特許第6942801号(P6942801)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6942801心臓組織中で回転電気活動を終了または解消させる装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6942801
(24)【登録日】2021年9月10日
(45)【発行日】2021年9月29日
(54)【発明の名称】心臓組織中で回転電気活動を終了または解消させる装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/39 20060101AFI20210916BHJP
【FI】
   A61N1/39
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-528521(P2019-528521)
(86)(22)【出願日】2017年12月8日
(65)【公表番号】特表2020-503094(P2020-503094A)
(43)【公表日】2020年1月30日
(86)【国際出願番号】EP2017082048
(87)【国際公開番号】WO2018127358
(87)【国際公開日】20180712
【審査請求日】2020年9月18日
(31)【優先権主張番号】17150209.9
(32)【優先日】2017年1月3日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518071349
【氏名又は名称】マックス−プランク−ゲゼルシャフト ツア フェルデルング デア ヴィッセンシャフテン イー.ヴイ.
【氏名又は名称原語表記】Max−Planck−Gesellschaft zur Forderung der Wissenschaften e.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】トム ヴォルデン,ヘンリック
(72)【発明者】
【氏名】ホルヌング,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】バイグ,タリク
【審査官】 宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2004/0172065(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0100670(US,A1)
【文献】 特表2014−519918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓組織(3)中の回転電気活動(2)を終了または解消させる装置(1)であって:
前記心臓組織に関する少なくとも1つの電気パラメータを検出するように構成された電気状態センサ;
前記電気状態センサ(8)に接続されかつ前記電気状態センサ(8)により検出された前記少なくとも1つの電気パラメータを分析して前記心臓組織(3)中の回転電気活動(2)を求めるように構成された電気状態分析器(9);
前記電気状態分析器(9)に接続されかつ前記心臓組織(3)中に回転電気活動(2)が存在することを分析する前記電気状態分析器に応答して、回転電気活動終了または解消パルス(28)を含む、電気パルスを発生するように構成されたパルス発生器(19);及び
前記パルス発生器(19)に接続されかつ前記電気パルスを、前記心臓組織(3)を横断して延在する電界パルスとして印加するように構成されたパルス印加器(20);
を備え、
前記電気パルスは、前記回転電気活動終了または解消パルス(28)に先行する複数の回転電気活動同期パルス(27)を含み、
前記回転電気活動同期パルス(27)は第1の間隔(Tsync)に配置され、かつ前記回転電気活動終了または解消パルス(28)は前記複数の回転電気活動同期パルス(27)のうちの最後の1つの後に前記第1の間隔(Tsync)のうちの1つの0.7〜1.2倍の範囲にある第2の間隔(Δt)に配置され、かつ
前記回転電気活動同期パルス(27)の各々により生起される第1の最大電界強度(FSsync)及び、
前記回転電気活動同期パルス(27)の各々により前記心臓組織(3)に送達される第1の電気パルスエネルギー(PEsync)
のうちの少なくとも一方は、それぞれ、前記回転電気活動終了または解消パルス(28)により生起される第2の最大電界強度(FStou)の82%以下であるかまたは前記回転電気活動終了または解消パルス(28)により前記心臓組織(3)に送達される第2の電気パルスエネルギー(PEtou)の67%以下である、
ことを特徴とする、
