【文献】
Adv. Drug Deliv. Rev. (2008) vol.60, issue 12, p.1371-1382
【文献】
Expert Rev. Med. Devices (2010) vol.7, issue 5, p.581-583
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
放射線塞栓術後の腫瘍細胞および正常な肝細胞の両方に吸収された放射線量の量が、PET線量測定走査の開始5分以内にデバイスから決定され得る、請求項6記載のデバイス。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
肝細胞がん(「HCC」)は、毎年約750,000の新たな症例が診断されている6番目に多くみられるがんであり、世界中で約700,000の死者数をもたらす3番目に多いがん関連死の原因である。Axelrodおよびvon Leeuwenは、過去20年間にわたってHCCの発生率が「人口100,000人あたり2.6人から5.2人まで2倍以上に増え」、死亡率は100,000人あたり2.8人から4.7人まで増加したと報告している。HCC症例の80%は、危険性の高い行為に関連したB型およびC型肝炎の早期獲得によるものである。加えて、肥満の蔓延が、最終的に線維症、肝硬変、およびHCCまで進行し得る非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の増加に寄与している。
【0003】
HCCの治療は、大部分の患者が進行期で見つかるため困難である。肝臓がんの症状は多くの場合はっきりとせず、がんが進行期になるまで出現しない。疾患の早期では、切除および移植のような外科治療が最良の治療成果をもたらす。しかしながら、切除の欠点は、必要とされる肝機能的需要に患者の残存する肝臓が応えきれない場合があること、また疾患が再発する可能性が高いことである。さらに、米国だけで毎年約35,000人の患者がHCCと診断され、そのうち約80%に切除できない腫瘍が広がる。他の治療様式は、肝動脈化学塞栓術(TACE)、ソラフェニブ化学療法、体外照射法、およびラジオ波焼灼術を含む。ソラフェニブおよび体外照射法と比較して、ラジオ波焼灼術、放射線塞栓術(RE)、およびTACEなどのより局所的な療法は、器官に対して最小限の毒性で所望の線量を標的に送達できる。この記述を支持すると、Dezarnらは、1.8Gy/日の割合で送達される肝臓全体に対する35Gyの最大体外照射許容線量は、固形腫瘍病変を破壊するために典型的に必要とされる70Gyをはるかに下回っていると書いている。体外照射法に対する正常な肝臓組織の高い感受性が、より局所的に効果的なREまたは選択的内部放射線療法(SIRT)手法に繋がった。
【0004】
HCCに適応される、有望なカテーテルに基づいた肝臓指向様式であるREは、微小球の経カテーテル血管造影用送達である。観察結果は>3mmの転移性肝悪性腫瘍が肝門脈循環よりもむしろ動脈からそれらの血液供給の約80〜100%を受け取っていることを実証しており、肝動脈を介した微小球の注入は利点がある。正常な肝臓組織は、門脈により主に血液供給されている(60〜70%)。毛細血管前の段階で捕えられる現在のイットリウム-90(
90Y)小球は、体内でβ線を放出し、体外照射法と比べて比較的より局所的な高線量送達を提供する。しかしながら、組織に約49.38Gy/kg/GBqを送達する0.94MeVの
90Yβ放射の平均エネルギーおよびそのより長い経路長(2.5mmの平均組織浸透性および1.1cmの最大範囲)は、正常な肝臓の副次的損傷をもたらす。肝臓の約25%が肝動脈によっても血液供給されているので、より長い経路長による放射線損傷が増幅される。よって、正常な肝臓組織は、その後の副作用が少なくない線量を受け得る。正常な肝臓に対するβ線の副作用は、悪心、不快感および肝機能障害を引き起こし得る。正常な組織への異常な高放射線量は、肝不全の潜在的リスクを伴った放射線誘発性の肝炎をもたらすことさえある。
【0005】
先行技術の
90Y微小球の別の欠点は、別の現在用いられている診断用同位体と同等の高品質かつ迅速に取得される画像では容易に撮像できないことである。
