(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施形態1>
1.概要説明
本発明の一実施形態である温度測定装置20(「生体情報測定装置」の一例)を
図1から
図4を用いて説明する。実施形態1では、
図1のブロック図に示す構成の温度測定装置20を用いた、温度測定ユニット10を例示して説明する。ここでいう「温度」とは、後述するように被験者Bの体温であり、生体情報の一例である。
図2に示す温度測定ユニット10は、ポータブル型の放射温度計である。温度測定ユニット10は、温度測定部11、表示部12、操作部13、測定開始スイッチ14、グリップ部15をそれぞれ有している。
【0015】
図2に示すように、温度測定ユニット10は、上下方向に伸びる柱状のグリップ部15と、グリップ部15の上端から水平方向に伸びる温度測定部11からなり、全体としてL字型になっている。グリップ部15は、温度測定ユニット10を操作するオペレータが被験者Bの体温Tbを測定するときに把持する、持ち手となる部分である。グリップ部15には、測定開始スイッチ14が配設されている。オペレータが測定開始スイッチ14を押下すると、後述する各センサ30等による赤外線等の検出が開始される。
【0016】
表示部12は、液晶表示パネルその他の表示装置からなり、測定結果である被験者Bの体温や、被験者Bまでの距離L等を表示する。表示部12は、測定結果が事前に入力した任意の閾値よりも高い、又は低い場合や、温度測定ユニットを駆動するための電源電圧が低下した場合に、警告表示をすることもできる。
【0017】
操作部13は、温度測定ユニット10の主電源をON/OFFするスイッチや、閾値の設定等その他の操作に用いられるスイッチである。
【0018】
温度測定部11には、後述する各センサの測定範囲が温度測定部11の延出方向と同じ水平方向を向くような姿勢で、温度測定装置20が内蔵されている。温度測定装置20は、
図1に示すように、焦電センサ30、測距センサ40、周囲温度センサ50、制御部60を有している。
【0019】
測距センサ40は、焦電センサ30及び周囲温度センサ50と並んで被験者Bに向けて配されており、レーザ光を発する送信部41及び、被験者Bの表面で反射したレーザ光を受信する受信部42を有している。送信部41は、その内部にレーザダイオード等の光源を有しており、光源が発するパルスレーザを被験者Bに向けて送信する。受信部42は、フォトダイオード等の受光素子であり、被験者Bで反射した反射波を受信し、パルスレーザを発信してから受信するまでの時間差を測定する。そして、パルスレーザを送信してから受信するまでの時間差の1/2に、測定環境における気温、気圧、湿度を考慮した光速を乗じると、測距センサ40から被験者Bまでの距離Lが求まる。このようにして、測距センサ40は距離Lを検出し、検出結果を制御部60に出力する。
【0020】
ここで、後述の制御部60で実行される補正処理に必要な測定値は、焦電センサ30から被験者Bまでの距離であり、測距センサ40から被験者Bまでの距離Lではない。しかし、本実施形態では、焦電センサ30は測距センサ40の近傍に並べて配されており、両センサ間の距離はLに比べて無視できるほど小さいといえるため、焦電センサ30から被験者Bまでの距離をLとして取り扱うことに支障はない。しかし、両センサ間の距離が距離Lと比べて無視できないほど大きな場合は、両センサと被験者Bの位置関係を考慮しなければならないことに留意する。
【0021】
周囲温度センサ50は、サーミスタ51を利用した温度センサである。サーミスタ51は、温度変化に応じて抵抗値が変化する特性を有する材料からなる。サーミスタ51の抵抗値は温度から一義的に定まるため、サーミスタ51の抵抗値を測定することにより、サーミスタの温度を求めることができる。本実施形態に係る周囲温度センサ50のサーミスタ51は、温度測定ユニット10の内部に配され、焦電センサ30が存在する空間の温度(周囲温度Tc)を測定できるようになっている。周囲温度センサ50は、測定結果である周囲温度Tcを制御部60に出力する。
