特許第6941100号(P6941100)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6941100燃料電池バイポーラプレート用塗料として特に有用な、金属接着性、疎水性および導電性のコーティング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6941100
(24)【登録日】2021年9月7日
(45)【発行日】2021年9月29日
(54)【発明の名称】燃料電池バイポーラプレート用塗料として特に有用な、金属接着性、疎水性および導電性のコーティング
(51)【国際特許分類】
   C09D 127/12 20060101AFI20210916BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20210916BHJP
   H01M 8/0221 20160101ALI20210916BHJP
   H01M 8/0213 20160101ALI20210916BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALI20210916BHJP
   H01M 8/021 20160101ALI20210916BHJP
   C09D 127/16 20060101ALI20210916BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20210916BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20210916BHJP
   C09D 163/10 20060101ALI20210916BHJP
   H01M 8/0228 20160101ALI20210916BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20210916BHJP
【FI】
   C09D127/12
   H01B1/22 A
   H01M8/0221
   H01M8/0213
   H01M8/0206
   H01M8/021
   C09D127/16
   C09D201/00
   C09D5/24
   C09D163/10
   H01M8/0228
   !H01M8/10 101
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-527185(P2018-527185)
(86)(22)【出願日】2016年11月24日
(65)【公表番号】特表2019-505605(P2019-505605A)
(43)【公表日】2019年2月28日
(86)【国際出願番号】FR2016053083
(87)【国際公開番号】WO2017089715
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2019年11月25日
(31)【優先権主張番号】1561416
(32)【優先日】2015年11月26日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】フェデュルコ ミラン
(72)【発明者】
【氏名】デルフィーノ アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】オルソマー デイヴィッド
【審査官】 岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特表2018−537588(JP,A)
【文献】 特開2012−104229(JP,A)
【文献】 国際公開第02/001660(WO,A3)
【文献】 特開2006−127854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
H01B
H01M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(組成物の質量%で)、
導電性充填剤として、その質量平均サイズが1μmから100μmの間である、75質量%〜95質量%の導電性微小粒子と、
疎水性、金属接着性のポリマーマトリックスとして、以下の少なくとも2種の異なるポリマーを含む、5質量%〜25質量%のポリマーマトリックス(「P」と表す):
a)P1:質量平均分子量(「Mw」と表す)が100000から1000000g/molの間である、熱可塑性フルオロポリマー、
b)P2:ガラス転移温度が30℃から150℃の間であり、エポキシビニルエステル樹脂を含む、熱硬化性樹脂
を含む、燃料電池のイオン交換膜の保護コーティングにおいて使用するための固体組成物。
【請求項2】
