特許第6942005号(P6942005)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 花王株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6942005
(24)【登録日】2021年9月9日
(45)【発行日】2021年9月29日
(54)【発明の名称】吸水性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/14 20060101AFI20210916BHJP
【FI】
   C08L101/14
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-159924(P2017-159924)
(22)【出願日】2017年8月23日
(65)【公開番号】特開2019-38882(P2019-38882A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2020年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】納城 隆一
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−135865(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2018/0318149(US,A1)
【文献】 特開2007−291145(JP,A)
【文献】 特表2002−543243(JP,A)
【文献】 米国特許第06229062(US,B1)
【文献】 特表2010−533051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 5/00−5/59
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機疎水性抗菌剤と、該有機疎水性抗菌剤が溶解可能な有機溶媒と、吸水性樹脂とを有する吸水性樹脂組成物であって、
前記吸水性樹脂の表面に、前記有機疎水性抗菌剤及び前記有機溶媒と、該有機疎水性抗菌剤の気化を抑制するイオン化合物とが存在しており、
前記有機疎水性抗菌剤が、下記式(1)で表される構造を有し、
前記イオン化合物が、前記有機溶媒に溶解可能な双性イオン化合物である吸水性樹脂組成物。
【化1】
【請求項2】
前記イオン化合物のIOB値が、2.0以上である請求項1に記載の吸水性樹脂組成物。
【請求項3】
前記イオン化合物が、トリメチルグリシン及びカルニチンからなる群から選択される1種以上である請求項1又は2に記載の吸水性樹脂組成物。
【請求項4】
前記有機溶媒が、エチレングリコール、プロピレングリコール及びブチレングリコールからなる群から選択される1種以上の親水性有機溶媒である請求項1〜のいずれか1項に記載の吸水性樹脂組成物。
【請求項5】
前記有機疎水性抗菌剤がピロクトンオラミンである請求項1〜のいずれか1項に記載の吸水性樹脂組成物。
【請求項6】
前記吸水性樹脂の表面に無機微粒子が存在している請求項1〜のいずれか1項に記載の吸水性樹脂組成物。
【請求項7】
有機疎水性抗菌剤と、該有機疎水性抗菌剤の気化を抑制するイオン化合物とを、有機溶媒に溶解させて抗菌剤溶液を得、該抗菌剤溶液を吸水性樹脂の表面に付着させる工程を有
前記有機疎水性抗菌剤が、下記式(1)で表される構造を有し、
前記イオン化合物が、前記有機溶媒に溶解可能な双性イオン化合物である吸水性樹脂組成物の製造方法。
【化2】
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の吸水性樹脂組成物を有する吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使い捨ておむつなどの吸収性物品において尿などの体液を吸収する吸収性物質として有用な抗菌性吸水性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
吸水性樹脂は、これを構成する分子鎖の間に水を取り込むため、自重の数百倍もの水を吸収する高い吸水性を有し、また、水を吸収して膨潤したハイドロゲルは圧力がかかっても水を離さないため、高い保水性も有している。このような高吸水性、高保水性を有する吸水性樹脂は、衛生用品分野で、幼児用、大人用、失禁者用の使い捨ておむつや、婦人用の生理用ナプキン等の吸収性物品における吸水性物質として使用されている他、農園芸保水剤等の農園芸分野、止水材、シーリング材等の土木分野、防音材等の建築分野、その他、医療・化粧料分野等、多岐にわたり利用されている。
【0003】
特に吸水性樹脂を用いた衛生用品においては、衛生用品の着用時に生じる着用者の皮膚と糞尿などの排泄物や体液との接触により、皮膚の刺激症状、例えばおむつかぶれなどの炎症が、衛生用品で覆われた身体部分で発生し、さらに不快な悪臭も発生し得る。このような排泄物や体液に起因する種々の不都合を防止する目的で、吸水性樹脂に抗菌機能を付与すること(抗菌化)が行われている。例えば特許文献1には、ヒドロゲル形成吸収ポリマー(吸水性樹脂)及び抗菌剤を含んでなり、該ヒドロゲル形成吸収ポリマーが該抗菌剤でコートされている抗菌性ヒドロゲル形成吸収ポリマーが記載されている。特許文献1記載の抗菌性ヒドロゲル形成吸収ポリマーは、特定の抗菌剤を有機溶媒に溶解させて抗菌剤溶液を得、該抗菌剤溶液をヒドロゲル形成吸収ポリマーの表面に付着させることで製造される。
【0004】
特許文献2には、(メタ)アクリル酸(塩)を主構成単位としてなる架橋重合体粒子(吸水性樹脂)と、表面張力が特定範囲にある表面改質剤と、体積平均粒子径が特定範囲にある水不溶性粒子とを含み、吸収速度及び吸収量に優れる吸収剤が記載され、また、該吸収剤に、塩化ベンザルコニウム塩及びグルコン酸クロルヘキシジンなどの抗菌剤を添加してよい旨も記載されているが、該抗菌剤の添加方法については具体的に記載されていない。また特許文献3には、抗菌剤のコーティングを有する超吸収体の製造方法が記載されており、該製造方法では、超吸収体(吸水性樹脂)と、抗菌剤及びポリオールを有する溶液とを、該超吸収体の表面架橋剤による表面架橋の完成(硬化段階)に先立って接触させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2000−513408号公報
【特許文献2】特開2005−95759号公報
