特許第6942912号(P6942912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6942912
(24)【登録日】2021年9月13日
(45)【発行日】2021年9月29日
(54)【発明の名称】鍛造機
(51)【国際特許分類】
   B21J 13/02 20060101AFI20210916BHJP
   B30B 15/00 20060101ALI20210916BHJP
   B30B 15/28 20060101ALI20210916BHJP
【FI】
   B21J13/02 Z
   B30B15/00 B
   B30B15/28 K
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-147199(P2017-147199)
(22)【出願日】2017年7月28日
(65)【公開番号】特開2019-25518(P2019-25518A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000117009
【氏名又は名称】旭サナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】田丸 敬三
(72)【発明者】
【氏名】森田 真
【審査官】 永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−254015(JP,A)
【文献】 特開2009−061456(JP,A)
【文献】 特開平08−105737(JP,A)
【文献】 特開2004−164635(JP,A)
【文献】 特開平09−327800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 13/02
B30B 15/00
B30B 15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームと、
前記フレームに設けられるダイスと、
前記フレームに対して往復動作するラムと、
前記ラムに設けられ、前記ダイスと組になってワークに鍛造加工を施すパンチと、
前記ワークを生産する稼働時に、前記フレームを基準とした前記ラムの動作方向の位置を含む直交三方向の三次元位置を検出する位置検出部と、
を備え
前記位置検出部は、前記フレームおよび前記ラムの一方に固設されて前記直交三方向にそれぞれ被検出面をもつ位置基準部材と、前記フレームおよび前記ラムの他方に固設されて前記位置基準部材の三つの前記被検出面との離間距離を検出する三次元距離検出部とを有し、前記ラムが前記動作方向の前死点まで到達して前記ワークへの前記鍛造加工が終了する瞬間における前記ラムの前記三次元位置を検出し、
前記位置基準部材の前記動作方向以外の二方向の前記被検出面の少なくとも一方は、前記動作方向に対して傾斜したテーパ面であり、
前記三次元距離検出部は、前記テーパ面との前記離間距離の最小値または最大値を検出することにより、前記ラムの前記動作方向以外の二方向の少なくとも一方の位置を検出する、
鍛造機。
【請求項2】
フレームと、
前記フレームに設けられるダイスと、
前記フレームに対して往復動作するラムと、
前記ラムに設けられ、前記ダイスと組になってワークに鍛造加工を施すパンチと、
前記ワークを生産する稼働時に、前記フレームを基準とした前記ラムの動作方向の位置を含む直交三方向の三次元位置を検出する位置検出部と、を備え、かつ、
2組の前記位置検出部を前記ラムの幅方向両側の前記パンチに近い前側寄りに備える、
鍛造機。
【請求項3】
前記位置検出部が検出した前記ラムの前記位置のデータを蓄積するデータ蓄積部と、
蓄積された前記ラムの前記位置の前記データに基づいて診断を行う診断部と、
をさらに備える請求項1または2に記載の鍛造機。
【請求項4】
蓄積された前記ラムの前記位置の前記データを可搬記録媒体にコピーして外部への提供を可能とするデータ提供部をさらに備える請求項3に記載の鍛造機。
【請求項5】
前記ダイスと前記パンチの相対位置関係を検出する金型位置検出部をさらに備え、
前記診断部は、前記位置検出部が検出した前記ラムの前記位置と、前記金型位置検出部が検出した前記相対位置関係を対比して診断を行う、請求項3または4に記載の鍛造機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイスおよびパンチを用いてワークに鍛造加工を施す鍛造機に関し、より詳細には、パンチが設けられて往復動作するラムの位置の検出に関する。