90Y放射線塞栓術における線量測定は、ガラスおよび樹脂微小球製品両方の現在の製造業者推奨ガイドラインに従うと大部分が経験的である。これらの治療法における腫瘍および正常な肝臓両方への実際の吸収放射線量についてはほとんど知られていない。よって、先行技術の投与レジメンは、腫瘍の死滅、正常な肝臓の保護には最適ではなく、より新規な手法である、正確な線量測定のための定量的陽電子放出断層撮影/コンピュータ断層撮影法(PET/CT)を活かせていない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
態様の説明
説明の目的のために図面に示されているように、発明は、放射線塞栓術での使用のための新規な放射性微小球において具体化される。本発明の好ましい態様では、新規な放射性微小球は、肝細胞がん(HCC)としても公知の原発性肝臓がんの患者の全生存期間を著しく延ばし得る一方で、先行技術に対して明確な利点および特徴を提供する。しかしながら、身体の別の部分におけるがんを含む別の病状のために発明のさらなる態様が用いられてもよいことが認識されるであろう。
【0010】
放射線塞栓術(RE)を用いてHCCを治療する際の現在の先行技術は、イットリウム-90(
90Y)微小球の経カテーテル血管造影用送達である。
90Y REに伴う欠点は、正常な肝臓への高ベータ線(副次的損傷)、腫瘍の死滅のためには最良ではない投与レジメン、および正確な線量測定のための定量的撮像の欠如である。本発明の好ましい態様は、次世代の放射性微小球になるよう設計された新規なセラノスティック(つまり治療+診断)剤と
90Y微小球を置き換える。
【0011】
図1は、本発明の好ましい態様に係る放射性微小球20を示す。放射性微小球20は、一般的に用いられているRE製品では初めてのセラノスティック球体である。好ましい態様では、放射性微小球20は、PETに基づいた線量測定のための陽電子放出体である診断用同位体ジルコニウム-89(
89Zr)と、治療のためのアルファ放出体である治療用同位体アクチニウム-225(
225Ac)とを両方備えた樹脂微小球である。技術革新は、HCCの治療のために限局療法および定量的線量測定を両方同時にもたらす剤の二面性にある。
【0012】
既存の
90Y放射性微小球に対する放射性微小球20の利点は、より少ない放射線の量(ひいてはより少ない副次的損傷)で、より大きな殺腫瘍効果と共に有益な線量測定および診断情報を提供することである。治療的局面では、
90Yベータ粒子と比べアルファ粒子からの5倍〜10倍大きな生物学的効果によって、
225Acアルファ粒子がより少ない放射線の量でより大きな殺腫瘍効力を有するので、放射性微小球20は既存の
90Y放射性微小球に対して有利である。致死線量は、
225Acの崩壊連鎖における4つのアルファ粒子によって送達される。アルファ粒子はより多くの二本鎖DNA切断をもたらし、これはより容易に修復可能なベータ粒子からの一本鎖DNA切断とは対照的な、細胞にとって致命的な事象である。加えて、アルファ粒子は、それらのより大きな質量および組織内でのより短い経路長によって「副次的損傷」がより少ない。
225Acアルファ粒子の推定経路長は80〜100μmであり、
90Yベータ粒子は1〜2.5mmほどである。また、
225Ac崩壊からの2つのベータは、はるかに小さいエネルギー(444keV、659keVおよび198keV)ならびに平均経路長(1つ目のβは1.2mmの確率が98%;1.8mmの確率が2%;2つ目のβは0.5mmの確率が100%)を有する。ベータ放出体と比較した際のアルファ放出体療法からの副作用がより少ない良い例は、前立腺がんにおける骨転移の治療のために初めてFDAに承認されたアルファ放出体である
223Raの現在の臨床使用である。
223Raは、そのベータ放出体先行物、すなわち
153Smおよび
89Srよりも骨髄抑制が少ない遥かに穏やかな副作用プロファイルを有する。
【0013】
アルファ粒子療法の分野で周知の1つの問題点は、娘放射性核種の封じ込めであった。アルファ粒子はヘリウム原子核の質量を有し、したがって放射性原子核からのその排出に関連した大きな運動量を有する。この運動量は、アルファ粒子崩壊の帰結である強い「アルファ反跳」を生じる。実質的な結果は、アルファ崩壊に起因する娘放射性核種が、そのキレーター、ペプチド、抗体、またはそれが付着するあらゆるリガンドから遊離し得ることである。娘放射性核種は次いで循環血液内で自由に浮遊し、望ましくない副作用を引き起こし得る。アクチニウム-225崩壊の場合、これらの娘核種は、
