【実施例】
【0030】
次に、本実施形態のドアインパクトビーム10の実施例について、性能評価を行った。なお、本発明はこの実施例に限定されない。実施例との比較のため、比較例についても同様に性能評価を行った。性能評価は、三点曲げ試験装置40を用いて、垂直荷重に対するドアインパクトビームの反力の大きさを評価する方法によって行った。
【0031】
図4に示すように、三点曲げ試験装置40は、800mmの間隔を隔てた一対の支柱41と、両支柱41の中央上方に設けられた押圧具42とを有している。支柱41及び押圧具42のそれぞれの先端部は弧状をなすように形成されており、支柱41の先端部の半径R1は25mm、押圧具42の先端部の半径R2は150mmとなっている。試験時には、両支柱41の間に、評価対象Tとなるドアインパクトビームを、両支柱41の中央部に本体部11の中心部が配置されるように架け渡す。その上で、押圧具42を用いて測定対象の中心部(押圧点)に上から下へ垂直荷重をかける。
【0032】
実施例1として、引張強度TSが1800MPaの高張力鋼板によって形成されるとともに、左右の端縁部23,24(短辺部)にマッチング25が設けられたドアインパクトビーム10を用いた。
【0033】
実施例2として、引張強度TSが2000MPaの高張力鋼板によって形成されるとともに、左右の端縁部23,24(短辺部)にマッチング25が設けられたドアインパクトビーム10を用いた。
【0034】
比較例1として、実施例1と同じく引張強度TSが1800MPaの高張力鋼板によって形成されている一方で、マッチング25については、従来技術と同じく本体部11の上縁部11a及び下縁部11b(長辺部)に形成されたものを用いた。
【0035】
比較例2として、実施例2と同じく引張強度TSが2000MPaの高張力鋼板によって形成されている一方で、マッチング25については、従来技術と同じく本体部11の上縁部11a及び下縁部11b(長辺部)に形成されたものを用いた。
【0036】
比較例3及び比較例4は、引張強度TSが1500MPaの高張力鋼板によって形成されるとともに、長辺部及び短辺部にそれぞれマッチング25が設けられたものを用いた。このうち、マッチング25が長辺部に設けられたものを比較例3とし、短辺部に設けられたものを比較例4とした。
【0037】
上記実施例1,2及び比較例1〜4のそれぞれについて行った性能評価の結果を示すグラフを
図5〜
図7に示す。これらの図は、垂直荷重に対するドアインパクトビームの反力の大きさ(荷重)と、押圧点におけるドアインパクトビームに対する押し込み量(ストローク)との関係を示している。
図5に示すグラフは比較例3及び比較例4の性能特性を示しており、比較例3のグラフはC3で示し、比較例4のグラフについてはC4で示す。
図6に示すグラフは実施例1及び比較例1の性能特性を示しており、図中、実施例1のグラフはE1で示し、比較例1のグラフについてはC1で示す。
図7に示すグラフは実施例2及び比較例2の性能特性を示しており、図中、実施例2のグラフはE2で示し、比較例2のグラフについてはC2で示す。
【0038】
図5のグラフに示されているように、引張強度TSが1500MPaの高張力鋼板が用いられた場合、マッチング25が長辺部及び短辺部のいずれに形成されていても、ほぼ同じ測定結果が得られた。すなわち、押し込み当初からストローク量の増大に伴って略直線的に荷重が増加し、その後、荷重増加の程度は緩やかとなって80mmのあたりのストローク量で荷重は最大値(15.3〜15.4KN程度)に達する。さらにストローク量が増大すると、荷重は緩やかに低下する。この関係から、引張強度TSが1500MPaの高張力鋼板を用いたドアインパクトビームでは、マッチング25が設けられる位置にかかわらず、衝突エネルギーの吸収性能が急激に低下する現象は見られない。
【0039】
これに対し、
図6のグラフに示されているように、引張強度TSが1800MPaの高張力鋼板が用いられた場合、マッチング25が短辺部に設けられた実施例1と長辺部に設けられた比較例1とでは大きく異なる結果が得られた。すなわち、比較例1の場合、当初はストローク量の増大に伴って荷重が増加するものの、ストローク量が60mmに達するとドアインパクトビームの破断によって荷重が急激に低下し、零となる。一方、実施例1では、比較例3及び4と比較して、引張強度が高まったことにより荷重の最大値が19.5KNまで高まり、荷重とストロークとの関係は同じ傾向を示した。このような相違は、長辺部にマッチング25が形成された比較例1では、マッチング25が設けられた部分に局所的に応力が集中する一方、実施例1ではそのような応力集中が生じていないことが原因となっている。このように、引張強度TSが1800MPaの高張力鋼板を用いた実施例1では、側面衝突時に本体部11の変形量が増大しても、衝突エネルギー吸収性能を安定的に維持することができる。
【0040】
このような傾向は、引張強度TSが2000MPaの高張力鋼板が用いられた場合でも、
