(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図を参照しながら、本発明の一実施形態に係る光学式シャッター装置について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0011】
本実施形態の光学式シャッター装置は、フォトクロミック材料を含む微小な光学シャッターを集積した光学式シャッター装置である。
【0012】
フォトクロミック材料とは、光に応答して色が可逆的に変化する材料である。フォトクロミック材料に特定の波長の光を照射すると、当該フォトクロミック材料を構成する化合物の吸収スペクトルが変化する。上記特定の波長の光の照射を止めると、上記フォトクロミック材料は、熱的に安定な元の状態に戻り、色も元に戻るという性質がある。また、別の波長の光の照射により、色が元に戻るフォトクロミック材料も知られている。
【0013】
フォトクロミック材料には、無機系、有機系及び有機金属錯体が知られている。本実施形態の上記光学シャッターに用いるフォトクロミック材料は、限定されないが、無機フォトクロミック材料は、化学的、熱的な安定性に優れるという点から好ましい。上記無機フォトクロミック材料の具体例としては、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化ニオブ、酸化タングステンと酸化チタンとの混合物、酸化チタン銀ナノ粒子、ハロゲン化銀、ハロゲン化銅、ハロゲン化水銀、酸素含有水素化イットリウム、五酸化二バナジウム等が挙げられる。また、有機金属錯体からなるフォトクロミック材料としては、2−アミノメチルピリジン白金錯体、ルテニウム(II)−ポリピリジルアミン錯体等が挙げられる。
【0014】
本実施形態のフォトクロミック材料として、有機フォトクロミック材料は、応答性が高く、発色及び消色速度が速いという点から好ましい。上記有機フォトクロミック材料の具体例としては、アゾベンゼン誘導体、ヘキサアリールビスイミダゾール誘導体、ペンタアリールビスイミダゾール誘導体、フェノキシル−イミダゾリルラジカル複合体、テトラフェニルヒドラジン誘導体、ジフェニルジスルフィド誘導体、スピロピラン誘導体、スピロオキサジン誘導体、ナフトピラン誘導体、メタシクロファンジエン誘導体、1−アリール−2−ビニルシクロペンテン誘導体、アントラセンダイマー誘導体、テトラセン誘導体、N
−サリチリデンアニリン誘導体、トランス−ビインデニリデンジオン誘導体、シクロペンテノン誘導体、プロパルギルアレン誘導体、1,4−ビスインデニリデンシクロヘキサン誘導体、フルギド誘導体、ジアリールエテン誘導体、フェノキシナフタセンキノン誘導体、スチルベン誘導体、ジフェニルブタジエン誘導体、チオインジゴ誘導体、ニトロン誘導体が挙げられる。
【0015】
上記フォトクロミック材料の中でも、熱安定性に優れるためジアリールエテン誘導体が好ましく、応答速度が速いことからヘキサアリールビスイミダゾール誘導体、ペンタアリールビスイミダゾール誘導体、フェノキシル−イミダゾリルラジカル複合体が好ましい。中でも消光速度が速いことから、[2.2]パラシクロファン架橋型ビスイミダゾール誘導体、ペンタアリールビスイミダゾール誘導体、又はフェノキシル−イミダゾリルラジカル複合体がより好ましい。
【0016】
また、重合性官能基の側鎖にフォトクロミック特性を示す官能基を有する化合物も知られている。このような化合物は、重合することで容易に樹脂組成物とすることができ、また、他の重合性化合物と共重合することで樹脂組成物にフォトクロミック特性を付与することができるため好ましい。上記重合性官能基を有するフォトクロミック化合物は、例えば、ジスパースレッド1メタクリラート等という商品名でメルク株式会社から市販されている。また、上記重合性官能基を有するフォトクロミック化合物を重合してできた高分子化合物は、例えば、ポリ(ジスパースレッド1メタクリラート)、ポリ(メチルメタクリラ
ート)−co−(ジスパースレッド1メタクリラート)等という商品名でメルク株式会社から市販されている。
【0017】
本実施形態の光学式シャッター装置は、フォトクロミック化合物を含む微小な光学シャッターを集積したものである。上記光学シャッターは、第一の光に応答して吸収スペクトルを可逆的に変化し、第二の光の透過パターンを変えることができるマイクロセルによって構成されていることが好ましい。上記光学シャッターは、シャッターを構成する部材の性質を外部からの信号に応じて変化させ、シャッターを透過した光の振幅、波長、位相、周波数、波形、偏光、光路、焦点位置等の光物性を変調させるものである。上記光学シャッターは、フォトクロミック材料を含み、第一の光に応答して当該フォトクロミック化合
物の吸収スペクトルを変化させることができ、上記光学シャッターを透過する上記第二の光の光物性を変化させることができる。
【0018】
上記光学式シャッター装置は、様々な光学装置に応用することができるが、光造形装置、中でも二光子吸収現象を利用した二光子マイクロ光造形装置に利用する場合、上記第二の光として600ナノメートルから1100ナノメートルの波長が好適に用いられる。この波長領域は、二光子マイクロ光造形法に用いた場合に、レーザー光の照射対象である感光性樹脂の透過性が高く、一光子吸収現象を誘起せずに二光子吸収現象を誘起することができるため、好ましい。この場合において、本実施形態の上記光学シャッターは、上記第一の光に応答して、波長600ナノメートルから1100ナノメートルの波長領域の透過率
を変化させるものであることが好ましい。例えば、[2.2]パラシクロファン架橋型ビスイミダゾール誘導体又はペンタアリールビスイミダゾール誘導体、フェノキシル−イミダゾリルラジカル複合体は、基底状態において可視光及び近赤外光領域に吸収がなく、紫外線照射により励起すると、可視光領域から近赤外光領域に及ぶ幅広い吸収を示すため、好ましい。
【0019】
この場合において、上記第一の光としては、例えば波長365ナノメートルの紫外線レーザー、波長1064ナノメートルのYAGレーザーから出力した光を非線形光学結晶により波長変換した波長355ナノメートルの第三高調波、波長800ナノメートルの近赤外線レーザーから出力した光を非線形光学結晶により波長変換した波長400ナノメートルの第二高調波等を用いることが出来る。波長変換に用いる上記非線形光学結晶は、入射光の波長を変換して、上記第一の光の波長が得られるものであれば限定されないが、例えば、BBO結晶、LBO結晶、CLBO結晶、KTP結晶、KDB結晶等を用いることができる。
【0020】
上記光学シャッターは、第一の光に応答して吸収スペクトルを可逆的に変化し、第二の光の透過パターンを変えることができるマイクロセルによって構成されていることが、高精度な光照射パターンを得ることができるため好ましい。ここで、「マイクロセル」とは、数10ナノメートルからミリメートル単位の大きさの空間的又は光学的に他の領域と分離された微小構造をいう。上記マイクロセルの大きさは、マイクロセルに外接する円の直径で定義される寸法と隣接するマイクロセル間の隙間の長さを合わせたマイクロセル・ピッチで定義される。高精度な画像を形成するため、マイクロセル・ピッチは小さいほど好ましく、100マイクロメートル以下が好ましく、50マイクロメートル以下がより好ましく、10マイクロメートル以下が更に好ましい。
【0021】
本実施形態の上記光学式シャッター装置は、上記マイクロセルが多数集積したものである。上記マイクロセルの個数は、上記光学式シャッター装置を備えた光学装置の目的に応じて適宜選択されるが、高い解像度の画像を形成するため、100個以上であることが好ましく、1000個以上であることがより好ましく、1万個以上であることが更に好ましい。
【0022】
上記マイクロセルの形状は、限定されず任意の形状とすることが出来る。
図1から
図3は、本発明の一実施形態に係るマイクロセルの配置を示した図である。
図1に示すように、マイクロセル11は、マイクロセル配置面12に対し直交する方向からから見た形状が円形であることが、上記マイクロセル11を形成しやすいため好ましい。また、
図2、
図3に示すように、マイクロセル11は、多角形の形状とすることもできる。中でも、
図2及び
図3に示した正方形又は正六角形であることが、上記マイクロセル11を高密度に集積することができるため好ましい。
【0023】
本実施形態の上記光学式シャッター装置は、上記マイクロセル11を多数集積したものであれば限定されないが、上記マイクロセル11をマイクロセル配置面12に配置したものが好ましい。上記マイクロセル配置面12としては、上記マイクロセルを保持できるものであれば限定されないが、上記第一の光及び上記第二の光を透過する材料からなる基材を用いることが好ましい。上記基材としては、上記第一の光及び上記第二の光に対する透明性が高いことから、ガラス、石英、プラスチック等の透明基板を用いることが好ましい。
【0024】
上記光学式シャッター装置は、上記マイクロセル11を多数集積したものであれば限定されないが、上記光学式シャッター装置の製造上の観点から、例えば、
図4から
図7に示したものが好ましい。
図4から
図7は、上記光学式シャッター装置の断面を例示した図である。上記光学式シャッター装置は、
図4又は
図7のように基材上に配置したものであっても良いし、
図5のように基材に設けた溝に埋め込んだものであっても良いし、
図6のように基材を貫通する穴に埋め込んだものであっても良い。中でも、高密度で微小なマイクロセル11を集積できることから、
図4又は
図7のように基材上に配置したものが好
ましい。また、上記基材の形状は限定されず、
図4から
図7に示したように平板上であっても良いし、上記光学式シャッター装置の使用目的に応じて、曲面や段差のある形状としても良い。
【0025】
上記マイクロセル11は、レンズとして機能するよう形成されていることが好ましい。上記マイクロセル11の第一の機能は、前述の光学シャッターとしての機能であるが、光学装置に使用することを想定した場合、第二の機能として、上記マイクロセル11を透過する光を集光又は拡散させるレンズとしての機能も有していることが好ましい。例えば、
図7に示すように、基材上に配置したマイクロセル11を、凸レンズの形状に成形することで、上記マイクロセル11を集光レンズとして機能するよう形成することができる。上記マイクロセル11が、レンズとして機能するよう形成されていない場合は、上記マイクロセル11を透過する光の光路上に第二のレンズを設けることで当該光を集光又は拡散することができる。
【0026】
上記マイクロセル11の形状は、レンズとして機能する限り形状は限定されないが、球面レンズ又は非球面の凸レンズ又は凹レンズが形成されていることが好ましく、上面から見た形状が四角のスクエアレンズ、六角形のヘキサゴナルレンズがレンズを高密度に集積できるため好ましい。
【0027】
本実施形態の光学式シャッター装置の製造方法は、微小な光学シャッターを集積した光学式シャッター装置を構成するマイクロセルのパターンを設定する工程と、前記パターンに従って、フォトクロミック材料を含むマイクロセルを集積する工程と、を含むことが好ましい。
【0028】