微小粒子の含量が、80質量%〜95質量%の範囲内である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
微小粒子が、黒鉛微小粒子を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
ポリマーP1が、フッ化ビニリデンのホモポリマーまたはコポリマーを含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
ポリマーP1が、50℃未満のガラス転移温度を有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
ポリマーP1が、250℃未満の融点を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
熱硬化性樹脂P2のガラス転移温度が、80℃から150℃の間である、請求項1から6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
P2/P1質量比が、0.2から5の間である、請求項1から7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
固体組成物中の樹脂P2の含量が、2質量%から15質量%の間である、請求項1から8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
少なくとも、その表面が少なくとも部分的に金属である基体であって、少なくとも前記金属部分が、請求項1から9のいずれか1項に記載の固体組成物で被覆されている前記基体。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか1項に記載の固体組成物で被覆されている、燃料電池用のスチールバイポーラプレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、疎水性、導電性、金属接着性のコーティングとして特に有用な固体組成物である。
本発明の分野は、より詳細には、少なくとも部分的に金属基体、特に、「PEM」(プロトン交換膜に相当する)と称されるイオン交換ポリマー膜を備える燃料電池用のスチールバイポーラプレート上の、「塗料」とも称されることがある組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
PEM燃料電池は、直列に電気的に接続された個々の電気化学的電池のスタックから構成されており、電池のそれぞれが、一般に0.3から1.1ボルトの間の特定の電圧を創り出すことが第一に想起される。したがって、スタックによって作り出される総電圧は、個々の電圧の総計、例えば、輸送分野における用途を対象にする燃料電池に対しては、およそ数100ボルトである。
それぞれの個々の電気化学的電池は、5層:その1つのゾーンがイオン交換膜を形成するポリマー膜、例えば白金等の、電気化学的反応の進行に必要な化学元素を含む2個の電極、および使用されるガスのイオン交換膜の表面全体にわたり均一な拡散を確実にする2個のガス拡散層(GDL)の重層から構成される。
ガスの供給は、1つの電池の陽極と、隣接する電池の陰極に接触しているので「バイポーラプレート」と一般に称されるプレートによって確保される。
【0003】
これらのバイポーラプレートは、2つの非常に異なる機能を果たす。電池に燃料ガスおよび酸化剤ガス、換言すると水素および空気または純粋な酸素を供給する必要があること、およびこれらを冷却すること、換言するとバイポーラプレートを通して水等の冷却液を通過させることも必要であることも知られている。バイポーラプレートの機能の1つは、燃料電池の運転に必要なこれらの様々な流体を運搬することを可能にする。さらに、バイポーラプレートはまた、電気的機能:隣接する電気化学的電池のそれぞれの陽極および陰極の間の導電を確保する。
【0004】
これらの異なる機能、流体の搬送および電気の導電は、これらのバイポーラプレートを製造するのに使用される材料が満たさなければならない仕様を与える。使用される材料は極めて高い導電率を有さなければならなく、該材料はまた、使用される流体にさらされても漏れず、これらの流体に対して極めて高い化学的安定性を示さなければならない。
さらに、バイポーラプレートは、多数の個々の電気化学的電池および結合するバイポーラプレートの重層、およびタイバーを用いて端板間の加圧によってアセンブリを一緒に保持することを可能にするのに十分な機械的特性を有さなければならない。したがって、バイポーラプレートは、この圧縮に耐えるのに十分な機械的特性を有さなければならない。
【0005】