【0022】
焦電センサ30は、熱源である被験者Bが発する赤外線を検出して起電力を発生するパッシブ型のセンサである。焦電センサ30は、被験者Bに向けられる受信部31と、本体部32と、を有している。受信部31はフレネルレンズであり、測定範囲Rの物体が発する赤外線を集光して、本体部32内に配される検出素子(図示しない)に入射させる。検出素子としては、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の強誘電体セラミックスが用いられている。赤外線が検出素子に到達すると、検出素子の表面に電荷が誘起され、入射する赤外線のエネルギー量に応じた起電力V0が発生する。入射する赤外線のエネルギーが大きければ、起電力V0も大きくなる。
【0023】
この起電力V0は非常に小さい値であるため、本体部32に内蔵されているFET等(図示しない)により起電力V0は増幅され、焦電センサ30が出力する値は起電力Vpとなる。焦電センサ30は、起電力Vpを制御部60に出力する。
【0024】
制御部60は、マイクロコンピュータであり、記憶部61及び演算部62を有している。記憶部61には、上述した各センサ(焦電センサ30、測距センサ40、周囲温度センサ50)が出力する値や、操作部13に入力される操作内容が一時記憶される。演算部62は、これらの値や操作内容に基づき演算処理を行い、その結果を表示部12に出力する。制御部60には、少なくとも、各センサがそれぞれ検出した検出値である、「焦電センサ30から被験者Bまでの距離L」、「周囲温度Tc」、「焦電センサ30の起電力Vp」が入力される。本実施形態に係る温度測定ユニット10では、これらの3つの値(L、Tc、Vp)に基づいて、制御部60において補正を行い、被験者Bの体温Tbを求める。以下、制御部60において行われる補正の原理及び具体的なフローについて説明する。
【0025】
2.補正の原理
焦電センサ30は、受信部31に入射する赤外線を検出して、赤外線の強度に比例した起電力Vpを発生する赤外線センサである。そのため、焦電センサ30の周囲温度Tcのとき、測定範囲RにTcとは異なる温度Tbの被験者Bが入ると、起電力Vpは変化する。次に、周囲温度Tc、体温Tb、起電力Vpの関係について述べる。
【0026】
被験者Bの体温Tbの測定を開始する前、つまり、焦電センサ30で測定している温度が周囲温度Tcと同じ温度のときの起電力Vpを、基準起電力Vp0とする。基準起電力Vp0は周囲温度Tcに比例する値である。また、被験者Bが測定範囲Rに入った後の起電力(つまり被験者Bの体温Tb測定時の起電力)をVp1とする。起電力の変化量ΔVpは、下記式(1)で表される。
ΔVp=|Vp1−Vp0|・・・(1)
【0027】
距離Lが一定のときは、周囲温度Tcが0℃から50℃の範囲内において異なる値をとる場合でも、被験者Bの体温Tbを測定した焦電センサ30は、体温Tbに比例する起電力Vp1を発生する。つまり、被験者Bの赤外線を検出したときの起電力Vp1は、周囲温度Tcの影響をほとんど受けず、体温Tbに比例する値となる。例えば、距離Lが一定で、体温Tb=36℃の場合に、周囲温度Tcが0℃であっても50℃であっても、焦電センサ30の起電力Vp1は略同じ値になる。
【0028】
以上のことから、周囲温度Tcが体温Tbより低い場合(Tc<Tb)、焦電センサ30の起電力の変化量ΔVpは、体温Tbと周囲温度Tcとの差(Tb−Tc)に比例して上昇する。一方、周囲温度Tcが体温Tbより高い場合(Tc>Tb)、焦電センサ30の起電力の変化量ΔVpは、Tc−Tbに比例して下降する。なお、周囲温度Tcと体温Tbが同じ場合は、起電力Vpは変化せず、ΔVp=0である。
【0029】