装置(1)。
【請求項2】
前記回転電気活動終了または解消パルス(28)に先行する前記回転電気活動同期パルス(27)の数は少なくとも5つであることを特徴とする、請求項1に記載の装置(1)。
【請求項3】
前記回転電気活動終了または解消パルス(28)に先行する前記回転電気活動同期パルス(27)の数は10〜30の範囲にあることを特徴とする、請求項2に記載の装置(1)。
【請求項4】
前記回転電気活動同期パルス(27)の各々により生起される前記第1の最大電界強度(FSsync)は、前記回転電気活動終了または解消パルス(28)により生起される第2の最大電界強度(FStou)の71%以下または50%以下であることを特徴とする、請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項5】
前記回転電気活動同期パルス(27)の各々により生起される前記第1の最大電界強度(FSsync)は、20〜200V/mの範囲にあることを特徴とする、請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項6】
前記回転電気活動同期パルス(27)の各々により生起される前記第1の最大電界強度(FSsync)は、一定であることを特徴とする、請求項1〜5のうちいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項7】
前記回転電気活動同期パルス(27)の各々により前記心臓組織(3)に送達される前記第1の電気パルスエネルギー(PEsync)は、前記回転電気活動終了または解消パルス(28)により前記心臓組織(3)に送達される前記第2の電気パルスエネルギー(PEtou)の50%以下または25%以下であることを特徴とする、請求項1〜6のうちいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項8】
先ず前記回転電気活動同期パルス(27)の各々により前記心臓組織(3)に送達される前記電気パルスエネルギー(PEsync)は、一定であることを特徴とする、請求項1〜7のうちいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項9】
前記電気状態分析器(9)は、前記電気状態センサ(8)により検出された前記少なくとも1つの電気パラメータを分析して前記心臓組織(3)中の回転電気活動(2)の特性周波数(fcharea)を求めるように構成されること、及び前記パルス発生器(19)はT<1/(fcharea)の間隔で前記回転電気活動同期パルス(27)を発生するように構成されることを特徴とする、請求項1〜8のうちいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項10】
前記電気状態分析器(9)は前記電気状態センサ(8)により検出された前記少なくとも1つの電気パラメータを分析して前記心臓組織(3)中の回転電気活動(2)の前記特性周波数(fcharea)として主要周波数を求めるように構成されることを特徴とする、請求項9に記載の装置(1)。
【請求項11】
前記パルス発生器(19)は、0.6×1/(fcharea)<T<0.9×1/(fcharea)の間隔で前記回転電気活動同期パルス(27)を発生するように構成されることを特徴とする、請求項9または10に記載の装置(1)。
【請求項12】
前記電気パルスは、前記回転電気活動終了または解消パルス(28)に後続するT<1/(fcharea)の間隔の複数の坑頻拍ペーシングパルス(29)を含むことを特徴とする、請求項9〜11のうちいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項13】
前記パルス印加器(20)は、前記パルス発生器(19)に接続された個別双極電極(30)を備えかつ前記坑頻拍ペーシングパルス(29)を前記心臓組織に印加するように構成されることを特徴とする、請求項9に記載の装置(1)。
【請求項14】
前記パルス発生器(19)は、前記電気パルスの印加後に回転電気活動(2)が前記心臓組織(3)中に依然存在していることを分析する前記電気状態分析器(9)に応答して更なる電気パルスを発生するように構成されることを特徴とする、請求項1〜13のうちいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項15】