黒鉛は高い導電率を提供し、使用する流体に対して化学的に不活性であるので、黒鉛が一般に使用される。例として、特許出願WO2005/006472は、このようなバイポーラプレートの1つの考えられる実施形態を示している。バイポーラプレートは、様々の層の厚さの許容誤差に順応するために、黒鉛材料から製造された比較的可撓性のある膜を挿入した、2個の比較的剛直な黒鉛プレートの重層で構成されている。黒鉛プレートは、燃料ガスおよび酸化剤ガスの分配のために必要なチャンネルの網状組織、ならびに水等の冷却液を各バイポーラプレートを通して流すことを可能にするチャンネルの網状組織を含む。残念ながら、黒鉛バイポーラプレートの構造に関与する剛直な要素は、特に、電池を組み立てる時の取扱いの間の衝撃に対して極めて脆弱である。以前言及した可撓性の黒鉛材料からできている層はまた、工業規模において取り扱うことが特に困難である。これはすべて、このようなバイポーラプレートの製造コストに有意に悪影響を及ぼす。
【0006】
スチールバイポーラプレート、とりわけステンレススチール製またはステンレススチールで被覆されたものはまた、このタイプの用途に対して知られている。これらは黒鉛プレートよりが確かに機械的に堅牢であるが、それにもかかわらず、これらは保護コーティングで被覆して、金属を腐食から防護し、十分な導電率を与えながら、金属に接着することが可能でなければならなく、これらのことが、このようなコーティングの配合物を開発するのを特に複雑にしている。
このようなバイポーラプレートおよび/またはその保護コーティングは、例えば、特許文献US 6372376、US 6379476、US 6537359、US 7365121、US 7910262、WO 02/13300に記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の主題は、とりわけバイポーラプレート用保護コーティングとして上記の要求事項を満たし、有利には、このコーティングに柔軟性および可撓性だけでなく、特に有利には、最終的には改良された耐久性を付与するセルフシール性も付与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、第1の主題によれば、本発明は、少なくとも(組成物の質量%で)
導電性充填剤として、その質量平均サイズが1μmから100μmの間である、75質量%〜95質量%の導電性微小粒子と、
疎水性、金属接着性のポリマーマトリックスとして、以下の少なくとも2種の異なるポリマーを含む、5質量%〜25質量%のポリマーマトリックス(「P」と表す):
a)P1:質量平均分子量(「Mw」と表す)が100000から1000000g/molの間である、熱可塑性フルオロポリマー、
b)P2:ガラス転移温度が30℃から150℃の間である熱硬化性樹脂
を含む、疎水性、導電性、金属接着性のコーティングとして特に有用な固体組成物に関する。
本発明はまた、少なくともその表面が少なくとも部分的に金属である基体であって、特定すると燃料電池用のスチールバイポーラプレートである前記基体上の疎水性、導電性、金属接着性のコーティングとしてのこのような組成物の使用に関する。
【0009】
本発明はまた、少なくともその表面が、少なくとも部分的に金属である任意の基体であって、少なくとも前記金属パートが、本発明による固体組成物で被覆されている前記基体に関する。本発明は、本発明による固体組成物で被覆されている、特に燃料電池用のスチールバイポーラプレートに関する。
本発明およびその利点は、以下の詳細な説明および例示的な実施形態に照らして、容易に理解されよう。
【発明を実施するための形態】
【0010】
明確に別に指示された場合を除き、本出願に示されたすべての百分率(%)は、質量百分率(percentages by weight)[または同様に、質量百分率(by mass)である]。
【0011】
「xおよび/またはy」という表現は、「x」もしくは「y」または両方((即ち、「xおよびy」)を意味する。「aからbの間」という表現によって示された数値の任意の範囲は、「a」を超え、「b」未満の範囲の数値領域(換言すると、「a」および「b」を除外して限定する)を表す。一方、「a〜b」という表現によって示された数値の任意の範囲は、「a」から「b」に至るまでの範囲の数値領域(換言すると、範囲内の限界「a」および「b」を含む)を意味する。
【0012】
したがって、本発明の第1の主題は、少なくとも
導電性充填剤として、その質量平均サイズが1μmから100μmの間である、75質量%〜95質量%の導電性微小粒子と、
疎水性、金属接着性のポリマーマトリックスとして、以下の少なくとも2種の異なるポリマーを含む、5質量%〜25質量%のポリマーマトリックス(「P」と表す):
a)P1:質量平均分子量(「Mw」と表す)が100000から1000000g/molの間である、(少なくとも1種の)熱可塑性フルオロポリマー、
b)P2:ガラス転移温度が30℃から150℃の間である(少なくとも1種の)熱硬化性樹脂
を含む、疎水性(換言すると防食性)、導電性、金属接着性のコーティングに特に有用な固体組成物に関する。
【0013】