上記マイクロセルのパターンを設定する工程としては、設計されたマイクロセルパターンに従って、フォトクロミック化合物を含むマイクロセルを集積することができるようにする工程である。例えば、樹脂組成物を成形する場合には金型を作る工程、フォトリソグラフィー法でマイクロセルを形成する場合にはフォトマスクを作成する工程、ナノインプリント法でマイクロセルを形成する場合にはナノインプリントモールドを作成する工程、フォトクロミック化合物を鋳型に蒸着または塗布により埋め込む場合には鋳型を作成する工程、マスクを介してフォトクロミック材料を蒸着又は塗布する場合にはマスクを作
成する工程等が、上記マイクロセルのパターンを設定する工程に該当する。
【0029】
上記フォトクロミック材料を含むマイクロセルを集積する工程とは、多数のマイクロセルを、好ましくは100個以上のマイクロセルを配置する工程をいう。フォトクロミック材料又はフォトクロミック材料を含む組成物を直接配置しても良いし、フォトクロミック材料を含まない組成物でマイクロセルを形成した後に、フォトクロミック材料を付加しても良い。前述したように、上記光学式シャッター装置は、上記マイクロセルをガラス、石英、プラスチック等の透明基材に配置したものが好ましい。また、多数の穴を開けたメッシュ状の基材の穴の内部にフォトクロミック化合物又はフォトクロミック化合物を含む組成物を埋め込むこともできる。
【0030】
上記フォトクロミック材料を含む組成物を集積する工程は、フォトクロミック材料を含む樹脂組成物を成形する工程であることが、工程が簡易であることから好ましい。フォトクロミック材料を含む樹脂組成物は、フォトクロミック材料とマトリックス樹脂と溶媒その他の必要成分を混合することで得ることができる。マトリックス樹脂としては、フォトクロミック材料と反応性が低いもの、及び透明性の高いものが好ましい。このようなマトリックス樹脂として、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂が好ましく、中でもアクリル樹脂をマトリックス樹脂に用いると、フォトクロミック材料の安定性が高く、透明性に優れるため好ましい。
【0031】
また、前述の重合性官能基の側鎖にフォトクロミック特性を示す官能基を有する化合物を用いると、容易にフォトクロミック材料を含む樹脂組成物を得ることができるため好ましい。例えば、前述のジスパースレッド1メタクリラートは、アクリル系単量体であり、メタクリル酸メチルに代表される他のアクリル系単量体と共重合が可能であり、容易にアクリル系樹脂組成物が得られるため好ましい。また、前述のポリ(メチルメタクリラート)−co−(ジスパースレッド1メタクリラート)は、フォトクロミック特性を示す官能基をアクリル系樹脂の側鎖に有する高分子化合物であり、そのままフォトクロミック
材料を含む樹脂組成物とすることもできるし、他の高分子化合物と混合して樹脂組成物を得ることもできるため好ましい。
【0032】
上記フォトクロミック材料を含む樹脂組成物を成形する工程としては、例えば、金型を用いて射出成形又は押し出し成形のような成形法を用いて成形する工程、インクジェット法により印刷する工程、フォトクロミック化合物を含む感光性樹脂組成物を用いてフォトリソグラフィー法により成形する工程、又はフォトクロミック化合物を含む感光性樹脂又は熱硬化性樹脂を用いてナノインプリント法により成形する工程が挙げられる。中でも、フォトリソグラフィー法又はナノインプリント法による成形する工程が、微小なマイクロセルを形成できるため好ましい。
【0033】
また、上記フォトクロミック材料を集積する工程としては、フォトクロミック材料を含まない組成物を用いてマイクロセルを形成した後に、当該マイクロセルをフォトクロミック材料又はフォトクロミック材料を含む組成物を付加する工程とすることもできる。上記フォトクロミック材料又はフォトクロミック材料を含む組成物を付加する工程としては、例えば、上記フォトクロミック材料又はフォトクロミック材料を含む組成物に浸漬又は塗布する工程が挙げられる。上記フォトクロミック材料が液状又はアモルファスである場合にはそのまま用いることができるし、フォトクロミック材料が溶媒に溶解する場合にはフォトクロミック材料を溶解した溶液を用いることができる。また、フォトクロミック材料を含む樹脂組成物を用いることもできる。上記フォトクロミック材料又はフォトクロミック材料を含む組成物に浸漬又は塗布する工程は、マイクロセル同士が光学的に分離されるように、フォトクロミック材料が隣接するマイクロセル間の隙間に接触しないように行う、あるいはマイクロセル間にマスクをして塗布又は浸漬後にマスクを除去することが好ましい。
【0034】
前述したように、上記マイクロセルは、レンズとして機能するよう形成されていることが好ましい。上記マイクロセルが、フォトクロミック材料を含む樹脂組成物からなる場合には、当該樹脂組成物をレンズの形状に成形することで上記マイクロセルを形成することができる。上記マイクロセルを、金型を用いて射出成形又は押し出し成形で成型する場合、あるいはモールドを用いてナノインプリント法により成形する場合には、金型又はモールドをレンズ形状に対応した形状とすることで成形することができる。また、フォトクロミック材料を含む感光性樹脂組成物からフォトリソグラフィー法によりマイクロセルを形成し、当該マイクロセルを加熱して溶融させることでレンズ形状を形成することができる。この方法は、簡易な工程でレンズとして機能するマイクロセルを形成できるため好ましい。
【0035】
その他の上記フォトクロミック材料を集積する工程としては、上記マイクロセルのパターンを設定したマスクを用いて、蒸着または塗布によりフォトクロミック材料を集積した後に、マスクを除去する工程とすることもできる。上記マスクとしては、例えば金属等の板に多数の穴をあけたメッシュ状のマスクを用いることができる。上記マスク上に、フォトクロミック材料を物理蒸着又は化学蒸着をした後に、マスクを除去することでフォトクロミック材料の微小パターンを多数集積したマイクロセルを得ることができる。また、上記マスク上にフォトクロミック材料を含む組成物を塗布した後に、マスクを除去することでフォトクロミック材料を含む組成物からなる微小パターンを多数集積したマイクロセルを得ることができる。
【0036】
また、上記マスクとして、感光性樹脂を用いてリソグラフィー法により形成したレジストマスクを用いることもできる。レジストマスクを用いる場合には、レジストパターン上及びレジストパターン間にフォトクロミック材料又はフォトクロミック材料を含む組成物を蒸着又は塗布した後、レジストマスクを除去するリフトオフ法により、フォトクロミック材料又はフォトクロミック材料を含む組成物からなる微小パターンを多数集積したマイクロセルを得ることができる。この場合において、レジストマスクは有機溶媒又は専用のレジスト剥離液組成物を用いて除去することができ、レジストパターン上のフォトクロミック材料もレジストマスクと共に除去することでレジストパターン間のフォトクロミック材料で上記マイクロセルを形成することができる。
【0037】
また、上記フォトクロミック材料を集積する工程としては、鋳型にフォトクロミック材料又はフォトクロミック材料を含む組成物を埋め込む工程とすることもできる。透明基材に溝を形成し、その溝に埋め込むようにフォトクロミック材料又はフォトクロミック材料を含む組成物を蒸着または塗布することでフォトクロミック材料又はフォトクロミック材料を含む組成物を含むマイクロセルを形成するができる。フォトクロミック材料又はフォトクロミック材料を含む組成物を含むマイクロセルを他のマイクロセルと光学的に分離するため、透明基材に設けた溝以外の部分のフォトクロミック材料は除去することが好ましい。上記溝以外の部分のフォトクロミック材料は、有機溶媒等で洗浄するか、研磨等の方法で物理的に除去することができる。
【0038】
また、上記鋳型として、金属等の板に多数の穴をあけたメッシュ状の基材を用いることができる。このようなメッシュ状基材にフォトクロミック材料又はフォトクロミック材料を含む組成物を蒸着又は塗布により埋め込み、フォトクロミック材料又はフォトクロミック材料を含む組成物を含むマイクロセルを形成するができる。フォトクロミック材料又はフォトクロミック材料を含む組成物を含むマイクロセルを他のマイクロセルと光学的に分離するため、上記メッシュ状基材のメッシュ部以外の部分のフォトクロミック材料は除去することが好ましい。当該メッシュ部以外の部分のフォトクロミック材料は、有機溶媒等で洗浄するか、研磨等の方法で物理的に除去することができる。
【0039】
上記フォトクロミック材料又はフォトクロミック材料を含む組成物からなるマイクロセルは、フォトクロミック材料を安定化し、光学式シャッター装置の寿命を延ばすことができるため、透明材料で封止することが好ましい。当該透明材料としては、透明性が高く、フォトクロミック材料と反応性が低いことが好ましく、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、窒化チタンが挙げられる。これらの無機透明材料は、物理的又は化学的蒸着、あるいは金属酸化物や窒化物を含む組成物を調製し、焼成することで得ることができる。また、上記透明材料は、有機物であっても良く、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂が、透明性が高く、フォトクロミック材料との反応性が低いことから好ましい。
【0040】
本実施形態の光学式シャッター装置を表示装置、分光装置、レーザー加工装置等の光学装置に用いる場合、上記光学式シャッター装置により画像パターンを形成した光を集光又は拡散可能とするため、上記光学式シャッター装置を通過する光の光路上にレンズを配置した光学装置とすることが好ましい。上記レンズとしては、限定されないが、例えば球面レンズ又は非球面レンズである凹レンズ又は凸レンズであることが好ましい。
【0041】
上記レンズ配置位置は、本実施形態の光学式シャッター装置を通過する光の光路上に設置される限り、限定されない。例えば、本実施形態の光学式シャッター装置を表示装置に用いる場合は、上記光学式シャッター装置で形成された画像を投影して表示できるよう、上記光学式シャッター装置と画像表示面の間に凹レンズを設けることが好ましい。また、本実施形態の光学式シャッター装置をレーザー加工装置に用いる場合は、上記第二の光のエネルギー密度を高め、加工に必要なエネルギーを得るため、上記光学式シャッター装置と被照射物の間に集光レンズを設けることが好ましい。
【0042】
上記集光レンズとしては、光を集光できるものであれば限定されないが、例えば、油浸対物レンズ、水浸対物レンズでは、開口数1を超えることが可能であり、高分解能が得られるため、好適に用いられる。上記レンズは、一個のレンズを用いてもよいし、複数のレンズを組み合わせて用いてもよい。複数のレンズを組み合わせると屈折率を調整したり、収差を補正することができるという利点があるが、一方で上記レーザー光の透過率が低下するという問題があるため、適宜調整して用いることが好ましい。
【0043】
