【実施例1】
【0018】
図1(a)は、実施例1における圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA−A断面図である。共振領域50の長軸方向および短軸方向をX方向およびY方向、基板の法線方向をZ方向とすする。
【0019】
図1(a)および
図1(b)に示すように、基板10上に、下部電極12が設けられている。基板10の平坦主面と下部電極12との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成されている。ドーム状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが小さく、空隙30の内部ほど空隙30の高さが大きくなるような形状の膨らみである。
【0020】
下部電極12上に、圧電膜14が設けられている。圧電膜14上に上部電極16が設けられている。圧電膜14を挟み下部電極12と上部電極16とが対向する領域は共振領域50である。共振領域50の平面形状は、長軸52と短軸54を有する楕円形状である。長軸長はL1である。共振領域50は厚み縦振動モードの弾性波が共振する領域である。下部電極12上に配線26が設けられている。平面視において、共振領域50は空隙30に含まれている。
【0021】
空隙30は共振領域50の外まで設けられている。下部電極12は、共振領域50の外において空隙30につながる貫通孔35aを有している。貫通孔35aは共振領域50の長軸52の延長線上に共振領域50を挟み一対設けられている。貫通孔35aの平面形状は、共振領域50に沿った方向(Y方向)の幅R1がX方向の幅R2より大きい細長である。貫通孔35aは後述するように、犠牲層をエッチングするためのエッチング剤を導入するための導入路である。貫通孔35aを含む圧電薄膜共振器のX方向の長さはL0である。長さL0は長軸長L1と幅R2の2倍にその他の領域αを加えたL0=L1+2×R2+αである。
【0022】
基板10は、例えば膜厚が280μmのSi(シリコン)基板である。基板10としては、Si基板以外に、サファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等を用いることができる。
【0023】
下部電極12は、例えば合計の膜厚が200nmであり、基板10側からCr(クロム)膜およびRu(ルテニウム)膜である。上部電極16は、例えば合計の膜厚が200nmであり、圧電膜14側からRu膜およびCr膜である。下部電極12および上部電極16としては、RuおよびCr以外にもAl(アルミニウム)、Ti(チタン)、Cu(銅)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)またはIr(イリジウム)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。
【0024】
圧電膜14は、例えば膜厚が1000nmの(002)方向を主軸とする窒化アルミニウム(AlN)を主成分とする窒化アルミニウム膜である。圧電膜14は、窒化アルミニウム以外にも、ZnO(酸化亜鉛)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、PbTiO
3(チタン酸鉛)等を用いることができる。また、例えば、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素として、Sc(スカンジウム)、2族または12族の元素と4族の元素との2つの元素、または2族または12族と5族との2つの元素を用いることにより、圧電膜14の圧電性が向上する。このため、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数を向上できる。2族の元素は、例えばCa(カルシウム)、Mg(マグネシウム)、Sr(ストロンチウム)であり12族元素は例えばZn(亜鉛)である。4族の元素は、例えばTi、Zr(ジルコニウム)またはHf(ハフニウム)である。5族の元素は、例えばTa、Nb(ニオブ)またはV(バナジウム)である。さらに、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、B(ボロン)を含んでもよい。
【0025】
配線26は、例えば下部電極12側から膜厚が100nmのTi膜および膜厚が600nmのAu(金)膜である。配線26は、Cu(銅)膜およびAl(アルミニウム)膜等の低抵抗の膜が含まれればよい。空隙30の高さは例えば数10nmから数100nmである。貫通孔35aの幅R1およびR2は例えばそれぞれ16μmおよび4μmである。各層の膜厚は、所望の共振特性を得るため適宜設定することができる。
【0026】
[実施例1の製造方法]
図2(a)から
図2(d)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
