特許第6941708号(P6941708)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6941708
(24)【登録日】2021年9月8日
(45)【発行日】2021年9月29日
(54)【発明の名称】二次電子放出係数の測定装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/04 20060101AFI20210916BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20210916BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20210916BHJP
【FI】
   H01J37/04 A
   H01J37/244
   H01J37/28 B
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-74992(P2020-74992)
(22)【出願日】2020年4月20日
(65)【公開番号】特開2021-150273(P2021-150273A)
(43)【公開日】2021年9月27日
【審査請求日】2020年4月20日
(31)【優先権主張番号】202010198334.X
(32)【優先日】2020年3月19日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】598098331
【氏名又は名称】ツィンファ ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】500080546
【氏名又は名称】鴻海精密工業股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】HON HAI PRECISION INDUSTRY CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】特許業務法人SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 科
(72)【発明者】
【氏名】姜 開利
(72)【発明者】
【氏名】▲ハン▼ 守善
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第103776857(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/04
H01J 37/244
H01J 37/28
G01N 23/2251
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型電子顕微鏡と、第一収集板と、第二収集板と、第一電流計と、第二電流計と、電圧計と、ファラデーカップと、電圧供給ユニットと、を含む二次電子放出係数の測定装置であって、
前記第一収集板は第一貫通孔を有し、前記第二収集板は第二貫通孔を有し、前記第一収集板および前記第二収集板は、前記走査型電子顕微鏡のキャビティに設置され、且つ間隔をあけて互いに平行して設置され、測定試料は前記第一収集板と前記第二収集板との間に設置され、
前記第一電流計は、高エネルギー電子ビームは測定試料の表面に当たった後に、測定試料の表面から脱出された電子から前記第一収集板および前記第二収集板に衝突する電子の電流強度を試験するために使用され、
前記ファラデーカップは前記走査型電子顕微鏡のキャビティに設置され、前記ファラデーカップは電子入り口を有し、前記第一貫通孔、前記第二貫通孔、および前記電子入り口は貫通して設置され、前記第一貫通孔、前記第二貫通孔、および前記電子入り口は前記走査型電子顕微鏡のキャビティに設置され、前記高エネルギー電子ビームは前記第一貫通孔および前記第二貫通孔を順次通過して前記ファラデーカップに入り、
前記第二電流計は、前記ファラデーカップに入った前記高エネルギー電子ビームによって放出される電子の電流強度を試験するために使用され、
前記電圧計は前記第一収集板と前記測定試料との間の電圧差を試験するために使用され
前記電圧供給ユニットは、前記測定試料と前記第一収集板との間に電圧を印加するために使用されることを特徴とする二次電子放出係数の測定装置。
【請求項2】
前記測定試料は二次元材料であり、その面積は10平方ナノメートル以上50平方ナノメートル以下であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電子放出係数の測定装置。
【請求項3】
前記測定試料は二次元金属モリブデンであることを特徴とする、請求項1に記載の二次電子放出係数の測定装置。
【請求項4】
前記走査型電子顕微鏡の電子放出端から放出される前記高エネルギー電子ビームの集束ビームスポット直径は10ナノメートルであることを特徴とする、請求項1に記載の二次電子放出係数の測定装置。
