(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6942306
(24)【登録日】2021年9月10日
(45)【発行日】2021年9月29日
(54)【発明の名称】水熱炭化反応を行う方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20210916BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20210916BHJP
C10L 5/44 20060101ALI20210916BHJP
【FI】
C01B32/05
B01J19/00 301E
C10L5/44
【請求項の数】7
【外国語出願】
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2018-26900(P2018-26900)
(22)【出願日】2018年2月19日
(65)【公開番号】特開2018-150225(P2018-150225A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2020年4月23日
(31)【優先権主張番号】17156932.0
(32)【優先日】2017年2月20日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518058306
【氏名又は名称】エイチ・ティー・サイクル アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】HTCycle AG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ステパン ニコリア クッシェ
【審査官】
中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2015/0259209(US,A1)
【文献】
独国特許発明第102014215807(DE,B3)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0056125(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
C10L 5/00−7/04;9/00−11/08
B01J 19/00−19/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水熱炭化反応を行う方法であって、反応槽にバイオマスを供給し、蒸気の導入により水熱炭化反応の進行に必要な圧力および温度に関する反応条件を整え、かつ前記反応条件を反応期間にわたって保持する方法において、前記反応期間中に、前記導入された蒸気および前記バイオマスからスラリーが生じ、該スラリーを、そのpH値の推移(2)に関してモニタリングし、前記pH値が上昇段階の後に低下したことを確認したら直ちに前記反応を終了させることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記反応槽に組み込まれている少なくとも1つの測定プローブを用いて連続的に、または非連続的な時間区分で、前記スラリーのpH値の推移(2)を求め、該pH値をデータベースに記録し、現在のpH値と、前記反応期間内での同一の測定系列による先行する測定値とをプロセス制御部により比較して、前記pH値が上昇段階の後に低下したら中断の合図を出すことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記反応槽のバイパス管に組み込まれている少なくとも1つの測定プローブを用いて連続的に、または非連続的な時間区分で、前記スラリーのpH値の推移(2)を求め、該pH値をデータベースに記録し、現在のpH値と、前記反応期間内での同一の測定系列による先行する測定値とをプロセス制御部により比較して、前記pH値が上昇段階の後に低下したら中断の合図を出すことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの測定プローブを、前記反応槽の底部近傍に配置することを特徴とする、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
前記反応期間中に前記スラリーを前記反応槽内で混合することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記水熱炭化の圧力および温度に関する反応条件が達成され、かつ前記反応槽にバイオマスおよび高温蒸気を導入したら、前記測定を開始することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
ポンプ搬送によりまたは均圧に基づいて前記反応槽から冷却槽へと前記スラリーを移すことによって前記反応を終了させることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水熱炭化反応を行う方法であって、反応槽にバイオマスを供給し、蒸気の導入により水熱炭化反応の進行に必要な圧力および温度に関する反応条件を整え、かつ前記反応条件を反応期間にわたって保持する方法に関する。
【0002】