前記パルス印加器(20)は、全ての回転電気活動同期(27)及び回転電気活動終了または解消(28)パルスを同一電極及び同一対向電極の間に延在する電界パルスとして印加するように構成されることを特徴とする、請求項1〜14のうちいずれか一項に記載の装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は心臓組織中で回転電気活動を終了または解消させる装置に関する。この回転電気活動は例えば、細動と呼ばれる心臓組織の電気状態に関する。電気作用には所謂スクロール波が含まれ得る。回転電気活動は心臓組織の異質部分を中心とした回転であり得る。心臓組織は特に生存心臓であり得る。
【0002】
特に、本発明は心臓組織中で回転電気活動を終了または解消させる装置であって、心臓組織に関する少なくとも1つの電気パラメータを検出するように構成された電気状態センサ;電気状態センサに接続されかつ電気状態センサにより検出された少なくとも1つの電気パラメータを分析して心臓組織中の回転電気活動を求めるように構成された電気状態分析器;パルス発生器に接続されかつ心臓組織中に回転電気活動が存在することを分析する電気状態分析器に応答する電気パルスであって、回転電気活動終了または解消パルスを含む、電気パルスを発生するように構成された電気状態分析器;及びパルス発生器に接続されかつ心臓組織を横断して延在する電界パルスとして電気パルスを印加するように構成されたパルス印加器、を備える装置に関する。
【背景技術】
【0003】
特許文献1は生体組織の高周波不整脈状電気状態を終了させるための装置を開示している。この公知の装置は、生体組織の現在の電気状態を表す電気信号から少なくとも1つの主要周波数を決定する終了ユニットを備える。終了ユニットは、少なくとも1つの主要周波数から現在の生体組織の電気状態が高周波不整脈状電気状態であるかどうかを決定する。更に判定ユニットは、当該電気信号からこの少なくとも1つの主要周波数が高周波不整脈状電気状態に如何に優位にあるかを示す優位性レベルを決定する。優位性レベルが所定の閾値を超える時点で、判定ユニットは電気パルス発生器を起動して当該少なくとも1つの主要周波数に応じた間隔で少なくとも1連続の電気パルスを発生させる。これらの電気パルスは、パルス発生器に接続された少なくとも1つの電極を介して生体組織に印加される。優位性レベルを決定するために、判定ユニットは主要周波数の電気信号強度を少なくとも1つの隣接周波数の電気信号強度と比較する。電気パルス発生器は、電撃を加える単一パルスを用いて除細動に使用される標準除細動エネルギーと比較して比較的低い電気エネルギーの電気パルスを発生する。電気パルス発生器は、電気パルスが少なくとも1つの主要周波数により規定される位相を位相間隔でラスタ走査するような時間間隔で、少なくとも1連続電気パルスに関する個々の電気パルスを発生する。このために、電気パルス発生器は、当該少なくとも1つの主要周波数の逆数値の1/32〜1/5だけ当該少なくとも1つの主要周波数の逆数値から偏向した時間間隔で少なくとも1連続電気パルスに関する電気パルスを発生する。電気パルス間隔は主要周波数の逆数値を超過するのが好ましい。判定ユニットが、第1の連続電気パルスが印加された後も、生体組織が依然として不整脈状の電気状態にあることを電気信号から決定すると、電気パルス発生器は第1の連続電気パルスよりも高い電圧で更なる連続電気パルスを発生する。終了ユニットが、所定数の連続電気パルス後にも生体組織が依然として不整脈状の電気状態にあることを決定した場合にのみ、電気パルス発生器は標準心臓除細動エネルギーの単一電気パルスを発生する。
【0004】
特許文献2は三段階式心房除細動療法を開示している。三段階式心房除細動療法の第1段階は、10ミリ秒未満のパルス持続期間及び20〜50msのパルス連結間隔の、10Vよりも大きいが100V未満の二相性心房心臓除細動パルスを少なくとも2つかつ10未満有する。この第1段階は、2サイクル長未満の検出心房不整脈の総持続期間を有すると共に、心室不応期内に0.1J未満の各二相性心房心臓除細動パルスのエネルギーを送達して、心房不整脈に関連した1つまたは複数の特異点を解消している。三段階式心房除細動療法の第2段階は、5msより長くかつ20ms未満のパルス持続期間及び心房不整脈のサイクル長の70〜90%のパルス連結間隔の、心室遠場励起閾値未満の遠場パルスを少なくとも5つかつ10未満有している。この第2段階では、第1段階により解消された心房不整脈に関する1つまたは複数の特異点の再拘束が防止される。三段階式心臓除細動療法の第3段階は、0.2msより長くかつ5ms未満のパルス持続期間及び心房不整脈のサイクル長の70〜90%のパルス連結間隔の、10V未満の近接場パルスを少なくとも5つかつ10未満有している。この第3段階では、第1段階により解消されかつ第2段階により再拘束を防止された心房不整脈に関連した1つまたは複数の特異点を消滅させている。