上記レンズの材質は、ガラス、石英、樹脂など様々な材料を用いることができる。ガラス製レンズは、熱膨張率が小さく、光学特性が外部環境の温度変化の影響を受けにくいという利点を有する。樹脂製レンズは、ガラス製レンズと比較して、成形が容易で様々な形状を形成しやすいという利点がある。また、屈折率の異なる複数の樹脂を組み合わせて用いることで、レンズの光学特性を調整することができるという利点も有している。樹脂製レンズに用いられる樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられるが、これに限定されない。また、フッ化カルシウム製レンズは、本実施形
態のレーザー照射装置に使用される近赤外線領域の波長において高い透過率を示すため好適に用いることができる。
【0044】
また、本実施形態の光学式シャッター装置をレーザー加工装置に用いる場合において、上記レンズとして、マイクロレンズアレイを用いると、集光した光の収差を小さくすることができることから好ましい。マイクロレンズアレイは、マイクロメートルからミリメートル単位の大きさの微小レンズを多数集積したものである。
【0045】
上記マイクロレンズアレイには、ガラス、石英、フッ化カルシウム、樹脂など様々な材料を用いることができる。ガラスまたは石英製レンズは、熱膨張率が小さく、光学特性が外部環境の温度変化の影響を受けにくいという利点を有する。また、フッ化カルシウム製レンズは、広範囲な波長領域において透過率が高いという利点を有する。樹脂製レンズは、成型が容易であり、様々な形状を形成しやすいという利点がある。また、屈折率の異なる複数の樹脂を組み合わせて用いることで、レンズの光学特性を調整することができるという利点も有している。樹脂製レンズに用いられる樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられるが、これに限定されない。
【0046】
ガラス、石英やフッ化カルシウムを用いた上記マイクロレンズアレイは、切削研磨、プレス成形やウエットエッチング等の方法で製造することができる。樹脂を用いた上記マイクロレンズアレイは、ナノインプリント法やフォトリソグラフィー法により製造することができる。ナノインプリント法はナノインプリントモールドと呼ばれる鋳型に樹脂を押し当てて成形する方法であるが、熱可塑性樹脂を加熱したナノインプリントモールドに押し当てて成型する熱ナノインプリント法、紫外線硬化樹脂組成物を石英等の紫外線を透過する材質で作成したナノインプリントモールドに押し当てて紫外線を照射する紫外線ナノインプリント法が知られている。中でも、加熱冷却に伴う熱膨張と熱収縮がなく高精度な成型が可能であることから、紫外線ナノインプリント法でマイクロレンズアレイを製造することが好ましい。また、感光性樹脂組成物をフォトリソグラフィー法によりパターンを形成した後に、加熱溶融してレンズを形成する方法も、高精度な成形が可能であることから好適に用いられる。
【0047】
上記マイクロレンズアレイを構成するマイクロレンズの形状は、限定されず、当該マイクロレンズを上面から見た形状が、円形のオーバルレンズ、四角形のスクエアレンズ、六角形のヘキサゴナルレンズ等を用いることができる。中でも、マイクロレンズを隙間なく配置して、レーザー光のエネルギー効率を高くすることができるため、スクエアレンズまたはヘキサゴナルレンズが好ましい。また、上記マイクロレンズアレイは、本実施形態の光学式シャッター装置を構成するマイクロセルの配置に合わせてマイクロレンズが配置されているものが好ましい。
【0048】
また、本実施形態のマイクロシャッターアレイと上記レンズとの間を高屈折率の媒体で満たすことで、上記レーザー光照射パターンの解像度を高くすることができるため、好ましい。高屈折率媒体としては、水またはオイルのような液体を用いてもよいし、高屈折率樹脂や高屈折率ガラスを上記レンズと上記被照射物の間に設置してもよい。
【0049】
図8は、第一の実施形態の光学装置の構成を示した図である。本実施形態の光学装置1は、フォトクロミック材料を含む光学シャッター部81と、上記第一の光を出力する光源82と、上記第二の光を出力する光源83とを含む。上記第一の光を出力する光源82及び第二の光を出力する光源83は、
図8に示すように別々の光源を用いても良いし、一つの光源から出力された光をビームスプリッターのような光学素子で分割し、分割した光の一方又は両方を光学素子により変調し、波長や位相の異なる第一の光と第二の光としても良い。
【0050】
上記光学装置1は、上記第一の光LB
1を変調して、光照射パターンを形成する空間光変調素子84を含むことが好ましい。また、上記光学装置1は、上記第一の光LB
1及び上記第二の光LB
2のうち、一方を透過し、もう一方を反射する選択的ミラー85を含むことが好ましい。更に、上記光学装置1は、レンズ86、被照射物87を保持するステージ88、制御装置89を含むことが好ましい。
【0051】
本実施形態の光学装置1は、上記第一の光LB
1の光照射パターンを投影した上記光学シャッター部81により、上記第二の光LB
2を部分的に透過又は遮蔽し、第二の光LB
2の照射パターンを形成することができる。ここで、「通過又は遮蔽」とは、上記第二の光LB
2を、完全に通過し、又は完全に遮蔽するという意味ではなく、上記第二の光LB
2の振幅、波長、位相、周波数、波形、偏光、光路、焦点位置等の光物性の少なくとも一つを変化させ、上記光学シャッター部81のうち、上記第一の光LB
1を照射した領域を通過した光と、上記第一の光LB
1を照射しない領域とを通過した光が、異なる光物性となるという意味である。
【0052】
本実施形態の光学装置1をレーザー加工装置に用いる場合、上記第一の光LB
1として紫外線レーザー又は可視光線レーザーを用いると、フォトクロミック材料を含む光学シャッター部81に照射し、その吸収スペクトルを変化させるのに適しているため好ましい。また、上記第二の光LB
2として、近赤外線レーザー又は赤外線レーザーを用いると、様々な材料の加工に適しているため好ましい。上記第二の光LB
2は、上記光学シャッター部81のうち、上記第一の光LB
1を照射した部分を透過すると、上記第一の光LB
1により励起されたフォトクロミック材料により吸収され、エネルギー密度が低下する。一方、上記第一の光LB
1を照射していない部分は、フォトクロミック材料が励起されておらず、上記第二の光LB
2の吸収が小さいため、エネルギー密度の低下が小さい。上記第一の光LB
1を照射した部分を通過した第二の光LB
2のエネルギー密度が、上記レーザー加工装置による加工に必要なエネルギー閾値以下であり、上記第一の光LB
1を照射しない部分を通過した第二の光LB
2のエネルギー密度が、上記エネルギー閾値以上になるように調整することで、上記第二の光LB
2による光照射パターンを形成し、上記レーザー加工装置に用いることができる。
【0053】
上記光学シャッター部81は、本実施形態の光学装置1をレーザー加工装置に用いる場合、紫外線又は可視光線に応答して吸収スペクトルを可逆的に変化し、近赤外線又は赤外線の透過パターンを変えるフォトクロミック材料を含むものであることが好ましい。このようなフォトクロミック材料の中でも、[2.2]パラシクロファン架橋型ビスイミダゾール誘導体又はペンタアリールビスイミダゾール誘導体、フェノキシル−イミダゾリルラジカル複合体は、紫外線照射により励起し、励起状態においては可視光領域から近赤外光領域に及ぶ幅広い吸収を示すため、好適に用いることができる。
【0054】
上記光学シャッター部81は、フォトクロミック材料を含み、上記第一の光LB
1を照射しない状態では、上記第二の光LB
2を透過し、上記第一の光LB
1を照射した状態では、上記第二の光LB
2を遮蔽することができるものであれば限定されないが、例えば、上記第一の光LB
1及び上記第二の光LB
2を透過する基材上にフォトクロミック材料を含む薄膜を形成したものを用いることができる。上記薄膜に、上記第一の光LB
1の照射パターンを投影すると、上記第一の光LB
1を照射した部分の吸収スペクトルが変化する。上記薄膜のうち、第一の光LB
1を照射した部分が、上記第二の光LB
2を遮蔽するものであり、第一の光LB
1を照射していない部分が、上記第二の光LB
2を透過するものになるものが好ましい。ここで、「遮蔽」及び「透過」とは前述した通りである。このような上記光学シャッター部81に用いられる薄膜は、上記薄膜を光学シャッターとして機能させるように、上記第一の光LB
1及び第二の光LB
2の波長と、上記光学シャッター部81に含まれるフォトクロミック材料を適宜選択することが好ましい。
【0055】
上記光学シャッター部81は、フォトクロミック材料を含む微小な光学シャッターを集積した光学式シャッター装置であることが、高い解像度の上記第二の光LB
2の照射パターンが得られるため好ましい。当該光学式シャッター装置の実施形態については、前述の通りである。
【0056】
上記第一の光LB
1を出力する光源82としては、フォトクロミック材料に照射してその吸収スペクトルを変化させるものであれば限定されないが、様々なフォトクロミック材料の吸収スペクトルを変化させることができることから、紫外線レーザー光源又は可視光レーザー光源であることが好ましい。中でも、安定した出力が得られることから、上記光源82として、波長365ナノメートルの固体レーザーを用いることが好ましい。また、高い出力の紫外線レーザーが得られることから、上記光源82として、波長1064ナノメートルのYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザーを用いて、非線形光学結晶により波長変換し、波長355ナノメートルの第三高調波を上記第一の光LB
1として用いることが好ましい。また、高い出力の紫外線レーザーが得られることから、上記光源82として、波長800ナノメートルのチタンサファイアレーザーを用いて、非線形光学結晶により波長変換し、波長400ナノメートルの第二高調波を上記第一の光LB
1として用いることが好ましい。
【0057】
上記光源82は、出力される光の照射パターンを連続して変化させるため、パルスレーザーであることが好ましく、紫外線パルスレーザーレーザーであることがより好ましい。上記第一の光LB
1の照射パターンを高速に変化させるため、上記パルスレーザーの発振周波数は、100ヘルツ以上が好ましく、1キロヘルツ以上がより好ましい。上記光源82は、上記光源83や上記空間光変調素子84、及びステージ88と同期して駆動することが好ましく、最大発振周波数が数100キロヘルツ又は1メガヘルツ以上で、発振周波数を調整できるものが好ましい。
【0058】
上記光源82の出力は、上記光学シャッター部81は、フォトクロミック材料を励起して吸収スペクトルを変化させることができるものであれば限定されない。上記第一の光LB
1が上記空間光変調素子84により多数のレーザー光に分割されることを考えると、上記光源82の出力は一定以上であることが好ましい。具体的には、上記光源82の最大出力が1ミリワット以上が好ましく、100ミリワット以上がより好ましく、1ワット以上であることが更に好ましく、出力を最大出力以下で調整できるものが好ましい。
【0059】
上記第一の光LB
1の照射パターンを高速に変化させるため、上記光源82から出力されるパルスレーザー光のパルス幅は、短いほど好ましい。具体的には、1マイクロ秒以下が好ましく、100ナノ秒以下がより好ましく、10ナノ秒以下がより好ましい。上記第一の光LB
