特許第6941285号(P6941285)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6941285樹脂−金属複合体を用いた部品の成形方法、および該部品成形用金型
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6941285
(24)【登録日】2021年9月8日
(45)【発行日】2021年9月29日
(54)【発明の名称】樹脂−金属複合体を用いた部品の成形方法、および該部品成形用金型
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20210916BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20210916BHJP
   B29C 33/14 20060101ALI20210916BHJP
【FI】
   B29C45/14
   B29C43/18
   B29C33/14
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-520959(P2020-520959)
(86)(22)【出願日】2018年5月24日
(86)【国際出願番号】JP2018019999
(87)【国際公開番号】WO2019224977
(87)【国際公開日】20191128
【審査請求日】2020年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】蒋 ジヤア
(72)【発明者】
【氏名】小田 崇
(72)【発明者】
【氏名】諸星 勝己
【審査官】 北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/001809(WO,A1)
【文献】 特開2008−284773(JP,A)
【文献】 特開昭56−104015(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/152307(WO,A2)
【文献】 西独国特許出願公開第3624609(DE,A1)
【文献】 国際公開第2015/198722(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
B29C 33/00−33/76
B29C 43/00−43/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも可動型と支持部を有する固定型と、を備える金型を用い、
金属プレートと、該金属プレートの一方の面に配置された熱可塑性樹脂を備える部品を成形する方法であって、
予め成形された金属プレートを上記金型内に配置する配置工程と、
上記支持部で上記金属プレートを上記可動型に押し当て固定する固定工程と、
上記金属プレートと上記固定型との間に形成されたキャビティに上記熱可塑性樹脂を射出する射出工程と、
上記支持部で上記金属プレートを上記可動型に押し当てながら、上記支持部を移動または変形させて上記金型を閉じ切り、上記熱可塑性樹脂を上記金属プレートと共にプレスして、上記熱可塑性樹脂を上記金属プレートに密着させると共に、上記支持部で上記熱可塑性樹脂から上記金属プレートを露出させ露出部を形成する成形工程と、を有することを特徴とする成形方法。
【請求項2】
上記固定工程が、上記金属プレートを吸引又は磁気により上記可動型に密着させる処理を含むことを特徴とする請求項に記載の成形方法。
【請求項3】
上記成形工程が、上記支持部により上記金属プレートを上記可動型に押し当てる力を、上記金型が閉じるにつれて増加させる処理を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の成形方法。
【請求項4】
さらに、
上記固定工程後に、
上記キャビティを減圧する減圧工程を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の成形方法。
【請求項5】
さらに、
上記成形工程前に、少なくとも上記金属プレートの周縁部を加熱する加熱工程を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の成形方法。
【請求項6】
上記成形工程が、金型を閉じる速度を変化させる処理を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の成形方法。
【請求項7】
金属プレートと、該金属プレートの一方の面に配置された熱可塑性樹脂とを備える部品成形用金型であって、