221Fr(t
1/2=4.8m;6MeVα粒子および218keVγ放出)、
217At(t
1/2=32.3ms;7MeVα粒子)、
213Bi(t
1/2=45.6m;6MeVα粒子、444keVβ-粒子および440keVγ放出)、
213Po(t
1/2=4.2μs;8MeVα粒子)、
209Tl(t
1/2=2.2m;659keVβ-粒子)、
209Pb(t
1/2=3.25h;198keVβ-粒子)および
209Bi(安定同位体、無崩壊)である。最も周知の副作用は、ビスマス-213が引き起こす腎毒性である。マウスでは、
225Acの遊離放射性娘核種からの腎臓照射は、蒼白および血中尿素窒素の増加として現れる腎機能の経時的な低下に至った。対応する組織病理学的変化が腎臓で観察された。糸球体および尿細管細胞の核多形性、核崩壊、尿細管細胞傷害および溶解が、早くも10週で観察された。広範囲の尿細管溶解による皮質の漸進的薄化、崩壊した尿細管、糸球体密集化、糸球体細胞性状および間質性炎症の減少ならびに上昇した傍糸球体指数が、治療後20〜30週で認められた。35〜40週までに、尿細管萎縮および喪失を伴う単純化した尿細管の再生ならびに限局性間質線維化が起きた。増加した脱顆粒を示唆する限局性細胞質空胞変性を伴うより低い傍糸球体細胞指数もこの時期に観察された。増加した尿細管および間質TGF-β
1発現ならびに対応する細胞外基質沈着の増加は、注入後40週でのみ認められた。これらの知見は、体内に送達されたアルファ粒子の放射線が誘発する尿細管上皮細胞の喪失が、腎機能の喪失を伴う進行性形態学的損傷をもたらす一連の適応変化を誘導することを示唆する[参照:Miederer M, Scheinberg D, and McDevitt M. Adv Drug Deliv Rev. 2008 Sep; 60(12): 1371-1382.]。
【0014】
本発明の好ましい態様によれば、放射性微小球20において用いられる樹脂の選定は、アルファ放出体によって生成される遊離浮遊娘核種を制御する能力に基づいている。我々は、排水からの金属の除去、アクチニド分離手法、ならびに原子力発電および燃料処理プラントからの放射性廃棄物の処理に現在利用されている陽イオン交換樹脂を採用した。樹脂は、球状ビーズ形態のポリスチレン/ジビニルベンゼンマトリクスから構築される。樹脂は、陽イオン結合のための3つの異なる種類の官能基を有する多官能性である。これらは、すなわちポリマーマトリクスに結合したカルボン酸基、ジホスホン酸基、およびスルホン酸基である。ジホスホン酸リガンドは、選択された金属を溶液から優先的に除去することによる樹脂の特有の選択能力に寄与する。親水性スルホン酸リガンドは、ポリマーマトリクスへの金属イオンのアクセシビリティを高め、交換速度を著しく向上する。1リットルの溶液から最大で2Ciまで除去するこの樹脂の能力が、それをアクチニウム-225およびその娘核種を結合するための理想的な候補にする。この特定の樹脂の選択に基づいて、Ac-225の娘核種の捕捉および封じ込めは100%近くになる。代替的な態様では、樹脂は、同様の利点および結果をもたらす異なるポリマー骨格や異なる官能基を含有してもよい。例えば、特異的に金属を捕えかつ使用範囲が限定的な他の官能基は、次のうちの1つまたは複数を含むことがある:チオール、アミノホスホン酸、イミノ二酢酸、およびビス-ピコリルアミン(金属に対しpH2〜5で)。しかしながら、樹脂自体を用いてアルファ崩壊に起因する娘放射性核種の分離を制御するための方法は新しくかつ独自であり、先例のない手法を表している。それは、媒体中に分散することがあるアルファ崩壊からの遊離娘放射性核種の長年のかつ複雑な問題を解決する。本発明の態様は、この特定の樹脂に有用性を与える一方で二重同位体放射性微小球デバイスを支持できる解決策を提供する。
【0015】
本発明のもう一つの好ましい態様によれば、放射性微小球20構造体の独自性は、一旦療法が行われると診断的な線量測定情報が同時に得られることである。腫瘍および正常な肝臓両方に対する吸収放射線量を決定するためにPETの定量力が利用され得る。
90Y REでは伝統的に、治療後の撮像は臨床現場における治療パラダイムの一部ではない。
