(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ローラーの弾性体の端面に対する前記押圧部材の接触部分は、前記ローラーの周方向における位置が前記ローラーと前記回転体との間のニップの範囲内であることを特徴とする請求項2に記載のシート搬送装置。
前記制御部は、搬送対象のシートの種類が、薄紙、コート紙、もしくは調湿紙である場合、または前記シートの幅が上限を超える場合、前記ローラーの弾性体の端面の目標位置を標準位置よりも軸方向において内側に設定することを特徴とする請求項10に記載のシート搬送装置。
前記制御部は、前記押込部に前記ローラーの弾性体の端面を前記標準位置よりも軸方向において内側へ変位させた状態で連続搬送されたシートの枚数が上限に達した場合、または前記ローラーの温度が下限を下回った場合、前記端面の目標位置を軸方向において外側へ戻すことを特徴とする請求項11に記載のシート搬送装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
[画像形成装置の外観]
図1の(a)は、本発明の実施形態による画像形成装置100の外観を示す斜視図である。この画像形成装置100はプリンターである。その筐体の上面には排紙トレイ41が設けられ、その奥に開いた排紙口42から排紙されたシートを収容する。排紙トレイ41の前方には操作パネル51が埋め込まれている。プリンター100の底部には給紙カセット11が引き出し可能に取り付けられている。
【0017】
[画像形成装置の構造]
図1の(b)は、
図1の(a)の示す直線b−bに沿ったプリンター100の模式的な断面図である。プリンター100は電子写真式のカラープリンターであり、給送部10、作像部20、定着部30、および排紙部40を含む。
給送部10は、まずピックアップローラー12を用いて、給紙カセット11に収容されたシートの束からシートを1枚ずつ分離する。この分離したシートSH1を給送部10はタイミングローラー13を用いて作像部20へ送出する。「シート」とは、薄膜状もしくは薄板状の材料、物品、または印刷物をいう。プリンター100が印刷可能なシートの材質には、紙または樹脂が含まれる。給紙カセット11に収容可能なシートの種類、すなわち紙種には、普通紙、上質紙、カラー用紙、または塗工紙が含まれ、サイズには、JIS規格の定める標準サイズ、たとえばA3−A7、B4−B7の他、名刺、しおり、チケット、葉書、封筒、写真(L版)が含まれる。さらに、シートの姿勢は縦置きと横置きとのいずれにも設定可能である。
【0018】
作像部20は、たとえば中間体転写方式であり、感光体ユニット20Y、20M、20C、20K、中間転写ベルト21、1次転写ローラー22Y、22M、22C、22K、および2次転写ローラー23を含む。中間転写ベルト21は従動プーリー21Lと駆動プーリー21Rとの間に回転可能に掛け渡されている。これらのプーリー21L、21Rの間には、4つの感光体ユニット20Y−20Kと4本の1次転写ローラー22Y−22Kとが1つずつ対を成すように配置され、中間転写ベルト21を間に挟んで対向している(タンデム配置)。2次転写ローラー23は中間転写ベルト21を間に挟んで駆動プーリー21Rとニップを形成している。このニップには、タイミングローラー13から送出されたシートSH2が通紙される。
【0019】
感光体ユニット20Y−20Kでは感光体ドラム24Y−24Kが、対向する1次転写ローラー22Y−22Kに、中間転写ベルト21を間に挟んだ状態で接触してニップを形成している。感光体ユニット20Y−20Kは、中間転写ベルト21が一方向(
図1の(b)では反時計方向)に回転する間、その同じ表面部分が1次転写ローラー22Y−22Kと感光体ドラム24Y−24Kとの間のニップを通過する際にその表面部分に、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、およびブラック(K)のうち異なる1色のトナー像を形成する。その表面部分にはこれら4色のトナー像が重ねられて1つのカラートナー像が形成される。このカラートナー像が駆動プーリー21Rと2次転写ローラー23との間のニップを通過するタイミングに合わせて、そのニップへシートSH2がタイミングローラー13から通紙される。これによりそのニップではカラートナー像が中間転写ベルト21からシートSH2へ転写される。
【0020】
定着部30は、作像部20から送出されたシートSH3にトナー像を熱定着させる。具体的には、定着部30はたとえばベルト式であり、定着ベルト31を間に挟んだ状態で加圧ローラー32と押圧パッド35とにニップを形成させ、そのニップにシートSH3を通紙する。定着ベルト31は、押圧パッド35と加熱ローラー36との間に回転可能に掛け渡されており、加熱ローラー36に内蔵されたヒーター37から受けた熱をシートSH3の表面へ伝える。加圧ローラー32はそのシートSH3の加熱部分に対して圧力を加えて定着ベルト31越しに押圧パッド35へ押し付ける。定着ベルト31からの熱と加圧ローラー32からの圧力とにより、トナー像がそのシートSH3の表面に定着する。定着部30は更に定着ベルト31と加圧ローラー32との回転により、そのシートSH3を排紙部40へ送り出す。
【0021】
排紙部40は、トナー像が定着したシートSH3を排紙口42から排紙トレイ41へ排紙する。具体的には、排紙部40は、排紙口42の内側に配置された排紙ローラー43を用いて、定着部30の上部から排紙口42へ移動してきたシートSH3を排紙口42の外へ送出して排紙トレイ41に載せる。
−シートの搬送経路−
プリンター100の備えたこれらの要素10−40の間には、ガイド板等によってシートの搬送経路が形成されている。