【請求項5】
前記第一収集板と前記第二収集板との間の距離は80ミクロン以上120ミクロン以下であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電子放出係数の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電子放出係数の測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電子放出とは、物体の表面を電子流またはイオン流で衝撃して、電子を放出させるプロセスを指す。放出された電子は二次電子と呼ばれる。二次電子は、通常、試料表面から5〜10nmの深さの所で放出され、試料の表面形態に非常に敏感であるため、二次電子放出現象は、試料の表面形態を効果的に表示できる。二次電子の原理は、電子増倍管、光電子増倍管、マイクロチャネルプレート、ファラデーカップ、デーリー検出器などの検出要素や、走査型電子顕微鏡などの電子イメージング要素で使用される。電子技術の急速な発展に伴い、二次電子放出の現象が広く注目されている。
【0003】
二次電子放出係数は、放出された二次電子と注入された電子との比であり、二次電子放出現象を測定するための重要な物理パラメータである。二次電子放出係数の要件は、状況によって異なる。例えば、光電子増倍管や電子増倍管では、二次電子放出係数が大きいほど良い。しかし、グリッド制御電子管や高圧電子管では、二次電子放出係数が小さいほど良く、さらに、二次電子放出現象が発生しないことが望ましい。したがって、二次電子放出係数の測定方法には、より高い精度が要求される。
【0004】
従来の二次電子放出係数の測定装置では、他の方法で生成された試料の表面から脱出する低エネルギー電子は一般に除外されない。これらの低エネルギー電子は疑似二次電子である。従来の二次電子放出係数の測定装置は疑似二次電子及び二次電子をそれぞれ区別できない。これにより、従来の二次電子放出係数の測定装置は測定された二次電子放出係数の精度を低下させる。また、従来の二次電子放出係数の測定装置は、サイズの大きな三次元物体の二次電子放出係数しか測定できないという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これによって、高精度の二次電子放出係数の測定装置を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
走査型電子顕微鏡と、第一収集板と、第二収集板と、第一電流計と、第二電流計と、電圧計と、ファラデーカップと、を含む二次電子放出係数の測定装置であって、前記第一収集板は第一貫通孔を有し、前記第二収集板は第二貫通孔を有し、前記第一収集板および前記第二収集板は、前記走査型電子顕微鏡のキャビティに設置され、且つ間隔をあけて互いに平行して設置され、測定試料は前記第一収集板と前記第二収集板との間に設置され、前記第一電流計は、高エネルギー電子ビームは測定試料の表面に当たった後に、測定試料の表面から脱出された電子から前記第一収集板および前記第二収集板に衝突する電子の電流強度を試験するために使用され、前記ファラデーカップは前記走査型電子顕微鏡のキャビティに設置され、前記ファラデーカップは電子入り口を有し、前記第一貫通孔、前記第二貫通孔、および前記電子入り口は貫通して設置され、前記第一貫通孔、前記第二貫通孔、および前記電子入り口は前記走査型電子顕微鏡のキャビティに設置され、前記高エネルギー電子ビームは前記第一貫通孔および前記第二貫通孔を順次通過して前記ファラデーカップに入り、前記第二電流計は、前記ファラデーカップに入った前記高エネルギー電子ビームによって放出される電子の電流強度を試験するために使用され、前記電圧計は前記第一収集板と前記測定試料との間の電圧差を試験するために使用される。
【0007】
前記測定試料は二次元材料であり、その面積は10平方ナノメートル以上50平方ナノメートル以下である。
【0008】
前記測定試料は二次元金属モリブデンである。
【0009】
前記走査型電子顕微鏡の電子放出端から放出される前記高エネルギー電子ビームの集束ビームスポット直径は10ナノメートルである。
【0010】
前記第一収集板と前記第二収集板との間の距離は80ミクロン以上120ミクロン以下である。
【発明の効果】
【0011】
従来技術と比べて、本発明の二次電子放出係数の測定装置は二次電子信号及び疑似二次電子信を明確に区別でき、疑似二次電子信号を排除し、純粋な二次電子信号のシステムを獲得して、正確な二次電子放出係数を獲得できる。また、二次電子放出係数の測定装置は、ナノメートルサイズの二次元材料の二次電子放出係数を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第一実施例の二次電子放出係数の測定装置の構造を示す図である。
図2】本発明の第一実施例の二次電子放出係数の測定方法のフローチャートである。