90Yでは陽電子放出が起きるが、その陽電子分岐率は非常に小さく(32ppm)、それを非理想的な造影剤にしていると共に、患者は画像取得のためにPET/CTスキャナ内で20〜30分間じっと横たわっている必要がある。それとは対照的に、陽電子分岐率が22.6%である
89Zrは理想的な診断剤となる。
89ZrからのPET/CT走査は3〜7分の期間で収集され得、それらの品質はより高い陽電子計数率のためはるかに優れている。治療の同時PET走査は、治療の効力、線量、また正常な肝臓への潜在的な損傷を理解することに向けた有益な情報を提供するであろう。この定量的な情報は患者への今後の対応の指針となり得、通院治療または肝機能のより緊密な監視が何時必要になることがあるか医師に注意を促す。さらに、PETに基づいた線量測定の定量力は、腫瘍がそのような放射線治療に応答するかどうかを示し得る。殺腫瘍性の放射線量とみなされるであろうものを受けた後でさえ多くの腫瘍が応答しないことが発見されている。ここで提案する線量測定方法も新しい。アルファ粒子吸収放射線量は、アルファ放出体の分布が分かった後に作成したモデルから算出し得る。Zr-89はAc-225と同じ放射性微小球上に共標識されるので、それは我々がAc-225分布の代用物としてZr-89の分布を用いるのを可能にする。さらに、Zr-89およびAc-225は各微小球上で所定の活性度を有するので、
89Zr PET/CT走査時に計数を測定できることはAc-225計数の数値への変換が容易に可能になる。次いでAc-225についての定量的な情報は、規定した関心体積内のBqでの活性をGyでの実際の吸収放射線量に変換することからもたらされる。アルファ放出体(Ac-225)の分量および分布のための代用物として陽電子放出体(Zr-89)を用いるこの提案する方法は、線量測定の独自かつ新しい方法である。活性を吸収放射線量に変換するために、MIRD線量測定法を用いた局所堆積法またはコンボリューション・カーネルを採用し得る(両方ともに受け入れられている方法である)。この走査は、腫瘍に対するおよび正常な肝臓組織に対する線量に関する巨視的情報を与える。
【0016】
陽電子放出断層撮影法(PET)は強力な手法である。それは2種類の情報を提供する:1)再構築したPET画像から陽電子放出同位体が特定の場所に存在しているかまたは存在していないかを判別し得る。それが提供する画像は、撮像されている同位体の存在の分布図である。あらゆる撮像様式は、濃淡を生成するそれらの能力に依存している。生成された画像は、診断をするために医師が認識しかつ用い得るその手法に基づいた模様を有する。2)2つ目の種類の情報は、半定量的であるという点でPET手法に特有である。該情報から得られ得る数値があり、これは別の目的に用いられ得る。PETの場合、この数値は、規定した関心体積(VOI)内の放射活性計数の数値を指す。またその数値は、様々な用途に活用され得る。微小球に付着したZr-89の好ましい態様では、我々は、存在する放射性微小球の分量に関する線量測定情報を得、次にグレイ(Gy)で測定される吸収放射線量を算出する能力を提案する。Zr-89およびAc-225は、単一の放射性微小球上に共配置されるので、Zr-89からの放射活性計数の存在は、適切な数学的変換(つまり局所堆積法)を用いてGyでの吸収放射線量に変換され得る。したがって我々の構築物では、陽電子放出体は撮像の目的のためではないが、代わりに線量測定の目的のためである。画像上の陽電子放出体の有無は所望の手法ではないが、代わりに陽電子放出体の分量が線量測定情報を生み出す。撮像および線量測定は、別個かつ独立したゴールであり、決して互いに同義的なものではない。
【0017】
本発明の代替的な態様では、発明の趣旨から逸脱することなく代替的な同位体を代用してもよい。代替的な同位体の例は以下:
アルファ放出体:
テルビウム-149(Tb-149)
アスタチン-211(At-211)
ビスマス-212(Bi-212)
ビスマス-213(Bi-213)
ラジウム-223(Ra-223)
ラジウム-224(Ra-224)
トリウム-227(Th-227)
トリウム-228(Th-228)
フェルミウム-255(Fm-255)
陽電子放出体:
フッ素-18(F-18)
スカンジウム-44(Sc-44)
銅-64(Cu-64)
ガリウム-68(Ga-68)
イットリウム-86(Y-86)
ヨウ素-124(I-124)
テルビウム-152(Tb-152)
を含む。
【0018】