【背景技術】
【0002】
圧造機を始めとする鍛造機では、金型としてダイスおよびパンチを用いてワークに鍛造加工を施し、所定形状に仕上げている。ダイスおよびパンチは、生産するワークの形状に合わせて随時交換される。鍛造加工が継続すると、加工時に発生する熱が蓄積して金型を始めとする各部に熱膨張が発生し、ワークの加工精度が低下する。さらに、長期間の鍛造加工によるストレスの蓄積によって、金型の破損や駆動部の経時劣化などのおそれが高まる。鍛造加工時の加工精度を高く維持する技術例が特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1のサーボプレス機は、第1および第2サーボモータによって上下方向に往復動するラムと、ラムの下死点位置を検出するセンサと、下死点位置の上下方向の誤差が発生した場合に第1および第2サーボモータの回転位相を調整して下死点位置を補正する調整手段と、を備える。これによれば、ラムの下死点位置を補正して、加工時の下死点位置の変動を抑えることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−150198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1では、ラムの下死点位置の誤差を補正することにより、ラムの動作方向におけるパンチとダイスの位置関係を保って、シート状材料のプレス厚さを維持している。同様の技術は、複数の工程で厚物のワークに圧造加工を施す横型の多工程圧造機でも実用化されている。例えば、複数のパンチが列設されたラムの左右両側に、前死点を検出するセンサが設けられる。これにより、ラムの挙動の異常が判定される。
【0006】
上記のようにラムの往復の動作方向における下死点や前死点の位置変動を検出することで、ワークの加工精度が維持される。それでも、厳しい加工精度を要求されるワークの生産を安定して行うには、熟練した作業者が必要とされていた。つまり、熟練作業者の経験や勘に基づいて、鍛造加工が継続したときの各部の熱膨張などを考慮した調整が行われてきた。しかしながら、熟練作業者に頼ることなくワークの加工精度の低下を防止するためには、ラムの挙動の検出精度を向上することが必要である。さらに、検出精度の向上によって、経時劣化の傾向把握を始めとする様々な波及効果も期待される。
【0007】
本発明は、上記した背景技術の問題点に鑑みてなされたものであり、ラムの挙動の検出精度を向上して、ワークの加工精度の低下を防止できる鍛造機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の鍛造機は、フレームと、前記フレームに設けられるダイスと、前記フレームに対して往復動作するラムと、前記ラムに設けられ、前記ダイスと組になってワークに鍛造加工を施すパンチと、前記ワークを生産する稼働時に、前記フレームを基準とした前記ラムの動作方向の位置を含む直交三方向の三次元位置を検出する位置検出部と、を備え、前記位置検出部は、前記フレームおよび前記ラムの一方に固設されて前記直交三方向にそれぞれ被検出面をもつ位置基準部材と、前記フレームおよび前記ラムの他方に固設されて前記位置基準部材の三つの前記被検出面との離間距離を検出する三次元距離検出部とを有し、前記ラムが前記動作方向の前死点まで到達して前記ワークへの前記鍛造加工が終了する瞬間における前記ラムの前記三次元位置を検出し、前記位置基準部材の前記動作方向以外の二方向の前記被検出面の少なくとも一方は、前記動作方向に対して傾斜したテーパ面であり、前記三次元距離検出部は、前記テーパ面との前記離間距離の最小値または最大値を検出することにより、前記ラムの前記動作方向以外の二方向の少なくとも一方の位置を検出する