図1の(b)では搬送経路が給紙カセット11を始端とし、給送部10の搬送ローラー12、13、中間転写ベルト21の駆動ローラー21Rと2次転写ローラー23との対、定着ベルト31と加圧ローラー32との対、排紙部40の排紙ローラー43を順に経由して終端である排紙口42まで伸びている。この搬送経路の周辺には、搬送ローラーを駆動するモーターと複数の通紙センサーとが設置されている(図は示していない)。モーターはたとえば直流ブラシレス(BLDC)モーターであり、ギア、ベルト等の伝達系統を通して駆動対象の搬送ローラーに回転力を与える。通紙センサーはたとえば光学式であり、搬送経路上に設定された監視領域に光を照射し、その領域を透過した光量、またはその領域から反射された光量を測定する。監視領域をシートが通過する際、通紙センサーの照射光はそのシートによって遮られ、または反射されるので、光量の測定値が変化する。この変化から通紙センサーは、シートによる監視領域の通過を検知する。
【0022】
[画像形成装置の電子制御系統]
図2は、プリンター100の電子制御系統の構成を示すブロック図である。この系統では、給紙部10、作像部20、定着部30、排紙部40に加え、操作部50と主制御部60とがバス90を通して互いに通信可能に接続されている。
−駆動部−
給紙部10、作像部20、定着部30、排紙部40はそれぞれ、モーター10A、20A、30A、40A、駆動部10D、20D、30D、40D、およびセンサー10S、20S、30S、40Sを含む。モーター10A−40Aは、上記の搬送ローラー12、13、21R、23、31、32、36、43を回転させるモーターの他、感光体ドラム24Y−24K等の可動部材を駆動するアクチュエーターを含む。駆動部10D−40Dはそれぞれ、プリンター100に内蔵された1枚の印刷回路基板に実装された電子回路であり、モーター10A−40Aに対する制御回路と駆動回路とを含む。制御回路は、マイクロプロセッサ(MPU/CPU)、特定用途向け集積回路(ASIC)、またはプログラム可能な集積回路(FPGA)等の論理回路であり、モーターの回転数に対する目標値を設定して駆動回路に指示する。具体的にはたとえば、モーターからフィードバックされる回転数の実測値を目標値と比較し、それらの差が縮まるようにそのモーターに対する印加電圧の目標値を駆動回路に指示する。駆動回路はインバーターであり、パワートランジスター(FET)等のスイッチング素子を利用してモーターに電力を供給する。この際、モーターに対する印加電圧を駆動回路が目標値に一致させることにより、そのモーターの回転数が目標値に実質的に(すなわち誤差の許容範囲内で)維持される。
【0023】
センサー10S−40Sは、プリンター100の要素10−40の動作状態とシートの搬送状態との監視に必要な物理量を測定して駆動部10D−40Dに提供する。たとえばセンサー10S−40Sは、上記の通紙センサーに加え、感光体ドラム24Y−24K、中間転写ベルト21等の可動部材の位置または姿勢を検知する位置センサー、それらの可動部材を駆動するアクチュエーターまたはその駆動回路の過熱を検知する温度センサー、給紙カセット11における紙切れを検知するセンサー、作像ユニット20Y−20Kにおけるトナー不足を検知するトナーセンサーを含む。センサー10S−40Sの測定値が示す状態に応じて駆動部10D−40Dは、要素10−40内の可動部材を制御する。駆動部10D−40Dはまた、センサー10S−40Sの測定値から要素10−40の不具合を検出した場合、その不具合を主制御部60へ通知する。特に定着部30の駆動部30Dは、定着部30内に設置された温度センサーを通して定着ベルト31または加熱ローラー36の温度を監視し、その温度の変化に応じてヒーター37の発熱量を調節する。
【0024】
−操作部−
操作部50は操作パネル51と外部インターフェース(I/F)52とを含み、これらにより、ユーザーの操作または外部の電子機器との通信を通してジョブの要求と印刷対象の画像データとを受け付け、それらを主制御部60へ伝える。操作パネル51は、
図1の(a)が示すように、押しボタン、タッチパネル、およびディスプレイを含む。操作パネル51は、操作画面および各種パラメーターの入力画面等のグラフィックスユーザーインターフェース(GUI)画面をディスプレイに表示する。操作パネル51はまた、ユーザーが押下した押しボタンを識別し、またはユーザーが触れたタッチパネル上の位置を検出し、その識別または検出に関する情報を操作情報として主制御部60へ伝える。特に印刷ジョブの入力画面がディスプレイに表示されている場合、操作パネル51は、印刷対象のシートのサイズ、紙種、姿勢(縦置きと横置きとの別)、部数、カラー/モノクロの別、画質等の印刷条件をユーザーから受け付けて、これらの条件を示す項目を操作情報に組み込む。外部I/F52はUSBポートまたはメモリーカードスロットを含み、それらを通してUSBメモリー、HDD等の外付けの記憶装置から直に印刷対象の画像データを読み込む。外部I/F52はまた外部ネットワーク(図は示していない。)に有線または無線で接続され、そのネットワーク上の他の電子機器から印刷対象の画像データを受信する。
【0025】
−主制御部−