したがって、本発明のこの組成物の第1の本質的な特徴は、その質量平均サイズが1μmから100μmの間である、75質量%〜95質量%、好ましくは80質量%〜95質量%の導電性微小粒子を導電性充填剤として含むものである。この質量平均サイズは、優先的には1から50μmの間、より優先的には2から25μmの間である。
本明細書では「サイズ」は、球形粒子、例えば、粉末形態の場合は直径、または異方性粒子、例えば、棒もしくは小板の形態の場合は長さ(もしくは最長寸法)を意味するものである。
粒径の分析および微小粒子の平均サイズ(または、実質的に球形とみなされる微小粒子に対する平均直径)の計算のために、様々な周知の方法、例えば、レーザー回折(例えば、規格ISO 8130−13に従って)が適用可能である。
【0014】
また、機械的ふるい分けによる粒径の分析を簡単におよび優先的に使用してもよく;操作は、振動台上の規定された量の試料(例えば200g)を、様々なふるい直径(例えば、1.26の等比の累進比率に従って、500、400、...、100、80、63μm等のメッシュで)により30分間ふるい分けすることからなり;各ふるい上に回収された網上を精密はかりで秤量し;生成物の総質量に比較した各メッシュ直径に対する網上の%を推定し;粒径分布のヒストグラムから周知の方法で、中央径(またはメジアン直径)を最終的には計算する。
これらの微小粒子は、有機物または無機物、例えば金属であってもよい。このような金属微小粒子の例として、ニッケル粒子、あるいはニッケル、アルミニウムもしくはチタン等の金属の窒化物を挙げてもよい。
好ましくは、これらの微小粒子は、黒鉛微小粒子を含む、即ち、少なくとも一部は(即ち、部分的にまたは全体的に)黒鉛微小粒子からなる。後者は、粉末および/または層状の形態、例えば膨張黒鉛の形態で、好ましくは2から15μmの間の質量平均サイズおよび50から150nm(ナノメートル)の間の厚さであってもよい。
【0015】
本発明の組成物の別の本質的な特徴は、疎水性、金属接着性のポリマーマトリックスとして、
a)P1:疎水性(防食性)機能のための、その質量平均分子量「Mw」が100000から1000000g/molの間である、(少なくとも1種の、換言すると1種または複数の)熱可塑性フルオロポリマー;
b)P2:接着性機能のための、そのガラス転移温度(Tg)が30℃から150℃の間である(少なくとも1種の、換言すると1種または複数の)熱硬化性樹脂
の少なくとも2種の異なるポリマーを含む、「P」と表される、5質量%〜25質量%、好ましくは5質量%〜20質量%のポリマーマトリックスを含むものである。
P1の分子量Mwは、好ましくは200000〜800000g/molの範囲内である。
【0016】
別の優先的な実施形態によれば、ポリマーP1は、少なくとも、換言すると、少なくとも一部は(即ち、部分的にまたは全体に)フッ化ビニリデンのホモポリマーまたはコポリマー(PVDFと略される)を含む。このタイプのポリマーは、よく知られており、通常粉末またはペレットの形態で、例えばSolvayから商標名Solefとして市販されている。Solefは、金属製ではなく、黒鉛製のバイポーラプレート用に知られている特に慣例の結合剤である。
好ましくは、熱可塑性フルオロポリマーP1は、50℃未満、より優先的には0℃未満のガラス転移温度(Tg)を有する。別の優先的な実施形態によれば、前述の実施形態と組み合わされるかどうかにかかわらず、P1は、250℃未満、より優先的には200℃未満の融点(Tm)を有する。
【0017】
一般に言えば、「樹脂」または「熱硬化性樹脂」P2は、本出願において、(少なくとも1種の)樹脂それ自体およびこの樹脂(または樹脂混合物)をベースとし、少なくとも1種の添加剤(換言すると、1種または複数の添加剤)を含む任意の組成物を意味するものである。本発明の固体組成物またはコーティング中のこの樹脂は、(「熱可塑性」ポリマーとは対照的に)「熱硬化性」ポリマーに特有の状態で当然架橋されており(熱硬化性)、換言すると、三次元結合の網状組織の形態である。
好ましくは、熱硬化性樹脂P2のガラス転移温度(Tg)は、80℃から150℃の間、より優先的には90℃から130℃の間である。
使用される熱硬化性樹脂(出発品)は、通常20℃において液体であり;熱硬化性樹脂は、本発明に有用な特定の条件に従ってその粘度を調整するために、優先的に溶媒、特にスチレンと共に使用される。
本出願において「液体」という用語は、室温で(20℃)および大気圧下で液状であり、換言すると、その容器の形状をとることを最終的には、即ち1時間足らずで、具体的にわからせる能力を有する任意の物質を表し;対照的に、(20℃において)この基準に合致しない任意の物質は「固体」であるとみなされる。
【0018】
