料で形成された防水部を設けることにより、貫通孔への水分の滞留や誘電体への水の吸収を防ぎ、静電容量を安定させることが可能となる。その結果、正確な腐食状態を把握することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態に係る腐食センサの概略構成を示す平面図である。
【
図2】
図1に示した腐食センサをA−Aで切断した場合の断面図である。
【
図3】モルタルまたはコンクリートに埋設する本実施形態に係る腐食センサの概略を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る腐食センサの製造方法を示すフローチャートである。
【
図5】従来の腐食センサの概略構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[腐食センサの測定原理]
誘電正接は、抵抗値の増加によって増加する。また、静電容量は、電極(検知部)の欠損によって変化する。また、誘電正接を検知することによって、腐食センサの表面に発生した初期の腐食を検知することができる。また、リアクタンス、等価並列抵抗等の電気特性も腐食によって変化する。ここで、誘電正接の変化は、10kHz以上の高周波数領域で測定することが望ましい。さらに加えて、腐食の進展を静電容量の減少度合いと総合して判断することによって、より高い精度で腐食状態を把握することが可能となる。
【0021】
平行平板導体(検知部)の誘電正接tanδは、ω:各周波数、C:静電容量、R:直列等価抵抗との間に、以下の関係がある。
tanδ=ωCR ・・・(1)
【0022】
平行平板導体(検知部)の静電容量Cは、平行平板導体の面積S、平行平板導体間の間隔dとの間に、以下の関係がある。
C=Q/V=εS/d[F] ・・・(2)
ここで、εは、誘電率である。
【0023】
本実施形態に係る腐食センサは、この原理を用いる。すなわち、センサの検知部が腐食因子によって検知部表面が腐食していくと、電気抵抗が上昇する。従って、誘電正接は比例して上昇する。その後、検知部の腐食が進展し、検知部の欠損減少に至ることで、静電容量は低下をはじめる。静電容量の減少度合いを捉えることによって、検知部の面積の減り具合、ひいては腐食環境の進展具合を把握することが可能となる。誘電正接は、静電容量の低下が抵抗の上昇より卓越した場合、低下していくこととなる。
【0024】
従って、誘電正接の上昇は、初期の軽微な腐食開始を捉え、その後、誘電正接の低下や静電容量の低下がみられた場合、検知部の欠損が生じていると予想されるため、腐食の進展が進んできていることを検知できる。
【0025】
[腐食センサの構成]
図1は、本実施形態に係る腐食センサの概略構成を示す平面図である。
図2は、
図1に示す腐食センサをA−Aで切断した場合の断面図である。腐食センサ1は、検知面(検知部)となる腐食性を有する金属で形成された鉄箔部3と、誘電体7と、リード線9と、対向電極10を備える。
【0026】
鉄箔部3は、腐食性を有する金属からなり、鉄を用いる場合は、圧延することにより作製され、3μm以上0.1mm以下の厚さを有する。鉄箔部3は、蒸着やメッキによって形成される薄膜であっても良いし、板状に形成されていても良い。鉄箔部3の厚さを3μm以下としたのは、薄すぎるとセンサの取り扱い時にひび割れが生じやすく、厚すぎるとセンサの感度が低下する恐れがあるためである。また、鉄箔部3の面積は、誘電正接によって初期の軽微な腐食開始を捉えることができるので、面積が小さくても良いが、静電容量で腐食進展状況を捉えるのは、大きい方が望ましい。
【0027】
鉄箔部3には、複数の貫通孔5が設けられている。鉄箔部3に設けられた複数の貫通孔5は、メッシュ状であっても良いし、スリット状であっても良い。鉄箔部3に貫通孔5を設けることによって、鉄箔部3と貫通孔5との境界面から鉄箔部3を腐食させることができる。貫通孔5の平面形状は、形成精度の歩留まりの観点から円形としているが、これに限定されるわけではない。例えば、矩形(正方形)や他の形状であっても良い。貫通孔5が円形である場合は、熱膨張等で生じる応力が分散されやすく、また、水分の隅角部における滞留も生じないため、貫通孔5の作製における形成精度や歩留まりが向上する。その結果、品質の安定やコスト削減に資することが可能となる。
【0028】