少なくとも可動型と固定型とを備え、
上記固定型が、上記可動型に向けて進退し、上記金属プレートに当接して該上記金属プレートを上記可動型に押し当てる支持部を有し、
上記固定型と上記金属プレートとでキャビティを形成し、
上記支持部は上記金型が開いた状態で上記熱可塑性樹脂をせき止め、露出部を形成することを特徴とする金型。
【請求項8】
上記固定型が、上記金属プレートと共にキャビティを形成する上記支持部の外側に、さらに外側支持部を備えることを特徴とする請求項に記載の金型。
【請求項9】
上記支持部が、上記金属プレートを上記可動型に押し当てる力を制御できることを特徴とする請求項7又は8に記載の金型。
【請求項10】
上記支持部が、上記金属プレートとの当接部にエラストマーを備えることを特徴とする請求項に記載の金型。
【請求項11】
上記可動型が、吸引口、吸盤、および電磁石から成る群から選択された少なくとも1つを備えることを特徴とするに請求項7〜10のいずれか1つの項に記載の金型。
【請求項12】
上記固定型が、上記キャビティに連通する排気経路を備えることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1つの項に記載の金型。
【請求項13】
上記可動型と上記固定型の少なくとも一方が加熱装置を備えることを特徴とする請求項7〜12のいずれか1つの項に記載の金型。
【請求項14】
上記可動型又は上記固定型が、上記金属プレートの位置決めガイドピンを備えることを特徴とする請求項7〜13のいずれか1つの項に記載の金型。
【請求項15】
上記支持部が、該支持部と金属プレートとが当接した箇所及びそれよりも上記金属プレートの外周側の部分に上記露出部を形成することを特徴とする請求項7〜14のいずれか1つの項に記載の金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂と金属プレートとの複合体を用いた部品の成形方法に係り、更に詳細には、熱可塑性樹脂と金属プレートとが直接接着した部品の成形方法、及び該成形方法に用いる金型に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品においては、樹脂と金属部材との複合体を用いて車両重量の軽量化が図られており、樹脂と金属材との接着には、接着剤が多用されている。
【0003】
樹脂と金属材とを接着する接着剤が多く開発されてはいるが、金属部材と樹脂とでは熱収縮率が異なるため、金属部材と樹脂に挟まれた接着剤に残留剪断応力が発生し、接着剤が破断して剥離が生じやすい。
【0004】
特許文献1には、表面が前処理された金属製の内部薄板上に射出成形によりプラスチックリブ構造を形成し、上記プラスチックリブ構造を外部薄板で覆い、上記内部薄板と上記外部薄板とを溶接した自動車部品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特開2010−120384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、薄い金属プレートは、その厚さから変形が生じ易く高精度なプレス成形が困難であるため、予め成形した金属プレートを金型内に配置すると、金属プレートと金型との間に、金属プレートのゆがみに起因する隙間が生じてしまう。
【0007】
したがって、金型内に配置した金属プレートに樹脂を付与する際、射出圧やプレス圧によって、金属プレートが金型内で移動したり傾いたりし易く、金属プレートの所望の位置に熱可塑性樹脂を付与することが困難である。
【0008】
特に、熱可塑性樹脂が強化繊維を含み流動性が低い場合や、熱可塑性樹脂を薄くかつ広範に付与する場合は、射出圧やプレス圧を高くする必要があり、金属プレートが金型内で動き、金属面を露出させる接合領域に熱可塑性樹脂が漏れて他の部品の金属面との接合が困難になる。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、金属プレートと、該金属プレートの一方の面に配置された熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂とを備える部品において、熱可塑性樹脂の漏れがなく確実に他の部品の金属面との接合領域、特に溶接領域を確保できる成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、固定型側から金属プレートを可動型に押し当て固定すると共に、上記固定型の支持部で熱可塑性樹脂から上記金属プレートを露出させることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の成形方法は、少なくとも可動型と支持部を有する固定型と、を備える金型を用いて、金属プレートと、該金属プレートの一方の面に配置された熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂とを備える部品の成形方法である。
