(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態における燃料電池システム100の構成の一例を示す構成図である。
【0011】
燃料電池システム100は、燃料電池10に燃料ガス及び酸化剤ガスを供給して燃料電池10を発電させる。燃料電池システム100は、例えば、車両、飛行機又は船舶などの移動体に搭載される。本実施形態の燃料電池システム100は、ハイブリッド車又は電気自動車などの車両に搭載される。
【0012】
燃料電池システム100は、燃料電池10と、酸化剤供給装置20と、燃料供給装置30と、加熱装置40と、コントローラ50と、を含む。
【0013】
燃料電池10は、燃料ガス及び酸化剤ガスの供給を受けて発電する燃料電池により構成される。燃料電池10は、固体酸化型燃料電池、又は固体高分子型燃料電池などにより実現される。本実施形態における燃料電池10は、単一の固体酸化型燃料電池を複数積層した積層電池により構成される。
【0014】
酸化剤供給装置20は、燃料電池10の発電に必要となる酸化剤ガスを燃料電池10に供給する。酸化剤供給装置20は、酸化剤供給通路21とコンプレッサ22とを備える。
【0015】
酸化剤供給通路21は、燃料電池10に酸化剤ガスを供給するための通路である。酸化剤供給通路21の一端は外気に連通され、他端は燃料電池10の酸化剤ガス入口孔に接続される。
【0016】
コンプレッサ22は、酸化剤供給通路21に設けられ、アクチュエータにより構成される。本実施形態のコンプレッサ22は、外気から空気を吸引してその空気を酸化剤ガスとして燃料電池10に供給するガス供給装置である。なお、本実施形態ではガス供給装置としてコンプレッサ22が用いられているが、コンプレッサ22の代りにブロアが用いられてもよい。
【0017】
燃料供給装置30は、燃料電池10の発電に必要となる燃料ガスを燃料電池10に供給する。燃料供給装置30は、燃料供給通路31と、液体燃料タンク32と、インジェクタ33と、気化器34とを備える。
【0018】
燃料供給通路31は、燃料電池10に燃料ガスを供給するための通路である。燃料供給通路31の一端は液体燃料タンク32に接続され、他端は燃料電池10の燃料ガス入口孔に接続される。
【0019】
液体燃料タンク32は、燃料ガスの生成に必要となる液体燃料を蓄える。液体燃料として、含酸素燃料及び水を含む水溶液が用いられる。含酸素燃料とは、アルコール又はメチルターシャリーブチルエーテル(MTBE)などの含酸素化合物を含む燃料のことである。本実施形態の液体燃料タンク32には、液体燃料として例えばエタノール45%volのエタノール水溶液が蓄えられる。
【0020】
インジェクタ33は、液体燃料タンク32から供給される液体燃料を、所定の周期により気化器34に噴霧する。なお、液体燃料タンク32の液体燃料がインジェクタ33に供給されるようポンプが用いてもよい。
【0021】
気化器34は、インジェクタ33により噴霧された液体燃料を気化する。気化器34は、インジェクタ33から供給された水溶液を気化して水蒸気に含酸素燃料ガスが含まれる混合ガスを燃料ガスとして生成する。気化器34は、例えば、加熱装置40によって加熱される。
【0022】
なお、気化器34と燃料電池10との間に改質器が設けられてもよい。この場合は、改質器において混合ガス中の含酸素燃料ガス及び水蒸気が触媒反応を起すことにより燃料ガスとして水素ガスが生成される。すなわち、液体燃料は改質用燃料として用いられる。
【0023】
加熱装置40は、燃料電池10及び気化器34を加熱する。例えば、加熱装置40は、燃料電池10に供給される酸化剤ガスを加熱する。加熱装置40は、燃焼器通路41と、インジェクタ42と、噴霧室43と、負圧形成装置44と、排出弁45及び46と、燃焼器47とを備える。
【0024】