これは、定義によれば、通常、光開始剤または熱開始剤等の重合開始剤系の存在下で、任意の周知の方法、例えば放射線または熱処理によって架橋または硬化され得る架橋性(即ち硬化性)樹脂である。熱タイプの開始剤、より優先的にはペルオキシエステル等の有機過酸化物、例として、メチルエチルケトンペルオキシド(MEKP)、クメンヒドロペルオキシ(CHP)あるいは様々な比率の両者の混合物が好ましくは使用され、これらの開始剤と共に架橋促進剤、例えば、アニリンタイプ(例えばジメチルアニリンもしくはDMA)、または架橋助触媒、例えば、コバルト化合物(例えばナフテン酸コバルト)を組み合わせてもよい。
【0019】
好ましくは、樹脂P2は、ビニルエステル樹脂、特にエポキシビニルエステルタイプ
を含み、換言すると、少なくとも一部は(即ち、部分的にまたは全体的に)これらからなる。さらに特定すると、エポキシビニルエステル樹脂が使用され、これは、少なくとも一部は(即ち、このタイプの構造上にグラフトされた)ノボラック(フェノプラストとしても知られている)および/またはビスフェノールをベースとしており、換言すると、優先的にノボラック、ビスフェノール、またはノボラックおよびビスフェノールをベースとするビニルエステル樹脂、さらにより優先的にはビスフェノールエポキシタイプのビニルエステル樹脂をベースとしている。
ノボラック(以下の式Iにおける角括弧の間の部分)をベースとするエポキシビニルエステル樹脂は、例えば、知られているように以下の式(I)に対応する。
【化1】
ビスフェノールA(以下の式(II)における角括弧の間の部分)をベースとするエポキシビニルエステル樹脂は、例えば、次式に対応する(「A」は、該生成物がアセトンを用いて製造されることを認識させるのに役立つ)。
【化2】
【0020】
ビスフェノールタイプのエポキシビニルエステル樹脂は、優れた結果を示しており;このような樹脂の例として、様々な用途、特にガラス繊維をベースとする積層複合材料の製造のための、Reichholdによって販売されているDION 9100系列(約45%のスチレンを含有する)の樹脂を挙げてもよい。
樹脂P2はその特定のTg範囲によって、該コーティングに柔軟性および可撓性だけでなく、高レベルの変形能によるセルフシール性も付与することができ、セルフシール性は防食用途に対して、特に燃料電池バイポーラプレート用塗料における用途に対して注目すべき利点となる。セルフシール性はまた、高温におけるこのコーティングまたはこの塗料の浸透性も制限する。
【0021】
上に示した融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)は、例えば、DSC(示差走査熱分析)によって、二回目の通過において、本出願で別の指示がなければ、1999年のASTM D3418規格に従って周知のように測定され;(Mettler Toledo製822−2 DSC装置;窒素雰囲気;試料を最初に−80℃から最大目標温度(例えば200℃)にまで至らせ(10℃/分)、次いで−80℃まで急却させた(10分で)後、−80℃から最大目標温度(例えば200℃)まで、10℃/分の温度上昇でDSC曲線を最終記録する)。
【0022】
質量平均分子量(Mw)は、SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)によって測定される。参考までに、この技術は、溶液中の巨大分子を多孔質ゲルで充填したカラムを通して、そのサイズに従って分離することを可能にする。巨大分子は、その流体力学的体積に従って分離され、最もかさ高なものが最初に溶離される。
【0023】
SECは屈折計と連結され、この場合、これは相対的な情報をもたらす。市販の標準的な生成物から開始して、ポリマーのモル質量の分布を特徴付ける、様々な数平均モル質量(Mn)および質量平均モル質量(Mw)を決定することができ、ムーア較正を介して計算される多分散指数(PI=Mw/Mn)を決定することができる。分析の前にポリマー試料の特別の処理は存在しない。後者を単に、約1g/lの濃度で溶離溶媒に溶解する。次いで、注入の前に該溶液を0.45μmの多孔性のろ過器を通してろ過する。使用した装置は、Waters Allianceクロマトグラフ系列である。溶離溶媒はDMAC(ジメチルアセトアミド)であり、流量は0.7ml/分であり、該系列の温度は50℃であり、分析時間は90分である。4個のWatersカラムのセット(1個のStyragel HMW7カラム+1個のStyragel HMW6Eカラム+2個のStyragel HT6Eカラム)が使用される。注入するポリマー試料の溶液の容量は100μlである。検出器はWaters 2414示差屈折計であり、クロマトグラフデータを利用するためのソフトウエアは、Waters Empowerシステムである。計算された平均モル質量は、PSS Ready Cal−Kit商業的ポリスチレン標準物質から生成した検量線に対する相対値である。
本発明の組成物において、P2/P1質量比は、好ましくは0.2から5の間、より優先的には0.4から2.5の間である。