また、鍛造機は、フレームと、前記フレームに設けられるダイスと、前記フレームに対して往復動作するラムと、前記ラムに設けられ、前記ダイスと組になってワークに鍛造加工を施すパンチと、前記ワークを生産する稼働時に、前記フレームを基準とした前記ラムの動作方向の位置を含む直交三方向の三次元位置を検出する位置検出部と、を備え、かつ、2組の前記位置検出部を前記ラムの幅方向両側の前記パンチに近い前側寄りに備えてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の鍛造機において、位置検出部は、従来技術で検出していたラムの動作方向の位置だけでなく、ラムの動作方向に直交する直交方向の位置を検出する。したがって、各部の直交方向の熱膨張の影響や直交方向の振動の影響などの把握が可能になり、ラムの挙動の検出精度が向上して、ワークの加工精度の低下が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る多工程圧造機の全体構成を模式的に示す平面図である。
図2】位置基準部材を示す図であってラムを斜め前方から見た斜視図である。
図3】位置基準部材および三次元距離検出部を模式的に示した斜視図である。
図4】前後距離センサ、左右距離センサ、および上下距離センサの検出信号の一例を示した波形図である。
図5】ラムの三次元位置のデータを管理するデータ管理部の機能構成を示すブロック図である。
図6】ラムの三次元位置のデータの表示例であって、左右方向および上下方向の変位状況を示した散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態の鍛造機の一例である多工程圧造機1の全体構成について、まず説明する。図1は、本発明の実施形態に係る多工程圧造機1の全体構成を模式的に示す平面図である。横型の多工程圧造機1は、フレーム2、ラム3、複数組のパンチ4およびダイス5、トランスファ装置6、位置検出部7、データ管理部8、および駆動部9などで構成されている。多工程圧造機1は、5組のパンチ4およびダイス5により構成された第1〜第5圧造工程で、ワークに順次圧造加工を施す。図1において、第1〜第5圧造工程は、上側から下側へと並んでいる。パンチ4は、図1の左右方向に延びる軸線方向に動作する。ダイス5は、パンチ4と軸線を共通にして配置される。
【0012】
フレーム2は、各部を配設するための筐体であり、鉄製で堅牢に形成されている。5個のダイスホルダ21は、フレーム2の幅方向に並んで設けられる。5個のダイス5は、各ダイスホルダ21の前側(図中の左側)に交換可能に取り付けられる。各ダイス5の図中の左方向を向いた前側に、所定の加工型が形成されている。
【0013】
ラム3は、平面視で概ね矩形であり、フレーム2に対して軸線方向の前後に往復動作する。つまり、図1の左右方向は、パンチ4およびダイス5の軸線方向であり、ラム3の動作方向でもある。図1において、ラム3は、動作方向の後死点に位置している。5個のパンチホルダ31は、ラム3の前側(図中の右側)の幅方向に並んで設けられる。5個のパンチ4は、各パンチホルダ31の前側(図中の右側)に交換可能に取り付けられる。各パンチ4の図中の右方向を向いた前側に、所定の加工型が形成されている。
【0014】
多工程圧造機1は、環形の可動カッタ、線材送り機構、およびプッシャ機構を有した切断機構部(図略)を備える。可動カッタは、線材送り機構によって環形の内部に挿入された長尺線材を切断し、所定寸法の円柱状のワークを作成する。プッシャ機構は、可動カッタからワークをプッシュアウトする。ワークの材質として、アルミや鉄、各種の合金などを例示できる。
【0015】
トランスファ装置6は、ダイスホルダ21の上方からダイス5の前方にかけて配設される。トランスファ装置6は、ワークを把持する6対のフィンガを有する。トランスファ装置6は、上流側工程でダイス5から突き出されたワークを把持して、下流側工程のダイス5の前方まで搬送する。
【0016】
ラム3を往復駆動するために駆動部9が設けられる。駆動部9は、主駆動源91と、各種の伝達機構およびカム機構などで構成される。主駆動源91は、例えば、三相交流電源で動作する誘導モータまたは同期モータとすることができる。駆動部9は、トランスファ装置6および切断機構部を併せて駆動する。主駆動源91の駆動力は、フライホイール92、ディスクブレーキ93、および減速機構94を介して、ラム3を駆動するクランク軸95に入力されている。さらに、クランク軸95から分岐歯車対96を介してサイド軸97へと、駆動力が分岐伝達される。
【0017】
サイド軸97は、駆動力を上方に分岐伝達する。上方に分岐された駆動力は、トランスファカム98を回転駆動して、最終的にトランスファ装置6を駆動する。また、サイド軸97からトランスファドライブ99を経由した先に、6個のオープンクローズカム9Aが回転駆動されるように連結されている。オープンクローズカム9Aは、幅方向に等間隔で配置されている。