【0005】
特許文献3は、約100W未満の尖頭出力で10Hzよりも高い率で電気パルスを心臓に印加することにより、衝撃パルスを印加せずに人の心臓に生じる細動を終了させる方法を開示している。パルス印加には、約50mA未満の振幅のパルスの印加及びこれらの電気パルスの終了を含む。これにより、電気パルスを印加及び終了させるステップは心臓の除細動に効を奏する。この公知方法では、心臓動作を検出し、パルス印加にはこの検出動作に応じて心臓に印加するパルスのうちの少なくとも一部の特性を修正すること及び約10Hzよりも大きい率で電気パルスを印加しながら心臓を約1Hzに整調することを含んでいる。
【0006】
特許文献4は、多段階式心房除細動療法を実施することにより心房不整脈を治療する方法を開示している。多段階式心房除細動療法の各段階は、10ms未満のパルス持続期間の間に、10ボルトより大きく500V未満の心房除細動パルスを少なくとも2つかつ10未満含む。各パルスは、増大、減少振幅または一定振幅の10ms未満の副パルス持続期間を有する多数の副パルスを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2012/172027号
【特許文献2】国際公開第2011/139596号
【特許文献3】米国特許第8014858号明細書
【特許文献4】米国特許第8473051号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
公知の装置よりも低い全体的電気エネルギーで電気パルスを心臓組織に印加するにも拘わらずその回転電気活動を効果的に終了または解消させる、心臓組織中で回転電気活動を終了または解消させる装置の必要性が依然として存在している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、独立請求項1の特徴を備えた、心臓組織中で回転電気活動を終了または解消させる装置を提供する。従属項は当該装置の好ましい実施形態を規定する。
【0010】
本発明による装置は、心臓組織に関する少なくとも1つの電気パラメータを検出するように構成された電気状態センサ;電気状態センサに接続されかつ電気状態センサにより検出された少なくとも1つの電気パラメータを分析して心臓組織中の回転電気活動を求めるように構成された電気状態分析器;電気状態分析器に接続されかつ心臓組織中に回転電気活動が存在することを分析する電気状態分析器に応答して電気パルスを発生するように構成されたパルス発生器;及びパルス発生器に接続されかつ電気パルスを、心臓組織を横断して延在する電界パルスとして印加するように構成されたパルス印加器、を備える。電気パルスには、回転電気活動終了または解消パルス及び回転電気活動終了または解消パルスに先行する複数の回転電気活動同期パルスが含まれる。回転電気活動同期パルスは第1の間隔に配置され、電気活動終了または解消パルスは複数の回転電気活動同期パルスのうちの最後の後の第1の間隔の各々の0.7〜1.2の範囲にある第2の間隔に配置される。回転電気活動同期パルスの各々により生起される第1の最大電界強度及び回転電気活動同期パルスの各々により心臓組織に送達される第1の電気パルスエネルギーのうちの少なくとも一方は、それぞれ、回転電気活動終了または解消パルスにより生起される第2の最大電界強度の82%以下、または回転電気活動終了または解消パルスにより心臓組織に送達される第2の電気パルスエネルギーの67%以下である。
【0011】
本発明による装置は、単一の回転電気活動解消または同期パルスを特許文献1に従って異なる位相の回転電気活動を解消または終了させる間隔で送達される複数の回転電気活動終了または解消パルスに分裂させるものではない。むしろ、心臓組織中の回転電気活動を先ず複数の回転電気活動同期パルスと同期させてその後単一の回転電気活動終了または解消パルスまたは2つの回転電気活動終了または解消パルスにより終了または解消させる。第2の回転電気活動終了または解消パルスは既に、回転電気活動を終了または解消させるために、心臓組織に印加する全エネルギーをかなり増大させる。この理由から、3つ以上の別個の回転電気活動終了または解消パルスの群は、本発明に従ったものではない。回転電気活動同期パルスは、それらの低い最大電界強度及び/または低い電気パルスエネルギーのために、十分に好適である回転電気活動終了または解消パルスとして適任ではない。しかし、このことは、回転電気活動同期パルスが既に如何なる弱い回転電気活動をも終了または解消させることを除外するものではない。しかし、より強力な回転電気活動では、回転電気活動同期パルスはそれらの作用を終了または解消させる上で十分には強力ではない。これらのより強力な回転電気活動に関して、回転電気活動同期パルスはしかしながら、それらの同期パルスが後続の回転電気活動終了または解消パルスにより容易な終了または解消を受けやすいように、ある種の同期を生起させ得ることになる。換言すれば、回転電気活動同期パルスの印加によって、複数の回転電気活動終了または解消パルスを用いた位相走査の必要がなくなる。むしろ、後続する単一の回転電気活動終了または解消パルスで十分である。