組成物中のポリマーP1の含量は、好ましくは1質量%から15質量%の間、より優先的には2から10質量%の間であり;樹脂P2の含量は、その部分については、優先的に2質量%から15質量%の間、より優先的には5から12質量%の間である。
上記の本発明の固体組成物は、特に燃料電池バイポーラプレート用コーティングまたは塗料の配合物の一部を構成するのに周知の様々な添加剤、例えば接着促進剤または防食剤を含んでもよい。
上記の本発明の固体組成物は、疎水性の(換言すると防食性を有する)、導電性、金属接着性保護コーティングとして、少なくともその表面が(少なくとも一部が)金属である任意のタイプの基体上に有用である。
【0024】
本発明の固体組成物をこのような基体上に堆積させるために、
第1の容器において、ポリマーP1をこのポリマーの有機溶媒に溶解するするステップと、
第2の容器において、ポリマーP1のこの溶媒に、導電性微小粒子を分散させる(換言すると、懸濁させる)ステップと、
第1の容器に、液体状態の樹脂(または樹脂組成物)P2を添加するステップと、
第1および第2の容器の内容物を混合し、次いで、このようにして得られた混合物(懸濁液)を基体上に堆積させるスッテップと、
固体状態の目的の最終コーティングを得るために、該樹脂を架橋し、すべての溶媒を除去するステップと
を含む方法が優先的に使用される。
【0025】
フルオロポリマーP1の有機溶媒は、好ましくはテトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラメチル尿素(TMU)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−エチル−2−ピロリドン(NEP)、トリメチルホスファートおよびこのような溶媒の混合物からなる群から選択され;より優先的には、この溶媒はNMPである。
【0026】
第1の容器において、樹脂(または樹脂組成物)P2が液体状態で、そのままでまたは好ましくは適した溶媒中で、より優先的にはスチレン中で添加され;本発明の特定の実施形態によれば、該溶媒は、該樹脂の粘度を、およびその結果懸濁状態の最終塗料の粘度を、後者の最適な適用のために調整することが有利には可能である。
液体混合物を、当業者には周知された様々な一般的な方法により、例えば、ブラシを用いて、浴中への浸漬により、あるいはスプレーにより適用することによって金属基体上に堆積してもよい。
樹脂P2の架橋、およびその結果本発明の組成物の固化は、任意の適切な方法によって実施してもよい。固化は、典型的には100℃超の温度まで加熱することによって好ましくは実施され、加熱は、使用した溶媒を除去すると同時に架橋が起こるのを可能にする。前記架橋は、熱重合開始剤系、例えばペルオキシド化合物の存在下で好ましくは実施される。
【0027】
本発明の組成物は、燃料電池バイポーラプレート用塗料としてとりわけ有用であり、このプレートは、例えばスチール製であり、より優先的には、例えば、ニッケル等の別の金属製の薄い金属層(したがって中間層)で被覆されていてもよいステンレススチール製であり、以下の例示的な実施形態においてより詳細に説明する。
このようなバイポーラプレート上の本発明による固体組成物のコーティングの厚さは、好ましくは10から60μmの間、より優先的には15から50μmの間である。
ステンレススチールが、別の金属、例えばニッケル製の中間層で予め覆われている場合、この中間層は、好ましくは2から20μmの間、より優先的には5〜15μmの範囲の厚さを有する。
【実施例】
【0028】
以下の例において、PEM燃料電池バイポーラプレート用塗料(コーティング)として、本発明による固体組成物が使用される。
ステンレススチールプレート(316L、寸法25×25cm)を、約10μmである厚さを有するニッケルの薄い中間層で、知られているように、電解により予め被覆した。次いで、上記の方法に従って、以下の詳細なステップを逐次適用することによって、塗料を堆積した。
a)PVDFの溶液の調製(NMP中5%において)
粉末形態のPVDF(Solvay製Solef 5320、Mwは約530000であり;Tgは約−40℃であり;Tfは約160℃である)10g、次いで無水NMP(生物工学グレード、Sigma−Aldrich)200mlを、第1の容器(100mlのふた付き茶色ガラスびん)に添加した。PVDFが完全に溶解するまで、すべてのものを撹拌した(磁気撹拌機、一晩)。
b)導電性微小粒子の懸濁液の調製(導電性混合物)