図3】本発明の二次電子放出係数の測定方法を採用して、異なる加速電圧で第一収集板と測定試料との間に印加される正電圧の変化によって測定される電流Iの変化曲線を示す図である。
図4】従来の二次電子放出係数の測定方法によって、異なる加速電圧で得られた金属モリブデンの二次電子放出係数を示す図である。
図5】本発明の二次電子放出係数の測定方法によって、異なる加速電圧で得られた金属モリブデンの二次電子放出係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【0014】
図1を参照すると、本発明の第一実施例は、二次電子放出係数の測定装置100を提供する。二次電子放出係数の測定装置100は、走査型電子顕微鏡10と、第一収集板20と、第二収集板30と、第一電流計40と、第二電流計50と、電圧計60と、ファラデーカップ70と、を含む。
【0015】
走査型電子顕微鏡10は、高エネルギー電子ビームを放出するための電子放出端102を有する。第一収集板20は第一貫通孔202を有する。第二収集板30は第二貫通孔302を有する。ファラデーカップ70は、電子入り口702を有する。第一貫通孔202、第二貫通孔302、および電子入り口702は貫通して設置される。第一収集板20および第二収集板30は、走査型電子顕微鏡10のキャビティに設置され、且つ間隔をあけて互いに平行して設置される。第一収集板20および第二収集板30は、電子を収集することに用いられる。測定試料は、第一収集板20と第二収集板30との間に配置され、第一電流計40の一つのターミナルは第一収集板20に接続され、もう一つのターミナルは測定試料に接続される。高エネルギー電子ビームが測定試料に当たった後、電子は測定試料の表面から脱出する。第一電流計40は、測定試料の表面から脱出された電子から第一収集板20および第二収集板30に衝突する電子の電流強度を試験するために使用される。電圧計60の一つのターミナルは第一収集板20に接続され、もう一つのターミナルは測定試料に接続される。電圧計60は、第一収集板20と測定試料との間の電圧差を試験するために使用される。ファラデーカップ70は、走査型電子顕微鏡10のキャビティに設置される。第二電流計50の一つのターミナルはファラデーカップ70に接続され、もう一つのターミナルは接地されている。第二電流計50は、走査型電子顕微鏡10の電子放出端102から第一貫通孔202および第二貫通孔302を通ってファラデーカップ70に入る高エネルギー電子ビームによって放出される電子の電流強度を試験するために使用される。
【0016】
走査型電子顕微鏡10の種類は制限されない。本実施例において、走査型電子顕微鏡10は、FEI Nova 450である。走査型電子顕微鏡10の電子放出端102から放出される高エネルギー電子ビームの直径は、必要に応じて選択できる。本発明では、走査型電子顕微鏡10の電子放出端102から放出される高エネルギー電子ビームの集束ビームスポットの直径が数ナノメートルに達することがあるので、二次電子放出係数の測定装置100は、測定試料の小さな局所領域の電子放出係数を測定することができる。したがって、二次電子放出係数の測定装置100は、面積が小さい測定試料の二次電子放出係数を測定することができる。二次電子放出係数の測定装置100はナノメートルサイズの二次元材料の二次電子放出係数を測定することができ、従来の二次電子放出係数の測定装置は、サイズの大きい三次元材料の二次電子放出係数しか測定できないという問題が解消されている。二次電子放出係数の測定装置100は、100平方ナノメートル未満の面積を有する二次元材料の二次電子放出係数を測定することができる。一つの例において、二次電子放出係数の測定装置100は、10平方ナノメートル以上50平方ナノメートル以下の面積を有する二次元材料の二次電子放出係数を測定することができる。本実施例において、測定試料はマクロサイズの二次元金属モリブデンである。本実施例において、走査型電子顕微鏡10の電子放出端102から放出される高エネルギー電子ビームの集束ビームスポット直径は、10ナノメートルである。
【0017】
第一収集板20のサイズは必要によって設計できる。第一収集板20の材料は導電性材料であり、例えば、金属、導電性ポリマー、アンチモンスズ酸化物(ATO)、グラファイト、またはインジウムスズ酸化物(ITO)のいずれかの一種である。本実施例において、第一収集板20は銅板であり、銅板の形状は正方形であり、一辺の長さは1.5cmである。
【0018】
第二収集板30のサイズは必要によって設計できる。第二収集板30の材料は導電性材料であり、例えば、金属、導電性ポリマー、アンチモンスズ酸化物(ATO)、グラファイト、またはインジウムスズ酸化物(ITO)のいずれかの一種である。第二収集板30のサイズおよび材料は第一収集板20のサイズおよび材料と同じであっても異なっていてもよい。本実施例において、第二収集板30は銅板であり、銅板の形状は正方形であり、一辺の長さは1.5cmである。