図7のグラフに示されているように、同様に得られた。すなわち、比較例2では、当初はストローク量の増大に伴って荷重が増加するものの、ストローク量が56mmに達するとドアインパクトビームの破断によって荷重が急激に低下して零となる。一方、実施例2では、実施例1と比較して、引張強度が高まったことにより荷重の最大値が21.7KNまで高まり、荷重とストロークとの関係は実施例1と同じ傾向を示した。したがって、引張強度TSが2000MPaの鋼板を用いた実施例2でも、衝突エネルギー吸収性能を安定的に維持することができる。
【0041】
以上より、本実施形態のドアインパクトビーム10によれば、本体部11の上下縁部11a,11bではなく左右端縁部23,24の短辺部にマッチング25が設けられている。そのため、側面衝突時に本体部11の変形量が増大しても、衝突エネルギーの吸収性能が急激に低下することなく安定的に維持することができる。この効果は、ドアインパクトビーム10を形成する素材として、引張強度が1800MPa〜2000MPaの範囲の高張力鋼板を用いることにより顕著となる。
【0042】
次に、ドアインパクトビーム10及びその製造方法は、上記実施の形態で説明した構成に限定されるものではなく、例えば以下のように実施してもよい。
【0043】
(a)ドアインパクトビーム10において、
図1に示した形状は、あくまで一般的な形状を一例として示したものであり、膨出部22が一つのハット形状を有する形状、一対の膨出部22が短手方向に一部拡げられた形状など、他の形状であってもよい。
【0044】
(b)ドアインパクトビーム10において、左右の端縁部23,24に設けられたマッチング25は、一つであっても、3つ以上の複数であってもよい。マッチング25は、複数段階の切断加工を行う際に、各段階での切断箇所をどう設定するかによって変更され得る。
【0045】
(c)ドアインパクトビーム10において、マッチング25の形状は上記実施形態のように四角形状ではなく、三角形状その他の角形状であってもよいし、円弧状など角形状以外の形状であってもよい。
【0046】
(d)ドアインパクトビーム10において、その外縁部全域において、複数段階の切断加工を経るために形成されるマッチング25等の凹部がそもそも設けられていないものを採用してもよい。この構成によっても、左右の端縁部23,24にマッチング25等の凹部が設けられたドアインパクトビーム10と同じく、局所的な応力が集中する凹部が長辺部に設けられないことから、衝突エネルギー吸収性能を安定的に維持することができる。
【0047】
(e)ドアインパクトビーム10の製造方法として、前段加工及び後段加工のうち少なくともいずれか一方について、プレス切断加工ではなくレーザ切断加工を採用してもよい。レーザ切断加工を用いた場合でも、前段加工における第1切断ラインL1と後段加工における第2切断ラインL2とが交わるつなぎ部26には、
図1の拡大部分に二点鎖線で示すように、レーザ加工痕29が形成される。レーザ加工痕29は、マッチング25と同様に凹状をなしている。なお、このようなレーザ加工痕29は、
図1の拡大部分だけでなく、マッチング25が設けられた全ての部分において、マッチング25に代わって形成される。
【0048】
例えば、前段加工としてレーザ切断加工が行われる場合には、切断当初のピアッシングにより外縁部にはピアス痕の窪みがレーザ加工痕29として形成されることがある。また、後段加工としてレーザ切断加工が行われる場合には、ピアッシングが不要であっても、切断開始点や切断終了点には、レーザ照射によって切断ラインよりも内側へ窪んだレーザ切断開始痕やレーザ切断終了痕としてレーザ加工痕29が形成される。そこで、左右の端縁部23,24につなぎ部26を設けることにより、凹状をなすレーザ加工痕29が左右の端縁部23,24に設けられたドアインパクトビーム10を得ることができる。
【0049】
(f)ドアインパクトビーム10の製造方法として、上記実施形態で説明したトリミング工程は必須ではなく、トリミング工程を経ない方法を採用してもよい。
【0050】
上記実施形態のようにトリミング工程を有する場合もトリミング工程を有しない場合であっても、鋼板からブランク材を得る工程において、上記のようにプレス切断加工による前段加工と後段加工とを適用してもよい。この場合も、前段加工及び後段加工の少なくともいずれか一方において、プレス切断加工ではなくレーザ切断加工を採用してもよい。
【0051】
(g)ドアインパクトビーム10の製造方法として、ブランク材を得る工程又はトリミング工程では、上記実施形態のように2段階で切断するのではなく、3段階以上の工程を経て切除部分32を切除するようにしてもよい。もっとも、この場合であっても、上記実施形態のように、左右の端縁部23,24にマッチング25が形成されるように切断ラインが設定される。
【0052】
(h)ドアインパクトビームの製造方法として、ブランク材を得る工程やトリミング工程でマッチング25等の凹部が形成されない方法を採用してもよい。この方法を採用したトリミング工程の一例について、