次に、起電力Vpと、距離Lとの関係について述べる。本実施形態に係る温度測定ユニット10では、焦電センサ30から被験者Bまでの距離を測距センサ40で測定し、距離Lとしている。焦電センサ30が受信する赤外線は、熱源である被験者Bとの距離Lが増大するにつれて減衰するため、焦電センサ30の起電力Vpは、距離Lの値により変動する。そのため、起電力Vpの変化量ΔVpから被験者Bの体温Tbを求めるには、距離Lに基づく減衰の影響を考慮した補正を行う必要がある。
【0030】
ここで、減衰の影響を除外した標準起電力Eを規定する。標準起電力Eは、焦電センサ30と被測定物の距離が0のときに測定される起電力Vpであり、温度Tに比例する値である。減衰率は距離の関数f(L)である。被測定物の温度がT、距離Lが0のときの標準起電力Eに、減衰の影響として減衰率f(L)を乗じると、減衰後の起電力Vpが得られるとすると、EとVpの関係は、式(2)のように表される。式(2´)は、式(2)を変形したものである。
Vp=E×f(L)・・・(2)
f(L)=Vp/E・・・(2´)
【0031】
体温Tbを測定する前、つまり周囲温度Tcを測定しているときの標準起電力をE0、体温Tbを測定しているときの標準起電力をE1、標準起電力の変化量ΔE=E1−E0とする。式(1)及び式(2´)から式(3)が得られる。式(3)を変形したものが式(3´)である。
f(L)=ΔVp/ΔE・・・(3)
ΔE=ΔVp/f(L)・・・(3´)
【0032】
横軸を距離L[cm]、縦軸を減衰率f(L)=ΔVp/ΔEとして、減衰率f(L)を実験により求めたグラフを
図4に示す。体温Tbは一定で、周囲温度Tc及び距離Lを変化させたときのΔE及びΔVpを実験により求め、複数の(L,ΔVp/ΔE)をプロットして得られたのが曲線A1である。
【0033】
曲線A2は、曲線A1を基にして、減衰率f(L)を距離Lの関数として近似した曲線である。なお、減衰率f(L)の近似式は、Kを定数として、式(4)で表される。式(4)は、距離Lが15cm〜300cmの範囲で変化する場合、及び、周囲温度Tcが0℃〜50℃の範囲で変化する場合に、f(L)を十分な精度をもって近似できる近似式である。
f(L)=K
−L ・・・(4)
【0034】
以下、減衰率f(L)を用いて、起電力Vpの変化量ΔVpから、距離Lの影響を取り除いて標準起電力Eを算出する補正処理について説明する。この補正処理は、演算部62で行われる。
【0035】
上述したように、標準起電力Eは、距離Lが0のときの起電力Vpである。本実施形態の焦電センサ30では、被測定物の温度をT[℃]とすると、標準起電力Eと温度Tの関係は以下の式(5)により表される。なお、式(5)を変形したものが、式(5´)である。標準起電力Eは、被測定物の温度Tにより一義的に定まる値であるため、標準起電力Eから、式(5´)を用いて被測定物の温度T、すなわち被験者Bの体温Tbを算出できる。
E=0.5+0.01×T・・・(5)
T=(E−0.5)×100・・・(5´)
【0036】
例えば、標準起電力Eが0.76Vである場合、式(5´)より、被測定物の温度Tは26℃となる。また、被測定物の温度Tが40℃であれば、式(5)より、標準起電力Eは0.90[v]となる。なお、周囲温度Tcのときの焦電センサ30の起電力である基準起電力Vp0は、式(5)に周囲温度Tcを代入して得られる標準起電力E0に等しい(Vp0=E0)。
【0037】
距離L離れた被験者Bの体温Tbを測定したときの標準起電力Ebは、初期値をE0、変化量をΔEとして、式(6)により表される。式(3´)、式(4)を用いると、Tc<Tbの場合、式(6)は式(7)と変形できる。式(7´)は、式(7)のΔVpをVp1−Vp0に置き換えて表記したものである。
Eb=ΔE+E0・・・(6)
Eb=(ΔVp×K
L)+Vp0・・・(7)
Eb=(Vp1−Vp0)×K
L+Vp0・・・(7´)
【0038】
なお、Tc>Tbの場合は、上記の式(7)に代えて、式(8)を用いて標準起電力Ebを求める。式(7)とは異なる点として、係数(1.2)が追加されているが、これは、近似の精度を上げるために、経験値から導かれた係数である。式(8´)は、式(8)のΔVpをVp1−Vp0に置き換えて表記したものである。