【特許文献3】特表2010−540004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び3に記載の吸水性樹脂の抗菌化方法、即ち、抗菌機能を有する抗菌剤を溶媒に溶解させて抗菌剤溶液を得、該抗菌剤溶液を吸水性樹脂の表面に付着させる方法は、抗菌剤溶液中で抗菌剤が均一に分布しているため、これが付着される吸水性樹脂の表面において抗菌剤の分布が均一になりやすく、また、その吸水性樹脂の表面における抗菌剤の均一分布状態の安定性にも優れるため、吸水性樹脂に優れた抗菌性能を付与することができる。しかしながら、このような抗菌剤溶液を用いた吸水性樹脂の抗菌化方法には、次のような課題があることがわかった。
【0007】
即ち、抗菌剤溶液は、常温常圧で固体の抗菌剤を溶媒に溶解させて調製されるところ、このような有機溶媒に溶解された抗菌剤は、固体の抗菌剤に比して分子間の結合力が弱くて気化しやすく、特に、液体の抗菌剤が加熱される場合にはその傾向が顕著である。そして、吸水性樹脂の抗菌化の過程でこのような抗菌剤の気化が発生すると、抗菌剤の吸水性樹脂への付着量が意図した量よりも少なくなり、吸水性樹脂に十分な抗菌性能を付与できないことになる。また、抗菌剤溶液から気化した抗菌剤が、該抗菌剤と併用される他の剤に付着することによって、該他の剤の性能発現が阻害されるおそれがある。また、抗菌剤溶液から気化した抗菌剤が、吸水性樹脂の抗菌化に供される装置類に付着することによって異物を形成し、装置類の汚染、延いては製品の品質低下を招くおそれがある。
特許文献1〜3には前記課題は記載されていない。抗菌剤溶液を用いた吸水性樹脂の抗菌化方法に固有の前記課題を解決し得る技術は未だ提供されていない。
【0008】
本発明の課題は、抗菌性能に優れる吸水性樹脂組成物を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、吸水性樹脂の表面に抗菌剤溶液を付着させる工程を有する抗菌化方法において、抗菌剤溶液中の抗菌剤の気化を抑制するべく種々検討した結果、抗菌剤溶液中に有機疎水性抗菌剤と、特定の双性イオン化合物とを併存させることで、該双性イオン化合物が、該抗菌剤の抗菌力に実質的に影響を及ぼすことなく、該抗菌剤の気化抑制剤として機能し得ることを知見した。
【0010】
さらに説明すると、本発明者らは、抗菌剤溶液中の抗菌剤の気化を抑制する方法として、抗菌剤溶液中に抗菌剤と、該抗菌剤と結合し得る特定の化合物とを溶解させて両者を結合させ、該抗菌剤の見かけ上の分子量を大きくする方法に注目した。この方法では、抗菌剤と特定の化合物との結合が強いほど抗菌剤の気化抑制効果が高まるが、両者の結合が強すぎると抗菌剤の抗菌力が低下することが懸念される。例えば、有機疎水性抗菌剤として4級アンモニウム化合物を使用し、前記特定の化合物(気化抑制剤)としてアニオン性界面活性剤を使用した場合、両者の結合力は比較的強いため、4級アンモニウム化合物の気化が抑制される一方で、4級アンモニウム化合物の抗菌力が低下するおそれがある。そこで本発明者らは、有機疎水性抗菌剤の抗菌力を低下させない程度の弱い結合力で該抗菌剤と結合し得る化合物を探索した結果、トリメチルグリシン、カルニチンなどのベタインが有効であるとの知見を得た。ベタインは、正電荷と負電荷とを同一分子内の隣り合わない位置に持つ、いわゆる双性イオン化合物の一種であり、抗菌剤溶液中でこれと併用される有機疎水性抗菌剤が例えばヒドロキサム酸誘導体である場合には、該ヒドロキサム酸誘導体におけるアニオン性部位及びカチオン性部位に対し、分子間力による比較的弱い結合(イオン結合)をするため、該ヒドロキサム酸誘導体の抗菌性に実質的な影響を与えることなく、該ヒドロキサム酸誘導体の抗菌剤溶液からの気化が効果的に抑制されるのである。
【0011】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので、有機疎水性抗菌剤と、該有機疎水性抗菌剤が溶解可能な有機溶媒と、吸水性樹脂とを有する吸水性樹脂組成物であって、前記吸水性樹脂の表面に、前記有機疎水性抗菌剤及び前記有機溶媒と、該有機疎水性抗菌剤の気化を抑制するイオン化合物とが存在している吸水性樹脂組成物である。
また本発明は、前記の本発明の吸水性樹脂組成物を有する吸収性物品である。
【0012】
また本発明は、有機疎水性抗菌剤と、該有機疎水性抗菌剤の気化を抑制するイオン化合物とを、有機溶媒に溶解させて抗菌剤溶液を得、該抗菌剤溶液を吸水性樹脂の表面に付着させる工程を有する、吸水性樹脂組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の吸水性樹脂組成物は、抗菌性能及び吸水性能に優れ、衛生的な環境が重視される種々の吸水用途に適用することができる。
また、本発明の吸水性樹脂組成物の製造方法は、吸水性樹脂の表面に抗菌剤溶液を付着させる工程を有しながらも、抗菌剤溶液からの抗菌剤の気化を抑制し、吸水性樹脂に優れた抗菌性能を付与することができるため、本発明の吸水性樹脂組成物を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の吸水性樹脂組成物は、有機疎水性抗菌剤と、該有機疎水性抗菌剤が溶解可能な有機溶媒と、吸水性樹脂とを有し、該有機疎水性抗菌剤及び該有機溶媒は、該吸水性樹脂の表面に付着した状態で存在する。
【0015】
本発明に係る吸水性樹脂としては、水を吸収して膨潤して、水を保持し得る高分子材料が用いられる。そのような高分子材料は当該技術分野において公知である。具体的には、以下のモノマーから選ばれる1種類以上を重合して得られる高分子材料が挙げられる。この高分子材料には、必要に応じて架橋処理を施してもよい。重合方法は、特に限定されるものではなく、逆相懸濁重合法や水溶液重合法などの一般的に知られた吸水性樹脂の種々の方法を採用することができる。その後、この重合体に対して必要に応じて粉砕、分級などの操作を行い、また、必要に応じて表面処理を行う。
【0016】
前記モノマーは、水溶性で、重合性の不飽和基を有するモノマーであることが好ましい。具体的には、オレフィン系不飽和カルボン酸又はその塩、オレフィン系不飽和カルボン酸エステル、オレフィン系不飽和スルホン酸又はその塩、オレフィン系不飽和リン酸又はその塩、オレフィン系不飽和リン酸エステル、オレフィン系不飽和アミン、オレフィン系不飽和アンモニウム塩、オレフィン系不飽和アミドなどの重合性不飽和基を有するビニルモノマーが例示される。
【0017】
前記オレフィン系不飽和カルボン酸又はその塩としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸などの不飽和カルボン酸、これらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0018】
