特許第6941703号(P6941703)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6941703強磁性シールドを介したフィールドクーリングにより超伝導バルク磁石を磁化するための超伝導磁石装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6941703
(24)【登録日】2021年9月8日
(45)【発行日】2021年9月29日
(54)【発明の名称】強磁性シールドを介したフィールドクーリングにより超伝導バルク磁石を磁化するための超伝導磁石装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/00 20060101AFI20210916BHJP
   H01F 6/06 20060101ALI20210916BHJP
   H01F 27/36 20060101ALI20210916BHJP
【FI】
   G01N24/00 600P
   G01N24/00 600D
   H01F6/06
   H01F27/36 150
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2020-41254(P2020-41254)
(22)【出願日】2020年3月10日
(65)【公開番号】特開2020-187109(P2020-187109A)
(43)【公開日】2020年11月19日
【審査請求日】2021年3月17日
(31)【優先権主張番号】19170280.2
(32)【優先日】2019年4月18日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591148048
【氏名又は名称】ブルーカー スウィッツァーランド アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Bruker Switzerland AG
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】フランク ボルグノルッティ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン アルフレート マルヒ
(72)【発明者】
【氏名】ヨルク ヒンダラー
(72)【発明者】
【氏名】ライナー ピーティヒ
(72)【発明者】
【氏名】ローベルト シャウヴェッカー
【審査官】 田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−510477(JP,A)
【文献】 特開2015−167576(JP,A)
【文献】 特開平09−074012(JP,A)
【文献】 特開2006−261335(JP,A)
【文献】 特開2005−057218(JP,A)
【文献】 特開2008−181967(JP,A)
【文献】 Yukikazu Iwasa,HTS and NMR/MRI magnets: Unique features, opportunities, and challenges,Physica C,2006年,Vol.445-448,pp.1088-1094
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 24/00−24/14
G01R 33/28−33/64
A61B 5/055
H01F 6/00−6/06
H01F 27/36
JSTPlus(JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導磁石装置(2)であって、
−超伝導ボア(10)を有する超伝導バルク磁石(9)であって、前記超伝導バルク磁石(9)は回転対称軸(z)、および前記回転対称軸(z)に垂直な平面内の最大外径ODbmを有し、前記超伝導ボア(10)は、前記回転対称軸(z)に垂直な平面内の最小断面積Sboを有する、超伝導バルク磁石(9)と、
−室温ボア(8)を有する含むクライオスタット(7)であって、前記超伝導バルク磁石(9)を前記クライオスタット(7)内に配置し、前記室温ボア(8)を前記超伝導ボア(10)内に配置している、クライオスタット(7)と、
−シールドボア(12)を有する強磁性シールド体(11)であって、前記超伝導バルク磁石(9)を前記強磁性シールド体(11)の前記シールドボア(12)内に配置し、前記強磁性シールド体(11)は、各々の軸方向端部で前記回転対称軸(z)に対して、少なくともODbm/3だけ前記超伝導バルク磁石(9)から延出している、強磁性シールド体(11)とを備え、
さらに、前記回転対称軸(z)に垂直であり、前記強磁性シールド体(11)と交差しているすべての平面内における前記強磁性シールド体(11)の断面積の平均として定義される、前記強磁性シールド体(11)の平均断面積Sfbに対して、Sfb≧2.5boが適用される超伝導磁石装置(2)において、
前記強磁性シールド体(11)を前記クライオスタット(7)内に配置していることを特徴とする、
超伝導磁石装置(2)。
【請求項2】
前記超伝導バルク磁石(9)の最小内径IDbmには、
IDbm≧20mm、
好ましくはIDbm≧30mm、
最も好ましくはIDbm≧40mm
が適用されることを特徴とする、請求項1に記載の超伝導磁石装置(2)。
【請求項3】
前記超伝導バルク磁石(9)が前記回転対称軸(z)の方向に軸方向長Lbmを有し、Lbm≧2.5IDbmとなり、IDbmが前記超伝導バルク磁石(9)の最小内径であることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の超伝導磁石装置(2)。
【請求項4】
前記強磁性シールド体(11)が強磁性端部キャップ(34、35)を備え、前記端部キャップ(34、35)が、各々の軸方向端部で前記超伝導バルク磁石(9)の半径方向厚さの少なくとも一部を覆って半径方向内側に向かって延在していることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の超伝導磁石装置(2)。
【請求項5】
前記クライオスタット(7)が、前記強磁性シールド体(11)の温度を制御するための制御装置を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の超伝導磁石装置(2)。
【請求項6】
−前記軸方向(z)に沿って外径および/または内径が変化し、具体的には、前記軸方向(z)に沿って半径方向厚さが変化し、かつ/または
−方位角位置の関数として半径方向厚さが変化し、具体的には、前記軸方向(z)に沿った複数の溝を有し、かつ/または
−複数のボアホールを有する、
円筒壁形状、または略円筒壁形状を有するように、前記強磁性シールド体(11)を設計していることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の超伝導磁石装置(2)。
【請求項7】
前記超伝導バルク磁石(9)が励磁状態であり、残留磁束強度Bboが前記超伝導バルク磁石(9)によってその磁気中心(MC)に保存されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の超伝導磁石装置(2)。
【請求項8】
bo≧3.5テスラ、好ましくはBbo≧5.0テスラ、最も好ましくはBbo≧7.0テスラであることを特徴とする、請求項7に記載の超伝導磁石装置(2)。
【請求項9】
前記室温ボア(8)の外側、および前記クライオスタット(7)の外側のいずれであっても漂遊磁場が15ガウス以下、好ましくは5ガウス以下の大きさを有するように、前記超伝導磁石装置(2)、具体的には前記強磁性シールド体(11)を構成していることを特徴とする、請求項7または8に記載の超伝導磁石装置(2)。
【請求項10】
前記強磁性シールド体(11)が、その最大磁化の少なくとも70%の磁化になっていることを特徴とする、請求項7から9のいずれか一項に記載の超伝導磁石装置(2)。