【0012】
回転電気活動を終了または解消させるために心臓組織に印加される全エネルギーは、回転電気活動同期パルスがかなり低減された最大電界強度及び/または電気パルスエネルギーであることから、特許文献1に従った均等な電界強度及び電気パルスエネルギーの複数の回転電気活動終了または解消パルスと比較してこのように大幅に低減可能である。
【0013】
特に、回転電気活動同期パルスの各々により心臓組織に送達される第1の電気パルスエネルギーが回転電気活動終了または解消パルスにより心臓組織に送達される第2の電気パルスエネルギーの67%以下であることは、第1の電気パルスエネルギー及び第2の電気パルスエネルギーの比率が約2:3以下であることを意味する。この電気エネルギーが電界強度の二乗に依存することにより、回転電気活動同期パルスの各々により生起される第1の最大電界強度が回転電気活動終了または解消パルスにより生起される第2の最大電界強度の82%以下であるという事実により、同一形状の回転電気活動同期及び終了または解消パルスと第1及び第2の電気パルスエネルギーに関する規準とは、ほぼ同一となることを意味する(82%×82%=67%)。
【0014】
本発明による装置により送達される最終回転電気活動終了または解消パルスは、特許文献1に従った複数の同一回転電気活動終了または解消パルスのうちの各パルスとして公知である、第2の最大電界強度及び/または第2の電気パルスエネルギーと同一であり得る。
【0015】
本発明による装置では、同一対の電極は両方とも、電気状態分析器及びパルス印加器の一部分であり得る。
【0016】
典型的には、回転電気活動終了または解消パルスに先行する回転電気活動同期パルスの数は、少なくとも5つである。多くの場合、このパルス数は10〜30の範囲である。場合によっては、このパルス数は約15〜25である。
【0017】
多くの場合、回転電気活動同期パルスの各々により生起される第1の最大電界強度が回転電気活動終了または解消パルスにより生起される第2の最大電界強度の71%以下または50%以下であれば十分であろう。絶対的表現では、すべての回転電気活動同期パルスにより生起される第1の最大電界強度は20〜300V/mの範囲にあり、典型的には200V/m以下にある。回転電気活動同期パルスの各々により生成される第1の電界強度は更に、回転電気活動同期パルスのすべてに関して一定、即ち同一、であり得る。
【0018】
回転電気活動同期パルスの各々により心臓組織に送達される第1の電気パルスエネルギーは好ましくは、回転電気活動終了または解消パルスにより心臓組織に送達される第2の電気パルスエネルギーの50%以下または場合によっては25%以下である。絶対的表現では、回転電気活動同期パルスの各々により心臓組織に送達される第1の電気パルスエネルギーは0.005〜20Jの範囲にあり得る。このむしろ広いともいえる範囲はパルス印加用電極を配置する幾何形を強く変え得ることによる。更に、回転電気活動同期パルスの各々により心臓組織に送達される第1の電気パルスエネルギーは、回転電気活動同期パルスのすべてに関して一定、即ち同一、であり得る。
【0019】
本発明による装置では、電気状態分析器は、電気状態センサにより検出された少なくとも1つの電気パラメータを分析して心臓組織中の回転電気活動の特性周波数を求めるように構成し得る。本装置のパルス発生器はこのため、この特性周波数の逆数値よりも小さい間隔の回転電気活動同期パルスを発生するように構成し得る。更に、電気状態分析器は、電気状態センサにより検出された少なくとも1つの電気パラメータを分析してその主要周波数を心臓組織中の回転電気活動の特性周波数として求めるように構成し得る。
【0020】
好ましくは、パルス発生器を、特性周波数の逆数値の0.6倍から特性周波数の逆数値の0.9倍の範囲中の間隔で回転電気活動同期パルスを発生するように構成する。
【0021】