主制御部60は、プリンター100に内蔵された1枚の印刷回路基板に実装された集積回路であり、CPU61、RAM62、およびROM63を含む。CPU61は1つのMPUで構成され、各種ファームウェアを実行することにより、他の要素10−40に対する制御主体としての多様な機能を実現する。たとえばCPU61は操作部50に操作画面等のGUI画面を表示させてユーザーの入力操作を受け付けさせる。この入力操作に応じてCPU61は、稼動モード、待機モード、スリープモード等の動作モードを選択し、その動作モードに応じた処理を要素10−40に指示する。RAM62は、DRAM、SRAM等の揮発性半導体メモリー装置であり、CPU61がファームウェアを実行する際の作業領域をCPU61に提供すると共に、操作部50が受け付けた印刷対象の画像データを保存する。RAM62は特に、操作部50からの操作情報が示す印刷条件、CPU61が選択した動作モード、およびCPU61がプリンター100内のセンサーを通して検出した温度、湿度等の環境条件を、他の要素10−40から参照可能に保持する。ROM63は書き込み不可の不揮発性記憶装置と書き換え可能な不揮発性記憶装置との組み合わせで構成されている。前者はファームウェアを格納する。後者は、EEPROM、フラッシュメモリー、SSD等の半導体メモリー装置、またはHDDを含み、CPU61に環境変数等の保存領域を提供する。
【0026】
操作部50がユーザーから印刷ジョブを受け付けたとき、主制御部60はまず操作部50に印刷対象の画像データをRAM62へ転送させる。主制御部60は次に、そのジョブの示す印刷条件に従い、給送部10には給送すべきシートの種類とその給送のタイミングとを指定し、作像部20には形成すべきトナー像を表す画像データを提供する。主制御部60は特に、印刷条件の示す画質、消費電力、またはシートの紙種に応じてシートの搬送速度の目標値を選択し、プリンター100の要素10−40に指示する。たとえば印刷対象の紙種が厚紙である場合、シートの搬送速度は普通紙である場合の値よりも低く設定される。印刷条件と搬送速度の目標値との間の対応関係は予め実験またはシミュレーションによって決定され、数表または数式の形でROM63に格納されている。CPU61は印刷条件に応じた目標値をこの表から検索し、またはこの式に従って算出する。こうして得られた目標値に実際の搬送速度を調節することにより、要素10−40の駆動部10D−40Dはモーターの消費電力量を、搬送対象のシートの坪量にかかわらず安定化させる。主制御部60は更に定着部30の駆動部30Dには動作条件を通知する。この動作条件にはたとえば、定着ベルト31または加熱ローラー36の目標温度、印刷対象のシートの紙種、サイズ、枚数が含まれる。
【0027】
[定着部の構造]
図3の(a)は加圧ローラー32と押圧パッド35との模式的な分解図であり、(b)は、(a)が示す直線b−bに沿った横断面図である。定着部30は、定着ベルト31、加圧ローラー32、駆動機構33、34、押圧パッド35、加熱ローラー36、ヒーター37、および保持部材38を含む。
【0028】
−定着ベルト−
定着ベルト31は、たとえば長さ数十cm、直径数十mm−数百mm、厚さ数百μm−数mmの円筒形状の無端ベルトであり、押圧パッド35と加熱ローラー36との間に回転可能に掛け渡されている。定着ベルト31は、内周側から順に、基層、弾性層、および表層を含む(図は示していない)。基層は、ポリイミド(PI)等、高強度の耐熱性樹脂フィルム、またはステンレス鋼(SUS)、ニッケル等の金属箔から成る。弾性層は、基層の外側を覆うシリコーンゴム等、高弾性の耐熱性樹脂フィルムから成り、その弾性により定着ベルト31の外周面をシートSH3の表面の微細な凹凸に合わせて変形させる。これにより、トナー像の光沢が均一化する。表層は、弾性層の外側を覆うポリテトラフルオロエチレン(PFA)等のフッ素樹脂フィルムから成り、高温高圧のニップNP内で溶融したトナーがシートSH3の表面から定着ベルト31の外周面へ転移する現象(オフセット)を防止する。
【0029】
−加圧ローラー−
加圧ローラー32は、芯金321、弾性体層322、および表層323を含む。芯金321は、長さ数十cm、直径数mm−数十mmの細長い円筒部材であり、アルミニウム、鉄、SUS等、剛性の高い金属から成る。芯金321は長手方向(図ではZ軸方向)の両端部で軸受(図は示していない。)により、自身の中心軸まわりに回転可能に支持されている。これらの軸受は定着部30のフレームにより、芯金321を押圧パッド35へ接近させる方向(図ではX軸の負方向)に摺動可能に支持されている。弾性体層322は、芯金321の外側に同軸に配置された厚さ数十mm−数百mmの円筒部材であり、シリコーンゴム等、高弾性の耐熱性樹脂から成る。弾性体層322は内周面が周方向の全体にわたって芯金321の外周面に接触しており、その外周面に接着剤で接着されている。表層323は、厚さ数百μm−数mmのPFA等のフッ素樹脂フィルムであり、弾性体層322の外周面を周方向の全体にわたって覆っている。表層323は、定着ベルト31と加圧ローラー32との間のニップNPのうちシートSH3を通過させる部分(以下、「通紙部」と呼ぶ。)と芯金321の長手方向(Z軸方向)において同じ範囲に位置し、シートSH3の表面から弾性体層322の外周面へのトナーの転移(オフセット)を防止する。ニップNPのうち通紙部よりも長手方向(Z軸方向)において外側の部分(以下、「グリップ部」と呼ぶ。)では、弾性体層322の外周面が表層323で覆われることなく露出しているので、定着ベルト31と直に接触する。
【0030】
−駆動機構−
駆動機構は、定着部30の含む可動部材とそれに対するアクチュエーターとの組み合わせの全体であり、加圧駆動部、回転駆動部33、および押込部34を含む。
加圧駆動部は、加圧ローラー32に対し、その外周面を押圧パッド35の板面に押し付ける方向の力を加える。具体的には、加圧駆動部は、ソレノイド、モーター等のアクチュエーター(図は示していない。)で、加圧ローラー32の芯金321を支持する軸受に対し、芯金321を押圧パッド35に対して平行のまま押圧パッド35へ接近させる方向(図ではX軸の負方向)の力を加える。この力が軸受を通して芯金321に伝わると、加圧ローラー32の外周面はニップNPに位置する部分が定着ベルト31を間に挟んで押圧パッド35の板面に、通紙部とグリップ部との全体を通して一様な圧力、たとえば10