燃焼器通路41は、燃焼器47に混合ガスを供給するための通路である。燃焼器通路41は、インジェクタ42と燃焼器47との間に形成される。本実施形態の燃焼器通路41の一端は噴霧室43に接続され、他端は燃焼器47に接続される。
【0025】
インジェクタ42は、インジェクタ33と同一の構成であり、液体燃料タンク32から供給される液体燃料を噴霧室43に噴霧する。
【0026】
噴霧室43は、インジェクタ42により液体燃料が噴霧される空間である。噴霧室43は、噴霧室43の内部圧力が大気圧よりも低い状態に対して耐久性を有するものである。すなわち、噴霧室43は負圧を形成可能な空間である。
【0027】
本実施形態における噴霧室43は、インジェクタ42の先端に配置される。噴霧室43は、コンプレッサ22よりも下流の酸化剤供給通路21から分岐した分岐通路211に接続され、負圧形成装置44に接続される。
【0028】
負圧形成装置44は、噴霧室43に大気圧よりも低い負圧を形成する。負圧形成装置44は、噴霧室43に滞留するガスを吸引する吸引装置である。
【0029】
排出弁45及び46は、噴霧室43に噴霧された液体燃料を噴霧室43から燃焼器47に排出する排出装置を構成する。排出弁45は、コンプレッサ22よりも下流の酸化剤供給通路21から分岐した分岐通路211に設けられるアクチュエータであり、排出弁46は、燃焼器通路41に設けられるアクチュエータである。
【0030】
燃焼器47は、燃料電池10を加熱する加熱装置40を構成する。燃焼器47は、噴霧室43から排出される液体燃料の噴霧ガスを燃焼させる。本実施形態の燃焼器47は、排出弁45及び46から供給される液体燃料の噴霧ガス及び空気の混合ガスを燃焼させる。
【0031】
さらに、燃焼器47は、燃料電池10から排出される燃料ガス及び酸化剤ガスを燃焼させる。燃焼によって生成される高温の排ガスは、例えば、気化器34、不図示の改質器、又は、コンプレッサ22と燃料電池10との間に配置される熱交換器に供給される。これにより、燃料電池10が温められる。
【0032】
コントローラ50は、燃料電池システム100の動作を制御する制御装置である。コントローラ50は、あらかじめ定められた処理がプログラムされた中央演算処理装置(CPU;Central Processing Unit)及び記憶装置を備える1つ又は複数のマイクロコンピュータによって構成される。
【0033】
コントローラ50は、燃料電池システム100が起動されると、燃料電池10への燃料ガス及び酸化剤ガスの各供給流量が目標値となるようにコンプレッサ22及びインジェクタ33の各々の動作を制御する。
【0034】
さらにコントローラ50は、燃料電池10の発電に適した所定の温度、例えば約700℃に燃料電池10の温度が達するよう、加熱装置40を用いて燃料電池10を暖機する。
【0035】
例えば、コントローラ50は、燃料電池システム100が起動されると、酸化剤供給通路21における不図示の熱交換器によって加熱された空気が燃料電池10に供給されるようにコンプレッサ22を駆動する。そしてコントローラ50は、排出弁45及び46を閉じるとともに負圧形成装置44を作動させることにより、噴霧室43のガスを吸引して大気圧よりも低い負圧を噴霧室43に形成する。その後、コントローラ50は、インジェクタ42を制御して負圧の噴霧室43に液体燃料を噴霧し、排出弁45及び46を開いて、コンプレッサ22からの空気を液体燃料の噴霧ガスが滞留する噴霧室43に供給する。
【0036】
これにより、液体燃料の噴霧ガス及び空気の混合ガスが噴霧室43から燃焼器47に供給され、燃焼器47での混合ガスの燃焼により発生した熱量が燃料電池10への供給ガスなどに与えられて燃料電池10が温められる。
【0037】
図2は、液体燃料タンク32に供給される液体燃料の温度及び粘性の関係を例示する図である。