【請求項11】
励磁装置(1)であって、
−励磁ボア(6)を有する励磁用電磁石(3)と、
−請求項1から10のいずれか一項に記載の超伝導磁石装置(2)とを備え、
前記超伝導磁石装置(2)の少なくとも一部を、前記励磁ボア(6)内に配置している、励磁装置(1)。
【請求項12】
試料(15)を前記室温ボア(8)内に配置し、また前記超伝導バルク磁石(9)によってその磁気中心(MC)に保存される前記残留磁束密度Bboに前記試料(15)を晒すことと、前記室温ボア(8)内の前記試料(15)に対してNMR測定を実行することとを特徴とする、請求項7から10のいずれか一項に記載の超伝導磁石装置(2)の使用。
【請求項13】
超伝導磁石装置(2)内の超伝導バルク磁石(9)を励磁する方法であって、前記超伝導磁石装置(2)は、
−超伝導ボア(10)を有する前記超伝導バルク磁石(9)であって、前記超伝導バルク磁石(9)は回転対称軸(z)、および前記回転対称軸(z)に垂直な平面内の最大外径ODbmを有し、前記超伝導ボア(10)は、前記回転対称軸(z)に垂直な平面内の最小断面積Sboを有する、超伝導バルク磁石(9)と、
−室温ボア(8)を有するクライオスタット(7)であって、前記超伝導バルク磁石(9)を前記クライオスタット(7)内に配置し、前記室温ボア(8)を前記超伝導ボア(10)内に配置している、クライオスタット(7)と、
−シールドボア(12)を有する強磁性シールド体(11)であって、前記超伝導バルク磁石(9)を前記強磁性シールド体(11)の前記シールドボア(12)内に配置し、前記強磁性シールド体(11)は、各々の軸方向端部で前記回転対称軸(z)に対して、少なくともODbm/3だけ前記超伝導バルク磁石(9)から延出している、強磁性シールド体(11)とを備え、
さらに、前記回転対称軸(z)に垂直であり、前記強磁性シールド体(11)と交差しているすべての平面内における前記強磁性シールド体(11)の断面積の平均として定義される、前記強磁性シールド体(11)の平均断面積Sfbに対して、Sfb≧2.5boが適用され、
前記強磁性シールド体(11)を前記クライオスタット(7)内に配置し、
具体的には前記超伝導磁石装置(2)を、請求項1から10のいずれか一項に従って設計し、
前記方法は、
励磁用電磁石(3)の励磁ボア(6)内に、前記超伝導磁石装置(2)の少なくとも一部を配置するステップa)と、
少なくとも1つの電流(I)を前記励磁用電磁石(3)に印加することによって、前記励磁ボア(6)内で磁束密度を発生させ、その結果前記超伝導バルク磁石(9)の磁気中心(MC)に印加磁束密度Bappが存在するようにするステップb)であって、
この場合、前記超伝導バルク磁石(9)の温度Tbmは、前記超伝導バルク磁石(9)の臨界温度Tcritを超えている、ステップb)と、
前記温度Tbmcrit未満に下げるステップc)と、
前記励磁用電磁石(3)における前記少なくとも1つの電流(I)をオフにするステップd)であって、その際Tbm<Tcritとすることにより、残留磁束密度Bboが前記磁気中心(MC)に保存されるようにする、ステップd)と、
前記励磁ボア(6)から前記超伝導磁石装置(2)を取り外し、Tbm<Tcritを維持するステップe)とを含む
方法。
【請求項14】
ステップb)において、前記少なくとも1つの電流(I)を
app≧3.5テスラ、
好ましくはBapp≧5テスラ、
最も好ましくはBapp≧7テスラ
となるように選択している、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
−前記超伝導バルク磁石(9)の形状および/または前記強磁性シールド体(11)の形状を選択することにより、
−かつステップe)の後、前記クライオスタット(7)内の前記強磁性シールド体(11)の温度を制御することにより、
前記磁気中心(MC)に対して+5mmから−5mmまでの位置における前記回転対称軸(z)上の前記磁束密度を、ステップe)の後、Bboが100ppm以内になるよう維持していることを特徴とする、請求項13または14に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導磁石装置に関し、この超伝導磁石装置は、
−超伝導孔部を有する超伝導バルク磁石であって、この超伝導バルク磁石は回転対称軸z、およびこの回転対称軸zに垂直な平面内の最大外径ODbmを有し、超伝導ボアは、回転対称軸zに垂直な平面内の最小断面積Sboを有する、超伝導バルク磁石と、
−室温ボアを有するクライオスタットであって、超伝導バルク磁石をこのクライオスタット内に配置し、室温ボアを超伝導ボア内に配置している、クライオスタットと、
−シールドボアを有する強磁性シールド体であって、超伝導バルク磁石をこの強磁性シールド体のシールドボア内に配置し、この強磁性シールド体は、各々の軸方向端部で回転対称軸zに対して、少なくともODbm/3だけ超伝導バルク磁石から延出している、強磁性シールド体とを備え、
さらに、回転対称軸zに垂直であり、強磁性シールド体と交差しているすべての平面内における強磁性シールド体の断面積の平均として定義される、強磁性シールド体の平均断面積Sfbに対して、Sfb≧2.5boが適用される、
超伝導磁石装置。
【背景技術】
【0002】
そのような超伝導磁石装置は、米国特許第7859374号明細書から知られている。
【0003】
超伝導体では、実質的に抵抗損失なしで電流が流れる。超伝導体は臨界温度Tcrit未満でのみ超伝導状態とみなされ、この臨界温度Tcritは極低温領域内であり、使用される超伝導体材料に依存する。超伝導体を使用して、強力な磁場を発生させることができる。この磁場は超伝導体内を流れる電流によって発生し、超伝導体は通常、この目的のためにコイルまたはリングを形成し(「超伝導磁石」)、磁場は超伝導ボア内で得られる。具体的には、超伝導閉回路内には、ひとたび励磁されると電流源に接続する必要なしに、実質的に一定の電流強度で電流を流すことができる(「永久モード」)。
【0004】
コイル型超伝導磁石装置は通常、直接接続された電流源により励磁され、励磁が完了すると、超伝導スイッチが閉じられて永久モードが確立する。
【0005】
閉じたリング状の超伝導構造をベースとした超伝導バルク磁石の場合、電気接点は不要となる。超伝導バルク磁石を、たとえば米国特許第7859374号明細書に記載の、「フィールドクーリング」として知られている方法で励磁することができる。この方法では、クライオスタット内に位置する超伝導バルク磁石が、励磁用電磁石内に配置されている。最初に、超伝導バルク磁石の温度がTcritを超えた状態で維持され、所望の磁場(または磁束密度)に達するまで励磁用電磁石が徐々に励磁される。次いで、クライオスタット内の温度をTcrit未満に下げると、これによって超伝導バルク磁石が超伝導状態になる。次いで、励磁用電磁石の磁場を徐々に下げる。この間、超伝導バルク磁石内に磁束の変化に対抗して超伝導電流が誘導され、その結果、超伝導バルク磁石の超伝導ボア内に磁場(または磁束密度)が捕捉(または保存)される。次いで、超伝導バルク磁石がクライオスタットと共に励磁用電磁石から取り外される。超伝導バルク磁石が十分に冷却された状態、具体的にはTcrit未満に維持されている限り、超伝導ボア内の磁場は一定のままとなり、たとえばNMR測定にこれを使用することができる。捕捉された磁場をNMR実験などの実験で利用するには、クライオスタットに室温ボアを設ける必要があり、さらにこの室温ボアを超伝導ボア内に配置する必要がある。
【0006】
ただし、超伝導バルク磁石は、超伝導ボア内に磁場を発生させる(または保存する)だけでなく、その外側にも磁場(「漂遊磁場」)を発生させている。外側にこの漂遊磁場が発生することは一般に望ましいことではなく、これはなぜなら、近傍の電気機器を妨害する可能性があり、たとえばペースメーカーを携行している人にとっても危険な場合があるためである。
【0007】