6Paのオーダーの圧力で押し付けられる。
【0031】
回転駆動部33は、加圧ローラー32の芯金321に対して回転力を加える。具体的には、回転駆動部33は第1モーター31Mとトルク伝達機構331とを含む。第1モーター31Mは、定着部30の駆動部30Dが備えたモーター30Mの1つである。トルク伝達機構331はギア、ベルト等の組み合わせであり、第1モーター31Mのトルクを芯金321の長手方向の一端に伝えて、芯金321を中心軸まわりに回転させる。
【0032】
加圧駆動部が加圧ローラー32の外周面を定着ベルト31越しに押圧パッド35の板面に押し付けると、弾性体層322は押圧パッド35よりも柔らかいので、加圧ローラー32の外周面はニップNPでは実質上(すなわち誤差の許容範囲内で)押圧パッド35の板面に沿って平らに窪む。この状態で回転駆動部33が芯金321を中心軸まわりに回転させると、ニップNPにおいて弾性体層322の外周面が定着ベルト31に与える摩擦力と弾性体層322の粘弾性力、すなわち弾性体層322が径方向への圧縮に伴い周方向へ膨張して定着ベルト31を周方向へ押す力とにより、定着ベルト31が従動回転する。
【0033】
押込部34は加圧ローラー32の弾性体層322のうち、その円筒形の軸方向における端面324を押して軸方向に変位させる(すなわち「押し込む」)。具体的には、押込部34は第2モーター32Mと押圧部材との組み合わせであり、加圧ローラー32の長手方向(Z軸方向)における両側に1組ずつ設置されている。第2モーター32Mは、定着部30の駆動部30Dが備えたモーター30Mの1つであり、押圧部材に対して駆動力を加える。押圧部材は、アルミニウム、鉄、SUS等、剛性の高い金属、または機械的強度の高い樹脂から成形された複数の部材の組み合わせであり、規制板341、カム342、および従動節343を含む。規制板341は、たとえば直径数十mm、厚さ数mmの円環板状の部材であり、中央の貫通穴の内径が芯金321の外径とほぼ等しい。規制板341は芯金321の長手方向(Z軸方向)の各端部に1つずつ、その端部を貫通穴に通した状態で、その長手方向において芯金321の端328から弾性体層322の端面324までの間を摺動可能に取り付けられている。カム342は、外周が滑らかで回転非対称の板状部材であり、その板面を貫く回転軸344のまわりに回転可能に支持されている。回転軸344は第2モーター32Mのシャフトと直に、またはいくつかのギアまたはベルト(図は示していない。)を介して接続されているので、カム342は第2モーター32Mからのトルクを受けて回転する。従動節343はたとえば細長い棒状部材であり、規制板341の外側の板面に固定された基端345から芯金321の長手方向(Z軸方向)に対して平行に伸びている。規制板341の内側の板面が弾性体層322の端面324に接触している状態では、規制板341を通して弾性体層322から外向き(Z軸の正方向)に弾性力を受け、従動節343の先端346がカム342の外周面に押し付けられるように従動節343の長さは設計されている。これにより、カム342が回転すると、従動節343の全体が芯金321の長手方向(Z軸方向)に対する平行な姿勢を保つように、従動節343の先端346がカム342の外周面に沿って摺動する。この外周面は回転軸344のまわりに非対称であるので、従動節343は芯金321に対しては、基端345と先端346とを含む全体が長手方向(Z軸方向)に平行移動する。この平行移動に伴い、規制板341が芯金321の外周面上を長手方向(Z軸方向)に摺動する。この摺動の範囲は、弾性体層322が長手方向(Z軸方向)において元の長さに戻った状態では、その端面324に内側の板面を接触させた規制板341の位置が、外側の境界となるように設計されている。この境界に規制板341が位置するときの姿勢からカム342が回転すると、規制板341が長手方向(Z軸方向)に内側へ変位して弾性体層322の端面324を押し込む。この変位により規制板341は弾性体層322を、たとえば最大数mmまで圧縮可能である。規制板341の位置、すなわちカム342の回転角に応じて弾性体層322の圧縮量は決まる。一方、弾性体層322の圧縮に伴ってグリップ部では、表層323に覆われることなく弾性体層322の露出した部分が、その粘弾性により径方向に膨張する。この露出部分の膨張圧がニップ圧を上昇させるので、定着ベルト31の受けるグリップ力が強まる。
【0034】
−押圧パッド−
押圧パッド35は、加圧ローラー32の軸方向(図ではZ軸方向)に細長い板状部材であり、たとえば、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の耐熱性樹脂から成る。押圧パッド35は、片側の板面が加圧ローラー32の外周面から定着ベルト31越しに押し付け力を受け、それとの間にニップNPを形成する。弾性体層322に比べれば押圧パッド35は弾性が無視できるほど低いので、ニップNPでは押圧パッド35の板面に沿って加圧ローラー32の外周面が平らに窪む。この変形によりニップNPは、
図3の(b)が示すように、押圧パッド35の板面の上にシートSH3の搬送方向(図では上下方向)に数mmの幅で拡がる。
【0035】
−加熱ローラーとヒーター−
加熱ローラー36は芯金361と弾性体層362とを含む。芯金361は、たとえば直径数十mmの円筒部材であり、アルミニウム、鉄等の金属から成る。弾性体層362は、シリコーンゴム等、高弾性の耐熱性樹脂から成り、たとえば厚さ1mm未満で芯金361の外周面を覆っている。芯金361の内側の中空部にはヒーター37が設置されている。ヒーター37は、たとえば加圧ローラー32の軸方向(Z軸方向)に細長い棒状のハロゲンヒーターであり、発光に伴う熱放射で芯金361を内側から加熱する。この熱が弾性体層362を通して外周面に伝わるので、その温度がたとえば百数十℃−数百℃の範囲に維持される。
