【実施例】
【0045】
つぎに、実施例について比較例とあわせて説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例中、「%」とあるのは、特に限定のない限り質量基準を意味する。
【0046】
〔ポリマー成分(水系樹脂エマルジョン)の合成〕
(合成例1−2)スチレンブタジエンゴムエマルション(SBRエマルション)A−1の合成
撹拌機、還流冷却器および温度計を備えたフラスコに、調製水51質量部に、ドデシルベンゼンスルフォン酸塩0.2質量部を仕込み、40℃に昇温した。また、別途、予備乳化液の組成をアクリロニトリル5質量部、メチルメタクリレート8質量部、スチレン55質量部、1,3−ブタジエン32質量部、アルキルベンゼンスルフォン酸塩0.95質量部、を調製水40質量部に乳化分散させ、予備乳化液を調製した。この予備乳化液を滴下ロートより、上記フラスコに4時間かけて滴下すると共に、重合開始剤として、過硫酸ナトリウム開始剤を10%水溶液として0.4質量部添加し、重合を開始した。65℃の反応温度を4時間維持した後、80℃に昇温して、引き続き2時間反応を継続し、SBRエマルションA−1を得た。
【0047】
〔繊維状ナノカーボン材料分散体の作製〕
(合成例2−1)繊維状ナノカーボン材料分散体B−1(実施例用)の作製
SWCNT(OCSiAL社製 TUBALL BATT、CNT純度 >93%、平均径、1.6±0.5nm)1.0gとカルボシキメチルセルロース塩(第一工業製薬株式会社製、セロゲン 7A、2wt%水溶液粘度(25℃):12〜18mPa・s、表2においてC−1)の2wt%水溶液45g およびセルロースナノファイバー(第一工業製薬製、レオクリスタI−2SX―LDS、表2においてD−1)2wt%水溶液5g をビーカー中で混合、攪拌後、超音波ホモジナイザー US−600T (株)日本精機製作所、循環ユニット、およびチューブポンプを接続し、スラリーを循環させながら100uAの出力で90分間分散させて繊維状ナノカーボン材料分散体B−1を得た。
【0048】
(合成例2−2)繊維状ナノカーボン材料分散体B−2(実施例用)の作製
カルボシキメチルセルロース塩(第一工業製薬株式会社製、セロゲン 7A)の2wt%水溶液をカルボシキメチルセルロース塩(第一工業製薬株式会社製、WS−C、表2においてC−2)の2wt%水溶液に変更した以外は合成例2−1に準じて繊維状ナノカーボン材料分散体B−2を作製した。
【0049】
(合成例2−3)繊維状ナノカーボン材料分散体B−3(実施例用)の作製
超音波ホモジナイザーの処理条件を100uA、120分間に変更した以外は合成例2−1に準じて繊維状ナノカーボン材料分散体B−3を作製した。
【0050】
(合成例2−4)繊維状ナノカーボン材料分散体B’−1(比較例用)の作製
超音波ホモジナイザーの処理条件を200uA、240分間に変更した以外は合成例2−1に準じて繊維状ナノカーボン材料分散体B’−1を作製した。
【0051】
(合成例2−5)繊維状ナノカーボン材料分散体B’−2(実施例用)の作製
添加するカルボシキメチルセルロース塩(第一工業製薬株式会社製、セロゲン 7A)の2wt%水溶液45g、セルロースナノファイバー(第一工業製薬製、レオクリスタI−2SX―LDS)2wt%水溶液5gを、カルボシキメチルセルロース塩(第一工業製薬株式会社製、セロゲン 7A)50gのみに変更した以外は合成例2−1に準じて繊維状ナノカーボン材料分散体B’−2を作製した。
【0052】
(合成例2−6)繊維状ナノカーボン材料分散体B’−3(実施例用)の作製
カルボシキメチルセルロース塩(第一工業製薬株式会社製、セロゲン 7A)の2wt%水溶液45gを10g、 およびセルロースナノファイバー(第一工業製薬製、レオクリスタI−2SX―LDS)2wt%水溶液5gを40g に変更した以外は合成例2−1に準じて繊維状ナノカーボン材料分散体B’−3を作製した。
【0053】
[繊維状ナノカーボン材料分散体の評価]
繊維状ナノカーボン材料分散体の平均繊維幅、平均繊維長を、走査型プローブ顕微顕微鏡(SPM)(日本電子社製、AFM−5300E)を用いて観察した。すなわち、各繊維状ナノカーボン分散体を固形分濃度0.01wt%まで希釈後、マイカ基板上にキャストし、乾燥したサンプルのAFM像を観察し、先に述べた方法に従い、平均繊維幅、平均繊維長を算出した。また、これらの値を用いてアスペクト比を下記の式1に従い算出した。
【0054】
アスペクト比=平均繊維長(nm)/平均繊維幅(nm)…(式1)
【0055】