1の照射パターンを上記光学シャッター部81に照射して、上記第二の光LB
2の照射パターンを形成するにあたり、上記第二の光LB
2のパルス幅と、上記光学シャッター部81に含まれるフォトクロミック材料の発色時間及び消色時間を考慮して、上記第一の光LB
1のパルス幅を適宜設定することが好ましい。このため、上記第一の光を出力する光源82としては、最小パルス幅が10ナノ秒以下で、パルス幅を調整できるものであることが好ましい。
【0060】
上記第
一の光LB
1を出力する光源82として、レーザー光源を用いる場合、出力されるレーザー光のビーム断面積は、特に限定されないが、レーザー光のエネルギーロスを避けるため、当該レーザー光全体を使って、空間光変調素子84によりレーザー光照射パターンを形成するため、当該空間光変調素子84の受光部の面積よりも小さいことが好ましい。具体的には、上記レーザー光のビーム径が、30ミリメートル以下であることが好ましく、15ミリメートル以下であることが更に好ましい。また、上記空間光変調素子84のうち、上記第一の光LB
1を受光する面積を一定以上にして、高い解像度のレーザー光照射パターンを形成するため、上記第
一の光LB
1のビーム断面積は、一定以上であることが好ましい。具体的には、上記第二の光LB
1のビーム径が、1ミリメートル以上が好ましく、3ミリメートル以上が更に好ましい。上記第
一の光LB
1のビーム径が、好ましい範囲から外れている場合は、レーザービームアライナー等を用いてビーム径を調整することができる。
【0061】
このような紫外線パルスレーザーとしては、限定されないが、例えば、スペクトラ・フィジックス社のQuasar 355−60(登録商標)が波長、出力、周波数、パルス幅、ビーム径の観点から好ましい。
【0062】
上記第二の光LB
2を出力する光源83は、本実施形態の光学装置1の目的に合わせて適宜選択することができる。本実施形態の光学装置を、レーザー加工装置、中でも二光子マイクロ光造形装置に用いる場合、前述した通り、第二の光LB
2として600ナノメートルから1100ナノメートルの波長の光が好適に用いられる。この場合において、上記光学式シャッター装置81に用いられるフォトクロミック材料としては、波長360ナノメートル前後の波長の第一の光LB
1の照射により、波長600ナノメートルから1100ナノメートルの波長領域の透過率を変化させるものであることが好ましい。例えば、[2.2]パラシクロファン架橋型ビスイミダゾール誘導体又はペンタアリールビスイミダゾール誘導体、フェノキシル−イミダゾリルラジカル複合体は、紫外線照射により可視光領域から近赤外光領域に及ぶ幅広い吸収を示すため好ましい。また、上記第一の光LB
1を出力する光源82としてパルスレーザーを用いる場合、上記フォトクロミック材料としては、連続的に光の照射パターンを変化させるため、光に対する応答速度が高く、高速発光と高速消光が可能なものが好ましい。前述の[2.2]パラシクロファン架橋型ビスイミダゾール誘導体又はペンタアリールビスイミダゾール誘導体、フェノキシル−イミダゾリルラジカル複合体は、光に対する応答速度が高く、高速発光と高速消光が可能である点からも、好適に用いることができる。
【0063】
本実施形態の光学装置1を、二光子マイクロ光造形装置に用いる場合は、二光子吸収現象を誘起するため高い光子密度が必要とされる。この場合において、上記第二の光LB
2を出力する光源83としては、超短パルスレーザーが、瞬間的に高い出力が得られ、光子密度を高くすることができるため、好ましい。当該超短パルスレーザーとしては、チタンサファイア、色素、過飽和吸収体、エルビウムドープファイバー、イッテルビウムドープファイバーなど、様々なレーザー媒質を使用した装置を使用することができるが、安定的に高出力のレーザー発振が可能となるチタンサファイアレーザーが好ましい。
【0064】
上記第二の光LB
2を出力する光源83の仕様は、本実施形態の光学装置1に使用するレーザー光が出力される限り限定されない。例えば、上記光学装置1を二光子マイクロ光造形装置に用いる場合、被照射物である感光性樹脂組成物の反応閾値を超えるエネルギーが必要とされるため、瞬間的に高い出力が得られる超短パルスレーザーが好適に用いられる。この場合、パルスレーザーの平均出力が高いほど大きなパルスエネルギーが得られるため好ましく、パルスレーザーの平均出力が、100ミリワット以上であることが好ましく、1ワット以上であることがより好ましく、5ワット以上であることが更に好ましい。パルスレーザーの平均出力の上限は限定されないが、10ワット以上の出力が可能であり、平均出力の調整ができるものが好ましい。
【0065】
上記第二の光LB
2を出力する光源83として、パルスレーザー光源を用いる場合、当該パルスレーザー光源の繰り返し周波数が低いほど、大きなパルスエネルギーが得られる。一方、当該繰り返し周波数が低いと、本実施形態の光学装置1を二光子マイクロ光造形装置に用いた場合、3次元構造体を製造する加工時間が長くなる。パルスエネルギーの観点から、上記パルスレーザー光源の繰り返し周波数は、100キロヘルツ以下が好ましく、10キロヘルツ以下がより好ましい。加工時間の観点から、上記パルスレーザー光源の繰り返し周波数は、100ヘルツ以上が好ましく、500ヘルツ以上がより好ましい。
【0066】
上記パルスレーザー光源としては、超短パルスレーザー、中でも1ピコ秒以下のパルス幅のレーザー発振を可能とする、いわゆるフェムト秒レーザーが好適に用いられる。フェムト秒レーザーは、出力されるレーザー光のパルス幅が極めて短く、高いピークパワーのパルスレーザー光を出力することができる。上記パルスレーザー光源から出力される光のパルス幅は、ピークパワーの観点から1ピコ秒以下が好ましく、500フェムト秒以下がより好ましく、200フェムト秒以下が更に好ましい。上記パルスレーザー光源のパルス幅の下限は限定されないが、1フェムト秒以下になるとパルスレーザー装置の大型化、高価格化を考慮する必要がある。
【0067】
上記第二の光源83から出力される光の波長は、前述した通り、600ナノメートルから1100ナノメートルの波長が好適に用いられる。また、上記パルスレーザー光源の波長は、上記第二の光源83として好適に用いられるチタンサファイアレーザーの発振効率の観点から、600ナノメートルから1100ナノメートルが好ましく、700ナノメートルから900ナノメートルがより好ましく、750ナノメートルから850ナノメートルが更に好ましい。
【0068】
上記第二の光LB
2を出力する光源83として、レーザー光源を用いる場合、出力されるレーザー光のビーム断面積は、特に限定されないが、レーザー光のエネルギーロスを避けるため、当該レーザー光全体を使って、本実施形態の上記光学シャッター部81によりレーザー光照射パターンを形成するため、当該光学シャッター部81の面積よりも小さいことが好ましい。具体的には、上記レーザー光のビーム径が、30ミリメートル以下であることが好ましく、15ミリメートル以下であることが更に好ましい。また、上記光学シャッター部81のうち、上記第二の光LB
2が透過する面積を一定以上にして、高い解像度のレーザー光照射パターンを形成するため、上記第二の光LB
2のビーム断面積は、一定以上であることが好ましい。具体的には、上記第二の光LB
2のビーム径が、1ミリメートル以上が好ましく、3ミリメートル以上が更に好ましい。上記第二の光LB
2のビーム径が、好ましい範囲から外れている場合は、レーザービームアライナー等を用いてビーム径を調整することができる。
【0069】
上記第二の光LB
2を出力する光源83は、本実施形態の光学装置1に好適に用いることができるフェムト秒レーザー製品は、限定されないが、スペクトラ・フィジクス社、コヒレント社、サイバーレーザー社等から市販されている製品を用いることができる。例えば、スペクトラ・フィジクス社製Solstice Ace(登録商標)が、平均出力、繰り返し周波数、パルス幅、波長、ビーム径の観点から、好ましい。
【0070】
また、上記光源83として使用するフェムト秒レーザー製品の出力が小さく、必要なパルスエネルギーが得られない場合には、レーザー増幅器等を用いて出力を高めることができる。
【0071】
本実施形態の光学装置1において、上記第一の光LB
1は、空間光変調素子84により光照射パターンが形成され、上記光学シャッター部81に照射されることが好ましい。ここで、上記第一の光LB
1は、任意の方向から上記光学シャッター部81に照射することができるが、
図8に示すように、上記第一の光LB
1と、上記第二の光LB
2を同軸で照射すると、高い解像度の上記第二の光の照射パターンを形成することができるため好ましい。上記第一の光LB
1と、上記第二の光LB
2を同軸で照射するため、
図8に示すように、第一の光LB
1を反射し、第二の光LB
2を透過する選択的ミラー85を用いることが好ましい。また、これとは逆に、第一の光LB
1を透過し、第二の光LB
2を反射する選択的ミラーを用いても良い。このような選択的ミラーとしては、波長選択的に反射又は透過する性質を有する光学素子であれば限定されないが、例えば、紫外線及び可視光線を反射し、近赤外線及び赤外線を透過するコールドミラーと呼ばれる光学素子を用いることができる。
【0072】
本実施形態の光学装置は、上記第一の光LB
1の照射パターンを形成するため、空間光変調素子84を含むことが好ましい。空間光変調素子とは、Spatial Light Modulator(SLM)とも呼ばれ、振幅、位相、偏光等の光の空間的な分布を変調させる素子である。上記空間光変調素子84としては、上記第一の光LB
1の照射パターンを形成可能なものであれば限定されないが、マイクロシャッターアレイ又はデジタルマイクロミラーデバイスが挙げられる。
【0073】
上記マイクロシャッターアレイとしては、例えば、特許文献1記載のマイクロシャッターアレイを用いることができる。特許文献1には、機械式マイクロシャッターアレイが記載されている。当該機械式マイクロシャッターアレイを構成するマイクロシャッターは、多数の微小な開口部を有する基板上にマイクロシャッターが設けられ、当該基板と当該マイクロシャッターの間に与える電位差により、当該マイクロシャッターを静電的作用によりスライドさせることで、上記多数の微小な開口部を独立して開閉することができるものである。当該スライド式マイクロシャッターアレイの構成及び製造方法は、特許文献1に詳述されている。
【0074】
上記空間光変調素子84として、デジタルマイクロミラーデバイスを用いると、高い解像度の光照射パターンを得ることができるため好ましい。上記デジタルマイクロミラーデバイスは、上記第一の光LB
1を反射し、光照射パターンを形成する。上記デジタルマイクロミラーデバイスは、微小なマイクロミラーを基板上に多数配列し、当該マイクロミラーの当該基板に対する角度を独立して変更可能な駆動機構を備えた素子である。上記デジタルマイクロミラーデバイスとしては、各辺が5〜20マイクロメートル程度の大きさの長方形のマイクロミラーを互いに直交する2方向に基板上に多数配置し、各マイクロミラーの基板に対する角度を変更可能な駆動機構を備えた素子であることが好ましい。このようなデジタルマイクロミラーデバイスを用いることで、基板上に隙間なくマイクロミラーを配置することができ、上記第一の光LB