【0036】
−保持部材−
保持部材38は、加圧ローラー32の軸方向(Z軸方向)に長尺の板状部材であり、たとえば電気亜鉛メッキ鋼(SECC)、SUS、アルミニウム等の金属から成る溝形鋼板(横断面が「コ」の字形状である鋼板)である。保持部材38は、押圧パッド35に対して加圧ローラー32とは反対側において押圧パッド35の板面に接着され、長手方向の両端部が定着部30のフレーム(図は示していない。)に固定されている。このフレームに対し、保持部材38は押圧パッド35を同じ位置に保持する。
【0037】
[定着部の備えたシート搬送装置]
図4は、本発明の実施形態によるシート搬送装置300の電子制御系統のブロック図である。シート搬送装置300は、定着部30の要素のうち、駆動部30D、定着ベルト31、加圧ローラー32、駆動機構33、34、押圧パッド35、および加熱ローラー36を含む。駆動部30Dは、回転速度実測部301、温度センサー302、湿度センサー303、制御部310、第1駆動回路311、および第2駆動回路312を含む。
【0038】
回転速度実測部301は、第1モーター31Mに内蔵されたエンコーダーの出力信号FGPを監視し、これらの信号FGPから第1モーター31Mの回転数の実測値Nmsを計算して制御部310へフィードバックする。温度センサー302はたとえばサーモパイルを利用した非接触型であり、定着ベルト31、加熱ローラー36、または加圧ローラー32の表面からの熱放射に伴うサーモパイルの出力に応じてその表面の温度を計測し、計測値を制御部310へ通知する。湿度センサー303は、定着部30のフレームで囲まれた空間内の雰囲気の湿度を計測し、計測値を制御部310へ通知する。
【0039】
制御部310は、MPU/CPU、ASIC、またはFPGA等の論理回路、ファームウェアを格納するROM、およびファームウェアが実行される際に作業領域を提供するRAMを含む。制御部310はファームウェアに従い、第1モーター31Mの回転数に対する目標値を設定して第1駆動回路311に指示する。具体的には、制御部310はまず、主制御部60から定着処理の実行を指示された際、その指示が示す印刷対象のシートの紙種、サイズ、および搬送速度の目標値から第1モーター31Mの回転数に対する目標値を設定する。制御部310は次に、その目標値と、回転速度実測部301からフィードバックされた実測値Nmsとを比較し、それらの差が縮まるように、第1モーター31Mに供給すべき電力量を算定して第1駆動回路311へ指示する。第1駆動回路311はインバーターであり、FET等のスイッチング素子を利用して第1モーター31Mに電力を供給する。この電力量を第1駆動回路311が指示された値と一致させることにより、第1モーター31Mの回転数が目標値と実質的に(すなわち誤差の許容範囲内で)等しく維持され、加圧ローラー32によるシートの搬送速度が目標値と実質的に一致する。
【0040】
制御部310はまた別のファームウェアに従い、第2モーター32Mの回転数、電力量等の制御量に対する目標値を設定して第2駆動回路312に指示する。具体的には、制御部310はまず、たとえば定着ベルト31と加圧ローラー32とによるニップ搬送の開始時に、その搬送の安定性に影響を与えるパラメーターの値を取得する。たとえば、温度センサー302からは、定着ベルト31、加熱ローラー36、加圧ローラー32の温度が、湿度センサー303からは定着部30内の雰囲気の湿度が、主制御部60からは印刷対象のシートの紙種、サイズ、枚数が取得される。これらのパラメーターの値とカム342の回転角の目標値との間の対応関係を制御部310は数表または数式の形で記憶している。制御部310は次に、取得したパラメーターの値に対応付けられたカム342の回転角の目標値をこの表から検索し、またはこの式に従って算出する。こうして得られた目標値までカム342を回転させるのに必要な第2モーター32Mの電力量を制御部310は算定し、第2駆動回路312へ指示する。第2駆動回路312はインバーターであり、FET等のスイッチング素子を利用して第2モーター32Mに電力を供給する。第2駆動回路312が第2モーター32Mの電力量を指示された値に一致させることにより、カム342の回転角が目標値と実質的に(すなわち誤差の許容範囲内で)一致する。
【0041】
[加圧ローラーが定着ベルトに与えるべきグリップ力の調節]
図5の(a)、(b)は、
図3の(a)が示す直線V−Vに沿った加圧ローラー32と押圧パッド35との間のニップの一端を示す部分断面図である。
図5の(a)は、規制板341が加圧ローラー32の軸方向における摺動範囲MVRのうち、外側の境界OBNに位置するようにカム342の回転角が設定された場合を示し、(b)は、その場合よりも規制板341が内側に位置するようにカム342の回転角が変更された場合を示す。
図5の(c)、(d)はそれぞれ、
図5の(a)、(b)が示すニップ近傍の斜視図である。
【0042】
図5の(a)が示すように、規制板341が摺動範囲MVRの外側の境界OBNに位置する場合、加圧ローラー32の弾性体層322は長手方向(Z軸方向)において元の長さに戻り、半径は、ニップに面した部分を除き、その全長にわたって一様であり、ニップにおける変形もその全長にわたって一様である。したがって、ニップ圧は通紙部50Aとグリップ部51Aとで実質上(すなわち誤差の許容範囲内で)均一である。この場合、定着ベルト31が通紙部50Aで受けるグリップ力FRHとグリップ部51Aで受けるグリップ力GRHと(