【0018】
オープンクローズカム9Aは、それぞれ一対のフィンガを開閉駆動する。最上流の第1のフィンガ対は、切断機構部でワークを把持して、第1圧造工程まで搬送する。第2〜第5のフィンガ対は、上流側の圧造工程でワークを把持して、下流側工程まで搬送する。最下流の第6のフィンガ対は、第5圧造工程でワークを把持して、図略の搬出部まで搬送する。
【0019】
さらに、サイド軸97には、カッタカム9Bが設けられるとともに、プッシャカム9C、フィードカム9D、フィードローラ9E、および複数のノックアウトカム9Fが連結されている。カッタカム9B、プッシャカム9C、フィードカム9D、およびフィードローラ9Eは、切断機構部を駆動する。ノックアウトカム9Fは、幅方向に等間隔で配置されており、各工程の位置に対応している。ノックアウトカム9Fは、図略のノックアウトピンを駆動して、圧造加工されたワークをダイス5から突き出す。
【0020】
次に、位置検出部7について説明する。位置検出部7は、ワークを生産する稼働時および調整作業時に、フレーム2を基準としたラム3の三次元位置を検出する。検出タイミングについて詳述すると、位置検出部7は、ラム3が動作方向の前死点まで到達してワークへの圧造加工が終了する瞬間におけるラム3の三次元位置を検出する。位置検出部7は、ラム3の幅方向両側の前側寄りにそれぞれ配置される。
【0021】
2組の位置検出部7は、それぞれ位置基準部材71および三次元距離検出部75で構成される。図2は、位置基準部材71を示す図であってラム3を斜め前方から見た斜視図である。図3は、位置基準部材71および三次元距離検出部75を模式的に示した斜視図である。図3において、位置基準部材71のテ−パ形状が誇張して示されている。
【0022】
図1および図2に示されるように、位置基準部材71は、ラム3の両方の側面の前側寄りに固設される。位置基準部材71は、ラム3の動作方向に延びるブロック状の部材である。位置基準部材71は、高い透磁率を有する磁性材料、例えば鉄を用いて形成される。これにより、渦電流方式の三次元距離検出部75の検出感度が確保される。図3に示されるように、位置基準部材71は、前側に前後方向被検出面72をもつ。また、位置基準部材71は、一方の側面に左右方向被検出面73をもち、上側に上下方向被検出面74をもつ。
【0023】
前後方向被検出面72は、ラム3の動作方向に直交する平面となっている。左右方向被検出面73は、図3に誇張して示されるように、ラム3の動作方向に対して平行せず、わずかに傾斜したテ−パ面となっている。同様に、上下方向被検出面74も、ラム3の動作方向に対して平行せず、わずかに傾斜したテ−パ面となっている。これにより、位置基準部材71は、先端ほど細く形成される。なお、位置基準部材71は、逆に先端ほど太く形成されてもよい。
【0024】
一方、三次元距離検出部75は、フレーム2に固設される。三次元距離検出部75は、前後距離センサ76、左右距離センサ77、および上下距離センサ78の集合体である。三つの距離センサ(76、77、78)は、対向する磁性体に高周波の渦電流を誘起して、磁性体との離間距離を検出する渦電流方式のセンサである。距離センサ(76、77、78)は、リニアライズ機能を内蔵しており、磁性体との離間距離に比例した検出信号を出力する。距離センサ(76、77、78)の分解能は、1μm程度と極めて高精度である。これに限定されず、三次元距離検出部75は、非接触検出が可能な別方式のセンサであってもよい。
【0025】
図3および図5に示されるように、三つの距離センサ(76、77、78)は、相互に90°の角度差をもつ向きに三次元配置される。前後距離センサ76は、ラム3が前死点に接近したときに、前後方向被検出面72に近接して正対する。また、左右距離センサ77は、ラム3が前死点に接近したときに左右方向被検出面73に近接して対向する。同様に、上下距離センサ78は、ラム3が前死点に接近したときに上下方向被検出面74に近接して対向する。三つの距離センサ(76、77、78)の検出信号は、データ管理部8に出力される。
【0026】