前記オレフィン系不飽和カルボン酸エステルとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0019】
前記オレフィン系不飽和スルホン酸又はその塩としては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸又はその塩等が挙げられる。
【0020】
前記オレフィン系不飽和リン酸又はその塩としては、(メタ)アクリロイル(ポリ)オキシエチレンリン酸エステル又はその塩等が挙げられる。
【0021】
前記オレフィン系不飽和アミンとしては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0022】
前記オレフィン系不飽和アンモニウム塩としては、前記オレフィン系不飽和アミンの4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0023】
前記オレフィン系不飽和アミドとしては、(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド誘導体やビニルメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0024】
前記モノマーの他の具体例としては、ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルピロリジン、N−ビニルアセトアミドなどのノニオン性の親水基含有不飽和モノマーなどが挙げられる。
【0025】
尚、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味し、(メタ)アクリルアミドとは、アクリルアミド又はメタクリルアミドを意味し、(メタ)アクリロイルとはアクリロイル又はメタクリロイルを意味する。
【0026】
本発明に係る吸水性樹脂の具体例としては、デンプンや架橋カルボキシルメチル化セルロース、アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩の重合体又は共重合体等、ポリアクリル酸及びその塩並びにポリアクリル酸塩グラフト重合体を挙げることができる。ポリアクリル酸塩としては、ナトリウム塩を好ましく用いることができる。また、アクリル酸にマレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート又はスチレンスルホン酸等のコモノマーを吸水性樹脂の性能を低下させない範囲で共重合させた共重合体も好ましく使用し得る。
【0027】
本発明に係る吸水性樹脂の形状は特に制限されず、例えば、球状、塊状、ブドウの房状、繊維状など、いずれの形状も用いることができる。吸水性樹脂の平均粒子径は、好ましくは10μm以上、さらに好ましくは100μm以上、そして、好ましくは1000μm以下、さらに好ましくは800μm以下である。
【0028】
本発明に係る有機疎水性抗菌剤は、有機化合物であり有機抗菌剤である。抗菌剤には、有機抗菌剤の他に、酸化亜鉛や銀含有抗菌剤等の無機抗菌剤があるが、有機抗菌剤は無機抗菌剤に比べて抗菌効果が高いため、本発明では有機抗菌剤を採用している。
【0029】
また、本発明に係る有機疎水性抗菌剤は、疎水性である。抗菌剤には、疎水性抗菌剤の他に、親水性抗菌剤があるが、疎水性抗菌剤は親水性抗菌剤に比べて皮膚刺激性が低いため、本発明では疎水性抗菌剤を採用している。親水性抗菌剤は、親水性であるが故に皮膚に浸透しやすく、そのことに起因して皮膚に刺激を与えやすい。これとは対照的に、疎水性抗菌剤は、疎水性であるが故に皮膚に浸透しづらく、皮膚に刺激を与えづらい。
【0030】
また疎水性抗菌剤は、親水性抗菌剤に比べて尿などの排泄物との親和性が低いため、吸水性樹脂の表面に付着した状態で排泄物と接触した場合に、該表面を離れて該排泄物中へ移行する量が親水性抗菌剤のそれに比べて少ない。そのため、吸水性樹脂の表面に疎水性抗菌剤が存在する構成を有する本発明の吸水性樹脂組成物は、該疎水性抗菌剤による高い抗菌効果を比較的長期間にわたって安定的に維持することができ、例えば、使い捨ておむつにおける着用者の排尿部近傍に配置され、着用者の排尿回数が多数回に及ぶような場合でも、高い抗菌効果を長期にわたって持続し得る。
【0031】
本発明に係る有機疎水性抗菌剤が備えるべき「疎水性」は、水と混合した場合に水と完全に分離するような強い疎水性ではなく、一部は水に溶解するが大部分は水に溶解しない程度の疎水性(水難溶性)であることが好ましい。より具体的には、本発明で用いる有機疎水性抗菌剤は、25℃の水に対する溶解度が好ましくは1g以下、さらに好ましくは0.5g以下、一層好ましくは0.1g以下である。抗菌剤の溶解度は次の方法によって測定することができる。25℃の純水100gに対して、十分乾燥させた抗菌剤を投入し、スターラー又は振とう機で撹拌して溶解させ、1時間撹拌しても溶解できなくなるまでの累積の投入量を、当該抗菌剤の25℃の水に対する溶解度とする。
【0032】
本発明に係る有機疎水性抗菌剤の好ましい一例として、下記式(1)で表される構造を有するものが挙げられる。下記式(1)で表される構造を有する有機疎水性抗菌剤は、ヒドロキサム酸誘導体の一種である。本発明に係る有機疎水性抗菌剤としては、ヒドロキサム酸誘導体からなる群から選択される1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ここでいう「ヒドロキサム酸誘導体からなる群」には、ヒドロキサム酸誘導体の下位概念である環状ヒドロキサム酸誘導体、さらにその下位概念であるピロクトン、さらにその下位概念であるピロクトンオラミン(ピロクトンエタノールアミン)が包含される。
【0033】
【化1】
【0034】
前記式(1)で表される有機疎水性抗菌剤において、Rにおける炭素数は、1以上であることが好ましく、3以上であることがさらに好ましく、6以上であることが一層さらに好ましく、また30以下であることが好ましく、24以下であることがさらに好ましく、22以下であることが一層さらに好ましい。具体的には、1以上30以下であることが好ましく、3以上24以下であることがさらに好ましく、6以上22以下であることが一層さらに好ましい。
【0035】