【0019】
第一収集板20の第一貫通孔202および第二収集板30の第二貫通孔302は貫通して設置される。これにより、走査型電子顕微鏡10の電子放出端から放出された高エネルギー電子ビームは第一貫通孔202および第二貫通孔302を通過して、ファラデーカップ70に入る。第二収集板30と第一収集板20との間の距離は、必要によって選択できる。好ましくは、第二収集板30と第一収集板20との間の距離は、80ミクロン以上120ミクロン以下である。本実施例において、第二収集板30と第一収集板20との間の距離は100マイクロメートルである。
【0020】
二次元材料は一般に単一の原子層またはいくつかの原子層であるため、二次元材料が高エネルギー電子ビームによって衝撃されると、二次電子が二次元材料の上表面および下表面で脱出する。本実施例において、第二収集板30と第一収集板20とは対向して設置される。二次元材料の二次電子放出係数を測定する場合、測定対象の二次元材料が第二収集板30と第一収集板20との間に設置される。第二収集板30と第一収集板20とを短絡させて二次電子をすべて収集することにより、二次電子の見落としを防止し、二次電子放出係数の測定装置100の測定精度を向上させる。
【0021】
第一電流計40、第二電流計50、および電圧計60は、一つのソースメータに統合されてもよく、または電流計および電圧計がそれぞれ使用されてもよい。本実施例において、第一電流計40、第二電流計50、および電圧計60は、ソースメータに統合され、ソースメータのタイプはソースメータ(Agilent B2902A)である。ソースメータは、この本実施例におけるソースメータに限定されず、別の従来のソースメータであってもよい。
【0022】
第一電流計40および第二電流計50が別個の電流計を採用する場合、第一電流計40および第二電流計50は従来の電流計であってもよい。第一電流計40は、測定試料から第一収集板20および第二収集板30への電子の電流強度を測定できればよい。第二電流計50は、走査型電子顕微鏡10の電子放出端102から第一収集板20および第二収集板30を順次に通る高エネルギー電子ビームがファラデーカップ70に入れ、形成される注入電流を測定できればよい。電圧計60は、第一収集板20と測定試料との間の電圧差を測定することができる限り、従来の電圧計であってもよい。
【0023】
さらに、二次電子放出係数の測定装置100は電圧供給ユニット(図示せず)を含んでもよい。電圧供給ユニットは測定試料と第一収集板20との間に電圧を印加することに用いる。本実施例において、電圧供給ユニットは外部電源である。
【0024】
また、二次電子放出係数の測定装置100は固定要素(図示せず)を含んでもよい。固定要素は測定試料を第一収集板20と第二収集板30との間に固定することに用いる。
【0025】
二次電子放出係数の測定装置100は、ナノメートルサイズの二次元材料の二次電子放出係数を測定でき、大きいサイズの三次元材料の二次電子放出係数しか測定できない従来の二次電子放出係数測定装置の問題が解消されている。二次電子放出係数の測定装置100は、第一収集板20と第二収集板30との間に50eVの電圧を印加することにより、二次電子信号を他の信号と正確に区別でき、高エネルギー電子ビームに当たって測定試料表面から脱出する二次電子以外の電子の電流を得ることができる。第一収集板20と第二収集板30との間の電圧を再度調整することにより、疑似二次電子信号を排除し、純粋な二次電子信号のシステムを獲得して、正確な二次電子放出係数を獲得できる。また、二次電子放出係数の測定装置100には第二収集板30と第一収集板20とは対向して設置される。二次元材料の二次電子放出係数を測定する場合、測定試料が第二収集板30と第一収集板20との間に設置される。第二収集板30と第一収集板20とを短絡させて測定試料の対向する二つの表面から脱出する二次電子をすべて収集でき、二次電子の見落としを防止し、二次電子放出係数の測定装置100の測定精度を向上させる。二次電子放出係数の測定装置100の信号対雑音比は比較的低く、測定試料の表面積に炭素を堆積する必要がないため、従来の二次電子放出係数の測定装置では、測定試料の表面の炭素が二次電子放出係数の測定精度に影響を与えるという問題が解消されている。二次電子放出係数の測定装置100は、合理的な電気設計とシンプルな構造を持つ。
【0026】
図2を参照すると、二次電子放出係数の測定装置100を採用して、二次電子放出係数の測定方法を提供する。二次電子放出係数の測定方法は、以下のステップS1〜S4を含む。
S1では、二次電子放出係数の測定装置100を提供し、走査型電子顕微鏡10の電子放出端102から放出される高エネルギー電子ビームは、第一収集板20の第一貫通孔202および第二収集板30の第二貫通孔302を順次通過して、ファラデーカップ70に入り、第二電流計50によって、ファラデーカップ70に入る高エネルギー電子ビームによって形成される注入電流I注入電流を測定する。