測定結果を表1に示す。実施例用の繊維状ナノカーボン材料分散体B−1〜B−3は、平均繊維幅が1〜200nmの範囲内であり、平均繊維長は0.5μm以上であった。これに対し、比較例用の
繊維状ナノカーボン材料分散体B’−1は平均繊維長が上記範囲外であった。
【0056】
【表1】
【0057】
[塗料・電極の作製]
(負極1)
負極活物質として、SiO(平均粒径4.5μm、比表面積5.5m
2/g)とグラファイト(平均粒径18μm、比表面積3.2m
2/g)を95部(含有比率20/80)、 導電助剤としてアセチレンブラック(デンカ社製、Li−400、表2においてF−1とする) 2部と分散剤兼結着剤としてカルボキシメチルセルロース塩(第一工業製薬株式会社製、WS−C、表2においてG−1とする)を0.8部、ポリマー成分としてSBRエマルションA−1(表2においてA−1とする)を2部(固形分部数)と繊維状ナノカーボン材料分散体B−1を0.2部(固形分部数)の混合物をホモディスパーにて攪拌処理を行い、固形分40%になるように負極スラリーを調製した。この負極スラリーをロールコーター(サンクメタル製、製品名チビコーター)で厚み10μmの電解銅箔上にコーティングを行い、120℃で乾燥後、ロールプレス処理を行い、負極活物質7〜8mg/cm
2の負極1を得た。
【0058】
(負極2、3)
繊維状ナノカーボン材料分散体B−1をそれぞれ表1に記載のB−2、B−3に変更した以外は負極1と同様の方法で作製した。
【0059】
(負極4)
負極活物質として、SiO(平均粒径4.5μm、比表面積5.5m
2/g)とグラファイト(平均粒径18μm、比表面積3.2m
2/g) を96部(含有比率10/90)、導電助剤としてアセチレンブラックを1.5部、ポリマー成分としてSBRエマルションA−1を1.5部(固形分部数)に変更した以外は負極3と同様の方法で負極活物質重量8〜9mg/cm
2の負極4を作製した。
作製した。
【0060】
(負極5)
負極活物質を、SiO(平均粒径4.5μm、比表面積5.5
m2/g)とグラファイト(平均粒径18μm、比表面積3.2m
2/g) を92部(含有比率30/70)、導電助剤としてアセチレンブラックを2.5部、分散剤兼結着剤としてカルボキシメチルセルロース塩を1.3部、ポリマー成分としてSBRエマルションA−1を4部(固形分部数)に変更した以外は負極3と同様の方法で負極活物質重量5〜6mg/cm
2の負極5を作製した。
【0061】
(負極6)
負極活物質を、SiO(平均粒径7μm、比表面積2.2m
2/g)とグラファイト(平均粒径18μm、比表面積3.2m
2/g)を92部(含有比率20/80)、分散剤兼結着剤としてカルボキシメチルセルロース塩を1.8部、ポリマー成分としてSBRエマルションA−1を4部(固形分部数)に変更した以外は負極3と同様の方法で作製した。
【0062】
(負極7)
負極活物質を、Si(平均粒径2.6μm、比表面積 m
2/g)とグラファイト(平均粒径18μm、比表面積3.2m
2/g)を94部(含有比率10/90)、ポリマー成分としてSBRエマルションA−1を3部(固形分部数)に変更した以外は負極3と同様の方法で負極活物質重量5〜6mg/cm
2の負極7を作製した。
【0063】
(負極8)
負極活物質を、Si(平均粒径10nm、比表面積 m
2/g)とグラファイト(平均粒径18μm、比表面積3.2m
2/g)を93部(含有比率10/90)、導電助剤としてアセチレンブラックを2.3部、分散剤兼結着剤としてカルボキシメチルセルロース塩を1.0部、ポリマー成分としてSBRエマルションA−1を3.5部(固形分部数)に変更した以外は負極3と同様の方法で負極活物質重量5〜6mg/cm
2の負極8を作製した。
【0064】
(比較例用)
(負極9)
負極活物質を、SiO(平均粒径4.5μm、比表面積5.5m
2/g)とグラファイト(平均粒径18μm、比表面積3.2m
2/g) を90.5部(含有比率20/80)、導電助剤としてアセチレンブラックを1.3部、分散剤兼結着剤としてカルボキシメチルセルロース塩を1.3部、ポリマー成分としてSBRエマルションA−1 1.5部(固形分部数)をポリアクリル酸ナトリウム塩 A’−1(分子量Mw=13万)6部に変更した以外は負極4と同様の方法で作製した。
【0065】
(負極10)
繊維状ナノカーボン材料B−1を表1に記載のB’−1に変更した以外は負極1と同様の方法で作製した。
【0066】
(負極11)
繊維状ナノカーボン材料分散体B’−1を使用しない条件へと変更し、導電助剤としてアセチレンブラックを2.1部、分散剤兼結着剤としてカルボキシメチルセルロース塩を0.9部に変更した以外は負極10と同様の方法で作製した。