米国特許第7859374号明細書では、電気による励磁装置が取り外された後、超伝導バルク磁石を内包するクライオスタットの周りに、鋼板シールドを配置することを提案している。
【0008】
鋼板シールドにより、漂遊磁場が低減され、その結果として、超伝導バルク磁石近傍での外乱および危険が最小限に抑えられることになる。ただし、多くの用途では、超伝導ボア内の磁場(または磁束密度)の均一性と安定性とを高くすることが必要である。このシールドは均一性に影響するものであり、このシールドを配置する際のわずかな誤差でさえ、超伝導ボア内の均一性を著しく低下させる。その上、シールド体の温度は周囲環境の温度変動による影響を受けるため、超伝導ボア内の磁場の経時安定性を達成することは困難である。また、励磁された超伝導バルク磁石を内包するクライオスタット上でシールドを移動させるには、大きな機械力を制御する必要があり、これはなぜなら、超伝導バルク磁石の漂遊磁場が鉄シールドを引き付けることになるためであり、これによってこの手順が厄介で時間のかかるものになる。
【0009】
米国特許第7183766号明細書には、スパッタリング用途に適した超伝導磁場装置が記載されている。リング状の超伝導体がその下に設けられた強磁性下側ヨークと共に断熱容器内に配置されている。一実施形態では、超伝導体の横に強磁性リングヨークを配置することが、断熱容器の内部を制限することに寄与している。断熱容器の上部において、超伝導体バルクに対するヨークリングの延出部分が小さくなっているため、磁場が断熱容器の外側に広がり、その結果、スパッタリング用途に関与させることができる。強磁性ヨークは、スパッタリング用途で使用される前記磁場を整形することを目的としている。超伝導体は、フィールドクーリング処理によって励磁される。
【0010】
フープ応力に対処するために、異なるタイプの複数の金属リングを超伝導バルクリングに取り付けることが以下の文献に提案されている。これらの金属リングは磁気シールドに適しておらず、これは具体的には、金属リングが軸方向に超伝導バルクを十分に越えて延在していないか、かつ/またはこれらが薄過ぎるか、かつ/またはこれらが非磁性材料または反磁性材料製であるためである。
−T.Nakamura et al.,Journal of Magnetic Resonance 259(2015),68−75では、フープ応力に抵抗するために、複数のアルミニウムリングに挿入された6つのEuBaCuリングを含む、NMR用途およびMRI用途の超伝導バルク磁石について開示されている。
−M.Tsuchimoto and M.Morita,Physics Procedia 81(2016),170−173では、フィールドクーリング中のリングバルクHTSの応力評価について開示されている。フープ応力に抵抗するために、リングバルクHTSが複数の鉄リング内に配置されている。
【0011】
異なるタイプの複数の金属リングを、シミング目的で複数の超伝導バルクリングに取り付けることも以下の文献に提案されている。ここでも、これらの金属リングは磁気シールドに適しておらず、これは具体的には、これらが薄過ぎるか、かつ/またはこれらが超伝導磁石の外側に配置されていないためである。
−S.Kim et al.,IEEE Transactions on applied superconductivity,Vol.19,No.3,June 2009,2273−2276には、複数のHTSバルク環とその内部に配置された強磁性シミング用の複数の鉄リングの捕捉磁場特性について記載されている。
−S.Kim et al.,IEEE Transactions on applied superconductivity,Vol.28,No.3,April 2018,4301505には、磁場均一化を行うために複数の薄い鉄リングに挿入され、フィールドクーリングされた複数の積層型GdBCOバルク環について記載されている。
【0012】
さらに、バルク磁石の磁化を増大させるために、超伝導バルク磁石の近傍で鉄を使用することが以下の文献により知られている。鉄は多くの場合、クライオスタットの外側に配置され、かつ/またはバルク磁石は超伝導ボアを有さず、かつ/または励磁はクライオスタット内から行われる。
−H.Fujishiro et al.,Supercond.Sci.Technol.29(2016),084001では、ボアを有さずクライオスタット内に配置されるMgBバルクが提案されており、ここではクライオスタットが軟鉄ヨーク間に配置されている。
−B.Gony et al.,IEEE/CSC superconductivity news forum(global edition)January 2015,ASC 2014 manuscript 3LPo2H−04では、ボアを有さず、超電導バルクを取り囲むEI型鉄心が提案されており、ここでは、励磁用コイルもこのIE型鉄心内に配置されている。
−B.Gony et al.,“Magnetization studies of a HTS bulk in a symmetrical iron core”,conference paper,October 2015(https://www.researchgate.net/publication/283056767からダウンロード可能)にも、ボアを有さず、磁化コイルに包囲されたYBCOバルクについて記載されており、ここでは、このYBCOバルクと磁化コイルとが鉄心によって包囲されている。
−M.D.Ainslie et al,Supercond.Sci.Technol.29(2016),074003には、バルクHTSの捕捉磁場性能を向上することについて記載されている。ここで、複数のHTSバルクはボアを有さず、かつ鉄ヨーク部の間に配置されている。バルクHTSは、冷却された銅クランプ試料ホルダに配置されている。
−特開平7−201560号公報には、磁場発生方法および装置が記載されており、ボアを有さないYBCOバルク超伝導体が強磁性フレームの下に配置され、ここでは、電磁コイルが強磁性フレームと係合した状態で配置されている。YBCO超伝導体バルク、電磁コイル、および強磁性フレームは、極低温容器内に配置されている。この装置により、磁気浮上などに用いられる強力な磁場がもたらされる。
【0013】
また、外部磁場を超伝導シリンダの内部から締め出すために強磁性シリンダ内に配置される超伝導シリンダの組み合わせによるブロック効果を調査する実験も以下に示すように行われており、これらの実験では、フィールドクーリングは適用されず、かつ/または超伝導シリンダの大きさが小さ過ぎるため、室温ボアに試料が入った状態で超伝導ボアに接触することができず、かつ/または室温ボアまたはクライオスタットについては全く説明されていなかった。
−M.Itoh et al.,IEEE Transactions on applied superconductivity,Vol.3,No.1,March 1993,181−184では、長さ75mmの軟鉄シリンダ内にある内径5mm、長さ19mmのYBCOシリンダ内の磁場が調査され、その際、YBCOシリンダ内の磁場は、77Kで動作するホール装置を使用して測定された。
−M.Itoh et al.,IEEE Transactions on magnets,Vol.32,No.4,July 1996,2605−2608では、内径2.9mm、厚さ2.6mmの30mm長BPSCCOシリンダを覆う、最大6層の60mm長強磁性シリンダの遮蔽効果について調査された。
−G.P.Lousberg et al.,IEEE Transactions on applied superconductivity,Vol.20,No.1,Feb.2010,33−41では、円筒壁形状の強磁性シリンダに包囲された、同じ軸方向長の円筒壁形状のHTSの配置に対する、外部磁場の侵入に関する有限要素モデル計算について報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第7859374号明細書