Eb=ΔVp×K
L×1.2+Vp0・・・(8)
Eb=(Vp1−Vp0)×K
L×1.2+Vp0・・・(8´)
【0039】
以下、Tc<Tbの場合に用いられる式(7´)に基づいて説明する。起電力Vp1は被験者B測定時の焦電センサ30の出力値であり、距離Lは測距センサ40の出力値であるため、それぞれ温度測定装置20が有するセンサにより検出される値である。また、定数Kは事前に実験により求めた経験値であり、既知の値である。そして、基準起電力Vp0は、周囲温度Tcのときの標準起電力E0であり、E0は、周囲温度センサ50により測定された周囲温度Tcと式(5)から算出できる。
【0040】
各センサによる測定値(Vp1、L)、計算値(Vp0)、及び定数Kを式(7´)に代入すると、被験者Bの体温Tbを測定したときの標準起電力Ebを算出できる。そして、標準起電力Ebを式(5´)のEに代入して、最終的に体温Tbを算出する。なお、Tc>Tbの場合も、式(8´)及び式(5´)を用いて、標準起電力Eb及び体温Tbを算出することができる。
【0041】
3.フローチャート
図3は、本実施形態に係る温度測定ユニット10を用いて被験者Bの体温Tbを非接触で測定するときの測定フローであり、ステップS10〜S17の計8ステップからなる。この測定フローは、制御部60に記憶されており、測定開始スイッチ14をONにすること(S10)をトリガとして、S11以降が順次実行される。
【0042】
オペレータが温度測定ユニット10のグリップ部15を把持して、温度測定部11を被験者Bの方向に向け、被験者Bの皮膚が露出した部位(例えば頭部)が測定範囲R内に入るようにした状態で、測定開始スイッチ14を押下する(S10)。
【0043】
すると、測定開始スイッチ14から制御部60に向けて、S11以降の測定フローを開始する旨の信号が到達する。そして、制御部60は、測距センサ40に、焦電センサ30から被験者Bまでの距離Lの測定を開始させる。
【0044】
測距センサ40は、送信部41が有する光源から被験者Bに向けて、パルスレーザを発信する。受信部42は、被験者Bの表面で反射したパルスレーザを受信する。パルスレーザを発信してから受信するまでの時間差と光速の値に基づいて測距センサ40は距離Lを算出し、結果を制御部60に送信する(S11)。
【0045】
次に、制御部60は、周囲温度センサ50に、周囲温度Tcを測定させる。周囲温度センサ50は、サーミスタ51の抵抗値に基づき、周囲温度Tcを検出し、結果を制御部60に送信する(S12)。
【0046】
次に、制御部60は、周囲温度Tc及び式(5)に基づいて、温度Tc時の標準起電力Eとして、標準起電力E0を算出する。標準起電力E0は、焦電センサ30の温度が周囲温度Tcであるときの、焦電センサ30の起電力(基準起電力Vp0)と等しいため、焦電センサ30の既知の特性から求めることができる(S13)。
【0047】
次に、制御部60は、焦電センサ30に、被験者Bが発する赤外線を検出させる。焦電センサ30には、検出した赤外線の強度に比例した起電力Vp1が発生する。焦電センサ30は、起電力Vp1を制御部60に出力する(S14)。
【0048】
この時点において、制御部60には、距離L、周囲温度Tc、標準起電力E0(基準起電力Vp0)、焦電センサ30の起電力Vp1、それぞれの値が入力されており、記憶部61がこれらの値を記憶している。
【0049】
次に、制御部60は、基準起電力Vp0と、焦電センサ30の出力である起電力Vp1を比較する(S15)。
【0050】
Vp0<Vp1の場合(S15:YES)、制御部60は、測定値(距離L、起電力Vp1)及び計算値(基準起電力Vp0)を式(7´)に代入して標準起電力Ebを算出する。次いで、式(5´)に標準起電力Ebを代入して、体温Tbを算出する(S16)。