本発明による装置のパルス印加器は、回転電気活動同期パルスを同一極性の単極電気パルスとして発生しかつ回転電気活動終了または解消パルスを双極電気パルスとして発生するように構成し得る。双極電気パルスである回転電気活動終了または解消パルスは、心臓組織に対する当該程度への電気充電の回避に好都合である。それにも拘わらず、回転電気活動終了または解消パルスの第1の部分の間中に印加される電気エネルギーには、回転電気活動終了または解消パルス全体により印加される電気エネルギーの60または70%以上が含み得る。この回転電気活動同期パルスはまた双極性でもあり得る。しかし、このことによって通常は、何らの追加的利点も提供されることはないであろう。回転電気活動終了または解消パルスの第1の部分は、回転電気活動同期パルスと比較して同一または反対の極性を有し得る。しかし、回転電気活動終了または解消パルスの相対極性は、最後の回転電気活動同期パルス後に回転電気活動終了または解消パルスを印加する最適な第2の間隔に影響を与えることになる。
【0022】
本発明による装置のパルス発生器により発生される電気パルスには、特性周波数の逆数値より小さい間隔でありかつ回転電気活動終了または解消パルスに後続する複数の坑頻拍ペーシング(ATP)パルスが追加的に含まれ得る。そのような坑頻拍ペーシングパルスは標準ATP構成の公知の双極電極により局所的に印加され得るため、これらの坑頻拍ペーシングパルスは典型的なATP電気パルスエネルギー、即ち回転電気活動終了または解消パルスの第2の電気パルスエネルギー及び回転電気活動同期パルスの第1の電気パルスエネルギーのいずれよりも大幅に小さい電気パルスエネルギー、となる。
【0023】
本発明による装置のパルス発生器は更に、電気パルスの印加後にも心臓組織中に回転電気活動が依然存在することを分析する電気状態分析器に応答して更なる電気パルスを発生するように構成し得る。即ち、本装置は、複数の電気活動同期パルス及び後続の電気回転活動終了または解消パルスにより回転電気活動を終了または解消させることを一度ならず試み得る。
【0024】
本発明による装置のパルス印加器は、全ての回転電気活動同期パルス及び回転電気活動終了または解消パルスを同一電極及び同一対向電極の間に延在する電界パルスとして印加するように構成し得る。このことは全ての電気パルスが同一方向の生起電界を有し得ることを意味する。
【0025】
本発明の好都合な展開は、特許請求の範囲、本明細書及び図面から得られる。本詳細な説明冒頭に言及した特徴及び複数の特徴の組合せの利点は、実施例として専ら役を果たすものであり、これらの利点を得るに相違ない本発明による実施形態を必要とせずに代替的または累積的に利用し得る。同封の特許請求の範囲により規定した保護範囲の変更が無い限り、以下の説明は原出願及びその特許の開示に対して適用される:更なる特徴は図面、特に、それらの相対配置及びそれらの動作接続のみならず図示の設計及び複数の構成要素の相互の寸法、から導出し得る。本発明の異なる実施形態の特徴または請求項のうちの選択した参照事項とは無関係な異なる請求項の特徴の組合せもまた可能であり、それにより動機付けもされる。このことは、別個の図面中に図示した特徴またはそれらの説明時に言及した特徴に関連する。これらの特徴はまた異なる請求項の特徴と組合せ得る。更に、本発明の更なる実施形態が特許請求の範囲に言及した特徴を有さないこともまた可能である。
【0026】
特許請求の範囲及び本明細書中で言及した数の特徴は、副詞「少なくとも」の明示的使用を必要とすることなくこの厳密な数及び言及した数よりも大きい数を包含することを理解されるべきである。例えば、パルスに言及した場合、このことは厳密に1つのパルスが存在するかまたは2つ以上のパルスが存在するように理解されるべきである。追加の特徴は特許請求の範囲中に列挙した特徴に追加し得るか、またはこれらの特徴はそれぞれの装置の特徴であるのみで有り得る。
【0027】
請求項中に含めた参照符号は当該請求項による保護事項の範囲を限定するものではない。それらの唯一の機能は請求項の理解をより容易にすることにある。
【0028】
以下、本発明について図面に示す好ましい例示的実施形態に関して更に説明及び記述を行うこととする。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は本発明による装置の概略図である。
図2図2は本発明の装置の動作を示すフローチャートである。
図3図3は本発明による装置により提供される電気パルスの印加による電気エネルギー及び第1の実施形態によるそれら電気パルスの時系列を概略的に示す。
図4図4は本発明による装置により提供される電気パルスの印加による電気エネルギー及び第2の実施形態によるそれら電気パルスの時系列を概略的に示す。
図5図5は豚の心臓中の心室細動の成功裏の終了を示す時系列心電図(ECG)を示す。
図6図6は豚の心臓による実験のデータを示し、回転電気活動同期パルスの後に印加する回転電気活動終了または解消パルスの電圧を、特許文献1に従って印加される複数の回転電気活動終了または解消パルスの各々の電圧と比較している。