前記式(1)で表される有機疎水性抗菌剤において、Rがシクロアルキル基である場合、該基における炭素数は、6以上であることが好ましく、7以上であることがさらに好ましく、また30以下であることが好ましく、24以下であることがさらに好ましい。具体的には、6以上30以下であることが好ましく、7以上24以下であることがさらに好ましい。
【0036】
前記式(1)で表される有機疎水性抗菌剤において、Rがアリール基である場合、該基は、フェニル基、炭素数1〜18のアルキル基で置換されたフェニル基、ベンジル基、炭素数1以上18以下のアルキル基で置換されたベンジル基、炭素数7以上24以下のフェノキシアルキル基であることが好ましい。
【0037】
前記式(1)で表される有機疎水性抗菌剤において、Rがアルキルアルキレンオキサイド基である場合、該基におけるアルキル基の炭素数は、6以上であることがさらに好ましく、また24以下であることが好ましく、22以下であることがさらに好ましい。具体的には、6以上24以下であることが好ましく、6以上22以下であることがさらに好ましい。アルキルアルキレンオキサイド基におけるアルキレン基の炭素数は、2以上であることがさらに好ましく、また6以下であることが好ましく、4以下であることがさらに好ましい。具体的には、2以上6以下であることが好ましく、2以上4以下であることがさらに好ましい。
【0038】
前記式(1)で表される有機疎水性抗菌剤において、Rにおける炭素数は、1以上であることが好ましく、また6以下であることが好ましく、4以下であることがさらに好ましい。具体的には、1以上6以下であることが好ましく、1以上4以下であることがさらに好ましい。
【0039】
前記式(1)で表される有機疎水性抗菌剤において、Rがシクロアルキル基である場合、該基はシクロペンチル基、シクロヘキシル基であることがさらに好ましい。
【0040】
前記式(1)で表される有機疎水性抗菌剤において、X+がアルカリ金属イオンである場合、その例としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンが挙げられる。X+がアルカリ土類金属イオンである場合、その例としては、マグネシウムイオン、カルシウムイオン及びストロンチウムイオンが挙げられる。X+が2価以上4価以下のカチオンである場合、その例としては、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N置換エタノールアミン、N置換ジエタノールアミン、トリスヒドロキシアミノメタン、グアニジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン等のアミンのプロトン塩(アミンにH+が付加したもの)が挙げられる。
【0041】
前記式(1)で表される有機疎水性抗菌剤の具体例としては、1−ヒドロキシ−4−メチル−6−(2,4,4−トリメチルペンチル)−2(1H)−ピリドン モノエタノールアミン塩〔1-Hydroxy-4-methyl-6-(2,4,4-trimethyl-pentyl)-2(1H)-pyridone; combination with 2-aminoethanol(1:1)〕(CAS登録番号68890−66−4、別名ピロクトンオラミン)が挙げられる。この抗菌剤は下記式(1A)で表され、クラリアント社により商品名オクトピロックスとして販売されている
【0042】
【化2】
【0043】
本発明に係る有機溶媒は、前述したヒドロキサム酸誘導体などの有機疎水性抗菌剤が溶解可能であることが必要である。有機溶媒の斯かる特性により、有機疎水性抗菌剤が有機溶媒に溶解した形態で吸水性樹脂の表面に存在することが可能となる。本発明の吸水性樹脂組成物は、典型的には後述するように、有機疎水性抗菌剤を有機溶媒に溶解させて得た抗菌剤溶液を、吸水性樹脂の表面に付着させる工程を経て製造され、有機疎水性抗菌剤は有機溶媒に溶解された状態で吸水性樹脂の表面に付着している。そして、有機疎水性抗菌剤がそのような状態で吸水性樹脂の表面に存在することで、有機疎水性抗菌剤の吸水性樹脂の表面における分布が均一なものとなり、また、その有機疎水性抗菌剤の均一な分布状態の安定性が向上し、結果として、吸水性樹脂に優れた抗菌性能を付与することができる。このような作用効果をより確実に奏させるようにする観点から、少なくとも抗菌剤溶液を吸水性樹脂表面に付着させる工程においては、前記抗菌剤溶液は、有機疎水性抗菌剤を完全溶解している溶液であることが好ましい。未溶解の有機疎水性抗菌剤が抗菌剤溶液に存在している場合には、有機疎水性抗菌剤が吸水性樹脂の表面に不均一に付着してしまうおそれがある。一方、抗菌剤溶液が均一に塗工された後の温度変化などによる抗菌剤の一部析出は作用効果への影響が小さい。
【0044】
本発明に係る有機溶媒が有機疎水性抗菌剤を溶解し得るものであるために、本発明に係る有機溶媒は25℃において液体のものであることが好ましい。
【0045】
また、吸水性樹脂の表面における有機疎水性抗菌剤の分布を均一なものとする観点から、本発明に係る有機溶媒は、有機疎水性抗菌剤の溶解濃度が好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、一層好ましくは15質量%以上であると有利である。ここで、溶解濃度がX質量%であるとは、100gの有機溶媒に対してXg以上の有機疎水性抗菌剤が溶解することをいう。有機疎水性抗菌剤の溶解濃度が温度に依存して変化する場合には、有機疎水性抗菌剤を有機溶媒に溶解させてなる抗菌剤溶液を吸水性樹脂と混合するときの温度における溶解濃度が、前記範囲にあることが好ましい。
【0046】
有機疎水性抗菌剤の溶解性を十分に確保する観点から、本発明に係る有機溶媒は、その溶解度パラメータが12以上であることが好ましく、13以上であることがさらに好ましく、13.5以上であることが一層好ましく、14以上であることがさらに一層好ましい。また溶解度パラメータは28以下であることが好ましく、27以下であることがさらに好ましく、26以下であることが一層好ましく、25以下であることがさらに一層好ましい。溶解度パラメータとは、Fedorsの方法[R.F.Fedors, Polym.Eng. Sci., 14, 147(1974)]により計算され、単位は(cal/cm31/2で表されるものである。溶解度パラメータは、有機疎水性抗菌剤と有機溶媒との親和性を表す指標の一つであり、この値が近いほど両者の相溶性が高いことを示す。
【0047】
有機溶媒の溶解度パラメータδは次式で求められる。
δ=(ΔE/V)1/2 (cal/cm31/2
式中、ΔEは蒸発エネルギーを表し、Vはモル体積を表す。
【0048】
2種類以上の有機溶媒を用いる場合には、以下に示す混合物の溶解度パラメータδmixが、前述の値以上であることが好ましい。