S2では、第一収集板20及び第二収集板30を短絡し、測定試料を第一収集板20と第二収集板30との間に置き、測定試料と第一収集板20との間に50ボルトの正電圧を印加し、測定試料の電圧は第一収集板20の電圧に対して正電圧であり、このとき、生成した二次電子は測定試料から脱出できず、第一収集板20及び第二収集板30では二次電子信号を収集することができず、すなわち、二次電子によって形成される電流ISEは理論的には0であり、第一電流計40によって測定試料と第一収集板20との間の電流Iを測定し、第一電流計40のバックグラウンド電流IBG1は無視でき、式I=IBG1+Iothers+ISEによって、二次電子以外の電子の電流Iotherを獲得する。
S3では、第一収集板20及び第二収集板30を短絡し、次に、第一収集板20と測定試料との間に正電圧を印加し、第一収集板20の電圧は、測定試料の電圧に対して正電圧であり、第一電流計40によって、測定試料と第一収集板20との間の電流Iを測定し、第一電流計40のバックグラウンド電流IBG2は無視でき、式I=IBG2+Iothers+ISEによって、二次電子が形成する電流ISEを獲得する。
S4では、数1によって、二次電子放出係数δを獲得する。
【数1】
【0027】
ステップS1において、注入電流I注入電流の大きさは、走査型電子顕微鏡10の電子放出端102から放出される高エネルギー電子ビームのエネルギーに関係する。本実施例において、走査型電子顕微鏡10の電子放出端によって放出される高エネルギー電子ビームの集束ビームスポット直径は10ナノメートルであり、第二電流計50によって測定される高エネルギー電子ビームによって注入される電流I注入電流は300pAである。走査型電子顕微鏡10の電子放出端102から放出される集束ビームスポット直径の大きさ及び高エネルギー電子ビームの注入電流I注入電流の大きさは、本実施例に限定されるものではなく、必要に応じて設定することができる。
【0028】
走査型電子顕微鏡10の電子放出端102から放出される高エネルギー電子ビームの集束ビームスポットの直径が数ナノメートルに達することがあるので、二次電子放出係数の測定方法は、測定試料の小さな局所領域の電子放出係数を測定することができる。したがって、二次電子放出係数の測定方法は、面積が小さい測定試料の二次電子放出係数を測定することができる。二次電子放出係数の測定方法はナノメートルサイズの二次元材料の二次電子放出係数を測定することができ、従来の二次電子放出係数測定方法はサイズの大きい三次元材料の二次電子放出係数しか測定できないという問題が解消されている。二次電子放出係数の測定方法は、100平方ナノメートル未満の面積を有する二次元材料の二次電子放出係数を測定することができる。一つの例において、二次電子放出係数の測定方法は、10平方ナノメートル以上50平方ナノメートル以下の面積を有する二次元材料の二次電子放出係数を測定することができる。
【0029】
ステップS2において、第一収集板20及び第二収集板30を短絡し、測定試料を第一収集板20と第二収集板30との間に置き、測定試料と第一収集板20との間に50ボルトの電圧を印加する。広い意味では、50eV未満のエネルギーを持つ電子は二次電子と呼ばれ、50eVより大きいエネルギーを持つ電子は二次電子ではない。これにより、測定試料と第一収集板20との間に50ボルトの電圧を印加する際、生成した二次電子は測定試料から脱出できず、第一収集板20及び第二収集板30では二次電子信号を収集することができない。すなわち、二次電子によって形成される電流ISEは理論的には0である。第一電流計40によって、測定試料と第一収集板20との間の電流Iを測定する。また、第一電流計40のバックグラウンド電流IBG1は無視できる。これにより、式I=IBG1+Iothers+ISEによって、二次電子以外の電子の電流Iotherを獲得する。
【0030】
本実施例において、測定試料と第一収集板20との間に50ボルトの正電圧を印加する。第一収集板20の電圧は0Vであり、測定試料の電圧は50Vである。測定試料と第一収集板20との間の電圧差が正の50ボルトである限り、第一収集板20および測定試料の電圧は本実施例において限定されない。測定試料と第一収集板20との間に印加される正電圧は、電圧計60によって読み取られる。
【0031】
本実施例において、測定試料は二次元金属モリブデンである。第一収集板20及び第二収集板30は、ワイヤーで直接に短絡されてもよい。
【0032】