図7図7図6に従った実験に別途対応する兎の心臓による実験のデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1に示す本発明による装置1は、心臓組織3中の回転電気活動2を終了または解消させるように構成される。回転電気活動2は、心臓組織3の異質部分5を中心として回転する円形矢印4によりここでは概略的に示している。一対の電極6、7は、心臓組織に関する少なくとも1つの電気パラメータ、例えば電極6及び7間の電圧等、を検出する電気状態センサ8を提供する。心臓組織3が生存心臓である場合、電極の一方、例えば電極6等、は典型的には心臓内に配置されるのに対して、他方の電極、例えば電極7等、は心臓の外部に、場合によっては心臓を包囲する胸腔の外部にも、配置され得る。電極6及び7を含む電気状態センサ8により検出された電気パラメータは電気状態分析器9により分析される。電気状態分析器9は筐体10内に設置される。電極6及び7は、外部配線11及び12、筐体10に設けられたコネクタ13ならびに14及び内部配線15ならびに16を介して、分析器に接続される。電気状態分析器9は、電気状態センサ8により検出された少なくとも1つの電気パラメータを分析して心臓組織3中の回転電気活動2を求める。電気状態分析器9が心臓組織3中に回転電気活動2が存在することを分析すると、この分析器は回転電気活動2の特性周波数を決定し、心臓組織3中に回転電気活動2が存在することを示す制御信号17並びに18及びその特性周波数を、それぞれパルス発生器19に送信する。パルス発生器19はその後電気パルスを発生し、この電気パルスが、心臓組織3を横断して延在する電界パルスとして電気パルスを印加するパルス印加器20として目下作用中の電極6及び7を介して、心臓組織3に印加される。これらの電気パルスは、より高い最大電界強度及び電気パルスエネルギーの回転電気活動終了または解消パルスが後続する、複数の回転電気活動同期パルスを含む。電極6及び7は単極電極であって、種々の幾何形状に配置され得ると共に回転電気活動同期パルス及び回転電気活動終了または解消パルスを電界パルスとして印加するための追加の単極電極により補完され得る。更に、パルス印加器20は、発生器20及び心臓組織3に同様に接続されるATP用の双極電極30を含み得る。
【0031】
図2に従ったフローチャートは図1に従った装置1の動作を示す。このフローチャートは心臓組織3に関する少なくとも1つの電気パラメータを検出するステップ21から開始する。次のステップ22では、この電気パラメータを分析して回転電気活動2の存在を求める。回転電気活動が存在しない場合には、装置1の動作はステップ21に戻る。回転電気活動2が存在する場合、回転電気活動の特性周波数fchareaをステップ23で決定する。この特性周波数fchareaは回転電気活動2の主要周波数であり得る。
【0032】
次に、ステップ24で、パルス発生器19により発生する電気パルスに関する種々のパラメータを設定する。これらのパラメータには、主要周波数fchareaの逆数値よりも小さく設定される間隔Tsync、回転電気活動同期パルスにより生成される最大電界強度FSsync、及びそれら回転電気活動同期パルスのパルスエネルギーPEsyncが含まれる。更に、最後の回転電気活動同期パルス及び回転電気活動終了または解消パルスの間隔Δt、最大電界強度FStou、及び回転電気活動終了または解消パルスの電気パルスエネルギーPEtouを設定する。ステップ25では、ステップ24で設定したパラメータに従って、回転活動同期パルス及び回転活動終了または解消パルスを発生させる。ステップ26では、これらの電気パルスを心臓組織3に印加する。その後、心臓組織3に関する少なくとも1つの電気パラメータを再び検出及び分析して回転電気活動2の存在、即ち同様にステップ21及び22から開始する装置1の動作、を求める。
【0033】
図3は、単一の回転電気活動終了または解消パルス28が後続する7つの電気活動同期パルス27の最大電界強度FSsync及びFStouによって決まる電気パルスエネルギーPEsync及びPEtouを示す。図3は、電気パルスエネルギーPEsyncが全ての電気活動同期パルス27に対して同一であること及び回転電気活動同期パルス27が時間tについて全て同一間隔Tsyncに配置されることを示している。後続する回転電気活動終了または解消パルスは、間隔Tsyncよりも典型的には小さい間隔Δtに配置される。一般的には、この間隔ΔtはTsyncの0.7〜1.2倍の範囲である。加えて、回転電気活動終了または解消パルス28の電気パルスエネルギーPEtouは、電気パルスエネルギーPEsyncよりも明らかに高い。このことは、それぞれの最大電界強度FSsync及びFStouに対しても該当する。最大電界強度FStou及び回転電気活動終了または解消パルス28のパルスエネルギーの両方とも、特許文献1に従った回転電気活動終了または解消パルスに典型的な範囲にある。しかし、本発明によれば、単一の回転活動終了または解消パルス28であっても回転電気活動終了または解消パルス28に先行する回転電気活動同期パルス27による回転電気活動の同期により十分である。