さらに代替的な態様では、放射性微小球20は、アルファ放出体だけで標識され得るかまたは陽電子放出体だけで標識され得る。そのような場合、アルファ放出体で標識された微小球と陽電子放出体で標識された微小球との混合物が、アルファ放出体および陽電子放出体を両方備えた二重標識微小球20と同様の結果をもたらすことができる場合がある。言い換えれば、アルファ放出体標識樹脂微小球の集団が、標的治療領域における埋め込み前に陽電子放出体標識樹脂微小球の第二集団と混合される。あるいは、アルファ放出体標識樹脂微小球の集団は、前もって混合することなく同時に陽電子放出体標識樹脂微小球の集団と同じ標的治療領域に埋め込まれ得る。さらに代替的な態様においては、一定の用途ではアルファ放出体で標識された微小球または陽電子放出体で標識された微小球のみ必要とされることがある。なおさらなる態様では、アルファ放出体を備えた微小球は、異なる撮像もしくは線量測定目的のために異なる同位体と共標識されてもよく、または陽電子放出体を備えた微小球は、ベータ放出体と共標識されてもよい。
【0019】
図2は、本発明の好ましい態様に係る
図1の放射性微小球20を用いた肝臓類洞の説明的断面図(大きく拡大しており、正確な縮尺ではない)である。RE手法のとおり、放射性微小球20は、肝細胞がん(HCC)10を治療するために肝臓の標的領域付近の肝動脈30に動脈内注入される。RE手順のより詳細な説明を下に記載する。参照目的のため、
図2は、正常な肝細胞40、門脈枝50、毛細胆管60、および中心静脈70を含む肝臓の部位に標識付けしている。
図2で見られるように、アルファ粒子経路80は、HCC腫瘍10の周囲により局在化しかつ集中する平均自由行程を説明するように示されている。また、ベータ粒子経路90は、ベータ粒子が肝臓において有する、より長い平均自由行程を説明するように示されている。
【0020】
肝臓がん患者の典型的な一連の事象は次のとおりである:患者は、肝腫瘍が疑われる症状または検査異常を通常は呈する。患者は、病変の存在を裏付けるためにCTまたはMRI撮像をうける。その病変は、がんを確認するために生検される。がんのステージに応じて手術という選択肢がない場合がある(大体80%の確率で)。患者は、放射線塞栓治療のための介入放射線医に相談する。腫瘍の程度をより明らかにするためにさらに特殊な撮像法が取られる場合がある(つまりPET/CT、オクトレオチドSPECT、三相肝臓CTまたはMRI)。介入放射線医は、次いで患者の肝臓血管系の解剖学的マッピングを行う。これは本質的には肝臓内の血管系の調査およびどの血管が放射性微小球20の送達に最適なアプローチ経路であるかを発見することである。
【0021】
一旦介入放射線医が送達に最適であると考える場所にカテーテルを配置したら、意図するRE療法の前駆体として大凝集アルブミンにタグ付けしたテクネチウム-99m(Tc
99m-MAA)を注入することによってシミュレーションが実施される。この薬剤の利点は、放射性微小球20と比較してMAAが同様の大きさ(直径約30ミクロン)を有するので、MAAの分布は注入した放射性微小球20の最終的な分布の良いシミュレーションとなることである。Tc
99mでタグ付したMAAは、ハイブリッド撮像に付随する解剖学的な目印を利用してSPECT/CT撮像に容易に適合可能である。MAA(タンパク質になっている)は酵素によって消化され、したがって腫瘍血管系のその塞栓形成は撮像に十分なほんの一時的なものである。一旦画像が取得されたらMAAは分解されて、別の血管撮像セッションにおいて次にくる放射性微小球20に道を譲る。場合によってはMAA走査によって、肝臓の血管から他の正常な臓器への血液の多少のシャントが明らかになることがある。これは、胃、十二指腸への取り込み、または時には過度な肺シャントとして現れ得る。このような望ましくない取り込みは、RE治療の前にそれらの血管経路を遮断するためにコイル塞栓術で通常は防止され得る。過度の肺シャントの場合には、放射性微小球20の用量が低減されるであろう。
【0022】
患者が実際の施術日に戻ってくると、放射線の認定使用者(放射線腫瘍医、有資格介入放射線医、または核医学医師のいずれか)は、患者に適切な用量を算出しており、これをMAAシミュレーションの間に実施したのと同じ位置に配置した介入放射線医のカテーテルを介して患者に投与する。患者は、治療直後の放射性微小球20の分布を確認し線量測定情報を得るために確認用の治療後走査(PET/CT)を受ける。患者の追跡調査は、あらゆる症状について患者をモニタリングすることによって、および治療のおよそ3ヶ月後に従来の撮像によって、通常は実施される。
