特許第6942910号(P6942910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6942910
(24)【登録日】2021年9月13日
(45)【発行日】2021年9月29日
(54)【発明の名称】岩盤性状判定装置
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/00 20060101AFI20210916BHJP
   E21D 9/10 20060101ALI20210916BHJP
【FI】
   E21D9/00 Z
   E21D9/10 G
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-193372(P2017-193372)
(22)【出願日】2017年10月3日
(65)【公開番号】特開2019-65617(P2019-65617A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2020年6月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 禎浩
(72)【発明者】
【氏名】河内 章
(72)【発明者】
【氏名】猪口 敏一
(72)【発明者】
【氏名】横山 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】松井 渉
【審査官】 小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−044622(JP,A)
【文献】 特開2002−147174(JP,A)
【文献】 特開平09−170398(JP,A)
【文献】 特開2003−193796(JP,A)
【文献】 特開2017−025637(JP,A)
【文献】 特開2003−003789(JP,A)
【文献】 特開平07−062980(JP,A)
【文献】 特開2001−207784(JP,A)
【文献】 特開平11−223089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/00
E21D 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自由断面掘削機のブームの先端に設けられるカッタヘッドを駆動するモータに流れる電流を検知する電流センサと、
前記電流センサで検知した前記電流の波形の振幅である波高値と、前記電流の絶対値の平均値或いは前記電流の実効値と、に基づいて前記カッタヘッドが掘削する切羽における岩盤の性状を判定する判定部とを備えた
ことを特徴とする岩盤性状判定装置。
【請求項2】
自由断面掘削機のブームの先端に設けられるカッタヘッドを駆動するモータに流れる電流を検知する電流センサと、
前記電流センサで検知した前記電流の前記モータのトルク変動に起因する振動成分の周波数と、前記電流の絶対値の平均値或いは前記電流の実効値と、に基づいて前記カッタヘッドが掘削する切羽における岩盤の性状を判定する判定部とを備えた
ことを特徴とする岩盤性状判定装置。
【請求項3】
前記判定部は、
前記電流の波高値が基準波高値より高く、前記電流の絶対値の平均値が基準平均値より低いか或いは前記電流の実効値が基準実効値より低い場合、前記岩盤が硬岩で組成されていると判定し、
前記電流の波高値が前記基準波高値より低く、前記電流の絶対値の平均値が前記基準平均値より高いか或いは前記電流の実効値が基準実効値より高い場合、前記岩盤が軟岩で組成されていると判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の岩盤性状判定装置。
【請求項4】
前記判定部は、
前記周波数が基準周波数より高く、且つ、前記平均値が前記基準平均値より低いか或いは前記実効値が前記基準実効値より低い場合、前記岩盤が大きな亀裂を有する硬岩であると判定し、
前記周波数が前記基準周波数より高く、且つ、前記平均値が前記基準平均値より高いか或いは前記実効値が前記基準実効値より高い場合、前記岩盤が小さな亀裂を有する硬岩であると判定し、
前記周波数が前記基準周波数より低く、且つ、前記平均値が前記基準平均値より高いか或いは前記実効値が前記基準実効値より高い場合、前記岩盤が軟岩であると判定する