図5の(c)が示す矢印参照。)の間の差は、弾性体層322が通紙部50Aとグリップ部51Aとのそれぞれで受ける摩擦力の間の差である。この差は弾性体層322にねじり応力を生じさせ、このねじり応力の反復は弾性体層322を疲労させる。加圧ローラー32の回転に定着ベルト31の従動回転が安定に追従すると共に、弾性体層322の耐久性が損なわれないように、定着ベルト31と加圧ローラー32との間のニップは設計されている。特に、弾性体層322とシートHMSとの間の摩擦係数に対する弾性体層322と定着ベルト31との間の摩擦係数の高さが、通紙部50Aに対するグリップ部51Aの幅の狭さで相殺される。たとえば、シートHMSが普通紙である場合に規制板341が摺動範囲MVRの外側の境界OBNに位置すればよいように、ニップは設計される。この意味で、摺動範囲MVRの外側の境界OBNを、以下、「標準位置」と呼ぶ。シートHMSが普通紙である場合、規制板341が標準位置OBNに維持されていれば、通紙部50Aとグリップ部51Aとでのグリップ力の和FRH+GRHは、定着ベルト31を実質上スリップさせることなく(すなわち、スリップの頻度、大きさを許容範囲内に維持したまま)回転させるレベルに保たれる。一方、これらのグリップ力間の差GRH−FRHは、弾性体層322に生じるねじり応力を許容上限よりも十分に低く抑えるレベルに留まる。
【0043】
図5の(b)が示すように、規制板341が標準位置OBNよりも内側へ押し込まれた場合、加圧ローラー32の弾性体層322は端面324に規制板341から押圧力FPを受けて長手方向(Z軸方向)に圧縮される。このとき、通紙部50Bでは弾性体層322が表層323とシートSH3との剛性の高さに助けられ、規制板341からの押圧力に抗して圧縮に耐える。その結果、弾性体層322のうちグリップ部51Bに位置する部分、すなわち表層323に覆われることなく露出した部分は、通紙部50Bに位置する部分と規制板341とにより、長手方向(Z軸方向)における両側から押圧力FPで圧縮されるので、粘弾性によって径方向には(XY平面内では)膨張する。この露出部分の膨張圧FVによりニップ圧が上昇するので、
図5の(d)が示すグリップ部51Bにおいて定着ベルト31の受けるグリップ力GRLは、
図5の(c)が示すグリップ部51Aでのグリップ力GRHよりも強まる。
【0044】
規制板341が摺動範囲MVRの内側に位置するほど、グリップ部51Bでのグリップ力GRLは強い。したがって、
図5の(d)の示す通紙部50Bでのグリップ力FRLが
図5の(c)の示す通紙部50Aでのグリップ力FRHよりも弱い場合(FRL<FRH)、押込部34は規制板341を内側へ移動させて弾性体層322の端面324を押し込む。これに伴うグリップ部51Bでのグリップ力GRLの強化により、通紙部50Bでのグリップ力FRLの不足が補われる。すなわち、通紙部50Bとグリップ部51Bとでのグリップ力の和FRL+GRLが、定着ベルト31を実質上スリップさせることなく回転させることのできるレベルに維持される。
【0045】
図5の(d)の示すグリップ力間の差GRL−FRLは
図5の(c)の示すグリップ力間の差GRH−FRHよりも大きいので、この差に起因して弾性体層322に生じるねじり応力は
図5の(d)では
図5の(c)よりも強い。したがって、制御部310は、ねじり応力の反復による弾性体層322の疲労が可能な限り遅れるように、押込部34による弾性体層322の端面324の押し込み動作を、通紙部50Bでのグリップ力FRLが不足する場合に制限する。具体的には、
図4についての説明の中で述べたとおり、制御部310は、ニップ搬送の安定性に影響を与えるパラメーターの値に対応付けられたカム342の回転角の目標値を数表から検索し、または数式に従って算出して押込部34に指示する。この数表または数式では、カム342の回転角の目標値が弾性体層322の端面324の押し込みを表す場合は、上記のパラメーターの値が通紙部50Bでのグリップ力FRLの不足を表す場合に対応する。これらの場合には、たとえば、次に列挙する条件(1)−(5)のいずれかを満たす場合が含まれる。(1)搬送対象のシートが、薄紙、コート紙、調湿紙等、普通紙よりも摩擦係数の低い紙種である。(2)シートの幅が上限、たとえば、A3、B4、A4等の標準サイズを超える。(3)定着部30内の雰囲気の湿度が上限よりも高い。(4)加圧ローラー32の温度が下限以上である。(5)連続搬送されるシートの枚数が上限に満たない。条件(1)は、通紙部での摩擦力の不足を表す。条件(2)は、通紙部の伸長に伴うグリップ部の短縮によりニップ全体では摩擦力が不足することを表す。条件(3)は、湿度の高さによりシートの含水量が多いので、ニップでの加熱に伴うシート表面での水蒸気圧によるニップ圧の低下が無視できず、通紙部での摩擦力が不足することを表す。条件(4)は、加圧ローラー32の温度が高いので弾性体層322の硬度が低く、通紙部50Bでの弾性体層322の粘弾性力が不足することを表す。条件(5)は次のことを表す。連続搬送されるべきシートの枚数が上限、たとえば10枚に満たない場合、連続搬送中、加圧ローラー32からシートに奪われる熱量が少ない。したがって、連続搬送中、加圧ローラー32の温度は高いままであって弾性体層322の硬度が低く、通紙部50Bでの弾性体層322の粘弾性力が不足する。これらの条件を満たすパラメーターの具体的な数値とカム342の回転角の目標値、すなわち規制板341の変位量とは実験またはシミュレーションによって決定される。こうして、カム342の回転角の目標値が弾性体層322の端面324の押し込みを表す場合は通紙部50Bでのグリップ力FRLが不足する場合に制限されるので、弾性体層322がねじり応力を受けるのもその場合に限られる。その結果、ねじり応力の発生頻度が低く、弾性体層322の疲労の進行が遅いので、弾性体層322の耐久性が損なわれず、すなわちその寿命が十分に長く確保される。