【0051】
Vp0>Vp1の場合(S15:NO)、制御部60は、測定値(距離L、起電力Vp1)及び計算値(基準起電力Vp0)を式(8´)に代入して標準起電力Ebを算出する。次いで、式(5´)に標準起電力Ebを代入して、体温Tbを算出する(S17)。
【0052】
4.効果説明
人間の体温の測定など、非接触で温度を測定するタイプの温度計(放射温度計)の検出素子としては、サーモパイルが用いられているものが多い。サーモパイルは多数の熱電対を直列又は並列に接続し、各熱電対の熱起電力と周囲温度に基づいて被験者の体温を算出し、結果を出力する。
【0053】
しかし、サーモパイルを用いた温度計は、非接触とはいえ、検出素子と被験者の距離を数cm程度まで近付けなければ実用上十分な精度が得られない。また、検出素子の温度が被測定物の温度よりも高い場合、測定することができないという問題がある。これは、周囲温度が体温よりも高い環境では、体温の測定ができないことを意味する。
【0054】
本実施形態に係る温度測定ユニット10では、赤外線を検出する検出素子として、焦電センサ30を用いている。焦電センサ30は数m離れた位置にある熱源が発する赤外線を検出して、赤外線の強度に比例した起電力を発生する。本実施形態の構成では、検出素子(焦電センサ30)から被験者Bまでの距離Lが250cm以上であっても、焦電センサ30は被験者Bの発する赤外線を検出できる。そして、焦電センサ30に生じる起電力Vp1に基づき、周囲温度Tc及び距離Lを用いた補正を行うことで、体温Tbの測定において十分な精度が得られる。
【0055】
また、本実施形態の構成では、周囲温度Tcが体温Tbよりも低い場合と、高い場合とで、異なる計算式(式(7´)又は式(8´)参照)を用いて補正を行う。これにより、どちらの場合であっても体温Tbを高精度に算出できる。本実施形態の構成では、周囲温度Tcが0℃〜50℃の範囲内であれば、体温Tbを、実用上十分な精度で算出できる。
【0056】
<実施形態2>
実施形態2に係る生体情報測定装置120は、被験者Bが発する赤外線を検出した焦電センサ30の起電力Vp1の変動に基づき、容積脈波Pvを算出する。さらに、容積脈波Pvから、被験者Bの血圧を算出する。
【0057】
被験者Bの心臓が収縮すると、血液が動脈に拍出されて血管内の圧力が変化する。血管内の圧力の変化は波動となって心臓から離れる方向に向かって伝搬する。この波動が脈波である。脈波に起因する血管の容積変化が容積脈波Pvである。
【0058】
被験者Bが発する赤外線は、被験者Bの容積脈波Pvとともに変動する。そのため、実施形態2に係る生体情報測定装置120では、焦電センサ30の起電力Vp1の時間変化から、被験者Bの容積脈波Pv1の変動を検出できる。また、容積脈波Pvは、被験者Bの血圧、心拍、呼吸と密接に関連しているため、容積脈波Pv1の時間変化から、被験者Bのこれら各種生体情報を検出できる。以下、生体情報測定装置120を用いて被験者Bの血圧を算出する場合を一例として説明する。
【0059】
実施形態2に係る生体情報測定装置120は、
図5に示すように、実施形態1の温度測定装置20に加えて、カフ70を有している点において異なる。また、生体情報測定装置120は、温度測定装置20とは、演算部162において実行される補正処理が異なる。
【0060】
カフ70は、基準となる血圧値(絶対値)を測定するために用いられ、
図6に示すように、被験者Bの上腕部BAに装着でき、内部にゴム袋が内蔵されている。ゴム袋はエアー供給用のポンプ71と接続されており、ゴム袋に対するエアーの供給と排気により、血管を圧迫するようになっている。また、カフ70内にはゴム袋内の空気変動を検出するためのカフ圧センサ72が組み込まれており、血管を圧迫するカフ圧センサ72から出力される検出信号(以下、「圧脈波Pw」という)は所定周波数成分(ノイズ成分)がカットされた状態で、有線又は無線通信により制御部60に入力される。
【0061】