図2(a)に示すように、基板10上に、犠牲層38を例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い形成する。犠牲層38は、例えば膜厚が60nmのMgO(酸化マグネシウム)膜である。犠牲層38は、例えばZnO膜、Ge膜または酸化シリコン膜でもよい。犠牲層38の膜厚は例えば10nmから100nmでもよい。犠牲層38を例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。犠牲層38は空隙30となる領域に設けられる。
【0027】
図2(b)に示すように、基板10上に犠牲層38を覆うように下部電極12を例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い形成する。下部電極12を例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。これにより下部電極12に貫通孔35aが形成される。下部電極12は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0028】
図2(c)に示すように、基板10上に下部電極12を覆うように圧電膜14および上部電極16を例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い形成する。
【0029】
図2(d)に示すように、上部電極16および圧電膜14を例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターニングする。上部電極16は、リフトオフ法により形成してもよい。下部電極12上に配線26を例えば真空蒸着法およびリフトオフ法を用い形成する。配線26は、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法、並びにフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い形成してもよい。
【0030】
貫通孔35aを介し、犠牲層38をエッチング液により除去する。下部電極12、圧電膜14および上部電極16の内部応力を圧縮応力としておくことで、下部電極12が基板10の反対側に基板10から離れるように膨れる。下部電極12と基板10との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成される。犠牲層38がMgOの場合、犠牲層38のエッチング液として例えば硝酸系溶液を用いる。以上により、実施例1の圧電薄膜共振器が作製される。
【0031】
[比較例1]
図3は、比較例1に係る圧電薄膜共振器の平面図である。
図3に示すように、貫通孔35bの平面形状は円形であり、幅R1とR2とは略同じである。貫通孔35bの平面視の面積が小さくなると、貫通孔35bを介し犠牲層38にエッチング液が効率よく導入できない。また、フォトリソグラフィおよびエッチングが難しくなる。このため、貫通孔35bの面積は一定以上であることが好ましい。
【0032】
しかしながら、比較例1のように貫通孔35bを円形とすると、幅R2が大きくなる。このため、圧電薄膜共振器の長軸方向の長さL0=L1+2×R2+αが大きくなってしまう。
【0033】
[実施例1の効果]
実施例1によれば、貫通孔35a(第1貫通孔)は、X方向(共振領域50に沿う方向)の幅R1がY方向(沿う方向に交差する方向)の幅R2より大きい。これにより、貫通孔35aの面積が比較例1の貫通孔35bの面積とほぼ同じであっても幅R2を小さくできる。よって、圧電薄膜共振器のX方向の長さL0=L1+2×R2+αを比較例1より小さくできる。例えば実施例1および比較例1の幅R2をそれぞれ4μmおよび8μmとすると、L0を8μm小さくできる。よって、圧電薄膜共振器を小型化できる。また、比較例1と貫通孔35aの面積がほぼ同じであるため、犠牲層38のエッチング液を効率よく導入できる。
【0034】
貫通孔35aの平面形状として外周は曲線の形状(円をつぶしたような形状)を例に説明したが、貫通孔35aは長方形等の多角形でもよい。貫通孔35aは共振領域50の外にあれば、貫通孔35aの位置はいずれでもよい。また、貫通孔35aの個数は1個でもよく3個以上でもよい。共振領域50の平面形状が楕円形状のように細長い場合、エッチング液を効率的に犠牲層38に導入するためには、貫通孔35aは長軸の延長線上に2個あることが好ましい。
【実施例2】
【0035】
図4(a)および
図4(b)は、実施例2に係る圧電薄膜共振器の平面図である。
図4(a)および
図4(b)のように、2つの貫通孔35aおよび35bの形状が異なる。貫通孔35aの幅R1は貫通孔35bの幅R1より大きく、貫通孔35aの幅R2は貫通孔35bの幅R2より小さい。例えば、
図4(a)では、貫通孔35aの幅R1およびR2はそれぞれ16μmおよび4μmである。