各貫通孔5には、各貫通孔を閉塞するように防水性および耐腐食性を有している材料が充填される防水部6が設けられている。充填する材料は、防水性および耐腐食性を有していれば、どのような材料でも良く、エポキシ樹脂、カーボン、耐腐食性金属等が挙げられる。例えばカーボンのように、導電性を有するもので形成すると、導通がセンサ表面の全体で確保することが可能となる。カーボンを用いる場合は、撥水性あるいは防水性を付与するとさらに良い。また、充填する材料として、鉄より貴な金属を用いて、カソード効果により腐食環境を高感度に検知させることもできる。このような構造を有することで、貫通孔への水分の滞留や誘電体7への浸水を防ぐ。その結果、湿潤状態の静電容量の見かけ上の上昇や誘電体7への吸湿やそのことによる劣化を抑制し、安定した静電容量を計測することが可能となり、計測値の信頼性を向上させることが可能となる。
【0029】
誘電体7は、誘電率の大きさが、誘電正接や静電容量の変化に大きく関与するため、誘電率が3以上の誘電体を用いることが望ましく、その厚さは0.05mm〜2mm、温度による変化が少ない誘電体が望ましい。これにより、センサの測定感度を向上させることが可能となる。誘電体としては、できる限り誘電率が大きい強誘電体が望ましく、誘電率が3.3であるポリイミドフィルムは、半田付けに対する耐熱性を保有しているため製造上好ましい。
【0030】
対向電極10は、耐腐食性が高い性能を有した金属が好ましい。鉄箔の腐食による減少を電気特性で捉えるためには、対向電極10の面積が変化しないことが前提である。対向電極10には、金または白金、パラジウム等に代表される貴金属をはじめ、対象である金属よりイオン化傾向の小さく導電性を有した金属であり、鉄が対象の場合はパラジウム、銅、ニッケル等を用いることができる。また、圧延以外にもスパッタリングや蒸着、メッキ等で成膜して形成する方法もある。対向電極10の厚さは問わない。また、対向電極10は、防水・防塵が可能であれば、耐腐食性を有しない材料であっても良い。対向電極10に耐腐食性を有しない材料を用いる場合は、その周囲および表面を樹脂や外装材等で完全に防水・防塵を行なうこと、および鉄箔部と完全に絶縁することで利用できる。
【0031】
リード線9は、鉄箔部3に接続させる。そして、リード線9の接続部や腐食センサ1の側面は、水の侵入による導通を防ぐために、樹脂等で防水を行なう。また、鉄箔部3は、設置までの腐食やコンクリート打設時の衝撃から保護するために、腐食因子が浸透するモルタルで被覆しても良い。
【0032】
図3は、モルタルまたはコンクリートに埋設する本実施形態に係る腐食センサの概略を示す図である。
図3に示すように、腐食センサ1は、ゴム板15でケース13との間隔が設けられ、樹脂17でケースに接着されている。腐食センサ1は、誘電正接や静電容量の計測を行なうため、リード線9を半田付けし、リード線9の接続部が腐食しないよう、検知面である鉄箔部3が表面に露出するように、ケース13で外装され、ケース13内部が樹脂21で充填されている。このように構成したのは、リード線9の腐食を防止するためであり、また、周りに充填されるコンクリートの含水状態により誘電率が変動することから、その影響を回避するためである。さらに、腐食センサ1をコンクリート充填時の衝撃から保護する意味もある。
【0033】
[腐食センサの製造方法]
図4は、本実施形態に係る腐食センサの製造方法を示すフローチャートである。まず、金属箔部(鉄箔部)しての鉄を圧延して鉄箔を製造する(ステップS101)。鉄箔は、3μm以上0.1mm以下の厚さを有するものとする。ここで、鉄箔は、蒸着やメッキにより形成される薄膜であっても良いし、板状に形成されていても良い。
【0034】
次に、鉄箔材とポリイミド材の貼り合わせを行なう(ステップS102)。貫通孔を閉塞するように防水部を設け、防水性および耐腐食性を有している材料を充填する(ステップS103)。ここでは、例えば、エポキシ樹脂、カーボン(カーボンペースト)、耐腐食性金属等を用いることができる。貫通孔は、鉄箔部とポリイミドを貼り付け後、化学エッチングで形成することや、あらかじめ貫通孔を設けた鉄箔部とポリイミドを貼り付けても良い。蒸着やメッキ等による成膜して鉄箔部を形成する場合は、貫通孔部のみあらかじめマスク処理を行なった後、成膜することで貫通孔を形成できる。
【0035】