この種の方法は、すでに従来技術において多岐にわたって公知であり、例えば独国特許出願公開第102011001954号明細書(DE 102011 001 954 A1)の記載から知られている。この文献では、水熱炭化の進行中にバイオマスと該バイオマスに供給される蒸気とを混合し、この混合によって反応面積を広くし、ひいては圧力および熱を受ける面積を広くすることを予定している。これにより、炭化反応が明らかにより速やかに開始され、また明らかにより一様に進行することが明らかになっている。
【0003】
水熱炭化反応のベースとなるのは、供給されるバイオマスである。このバイオマスは通常はリグニンを含んでおり、このリグニンの内部ではセルロースが結合しており、このセルロースに対して炭化が行われる。HTC法(水熱炭化法)の開始時にはまず加水分解が行われ、それによりセルロースからグルコースへの転化が生じる。この場合、グルコースはプロセス水に溶解している。このプロセスの間、加水分解に要する時間は、例えば1〜2分間という短時間にすぎない。セルロースが加水分解されてグルコースに転化された後に、本来の炭化反応が行われる。
【0004】
上記で挙げた文献の特定のケースにおいて記載されているように、この文献に記載されている本来の炭化反応は、バイオマスの混合によって促進される。こうすることで、必要な反応条件、つまり約25バールの圧力および約230℃の温度が、加工すべき材料全体にわたって可能な限り一様に得られる。
【0005】
本来の炭化の後に、実質的に最後の主要なステップとして、いわゆる縮合が行われ、この縮合では、水溶性の炭素成分がまとまってより大きな分子となる。これにより、次いでHTC炭が生成される。バイオマス混合物(いわゆるスラリー)中の固形分の尺度の1つとして、乾燥残分が挙げられる。この乾燥残分とは、スラッジの全材料に対する乾物の割合と定められる。
【0006】
この方法のこの最後のステップでは、生成されるバイオ炭と、同様に生成されるプロセス水とを分離する。それによって、乾燥残分をバイオ炭として取り出すことができ、またプロセス水は、他の用途に供給することも、再度この反応に使用することもできる。この場合、ある程度の割合の炭素がプロセス水中に残留することを常に考慮しなければならない。
【0007】
また同様に、反応槽内での滞留時間を比較的長くすればバイオ炭を高収率で得ることができるが、それによって必然的に反応槽の稼働率が下がることを考慮しなければならないため、ここでも、効率的な解決策という意味では滞留時間が可能な限り短いことが有益であると考えられる。
【0008】
本発明の目的は、こうした考察に鑑み、水熱炭化反応を行うための方法であって、反応槽内でのスラリーの滞留時間を明らかに短縮することができ、またそれと同時にバイオ炭がより高収率で得られ、ひいてはプロセス水をより多く除去することができる方法を提案することである。
【0009】
前記目的は、請求項1に記載の特徴を備えた方法によって達成される。後続の従属請求項の記載からは、該方法のさらに合理的な実施形態が理解できる。
【0010】
本発明によれば、従来技術による方法と同様に反応槽内で水熱炭化反応を行い、バイオマスと水蒸気とを一緒に供給する。加圧し、かつ高めた温度でこのバイオマスを炭化させ、その際、それによって乾燥残分が生じる。生じるプロセス水を分離することによって、このスラッジからこの乾燥残分を取得することができる。
【0011】
しかし、スラリーあるいはプロセス水から析出させることができる非水溶性炭の割合は一定ではなく、また単調な増加の推移をたどるわけでもないことが判明した。そうではなく、最初はまず、加えたバイオマスの乾物が存在するが、この乾物がまず分解され、そして炭化されるものと考えられる。炭化反応が開始すると元のバイオマスが分解されるため、この乾燥残分は明らかに低減する。しかし、縮合が始まると、この効果が逆転して元に戻って乾燥残分が再び増加し、その際、今度は、所望のバイオ炭は、スラリー内の負荷物として含まれている。しかし、ある時点でバイオ炭自体が再び分解し始めて、乾燥残分は再び明らかに減少する。しかしこのプロセスを明らかに延長すれば、この乾燥残分は多少なりとも一定に保たれる。
【0012】
したがって、バイオ炭の乾燥残分を可能な限り高収率で得るためには、この乾燥残分がその最大値に達する時点に狙いを定めなければならない。しかし、これは難しい。なぜならば、乾燥残分は、進行する運転中の値として容易に求めることができないからである。所定の材料については確かに、試験系列によって理想的な時点を求めることは可能である。しかし、供給可能な生物資源材料は非常に多岐にわたるため、必要となる試験系列は、非経済的なコストを意味することになろう。このことは、材料が同一であってもバッチが異なれば、それだけでもすでにその材料は完全に異なる値をとりうるだけに、なおさら言えることである。
【0013】
ところが、反応槽内でのスラリーのpH値の推移は、乾燥残分の推移とほぼ同一の時点で最大値をとることが判明した。しかし、乾燥残分とは違って、pH値は進行する炭化反応の間にも測定可能であるため、スラリー内の乾燥残分が最も多く、ひいては収率が最も高い時点に、実質的にリアルタイムに反応中断の合図を出すことができる。したがって本発明によれば、乾燥残分自体の推移ではなく、pH値の推移のモニタリングを行う。炭化反応の間にpH値の最大値を過ぎたことを確認したらすぐに反応を中断させる。その際に反応槽から取り出すことのできるスラリーが、最大限の乾燥残分を有している。