δmix=Σδiφi (cal/cm31/2
式中、δiは混合物を構成する各有機溶媒の溶解度パラメータを表し、φはその成分の体積分率を表す。
【0049】
本発明に係る有機溶媒は、揮発性が低いことが好ましい。揮発性の高い有機溶媒を用いると、吸水性樹脂組成物の製造過程において有機溶媒が揮発することがあるので、製造設備に排気装置を付設する必要が生じてしまう。これに対して揮発性の低い有機溶媒を用いれば、そのような装置の付設は不要である。また揮発性の高い有機溶媒は、引火や爆発のおそれがあることから、製造装置に防爆装置を付設する必要があるが、揮発性の低い有機溶媒を用いれば、そのような装置の付設も不要である。このように、揮発性の低い有機溶媒を用いることで、抗菌剤溶液と吸水性樹脂とを混合した後、有機溶媒を吸水性樹脂組成物中に残留させたままにしておくことができる。
【0050】
以上の観点から、本発明に係る有機溶媒は、25℃における蒸気圧が30Pa以下であることが好ましく、20Pa以下であることがさらに好ましく、15Pa以下であることが一層好ましく、10Pa以下であることがさらに一層好ましい。
【0051】
本発明に係る有機溶媒として用いられる好ましい化合物としては、例えば二価アルコール(ジオール)、三価アルコール(トリオール)及び四価以上のアルコールなどの多価アルコールのような水溶性有機溶媒が挙げられる。これら多価アルコールにおけるアルキル基の炭素数は、2以上であることが好ましい。また、アルキル基の炭素数は、18以下であることが好ましく、10以下であることがさらに好ましく、4以下であることが一層好ましい。具体的には、アルキル基の炭素数は、2以上18以下であることが好ましく、2以上10以下であることがさらに好ましく、2以上4以下であることが一層好ましい。
【0052】
本発明に係る有機溶媒としては、特に多価アルコールのうち、炭素数が2以上4以下である低級二価アルコールを用いることが好ましい。具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール及びブチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性有機溶媒を用いることが好ましい。これらの親水性有機溶媒は、人体に対する安全性が高く、悪臭を生じることがなく、除去工程が不要であり、引火や爆発のおそれが低いからである。プロピレングリコールとしては、1,2−プロピレングリコール及び1,3−プロピレングリコールを用いることができる。ブチレングリコールとしては、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール及び2,3−ブチレングリコールを用いることができる。
【0053】
前述した通り、本発明の吸水性樹脂組成物においては、吸水性樹脂の表面に、有機疎水性抗菌剤及び有機溶媒が存在し、典型的には、有機疎水性抗菌剤が有機溶媒に溶解した抗菌剤溶液が吸水性樹脂の表面に付着している。そして本発明の吸水性樹脂組成物は、斯かる構成を有することにより、特に、吸水性樹脂の表面に有機疎水性抗菌剤が均一に存在することに起因して優れた抗菌性能を発揮し、また、有機疎水性抗菌剤が疎水性であることに起因してその優れた抗菌性能を長期間安定的に発揮し得る。しかしその一方で、本発明の吸水性樹脂組成物においては、吸水性樹脂の表面に有機溶媒に溶解された状態で存在している有機疎水性抗菌剤の気化が懸念される。
【0054】
本発明の吸水性樹脂組成物の主たる特徴の1つとして、吸水性樹脂の表面に、有機疎水性抗菌剤及び有機溶媒と、該有機疎水性抗菌剤の気化を抑制するイオン化合物とが存在している点が挙げられる。この有機疎水性抗菌剤の気化抑制剤として機能するイオン化合物は、有機疎水性抗菌剤と結合することで該抗菌剤の見かけ上の分子量を増加させて該抗菌剤の気化を抑制する。本発明の吸水性樹脂組成物は、斯かる特徴的な構成により、有機疎水性抗菌剤が有機溶媒に溶解した状態で吸水性樹脂の表面に存在することに起因するデメリット(有機疎水性抗菌剤の気化)を効果的に回避しつつ、そのメリット(有機疎水性抗菌剤の吸水性樹脂の表面での均一分布による優れた抗菌性能の発現など)を享受することができる。
【0055】
本発明に係るイオン化合物、即ち有機疎水性抗菌剤の気化抑制剤の好ましい一例として、有機疎水性抗菌剤と併用される有機溶媒に溶解可能な双性イオン化合物が挙げられる。双性イオン化合物は、分子内にカチオン中心とアニオン中心とを持ち、全体では中性である化合物又はイオンである。双性イオン化合物は、これと併用されるヒドロキサム酸誘導体などの有機疎水性抗菌剤と、分子間力による比較的弱い結合(イオン結合)をするため、有機疎水性抗菌剤の抗菌性能に実質的に影響を与えることなく、有機疎水性抗菌剤の気化を効果的に抑制することができる。有機疎水性抗菌剤とその気化抑制剤として機能し得る化合物との結合力が強すぎると、有機疎水性抗菌剤の抗菌性能が低下するおそれがある。
【0056】
前記双性イオン化合物としては、水と混合したときに双性イオンを生成する化合物を用いることができ、例えば、トリメチルグリシン、カルニチン、ラウリルベタイン、ラウリルアミンオキサイド等のベタイン;グリシン、アラニン等のアミノ酸等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
前記双性イオン化合物は、抗菌剤の水への可溶化抑制の観点から、IOB値が2.0以上であることが好ましい。双性イオン化合物のIOB値が低すぎる(即ち無機性よりも有機性が強い)と、界面活性の作用により抗菌剤が水に溶けすぎるおそれがある。また、IOB値は5.5以下であることが好ましい。IOBとは、Inorganic/Organic Balance(無機性/有機性比)の略であって、IOB値は化合物の有機値に対する化合物の無機値の比に対応する値であり、有機化合物の極性の度合いを示す指標である。具体的には、IOB値=無機性値/有機性値として表される。
【0058】
ここで、「無機性値」、「有機性値」のそれぞれについては、例えば、分子中の炭素原子1個について「有機性値」が20、同水酸基1個について「無機性値」が100といったように、各種原子又は官能基に応じた「無機性値」、「有機性値」が設定されており(下記表1参照)、有機化合物中の全ての原子及び官能基の「無機性値」、「有機性値」を積算することによって、当該有機化合物のIOB値が算出される(例えば、甲田善生 著、「有機概念図―基礎と応用―」11頁〜17頁、三共出版 1984年発行 参照)。本発明においては、これらの有機性値及び無機性値に基づき、前記双性イオン化合物のIOB値を決定する。