そして、予め成形された金属プレートを上記金型内に配置する配置工程と、
上記支持部で上記金属プレートを上記可動型に押し当て固定する固定工程と、
上記金属プレートと上記固定型との間に形成されたキャビティに上記熱可塑性樹脂を射出する射出工程と、
上記支持部で上記金属プレートを上記可動型に押し当てながら、上記支持部を移動または変形させて上記金型を閉じ切り、上記熱可塑性樹脂を上記金属プレートと共にプレスして、上記熱可塑性樹脂を上記金属プレートに密着させると共に、上記支持部で上記熱可塑性樹脂から上記金属プレートを露出させ露出部を形成する成形工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の金型は、金属プレートと、該金属プレートの一方の面に配置された熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂とを備える部品成形用金型である。
そして、少なくとも可動型と固定型とを備え、
上記固定型が、上記可動型に向けて進退し、上記金属プレートに当接して該上記金属プレートを上記可動型に押し当てる支持部を有し、
上記固定型と上記金属プレートとでキャビティを形成し、
上記支持部は上記金型が開いた状態で上記熱可塑性樹脂をせき止め、露出部を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、支持部を有する固定型により、金属プレートを可動型に押し付けて固定すると共に、上記支持部で熱可塑性樹脂から上記金属プレートを露出させることとしたため、熱可塑性樹脂の漏れがなく確実に他の部品の金属面との接合領域を確保できる成形方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の成形方法を射出成型法に適用したときの工程を説明する図である。
図2】本発明の成形方法をプレス成形法に適用したときの工程を説明する図である。
図3】本発明の成形方法を射出プレス成型法に適用したときの工程を説明する図である。
図4】金属プレートの片側のみに露出部を有する部品の一例を示す平面図である。
図5】ライナー層の一方の面の全体を金属プレートに直接接着した部品の一例を示す断面図である。
図6】本発明の金型の一例を示す概略図である。
図7】固定型の支持部が進退して、金属プレートを固定型に押し当てる状態を説明する図である。
図8】支持部が熱可塑性樹脂から上記金属プレートを露出させて露出部を形成する状態を説明する図である。
図9】2重の支持部を有する金型の一例を示す図である。
図10】中空構造のエラストマー製の支持部が進退状態を説明する図である。
図11】金属プレートを溶接した中空構造の部品の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の成形方法について詳細に説明する。
上記成形方法は、金属プレート2と、該金属プレートの一方の面に配置された熱可塑性樹脂3とを備える部品1を成形する方法であり、少なくとも配置工程と、固定工程と、成形工程とを有する。
本発明の成形方法の工程の一例を示す概略図を図1に示す。
【0016】
上記配置工程S101は、予め成形された金属プレート2を上記金型4内に配置する工程である。
上記金属プレート2は、プレス成形などにより所定の形状に成形され、金型4内に隙間なくぴったりはまるように成形されている。
【0017】
しかし、プレス成形自体の寸法精度が低いのに加えて、金属プレート2の厚さを薄く、例えば、0.5mm〜2.5mmにすると金属プレート2自体の剛性が低くなり、金属プレート2が変形し易くなり、金型4にぴったりとはまらずに金型4と金属プレート2との間に隙間が生じてしまう。
【0018】
このように、金型4と金属プレート2との間に隙間が存在する状態で、加熱されて軟化した熱可塑性樹脂3を付与し、該熱可塑性樹脂3を金属プレート2に密着させると、金属プレート2が上記熱可塑性樹脂3で押され、金型4内で動いてしまう。したがって、所望の位置に熱可塑性樹脂3を付与することができない。
【0019】