焦電センサ30は、被験者Bが発する赤外線を検出して起電力Vp1を発生する。制御部60に入力された起電力Vp1は演算部162で容積脈波Pv1に変換される。容積脈波Pv1を測定したときの実際の起電力Vp1は、
図8に示すように、被験者Bの心拍に伴って心拍1回ごとにプラス側とマイナス側に値が交互に変動している。一心拍に要する時間t0の逆数が被験者Bの心拍数である。
図7の曲線B1では、一心拍時間t0内の山と谷の電位差から求めた容積脈波Pv1をプロットしている。
【0062】
図7において、実験により測定した容積脈波Pv1を、横軸を距離Lとしてプロットした曲線が曲線B1である。距離Lの増加に伴い、検出される容積脈波Pv1は次第に減衰する。曲線B1を基にして作成した近似式の曲線が曲線B2である。なお、近似式は、距離Lによる減衰の影響を除外したとき、つまり距離0のときの容積脈波Pv1を標準容積脈波Pv0、減衰率を距離Lの関数g(L)として、下記の式(9)で表される。
Pv1=Pv0×g(L)・・・(9)
【0063】
また、減衰率g(L)は、Kvを定数として、式(10)のように表される。
g(L)=Kv
−L ・・・(10)
【0064】
距離Lに起因する減衰の影響を除外したときの標準容積脈波をPv0とすると、Tc<Tbのときの標準容積脈波Pv0は、式(11)を用いて算出できる。
Pv0=Pv1×Kv
L・・・(11)
【0065】
ただし、Tc>Tbのときは、式(12)を用いて標準容積脈波Pv0を算出する。式(11)との違いである係数(1.2)は、補正の精度を上げるために、経験値から求めた係数である。
Pv0=Pv1×Kv
L×1.2・・・(12)
【0066】
ここで、容積脈波Pv1は焦電センサ30の起電力Vp1から算出する値であり、距離Lは測距センサ40の出力値なので、ともに生体情報測定装置120が算出又は検出する値である。また、定数Kvは事前に実験により求めた既知の値である。したがって、演算部162において、式(11)又は式(12)の補正処理を実行することにより、測定値Pv1から、減衰の影響を除外した標準容積脈波Pv0を算出することができる。
【0067】
次に、標準容積脈波Pv0から、被験者Bの血圧Ppを算出する血圧算出処理について、
図9に示すフローチャートを参照しつつ説明する。血圧算出処理は、上述の標準容積脈波Pv0の算出と並行して、演算部162において実行される処理である。
【0068】
血圧値算出処理では、まず、血圧値の測定に際してキャリブレーションを実施する。
【0069】
キャリブレーションでは、まず、カフ圧センサ72から圧脈波Pwが演算部162に入力される(S20)。演算部162は、
図10に示す圧脈波Pw及びカフ圧Pcに基づいて基準となる最高血圧値Ps、最低血圧値Pd及び平均血圧値Pmを算出する(S21)。なお、最高血圧値Ps及び最低血圧値Pdは、上記工程を省いて直接設定してもよい。
【0070】
一方、圧脈波Pwの測定時期と同時期に焦電センサ30により検出された容積脈波Pv1を用いて、演算部162により補正処理がされた標準容積脈波Pv0を基準脈波と仮定し(S22)、
図8に示すように、一心拍時間t0内の血流量変化の積分値を基準脈波面積Voとして求める(S23)。
【0071】
そして、平均血圧係数、最高血圧値と平均血圧値との比、最低血圧値と平均血圧値との比を下記の式(13)から(15)に従ってキャリブレーション値として算出しておく(S24)。ここで、平均血圧係数をM、最高血圧値と平均血圧値との比をN、最低血圧値と平均血圧値との比をOとする。また、Pmは平均血圧、Psは最高血圧、Pdは最低血圧、Voは基準脈波面積を示す。
【0072】
M=Vo/Pm・・・・・・・・(13)
N=Ps/Pm・・・・・・・・(14)
O=Pd/Pm・・・・・・・・(15)
以上のようにして、キャリブレーション値(M、N、O)が得られたところで、血圧値の本測定を行う。
【0073】