【0067】
(負極12、13)
繊維状ナノカーボン分散体B’−1をそれぞれ表1に記載のB’−2、B’−3に変更した以外は負極10と同様の方法で作製した。
【0068】
(塗料物性評価)
(粘度評価と塗工性評価)
上記で得られた各負極スラリーの作製直後の粘度を回転粘度計(製品名:東機産業製 TVB−10M)で測定し、測定開始後2分経過時点での粘度値を読み取った。(評価時の回転数:6rpm)上記で得られた塗料をロールコーターで塗工した際の塗工均一性を下記の基準で評価した。評価結果を下記表2に示す。
【0069】
評価基準:
○ :塗料粘度が8000mPa以下であり、膜厚が均一な塗工が可能
△ :塗料粘度が8000mPa以上であり、膜厚が不均一(スジが入る、など)
× :塗料粘度が8000mPa以上であり、塗工が不可能
【0070】
[電極の導電性]
上記で得られた負極スラリーをPETシートに塗工・乾燥し、ロールプレス機(サンクメタル製)で1.2 g/cm
3まで密度を高めた電極を作製した。得られた電極について、抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック製、ロレスタGP)を用いて導電率を測定し、比較例2の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど導電性が高いことを示す。評価結果を表2に示す。
【0071】
[電池性能の評価]
(評価用正極の作製)
正極活物質であるLiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2(NCA)を100質量部、導電助剤としてアセチレンブラック(デンカ社製、Li−400)を7.8質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデン6質量部、分散媒としてN−メチル−2−ピロリドン61.3質量部を遊星型ミキサーで混合し、固形分65%になるように正極スラリーを調製した。この正極スラリーを塗工機で厚み15μmのアルミニウム箔上にコーティングを行い、130℃で乾燥後、ロールプレス処理を行い、正極活物質22mg/cm
2の正極を得た。
【0072】
[リチウム二次電池の作製]
上記で得られた正極、負極を下記表2のように組み合わせて、電極間にセパレータとしてポリオレフィン系(PE/PP/PE)セパレータを挟んで積層し、各正負極に正極端子と負極端子を超音波溶接した。この積層体をアルミラミネート包材に入れ、注液用の開口部を残しヒートシールした。正極面積18cm2、負極面積19.8cm2とした注液前電池を作製した。次にエチレンカーボネートとジエチルカーボネート(30/70vol比)とを混合した溶媒にLiPF6(1.0mol/L)を溶解させた電解液を注液し、開口部をヒートシールし、評価用電池を得た。
【0073】
[電池性能の評価]
作製したリチウム二次電池について、20℃における性能試験を行った。試験方法は下記の通りである。試験結果を表2に示す。
【0074】
(充放電サイクル特性)
充放電サイクル特性は、以下の条件で測定した。0.5C相当の電流密度で4.2VまでCC(定電流)充電を行い、続いて4.2VでCV(定電圧)充電に切り替え、1.5時間充電したのち、0.5C相当の電流密度で2.7VまでCC放電するサイクルを20℃で300サイクル行い、このときの初回1C放電容量に対する300サイクル後1C放電容量比を1C充放電サイクル保持率とした。
【0075】
【表2】
【0076】
表2より、実施例1から8で使用した負極1〜8に対し、平均繊維長が短い繊維状ナノカーボン材料であるB‘−1を使用した負極10は電極の導電性に劣り、また結着性も悪いことからこれらを使用した比較例2に示すリチウム2次電池の充放電サイクル特性が悪化することが分かる。また、ポリマー成分をポリアクリル酸ナトリウムに変更した負極20も結着性が悪化し、これを使用した比較例5に示すリチウム2次電池の充放電サイクル特性が悪化することが分かる。
【0077】
また、繊維状ナノカーボン材料を使用していない負極11は電極の結着性、電極の導電性が悪化し、これらを使用した比較例3に示すリチウム2次電池の電池性能も実施例1から15の電池性能に対し大きく劣ることが分かる。
【0078】
また、繊維状ナノカーボン分散体にナノセルロース繊維を使用していない負極12は塗料物性が悪化し、繊維状ナノカーボン分散体に対するナノセルロース繊維の含有量が多すぎる負極13は電極塗料組成物のチクソ性が高くなりすぎるため、正常な塗工ができず、均一な電極を得ることができなかった。