【0046】
[実施形態の利点]
本発明の実施形態によるシート搬送装置300では上記のとおり、押込部34が規制板341を加圧ローラー32の芯金321の外周面に沿って軸方向に変位させて、加圧ローラー32の弾性体層322の軸方向における端面324を押して軸方向に変位させる。このように端面324が押し込まれると、グリップ部51Bでは弾性体層322の粘弾性によりニップ圧が上昇する。このときのニップ圧の上昇量は弾性体層322の端面324の変位量で調節可能である。制御部310は、搬送対象のシートが、薄紙、コート紙、調湿紙等、低摩擦係数の紙種であり、またはシートの幅が標準サイズを超える等、ニップ搬送の安定性に影響を与えるパラメーターの値が通紙部50Bでのグリップ力FRLの不足を表す場合、押込部34に弾性体層322の端面324を押し込ませる。これに伴い、グリップ部51Bにおいてニップ圧が上昇するので、通紙部50Bでのグリップ力FRLの不足が補われ、加圧ローラー32の回転に定着ベルト31の従動回転が安定に追従する。さらに、弾性体層322の端面324の押し込みは通紙部50Bでのグリップ力FRLが不足する場合に制限されるので、ねじり応力の発生頻度が低く、弾性体層322の疲労の進行が遅い。こうして、このシート搬送装置300は、加圧ローラー32の耐久性を損なうことなく、普通紙だけでなく、薄紙、コート紙、調湿紙等の低摩擦係数の紙種、標準サイズよりも幅の広いシートを含む多様なシートを安定に搬送することができる。
【0047】
[変形例]
(A)本発明の上記の実施形態による画像形成装置100は電子写真式のカラープリンターである。本発明の実施形態による画像形成装置はその他に、モノクロプリンター、コピー機、FAX等の単機能機であってもよく、複合機(MFP)であってもよい。
(B)定着ベルト31は、押圧パッド35と加熱ローラー36との間に掛け渡された張架ベルトである。定着ベルトはその他に非張架ベルト(フリーベルト)であってもよい。また、押圧パッド35に代えて従動ローラーが利用されてもよい。この場合、加圧ローラーと従動ローラーとのいずれがソフトローラーであっても、または両方がソフトローラーであってもよい。
【0048】
定着ベルト31は、加熱ローラー36に内蔵されたヒーター37の熱をシートに対して加える。このヒーター37はハロゲンヒーターである。ヒーターはその他に誘導加熱装置であってもよい。
定着ベルト31はシートを加熱し、加圧ローラー32はそのシートを加圧する。その他に、駆動ローラーがシートを加熱し、押圧パッドがベルト越しに、または従動ローラーが直に、シートを駆動ローラーに押し付ける構造であってもよい。
【0049】
(C)制御部310は、第1モーター31Mと第2モーター32Mとの各回転数の目標値をジョブごとに更新しても、シートごとに更新してもよい。制御部310は特に、ニップ搬送の安定性に影響を与えるパラメーターの値をシートの連続搬送中にも監視し続け、その値の変化に合わせてカム342の回転角の目標値を更新し続けてもよい。これにより、弾性体層322の端面324が押し込まれている期間が、通紙部においてグリップ力が不足する期間と更に速やかに対応するので、ねじり応力の発生頻度が更に下がる。たとえば次に述べる場合(α)、(β)において、制御部310は直ちにカム342の回転角の目標値を更新し、弾性体層322の端面324が軸方向において外側へ戻るようにしてもよい。(α)印刷ジョブの開始時には加圧ローラー32の温度が条件(4)の示す下限以上であったので規制板341が標準位置OBNよりも内側へ押し込まれ、そのジョブの処理中に加圧ローラー32の温度がその下限を下回った場合。(β)印刷ジョブの開始時に条件(1)−(4)のいずれかが満たされたことにより規制板341が標準位置OBNよりも内側へ押し込まれ、その状態で連続搬送されたシートの枚数が条件(5)の示す上限に達した場合。
【0050】
(D)
図3、
図5の示す規制板341は円環板状であり、中央の貫通穴の内径が芯金321の外径と、規制板341が芯金321の外周面上を軸方向に摺動可能な程度に等しい。規制板はその他の形状であってもよい。たとえば、加圧ローラー32の弾性体層322の端面324との接触部分が多角形板状であってもよく、芯金321に対して非対称な形状であってもよい。また、貫通穴の縁が内径よりも拡げられていてもよい。
【0051】
図6の(a)は第1変形例による規制板441の斜視図であり、(b)は、この規制板441が加圧ローラー32の弾性体層322の端面324を押し込んでいる場合における加圧ローラー32と押圧パッド35との間のニップの一端を示す部分断面図である。この規制板441は、加圧ローラー32の弾性体層322の端面324との接触面に開けられた貫通穴の縁442の直径Rrが貫通穴の内径Riよりも大きい:Rr>Ri。特に、これらの間の差Rr−Riは、加圧ローラー32の芯金321の外周面に弾性体層322が接着された部分32H(すなわち、接着剤の層と接着剤が浸透した弾性体層322の部分との全体)の径方向における厚みThの2倍よりも大きい:Rr−Ri>2×Th。規制板441の貫通穴は更に、縁442から内側へ広がるテーパー部443を含む。
図6の(b)が破線で示すように、テーパー部443の内面は貫通穴の中心軸Cxに対する傾きθが一定である。この傾きθにより、
図6の(b)が示すように規制板441が弾性体層322の端面324を押し込んだ際、この端面324のうち貫通穴の縁442の外側に位置する部分は規制板441の板面に押されて変位する。一方、縁442よりも内側に位置する部分はテーパー部443に実質的に押されることなく、その内面に沿って変形する程度に留まる。特に、弾性体層322の接着部分32Hはテーパー部443から押圧力を受けない。したがって、規制板441の押し込みに伴う接着部分32Hの損傷、剥離が防止される。