本測定では、焦電センサ30は、被験者Bが発する赤外線を受信して起電力Vp1を発生する。そして、補正処理を経て求められた標準容積脈波Pv0の値が、経時的に演算部162に入力される(S25)。
【0074】
そして、演算部162は、入力された標準容積脈波Pv0の1心拍時間の積分値である脈波面積Vonを算出し、1心拍の脈波面積と平均血圧係数Mとに基づいて下記の式(16)から1心拍の平均血圧Pmn(以下、「1拍平均血圧」という)を算出する(S26)。
Pmn=Von/M・・・・・・(16)
【0075】
また、1拍平均血圧が算出されたところで、最高血圧値と平均血圧値との比及び最低血圧値と平均血圧値との比と、1拍平均血圧とに基づいて、式(17)及び式(18)から最大血圧値Psn及び最小血圧値Pdnを算出する(S18)。
【0076】
Psn=Pmn×N・・・・・・・(17)
Pdn=Pmn×O・・・・・・・(18)
【0077】
そして、制御部60は算出された血圧値を血圧基準値(正常な測定で得られる血圧値の幅(例えば、50〜140mmHg))と照合する血圧チェックを行い(S28)、算出された血圧値が血圧基準値内にあるときには「測定は正常」と判断し(S28:YES)、演算処理結果である血圧値の推移を表示部12に表示する(S29)。一方、血圧基準値外の時には「測定に誤りがあり」と判断して(S28:NO)、最高血圧・最低血圧を算出する工程(S21)に戻って再び血圧値を算出する。
【0078】
以上のように、本実施形態によると、血圧値算出処理において、被験者Bに対しあらかじめカフ圧センサ72によって圧脈波Pwを測定するとともに、演算部162の補正処理によって算出される標準容積脈波Pv0からキャリブレーション値を求め、経時的に算出される標準容積脈波Pv0にキャリブレーションのデータを利用することで、最終的に算出される血圧値を絶対値化することができる。これにより、カフ70による再加圧を行うことなく、焦電センサ30という非接触の手段により、連続して血圧を測定することができる。
【0079】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0080】
(1)上述した各実施形態では、周囲温度センサとしてサーミスタを用いているが、サーミスタの他、熱電対やサーモパイル、測温抵抗体等を用いてもよい。
【0081】
(2)上述した各実施形態では、測距センサはパルスレーザを利用するものを例示したが、パルスレーザの代わりに、赤外線や可視光、音波、超音波を用いて測距するセンサを用いてもよい。
【0082】
(3)上述した実施形態2では、初めにカフを用いて被験者の血圧を測定し、その測定値に基づいてキャリブレーションを行うことで、血圧の絶対値を算出した。しかし、例えば病児保育や介護施設における見守り用途等、血圧値の絶対値が必ずしも必要ではなく、相対的な変化のみをモニターすれば用が足りる場合には、初めにキャリブレーションを行う必要はない。したがって、こういった用途においては初めにカフを用いた圧脈波の検出が不要となり、非接触の測定のみを行えばよい。これにより、医療・介護従事者の負担を減じることができる。
【0083】
(4)上述した実施形態2では、焦電センサ30の起電力Vp1をまず容積脈波Pv1に変換し、その後距離Lによる減衰の影響を除外する補正を行って標準容積脈波Pv0を算出した。しかし、距離Lによる減衰の影響を除外する補正は、実施形態1において示したように、起電力Vp1に対して直接行ってもよい。この場合、焦電センサ30の起電力Vp1から標準起電力Eを算出し、その後標準起電力Eを標準容積脈波Pv0に変換する。
【解決手段】生体情報測定装置20は、被験者Bが発する赤外線を検出する焦電センサ30と、焦電センサ30から被験者Bまでの距離Lを検出する測距センサ40と、被験者Bの周囲温度Tcを検出する周囲温度センサ50と、制御部60と、を含み、制御部60は、測距センサ40が検出した距離Lと、周囲温度Tcと、に基づき、焦電センサ30の検出値を補正して、被験者Bの生体情報を算出する。