ことを特徴とする請求項2に記載の岩盤性状判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岩盤性状判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル掘削をする掘削機には、いくつか種類があるが、断面を任意の形状に掘削するには、自由断面掘削機が用いられる。自由断面掘削機は、たとえば、走行体に対して左右方向への旋回と上下方向への俯仰可能に取付けたブームの先端にカッタヘッドを備えており、ブームでカッタヘッドを切羽における切削したい位置へ移動させて掘削する。
【0003】
トンネル掘削工事では、むき出しの切羽の任意の箇所を切削するので、予期せぬ地山状況の変化により、突発的に湧水が発生して、切羽の崩落や流出が起きる可能性がある。また、硬い地山を掘削する場合、自由断面掘削機への負荷が高いため、掘削機が故障して停止してしまう可能性がある。
【0004】
したがって、自由断面掘削機を用いる場合、安全かつ効率的にトンネル掘削を行うには、切羽における岩盤の強度の把握が重要である。従来は、削孔速度解析、先進ボーリング、坑内での弾性波探査等により事前に前方の岩盤の強度を予測していたが、これらの事前調査は、非常に高価である。
【0005】
そこで、安価に岩盤の硬度を計測する計測システムの提案があり、この計測システムでは、カッタヘッドで切羽を所定深さだけ垂直に切削し、その切削に際してカッタヘッドを駆動するモータが消費した電力量で岩盤の硬度を計測する(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−44622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の計測システムでは、カッタヘッドが岩盤を掘削する際の仕事量で岩盤の硬度を計測するため、切羽の掘削中に適時に岩盤の性状を判定できない。また、モータの電力量を検知するために、電流センサと電圧センサの複数のセンサが必要であり、高価であるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、現在の切羽における岩盤の性状を確認でき、且つ、安価な岩盤性状判定装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の岩盤性状判定装置は、自由断面掘削機のブームの先端に設けられるカッタヘッドを駆動するモータに流れる電流を検知する電流センサと、モータの電流の波形の振幅である波高値と、電流の絶対値の平均値或いは電流の実効値と、に基づいてカッタヘッドが掘削する切羽における岩盤の性状を判定する判定部とを備えている。このように構成される岩盤性状判定装置では、モータに流れる電流から切羽における岩盤の性状を判定できるから、現在掘削中の岩盤の性状を把握できる。
【0010】
具体的には、判定部は、モータの電流の波形における波高値が基準波高値より高く、且つ、電流の絶対値の平均値が基準平均値より低いか或いは電流の実効値が基準実効値より低い場合、岩盤が硬岩で組成されていると判定し、モータの電流の波形における波高値が基準波高値より低く、且つ、電流の絶対値の平均値が基準平均値より高いか或いは電流の実効値が基準実効値より低い場合、岩盤が軟岩で組成されていると判定すればよい。
【0011】
さらに、本発明の他の岩盤性状判定装置は、自由断面掘削機のブームの先端に設けられるカッタヘッドを駆動するモータに流れる電流を検知する電流センサと、電流のモータのトルク変動に起因する振動成分の周波数と、電流の絶対値の平均値或いは電流の実効値と、に基づいてカッタヘッドが掘削する切羽における岩盤の性状を判定する判定部とを備えている。このように構成される岩盤性状判定装置では、岩盤の硬度の他、岩盤が含んでいる亀裂の大小も判定できる。
【0012】
具体的には、判定部は、モータのトルク変動に起因する電流波形の振動成分の周波数が基準周波数より高く、且つ、電流の絶対値の平均値が基準平均値より低いか或いは電流の実効値が基準実効値より低い場合、岩盤が大きな亀裂を有する硬岩であると判定し、前記周波数が基準周波数より高く、且つ、前記平均値が基準平均値より高いか或いは前記実効値が基準実効値より高い場合、岩盤が小さな亀裂を有する硬岩であると判定し、前記周波数が基準周波数より低く、且つ、前記平均値が基準平均値より高いか或いは前記実効値が基準実効値より高い場合、岩盤が軟岩であると判定すればよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の岩盤性状判定装置によれば、安価に現在の切羽における岩盤の性状を確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施の形態における岩盤性状判定装置を搭載した自由断面掘削機の側面図である。