1のエネルギー効率を高めることができる。また、上記デジタルマイクロミラーデバイスとしては、一辺が10マイクロメートル程度の正方形のマイクロミラーを、各辺の方向に500〜2000個程度、合計25万個〜400万個程度基板上に配置し、各ミラーの基板に対する角度を変更可能な駆動機構を備えた素子であることが、レーザー光照射パターンの解像度の観点から、より好ましい。当該デジタルマイクロミラーデバイスには、
図8に示すように、上記第一の光LB
1の全体が照射され、反射されることが光のエネルギー利用効率の観点から好ましい。
【0075】
上記デジタルマイクロミラーデバイスは、前述のように基板上に配列されたマイクロミラーの基板に対する角度を独立して変更する機構を備えている。当該機構を利用して、
図8に示すように、上記第一の光LB
1を反射し、上記選択的ミラー85に照射する部分と、上記選択的ミラー85には照射しない部分とを切り替える。上記第一の光LB
1のうち、選択的ミラー85に照射する部分は、上記選択的ミラー85に照射するように上記マイクロミラーの角度が設定されている。上記第一の光LB
1のうち、選択的ミラー85に照射しない部分も、上記第一のLB1を反射するが、上記選択的ミラー85に照射する部分とは反射する角度が異なるため、上記選択的ミラー85には照射しない。上記選択的
ミラー85に照射された上記第一の光LB
1は、上記選択的ミラー85によって反射され、上記光学シャッター部に81照射される。このようにして、上記デジタルマイクロミラーデバイスにより形成された上記第一の光LB
1の照射パターンが、上記光学シャッター部81に転写される。なお、上記第一の光LB
1が、高エネルギーのレーザー光である場合には、上記第一の光LB
1のうち上記選択的ミラー85には照射しない部分は、レーザービームダンパー、レーザービームトラップ、レーザービームディフューザー等と呼ばれるレーザー光を吸収させる装置により終端させることが、安全上好ましい。
【0076】
本実施形態の光学装置1において、上記第一の光LB
1が、上記空間光変調素子84に入射する入射角は、当該空間光変調素子84に応じて適宜選択することができる。例えば、空間光変調素子84としてマイクロシャッターアレイを用いる場合は、上記第一の光LB
1が、当該マイクロシャッターを配置した面に垂直に入射し、マイクロシャッターの開口部を通過することが、高い解像度で上記第一の光を出力する光源82から出力される光の照射パターンが得られるため好ましい。また、空間光変調素子84として、デジタルマイクロミラーデバイスを用いる場合は、入射光とデジタルマイクロミラーデバイスに対して垂直な線とが成す角度で定義される入射角が小さく、垂直入射に近いほど、高い解像度で上記第一の光LB
1の照射パターンが得られるため好ましい。この場合において、
図8に示すように、上記第一の光LB
1を直接上記デジタルマイクロミラーデバイスに照射してもよいが、入射角を調整するため、上記第一の光を出力する光源82と一個又は複数のミラーを配置して、入射角を小さくすることもできる。
【0077】
上記デジタルマイクロミラーデバイスの寸法は、当該デジタルマイクロミラーデバイスを構成する上記マイクロミラーの寸法とマイクロミラー間の隙間で構成されるマイクロミラー・ピッチと、上記マイクロミラーの個数によって決定される。上記デジタルマイクロミラーデバイスの寸法は、上記第一の光源82から出力される光を反射し、本実施形態の光学装置1により光の照射パターンを形成できる限り限定されないが、上記マイクロミラー・ピッチが小さいほど高い解像度の照射パターンを形成できるため好ましい。具体的には、上記マイクロミラー・ピッチが、20マイクロメートル以下が好ましく、10マイクロメートル以下がより好ましい。また、上記マイクロミラーの個数は、多いほど高い解像度の照射パターンが形成できるため好ましい。また、上記マイクロミラーの個数が多いほど、上記デジタルマイクロミラーデバイスの反射面の大きさが大きくなり、当該反射面の面積が上記第一の光を出力する光源82から出力される光のビーム断面積よりも大きいと、光のエネルギー全体を利用できるため、エネルギー効率の観点から好ましい。具体的には、直交する二方向に100個以上ずつ、合計1万個以上配置したものが好ましく、直交する二方向に300個以上ずつ、合計9万個以上配置したものがより好ましく、直交する二方向に500個以上ずつ、合計25万個以上配置したものがより好ましい。
【0078】
前述の通り、上記第一の光源82には、波長360ナノメートル前後の紫外線が好適に用いられるが、上記デジタルマイクロミラーデバイスを構成する各マイクロミラーは、この波長における反射率が高いほど、上記第一の光源82から出力される光のエネルギーロスを小さくすることができるため好ましい。上記マイクロミラーのレーザー光の反射率は、90パーセント以上が好ましく、95パーセント以上がより好ましい。上記デジタルマイクロミラーデバイスを構成する各ミラーの材質は限定されないが、アルミニウムまたはアルミニウム合金であることが、高い反射率が得られるため好ましい。また、上記アルミニ
ウムまたは上記アルミニウム合金の表面を酸化や傷から保護するために透明膜で保護膜を形成したマイクロミラーも、上記デジタルマイクロミラーデバイスとして好適に用いられる。
【0079】
上記デジタルマイクロミラーデバイスは、上記ジタルマイクロミラーデバイスを構成する各マイクロミラーの基板に対する角度を独立して変化させることができる駆動機構を備えている。本実施形態の光学装置1においては、高速で上記第一の光LB
1で形成される画像を切り替えるため、上記駆動機構の駆動速度は高いほど好ましい。具体的には、1秒間に角度を変化させることができる回数である駆動周波数が、100ヘルツ以上であることが好ましく、500ヘルツ以上であることが好ましい。本実施形態の光学装置1においては、上記第二の光LB
2を出力する光源83の好適な発振周波数が10キロヘルツ以下であるため、上記デジタルマイクロミラーデバイスも、駆動周波数を10キロヘルツ以下で調整できるものであることが好ましい。
【0080】
本実施形態の光学装置1に用いられる上記デジタルマイクロミラーデバイス12は、限定されないが、例えば、テキサス・インスツルメンツ社製
紫外線デジタルマイクロミラーデバイスDLP9000XUV(登録商標)等を利用することができる。
【0081】
本実施形態の光学装置1は、高い解像度で上記第二の光源83から出力される光の照射パターンを形成するため、上記光学式シャッター装置81を透過する上記第二の光源83から出力される光の光路上にレンズ86を設置していることが好ましい。レンズ86は、上記第二の光源から出力される光路上の任意の位置に設置することができるが、高い解像度の光の照射パターンを形成することができるため、
図1に示すように、上記光学式シャッター装置81と被照射物87の間に設置することが好ましい。上記レンズ86の実施形態については、前述した通りである。
【0082】
また、本実施形態の光学装置1は、高い解像度の光LB
2の照射パターンを形成するため、上記第一の光LB
1の照射パターンも、高い解像度を有していることが好ましい。前述した通り、上記第一の光LB
1の照射パターンは、微小なマイクロミラーを多数集積したデジタルマイクロミラーデバイスを用いて形成することが好ましい。更に解像度を高めるため、本実施形態の光学装置1は、上記デジタルマイクロミラーデバイスと上記光学シャッター部81の間に集光レンズを設けて、上記デジタルマイクロミラーデバイ
スで形成した上記第一の光LB
1による画像を、上記光学シャッター部81に縮小投影できるものが好ましい。この場合において、上記集光レンズは、上記第一の光源82から出力される光のみを縮小するため、上記デジタルマイクロミラーデバイスと、選択的ミラー85の間に設置しても良いし、上記第一の光源82及び上記第二の光源83から出力される光を縮小するため、上記選択的ミラー85と上記光学シャッター部81の間に設置しても良い。
【0083】
本実施形態の光学装置1は、被照射物87を保持するステージ88を含むことが好ましい。上記光学装置1は、
図8に示すように、上記光学式シャッター装置81、上記第一の光源82、上記第二の光源83を固定し、上記ステージ88を移動することで、上記被照射物87を移動し、レーザー光の照射パターンに対応した3次元構造を形成することが好ましい。このような方式を取ることで、光学系を安定させ高精度のレーザー光照射パターンを形成することができ、また、本実施形態のレーザー照射装置1の構成を簡素化し、装置の小型化ができ、制御が容易となるという利点がある。
【0084】
上記光学式シャッター装置81を通過する上記第二の光の光軸方向をZ軸、当該Z軸に垂直な面をXY面としたとき、上記ステージ88を、XY面と平行に移動することで、被照射物87へのパルスレーザー光の照射位置を変化させ、2次元照射パターンを形成することが、本実施形態のレーザー照射装置1の制御が容易であるため好ましい。
【0085】
本実施形態の上記ステージ88は、
図1に示すように、XYZ軸方向への移動が可能なものであっても良いし、XYZ軸のうち、一つまたは二つの軸方向に移動が可能なものを複数併用して用いてもよい。
【0086】
上記ステージ88は、精密な動作を必要とするため、変位センサ、駆動機構、制御機構を有しているものが好ましい。変位センサは、基準点に対してステージ88がどれだけ離れた位置にあるかを検出する機構である。変位センサは、ステージ88と基準点の間の距離を、電圧など他の物理量に変換する機構を有しているものが好ましい。変位センサとしては、レーザー干渉計、リニアスケール方式など、種々の方式のものを用いることができる。中でも、リニアエンコーダを用いた変位センサが、高精度な位置決めを可能とするため好適に用いられる。
【0087】
上記駆動機構は、上記ステージ88を移動させる動力を発生する機構である。上記駆動機構としては、精密な動作を可能とするため、アクチュエータ、送り機構、ガイド機構を備えたものが好ましい。上記アクチュエータには、モーターや圧電素子を用いることができる。中でもステッピングモーターが、上記ステージ88の位置を高精度かつ段階的に変えることができるため好ましい。上記送り機構は、上記アクチュエータで発生した回転動力を直線方向への動力に変換する機構であり、上記ステージ88には、例えば、ボールねじ方式やリニアモータ方式等を用いることができるが、装置を簡素化して小型化できるため、ボールねじ方式が好ましい。上記ガイド機構は、送り機構で発生した水平動力を所定の方向に移動させる機構であり、上記ステージ88には、例えば、リニアボールガイド、クロスローラーガイド等を用いることができる。
【0088】