図4は、前後距離センサ76、左右距離センサ77、および上下距離センサ78の検出信号の一例を示した波形図である。図4において、横軸は共通の時間軸tである。図4の上段に示される前後距離センサ76の検出信号は、大きな振幅の正弦波状に変化している。検出信号の最小値S1が発生する時刻t1は、ラム3の前死点に対応し、最大値L1が発生する時刻t2は、ラム3の後死点に対応する。
【0027】
図4の中段に示される左右距離センサ77の検出信号は、小さな振幅の正弦波状に変化している。検出信号の最小値S2が発生する時刻t1は、前後距離センサ76の時刻t1に一致する。検出信号の最大値L2が発生する時刻t2は、前後距離センサ76の時刻t2に一致する。同様に、図4の下段に示される上下距離センサ78の検出信号も、小さな振幅の正弦波状に変化している。検出信号の最小値S3が発生する時刻t1は、前後距離センサ76の時刻t1に一致する。検出信号の最大値L3が発生する時刻t2は、前後距離センサ76の時刻t2に一致する。
【0028】
左右距離センサ77および上下距離センサ78の検出信号が正弦波状となるのは、左右方向被検出面73および上下方向被検出面74がテ−パ面であることに起因する。これにより、正弦波状に変化する二つの検出信号の最小値S2、S3を換算して、ラム3の前死点における左右方向および上下方向の離間距離を求めることができる。なお、位置基準部材71の先端が太い態様では、二つの検出信号の最大値L2、L3がラム3の前死点に対応する。
【0029】
仮に、左右方向被検出面73および上下方向被検出面74がラム3の動作方向に平行した平面である場合を想定する。この場合、左右距離センサ77および上下距離センサ78の検出信号は、変化しないフラットな波形となる。したがって、波形上でラム3の前死点に相当する時刻が不明となる。このため、ラム3の幅方向や上下方向の不規則な振動などが影響すると、正確な検出が困難になる。また、前後距離センサ76の検出信号から求められる時刻t1を左右距離センサ77および上下距離センサ78の検出信号に適用する方法は可能である。しかしながら、この方法では、波形処理の方法が複雑化、および煩雑化する。
【0030】
図5は、ラム3の三次元位置のデータを管理するデータ管理部8の機能構成を示すブロック図である。データ管理部8は、波形処理部81、データ蓄積部82、データ表示部83、データ提供部84、および診断部85の機能を有する。また、データ管理部8は、メモリ86を内蔵するとともに、表示装置87およびデータ出力装置88を備える。データ管理部8は、2組の位置検出部7のそれぞれ三つの距離センサ(76、77、78)から検出信号を受け取る。さらに、データ管理部8は、着脱可能な金型位置検出部89からも検出信号を受け取る。
【0031】
データ管理部8の波形処理部81は、まず、距離センサ(76、77、78)の検出信号からそれぞれの最小値S1、最小値S2、最小値S3を求める。次に、波形処理部81は、最小値S1を前後方向の離間距離に換算する。同様に、波形処理部81は、最小値S2および最小値S3を左右方向および上下方向の離間距離に換算する。求められた三つの離間距離は、ラム3の前死点における値であり、ラム3の三次元位置を表す。このため、ワークへの圧造加工が終了する瞬間のラム3の三次元位置が、高い精度で検出される。換言すると、波形処理部81は、ワークの加工精度を正確に検出することができる。
【0032】
金型位置検出部89は、ダイス5とパンチ4の相対位置関係を検出する。金型位置検出部89は、本願出願人が特開2009−61456号に開示した技術を用いて構成される。この技術の要点について略述する。金型位置検出部89は、被検出部材891および検出部892を備える。被検出部材891は、ダイス5およびパンチ4の一方に代えて装着される。検出部892は、ダイス5およびパンチ4の他方に代えて装着され、被検出部材891との相対位置関係を検出する。被検出部材891および検出部892の構成は、位置基準部材71および三次元距離検出部75の構成に類似する。検出部892は、検出信号をデータ管理部8に出力する。
【0033】
これにより、データ管理部8の側で、ダイス5とパンチ4の三次元の相対位置関係が求められる。例えば、ダイス5とパンチ4の芯ずれの程度や、ラム3の前死点におけるダイス5とパンチ4の相互間距離が求められる。金型位置検出部89は、調整作業時に用いられ、稼働時には取り外される。金型位置検出部89は、同時に複数用いられてもよく、また、どの工程に用いられてもよい。
【0034】