【0038】
図2に示すように、液体燃料の温度が0℃よりも低くなるほど、急峻に液体燃料の粘度が高くなる。そして液体燃料の粘度が高くなるほど、インジェクタ42から噴霧される液体燃料の噴霧粒径が大きくなり、液体燃料の噴霧ガスが空気と混ざりにくくなるため、燃焼器47で液体燃料の噴霧ガスが燃焼しにくくなる。その結果、燃焼器47で消費される液体燃料の消費率が低下してしまう。なお、ガソリン燃料の粘度は液体燃料の粘度に比べて小さく、ガソリン燃料の温度が変化しても殆ど粘度は変化しない。
【0039】
図3は、インジェクタ42による液体燃料の圧力と噴霧粒径との関係の一例を示す図である。
【0040】
図3に示すように、インジェクタ42にて与えられる液体燃料の圧力を指す燃圧が大きくなるほど、液体燃料の噴霧粒径が小さくなる。インジェクタ42の燃圧を高くする手法としては、インジェクタ42などの燃料系部品を高圧に耐えられる部品に交換することも考えられる。しかしながら、燃料電池システム100の製造コストが増加するとともに、燃料電池システム100の制約上、高圧の燃料系部品の使用が困難な場合がある。
【0041】
そこで本実施形態では、負圧形成装置44がインジェクタ42の噴霧室43に負圧を形成し、負圧の噴霧室43にインジェクタ42から液体燃料を噴霧することにより、液体燃料の燃圧を確保する。
【0042】
図4は、本実施形態における燃料電池システムの負圧噴霧制御方法の一例を示すフローチャートである。
【0043】
この例では、燃料電池システム100が起動されると、インジェクタ42から噴霧される液体燃料の噴霧粒径が最適な大きさで維持されるように負圧噴霧制御方法が開始される。
【0044】
ステップS1においてコントローラ50は、負圧噴霧制御が開始されると、排出弁45及び46を閉じた状態で負圧形成装置44を作動させる。これにより、負圧形成装置44は、噴霧室43の滞留ガスを吸引する。
【0045】
ステップS2においてコントローラ50は、噴霧室43に負圧が形成されたか否かを判断する。
【0046】
例えば、コントローラ50は、負圧形成装置44が作動を開始した後、経過時間が所定の時間に達したか否かを判断する。所定の時間は、液体燃料の噴霧粒径が目標値、すなわち燃焼器47における混合ガスの燃焼後の未燃燃料が抑制されるような粒径の値となるような負圧形成時間に定められる。そして負圧形成装置44の作動開始後の経過時間が所定の時間に達した場合には、噴霧室43に負圧が形成されたと判断する。
【0047】
ステップS3においてコントローラ50は、噴霧室43に負圧が形成されたと判断した場合には、負圧形成装置44の作動を停止することにより噴霧室43を閉塞する。
【0048】
ステップS4においてコントローラ50は、インジェクタ42から負圧が形成された噴霧室43に対して液体燃料を所定量だけ噴霧する。これにより、インジェクタ42から噴霧される液体燃料の圧力が大きくなるので、液体燃料の噴霧粒径を小さくすることができる。
【0049】
ステップS5においてコントローラ50は、インジェクタ42の噴射を停止すると、排出弁45及び46を特定の時間だけ開くことにより、噴霧室43から燃焼器47へ液体燃料の噴霧ガスを空気によって排出する。このため、液体燃料の噴霧ガスと空気との混合ガスが燃焼器47に供給される。
【0050】
ステップS6においてコントローラ50は、停止指令信号を取得したか否かを判断する。停止指令信号は、液体燃料の温度が所定の閾値を上回った場合に停止指令信号が生成される。所定の閾値は、液体燃料の粘性が大きくなる温度、例えば0℃に設定される。液体燃料の温度は、例えば、液体燃料タンク32又は噴霧室43に設けられた温度センサの検出値から求められる。
【0051】