【0023】
よって、本発明における改善された放射線塞栓手法は、他に選択肢がほとんどない患者の全生存期間を延ばし、かつ従来の化学療法およびREの現行法で一般的に遭遇する副作用がほとんどない許容可能なクオリティ・オブ・ライフを保つための、貴重なアプローチを提供する。
【0024】
放射性微小球の製作
本発明の好ましい態様によれば、放射性微小球の製作は、
225Ac(アルファ放出体)および
89Zr(陽電子放出体)が両方とも結合した樹脂微小球と、生理的pHおよび温度でのその安定性の検証とからなる。許容基準は、樹脂に対する同位体の結合効率が97%以上である(つまり遊離同位体が<3%)。
【0025】
本発明の好ましい態様では、ヒト対象では独立して用いられているので(様々な形態で、単一の同位体標識物として)、
225Acおよび
89Zrが選定された。粒子の総数は、各用量で3700万(±10%)になるように設計される。この数値は、専門家によって両方の製品に伴うそれぞれの欠点であると考えられている現在市販されているガラス微小球よりも塞栓性を高くしかつ現在市販されている樹脂微小球よりも塞栓性を低くする用量にするために選定された。
225Ac標識抗体との様々な研究に基づいて、我々は次の比放射活性、1小球あたり100mBq
225Ac&10Bq
89Zr=総100μCi
225Ac&10mCi
89Zrを目標とする。
【0026】
放射性微小球の基本構造は、別の基材も可能な通常はガラスまたは樹脂である微小球に結合した放射性同位体元素を有する。我々の樹脂に基づいた放射性微小球20の合成のために次の4つの調製手順を採用しかつ提案する。1つ目は、Ac-225アルファ放出同位体および樹脂微小球からなる、放射性微小球について詳述する。2つ目は、Zr-89陽電子放出同位体および樹脂微小球からなる、放射性微小球について詳述する。3つ目は、両方が樹脂微小球に標識付けられた、二重同位体Ac-225およびZr-89を備えた放射性微小球を詳述する。本発明の好ましい態様によれば、同じ樹脂微小球上に両方の同位体を備えるこの共標識法が好ましい構成である。4つ目は、放射性微小球の2つの集団の混合物、すなわちAc-225でおよそ半分が標識されZr-89で半分が標識された樹脂微小球を詳述する。
【実施例】
【0027】
実施例1:Ac-225標識微小球合成のための手順
用具および化学品:
1)
225Ac(0.01M HCl中100μCi、凡その体積=50〜60μl)
2)陽イオン交換樹脂(直径約30ミクロン)、0.01M HCl溶液
3)ガラス器具、磁気撹拌器、実験器具、注射用滅菌水(SWFI)、滅菌pH7.4緩衝溶液(好ましくは無リン酸)
4)放射線防護のために適切に装備された実験室
5)線量較正器およびGeガンマ線分光システム
手順:
1)0.5グラムの陽イオン交換樹脂(直径約30ミクロン)を適切な容器中の0.01M HCl溶液に加え(はじめに5mLそして必要であれば1mLずつ加える)、適度なスラリー懸濁液を形成するために磁気撹拌子を用いて30分間撹拌して確実に樹脂を完全に湿らせる。
2)アクチニウム-225溶液(活性=100μCi、0.01M HCl中、凡その体積50〜60μl)をフラスコに加える。溶液のpHを確認し(約pH2.0になると予想される)、撹拌を90分間再開して確実に微小球における放射活性を均等に分布させる。
3)100uLの一定量を取り出すことによって試料の遠心分離後の遊離Ac-225を確認する。
4)これらの標識微小球を次いで適切なろ過機構(すなわち22ミクロンフィルタ)を用いてろ過し、SWFIで5ml×6回洗浄する。アルファ計数のために各洗浄物を別々に保管する。最後の洗浄液のpHを確認する(6.5〜7.0の間になると予想される)
5)滅菌pH7.4緩衝溶液(5mL)に小球を再懸濁して懸濁液を作る。それを適切なクリンプキャップバイアルに移す。適切な方法を用いて微小球の放射活性を測定し標識量を決定する。
6)アクチニウムについて溶出試験を次のように実施する:
微小球を含有する上記バイアルを37℃の水浴中で20分間かき混ぜる(振動台)。かき混ぜた後はバイアルを37℃でかき混ぜないままにしておくのがよい。遠心分離後、100μLの試料をバイアルから取り、上清のAc活性を測定し記録する。樹脂のAc活性も測定し記録する。溶出試験の期間中は試料を37℃に保つのがよい。この試験を1、2、および3日目に実施する。結果が許容範囲内であれば、7、10、および20日目に溶出活性を測定する。
【0028】
実施例2:Zr-89標識微小球合成のための手順
用具および化学品:
1)
89Zr(pH8緩衝溶液中およそ10mCi)
2)陽イオン交換樹脂(直径約30ミクロン)、pH8緩衝溶液(好ましくは無リン酸)、滅菌pH7.4緩衝溶液
3)ガラス器具、磁気撹拌器、実験器具、注射用滅菌水(SWFI)
4)放射線防護のために適切に装備された実験室
5)線量較正器およびGeガンマ線分光システム
手順:
1)0.5グラムの陽イオン交換樹脂(直径約30ミクロン)を適切な容器中のpH8緩衝液に加え(はじめに5mLそして必要であれば1mLずつ加える)、適度なスラリー懸濁液を形成するために磁気撹拌子を用いて30分間撹拌して確実に樹脂を完全に湿らせる。
2)pH8緩衝液中のZr-89溶液を懸濁液に加え、20分間撹拌を継続する。
3)Zr-89標識効率は、この手順では約70%になると予想される。
4)これらの標識微小球を次いで適切なろ過機構(すなわち22ミクロンフィルタ)を用いてろ過し、SWFIで5ml×6回洗浄する。すべての洗浄物を個別の容器に集め各同位体毎に標識効力を測定する。
5)二重標識微小球を集め、5mlの滅菌pH7.4緩衝溶液を入れたバイアルに再懸濁する。
6)Ac-225の溶出試験で記載したよう、規定した時間間隔でZr-89の溶出試験を実施する。
【0029】
実施例3:Ac-225およびZr-89二重標識微小球合成のための手順
用具および化学品:
1)
225Ac(0.01M HCl中100μCi、凡その体積=50〜60μl)、
89Zr(滅菌pH7.4緩衝液中10mCi)
2)陽イオン交換樹脂(直径約30ミクロン)、0.01M HCl溶液、滅菌pH7.4緩衝溶液(好ましくは無リン酸)
3)ガラス器具、磁気撹拌器、実験器具、注射用滅菌水(SWFI)
4)放射線防護のために適切に装備された実験室
5)線量較正器およびGeガンマ線分光システム
手順:
1)0.5グラムの陽イオン交換樹脂(直径約30ミクロン)を適切な容器中の0.01M HCl溶液に加え(はじめに5mLそして必要であれば1mLずつ加える)、適度なスラリー懸濁液を形成するために磁気撹拌子を用いて30分間撹拌して確実に樹脂を完全に湿らせる。
2)アクチニウム-225溶液(活性=100μCi、0.01M HCl中、凡その体積50〜60μl)をフラスコに加える。溶液のpHを確認し(約pH2.0になると予想される)、撹拌を90分間再開して確実に微小球における放射活性を均等に分布させる。
3)100uLの一定量を取り出すことによって試料の遠心分離後の遊離Ac-225を確認する。
4)これらの標識微小球を次いで適切なろ過機構(すなわち22ミクロンフィルタ)を用いてろ過し、SWFIで5ml×6回洗浄する。
5)これらのAc-225標識球体を適切な容器中の滅菌pH7.4緩衝液に再懸濁させ、適度なスラリー懸濁液を形成するために小型磁気撹拌子を用いて15分間撹拌する。
6)Zr-89溶液を懸濁液に加え、20分間撹拌を継続する。
7)Zr-89標識効率は、この手順では約60%になると予想される。
8)これらの標識微小球を次いで適切なろ過機構(すなわち22ミクロンフィルタ)を用いてろ過し、滅菌pH7.4緩衝溶液で5ml×6回洗浄する。すべての洗浄物を個別の容器に集め、同位体毎に標識効力を測定する。
9)二重標識微小球を集め、5mlの滅菌pH7.4緩衝溶液を入れたバイアルに再懸濁する。規定した時間間隔で両方の放射性同位体の溶出試験を実施する。
【0030】
実施例4:Ac-225標識およびZr-89標識微小球の混合物を調製するための手順
第一部)2倍の比活性を備えたAc-225標識微小球の作製
用具および化学品:
1)
225Ac(0.01M HCl中200μCi、凡その体積=60μl)
2)陽イオン交換樹脂(直径約30ミクロン)、0.01M HCl溶液
3)ガラス器具、磁気撹拌器、実験器具、注射用滅菌水(SWFI)、滅菌pH7.4緩衝溶液(好ましくは無リン酸)
4)放射線防護のために適切に装備された実験室
5)線量較正器およびGeガンマ線分光システム
手順:
1)0.5グラムの陽イオン交換樹脂(直径約30ミクロン)を適切な容器中の0.01M HCl溶液に加え(はじめに5mLそして必要であれば1mLずつ加える)、適度なスラリー懸濁液を形成するために磁気撹拌子を用いて30分間撹拌して確実に樹脂を完全に湿らせる。
2)アクチニウム-225溶液(活性=200μCi、0.01M HCl中、凡その体積60μl)をフラスコに加える。溶液のpHを確認し(約pH2.0になると予想される)、撹拌を90分間再開して確実に微小球における放射活性を均等に分布させる。
3)100uLの一定量を取り出すことによって試料の遠心分離後の遊離Ac-225を確認する。
4)これらの標識微小球を次いで適切なろ過機構(すなわち22ミクロンフィルタ)を用いてろ過し、SWFIで5ml×6回洗浄する。アルファ計数のために各洗浄物を別々に保管する。最後の洗浄液のpHを確認する(6.5〜7.0の間になると予想される)
5)10mlのバイアルにAc-225標識微小球を移し、それらを無菌pH7.4緩衝溶液(3mL)に再懸濁して懸濁液を作る。適切な方法を用いて微小球の放射活性を測定し標識量を決定する。バイアルにバイアル番号1Acとラベルを付ける。
【0031】
第二部)2倍の比活性を備えたZr-89標識微小球の作製
用具および化学品:
1)
89Zr(pH8緩衝液中20mCi)
2)陽イオン交換樹脂(直径約30ミクロン)、pH8緩衝溶液(好ましくは無リン酸)、滅菌pH7.4緩衝溶液
3)ガラス器具、磁気撹拌器、実験器具、注射用滅菌水(SWFI)
4)放射線防護のために適切に装備された実験室
5)線量較正器およびGeガンマ線分光システム
手順:
1)0.5グラムの陽イオン交換樹脂(直径約30ミクロン)を適切な容器中のpH8緩衝液に加え(はじめに5mLそして必要であれば1mLずつ加える)、適度なスラリー懸濁液を形成するために磁気撹拌子を用いて30分間撹拌して確実に樹脂を完全に湿らせる。
2)pH8緩衝液中のZr-89溶液(20mCi)を懸濁液に加え、20分間撹拌を継続する。
3)Zr-89標識効率は、この手順では約70%になると予想される。
4)これらの標識微小球を次いで適切なろ過機構(すなわち22ミクロンフィルタ)を用いてろ過し、SWFIで5ml×6回洗浄する。すべての洗浄物を個別の容器に集め各同位体毎に標識効力を測定する。
5)二重標識微小球を集め5mlの滅菌pH7.4緩衝溶液を入れた20mlバイアルに再懸濁する。バイアルにバイアル番号2とラベルを付ける。バイアルに蓋をする。
【0032】
第三部)混合物の調製
適切なシリンジ機構を用いて、バイアル番号1Acの内容物をすべて取り出しそれらをバイアル番号2に移す。バイアル番号1Acを1mlの滅菌pH7.4緩衝溶液で2回すすいで確実にすべてのAc-225標識微小球をバイアル番号2に移す。
【0033】
一旦混合が完了したら、Ac-225およびZr-89活性を記録した後に最終生成物バイアルラベルをバイアル2に貼り付ける。この最終生成物バイアルを用いて、用量の分注をする直前に小球を再懸濁させた後(Ac-225+Zr-89混合微小球)の2回量を作製し得る。
【0034】
上の記載は好ましい態様における放射性微小球20の中心的概念を説明したが、さらなる機能性を追加するためまたは単に代替的な工程を用いて記載の方法を実施するために上記のデバイスに多くの変更を行い得る。上述のように、ヒトへの使用には他の同位体も承認されているため、当該同位体が好ましい態様における同位体と置き換えられてもよい。さらに、代替的な態様では、放射性微小球20を製造するために他の公知の製作手法を採用してもよい。なおさらなる態様では、放射性微小球20は、HCCの他に別の種類のがんを治療するために用いられてもよい。代替的な態様では、放射性微小球20は、線量測定用同位体と組み合わせたベータ放出体を有するように変更されてもよい。
【0035】
したがって、上の記載は本発明の特定の態様に言及しているが、その趣旨から逸脱することなく多くの変更を行ってもよいことが理解されるであろう。添付の請求項は、本発明の真の範囲および趣旨に含まれるであろうそのような変更を包含することを意図している。今回開示した態様はしたがって、すべての点で例示的であり限定的ではないとみなされるべきであり、先の記載よりもむしろ添付の請求項によって示されている本発明の範囲ならびに請求項の均等物の意味および範囲内に入るすべての改変がしたがってその中に含まれることが意図されている。