【特許文献2】米国特許第7183766号明細書
【特許文献3】特開平7−201560号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】T.Nakamura et al.,Journal of Magnetic Resonance 259(2015),68−75
【非特許文献2】M.Tsuchimoto and M.Morita,Physics Procedia 81(2016),170−173
【非特許文献3】S.Kim et al.,IEEE Transactions on applied superconductivity,Vol.19,No.3,June 2009,2273−2276
【非特許文献4】S.Kim et al.,IEEE Transactions on applied superconductivity,Vol.28,No.3,April 2018,4301505
【非特許文献5】H.Fujishiro et al.,Supercond.Sci.Technol.29(2016),084001
【非特許文献6】B.Gony et al.,IEEE/CSC superconductivity news forum(global edition)January 2015,ASC 2014 manuscript 3LPo2H−04
【非特許文献7】B.Gony et al.,“Magnetization studies of a HTS bulk in a symmetrical iron core”,conference paper,October 2015
【非特許文献8】M.D.Ainslie et al,Supercond.Sci.Technol.29(2016),074003
【非特許文献9】M.Itoh et al.,IEEE Transactions on applied superconductivity,Vol.3,No.1,March 1993,181−184
【非特許文献10】M.Itoh et al.,IEEE Transactions on magnets,Vol.32,No.4,July 1996,2605−2608
【非特許文献11】G.P.Lousberg et al.,IEEE Transactions on applied superconductivity,Vol.20,No.1,Feb.2010,33−41
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、良好な均一性および経時安定性を有する磁場(または磁束密度)を簡便にもたらすことができる、超伝導磁石装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、この目的は、強磁性シールド体をクライオスタット内に配置していることを特徴とする、冒頭で紹介した超伝導磁石装置によって達成される。
【0018】
本発明は、望ましくないか、または危険でさえある漂遊磁場から周囲環境を保護する強磁性シールド体を、クライオスタット内に入れることを提案する。その結果、「フィールドクーリング」による励磁手順中に励磁用電磁石の磁場(または磁束密度)を印加する場合、この磁場は強磁性シールドを貫通する必要があるが、この場合、励磁手順中に強磁性シールド体を設けていない状況と比較して、低下した磁場強度が超伝導バルク磁石において存在することになる。したがって、クライオスタット内に強磁性シールド体を設けていない状況と比較して、同じ捕捉磁場強度を達成するために、励磁用電磁石はやや強い磁場(または磁束強度)をもたらす必要がある。これに対して、クライオスタット内に強磁性シールド体を入れることは、励磁手順の後にクライオスタットの周りに強磁性シールド体を配置することと比較して、本発明により利用可能となる多くの利点を有する。
【0019】
まず、励磁した超伝導バルク磁石の周りに強磁性シールド体を後で配置する場合は、大きな機械力を制御する必要があり、これはなぜなら、超伝導バルク磁石の外側に捕捉された磁場(または磁束密度)が強磁性シールド体を引き付けようとするためである。強磁性シールド体をクライオスタット内に配置する場合(したがって、強磁性シールド体を励磁開始前に配置しておく場合)、この厄介なステップを完全に回避することができる。
【0020】
また、強磁性シールド体は捕捉された磁場(または磁束密度)に影響を与え、その結果、超伝導ボア内に捕捉された磁場(または磁束密度)の均一性に影響を与えることになる。クライオスタットの周りに強磁性シールド体を後で配置する場合、磁力の存在下でこの取り付けを行わなければならないため、通常、取り付け時の精度が比較的低くなる。これに対して、クライオスタット内に強磁性シールド体を配置する場合は、これを永久的に固定でき、その際も、超伝導磁石装置の製造中は通常、磁力による妨害がないため、正確に位置合わせすることができる。この理由から、本発明により、より高い均一性が簡便に得られるようになる。
【0021】
また、捕捉された磁場の安定性は、強磁性シールド体の温度変動の影響を受けることになる。強磁性シールド体をクライオスタット内に配置することにより、強磁性シールド体の温度が自動的に安定する。
【0022】
本発明により提供される、超伝導バルク磁石からの強磁性シールド体の軸方向の延出、および強磁性シールド体と超伝導バルク磁石の超伝導ボアとの断面積比により、十分な遮蔽効果、すなわち漂遊磁場からの周囲環境の保護を確実に実現することができ、本発明の装置を、たとえば実験室や病院において、別途保護手段を設けずに使用することができる。本発明によれば、Sfb≧2.5bo、および典型的には、Sfb≧4*SboまたはSfb≧10boも適用される。さらに、強磁性シールド体は、典型的には各々の軸方向端部で、少なくともODbm/3だけ、好ましくは少なくともODbm/2だけ、また同様に典型的には少なくとも1(ODbm−IDbm)だけ、好ましくは少なくとも2(ODbm−IDbm)だけ軸方向に超伝導バルク磁石から延出しており、この場合、IDbmは超伝導バルク磁石の最小内径である。
【0023】
したがって要約すると、本発明によれば、捕捉された磁場(または磁束密度)の良好な均一性および安定性を簡便に達成することができ、これはなぜなら、強磁性シールド体を正確に位置合わせして永久的に固定することができ、またその温度を、典型的には制御装置を別途設ける必要なく、超伝導バルク磁石とともにクライオスタット内で適切に制御することができるためである。なお、超伝導バルク磁石および強磁性シールド体は、冷却装置(コールドヘッド)および/または熱輸送構造体に対する配置に応じて、クライオスタット内で同じ温度であってもよいし、異なる温度であってもよい。
【0024】
典型的には、この超伝導バルク磁石と強磁性シールド体とを、少なくとも略円筒壁形状に設計している。クライオスタット、強磁性シールド体、および超伝導バルク磁石(ならびに励磁に使用する励磁用電磁石)を、超伝導バルク磁石の回転対称軸zに沿って、概して同軸に配置している。超伝導バルク磁石の回転対称(中心)軸zによって決まる軸方向に垂直となるように、断面をとっている。
【0025】
この超伝導バルク磁石にはコルセット構造、具体的には金属(鋼、アルミニウムまたは銅など)製の複数の外側リングを、機械的補強として装備してもよい。
【0026】
この強磁性シールド体は一体として形成されていてもよいが、互いに固定された部品により構成されてもよい。なお、通常は、強磁性シールド体の外側の漂遊磁場を最小限に抑えるために、強磁性シールド体内に間隙を設けないようにしているが、ただし、小さな間隙、たとえば局所的な壁の半径方向厚さの5分の1よりも小さな間隙であれば、許容され得る。なお、この強磁性シールド体は、クライオスタット内で放射シールドとして機能してもよい。
【0027】
室温ボアには両側から(貫通孔)、または片側からのみ接触することができる。調査を行うために、室温ボアの内部に試料を配置してもよい。
【0028】