本発明は固定工程S102を有し、上記固定型6の支持部7で上記金属プレート2を上記可動型5に押し当てるため、金属プレート2が金型に隙間なくぴったりとはまり、金属プレート2を固定することができる。
【0020】
そして、成形工程S104において、上記金型4を閉じて上記固定型6と上記金属プレート2との間にキャビティを形成し、加熱・軟化させた熱可塑性樹脂3を射出又はプレスして上記金属プレート2に密着させる。
【0021】
このとき、熱可塑性樹脂3を付与せずに金属プレート2を露出させる箇所の支持部7aは、上記金属プレート2に当接したままで熱可塑性樹脂3をせき止め、上記金属プレート2の表面に熱可塑性樹脂3が付与されていない露出部21を形成する。
したがって、熱可塑性樹脂3を所望の箇所のみに付与することができ、熱可塑性樹脂3が漏れることなく他の部品の金属面との接合領域を形成できる。
【0022】
また、金属プレート2を可動型5に固定するだけで熱可塑性樹脂3を付与する箇所の支持部7bを、その周囲に熱可塑性樹脂3が供給された後に固定型6の内部に引っ込める。
【0023】
すると、熱可塑性樹脂3が流動して支持部7bの跡を埋めるため、例えば、図4に示すように、金属プレート2の片側端部のみに露出部21を形成する場合であっても、金属プレート2の全体を可動型5に均等に押し当てて固定することが可能である。
【0024】
なお、上記支持部7bを固定型6の内部に引っ込めたとしても、上記支持部7bの代わりに熱可塑性樹脂3が金属プレート2を可動型5に押し当てるため、金属プレート2と可動型5との間に隙間が生じることはない。
【0025】
上記成形方法は、図1に示す射出成形法の他、図2に示すプレス成形法や、図3に示す射出プレス成形法に適用できる。
【0026】
上記成形方法は、図3に示すように、上記固定工程後上記成形工程前に、上記金属プレートと上記固定型との間に、上記軟化した熱可塑性樹脂を射出する射出工程S103を有する射出プレス成形法であることが好ましい。
【0027】
例えば、リブやビードなどの補強構造部31だけでなく、図5に示すように、金属プレート2を被覆する連続したライナー層32を形成し、該ライナー層32の一方の面の全体を上記金属プレート2に直接接着した構造の部品1を成形する場合は、熱可塑性樹脂3を薄く広げるために熱可塑性樹脂3の流動性を高くする必要がある。
【0028】
このような構造の部品1を、射出成形で成形する場合、すなわち、図1に示すように、成形工程S104で熱可塑性樹脂3を射出し金属プレート2に密着させる場合は、熱可塑性樹脂3の分解温度を超えて加熱できないため、流動性の向上には限界がある。
【0029】
さらに、熱可塑性樹脂3が炭素繊維やガラス繊維などの強化繊維を含む場合は流動性が低下するため、上記形状の部品1の成形が困難である。
【0030】
また、上記部品1をプレス成形で成形する場合は、図2中の配置工程S101で金属プレート2と共に熱可塑性樹脂3の塊を金型4内に置いてプレスするため、熱可塑性樹脂3の塊が持ち上げられる程度に流動性を失っていなければ金型4内に置くことができない。
【0031】
したがって、プレス成形では熱可塑性樹脂3の流動性を高くすること自体が困難であるのに加えて、持ち上げられる程度に流動性を失っていると、熱可塑性樹脂3が金属プレート2表面の微細な凹凸内に入り込み難く、熱可塑性樹脂3と金属プレート2との微視的な密着性が低下して接着強度が低下する。
【0032】
上記射出プレス成形法は、図3中S103で示す射出工程を有し、金型4が僅かに開き、成形後の所望の形状のライナー層32よりも厚いキャビティを形成した状態で、固定型6側から該キャビティに熱可塑性樹脂3を射出する。そして、上記支持部7を固定型6内に移動させながら金型4を閉じ切って、固定型6と金属プレート2とで成形後の所望の形状のライナー層32の厚みのキャビティを形成し、射出した熱可塑性樹脂3をプレスし、熱可塑性樹脂3を金属プレート2に密着させると共に、上記支持部7aで熱可塑性樹脂7をせき止め、上記金属プレート2を露出させて露出部を形成する。
【0033】
したがって、射出プレス成形法によれば、射出された熱可塑性樹脂3の高い流動性とプレス圧とが相俟って、薄く広い形状のライナー層32を形成できると共に、熱可塑性樹脂3と金属プレート2との接着強度を向上できる。
【0034】
しかし、上記射出プレス成形法は、上記のように、金型4を僅かに開いた状態で熱可塑性樹脂3を射出するため、金属プレート2を金型4に固定することができず、特に金属プレート2の移動や変形が生じ易い。
【0035】