図2】(A)は、硬い岩盤を掘削した場合の電流波形を示した図である。(B)は、軟らかい岩盤を掘削した場合の電流波形を示した図である。
図3】一実施の形態の岩盤性状判定装置における岩盤の硬度の判定手順の第一例を説明する図である。
図4】一実施の形態の岩盤性状判定装置における岩盤の硬度の判定手順の第二例を説明する図である。
図5】大きな亀裂が有る岩盤と小さな亀裂が有る岩盤を掘削した場合の電流波形を示した図である。
図6】一実施の形態の岩盤性状判定装置における岩盤の硬度の判定手順の第三例を説明する図である。
図7】一実施の形態の岩盤性状判定装置における岩盤の硬度の判定手順の第四例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における岩盤性状判定装置1は、図1に示すように、切羽を掘削する自由断面掘削機EのブームBの先端に設けられるカッタヘッドCを駆動するモータMに流れる電流を検知する電流センサ2と、電流センサ2で検知した電流に基づいてカッタヘッドCが掘削する切羽における岩盤の性状を判定する判定部3とを備えて構成されている。
【0016】
以下、岩盤性状判定装置1の各部について詳細に説明する。まず、岩盤性状判定装置1が適用される自由断面掘削機Eは、クローラを備えた走行体Wと、走行体Wに対して左右方向への旋回と上下方向への俯仰とを可能に取付けられて伸縮可能なブームBと、ブームBの先端に回転可能に装着されるカッタヘッドCと、カッタヘッドCを回転駆動するモータMとを備えて構成されている。
【0017】
このように構成された自由断面掘削機Eは、カッタヘッドCをモータMで回転駆動しつつ、ブームBを駆動してカッタヘッドCを切羽の掘削したい位置へ配置するととともにカッタヘッドCを略一定の押圧力で切羽に押し付けて切羽における岩盤を掘削する。なお、モータMは、図示しない電源から一定電圧の電力供給を受けてカッタヘッドCを回転駆動するようになっている。
【0018】
つづいて、岩盤性状判定装置1について説明する。電流センサ2は、所定のサンプリング周期でモータMに流れる電流を順次検知して、検知した電流を判定部3へ出力する。
【0019】
判定部3は、電流センサ2が検知した電流の入力を受けてカッタヘッドCが切削中の切羽における岩盤の性状を判定する。判定部3は、有線通信にて電流センサ2からの電流の入力を受けてもよいし、無線通信によってもよい。また、判定部3は、自由断面掘削機Eに設置されていてもよいが、トンネル工事を管理する管理事務所に設置されてもよい。
【0020】
ここで、カッタヘッドCは、自由断面掘削機Eが掘削中は、ブームB側から図示しない油圧シリンダによって附勢されており、切羽に対して略一定の押付力にて押付られて切羽における岩盤を掘削する。カッタヘッドCは、掘削中に岩盤側から常に抵抗を受けて回転駆動されており、岩盤側からのカッタヘッドCに作用する抵抗が変化するとカッタヘッドCを駆動するモータMの出力トルクも変動する。モータMは、前述の通り、切羽を掘削する際に、図外の電源から一定電圧の電力供給を受けてカッタヘッドCを回転駆動しているので、トルクが変動するとモータMの巻線に流れる電流も変動する。
【0021】
カッタヘッドCで硬い岩盤を掘削する場合、カッタヘッドCが岩盤に食い込みにくいので、カッタヘッドCと岩盤との間で滑りが生じやすい。よって、掘削中にカッタヘッドCが岩盤から受ける抵抗は、平均的に低くなる傾向となるので、図2(A)に示すように、モータMの平均トルクも低くなり、モータMに流れる電流の絶対値の平均値も低くなる。また、岩盤が硬い場合、カッタヘッドCで岩盤を掘削すると岩盤から大きな塊の岩が剥がれやすい。このように大きな塊の岩が岩盤から剥がれる場合、岩が岩盤から剥がれる前にはカッタヘッドCに大きな抵抗が作用し、岩が岩盤から剥がれた後ではカッタヘッドCに作用する抵抗は著しく小さくなる。よって、岩が岩盤から剥がれる前後においては、モータMのトルクが大きく変動するから、図2(A)に示すように、モータMに流れる電流も大きく変動する。したがって、カッタヘッドCが掘削中の岩盤が硬い場合、モータMの電流の波形の波高値、つまり、電流波形の振幅は大きくなる傾向を示す。