超伝導バルク磁石は、典型的にはReBCOなどのHTS材料、具体的にはYBCO、またはMgBなどの材料で作製されている。強磁性シールド体を、クライオスタットの外壁から距離を置いてクライオスタット内に配置しており、典型的には、強磁性シールド体はクライオスタットの外壁と空間により隔てられている。典型的には、超伝導バルク磁石および強磁性シールド体の両方を、クライオスタット内に不動状態で固定している。
【0029】
超伝導バルク磁石は、超伝導リングの積層体を備えていてもよい。典型的には、これら超伝導リングを軸方向に順に積層している。ただし、同心の超伝導リングを径方向に順に積層することもできる(「入れ子リング」)。超伝導バルク磁石は概して閉じたリング状であり、単一の超伝導リング構造、または複数のディスクもしくは基板(金属薄板または箔など)上の複数のコーティングなどの複数のリング状の超伝導サブ構造で構成され、この複数のリング状のサブ構造を同軸に配置し、かつ軸方向かつ/または径方向に積層し、またこれらのサブ構造を構造的に接続することにより、いわゆる「複合バルク」へと統合してもよい。本発明によれば、これらの変形形態はすべて、超伝導バルク磁石を構成する。超伝導バルク磁石の構造またはサブ構造を融液から成長させていてもよく、その際、「複合バルク」へと統合されるサブ構造を、典型的には基板をコーティングすることによって作製している。本発明による超伝導バルク磁石により、その超伝導ボア内の磁場(または磁束密度)を捕捉することが可能になり、この場合、概して超伝導バルク磁石に電流源を設けず、代わりにこれを誘導励磁用に設計している。
【0030】
発明の好ましい実施形態
本発明の超伝導磁石装置の好ましい一実施形態では、超伝導バルク磁石の最小内径IDbmには、IDbm≧20mm、好ましくはIDbm≧30mm、最も好ましくはIDbm≧40mmが適用される。そのような寸法を用いることにより、超伝導ボア内の試料に接触できるように室温ボアを作製するにあたり、十分な空間が得られ、たとえばNMR実験の調査対象の試料を簡便に配置することが可能になる。典型的には、クライオスタットの室温ボアの最小直径は10mm以上、好ましくは20mm以上である。
【0031】
また、超伝導バルク磁石が回転対称軸zの方向に軸方向長Lbmを有する一実施形態も好ましく、この場合、Lbm≧2.5IDbmとなり、IDbmは超伝導バルク磁石の最小内径である。そのような長さLbmを有することから、超伝導バルク磁石は、均一性が良好な超伝導ボア内の残留磁束密度Bboを達成することができる。
【0032】
有益な一実施形態では、強磁性シールド体は、各々の軸方向端部において超伝導バルク磁石の半径方向厚さの少なくとも一部を覆って半径方向内側に向かって延在する強磁性端部キャップを備える。これらの端部キャップを備えることにより、シールド機能の向上および/またはよりコンパクトな設計を実現することができる。2つの軸方向端部に設けた端部キャップ(上部端部キャップと下部端部キャップ)は、典型的には磁石の中央面に対して対称である。他の実施形態では、強磁性シールド体は強磁性端部キャップを1つのみ、たとえば室温ボアへの接触側とは反対の側に備えていてもよく、この端部キャップは、片方の軸方向端部において超伝導バルク磁石の半径方向厚さの少なくとも一部を覆って半径方向内側に向かって延在していてもよい。必要に応じて、端部キャップのそれぞれを強磁性シールド体の主要(円筒)部分からスペーサで分離してもよい。
【0033】
クライオスタットが、強磁性シールド体の温度を制御するための制御装置を含む一実施形態が好ましい。制御装置を含むことにより、強磁性シールド体の温度の熱安定性をより高いレベルで達成することができ、これにより、超伝導バルク磁石または試料体積の磁気中心における、磁束密度の経時安定性が向上することになる。この制御装置は、クライオスタットの冷却装置(パルス管冷凍機など)の制御部であってもよい。典型的には、この制御装置は、クライオスタット内に配置され、具体的には強磁性シールド装置に取り付けられた、温度センサを含む。
【0034】
別の好ましい一実施形態では、強磁性シールド体を、
−軸方向に沿って外径および/または内径が変化し、具体的には、軸方向に沿って半径方向厚さが変化し、かつ/または
−方位角位置の関数として半径方向厚さが変化し、具体的には、軸方向に沿った複数の溝を有し、かつ/または
−複数のボアホールを有する、
円筒壁形状、または略円筒壁形状を有するように設計している。少なくとも略円筒壁形状の強磁性シールド体を使用することで、捕捉された磁束密度の均一性を良好なレベルで達成することができる。強磁性シールド体を特別に成形することにより、超伝導バルク磁石によって保存される残留磁束密度の均一性を向上させることができる。なお概して、本発明によれば、超伝導磁石ボア内に捕捉された磁場(または磁束密度)は(励磁用磁石から本装置を取り外した後に)、室温ボア内の少なくとも5mmの試料体積において典型的には100ppmまたはそれより良い均一性を達成し、または、別途シミング手段(室温ボア内に配置されたシミング装置を使用した、動的シミングなど)を設けない状態で、室温ボア内の少なくとも1mmの試料体積において10ppmまたはそれより良い均一性を達成する。この試料体積は、概して超伝導バルク磁石の磁気中心に位置する。
【0035】
超伝導バルク磁石が励磁状態であり、残留磁束強度Bboが超伝導バルク磁石によってその磁気中心で保存される一実施形態が、とりわけ好ましい。励磁状態において、本発明の装置は、典型的には使用場所へと搬送され、調査対象の試料に(典型的には、比較的高い強度と高い均一性の)残留磁束密度Bboを安価に供給する用途で使用される。こうした励磁状態では、超伝導円電流が抵抗損失なしに超伝導バルク磁石を流れ、またこの超伝導バルク磁石は、その臨界温度Tcritよりも十分に低い温度Tbmに維持される(典型的には、Tbm≦2/3critまたはTbm≦0.5critでもそうなり、その際の温度はケルビンである)。なお、超伝導バルク磁石(また、より一般的には超伝導磁石装置)の磁気中心は、概して回転対称軸(z)上であって、回転対称軸(z)上の点から±0.1*Lbmの位置にあり、かつ超伝導バルク磁石の上部および下部から等距離の位置にある点である。
【0036】
上記実施形態の好ましい一発展形態では、Bbo≧3.5テスラ、好ましくはBbo≧5.0テスラ、最も好ましくはBbo≧7.0テスラである。そのような高い磁束密度を他の手段によって供給する際、費用の点で比較的高価になるため、本発明はこの発展形態においてとりわけ有利である。磁気中心において(または試料体積内で)Bboを測定するが、ただし、超伝導ボア内の磁場の変動は典型的には小さい。なお、他の実施形態では、BboはBbo≧1.5テスラまたはBbo≧2.5テスラの範囲にあってもよい。
【0037】
室温ボアの外側、およびクライオスタットの外側のいずれであっても漂遊磁場が15ガウス以下、好ましくは5ガウス以下の大きさを有するように、超伝導磁石装置、具体的には強磁性シールド体を構成している一発展形態がとりわけ好ましい。クライオスタット内に強磁性シールド体を入れることにより、別途手段を設けることなく、概して、クライオスタットの外側に低漂遊磁場、具体的には5ガウス以下の漂遊磁場をもたらすことができる。なお、クライオスタットまたはクライオスタットの外壁などのクライオスタットの部分を、鉄などの強磁性材料で作製することで、漂遊磁場を低減してもよい。クライオスタットの外側の漂遊磁場が5ガウスよりも少し高い範囲(最大15ガウスなど)にある場合は、クライオスタットの周りに簡素な温かい鉄製シールド筐体(金属薄板製など)を配置することにより、温かい鉄製シールド筐体の外側における漂遊磁場が、5ガウス以下となるようにしている。
【0038】
好ましい一発展形態では、強磁性シールド体は、その最大磁化の少なくとも70%の磁化になっている。磁化の程度が不均一である場合、この磁化の程度を強磁性シールド体全体にわたって平均化してもよい。強磁性シールド体をそこまで高度に使用する(磁化する)ことにより、コンパクトで軽量な設計を実現することができる。