本発明においては、上記固定工程S102により、金属プレート2が可動型5に固定されている。したがって、金型4が開いた状態で熱可塑性樹脂3を射出する射出プレス成形法であっても、射出圧によって金属プレート2が移動せず、熱可塑性樹脂3を所望の箇所に付与することができ、熱可塑性樹脂3が漏れずに上記金属プレート2の表面に熱可塑性樹脂3が付与されていない露出部21を形成できる。
【0036】
上記固定工程S102は、上記金属プレート2を吸引又は磁気により上記可動型5に密着させる処理を含むことが好ましい。上記支持部7による押し当てと吸引や磁気を併用することで、上記金属プレート2の全面を可動型5に密着させることができ、部品1の寸法精度が向上する。
【0037】
上記成形工程S104は、上記支持部7により上記金属プレート2を上記可動型5に押し当てる力を、上記金型4が閉じるにつれて増加させる処理を含むことが好ましい。
【0038】
金型4が閉じて熱可塑性樹脂3が押し広げられると、支持部7aが熱可塑性樹脂3から受ける応力が大きくなり、支持部7aと金属プレート2とが当接する箇所から熱可塑性樹脂3が漏れ易くなる。
【0039】
金型4が閉じるにつれて上記支持部7aが上記金属プレート2を押す力を大きくすることで、プレスされた熱可塑性樹脂3の反力に抗することができ、熱可塑性樹脂3の漏れを防止することができる。
【0040】
上記押し当てる力の調節は、支持部7に設けた圧力センサをフィードバックして制御できる。
【0041】
上記成形方法は、上記固定工程S102後に、上記キャビティを減圧する減圧工程を有することが好ましい。キャビティ内のガスを抜き、キャビティを減圧することで、熱可塑性樹脂3を射出する際のガスの抵抗が低減され、熱可塑性樹脂3が充填され易くなって成形性が向上し、部品中のボイドの発生が防止され部品強度が向上する。
【0042】
上記キャビティの減圧は、固定型6にキャビティに連通する排気経路を設け、キャビティを直接減圧してもよく、金型4全体をチャンバーで覆い、該チャンバー内を減圧して金型4の隙間を介してキャビティを減圧してもよい。
【0043】
上記成形方法は、上記成形工程S104前に、少なくとも上記金属プレート2の周縁部を加熱する加熱工程を有することが好ましい。
【0044】
成形の際、一般に熱可塑性樹脂3は、金属プレート2の中央部から周縁部に向けて流動するため、周縁部では熱可塑性樹脂3が冷えて流動性が低下し易い。
金属プレート2の周縁部を加熱することで、熱可塑性樹脂3の流動性が向上して周縁部まで行きわたり易くなって成形性が向上する。
【0045】
また、金属プレート2の表面が粗面化されている場合は、金属プレート表面の凹凸に熱可塑性樹脂3が入りこんで接着強度が向上する。
【0046】
上記金属プレート2は、可動型5や固定型6の支持部7を介して加熱してもよく、また配置工程前に予め加熱しておいてもよい。
【0047】
また、成形工程S104は、金型4を閉じる速度を変化させる処理を含むことが好ましい。金型4を閉じる速度を変化させることで、熱可塑性樹脂3の流動性や部品形状に応じた成形が可能であり、成形性が向上する。
【0048】
そして、成形が終了したら、型開け工程S105で金型4を開き、部品1を取り出す。
【0049】
上記金属プレート2としては、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス、銅、チタン、マグネシウム、黄銅などの金属板の他、上記金属をメッキした金属板を使用できる。
【0050】
上記金属プレート2は、化学エッチングにより表面が粗面化されていることが好ましい。
例えば、アンモニア、ヒドラジン及び/又は水溶性アミン化合物の水溶液に浸漬する化学エッチングは、機械的な粗面化処理と異なり、開口径よりも内径が大きい孔が形成され、アンカー効果により、熱可塑性樹脂3と金属プレート2とを強固に接着できる。
【0051】
また、熱可塑性樹脂3としては、ナイロンなど、従来公知の熱可塑性樹脂を使用でき、上記熱可塑性樹脂3は、炭素繊維やガラス繊維などの強化繊維を含有することができる。
【0052】
次に、本発明の金型について説明する。
本発明の金型の概略図を図6に示す。
上記金型4は、上記成形法に用いられ、金属プレート2と、該金属プレート2の一方の面に配置された熱可塑性樹脂3とを備える部品成形用の金型であり、少なくとも可動型5と支持部7を有する固定型6とを備える。
【0053】
上記固定型6の支持部7は、図7に示すように、上記可動型5に向けて進退して上記金属プレート2を上記可動型5に押し当て、上記支持部7と可動型5とで金属プレート2を挟んで固定する。
【0054】