【0022】
他方、カッタヘッドCで軟らかい岩盤を掘削する場合、カッタヘッドCが岩盤に食い込みやすいので、カッタヘッドCが岩盤から受ける抵抗は平均的に高くなる傾向となる。よって、図2(B)に示すように、モータMの平均トルクが高くなり、モータMに流れる電流の絶対値の平均値も高くなる。また、岩盤が軟らかい場合、カッタヘッドCで岩盤を掘削すると、岩盤が削られやすいために岩盤から粒子の細かい石が削り取られる。このようにカッタヘッドCの掘削により細かい石が岩盤から削り取られる場合、カッタヘッドCが受ける抵抗の変動は、硬い岩盤を掘削する場合に比較して小さくなる。よって、図2(B)に示すように、カッタヘッドCが掘削中の岩盤が軟らかい場合、モータMの電流の波形の波高値は小さくなる傾向を示す。
【0023】
以上より、判定部3は、モータMに流れる電流の絶対値の平均値と、電流の波形の波高値に基づいて、岩盤の性状を判定する。具体的には、判定部3は、図3に示すように、モータMの電流の波形の振幅である波高値に対して基準波高値を設定するとともに、電流の絶対値の平均値に対して基準平均値を設定し、波高値と基準波高値の比較結果と電流の絶対値の平均値と基準平均値の比較結果に基づいて岩盤の性状を判定する。より詳細には、判定部3は、モータMの電流の波形における波高値が基準波高値より高く、且つ、前記電流の絶対値の平均値が基準平均値より低い場合、岩盤が硬岩で組成されていると判定し、前記電流の波形における波高値が基準波高値より低く、且つ、前記電流の絶対値の平均値が基準平均値より高い場合、岩盤が軟岩で組成されていると判定する。なお、電流の波形の波高値の高低を判定するための基準となる基準波高値と、電流の絶対値の平均値の高低を判定するための基準となる基準平均値は、たとえば、実機で岩盤を掘削して得られるデータと岩盤の硬度調査の結果とを参酌して決めればよい。なお、波高値については、電流波形の振幅の平均値或いは電流波形における振幅の大きなものを決められた個数を抽出して抽出した振幅の平均値を波高値としてもよいし、電流波形における最大振幅を波高値としてもよい。
【0024】
本例では、岩盤の性状を硬岩と軟岩のいずれかであると判定しているが、電流の絶対値の平均値が低く、且つ、電流の波形の波高値が高い程、岩盤の硬度が高く、電流の絶対値の平均値が高く、且つ、電流の波形の波高値が低い程、岩盤の硬度が低くなる。よって、判定部3は、岩盤の性状の判定において、岩盤の硬度を電流の絶対値の平均値と電流の波形の波高値とに基づいて数値で出力するようにしてもよい。
【0025】
なお、図示はしないが、カッタヘッドCで硬い岩盤を掘削する場合、モータMに流れる電流の絶対値の平均値と同様に、電流の実効値も低くなり、カッタヘッドCで軟らかい岩盤を掘削する場合、モータMに流れる電流の絶対値の平均値と同様に、電流の実効値も高くなる。よって、判定部3は、岩盤の硬軟の判定において、電流の波形の波高値と共に使用する判定材料として、モータMに流れる電流の絶対値の平均値の代わりに当該電流の実効値を用いてもよい。
【0026】
この場合、判定部3は、モータMに流れる電流の実効値と、電流の波形の波高値に基づいて、岩盤の性状を判定すればよい。具体的には、判定部3は、図4に示すように、モータMの電流の波形の振幅である波高値に対して基準波高値を設定するとともに、電流の実効値に対して基準実効値を設定し、波高値と基準波高値の比較結果と電流の実効値と基準実効値の比較結果に基づいて岩盤の性状を判定する。より詳細には、判定部3は、モータMの電流の波形における波高値が基準波高値より高く、且つ、前記電流の実効値が基準実効値より低い場合、岩盤が硬岩で組成されていると判定し、前記電流の波形における波高値が基準波高値より低く、且つ、前記電流の実効値が基準実効値より高い場合、岩盤が軟岩で組成されていると判定する。なお、電流の実効値の高低を判定するための基準となる基準実効値は、たとえば、実機で岩盤を掘削して得られるデータと岩盤の硬度調査の結果とを参酌して決めればよい。
【0027】
また、岩盤の性状を硬岩と軟岩のいずれかであると判定しているが、電流の実効値が低く、且つ、電流の波形の波高値が高い程、岩盤の硬度が高く、電流の実効値が高く、且つ、電流の波形の波高値が低い程、岩盤の硬度が低くなる。よって、判定部3は、岩盤の性状の判定において、岩盤の硬度を電流の実効値と電流の波形の波高値とに基づいて数値で出力するようにしてもよい。