データ蓄積部82は、位置検出部7が検出して波形処理部81が求めたラム3の三次元位置のデータをメモリ86に記憶する。さらに、データ蓄積部82は、データの記憶を繰り返して、データを蓄積する。また、データ蓄積部82は、金型位置検出部89で検出されたダイス5とパンチ4の相対位置関係のデータも、メモリ86に記憶して蓄積する。データ表示部83は、蓄積されたラム3の三次元位置を表示装置87に表示する。
【0035】
図6は、ラム3の三次元位置のデータの表示例であって、左右方向および上下方向の変位状況を示した散布図である。図6において、圧造動作の1回目から10回目までの測定データが●印で示され、11回目以降の測定データが■印で示されている。この測定データの例では、ラム3が左下方向にわずかに変位しやすい傾向が認められる。
【0036】
データ提供部84は、データ出力装置88を用い、蓄積されたラム3の三次元位置のデータを可搬記録媒体にコピーして外部への提供を可能とする。可搬記録媒体として、抜き差し可能な磁気ディスクやメモリスティックなどを例示できる。また、データ出力装置88として、ディスクドライブやUSBポートをもつIO装置などを例示できる。これにより、外部の解析装置を用いて、ラム3の挙動を精密に解析することができる。なお、データ提供部84は、データ出力装置88として通信装置を備え、通信によってラム3の三次元位置のデータを外部へ提供してもよい。
【0037】
診断部85は、蓄積されたラム3の三次元位置のデータを分析して各種の診断を行う。具体的に、診断部85は、ラム3の前後方向の変位状況、ならびに図6に例示されたラム3の左右方向および上下方向の変位状況から、ワークの加工精度を把握する。例えば、診断部85は、2組の位置検出部7で検出された二つの前後方向の離間距離に基づき、各工程のパンチ4とダイス5の相互間距離を正確に求めて、ワークの加工精度を把握できる。
【0038】
また例えば、診断部85は、検出された左右方向の離間距離に基づいて、ラム3の幅方向の熱膨張や、ラム3の幅方向の振動の影響を把握することができる。さらに、診断部85は、検出された上下方向の離間距離に基づいて、ラム3の上下方向の熱膨張や、ラム3の上下方向の振動の影響を把握することができる。診断部85は、加工精度の低下傾向が認められた場合に、警報を発して稼働を中断させる。診断部85の診断データは、メモリ86に蓄積され、表示および外部への提供が可能となる。これにより、ラム3の挙動の検出精度が向上し、ワークの加工精度の低下が防止される。
【0039】
また、診断部85は、ラム3の三次元位置の初期値や、精度の高い優良品のワークを生産できたときのラム3の三次元位置の模範値を予め記憶する。次に、診断部85は、蓄積された三次元位置の時系列変化の様子を、記憶された初期値や模範値をと比較して分析する。これにより、診断部85は、ラム3の三次元位置が徐々に変化する経時劣化の状況を把握できる。また、診断部85は、故障を事前予知できる。さらに、診断部85は、三次元位置が不連続に変化する故障や破損を高精度に判定できる。
【0040】
加えて、診断部85は、ラム3の三次元位置と、金型位置検出部89が検出した相対位置関係を対比して診断を行う。例えば、ラム3の挙動が良好であるにもかかわらず、ダイス5およびパンチ4の相対位置関係が不良となる場合がある。この場合、診断部85は、ダイス5またはパンチ4の取り付け不良、あるいは、ダイス5またはパンチ4の破損と診断する。
【0041】
また、ラム3の挙動不良と、ダイス5およびパンチ4の相対位置関係の不良が同じ方向の位置変動を示唆する場合がある。この場合、診断部85は、ラム3の挙動不良が原因となって、ダイス5およびパンチ4の相対位置関係の不良が誘発されている、と診断する。つまり、診断部85は、不良の原因箇所を切り分けることができる。
【0042】
本発明の実施形態に係る多工程圧造機1は、フレーム2と、フレーム2に設けられるダイス5と、フレーム2に対して往復動作するラム3と、ラム3に設けられ、ダイス5と組になってワークに鍛造加工を施すパンチ4と、フレーム2を基準としたラム3の動作方向の位置、および、ラム3の動作方向に直交する直交方向の位置を検出する位置検出部7と、を備える。
【0043】