図8を参照しながら説明する。
図8に示すように、この別形態の製造方法も、前段階のプレス切断加工工程(前段加工)と、後段階のプレス切断加工工程(後段加工)とを有する。この2つの工程により、
図8(a)に示す被トリム部品30のうち切除部分32を2段階に分けて切除する。
図8(b)に示すように、前段加工による切除で第1切除部分33を切除し、後段加工によって第2切除部分34を切除する点は上記実施形態と同じである。ただ、上記実施形態とは、前段加工によって切除されて残った第2切除部分34の形状が異なる。
【0053】
図1に示すように、ドアインパクトビーム10は、ブラケット部12における上下の縁部12a,12bと、左右の端縁部23,24とで形成された角部27とを有している。これら各角部27は、それぞれ所定の半径を有する円弧状をなしている。別形態の製造方法では、
図8(a)に示すように、この各角部27が形成される箇所に、第1切断ラインL1と第2切断ラインL2とが交わるつなぎ部28が設定される。
【0054】
前段加工では、本体部11における上下の縁部11a,11bと、ブラケット部12における上下の縁部12a,12bに沿うように第1切断ラインL1が設定される。つなぎ部28における第1切断ラインL1は、
図8(c)に一部のつなぎ部28aについて拡大して示すように、前段及び後段加工によって形成される角部27の半径に沿いながら途中で直線状をなして延びるように設定される。この切除により、
図8(b)及び
図8(c)に示すように、本体部11の上下の縁部11a,11bからブラケット部12の上下の縁部12a,12bまでと、角部27を形成する一部が切除される。続く後段加工では、後段加工によって形成される左右の端縁部23,24に沿うとともに、角部27の半径に沿いながら途中で直線状をなして延びる第2切断ラインL2が設定される。この切除により、左右の端縁部23,24と、角部27を形成する残りの部分が切除される。このような2つの切断ラインL1,L2が設定されることにより、マッチング25を設けることなくドアインパクトビーム10を得ることができる。
【0055】
なお、課題を解決するための手段として記載した第1〜第3の発明の他に、本実施の形態から抽出され得る発明についてその効果を示しつつ説明する。
【0056】
手段1.長尺状をなす車体部品の製造方法であって、
複数段階の打ち抜き加工又はレーザ切断加工を含む複数段階を経て鋼板を切断する第1工程と、
前記第1工程により得られた鋼板をハット形状に成形する第2工程と、
を備え、
前記第1工程では、当該工程によって形成される外縁部のうち車体部品の短辺部となる部位に、前段加工における第1切断ラインと後段加工における第2ラインとが交わるつなぎ部を設定するようにしたことを特徴とする車体部品の製造方法。
【0057】
手段1の製造方法によれば、複数段階の切断加工に伴って形成されるマッチングやレーザ照射に伴って形成されるレーザ加工痕が外縁部のうち短辺部に設けられた車体部品が得られる。マッチングやレーザ加工痕が短辺部に設けられていることにより、長辺部にマッチングやレーザ加工痕が設けられている構成と異なり、側面衝突時にマッチングやレーザ加工痕へ応力が集中することを回避し、衝突エネルギー吸収性能を安定的に維持することができる。
【0058】
手段2.長尺状をなす車体部品の製造方法であって、
複数段階の打ち抜き加工又はレーザ切断加工を含む複数段階を経て鋼板を切断する第1工程と、
前記第1工程により得られた鋼板をハット形状に成形する第2工程と、
を備え、
前記第1工程では、当該工程によって形成される外縁部のうち車体部品の長辺部と短辺部とが交わる角部となる部位に、前段加工における第1切断ラインと後段加工における第2切断ラインとが交わるつなぎ部を設定するようにしたことを特徴とする車体部品の製造方法。
【0059】
手段2の製造方法によれば、複数段階の切断加工に伴って形成されるマッチング、レーザ照射による切断によって形成されるレーザ加工痕が設けられていない車体部品が得られる。これにより、車体部品の長辺部にマッチングやレーザ加工痕が設けられている構成と異なり、側面衝突時にマッチングやレーザ加工痕へ応力が集中することを回避し、衝突エネルギー吸収性能を安定的に維持することができる。
【0060】
手段3.前記車体部品は、引張強度が1600MPa〜2100MPaの高張力鋼板により形成されており、前記工程では前記高張力鋼板が切断されることを特徴とする手段1又は2に記載の車体部品の製造方法。
【0061】
マッチングやレーザ加工痕が長辺部に設けられていることが原因で生じる衝突エネルギー吸収性能の急激な低下は、引張強度が1600MPa〜2100MPaの高張力鋼板を用いた場合に生じる。そのため、手段3の製造方法によれば、この範囲の高張力鋼板を用いて手段1又は手段2の製造方法により車体部品を製造する場合に、衝突エネルギー吸収性能を安定的に維持できるという効果は顕著となる。