【0028】
また、判定部3は、モータMに流れる電流の絶対値の平均値と、トルク変動に起因してモータMの電流の波形に現れる振動成分の周波数とに基づいて岩盤の性状を判定してもよい。カッタヘッドCで硬い岩盤を掘削する場合、カッタヘッドCで岩盤を掘削すると岩盤から順次岩が剥がれるので、カッタヘッドCが岩盤から受ける抵抗が大きく変動し、モータMのトルク変動の周期も短くなる。他方、カッタヘッドCで軟らかい岩盤を掘削する場合にはトルク変動が少ないために、モータMのトルク変動の周期が長くなる。図2に示すように、トルク変動に起因してモータMの電流の波形に現れる振動成分の周波数はモータMの電流波形の包絡線に一致する。そこで、前記トルク変動に起因してモータMの電流の波形に現れる振動成分の周波数に着目すると、図2に示すように、硬い岩盤を掘削した場合の電流の波形(図2(A)中実線)の包絡線(図2(A)中破線)の周波数の方が軟らかい岩盤を掘削した場合の電流の波形(図2(B)中実線)の包絡線(図2(B)中破線)の周波数より高くなる。したがって、判定部3では、電流センサ2から入力されるモータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数を調べて、この周波数が高い場合、岩盤が硬岩で組成されていると判定する。前記包絡線を得るには、たとえば、ヒルベルト変換によってもよいし、包絡線検波器を用いてもよい。なお、トルク変動に起因してモータMの電流の波形に現れる振動成分の周波数を得るには、包絡線を求める他、以下のようにしてもよい。検知したモータMの電流からモータMを駆動するために要求される電流の駆動周波数よりも低周波のトルク変動に起因する振動成分の周波数成分を抽出するローパスフィルタ或いはバンドパスフィルタで前記電流を濾波して前記振動成分を抽出し、抽出した振動成分から周波数を求めてもよい。
【0029】
さらに、発明者らは、岩盤が硬い場合であって、岩盤に亀裂が有る場合、亀裂の大小によって、カッタヘッドCが岩盤から受ける抵抗に差があり、岩盤の亀裂が大きい程、カッタヘッドCが岩盤から受ける抵抗の平均値が低くなるとの知見を得た。したがって、図5に示すように、大きな亀裂が有る硬い岩盤を掘削する場合の電流波形(図5中実線)と、小さな亀裂が有る硬い岩盤を掘削する場合の電流波形(図5中破線)とを比較すると、亀裂が大きくなる程、電流の絶対値の平均値が低くなる。よって、判定部3は、モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数が高く、且つ、電流の絶対値の平均値が低い場合、岩盤が大きな亀裂を含む硬岩で組成されていると判定する。また、判定部3は、モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数が高く、且つ、電流の絶対値の平均値が高い場合、岩盤が小さな亀裂を含む硬岩で組成されていると判定する。
【0030】
これに対して、カッタヘッドCで軟らかい岩盤を掘削する場合、カッタヘッドCで岩盤を掘削すると岩盤が削られやすいのでカッタヘッドCが岩盤から受ける抵抗の変動は少なく、モータMのトルク変動の周期も長くなる。つまり、前記トルク変動に起因してモータMの電流の波形に現れる振動成分の周波数は低くなる。したがって、電流センサ2から入力されるモータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数が低い場合、岩盤が軟岩で組成されている可能性がある。また、カッタヘッドCで軟らかい岩盤を掘削する場合、カッタヘッドCが岩盤に食い込みやすいので、モータMの平均トルクが高くなり、モータMに流れる電流の絶対値の平均値が高くなる。よって、判定部3は、モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数が低く、且つ、電流の絶対値の平均値が高い場合に、岩盤が軟岩で組成されていると判定する。
【0031】