実施形態に係る多工程圧造機1において、位置検出部7は、従来技術で検出していたラム3の動作方向の位置に加え、ラム3の動作方向に直交する直交方向の位置を検出する。したがって、各部の直交方向の熱膨張の影響や、直交方向の振動の影響などの把握が可能になり、ラム3の挙動の検出精度が向上して、ワークの加工精度の低下が防止される。
【0044】
加えて、次の1)〜4)の波及効果が発生する。
1)熟練作業者に頼る必要性が低下する。
2)多工程圧造機1の稼働率の向上に寄与する。
3)ダイス5およびパンチ4の寿命の延命化に寄与する。
4)ダイス5およびパンチ4の破損の原因究明に寄与する。
【0045】
さらに、位置検出部7は、ラム3の動作方向を含む直交三方向の三次元位置を検出する。具体的な態様として、位置検出部7は、ラム3に固設され、直交三方向にそれぞれ被検出面(72、73、74)をもつ位置基準部材71と、フレーム2に固設され、位置基準部材71の三つの被検出面(72、73、74)との離間距離を検出する三次元距離検出部75とを有する。これによれば、位置検出部7は、ラム3の三次元位置を検出するので、ラム3の挙動の検出精度がさらに向上する。
【0046】
さらに、位置基準部材71の動作方向の前後方向被検出面72は、動作方向と直交する平面であり、左右方向被検出面73および上下方向被検出面74は、動作方向に対して傾斜したテ−パ面である。これによれば、正弦波状に変化する二つの検出信号の最小値S2、S3を換算して、左右方向および上下方向の離間距離を求めることができる。したがって、ラム3の幅方向や上下方向の不規則な振動などが影響しても、正確な検出が可能になる。
【0047】
さらに、位置検出部7は、ラム3が動作方向の前死点まで到達してワークへの圧造加工が終了する瞬間におけるラム3の位置を検出する。これによれば、ワークへの圧造加工が終了する瞬間のラム3の三次元位置が高い精度で検出される。したがって、ワークの加工精度の低下が確実に防止される。
【0048】
さらに、多工程圧造機1は、2組の位置検出部7を備える。これによれば、ラム3の三次元位置が2箇所で検出されるので、ラム3の挙動の検出精度がさら一層顕著に向上する。
【0049】
また、多工程圧造機1は、位置検出部7が検出したラム3の位置のデータを蓄積するデータ蓄積部82と、蓄積されたラムの位置のデータに基づいて診断を行う診断部85と、をさらに備える。これによれば、経時劣化の状況を把握したり、故障を事前予知したり、故障や破損を高精度に判定したりできる。
【0050】
また、多工程圧造機1は、蓄積されたラム3の位置のデータを可搬記録媒体にコピーして外部への提供を可能とするデータ提供部84をさらに備える。これによれば、外部の解析装置を用いて、ラム3の挙動を精密に解析することができる。
【0051】
また、多工程圧造機1は、ダイス5とパンチ4の相対位置関係を検出する金型位置検出部89をさらに備え、診断部85は、位置検出部7が検出したラム3の位置と、金型位置検出部89が検出した相対位置関係を対比して診断を行う。これによれば、診断部85は、不良の原因箇所を切り分けることができる。
【0052】
なお、実施形態とは逆に、位置検出部7の位置基準部材71がフレーム2に固設され、三次元距離検出部75がラム3に設けられてもよい。また、位置検出部7は、ラム3の左右方向および上下方向の一方について検出を省略した二次元距離検出を行ってもよい。位置検出部7は、1組のみまたは3組以上設けられてもよい。2組の位置検出部7を、矩形のラム3の対角線上の二隅に配設することも可能である。さらに、本発明は、ラム3が上下方向に往復動作する縦型の鍛造機でも実施可能である。本発明は、実施形態の構成に限定されるものではなく、上述した以外にも様々な応用や変形が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1:多工程圧造機(鍛造機)
2:フレーム 21:ダイスホルダ
3:ラム 31:パンチホルダ
4:パンチ 5:ダイス 6:トランスファ装置
7:位置検出部 71:位置基準部材 72:前後方向被検出面
73:左右方向被検出面 74:上下方向被検出面
75:三次元距離検出部 76:前後距離センサ
77:左右距離センサ 78:上下距離センサ
8:データ管理部 81:波形処理部 82:データ蓄積部
83:データ表示部 84:データ提供部 85:診断部
9:駆動部 91:主駆動源
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図6