図4(b)では、貫通孔35aの幅R1およびR2はそれぞれ32μmおよび2μmである。
図4(a)および
図4(b)では、貫通孔35aの幅R1およびR2はいずれも8μmである。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【実施例3】
【0036】
図5は、実施例3に係るフィルタの平面図である。
図6(a)および
図6(b)は、
図5の領域AおよびBの拡大図である。
図5に示すように、基板10上に圧電薄膜共振器18、配線26およびパッド22が設けられている。圧電薄膜共振器18は実施例1、2および比較例1に係る圧電薄膜共振器である。配線26は圧電薄膜共振器18間を電気的に接続する。パッド22は、外部と接続するための端子であり、例えばバンプまたはボンディングワイヤ等が接合する。配線26およびパッド22は、例えば金膜、アルミニウム膜または銅膜等の金属層である。
【0037】
圧電薄膜共振器18は、直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP4を含む。パッド22は、入力端子In、出力端子Outおよびグランド端子Gndを含む。入力端子Inと出力端子Outとの間に直列共振器S1からS4が直列に、並列共振器P1からP4が並列に接続されている。直列共振器S4は直列に分割されている。
【0038】
図6(a)に示すように、隣接する直列共振器S3と並列共振器P3との間で貫通孔35aが近接する。貫通孔35aが円形の場合、直列共振器S3と並列共振器P3の貫通孔35aが一体となってしまう。この場合、犠牲層38の除去が安定化しない。貫通孔35aを近接させないためには直列共振器S3と並列共振器P3とを離すことになり、チップサイズが大きくなる。そこで、貫通孔35aの平面形状を円形でなく実施例1または2のように細長い形状とする。これにより、チップサイズを大きくすることなく、直列共振器S3と並列共振器P3の貫通孔35aが一体となることを抑制でき、チップ面積を小さくできる。
【0039】
図6(b)に示すように、基板10(すなわちチップ)の端部にはスクライブライン11が設けられている。スクライブライン11はチップを個片化するときの切断領域である。直列共振器S2と並列共振器P3の貫通孔35aが基板10の端部に近接している。スクライブライン11から一定距離L3は、パターンの配置を許容しない領域である。パターンが基板10の端部に形成されると、パターン欠け等が生じる可能性があるため、このような配置を許可しない領域を設ける。比較例1のように円形の貫通孔35bの場合、スクライブライン11から距離L3を確保しようとすると、直列共振器S2と並列共振器P3をスクライブライン11から離すことになり、チップ面積が大きくなる。貫通孔35aを実施例1または2のように細長い形状とする。これにより、チップ面積を小さくできる。
【0040】
細長い貫通孔35aの反対側の貫通孔は細長い貫通孔35aでもよいし、円形の貫通孔35bでもよい。
【0041】
実施例2のように、貫通孔35b(第2貫通孔)の幅R1は貫通孔35a(第1貫通孔)の幅R1より小さく、貫通孔35bの幅R2は貫通孔35aの幅R2より小さい。このように、貫通孔の形状を異ならせることで、貫通孔の形状を柔軟にすることができ、チップサイズを小さくできる。
【0042】
貫通孔35aおよび35bは共振領域50の中心を挟んで設けられている。これにより、犠牲層38を効率よく除去できる。しかし、貫通孔の分圧電薄膜共振器が長くなる。よって、貫通孔の少なくとも一方を細長い貫通孔35aとすることが好ましい。なお、共振領域50の中心は幾何学的な中心でなくてもよい。
【0043】
特に、共振領域50は長手方向と短手方向を有し、貫通孔35aおよび35bが長手方向に設けられている。これにより、犠牲層38を効率よく除去できる。しかし、圧電薄膜共振器の長さL0が大きくなる。よって、貫通孔の少なくとも一方を貫通孔35aとすることが好ましい。共振領域50は楕円形状以外に長方形等の長手方向を有する形状であればよい。
【0044】
図6(a)のように、直列共振器S3の貫通孔35aは隣接する他の圧電薄膜共振器である並列共振器P3との間に設けられている。このように、圧電薄膜共振器の間に位置する貫通孔35aを細長くすることで、チップ面積を小さくできる。
【0045】
図6(b)のように、並列共振器P3の貫通孔35aは共振領域50に最も近い基板10の端部と共振領域50との間に設けられている。基板10の端部と共振領域50との間には、他の圧電薄膜共振器は設けられていない。このように、基板10の端部に近い貫通孔35aを細長くすることで、チップ面積を小さくできる。
【0046】
実施例3では、ラダー型フィルタを例に説明した。ラダー型フィルタの直列共振器および並列共振器の個数は適宜設定できる。実施例1から2およびその変形例の圧電薄膜共振器はラダー型フィルタ以外に適用してもよい。