【0034】
図4は、図3に加えてまた、回転活動終了または解消パルス28に後続する複数の坑頻拍ペーシング(ATP)パルス29を示す。坑頻拍ペーシングパルス29は図1の双極電極30により印加される。坑頻拍ペーシングパルス29は、回転電気活動同期パルス27として時間について同一の間隔の配置であるが回転電気活動同期パルス27の電気パルスエネルギーPEsyncより大幅に小さい電気パルスエネルギーPEATPとして示されている。更に、坑頻拍ペーシングパルス29は、これに替えて回転電気活動同期パルス27に対して異なる時間間隔にも配置させ得る。特に、坑頻拍ペーシングパルス29に関するパラメータを設定し得、坑頻拍整ペーシングパルス29を坑頻拍ペーシングの技術分野の当業者の一般的知識に従って印加させ得る。
【0035】
図5は、t=6.1sでランゲンドルフ灌流装置において豚の心臓中の心室細動の成功裏の終了を示す時系列心電図(ECG)を示す。この終了は、t=2sで始まる25の回転電気活動同期パルス27及び1つの回転電気活動終了または解消パルス28を印加することにより達成したものである。回転電気活動終了または解消パルス28は、特許文献1に従って心室細動を終了させるのにこの灌流装置に要されるのと同等の大きさの電界強度を有していた。回転電気活動同期パルスの電界強度は、回転電気活動終了または解消パルス28の電界強度の11%未満であった。
【0036】
図6は、豚の心臓による心臓全体のランゲンドルフ灌流実験のデータを示し、本発明の装置により印加した回転電気活動終了または解消パルス28の電圧を、特許文献1に従った回転電気活動終了または解消パルスの電圧と比較しているが、いずれの電圧も心室細動の終了に0.5の確率を要するものである。線で結んだ2箇所の点は1回の実験に対応する。所要電圧は実験間では異なるが1回の実験内では同程度である。回転電気活動同期パルスは大幅に低い電圧であるため、心室細動の終了のために本発明に従った装置により印加される全エネルギーは、特許文献1に従った装置により印加される全エネルギーよりも際だって低い。
【0037】
図7は、兎の心臓による心臓全体のランゲンドルフ灌流実験のデータを示し、本発明に従った装置により印加した回転電気活動終了または解消パルスの電圧を、特許文献1に従って印加した回転電気活動終了または解消パルスの電圧と比較しているが、いずれの電圧も心室細動の終了に0.5の確率を要するものである。線で結んだ2箇所の点は1回の実験に対応する。所要電圧は実験間では異なるが1回の実験内では同程度である。回転電気活動同期パルスは大幅に低い電圧であるため、本発明に従った装置により印加する全エネルギーは特許文献1に従った装置により印加される全エネルギーよりも際だって低い。
【符号の説明】
【0038】
1 装置
2 回転電気活動
3 心臓組織
4 円形矢印
5 異質部分
6 電極
7 電極
8 電気状態センサ
9 電気状態分析器
10 筐体
11 外部配線
12 外部配線
13 コネクタ
14 コネクタ
15 内部配線
16 内部配線
17 電気信号
18 電気信号
19 発生器
20 パルス印加器
21 検出ステップ
22 分析ステップ
23 決定ステップ
24 設定ステップ
25 発生ステップ
26 印加ステップ
27 回転電気活動同期パルス
28 回転電気活動終了または解消パルス
29 坑頻拍ペーシングパルス
30 双極電極
Tsync 回転電気活動同期パルス27の間隔
FSsync 回転電気活動同期パルス27により生成される最大電界強度
PEsync 回転電気活動同期パルス27のパルスエネルギー
Δt 最後の回転電気活動同期パルス27後に回転電気活動終了または解消パルス28を配置する時間間隔
FStou 回転電気活動終了または解消パルス28の最大電界強度
PEtou 回転電気活動終了または解消パルス28のパルスエネルギー
t 時間
FS 電界強度
PE パルスエネルギー
PEATP 坑頻拍ペーシングパルス29のパルスエネルギー
fcharea 回転電気活動2の特性周波数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7