上記制御機構は、上記ステージ88の位置の目標値に対し、当該ステージ88が実際に移動する位置との誤差を小さくする機構である。当該制御機構には、シーケンス制御、フィードバック制御、フィードフォワード制御など種々の制御方式を採用することができるが、上記ステージ88の位置を精密に制御することができるため、フィードバック制御が好ましい。フィードバック制御とは、出力の目標値と実際の出力値を比較して自動的に出力値と目標値が一致するように制御する仕組みのことを言う。フィードバック制御の中でも、PID(Proportional−Integral−Differencil)制御が、上記ステージ14の位置を精密に制御し、自動化も可能であることから好適に用いられる。PID制御は、入力値の制御を出力値と目標値との偏差、その積分、および微分の3つの要素によって行う、フィードバック制御の一種である。
【0089】
本実施形態の上記光学装置1を光造形装置に用いた場合、加工時間の観点から、上記ステージ88の駆動速度は高いほど好ましい。具体的には、1秒間に上記ステージ88を移動させることができるステップ数で定義される駆動周波数が100ヘルツ以上であることが好ましく、500ヘルツ以上であることがより好ましい。前述したように、本実施形態の光学装置1においては、第一の光源82及び第二の光源83としてパルスレーザー光源が好ましく用いられ、第一の光源82から出力される光の照射パターンを形成する空間光変調素子84としてデジタルマイクロミラーデバイスが好ましく用いられるが、ステージ88は、上記パルスレーザー光源および上記デジタルマイクロミラーデバイスと同期して駆動するため、上記パルスレーザー光源の好適な発振周波数と、上記デジタルマイクロミラーデバイスの好適な駆動周波数である10キロヘルツ以下で調整できるものであることが好ましい。
【0090】
上記ステージ88としては、限定されないが、例えば、シグマ光機株式会社製1ナノメートルフィードバックステージシステムFS−1020UPX等を利用することができる。
【0091】
上記ステージ88は、被照射物87を保持する機構を有している。上記光学装置1を光造形装置に用いる場合、被照射物である感光性樹脂組成物は、一般に粘性のある液体であることから、当該感光性樹脂組成物を液槽に満たし、液槽をステージ88で保持することで、光造形装置に用いることができる。また、上記ステージ88でスライドガラスを保持し、当該スライドガラスとカバーガラスで上記感光性樹脂組成物を挟んで保持することもできる。その場合、スペーサーを用いて上記スライドガラスと上記カバーガラスの距離を一定にすることが好ましい。
【0092】
また、上記感光性樹脂組成物を基板に塗布し、薄膜状に感光性樹脂組成物が塗布された基板を上記ステージ88で保持してもよい。上記感光性樹脂組成物は、ディップコート、バーコート、スピンコートなど既知の方法で塗布することができるが、広面積で均質性の高い薄膜が形成できることからスピンコートにより塗布することが好ましい。また、感光性樹脂組成物として、フィルム状の感光性樹脂組成物、いわゆるドライフィルムレジストを用いてもよい。ドライフィルムレジストは、基板上にフィルムを貼り付けることで感光性樹脂組成物であるレジスト組成物の薄膜を形成することができる。当該ドライフィルムレジストは、ネガ型ドライフィルムレジスト、ポジ型ドライフィルムレジストのいずれを用いてもよいが、本実施形態のレーザー光照射装置1を光造形装置に用いた場合に、加工が容易であるため、ネガ型ドライフィルムレジストであることが好ましい。
【0093】
液状の感光性樹脂組成物を塗布したり、フィルム上の感光性樹脂組成物を貼り付けるための上記基板としては、限定されないが、ガラス、金属、シリコン、化合物半導体、樹脂、セラミックス等の中から選択することができる。中でもガラスおよびシリコンウエハーが、平滑性が高く、高面積で感光性樹脂組成物の薄膜を形成することができるため好ましい。
【0094】
上記ステージ88は、上記感光性樹脂組成物で満たした上記液槽、または感光性樹脂組成物を塗布した上記基板を固定できるものであることが好ましい。固定方法は、限定されないが、粘着テープ、粘着剤または接着剤を用いて固定することができる。また、真空チャック、静電チャックを用いると上記液槽または基板の着脱を速やかに行うことができるため好ましい。
【0095】
上記感光性樹脂組成物は、本実施形態のレーザー照射装置1を光造形装置に用いた場合に、加工が容易であることから、光硬化性樹脂組成物であることが好ましい。光硬化性樹脂組成物としては、市販のネガ型レジスト用樹脂組成物を用いることができる。ネガ型レジスト用樹脂組成物は、上記光造形装置によりパルスレーザー光を集光照射した際に硬化するものであれば限定されないが、反応開始剤およびモノマーを含むものが好ましく、更にオリゴマー、連鎖移動剤、希釈剤のような添加剤を含むことができる。
【0096】
上記光硬化性樹脂組成物としては、ラジカル重合型、カチオン重合型、アニオン重合型等を用いることができるが、ラジカル重合型は高い反応性が得られるため好ましく、カチオン重合型は硬化時の収縮が小さいことから好ましい。
【0097】
上記ラジカル重合型の光硬化性樹脂組成物としては、ウレタン系、アクリル系、ウレタンアクリレート系の光硬化性樹脂組成物が好適に用いられる。ラジカル重合型の光硬化性樹脂組成物には、ラジカル重合開始剤とモノマーを含み、更にオリゴマー、連鎖移動剤、希釈剤のような添加剤を含むことができる。
【0098】
上記ラジカル重合型の光硬化性樹脂組成物としては、限定されないが、JSR株式会社製ネガ型レジスト組成物であるSCR500あるいはZ7012Cを用いることができる。
【0099】
上記カチオン重合型の光硬化性樹脂組成物は、硬化時の収縮が小さく、高精度に加工できることから、本実施形態のレーザー光照射装置1を光造形装置に用いた場合、好適に用いられる。上記カチオン重合型の光硬化性樹脂組成物としては、エポキシ系、ビニルエーテル系、アクリル系が、高い反応速度が得られるため好ましい。カチオン重合型の光硬化性樹脂組成物は、重合開始剤として光酸発生剤を含むものが好ましい。また、エポキシ系、ビニルエーテル系、アクリル系などのモノマーを含み、架橋剤や反応性希釈剤といったカチオン重合により光硬化反応を進行させる添加物を含んでいることが好ましい。
【0100】
上記カチオン重合型の光硬化性樹脂組成物としては、限定されないが、MicroChem社製エポキシ系ネガ型レジストであるSU−8や、シーメット株式会社製エポキシ系感光性樹脂組成物であるTSRシリーズ等を用いることができる。
【0101】
上記光硬化性樹脂組成物の中でも、デュアルキュアと呼ばれる光によっても熱によっても硬化する樹脂組成物が知られており、本実施形態のレーザー照射装置1を光造形装置に用いた場合に、使用することができる。その場合、当該光造形装置で製造する3次元構造体外枠を光硬化により硬化させ、現像後に熱硬化により加工対象物の内部を硬化させるという方法を取ることで加工速度を更に高めることも可能である。
【0102】
また、上記光造形装置に用いられる上記光硬化性樹脂組成物には、増感剤と呼ばれる化合物を添加し、光硬化反応に必要とされるエネルギー閾値を下げ、光硬化反応が起こりやすくすることができる。増感剤を含む光硬化性樹脂組成物にパルスレーザー光を照射すると、まず増感剤分子の多光子吸収現象が生じ、増感剤分子が基底状態から励起状態へと励起され、次に励起された増感剤から、光硬化性樹脂組成物に含まれる重合開始剤やモノマーへの電子移動が起こり、光硬化反応が誘起されると考えられている。当該増感剤に用いられる化合物としては、多光子吸収断面積が大きく、励起状態のエネルギー準位が重合開始剤やモノマーの励起状態のエネルギー準位より高く、電子移動した重合開始剤やモノマーの励起状態の寿命が長く、増感剤の励起状態寿命が長く、増感剤の励起によりラジカルを発生する場合には、当該ラジカルの発生効率が高く、また、当該ラジカルの寿命が長いものが好適に用いられる。
【0103】
上記増感剤としては、限定されないが、例えば、アントラキュアーUVS−581、UVS−1331、UVS−1101、エオシンYという化合物が知られている。アントラキュアーシリーズは、川崎化成工業株式会社より入手でき、エオシンYは、富士フィルム和光純薬株式会社から入手することができる。
【0104】
本実施形態の光学装置1は、制御装置89を含むことが好ましい。当該制御装置89は、上記第一の光源82、上記第二の光源83、上記空間光変調素子84及び上記ステージ88に接続され、それらを制御することで本実施形態の光学装置1を用いて画像を形成するものである。上記制御装置89は、
図8に示すように一つの制御装置が、上記第一の光源82、上記第二の光源83、上記空間光変調素子84及び上記ステージ88の全てに接続されていてもよいし、いずれか一つまたは二つ以上に接続されたものを複数組み合わせて使用してもよい。
【0105】
上記制御装置89は、コンピュータシステムを含むものが好ましい。また、上記制御装置89は、演算処理装置と、記憶装置と、入出力インターフェースとを有するものが好ましい。上記演算処理装置は、上記記憶装置に記憶されているコンピュータプログラムに従って演算処理を実施して、本実施形態の光学装置1を制御するための制御信号を、上記入出力インターフェース装置を介して上記第一の光源82、上記第二の光源83、上記空間光変調素子84及び上記ステージ88に出力する。また、上記制御装置89は、加工動作の状態や画像などを表示する表示装置などにより構成される表示手段や、加工内容情報などを入力する際に用いる入力手段と接続されているものが好ましい。
【0106】
上記制御装置89は、本実施形態の光学装置1を光造形装置に用いる場合、作成する3次元構造体の3次元データ、および当該3次元データをもとに作成された2次元スライスデータを含むものが好ましい。上記3次元データは、コンピュータ支援設計(CAD)ソフトウエアやコンピュータグラフィックス(CG)ソフトウエア等を用いて作成してもよいし、3Dスキャナを用いて実在する3次元構造をスキャンすることで作成してもよい。また、上記制御装置89は、3次元データをもとに2次元スライスデータを作成するソフトウエアを含んでいるものが好ましい。当該ソフトウエアは、特に限定されず、例えば市販の3Dプリンタ用ソフトウエアを用いることができる。
【0107】
本実施形態の光学装置1は、微小な振動の影響を排除し、精密なレーザー光照射パターンを安定して形成するために除振台、防振台等の上に設置することが好ましい。また、温度や湿度の変化が上記光学装置1を構成する各部品の寸法や動作制度に影響を与える場合があるため、恒温・恒湿チャンバー内に光造形装置を設置するなどの対策を取ることができる。
【0108】
続いて、本実施形態の上記光学装置1の動作について説明する。本実施形態の光学装置1は、上記第一の光源82から出力されたレーザー光LB
1を上記空間光変調素子84に照射し、上記空間光変調素子84により光照射パターンを形成し、上記光学シャッター部81に照射する。上記光学シャッター部81のうち、上記第一の光LB
1を照射された領域は、その領域に含まれるフォトクロミック材料が励起され、吸収スペクトルを変化させる。上記第一の光LB
1を照射された領域の吸収スペクトルが変化すると、上記第二の光LB
2の透過率が低下する。一方、上記第一の光LB
1を照射しない領域は、吸収スペクトルが変化せず、上記第二の光LB
2の透過率が低下しない。このようにして、上記第一の光LB
1の照射パターンに従って、上記光学シャッター部81上に上記第二の光LB
2を透過する部分と遮蔽する部分が形成される。ここに、第二の光LB
2を上記光学シャッター部81に照射することで、第二の光LB