ステップS3において、第一収集板20及び第二収集板30はステップS2におけるワイヤーで直接に短絡されてもよい。そして、第一収集板20と測定試料との間に正電圧が印加される。正電圧は、第一収集板20と測定試料との間の測定電流Iが飽和したときの正電圧である。第一収集板20と測定試料との間に印加される正電圧が増加すると、電流Iは最初に増加し、その後変化しないままである。電流Iの飽和は、電流Iが第一収集板20と測定試料との間に印加される正電圧の増加に伴って増加しないことを意味する。電流Iの飽和に達した後に、第一収集板20と測定試料との間に印加される正電圧は増加し続けても、第一収集板20と測定試料との間で測定される電流Iは変化しない。その原因は以下である。印加する正電圧が高くなると、第一収集板20および第二収集板30で収集される二次電子も徐々に増加する。このとき、第一収集板20と測定試料との間で測定される電流Iは徐々に増加する。次に、生成した二次電子が第一収集板20および第二収集板30により完全に収集された後、第一収集板20と測定試料との間に印加される正電圧が増加し続けても、第一収集板20と測定試料との間で測定された電流Iは変化しなくなる。このとき、電流Iが飽和し、このときの正電圧をステップS3で正電圧と定義する。本実施例において、第一収集板20と測定試料との間の正電圧が約20Vであるとき、第一収集板20と測定試料との間の測定電流Iは飽和する。
【0033】
本実施例において、正電圧が第一収集板20と測定試料との間に印加され、測定試料の電圧は0Vである。第一収集板20と測定試料との間に正電圧が印加され、正電圧は、第一収集板20と測定試料との間に測定された電流Iが飽和に達したときの正電圧であることが保証できればよく、測定試料の電圧は本実施例に限定されない。第一収集板20と測定試料と間に印加される正電圧の大きさは、電圧計60によって読み取られる。電圧供給ユニットを使用して、ステップS2で第一収集板20と測定試料との間に50ボルトの正電圧を印加し、ステップS3で第一収集板20と測定試料との間に正電圧を印加する。本実施例において、電圧供給ユニットは外部電源である。
【0034】
図3は、本発明の二次電子放出係数の測定方法を採用し、異なる加速電圧で第一収集板20と測定試料との間に印加される正電圧の変化によって測定される電流Iの変化曲線を示す図である。図3を示すように、印加される正電圧の増加に伴い、電流Iは徐々に増加し、印加される正電圧が約20Vである際、電流Iは飽和する。第一収集板20と測定試料との間に同じ正電圧が印加される際、加速電圧が高いほど、第一収集板20と測定試料との間の電流Iが大きい。この原因は、加速電圧が高いほど電子ビームのエネルギーが高くなり、電子ビームが測定試料の表面に衝突すると、作用距離も大きくなり、生成する二次電子の数が多くなることである。
【0035】
図4は、従来の二次電子放出係数の測定方法によって、異なる加速電圧で得られた金属モリブデンの二次電子放出係数を示す図である。図5は、本発明の二次電子放出係数の測定方法によって、異なる加速電圧で得られた金属モリブデンの二次電子放出係数を示す図である。図4図5を比較すると、同じ加速電圧において、本発明の二次電子放出係数の測定方法を用いて得られた金属モリブデンの二次電子放出係数は、従来の二次電子放出係数の測定方法を用いて得られた金属モリブデンの二次電子放出係数よりも小さいことがわかる。その原因は以下である。一方で、本発明の二次電子放出係数の測定方法は、従来の二次電子放出係数の測定方法により生成された表面から脱出する疑似二次電子を除去する。もう一方で、本発明の二次電子放出係数の測定方法では、測定試料の表面に炭素が存在しないため、試料表面の炭素が二次電子放出係数に及ぼす影響を回避することができる。したがって、本発明の二次電子放出係数の測定方法は、より高い精度を有する。
【0036】
本発明の二次電子放出係数の測定方法は、ナノメートルサイズの二次元材料の二次電子放出係数を測定でき、大きいサイズの三次元材料の二次電子放出係数しか測定できない従来の二次電子放出係数の測定方法の問題が解消されている。二次電子放出係数の測定方法は疑似二次電子信号を排除し、純粋な二次電子信号のシステムを獲得して、正確な二次電子放出係数を獲得できる。また、第二収集板と第一収集板とは対向して設置される。二次元材料の二次電子放出係数を測定する場合、測定試料を第二収集板と第一収集板との間に設置される。第二収集板と第一収集板とを短絡させて測定試料の対向する二つの表面から脱出する二次電子をすべて収集でき、二次電子の見落としを防止できる。これにより、二次電子放出係数の測定方法によって測定される二次電子放出係数の測定精度を向上させる。二次電子放出係数の測定方法には、測定試料の表面積に炭素を堆積する必要がないため、従来の二次電子放出係数の測定方法では、測定試料の表面の炭素が二次電子放出係数の測定精度に影響を与えるという問題が解消されている。
【符号の説明】
【0037】
100 二次電子放出係数の測定装置
10 走査型電子顕微鏡
102 電子放出端
20 第一収集板
202 第一貫通孔
30 第二収集板
302 第二貫通孔
40 第一電流計
50 第二電流計
60 電圧計
70 ファラデーカップ
702 電子入り口
図1
図2
図3
図4
図5