以上より、判定部3は、モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数とモータMに流れる電流の絶対値の平均値とに基づいて、岩盤の性状を判定する。具体的には、判定部3は、図6に示すように、モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数に対して基準周波数を設定するとともに、電流の絶対値の平均値に対して基準平均値を設定し、前記周波数と基準周波数の比較結果と電流の絶対値の平均値と基準平均値の比較結果に基づいて岩盤の性状を判定する。より詳細には、判定部3は、モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数が基準周波数より高く、且つ、電流の絶対値の平均値が基準平均値より低い場合、岩盤が大きな亀裂を含む硬岩で組成されていると判定する。また、判定部3は、モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数が基準周波数より高く、且つ、電流の絶対値の平均値が基準平均値より高い場合、岩盤が小さな亀裂を含む硬岩で組成されていると判定する。さらに、判定部3は、モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数基準周波数よりが低く、且つ、電流の絶対値の平均値が基準平均値より高い場合に、岩盤が軟岩で組成されていると判定する。なお、モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数の高低を判定するための基準となる基準周波数と、電流の絶対値の平均値の高低を判定するための基準となる基準平均値は、たとえば、実機で岩盤を掘削して得られるデータと岩盤の硬度調査の結果とを参酌して決めればよい。また、前記モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数とモータMに流れる電流の絶対値の平均値とに基づいて岩盤の性状を判定するための基準平均値は、モータMの電流の波形の波高値と電流の絶対値の平均値とに基づいて岩盤の性状を判定する際の基準平均値とは、異なる値に設定されてもよい。
【0032】
本例では、岩盤の性状を硬岩と軟岩のいずれかであるかとの判定と、硬岩である場合に亀裂が大きいか小さいかの判定をしている。モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数が高いほど岩盤の硬度が高く、岩盤が硬岩である場合に電流の絶対値の平均値が低い程亀裂が大きくなる。また、モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数が低く、且つ、電流の平均値が高いほど岩盤の硬度が低くなる。よって、判定部3は、岩盤の性状の判定において、岩盤の硬度と亀裂の大小を前記周波数と電流の平均値とに基づいて数値で出力するようにしてもよい。
【0033】
なお、図示はしないが、大きな亀裂が有る硬い岩盤を掘削する場合の電流波形と、小さな亀裂が有る硬い岩盤を掘削する場合の電流波形とを比較すると、亀裂が大きくなる程、電流の絶対値の平均値と同様に電流の実効値が低くなる。よって、判定部3は、モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数が高く、且つ、電流の実効値が低い場合、岩盤が大きな亀裂を含む硬岩で組成されていると判定してもよい。また、判定部3は、モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数が高く、且つ、電流の実効値が高い場合、岩盤が小さな亀裂を含む硬岩で組成されていると判定してもよい。つまり、判定部3は、岩盤の性状の判定において、モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数と共に使用する判定材料として、モータMに流れる電流の絶対値の平均値の代わりに当該電流の実効値を用いてもよい。
【0034】