2による画像形成が可能となる。
【0109】
図9は、第一の実施形態の光学装置1の動作を表したフローチャートである。本実施形態の上記光学装置1は、上記第一の光を出力する光源82と、上記第二の光を出力する光源83と、上記空間光変調素子84と、ステージ88とが同期して駆動するものであることが好ましい。
【0110】
ここで、「同期して駆動する」とは、上記第一の光LB
1を出力する光源82と、上記第二の光LB
2を出力する光源83と、上記空間光変調素子84と、ステージ88とが完全に同じタイミングで駆動するという意味ではなく、
図9に示すように、空間光変調素子84とステージ88とが、まず設定された初期条件に調整され(S1)、続いて一回目の上記第一の光LB
1が光源82から出力され(S2)、更に一回目の上記第二の光LB
2が光源83から出力される(S2)。次に、二回目の上記第一の光LB
1及び第二の光LB
2が上記光源82及び83から出力される前に、上記空間光変調素子84と上記ステージ88とが、設定された条件に調整される(S1)、という意味である。これを設定された回数繰り返すことにより、2次元又は3次元のレーザー光照射パターンを形成することができる。
【0111】
ここで、上記光源82と条件83が、異なる光源である場合には、上記光源82と条件83から第一の光LB
1と第二の光LB
2を出力するタイミングを調整し、第一の光LB
1と第二の光LB
2が、上記光学シャッター部81に到達するタイミングを調
整することが好ましい。また、上記光源82と条件83が、同一光源であり、出力された光を、光学素子を用いて第一の光LB
1と第二の光LB
2に分割する場合は、上記第二の光LB
2が上記光学シャッター部81に到達するまでの光路を長くする、上記第二の光LB
2を光学素子により変調し、第一の光LB
1と位相をずらすように調整する等の方法で、第一の光LB
1と第二の光LB
2が、上記光学シャッター部81に到達するタイミングを調
整することが好ましい。
【0112】
前述したように、本実施形態の光学装置1を二光子マイクロ光造形法に用いる場合、上記第二の光LB
2を出力する光源83の好ましい発振周波数と、上記空間光変調素子84に用いられるデジタルマイクロミラーデバイスの好ましい駆動周波数と、上記ステージ88の好ましい駆動周波数は、10キロヘルツ以下である。上記第一の光を出力する光源82の発振周波数も、10キロヘルツ以下で調整して、上記光源82、上記光源83、上記デジタルマイクロミラーデバイス、上記ステージ88を同一周波数で駆動することが、好ましい。
【0113】
例えば、上記第一の光を出力する光源82と、上記第二の光を出力する光源83と、上記空間光変調素子84と、ステージ88とを、好適な周波数である1キロヘルツで同期して駆動した場合について説明する。周波数1キロヘルツ(1000ヘルツ)であるから、
図9に示すS1からS3までのステップを1サイクル行うための時間は、1000分の1秒(1ミリ秒)となる。前述したように、上記第一の光LB
1と、上記第二の光LB
2の好ましいパルス幅は、それぞれ100ナノ秒以下及び1ピコ秒以下であり、上記1サイクル行うための時間である1ミリ秒に対して十分に短いものであるから、上記空間光変調素子84とステージ88の設定を1ミリ秒以内で行った後に、上記第一の光を出力する光源82と、上記第二の光を出力する光源83から出力することで、
図9に示すフローチャートに従って、上記光学装置1を駆動することができる。
【0114】
上記光学装置1を構成する上記光学シャッター部81に含まれるフォトクロミック材料は、前述の動作を可能とするため、第一の光LB
1の照射により直ちに発色し、第一の光LB
1の照射終了後に速やかに消色するものが好ましい。前述のフォトクロミック材料のうち、ペンタアリールビスイミダゾール誘導体、フェノキシル−イミダゾリルラジカル複合体は、高い光応答速度を示し、分子内への置換基の導入により発色速度と消色速度を調整することができるため、好ましい。
【0115】
図10は、第二の実施形態の光学装置2の構成を示した図である。
図10において、光学式シャッター装置101とマイクロミラーデバイス102以外の構成要素については、
図9に示した第一の実施形態の光学装置1と共通である。
【0116】
図11、
図12は、上記第二の実施形態の光学装置2を用いて、上記第二の光LB
2による画像を形成する動作原理を示した図である。
図11に示すように、上記デジタルマイクロミラーデバイス102は、上記第一の光LB
1を反射し、設定された光照射パターンに従って、一部は上記選択的ミラー85に照射し、一部は上記選択的ミラー85には照射しない。上記選択的ミラー85に照射された上記第一の光LB
1は、上記選択的ミラー85によって反射され、上記光学式シャッター装置101に照射される。上記光学式シャッター装置101は、フォトクロミック材料を含むマイクロセルにより構成されているため、当該マイクロセルのうち、
図11において斜線で示した上記第一の光LB
1を照射されたマイクロセルは、その吸収スペクトルを変化させる。
【0117】
続いて、
図12に示すように上記第二の光LB
2が出力される。上記第二の光LB
2は上記選択的ミラー85を透過し、上記光学シャッター装置101に照射される。上記光学シャッター装置101を構成するマイクロセルのうち、
図12の斜線で示した上記第一の光LB
1を吸収したマイクロセルは、上記第二の光LB
2を遮蔽する光学シャッターとして機能する。また、上記第一の光LB
1を吸収していないマイクロセルは、上記第二の光LB
2を透過するため、上記光学式シャッター装置101により、上記第二の光LB
2を部分的に透過又は遮蔽することで、上記第二の光LB
2による画像を形成することができる。
【0118】
このような動作を可能とするため、上記光学シャッター装置101に含まれるフォトクロミック材料と、上記第一の光LB
1及び上記第二の光LB
2の波長は適宜選択されることが好ましい。また、このような動作を可能とするため、上記第一の光LB
1を出力する光源82、上記第二の光LB
2を出力する光源83、上記デジタルマイクロミラーデバイス102、上記ステージ88は同期して駆動することが好ましい。上記光学シャッター装置101に含まれるフォトクロミック材料の実施形態は、前述の通りである。更に、上記光学式シャッター装置101は、フォトクロミック材料を含むマイクロセルが、集光レンズとして機能するよう形成されているため、上記光学式シャッター装置101を透過した上記第二の光LB
2は、集光され被照射物87に照射される。このような構成とすることで、上記光学装置2は、簡素な光学系を実現でき、高精度な画像を安定して形成することができる。
【0119】
なお、上記光学装置2の構成要素のうち、上記光学シャッター装置101以外の上記光学装置1と共通する構成要素の実施形態は、前述の通りである。
【0120】
本実施形態の光学装置2を光造形装置、中でも二光子マイクロ光造形装置に用いる場合、上記第二の光LB
2は被照射物87に集光照射されるため、上記第二の光LB
2の焦点のスポットサイズは、上記光学式シャッター装置101を構成するマイクロセルよりも小さくなる。従って、上記第二の光LB
2により形成された隣接する二つの集光点スポット間の距離に相当する距離を、上記ステージ88が上記光学式シャッター装置101のマイクロセルは一面と平行に移動することによって、上記被照射物87における被照射面全体に渡ってレーザー光を照射することができるため好ましい。更に、予め設定された上記第一の光LB
1の照射パターンに従って、上記デジタルマイクロミラーデバイス102を構成するマイクロミラーの角度を切り替えながら、上記ステージ88を移動することによって、高精度な2次元パターンを形成することができるため好ましい。
【0121】
本実施形態の光学装置2を二光子マイクロ光造形装置に用いる場合、高いエネルギー密度が得られることから、第二の光源83はパルスレーザー光源であることが好ましい。上記二光子マイクロ光造形装置は、二光子吸収現象を利用するため、当該二光子吸収現象を励起できる閾値を超えるパルスエネルギーが得られる領域の大きさが、上記パルスレーザー光の焦点のスポットサイズとなる。このとき、上記パルスレーザー光の焦点のスポットサイズは、パルスエネルギーは、上記第二の光を出力する光源83の出力と、上記光学式シャッター装置101により分割されたレーザー光の本数、及び光学式シャッター装置101を構成するマイクロセルの開口数に依存する。高い解像度で上記パルスレーザー光の照射パターンを得るため、上記パルスレーザー光源のパルスエネルギーと上記光学式シャッター装置101を構成するマイクロセルの個数と開口数を調整して、上記焦点のスポットサイズを可能な限り小さくすることが好ましい。具体的には、上記焦点のスポットサイズが100ナノメートル以下であることが好ましく、50ナノメートル以下であることがより好ましく、10ナノメートル程度に調整することが更に好ましい。
【0122】
ここで、上記光学式シャッター装置101に照射される上記第二の光LB
2の光軸方向をZ軸、Z軸に直交し、互いに直行する任意の軸をX軸及びY軸と定義する。上記光学装置2を、二光子マイクロ光造形法に用いる場合において、例えば、フォトクロミック材料を含み、一辺の長さが1マイクロメートルの正方形のスクエアレンズを形成したマイクロセルを透明基板上に隙間なく多数集積した光学式シャッター装置101を上記X軸及びY軸に平行に設置し、Z軸に沿って上記第二の光LB
2を上記光学式シャッター装置に照射すると、隣接する集光点スポット間の距離は、隣接するスクエアレンズの中心から中心までの距離とほぼ等しく、およそ1マイクロメートルとなる。前述したように、上記光源83の出力と、上記光学式シャッター装置101を構成するマイクロセルの個数と開口数を調整し、上記焦点のスポットサイズを10ナノメートルにした場合、上記ステージ88を、上記光源82、上記光源83と同期しながら、上記X軸方向及び上記Y軸方向に、1ステップあたり10ナノメートルずつ動かすと、高精度な照射パターンが得られるため好ましい。予め設定された2次元パターンに従って、上記デジタルマイクロミラーデバイス102を構成するマイクロミラーの角度を切り替えながら、上記ステージ88を10ナノメートルずつ上記X軸方向及び上記Y軸方向合わせて10,000ステップ移動することで、マイクロレンズ1個あたり1マイクロメートル四方の平面に10,000画素からなるレーザー光照射パターンを形成することができる。本実施形態の光学装置2において、上記マイクロレンズ1個あたりに形成されるレーザー光照射パターンを、多数のマイクロレンズを配置した上記光学式シャッター装置101を通じて、多数の上記レーザー光照射パターンを同時に形成することができ、高速かつ広範囲にレーザー光照射パターンを形成できるため好ましい。更に、上記ステージ88をZ軸方向にも移動することで、所望の3次元パターンを上記被照射物87に形成することができる。
【0123】
上記光学装置2を光造装置に用いる場合、前述したように、分割されたレーザー光を集光して感光性樹脂組成物に照射するため、分割されたレーザー光1本1本が、感光性樹脂組成物の反応に必要なエネルギー閾値を超えていることが好ましい。