【0052】
図6の(c)は第2変形例による規制板541の斜視図であり、(d)は、この規制板541が加圧ローラー32の弾性体層322の端面324を押し込んでいる場合における加圧ローラー32と押圧パッド35との間のニップの一端を示す部分断面図である。この規制板541は、(a)の示す第1変形例による規制板441と同様、貫通穴の縁542の直径Rrが貫通穴の内径Riよりも大きく、かつそれらの間の差Rr−Riが弾性体層322の接着部分32Hの厚みThの2倍よりも大きい:Rr−Ri>2×Th。一方、第2変形例による規制板541は第1変形例による規制板441とは異なり、貫通穴のテーパー部543の内面が、
図6の(d)が破線で示すように、貫通穴の縁542に近い部分ほど、貫通穴の中心軸Cxに対する傾きφが大きい。このような傾きφの分布により、
図6の(d)が示すように規制板541が弾性体層322の端面324を押し込んだ際、この端面324は接着部分32Hがテーパー部543から押圧力を受けないだけでなく、貫通穴の縁542に近い部分ほど規制板541から強い押圧力を受ける。弾性体層322は貫通穴の縁542に近い部分ほど弾性変形しやすいので、規制板541の押し込みに伴うグリップ部51Cでのニップ圧の上昇効果が高い。
【0053】
図7の(a)は第3変形例による規制板641の斜視図であり、(b)は、この規制板641が加圧ローラー32の弾性体層322の端面324を押し込んでいる場合における加圧ローラー32と押圧パッド35との間のニップの一端を示す部分断面図である。この規制板641は、
図7の(a)が示すようなドーナツ(トーラス)形状であり、
図6の(c)が示す第2変形例による規制板541と同様、貫通穴の縁642の直径Rrが貫通穴の内径Riよりも大きく、かつそれらの間の差Rr−Riが弾性体層322の接着部分32Hの厚みThの2倍よりも大きい:Rr−Ri>2×Th。さらに、第2変形例による規制板541と同様、貫通穴の内面が、
図7の(b)が破線で示すように、貫通穴の縁642に近い部分ほど、貫通穴の中心軸Cxに対する傾きψが大きい。このような傾きψの分布により、
図7の(b)が示すように規制板641が弾性体層322の端面324を押し込んだ際、この端面324は接着部分32Hが貫通穴の内面から押圧力を受けないだけでなく、貫通穴の縁642に近い部分ほど規制板641から強い押圧力を受ける。弾性体層322は貫通穴の縁642に近い部分ほど弾性変形しやすいので、規制板641の押し込みに伴うグリップ部51Dでのニップ圧の上昇効果が高い。
【0054】
図7の(c)は第4変形例による規制板741の斜視図であり、(d)は、この規制板741が加圧ローラー32の弾性体層322の端面324を押し込んでいる場合における加圧ローラー32と押圧パッド35との間のニップの一端を示す部分断面図である。この規制板741は円環板状であり、
図7の(c)が示すように、棒状部材742の先端743からその長手方向に対して垂直に伸びる軸744により同軸に、かつその軸744のまわりに回転可能に支持されている。棒状部材742は、
図7の(d)が示すように、芯金321と押圧パッド35との隙間を芯金321に対して平行に移動可能である。この平行移動により規制板741の外周面は、弾性体層322の端面324のうち、周方向における位置がニップの範囲内であり、かつ芯金321の外周面からの距離Dsが弾性体層322の接着部分32Hの厚みThよりも大きい部分32Tと接触し、その部分32Tを押し込む。このとき、加圧ローラー32の回転に伴って規制板741は軸744のまわりを従動回転するので、規制板741の外周面と弾性体層322の端面324との間の摩擦力は十分に弱い。
図7の(d)が示すように、規制板741の押し込みに伴う弾性体層322の端面324の変形はニップの近傍に限られるので、弾性体層322が疲労しにくいだけでなく、第2モーター32Mにかかる負荷が小さくてすむ。
【0055】
(E)
図6、
図7の示す変形例による規制板441−741が利用される場合、加圧ローラー32の弾性体層322は芯金321の外周面との接着部分を端面324よりも内側に含み、軸方向において端面324から接着部分までの範囲が芯金321の外周面に接着されていなくてもよい。これにより規制板の押し込みに伴う押圧力を接着部分が更に受けにくいので、その損傷、剥離の危険性が更に低い。
【0056】
図8は第1変形例による規制板441が、変形例による加圧ローラー62の弾性体層622の端面324を押し込んでいる場合における加圧ローラー62と押圧パッド35との間のニップの一端を示す部分断面図である。この加圧ローラー62の弾性体層622は、芯金321の外周面との接着部分62Hを端面324よりも内側に含み、軸方向において端面324から接着部分62Hまでの範囲62Tが芯金321の外周面に接着されていない。したがって、
図8が2点鎖線で示すように、規制板441が弾性体層622の端面324を押し込んだ際、規制板441の貫通穴の縁442よりも内側では弾性体層622の端面324の変形が小さい。すなわち、端面324のうち芯金321の外周面近傍の部分は、規制板441の押し込みに伴う歪みが小さい。こうして、規制板441の押し込みに伴う接着部分62Hの損傷、剥離の危険性が更に低い。
【0057】
(F)上記の実施形態によるシート搬送装置300は定着ベルト31と加圧ローラー32とを対象とする。シート搬送装置はその他に、中間転写ベルト21と2次転写ローラー23、タイミングローラー13、排紙ローラー43等、ニップ搬送を行う回転体対のいずれを対象としてもよい。