【0039】
また、本発明の範囲内にある励磁装置は、
−励磁ボアを有する励磁用電磁石と、
−上記の本発明の超伝導磁石装置とを備え、
本超伝導磁石装置の少なくとも一部を励磁ボア内に配置している。本発明の励磁装置により、コンパクトなシールド超伝導磁石装置をフィールドクーリング手順に用いることができ、この場合、強磁性シールド体を所定の位置に配置するために強い機械力を制御する必要がなく、また、超伝導ボア内に捕捉された磁束密度の良好な均一性および安定性を簡便に達成することができる。
【0040】
さらに、本発明の範囲内にあるのは、上記の本発明の超伝導磁石装置の使用であって、試料を室温ボア内に配置し、また超伝導バルク磁石によってその磁気中心に保存される前記残留磁束密度Bboにこの試料を晒し、室温ボア内の試料にNMR測定を実行することを特徴とする。これは、調査対象の試料に対してNMR実験を行うための簡便かつ安価な方法である。
【0041】
超伝導バルク磁石を励磁するための本発明の方法
さらに、本発明の範囲内に、超伝導磁石装置内の超伝導バルク磁石を励磁する方法があり、前記超伝導磁石装置は、
−超伝導ボアを有する超伝導バルク磁石であって、この超伝導バルク磁石は回転対称軸z、およびこの回転対称軸zに垂直な平面内の最大外径ODbmを有し、超伝導ボアは、回転対称軸zに垂直な平面内の最小断面積Sboを有する、超伝導バルク磁石と、
−室温ボアを有するクライオスタットであって、超伝導バルク磁石をこのクライオスタット内に配置し、室温ボアを超伝導ボア内に配置している、クライオスタットと、
−シールドボアを有する強磁性シールド体であって、超伝導バルク磁石をこの強磁性シールド体のシールドボア内に配置し、この強磁性シールド体は、各々の軸方向端部で回転対称軸zに対して、少なくともODbm/3だけ超伝導バルク磁石から延出している、強磁性シールド体とを備え、
さらに、回転対称軸zに垂直であり、強磁性シールド体と交差しているすべての平面内における強磁性シールド体の断面積の平均として定義される、強磁性シールド体の平均断面積Sfbに対して、Sfb≧2.5boが適用され、
この強磁性シールド体をクライオスタット内に配置し、具体的には前記超伝導磁石装置を、上記の本発明の超伝導磁石装置として設計し、
前記方法は、
励磁用電磁石の励磁ボア内に、前記励磁用電磁石の少なくとも一部を配置するステップa)と、
少なくとも1つの電流を励磁用電磁石に印加することによって、励磁ボア内で磁束密度を発生させ、その結果超伝導バルク磁石の磁気中心(MC)に印加磁束密度Bappが存在するようにするステップb)であって、
この場合、超伝導バルク磁石の温度Tbmは、超伝導バルク磁石の臨界温度Tcritを超えている、ステップb)と、
この温度Tbmcrit未満に下げるステップc)と、
励磁用電磁石における少なくとも1つの電流をオフにするステップd)であって、その際Tbm<Tcritとすることにより、残留磁束密度Bboが磁気中心に保存されるようにする、ステップd)と、
励磁ボアから前記超伝導磁石装置を取り外して、Tbm<Tcritを維持するステップe)とを含む。
【0042】
本発明によれば、強磁性シールド体を介して超伝導バルク磁石を励磁しており、この強磁性シールド体をクライオスタット内に配置している。これにより、超伝導バルク磁石に対して強磁性シールド体を後で位置決めすることが回避されることになり、この位置決めは厄介(機械力の制御が必要)であり、正確に行うのは困難である(概して、保存された磁束密度の均一性を損なうものである)。また、クライオスタット内に強磁性シールド体を入れることにより、強磁性シールド体固有の温度制御が達成され、その結果磁場を安定させることになる。さらに、とりわけ本超伝導磁石装置を卓上用途で使用するのに適した、コンパクトな設計が可能になる。
【0043】
なお概して、励磁用磁石、クライオスタット、強磁性シールド体、および超伝導バルク磁石を、超伝導バルク磁石の回転対称軸zに沿って同軸に配置している。
【0044】
appはBboにほぼ対応しており、ここでBboは、励磁用磁石オフになった後に超伝導バルク磁石によって保存される、超伝導ボア内の磁気中心における残留磁束密度である。ただし、具体的には超伝導バルク磁石の長さが有限であり、励磁中と励磁完了後の強磁性シールド体の磁化が変動することにより、Bboは実際にはBappからわずかに逸脱する。なお、試料体積内に均一な(より均一な)Bboを確立するために、多くの場合、いくぶん不均一性を伴った状態のBappを選択する必要がある。典型的には、超伝導バルク磁石および強磁性シールド体の両方を、クライオスタット内に不動状態で固定している。
【0045】
励磁用磁石の(すなわち内部の)磁束密度を、強磁性シールド体を確実に貫通するよう、十分大きくなるように選択している。なお、励磁用磁石の磁束密度は、最終的に磁束密度の最大値に達するまで、典型的にはたとえば線形に上昇していく。
【0046】
好ましくは、励磁用磁石に印加される少なくとも1つの電流を、Bapp<(Sfbsat)/Sbo、最も好ましくはBapp≦0.9(Sfbsat)/Sboとなるように選択しており、その際、Bsatは強磁性シールド体が磁気飽和する磁束密度である。このようにして、励磁後の強磁性シールド体が、クライオスタットの周囲環境を不要な漂遊磁場から確実かつ良好に保護できるようになる。なお、本超伝導磁石装置の構造、具体的にはSfbおよびSbo、ならびに強磁性シールド材料も同様に、上記の条件に合うよう意図的に選択してもよい。なお、典型的にはBapp>2.5satであるが、Bapp>4satであってもよい。
【0047】
なお、ここではB(軸方向に沿った磁束密度成分)のみを考慮している。
【0048】
本発明の方法の好ましい一変形形態では、ステップb)において、少なくとも1つの電流をBapp≧3.5テスラ、好ましくはBapp≧5.0テスラ、最も好ましくはBapp≧7.0テスラとなるように選択している。また、結果として得られるBboも、基本的には3.5テスラ以上、あるいは5.0テスラ以上、もしくは7.0テスラ以上になる。こうした高磁束密度化は費用がかかる上、他の手段で達成するのが困難であるため、本発明による利点がとりわけ顕著である。
【0049】
さらに好ましいのが、
−超伝導バルク磁石の形状および/または強磁性シールド体の形状を選択することにより、
−かつステップe)の後、クライオスタット内の強磁性シールド体の温度を制御することにより、
磁気中心(MC)に対して+5mmから−5mmまでの位置における回転対称軸(z)上の磁束密度を、ステップe)の後、Bboが100ppm以内になるよう維持している一変形形態である。その後、室温ボアにおいて、NMR測定などのとりわけ精密な測定を、超伝導ボア内における磁気中心にある試料体積に対して実行してもよい。
【0050】
さらなる利点を本明細書と添付の図面とから導き出すことができる。上記および下記の特徴を、本発明に従って個々に、または任意の組み合わせで集合的に使用することができる。言及した実施形態、網羅的な列挙としてではなく、むしろ、本発明を説明するための特徴の例示として理解されるべきである。
【0051】
本発明を以下の図面に示す。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】本発明の超伝導磁石装置と励磁用電磁石とを備える、本発明の励磁装置の例示的な一実施形態における、z軸に沿った縦断面図を示す。
図2図1の励磁装置の概略断面図を示す。
図3】励磁用磁石に通電する前の、本発明の励磁方法の例示的な一変形形態の第1の段階にある、本発明の励磁装置を概略的に示す。
図4】励磁電流が低く、強磁性シールド体がまだ飽和していない状態の、第2の段階にある図3の励磁装置を示す。
図5】充電電流が十分に高くなり、強磁性シールド体が飽和し、一部の磁束が超伝導バルク磁石を貫通する状態の、第3の段階における図3の励磁装置を示す。