この場合、具体的には、判定部3は、モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数に対して基準周波数を設定するとともに、電流の実効値に対して基準実効値を設定し、前記周波数と基準周波数の比較結果と電流の実効値と基準実効値の比較結果に基づいて岩盤の性状を判定すればよい。より詳細には、判定部3は、図7に示すように、モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数が基準周波数より高く、且つ、電流の実効値が基準実効値より低い場合、岩盤が大きな亀裂を含む硬岩で組成されていると判定する。また、判定部3は、モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数が基準周波数より高く、且つ、電流の実効値が基準実効値より高い場合、岩盤が小さな亀裂を含む硬岩で組成されていると判定する。さらに、判定部3は、モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数基準周波数よりが低く、且つ、電流の実効値が基準実効値より高い場合に、岩盤が軟岩で組成されていると判定する。なお、電流の実効値の高低を判定するための基準となる基準実効値は、たとえば、実機で岩盤を掘削して得られるデータと岩盤の硬度調査の結果とを参酌して決めればよい。また、前記モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数とモータMに流れる電流の実効値とに基づいて岩盤の性状を判定するための基準実効値は、モータMの電流の波形の波高値と電流の実効値とに基づいて岩盤の性状を判定する際の基準実効値とは、異なる値に設定されてもよい。
【0035】
本例では、岩盤の性状を硬岩と軟岩のいずれかであるかとの判定と、硬岩である場合に亀裂が大きいか小さいかの判定をしている。モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数が高いほど岩盤の硬度が高く、岩盤が硬岩である場合に電流の実効値が低い程亀裂が大きくなる。また、モータMの電流の波形に現れるトルク変動による振動成分の周波数が低く、且つ、電流の実効値が高いほど岩盤の硬度が低くなる。よって、判定部3は、岩盤の性状の判定において、岩盤の硬度と亀裂の大小を前記周波数と電流の実効値とに基づいて数値で出力するようにしてもよい。
【0036】
以上、本発明の岩盤性状判定装置1は、自由断面掘削機EのブームBの先端に設けられるカッタヘッドCを駆動するモータMに流れる電流を検知する電流センサ2と、電流センサ2で検知した電流に基づいてカッタヘッドCが掘削する切羽における岩盤の性状を判定する判定部3とを備えている。このように構成される岩盤性状判定装置1では、モータMに流れる電流から切羽における岩盤の性状を判定できるから、掘削中に岩盤の性状が変化しても適時に岩盤の性状を把握でき、切羽崩落等の危険の有無をいち早く察知できる。また、モータMの電流の検知のみで岩盤の性状を判定できるから、複数のセンサを設置する必要がなく、簡単且つ安価に岩盤の性状を把握できる。もともと、モータMに電流センサが設けられている場合には、この電流センサを岩盤性状判定装置1における電流センサ2として利用してもよい。
【0037】
また、判定部3がモータMの電流の波形における波高値と電流の平均値とに基づいて岩盤の性状を判定する場合には、岩盤の硬度を判定できる。なお、具体的には、判定部3は、モータMの電流の波形における波高値が基準波高値より高く、且つ、電流の平均値が基準平均値より低い場合、岩盤が硬岩で組成されていると判定し、モータMの電流の波形における波高値が基準波高値より低く、且つ、電流の平均値が基準平均値より高い場合、岩盤が軟岩で組成されていると判定すればよい。
【0038】
さらに、判定部3は、モータMの電流の波形のトルク変動に起因する振動成分の周波数とモータMの電流の平均値とに基づいて岩盤の性状を判定してもよく、この場合には、岩盤の硬度の他、岩盤が含んでいる亀裂の大小も判定できる。なお、具体的には、判定部3は、モータMのトルク変動に起因する電流波形の振動成分の周波数が基準周波数より高く、且つ、電流の平均値が基準平均値より低いと岩盤が大きな亀裂を有する硬岩であると判定し、前記周波数が基準周波数より高く、且つ、前記平均値が基準平均値より高いと岩盤が小さな亀裂を有する硬岩であると判定し、前記周波数が基準周波数より低く、且つ、前記平均値が基準平均値より高いと岩盤が軟岩であると判定すればよい。
【0039】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0040】
1・・・岩盤性状判定装置、2・・・電流センサ、3・・・判定部、B・・・ブーム、C・・・カッタヘッド、E・・・自由断面掘削機、M・・・モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7