第2の容器(250mlのふた付きガラスびん)において、平均サイズが約5μmである黒鉛粉末(Asbury Carbon製M850)12.5g、および平均サイズが約17μmである層状形態の膨張黒鉛(Timcal、スイス、製MX15)6.25gを、NMP 50ml中に分散させ、すべてのものを一晩撹拌した。次いで、ニッケル粒子(平均サイズ3μm;Sigma−Aldrich製品番号266981、純度99.7%)6.25gをこの黒鉛懸濁液に添加して、半固体ペーストの外観を有する組成物を得て、すべてのものを5分間(磁気攪拌子なしで)撹拌した後、次のステップcで調製したポリマーの混合物を添加した。
【0029】
c)液体PVDF/ビニルエステル溶液(ポリマー混合物)の調製
次いで、ビニルエステル樹脂(Reichhold、ドイツ、製Dion 9100、スチレン45%を含み;約105℃であるTg)2.1gを、ステップa)において第1の100ml容器中で調製した5%PVDF溶液60.2gに添加し、すべてのものを5分間撹拌した(磁気攪拌子)。最後に、熱開始剤CHP 0.2mlをコバルト助触媒(Akzo Nobel製Trigonox 239、45%溶液)と共に添加し、得られた溶液(ポリマー混合物)を2分間撹拌した。
d)導電性混合物へのポリマー混合物の添加
最後に、上記ステップc)で調製したポリマー溶液を、微小粒子の懸濁液を含む第2の容器中に慎重に注いだ(NMP溶媒15mlで第1の容器を最終的にすすいだ)。第2の容器を密閉し、5分間撹拌した(磁気攪拌子なしで)。この段階において、懸濁液状態の最終混合物または塗料は以下の組成を示した(質量%):M850 12.5g(41.51%)、MX15 6.25g(20.76%)、Ni 6.25g(20.76%)、Dion 9100 2.1g(6.98%)およびPVDF Solef 5320 3.01g(10%)を有しており、合計で固体30.11g(100%)となった。
【0030】
e)バイポーラプレート上への塗料の堆積
このようにして調製された塗料の試料を、空気圧式スプレーガン(Anest Iwate Group、イタリア、製Air Gupsa AZ3 HTE2)によって、キャリアガスとして圧縮窒素(2.5バール)を用いて、バイポーラプレート上にスプレーした。プレートを120℃に予熱したオーブン中に垂直に配置し、次いでプレートをこの温度で60分間熱処理した。処理が終了した後、プレートを室温(20℃)まで冷却し、このようにして固体状態(すべての溶媒が除去されて)に堆積された塗料の平均(5測定値に対して)厚さは約30μmであった。
【0031】
f)導電率測定(ICR試験)
このようにして被覆した、試験するバイポーラプレートの各試料を、2個の燃料電池のGDL層(東レ株式会社製TGP−H−60)の間に「挟んで」配置し、これらを、測定装置(AOIP OM 15タイプマイクロオームメーター)によって供給された、2個の、金で被覆された銅電極(それぞれが、10cm2の有効接触表面積を有する)の間に配置して、2個の電極の間の回路に1Aの電流を注入した。
導電率は、測定の間に、プレート/GDL/電極のアセンブリ全体に対して加えられた接触圧(50〜200N/cm2)の関数として、プレートおよびGDLの間の界面接触抵抗またはICR(mΩ単位)と称されるものを計算することによって特性決定される。このような方法は、公知であり、多数の発表、例えば"Effect of manufacturing processes on contact resistance characteristics of metallic bipolar plates in PEM fuel cells", International Journal of Hydrogen Energy 36 (2011),12370-12380(特に、パラグラフ2、3を参照されたい)、あるいは特許出願WO 02/13300(特に図1および2を参照されたい)に記載されている。
得られた結果(以下の表を参照されたい)は、当業者には優れたものであり;得られた結果は、特に最適化しなくとも、市販されている塗料(Henkel製Acheson塗料、括弧で示された)に対して得られたものと同様に優れていることが直ちに立証されている。
【0032】
【表1】
【0033】
比較例の試験を樹脂P2なしで(換言すると、欠けた樹脂P2(ビニルエステル)を置き換えるために、同量のポリマーP1(PVDF)を添加した。換言すると、ポリマーP1がポリマーマトリックスPの全体(100%)を占めた(P2/P1質量比はゼロである)。
導電率は、実質的に同等であることが立証されたが、対照的に、PEM燃料電池において、100時間の操作の後、プレートのコーティングが、導電性微小粒子が肉眼で認識できるほど部分的に完全に表面が脱離して劣化したことが観察され、劣化は樹脂P2の存在下ではなかった。
【0034】
結論として、本発明は、公知の先行解決方法の導電率と少なくともと同等の高い導電率、高い金属接着性および優れた防食性を確実にする強い疎水性を有するコーティングを得ることを可能にし、このコーティングはまた、柔軟性および可撓性、ならびにまた、改良された耐久性を付与する好都合なセルフシール性を有する。