図6】超伝導バルク磁石がその臨界温度未満まで冷却され、励磁電流がその最高値に達している状態の、第4の段階における図3の励磁装置を示す。
図7】励磁電流が再度いくらか低下している状態の、第5の段階における図3の励磁装置を示す。
図8】励磁電流がさらに低下した状態の、第6の段階における図3の励磁装置を示す。
図9】励磁電流がゼロまで低下し、また残留磁場が超伝導バルク磁石によって捕捉されている状態の、第7の段階における図3の励磁装置を示す。
図10】励磁用電磁石から取り外した後の、図3の超伝導磁石装置を示す。
図11図3図10に示す本発明の方法の時間の関数としての、励磁用磁石の電流、超伝導バルク磁石の温度、ならびに位置MCおよびLBにおける磁束密度(図3を参照のこと)の概略図を示す。
図12】本発明の超伝導磁石装置の超伝導バルク磁石と強磁性シールド体との例示的な配置を示し、この強磁性シールド体は複数の円周方向溝を示す。
図13】本発明の超伝導磁石装置の超伝導バルク磁石と、複数の端部キャップを備える強磁性シールド体との別の例示的な配置を示し、この超伝導バルク磁石は円周方向溝を示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
なお、上記図面は本質的に概略的なものであり、本発明の特定の特徴をより明確に示すために、いくつかの特徴を誇張的または控えめに示している場合がある。
【0054】
図1は、一例として、本発明の超伝導磁石装置2と励磁用電磁石3とを備える、本発明の励磁装置1を概略的に示す。なお、平面IIにおける励磁装置1の断面を図2に示しており(簡略化のために、励磁用クライオスタットを図示せず)、この平面IIは、超伝導磁石装置2の超伝導バルク磁石9の回転対称軸である軸zに垂直であり、超伝導バルク磁石9の磁気中心を通る。
【0055】
図示の実施例では、励磁用電磁石3は、励磁用クライオスタット5内に配置された、ここでは超伝導タイプの略円筒壁形状の励磁用コイル4を備える。励磁用クライオスタット5の内部は極低温であるが、他の実施形態では、非超伝導の励磁用磁石も使用できることに留意されたい。励磁用電磁石3は、自身を流れる電流に応じて、その励磁ボア6内に(励磁用)磁束密度を発生させる。励磁用磁石3を流れる電流を、電子制御装置(図示せず)によって制御してもよい。
【0056】
励磁ボア6内には、超伝導磁石装置2を配置している。超伝導磁石装置2は、室温ボア8を有するクライオスタット7を備え、室温ボア8は、ここでは片側(ここでは上側)のみに開口している。なお、簡略化のために、クライオスタット7の下部を図1には図示していない。クライオスタット7の内部には超伝導バルク磁石9を配置しており、この超伝導バルク磁石9は、z軸と同軸に配置された4つの高温超伝導(HTS)リングで構成されているため、4つのリング全体において、超伝導バルク磁石9の形状は、zを中心とした回転対称性を有する略円筒壁形状となっている。クライオスタット7の室温ボア8は、超伝導バルク磁石9の超伝導ボア10内に延在する。さらに、クライオスタット7内には、略円筒壁形状の強磁性シールド体10を配置している。超伝導バルク磁石9を、強磁性シールド体11のシールドボア12内に配置している。
【0057】
励磁ボア6を有する励磁用電磁石3と、室温ボア8を有するクライオスタット7と、シールドボア12を有する強磁性シールド体11と、超伝導ボア10を有するバルク超伝導磁石9とを、すべてz軸と同軸に配置している。
【0058】
クライオスタット7の内部では、少なくとも超伝導バルク磁石を配置し、たとえばクライオスタット7のLNまたはLHeなどの極低温流体を付加するか、または除去することによって、あるいは冷却ヘッド(簡略化のために図示せず)を制御することによって、また必要であれば、クライオスタット7内の何らかの加熱装置、典型的には電気加熱装置(簡略化のために図示せず)を駆動かつ停止することにより、超伝導バルク磁石9が超伝導状態になる臨界温度Tcritを超える温度から温度Tcrit未満まで、温度を変更してもよい。クライオスタット7は、典型的には真空断熱体(簡略化のために図示せず)を含むか、または排気されている。
【0059】
図示の実施例では、強磁性シールド体11は、ここでは非磁性材料、たとえば銅などで作製された複数のスペーサ13を取り囲み、これらのスペーサ13はほぼ環状で、超伝導バルク磁石9の下側および上側に配置され、また、ここでは超伝導バルク磁石9の半径方向厚さ全体を覆って、半径方向内側に向かって延在している。他の実施形態では、これらのスペーサ13を同じサイズの強磁性要素で置き換えてもよく、これらの強磁性要素が強磁性端部キャップとして機能し、強磁性シールド体11の一部を構成していてもよい。スペーサ13および強磁性シールド体11を、ここでは複数のベース構造体16によって軸方向に包囲しており、底部ベース構造体16を機械的支持および/または冷却のためにロッド17に接続している。銅などの非磁性材料で、これらのベース構造体16およびロッド17を作製している。
【0060】
強磁性シールド体11は、その上端部および下端部の両方で、延出部分EXsbだけ軸方向に超伝導バルク磁石9から延出している。超伝導バルク磁石9は(すべてのz位置に対して最大の)外径ODbmを有し、また(すべてのz位置に対して最小の)内径IDbmを有し、これらはともにzに沿って一定である。図示の実施例では、EXsb=ODbm/2が適用され、さらにEXsb=(ODbm−IDbm)が適用される。なお、本発明によれば、EXsb≧(ODbm−IDbm)、とりわけEXsb≧2(ODbm−IDbm)が好ましい形状寸法である。また、ここで、超伝導バルク磁石9の軸方向長Lbmに対して、Lbm=3.5IDbmがさらに適用される。
【0061】
強磁性シールド体9は、環状の平均断面積Sfbを有し、ここでは強磁性シールド体9の断面積がzにわたって一定であるため、図2で直接この平均断面積Sfbを見ることができる(なお、断面積がzにわたって変化する場合、平均化を実行してSfbを確定する必要がある)。超伝導ボア10の最小断面積、すなわち超伝導バルク磁石9の内端の内側の全領域をSboとし、ここでも超伝導バルク磁石9の超伝導ボア10の断面積がzにわたって一定であるため、この場合も図2で直接この超伝導ボア10の最小断面Sboを見ることができる(なお、断面積がzにわたって変化する場合、Sboを確定するために最小断面積を選択する必要がある)。図示の例では、ほぼSfb=10boが適用され、これはすなわち、強磁性シールド体11の平均断面積Sfbは、超伝導ボア10の最小断面積Sboよりもはるかに大きくなることを意味する。
【0062】
室温ボア8の内部において、超伝導ボア10の磁気中心MCに試料体積14を配置し、そこに調査対象の試料15を配置してもよい(典型的には励磁後)。
【0063】
超電導バルク磁石9の、または超伝導磁石装置2の磁気中心MCに残留磁束密度Bboを確立する為、励磁装置1を使用して、「フィールドクーリング」型手順で、超伝導バルク磁石9を超伝導電流で誘導的に励磁(通電)する。この目的のために、クライオスタット7内にある強磁性シールド体11を介して同様にクライオスタット7内にある超伝導バルク磁石9に励磁用磁場を印加し、その結果、超伝導ボア12内で磁気中心MCに磁束密度Bappが印加されることになる(図3図10および図11の下部を参照のこと)。次いで、超伝導磁石装置2を励磁用電磁石3から取り外して使用場所へと搬送し、そこで試料体積14内の試料15を調査してもよい。
【0064】
図3図10は、一例として、たとえば図1および図2に示すような、励磁用電磁石9を用いて超伝導磁石装置2を励磁するための本発明の励磁方法を示す。簡略化のために、図3図10では、励磁用クライオスタットと、強磁性シールド体11および超伝導バルク磁石9を内包するクライオスタットとを示していない。図11は、励磁用電磁石3に印加される電流I(任意の単位、上部)、ならびに磁気中心MC(下部の太い曲線)およびLB(強磁性シールド体11の外側であって励磁ボア内側の位置、下部の破線曲線)にある磁束密度B(任意の単位)、ならびに超伝導バルク温度Tbm(任意の単位、中央部の点線)を方法の工程における時間の関数として示す。