【0059】
【表1】
【0060】
本発明に係るイオン化合物として特に好ましいものは、前記双性イオン化合物の一種であるトリメチルグリシン及びカルニチンである。トリメチルグリシンのIOB値は4.60、カルニチンのIOB値は4.00である。
【0061】
本発明の吸水性樹脂組成物において、有機疎水性抗菌剤の含有量は、該吸水性樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上、そして、好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。有機疎水性抗菌剤の含有量が少なすぎると、十分な抗菌効果が得られず、有機疎水性抗菌剤の含有量が多すぎると、例えば、これを含有する吸水性樹脂組成物を使い捨ておむつなどの吸収性物品に適用した場合に、有機疎水性抗菌剤が尿などの排泄物中に分散あるいは溶解した後、液戻り現象などによって着用者の肌に付着すると、かぶれなどの肌トラブルに繋がるおそれがある。
【0062】
また、本発明の吸水性樹脂組成物において、有機溶媒の含有量は、該吸水性樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは0.02質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上、そして、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。有機溶媒の含有量が少なすぎると、有機疎水性抗菌剤が溶解し得る媒体が過少になることから、吸水性樹脂の表面において有機疎水性抗菌剤が均一に分布することが困難となって、抗菌性能が低下するおそれがある。
【0063】
また、本発明の吸水性樹脂組成物において、有機疎水性抗菌剤の気化抑制剤として機能するイオン化合物(好ましくは双性イオン化合物)の含有量は、該吸水性樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上、そして、好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。イオン化合物の含有量が少なすぎると、有機疎水性抗菌剤の気化を十分に抑制できないためにこれに起因する不都合(抗菌性能の低下、併用される他の剤の性能発現の阻害、製造ラインの汚染など)が生じやすくなるおそれがあり、イオン化合物の含有量が多すぎると、吸水性樹脂の吸水物性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0064】
前述したイオン化合物(双性イオン化合物)による有機疎水性抗菌剤の気化抑制をより一層確実にする観点から、本発明の吸水性樹脂組成物においては、吸水性樹脂の表面に、有機溶媒、有機疎水性抗菌剤及びイオン化合物と共に、無機微粒子が存在していることが好ましい。無機微粒子としては、例えば、シリカ微粒子、酸化ジルコニア、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化亜鉛、金等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
前記の無機微粒子の中でも特に、シラノール基を有する無機微粒子、具体的には例えばシリカ微粒子は、有機疎水性抗菌剤の気化を抑制する効果に優れるため、本発明で好ましく用いられる。シラノール基を有する無機微粒子が有機疎水性抗菌剤の気化を抑制するメカニズムは定かではないが、例えば、有機疎水性抗菌剤が、前記式(1)で表される有機化合物であって且つ前記式(1)におけるX+がアンモニウムイオンである場合(前記式(1)で表される有機化合物がピロクトンオラミンである場合)、無機微粒子が有するシラノール基がこのアンモニウムイオンと容易に結合し、該有機疎水性抗菌剤の見かけ上の分子量を増加させてその気化を抑制するものと推察される。従って本発明の吸水性樹脂組成物においては、有機疎水性抗菌剤としてピロクトンオラミンを用い、さらにシリカ微粒子の如き、シラノール基を有する無機微粒子を併用することが好ましい。
【0066】
前記シリカ微粒子としては、合成非晶質シリカが好ましい。合成非晶質シリカは、乾式法によって製造されるものと、湿式法によって製造されるものとに大別され、前者には乾式シリカがあり、後者には湿式シリカ、シリカゲル、コロイダルシリカがあるが、シリカを吸水性樹脂に均一に付着させる観点から、特に好ましいものは乾式シリカである。乾式シリカとしては、例えば、日本エアロジル株式会社より商品名アエロジルとして販売されているものが好ましく用いられる。
【0067】
前記無機微粒子(シリカ微粒子)の平均一次粒子径は、取り扱い性及び吸水性樹脂への付着性の観点から、好ましくは5nm以上、さらに好ましくは10nm以上、そして、好ましくは500nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。無機微粒子の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡による100個以上の粒子の観察によって測定されるFeret径の相加平均値である。
【0068】
本発明の吸水性樹脂組成物において、前記無機微粒子(シリカ微粒子)の含有量は、該吸水性樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上、そして、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。無機微粒子の含有量が少なすぎると、これを使用する意義に乏しく、無機微粒子の含有量が多すぎると、無機微粒子が吸水性樹脂組成物より脱落しやすくなり脱落物によるトラブルのおそれがある。
【0069】
尚、吸水性樹脂組成物に含まれる有機疎水性抗菌剤、有機溶媒及び無機微粒子の含有量はそれぞれ以下の方法で測定される。即ち、有機疎水性抗菌剤及び有機溶媒は、エタノールやメタノール等の溶媒で抽出して、液体クロマトグラフィー等をはじめとする、各剤の構造に応じて測定しやすい測定方法を用いて割合を測定する。無機微粒子の割合の測定は、吸水性樹脂のまま行い、エネルギー分散型X線分光法(EDX)又はX線電子分光法(ESCA)によって吸水性樹脂組成物の金属原子量を、定量分析することによって測定する。
【0070】
本発明の吸水性樹脂組成物は、有機疎水性抗菌剤と、イオン化合物(好ましくは双性イオン化合物)とを、有機溶媒に溶解させて抗菌剤溶液を得、該抗菌剤溶液を吸水性樹脂の表面に付着させる工程を経て製造される。