【0014】
このことは具体的には、スラリーのpH値の推移を所定の時点で把握し、これをデータベースに記録し、これらの測定値を先行する値と比較することによって達成することができる。このために、反応槽に直接組み込まれているか、もしくはバイパス導管に組み込まれている、1つ、または複数の測定プローブを使用することができる。少なくとも1つの測定プローブの測定値をプロセス制御部により分析して、先行する値と比較することで、pH値の最大値を探索する。この最大値に達したら、すぐに反応を停止させる。
【0015】
前述の少なくとも1つの測定プローブは、従来技術において知られている様々な技術的解決策をベースとするものであってよい。本質的な2つの解決策は、電位差測定法およびイオン感応性電界効果トランジスタによる測定に関連するものである。
【0016】
電位差測定法では、ガラス容器の表面上に水素イオンが堆積することにより、このガラス容器の内側と外側との間に直流電圧が生じることを利用する。この直流電圧は、この表面の両側のpH値の差に依存する。参照電極を使用してこの直流電圧を測定することができる。
【0017】
電界効果トランジスタにより測定する場合にも同一の効果を利用するが、その際、水素イオンは、イオン感応性電界効果トランジスタのイオン感応性ゲート膜上に、上記の通りに堆積する。この際に生じる電位差を、ここでもやはり測定技術によって求めることができる。
【0018】
このような測定プローブが常にスラリーと接触した状態にあり、かつ利用可能な測定系列を生じることが確保できるように、測定プローブを反応槽の底部近傍に取り付けることは、いくつかの利点を伴う。
【0019】
追加的に混合を行うことで、スラリーをさらに反応槽内で運動させることができ、理想的には渦動させることができるため、バイオマスを、可能な限りすべての側面から可能な限り直接的に反応槽内の圧力および温度に曝すことができる。これによって反応がより一様に行われ、ひいてはpH値測定の信頼性もより高まる。スラリーを渦動させる混合ノズルを用いて混合を行ってもよいし、撹拌機により混合を行ってもよい。
【0020】
測定が誤ったものとならないようにするために、また中断すべきとの判断を下すのが早すぎることのないようにするために、特に水熱炭化の圧力および温度に関する反応条件が達成され、反応容器にバイオマスおよび高温蒸気を導入したら、測定を開始することができる。このプロセスは、いずれにせよ反応の初期にも行われるものではあるが、こうしたプロセスが完了してから測定を開始する。
【0021】
pH値が最大値に達したら反応を終了させるが、これは実質的には、反応槽内に存在するスラリーを冷却槽に移すことによって行うことができる。これによって反応条件を反応槽内で継続的に保持することができ、その結果、エネルギー損失はできる限り低く保たれる。このために、スラリーを反応槽から冷却槽へとポンプ搬送してもよいし、好ましくは、反応槽内の圧力の方がはるかに高いことに基づいて、これよりも明らかに圧力の低い冷却槽へと均圧によりスラリーを流してもよい。
【0022】
上記で説明した本発明について、以下に実施例により詳説する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1に、実線で示す乾燥残分(Trockenrueckstand、TR)(%)の例示的な推移1と、この推移1と直接関連する、一点鎖線で示すpH値の推移2とのグラフを示す。pHと表示された左側の縦軸は、pH値を示し、TR[%]と表示された右側の縦軸は、乾燥残分(%)を示す。長手軸は時間軸であり、この時間軸に沿って示される数値は、データ(分)を示す。
【0024】
ここに示す反応は、t=0分の時点に始まる。最初に、この反応の初期にpH値が激しく低下し、すでにt=15分の時点でpH値が最小値に達することが見て取れる。これに対して、乾燥残分はこれよりもゆっくりと低下し、およそt=60分の時点でようやくその最小値に達し、ここから乾燥残分とpH値がともに単調に増加し、どちらもt=180分の時点で最大値に達する。このグラフは、この反応を本発明によらずに操作した場合のこれら2つの値のさらなる進展をも示している。つまりその場合、pH値も乾燥残分も明らかに落ち込み、およそt=240分の時点でこれらは多少なりとも一定の値をとる。乾燥残分がその最大値では17%にのぼるのに対して、乾燥残分は比較的長期間にわたって12〜13%であり、つまりこれは、最大値より優に4分の1も低い値である。しかし、本発明によりpH値の推移の最大値に達した際に反応を中断させれば、さらなる反応が行われないため、乾燥残分が低下することはない。この時点で、本発明によりスラリーを反応槽から取り出し、冷却し、次いでプロセス水を分離する。
【0025】
したがって上記のとおり、水熱炭化反応を行う方法であって、反応槽内でのスラリーの滞留時間を明らかに短縮することができ、またそれと同時にバイオ炭がより高収率で得られ、ひいてはプロセス水をより多く除去することができる方法が提案される。
【符号の説明】
【0026】
1 乾燥残分の推移(%)
2 pH値の推移
pH 第1の縦軸の目盛り
TR[%] 第2の縦軸の目盛り
t[分] 長手軸の目盛り