【0124】
上記感光性樹脂組成物の反応に必要なエネルギー閾値は、感光性樹脂組成物に含まれる樹脂の種類や増感剤、重合開始剤といった成分に依存するが、例えば、市販の光硬化性樹脂組成物を用いた場合、分割されたパルスレーザー光1本のパルスエネルギーが、1ナノジュール以上あることが好ましく、5ナノジュール以上あることが更に好ましい。
【0125】
本実施形態のレーザー光の照射方法を多光子マイクロ光造形に用いる場合、
図10に示すように、上記第二の光LB
2を出力する光源83としてパルスレーザー光源を用いて、出力されたパルスレーザー光を、100万個以上のマイクロセルから構成される上記光学式シャッター装置101で100万本以上に分割し、上記光学式シャッター装置101によりレーザー光照射パターンを形成して、被照射物87に照射することが、高精度な画像を広範囲に形成できる好ましい。この場合において、分割したレーザー光1本あたりのパルスエネルギーが、上記感光性樹脂組成物のエネルギー閾値を超えるよう、上記パルスレーザー光源から出力されたパルスレーザー光のパルスエネルギーが、上記感光性樹脂組成物のエネルギー閾値の100万倍以上であることが好ましい。上記第二の光LB
2を出力する光源83である上記パルスレーザー光源から出力されるレーザー光のパルスエネルギーが、1ミリジュール以上であることが好ましく、5ミリジュール以上であることがより好ましく、10ミリジュール以上であることが更に好ましい。
【0126】
上記パルスレーザー光源から出力されたパルスレーザー光のエネルギーは、上記パルスレーザー光源の平均出力及び発振周波数に依存するが、平均出力が同じであっても、発振周波数を低く調整することでパルスエネルギーを高くすることができる。そのため、本実施形態のレーザー光の照射方法においては、感光性樹脂組成物の反応に必要なエネルギー閾値を超える範囲で、できるだけ発振周波数を高くすることが、本実施形態のレーザー光の照射方法を3次元構造体の製造に用いた場合に、製造速度を高くすることができるため好ましい。また、感光性樹脂組成物の光損傷が起こるエネルギー閾値よりは、低く調整することが好ましい。
【0127】
本実施形態の上記光学装置2は、二光子マイクロ光造形法による3次元構造体の製造に用いた場合、高い分解能で精密な加工ができる点に利点がある。上記パルスレーザー光を集光した焦点近傍において、感光性樹脂組成物の反応に必要なエネルギー閾値を超えるパルスエネルギーとなる集光スポットのサイズは、感光性樹脂組成物の反応に必要なエネルギー閾値に依存するが、上記パルスレーザー光源から出力されるパルスレーザー光のエネルギーと、上記光学式シャッター装置101により分割されるパルスレーザー光の分割本数と、上記光学式シャッター装置を構成するマイクロセルの開口数によっても調整できる。感光性樹脂組成物の反応に必要なエネルギー閾値を十分に超えるエネルギーのパルスレーザー光が照射される場合には、集光スポットのサイズは大きくなるし、エネルギー閾値に近いエネルギーのパルスレーザー光が照射される場合には、集光スポットのサイズは小さくなる。上記光学装置2を、上記二光子マイクロ光造形法による3次元構造体の製造に用いた場合において、当該3次元構造体の加工精度の観点から、集光スポットのサイズは、200ナノメートル以下であることが好ましく、100ナノメートル以下であることがより好ましく、50ナノメートル以下であることが更に好ましい。
【0128】
本実施形態の光学装置2において、
図10に示すように、上記当該Z軸に直交して上記被照射物87を保持する上記ステージ88を設置してあるが、これに限定されず、上記被照射物87を、Z軸に対し斜めに設置してもよい。また、
図1には、被照射物87の上面からレーザー光を照射するように描かれているが、このような構成とすると、加工対象物である感光性樹脂組成物にレーザー光を集光照射する際に、レーザー光を遮るものがなく、装置の構成を簡素化することができるという利点がある。また、上記被照射物87の上面からの照射に限定されず、側面から照射してもよいし、下面から照射してもよいし、斜めに照射してもよい。上面以外からパルスレーザー光を照射する場合には、レーザー光が遮られないよう、ステージ88や上記被照射物87を保持する容器にレーザー光を透過する材質で作成した窓を設けることが好ましい。
【0129】
本実施形態のレーザー光の照射方法を多光子マイクロ光造形法による3次元構造体の製造方法に用いる場合、感光性樹脂組成物に上記パルスレーザー光を集光照射することで光反応を誘起した後、ポジ型感光性樹脂組成物においては当該ポジ型感光性樹脂組成物に上記パルスレーザー光を照射して反応した部分を、ネガ型感光性樹脂組成物においては、当該ネガ型感光性樹脂組成物に上記パルスレーザー光を照射されずに未反応な部分を、洗浄除去する現像工程を含むことが好ましい。当該現像工程に用いることができる現像液は、上記ポジ型感光性樹脂組成物の反応した部分、あるいは上記ネガ型感光性樹脂組成物
の未反応部分を洗浄除去できるものであれば限定されないが、純水やテトラメチルアンモニウム水溶液等の水系現像液が環境負荷を下げることができるため好適に用いられる。当該水系現像液は、現像の対象となる感光性樹脂組成物が水系洗浄剤に溶解することが必要とされるため、水溶性でない光硬化性樹脂組成物を使用する場合には、有機溶媒を用いて現像することが好ましい。有機溶媒としては、限定されないが、例えばアセトン、エタノール、イソプロピルアルコール、γブチロラクトン、ヘキサン、酢酸エチル、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等を用いることができる。これ
らの有機溶剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、市販の洗浄剤組成物を用いてもよく、例えば、シーメット株式会社製光造形用洗浄剤TSC−100等を用いることもできる。
【0130】
現像工程により、上記ポジ型感光性樹脂組成物の反応した部分、あるいは上記ネガ型感光性樹脂組成物の未反応部分を洗浄除去することができるが、現像の際に加工対象物である上記ポジ型感光性樹脂組成物又は上記ネガ型感光性樹脂組成物の構造を破壊してしまうことがある。特に、光造形法により製造する3次元構造体が100ナノメートル以下の微細構造を含む場合、現像液の表面張力により、微細構造を破壊してしまうことがある。そのため現像液は、表面張力が低いものが好ましい。具体的には、純水の表面張力は20℃において72.75mN/mであるが、本発明の光造形装置に使用される現像液の表面張力は、20℃において、50mN/m以下が好ましく、30mN/m以下がより好ましく、20mN/m以下が更に好ましい。現像液の表面張力が好ましい値よりも高い場合には、現像液に界面活性剤を添加することにより表面張力を低下させることができる。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤が表面張力の低下させる効果が高いため好ましく、中でもフッ素含有ノニオン系界面活性剤が更に好ましい。
【0131】
更に表面張力を低下させる必要がある場合、表面張力がゼロである超臨界流体を用いたいわゆる超臨界現像を行うことが好ましい。超臨界流体としては、容易に超臨界状態が得られることと、光硬化性樹脂組成物の未硬化部分の溶解性が高いことから、超臨界二酸化炭素が好適に用いられる。
【0132】
(課題を解決するための手段に関する付記)
(付記1)フォトクロミック材料を含む微小な光学シャッターを集積した光学式シャッター装置。
【0133】
(付記2)前記光学シャッターは、第一の光に応答して吸収スペクトルを可逆的に変化し、第二の光 の透過パターンを変えることができるマイクロセルによって構成されている付記1記載の光学式シャッター装置。
【0134】
(付記3)前記マイクロセルが、レンズとして機能するよう形成されている付記2記載の光学式シャッター装置。
【0135】
(付記4)微小な光学シャッターを集積した光学式シャッター装置を構成するマイクロセルのパターンを設定する工程と、
前記パターンに従って、フォトクロミック材料を含むマイクロセルを集積する工程と、
を含む光学式シャッター装置の製造方法。
【0136】
(付記5)前記フォトクロミック材料を含む組成物を集積する工程が、フォトクロミック材料を含む樹脂組成物を成形する工程であることを特徴とする付記4記載の光学式シャッター装 置の製造方法。
【0137】
(付記6)フォトクロミック材料を含む微小な光学シャッターを集積した光学式シャッター装置と 、
前記光学シャッターを通過する光の光路上に配置したレンズと、
を含む光学装置。
【0138】
(付記7)前記レンズが、マイクロレンズアレイであることを特徴とする付記6記載の光学装置 。
【0139】
(付記8)フォトクロミック材料を含む光学シャッター部と、
前記光学シャッター部に光照射パターンを投影する第一の光を出力する光源と、
前記第一の光により光照射パターンを投影した前記光学シャッターに照射する第二の光 を出力する光源と、
を含み、
前記第一の光の光照射パターンを投影した前記光学シャッター部で、
前記第二の光を部分的に透過又は遮蔽することによって、
第二の光の照射パターンを形成可能であることを特徴とする光学装置。
【0140】
(付記9)前記光学シャッター部が、フォトクロミック材料を含む微小な光学シャッターを集積した光学式シャッター装置で構成されていることを特徴とする付記8記載の光学装置。
【0141】
(付記10)前記第一の光から、光照射パターンを形成可能な空間光変調素子を含むことを特徴とする付記8又は9記載の光学装置。
【0142】
(付記11) 前記第一の光を出力する光源が、紫外線レーザー光源又は可視光レーザー光源であることを特徴とする付記8から10いずれか一項記載の光学装置。
【0143】
(付記12)前記第二の光を出力する光源が、近赤外線レーザー光源又は赤外線レーザー光源である ことを特徴とする付記8から11いずれか一項記載の光学装置。
【0144】
(付記13)前記第一の光を出力する光源又は第二の光を出力する光源のうち、少なくともいずれか 一つがパルスレーザー光源であることを特徴とする付記8から12いずれか一項記載の 光学装置。
【0145】
(付記14)第一の光を空間光変調素子により変調して形成した画像をフォトクロミック材料を含む 光学シャッター部に投影する工程と、
前記画像を投影した前記光学シャッター部に第二の光を照射することで、前記光学シャッター部を部分的に透過又は遮蔽した前記第二の光による画像を形成する工程と、
を含むことを特徴とする画像形成方法。
【0146】
(付記15)前記光学シャッター部が、フォトクロミック材料を含む微小な光学シャッターを集積した光学式シャッター装置であることを特徴とする付記14記載の画像形成方法。
【0147】
(付記16)フォトクロミック材料を含む薄膜を形成した光学シャッター部と、マイクロレンズアレイを含む光学装置。
【0148】
(付記17)前記第一の光及び第二の光が、一つの光源から出力された光を光学素子で分割し、分割した光のうち少なくとも一方を光学素子により変調し、波長又は位相の異なる第一の光及び第二の光であることを特徴とする付記8〜13いずれか一項記載の光学装置。