【0071】
前記抗菌剤溶液における有機疎水性抗菌剤の濃度は、有機疎水性抗菌剤を吸水性樹脂に均一に付着させる観点から、好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、そして、好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0072】
また、前記抗菌剤溶液におけるイオン化合物の濃度は、イオン化合物による有機疎水性抗菌剤の気化をより確実に抑制する観点から、好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、そして、好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0073】
前記抗菌剤溶液を吸水性樹脂の表面に付着させる方法は特に限定されない。典型的には、吸水性樹脂に前記抗菌剤溶液を添加し、両者を混合する方法が採用される。
【0074】
また前述したように、有機溶媒並びに有機疎水性抗菌剤及びイオン化合物に加えてさらに無機微粒子(好ましくはシリカ微粒子)を用いる場合は、前記抗菌剤溶液と混合後の吸水性樹脂に無機微粒子を添加してもよく、逆に無機微粒子に、前記抗菌剤溶液と混合後の吸水性樹脂を添加してもよい。あるいは、無機微粒子と、前記抗菌剤溶液と混合後の吸水性樹脂とを同時に混合してもよい。
【0075】
前述した吸水性樹脂組成物の製造方法によれば、吸水性樹脂の表面に、少なくとも有機疎水性抗菌剤及びこれに結合するイオン化合物(好ましくは双性イオン化合物)が付着した状態の吸水性樹脂組成物が得られ、場合によっては有機疎水性抗菌剤及びイオン化合物と有機溶媒とが付着した状態の吸水性樹脂組成物が得られる。この吸水性樹脂組成物においては、有機疎水性抗菌剤の疎水性に起因にして、少なくとも該抗菌剤及びイオン化合物が、吸水性樹脂の表面に不連続に付着した状態となり、場合によっては該抗菌剤及びイオン化合物と有機溶媒とが、吸水性樹脂の表面に不連続に付着した状態となる。換言すれば、吸水性樹脂の表面を海としたとき、少なくとも有機疎水性抗菌剤及びこれに結合するイオン化合物が、海の中に島状に点在した状態で存在しており、場合によっては該抗菌剤及びイオン化合物と有機溶媒とが、海の中に島状に点在した状態で存在している。このような状態で有機疎水性抗菌剤及びイオン化合物が吸水性樹脂の表面の少なくとも一部を被覆していることで、吸水性樹脂組成物はその流動性が一層向上する。この流動性の向上効果を一層顕著なものとする観点から、吸水性樹脂の表面を被覆する有機疎水性抗菌剤の被覆率は、5%以上であることが好ましく、7%以上であることがさらに好ましく、15%以上であることが一層好ましい。また、有機疎水性抗菌剤の被覆率は、40%以下であることが好ましく、30%以下であることがさらに好ましく、25%以下であることが一層好ましい。
【0076】
吸水性樹脂の表面を被覆する抗菌剤の被覆率は、X線電子分光法(ESCA)によって測定することができる。具体的な測定方法は以下の通りである。吸収性物品の構成部材を接合する接着剤の接着力をコールドスプレーによって弱め、丁寧に剥がすことによって吸収体を取り出す。目開き1mm〜5mmの篩を用い、吸収体から吸水性樹脂を大まかに取り出す。さらに振動によってパルプと吸水性樹脂を分離し、吸水性樹脂のみを取り出す。サンプル台に両面接着カーボンテープで吸水性樹脂を均一に隙間なく固定する。このとき、吸水性樹脂の表面が平坦になるようにする。測定装置はPHI Quantera SXM(ULVAC―PHI Inc.)を用いる。測定条件は、X線源が単色化AlKα線 1486.6eV,25W,15kV、ビーム系については500μm×500μm、Pass energyは280.OeV(survey)112.0eV(narrow)、Stepは1.00eV(survey) 0.20eV(narrow)、帯電補正はNewtralizer及びAr+照射、光電子取り出し角度は45degree、検出元素はC1s(15)、N1s(50)、01s(10)、Na1s(15)、Si2p(20)、結合エネルギー位置の補正は炭素のCHに由来するC1s284.8cVで行う。被覆率は、下記の式により計算する。
抗菌剤の被覆率=抗菌剤処理後の「Na」の表面元素濃度の減少量/未処理(母体吸水性樹脂)の「Na」の表面元素濃度。
【0077】
本発明の吸水性樹脂組成物は、吸収性物品に好適に用いられる。吸収性物品は、身体から排出される液の吸収に好適に用いられる物品である。吸収性物品は、本発明の吸水性樹脂組成物を有することによって、高い抗菌性能を有し、不快な悪臭や皮膚の刺激症状等の排泄物に起因する不都合を起こし難いものとなり、且つ尿等の排泄物の吸収性能にも優れ、排泄物の漏れを起こし難いものとなる。
【0078】
吸収性物品における吸水性樹脂組成物の含有形態としては、例えば、(1)層状に配置されたパルプ、熱融着性繊維等の繊維状物の層の間に吸水性樹脂組成物粒子を散粒する形態、(2)パルプ、熱融着性繊維等の繊維状物と混合する形態、(3)2枚以上の吸水シートや不織布でサンドイッチ様に挟んだ形態等が挙げられる。吸収性物品中における吸水性樹脂組成物の含有量は、吸収性物品の種類やサイズ、目標とする吸収性能に応じて適宜決定することができる。
【0079】
本発明の吸水性樹脂組成物を有する吸収性物品は、典型的には、着用時に着用者の肌と接触し得る液透過性の表面シートと、液不透過性ないし撥水性の裏面シートと、これら両シート間に介在配置された液保持性の吸収体とを具備している。表面シートとしては、各種の不織布又は多孔質の合成樹脂シート等を用いることができ、裏面シートとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等からなる合成樹脂フィルム、又は合成樹脂フィルムと不織布との複合材料等を用いることができる。吸収性物品はさらに、該吸収性物品の具体的な用途に応じた各種部材を具備していてもよい。そのような部材は当業者に公知である。例えば吸収性物品を使い捨ておむつや生理用ナプキンに適用する場合には、表面シート上の左右両側部に一対又は二対以上の立体ガードを配置することができる。
【0080】