【0065】
ステップa)では、超伝導磁石装置2を励磁用磁石3の励磁ボア内に配置するが、これについては図3を参照のこと。励磁用磁石3の励磁が開始される前、電流Iが励磁用磁石3に印加されることはなく、また磁束密度Bが磁気中心MCおよび位置LBの両方に存在しない状態であるが、これについては図11を参照されたい。超伝導バルク磁石9の温度はTcritを超えるTbmであり、したがって超伝導状態ではない。
【0066】
ステップb)では、電流Iを(ここでは線形に)上昇させ、これにより、励磁ボア内の磁束密度が上昇する。最初は、強磁性シールド体11は超伝導バルク磁石9と磁気中心MCとを内包する自身の内部を遮蔽するため、電流Iの増加によって磁気中心に磁束密度が発生することはなく、また磁束密度も位置LBで大幅に低減された状態であるが、これについては図4の磁力線20を参照されたい。電流Iがさらに増加すると強磁性シールド体11は飽和し、一部の磁束密度が超伝導バルク磁石9に侵入するが、これについては図5を参照されたい。なお、超伝導バルク磁石9は(まだ)超伝導状態ではないので、この状況では超伝導バルク磁石9による大きな遮蔽効果が何ら得られない。ついに励磁用磁石の電流Iは最大Iに達し、それに応じて磁気中心MCでBappに達することになるが、これについては図6を参照されたい。強磁性シールド体11の相対的な遮蔽効果はこの状況ではかなり弱く、その結果、貫通する磁束密度Bappは、強磁性シールド体11を設けない状態で存在し得る励磁用磁石3内の磁束密度に近似する。超伝導ボア内で特定のBapp値が必要である場合、本発明のフィールドクーリング法では、励磁用電磁石内に強磁性シールド体を設けない従来のフィールドクーリングと比較して、励磁用電磁石に若干強い電流が必要となる。位置LBの磁束密度は、この段階の磁気中心MCにおける磁束密度にほぼ対応している。
【0067】
ステップc)では、超伝導バルク磁石9の温度TboをTcrit未満に下げ、このために超伝導バルク磁石9は超伝導状態になる。励磁用磁石3の電流IはIのまま変化しないが、これについては図11を参照されたい。磁束密度分布は、ほぼ図6に示す状態のままとなる。
【0068】
ステップd)では、励磁用磁石3の電流Iを下げ、それに応じて励磁用磁石3が発生させる磁束密度は減少することになり、これを位置LBの磁束密度Bによって知ることできるが、これについては図11を参照されたい。この時点で超伝導状態の超伝導バルク磁石9は、超伝導バルク磁石9内に誘導された対応する超伝導電流により、超伝導ボアに自身が閉じ込めている磁束を一定に保持する。超伝導バルク磁石9の外側では磁場は減少しているが、これについては図7を参照し、またさらにこれが減少する様子については図8を参照されたい。最終状態では、電流Iがゼロに達すると、超伝導バルク磁石9が発生させる磁力線20が周囲環境に著しく拡散することなく、強磁性シールド体11を貫いてループ化することになるが、これについては図9を参照されたい。磁気中心MCの磁束密度はBboであり、これはそれ以前に存在したBappにほぼ対応している。たとえば位置LBにおける強磁性シールド体11の外側の磁束密度は絶対値では低い値となり、この例では、たとえばステップc)での磁束密度と比較して、位置LBで反対の符号を持つことになるが、これについては図11を参照されたい。
【0069】
超伝導バルク磁石9の温度TbmがTcritよりも十分に低く維持されている限り、超伝導バルク磁石9またはその超伝導ボア内に捕捉された磁束密度Bboは一定のままとなる。
【0070】
ステップe)では、超伝導バルク磁石9および強磁性シールド体11、ならびにこれらを内包するクライオスタット(図示せず)を備える超伝導磁石装置2を、励磁用電磁石3から取り外し、図10は、超伝導磁石装置2を既に取り外した状態を示している。次いで、たとえばNMR実験用途で使用できる実験室などの使用場所へと、超伝導磁石装置2を搬送する。超伝導ボア内の磁気中心MCにおける磁束密度、および位置LB(LBを超伝導磁石装置2に対する位置として選択していると仮定)における強磁性シールド体11の外側の磁束密度が、この取り外しまたは搬送時に変化することはないが、これについては図11を参照されたい。したがって、超伝導磁石装置2は、強度の磁力を制御する必要性を伴う、励磁後に強磁性シールド体を配置する必要なしに、周囲環境を漂遊磁場から保護するように十分に遮蔽され、その際、超伝導磁石装置は超伝導ボア内に強力な磁場をもたらすことになる。また、本発明による強磁性シールド体を励磁前に高精度でクライオスタット内に固定することができるため、装置2により、試料体積内または超伝導ボア内部の磁場の均一性を良好にすることができる。また、強磁性シールド体をクライオスタットの内部に設け、かつ超伝導バルク磁石とともにこれを冷却しているため、本装置により、試料体積内または超伝導孔部内部において、磁場を良好に安定させることが可能になる。さらに、クライオスタット内に強磁性シールド体を配置することにより、とりわけ超伝導磁石装置2のコンパクトな設計が可能になる。
【0071】
図12は、一例として、本発明の超伝導磁石装置2で用いる、強磁性シールド体11と、シールドボア12内に配置された超伝導バルク磁石9との配置を示す。図示の実施例では、強磁性シールド体11は略円筒壁形状であるが、その外側に、ここでは2つの円周方向溝30、31を備える外形を呈する。換言すれば、半径方向厚さは、ここでは強磁性シールド体11での軸方向位置(z位置)の関数として変化する。そのような構成により、超伝導ボア10内、より具体的には、試料15が配置される試料体積14における磁束密度の均一性が影響を受け、具体的には向上し得る。さらなる構成として、強磁性シールド体11は、複数の軸方向溝またはボアホール(図示せず)を含んでいてもよい。
【0072】
なお、代替的にまたは付加的に、超伝導バルク磁石9はさらに別の構成、具体的には軸方向(z方向)に沿って変化する半径方向厚さを有していてもよいが、これについては図13を参照されたい。ここで、超伝導バルク磁石9は、その内側に円周方向溝32を有する。強磁性シールド体11は、ここでは円筒壁形状の本体33と、2つの強磁性端部キャップ34、35(ここでは、さらに理解を深めるために持ち上げた状態で示している)とを備え、これらの端部キャップ34、35を、好ましくは超伝導バルク磁石9の軸方向に隣接して、または少なくとも超伝導バルク磁石9の軸方向のすぐ近くに配置して使用し、またこれらの端部キャップ34、35は、超伝導バルク磁石9を覆って半径方向内側に延在している。
【符号の説明】
【0073】
1 励磁装置
2 超伝導磁石装置
3 励磁用電磁石
4 励磁用コイル
5 励磁用クライオスタット
6 励磁ボア
7 クライオスタット(強磁性シールド体および超伝導バルク磁石用)
8 室温ボア
9 超伝導バルク磁石
10 超伝導ボア
11 強磁性シールド体
12 シールドボア
13 スペーサ
14 試料体積
15 試料
16 ベース構造体
17 ロッド
20 磁力線
30 溝
31 溝
32 溝
33 本体
34 端部キャップ
35 端部キャップ
B 磁束密度
app 印加磁束密度
bo 残留磁束密度
EXsb 超伝導バルク磁石に対する強磁性シールド体の軸方向延出部分
I 電流(励磁用磁石に印加)
最大電流(励磁用磁石に印加)
IDbm 超伝導バルク磁石の(最小)内径
LB 磁束密度測定の位置(励磁用磁石の内側であって強磁性シールド体の外側)
bm 超伝導バルク磁石の軸方向長
MC 磁気中心(超伝導バルク磁石/超伝導磁石装置の)
ODbm 超伝導バルク磁石の(最大)外径
fb 強磁性シールド体の平均断面積
bo 超伝導ボアの最小断面積
bm 超伝導バルク磁石の温度
crit 超伝導バルク磁石の臨界温度
z 超伝導バルク磁石の回転対称軸/軸方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13