上記固定型6と上記金属プレート2との間には、熱可塑性樹脂3を成形するキャビティが形成され、上記支持部7aは、図8に示すように、金属プレート2に当接して熱可塑性樹脂3をせき止める。したがって、上記支持部7aが当接している箇所には熱可塑性樹脂3が付与されず露出部21が形成される。
【0055】
上記固定型6は、図9に示すように、上記金属プレート2と共にキャビティを形成する支持部7aの外側に、さらに外側支持部7cを備えることが好ましい。
熱可塑性樹脂3をせき止めて漏れを防止する支持部7aと、金属プレート2を固定する外側支持部7cとに分けることで、設計の自由度が高くなり、成形性が向上する。
【0056】
上記支持部7aの上記金属プレート2を上記可動型5に押し当てる力が、可変であることが好ましい。金型4が閉じるにつれて上記支持部7が上記金属プレート2を押す力を大きくすることで、プレスされた熱可塑性樹脂3の反力に抗して漏れを防止することができる。
【0057】
上記支持部7は、図8、9に示すように、上記金属プレート2との当接部にエラストマー71を備えることが好ましい。
当接部にエラストマー71を備えることで金属プレート2を傷つけることが防止される。加えて、金属プレート2の表面に凹凸がある場合であっても、支持部7aが金属プレート2に密着して金属プレート2を確実に固定し、熱可塑性樹脂3の漏れを防止できる。
【0058】
上記支持部7は、図8、9に示すように、金属製のスライドコアの当接部にエラストマー71を設けてもよいが、全体を密実又は中空のエラストマーで形成することでコストを低減できる。
【0059】
さらに、図10に示すように、上記支持部7が中空構造のエラストマー71で形成されていると、エラストマー中空内部の空気圧を変えることができる。したがって、金属プレート2に当接する当接圧を可動型5に向けて進退する距離に応じて変えることができ、支持部7が可動型5に向かって伸びたときでも当接圧が下がらず、金属プレート2をしっかりと固定できる。
【0060】
上記エラストマーとしては、耐熱性を有するエラストマーを使用することができ、例えば、シリコンゴムや、フッ素ゴムを使用できる。
【0061】
上記可動型5は、吸引口、吸盤、および電磁石から成る群から選択された少なくとも1つを備えることが好ましい。
上記固定型6の支持部7による押し当てと、可動型5側からの引張りにより上記金属プレート2の全面を可動型5に密着させることができ、部品1の寸法精度が向上する。
【0062】
また、上記固定型6は、上記キャビティに連通する排気経路を備えることが好ましい。排気経路からキャビティ内のガスを抜きキャビティを減圧することで、熱可塑性樹脂3を射出する際のガスの抵抗が低減され、熱可塑性樹脂3が充填され易くなって成形性が向上する。
【0063】
上記可動型5と上記固定型6とは、少なくとも一方が加熱装置を備えることが好ましい。
一般に熱可塑性樹脂は、金属プレート2の中央部から周縁部に向けて流動するため、周縁部では熱可塑性樹脂3が冷えて流動性が低下し易い。少なくとも上記金属プレート2の周縁部と当接する箇所に加熱装置を備え、金属プレート2を加熱することで、熱可塑性樹脂3の流動性が向上し成形性が向上する。
【0064】
上記可動型5又は上記固定型6が、上記金属プレート2の位置決めガイドピンを備えることが好ましい。位置決めガイドピンと金属プレート2に形成した位置決め孔とを合わせることで、金属プレート2を金型4内の所定の位置に配置することができ、生産性が向上する。
【0065】
上記のように、本発明の金型4を用い上記成形方法により、樹脂−金属複合体を用いた部品を成形することにより、熱可塑性樹脂3の漏れがなく確実に露出部21を形成して他の部品の金属面との接合領域を確保できる。
【0066】
したがって、上記部品1は、露出部21により、スポット溶接、レーザー溶接、ろう付け、摩擦熱溶着などの溶接の他、リベット等を用いた金属面同士の締結、接着剤等を用いた金属面同士の接着が可能である。
【0067】
そして、例えば、他の金属プレートを上記露出部21に接合し、図11に示すような、中空構造の軽量かつ高強度の部品1を作製することができ、ボディサイドパネル、リアフェンダー、ダッシュパネルなどの骨格部材の他、ドアパネルやバックドアパネルなどの自動車部品を作製できる。
【符号の説明】
【0068】
1 部品
2 金属プレート
21 露出部
3 熱可塑性樹脂
31 補強構造部
32 ライナー層
4 金型
5 可動型
6 固定型
7(a、b)支持部
7c 外側支持部
71 エラストマー
8 溶接
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11