吸収性物品における吸収体としては、例えば、パルプ繊維等の繊維材料からなる繊維集合体に、本発明の吸水性樹脂組成物を保持させた吸収性コアを用いることができる。吸収性コアは、ティッシュペーパーや不織布等の透水性の被覆シートで被覆されていてもよい。吸収体の別の例として、本発明の吸水性樹脂組成物を含む吸収性シートを有するものが挙げられる。この場合の吸収体は、例えば、1枚の該吸収性シートの折り畳み構造、又は複数枚の該吸収性シートの積層構造を有している。この吸収性シートとしては、湿潤状態の吸水性樹脂組成物に生じる粘着力や別に添加した接着剤や接着性繊維等のバインダーを介して、構成繊維間や構成繊維と吸水性樹脂組成物との間を結合させてシート状としたもの等を用いることができる。吸収性シートとして好適なものとしては、パルプ繊維の集合体に吸水性樹脂組成物を固定させたもの、エアレイド法で製造された乾式パルプシート、2枚の不織布間に粒子状の吸水性樹脂組成物を散布したものが挙げられる。
【0081】
本発明の吸水性樹脂組成物を有する吸収性物品は、人体から排出される体液、例えば尿、経血、軟便、汗等の吸収に用いられる物品を広く包含し、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、生理用ショーツ等が包含される。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
【0083】
〔実施例1〕
(1)抗菌剤溶液の調製
下記表2に示す有機疎水性抗菌剤、添加剤(気化抑制剤)及び有機溶媒を用いて抗菌剤溶液を調製した。有機疎水性抗菌剤は、ピロクトンオラミンとしてクラリアント社 商品名「オクトピロックス」を使用した。添加剤及び有機溶媒は、下記のものを用いた。
80℃以上で有機疎水性抗菌剤及び添加剤を有機溶媒に完全溶解した後、室温(25℃)まで放冷した。抗菌剤溶液における有機疎水性抗菌剤及び添加剤の濃度はそれぞれ下記表2に示す通りであり、有機疎水性抗菌剤及び添加剤は有機溶媒に完全溶解していた。
(2)吸水性樹脂の準備
吸水性樹脂として、日本触媒株式会社製、商品名「アクアリックCA」を用いた。
(3)吸水性樹脂と抗菌剤溶液との混合
吸水性樹脂に抗菌剤溶液を添加し、両者を混合することで、吸水性樹脂組成物を得た。混合後には、有機溶媒の除去操作は行わなかった。
【0084】
(実施例及び比較例で使用した添加剤)
・トリメチルグリシン:和光純薬工業株式会社製(品名:Betaine)
・カルニチン:東京化成工業株式会社製(品名:L-Carnitine)
・ポリオキシエチレンラウリルエーテル:花王株式会社製(品名:エマルゲン109P)
・ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油:花王株式会社製(品名:エマノーン60H)
・ドデシルベンゼンスルホン酸Na:関東株式会社製
・ドデシル硫酸Na:花王株式会社製(品名:エマール10PT)
(実施例及び比較例で使用した有機溶媒)
・エチレングリコール:ダウ・ケミカル日本株式会社製
・プロピレングリコール:ダウ・ケミカル日本株式会社製
【0085】
〔実施例2〜8及び比較例1〜8〕
下記表2及び表3に示す条件を採用する以外は、実施例1と同様にして吸水性樹脂組成物を得た。比較例1は、吸水性樹脂の抗菌化を行わなかった。
【0086】
〔評価〕
各実施例及び比較例の吸水性樹脂組成物について、抗菌剤残留量、抗菌性、気化抑制性(気化量、製造現場での異物形成)をそれぞれ下記方法により評価した。結果を下記表2及び表3に示す。
【0087】
<抗菌剤残留量の評価>
測定試料である吸水性樹脂組成物5.00gを精秤し、直径90mmのステンレス製シャーレに入れ、該シャーレ中の吸水性樹脂組成物の集合体の表面を均一に整えた後、該シャーレを、槽内温度75℃に設定された恒温漕(ヤマト科学株式会社DN63)に30分間静置した。その後、恒温槽からシャーレを取り出して測定試料を1.0g量り取り、別途用意した40mlのメタノールと共に、容量50mlのスクリュー管に入れて、超音波による抽出操作を60分間行い、その抽出液を厚み0.45μmのフィルター(関東化学株式会社製、HLC−DISK25溶媒系)でろ過してろ液を得た。そして、得られたろ液を用いて、紫外線分光光度計の抗菌剤ピーク強度による定量分析を行い、抗菌剤残留量を測定した。抗菌剤残留量の数値が大きいほど、吸水性樹脂組成物における抗菌剤の気化抑制効果が高いと判断され、高評価となる。
また併せて、各実施例の吸水性樹脂組成物について、添加剤(気化抑制剤)を含有しない点でのみ相違する比較例(比較例2、3又は4)をコントロール(無添加品)として、無添加品の抗菌剤残留量に対する各実施例の抗菌剤残留量の比率(抗菌剤残留比率)を算出した。
【0088】
<抗菌性の評価>
測定試料である吸水性樹脂組成物1.0gと人尿10gとを内径50mmの秤量ビンに入れて混合し、その混合物の臭いについて、5人のモニターに下記評価基準に従って評価してもらった。5人のモニターの評価点の平均値を当該測定試料の評価点とした。
(臭いの評価基準)
0:においが無い。
1:においが有る。
2:尿特有のにおいがわかる。
3:尿特有のにおいが楽にわかる。
4:尿特有のにおいが強くわかる。
5:尿特有のにおいが激しくわかる。
臭いの基準の3を超えると硫黄臭が混じり腐敗を感じさせる臭いとなる。
【0089】
<気化抑制性の評価>
測定試料である吸水性樹脂組成物の気化抑制性、即ち吸水性樹脂組成物あるいはこれを用いた吸収性物品の製造時における抗菌剤溶液中の抗菌剤の気化のしにくさを、「気化量」と「製造現場での異物形成」との2つの指標で評価した。
気化量は、吸水性樹脂組成物における抗菌剤の含有量から抗菌剤残留量を差し引くことで算出した。気化量の数値が大きいほど、吸水性樹脂組成物における抗菌剤の気化抑制効果が高いと判断され、高評価となる。
製造現場での異物形成については、吸水性樹脂組成物及び吸収性物品の製造に使用した装置類の表面などを目視観察し、異物の形成が認められなかった場合を○(気化抑制性が高い)、異物の形成が認められた場合を×とした。
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
表2に示す通り、各実施例は無添加品(表2中の比較例)に対する抗菌剤残留比率が1を超えており、この結果から、各実施例が気化抑制効果を発現し得るものであることがわかる。即ち、各実施例で使用した添加剤は、これと併用される抗菌剤の気化抑制に有用であることがわかる。有機疎水性抗菌剤の気化を抑制するとは、添加剤無添加品に対する添加品の抗菌剤残留比率が1.0を超え、好ましくは1.1以上であることをいう。
また、表3に示す通り、各実施例は抗菌性と気化抑制性とが高いレベルで両立されていた。これに対し、吸水性樹脂の抗菌化を実施した比較例2及び5〜8は、抗菌性と気化抑制性との両立ができておらず、この結果から、比較例5〜8で使用した添加剤では、本発明の所定の効果が奏されないことがわかる。