次に、対向電極としての対極板を形成する(ステップS104)。ここでは、例えば、スパッタリング、金属蒸着、プレーティング、金属塗料、金属板・金属箔の貼付等を用いることができる。次に、リード線の接続と防水加工を施し(ステップS105)、ケースの接着等の腐食センサの外装を行なう(ステップS106)。
【0036】
(検証例)
ここで、貫通孔を閉塞するように防水部を設け、防水性および耐腐食性を有している材料を充填することによって、安定した静電容量を計測することができることを検証した。本検証例では、防水性および耐腐食性を有している材料に[I]カーボンペーストを用いた場合、[II]エポキシ樹脂を用いた場合、の静電容量の変化を計測した。検証[I][II]について、以下に説明する。以下の通りである。
【0037】
[I]カーボンペーストを用いた場合
[1.検証方法]
(1)30×25mm程度の腐食センサを用意する。本検証では、6つの腐食センサ(No.1〜6)を用意した。
(2)次に、各腐食センサの静電容量Cを、LCRメータで計測する。また、各腐食センサの寸法をノギスで計測し、検知部である鉄箔部の有効面積を計算する。
(3)用意した6つの腐食センサのうち、3つの腐食センサ(No.2、4、6)については、貫通孔に設けられた防水部に充填する材料としてカーボンペーストを用いた。充填方法は、(A)腐食センサ全体にカーボンペーストを塗布し、(B)10〜20秒後にウエス(布)を用いて、余分なカーボンペーストを拭い取る。(A)(B)の作業を3度繰り返し、防水部にカーボンを充填させた。防水部にカーボンを充填させた3つの腐食センサ(No.2、4、6)を乾燥させ、再度、3つの腐食センサ(No.2、4、6)の静電容量Cを計測した。
(4)その後さらに3日程度経過した後、スポイトを用いて、腐食センサ(No.1〜6)の表面に水を垂らし、LCRメータを用いて、静電容量Cを計測した。
【0038】
[2.検証結果]
表1および表2は、測定結果をまとめた表である。
【表1】
【表2】
【0039】
表1に示す通り、カーボンを塗布した腐食センサ(No.2、4、6)の静電容量は、カーボンを塗布することで上昇(増加)した。その上昇率(増加率)は、表2に示す通り、検知部面積に対する貫通孔面積の割合にほぼ等しい。カーボンを塗布していない腐食センサ(No.1、3、5)は、腐食センサに水を垂らすあるいは水に浸けるだけで静電容量が上昇する。一方、カーボンを塗布した腐食センサ(No.2、4、6)は、腐食センサに水を垂らすあるいは水に浸けても静電容量は、ほぼ変化しなかった。
【0040】
腐食センサ(No.2、4、6)については、カーボンを塗布した後、静電容量は増加したものの、その後は静電容量の変動が生じなくなった。つまり、防水部にカーボンを充填したことにより、腐食センサ内への水の侵入を防ぎ、その結果、誘電体を形成するポリイミドの劣化を防ぐことが可能となる。また、外部の乾湿による静電容量の変動を受けることがない。
【0041】
[II]エポキシ樹脂を用いた場合
[1.検証方法]
(1)30×25mm程度の腐食センサを用意する。本検証では、6つの腐食センサ(No.1〜3)を用意した。
(2)次に、各腐食センサの静電容量Cを、LCRメータで計測する。また、各腐食センサの寸法をノギスで計測し、検知部である鉄箔部の有効面積を計算する。
(3)3つの腐食センサについて、貫通孔に設けられた防水部に充填する材料としてエポキシ樹脂を充填した。充填方法は、腐食センサの貫通孔に竹串を用いてエポキシ樹脂を充填した後、50℃の乾燥炉でエポキシ樹脂を硬化させた。その後、センサの温度が20℃程度になった後に、3つの腐食センサの静電容量を計測した。
(4)その後、スポイトを用いて、腐食センサの表面に水を垂らし、LCRメータを用いて、静電容量を計測した。
【0042】
[2.検証結果]
表3および表4は、測定結果をまとめた表である。
【表3】
【表4】
【0043】
表3に示す通り、樹脂を充填した腐食センサの静電容量は、樹脂を充填する前後で変化しなかった。
【0044】
以上説明したように、本実施形態によれば、防水性および耐腐食性を有する材料で形成された防水部を設けることにより、誘電体への水の吸収を防ぎ、静電容量を安定させることが可能となる。その結果、正確な腐食状態を把握することが可能となる。
【符号の説明】
【0045】
1 腐食センサ
3 鉄箔部
5 貫通孔
6 防水部
7 誘電体
9 リード線
10 対向電極
13 ケース
15 ゴム板
17 樹脂
21 樹脂