なお、液体燃料の温度に代えて液体燃料の粘性を検出し、その検出値が特定の閾値を上回った場合に停止指令信号を生成してもよい。このように、燃料電池の粘性又は温度の検出値又はこれに相関のあるパラメータに基づいて停止信号が生成される。
【0052】
そしてコントローラ50は、停止指令信号を取得していない場合には、ステップS1の処理に戻り、負圧形成装置44の作動と排出弁45及び46の作動とを交互に制御する。一方、コントローラ50は、停止指令信号を取得すると、燃料電池システム100の負圧噴霧制御方法についての一連の処理を終了する。
【0053】
このように、コントローラ50は、負圧形成装置44を作動させた後に排出弁45及び46を作動させることにより、噴霧粒径が小さな液体燃料に空気を混合した混合ガスを燃焼器47に供給する。これにより、液体燃料が0℃よりも低い状態であっても、燃焼器47で消費される液体燃料の消費量の低下を抑制することができる。
【0054】
さらにコントローラ50は、負圧形成装置44の作動と排出弁45及び56の作動とを交互に制御することにより、燃焼器47での燃焼に適した混合ガスを断続的に燃焼器47に供給することができる。
【0055】
本発明の第1実施形態によれば、燃料電池システム100は、燃料を燃焼させる燃焼器47を用いて燃料電池10を加熱する。燃料電池システム100は、液体燃料を噴霧するインジェクタ42と、インジェクタ42により液体燃料が噴霧される噴霧室43と、噴霧室43に負圧を形成する負圧形成装置44とを備える。
【0056】
そして負圧形成装置44によって負圧を形成した噴霧室43に液体燃料が噴霧された場合に燃料電池システム100は、噴霧室43の液体燃料を燃焼器47に排出する排出装置を構成する排出弁45及び46を備える。
【0057】
このように、負圧形成装置44を用いてインジェクタ42の噴霧室43に負圧を形成することで、噴霧室43に負圧を発生させた分、インジェクタ42から噴霧される液体燃料の圧力(燃圧)が高くなるので、液体燃料の噴霧粒径を小さくすることができる。このため、液体燃料の噴霧ガスと空気とがよく混ざり合うようになるので、燃焼器47において液体燃料の噴霧ガスが燃焼しやすくなり、未燃燃料を減少させることができる。すなわち、液体燃料の燃費が低下するのを抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態によれば、コンプレッサ22、排出弁45及び排出弁46は、噴霧室43に空気を酸化剤として供給するアクチュエータを構成する。
【0059】
これにより、空気と液体燃料の噴霧ガスとが混合されるとともに噴霧室43から燃焼器47に混合ガスが供給されるので、噴霧室43から燃焼器47への噴霧ガスの排出と、燃焼器47の燃焼に必要となる混合ガスの生成とを同時に行うことができる。このため、アクチュエータの動力を低減しつつ、迅速に混合ガスを燃焼器47に供給することができる。
【0060】
また、本実施形態によれば、コントローラ50は、排出弁45及び46を閉じた状態で負圧形成装置44を作動させ、その後に排出弁45及び46を開ける。すなわち、コントローラ50は、負圧形成装置44の作動と排出弁45及び46の作動とを交互に制御する。
【0061】
これにより、インジェクタ42から噴霧室43に液体燃料が噴霧されるたびに、噴霧粒径の小さな液体燃料が生成されるので、燃焼しやすい混合ガスを燃焼器47に供給することができる。
【0062】
また、本実施形態によれば、コントローラ50は、燃焼器47を用いて燃料電池10の温度を発電に適した所定の温度まで高くする場合、すなわち燃料電池10を暖機する場合に、負圧形成装置44と排出弁45及び46の作動とを交互に制御する。
【0063】
燃料電池10を暖機する場合は液体燃料の温度が低いことが多い。このため、液体燃料の噴霧粒径が大きくなりやすい場面で負圧形成装置44と排出弁45及び46との切替え制御が行われるので、無用な切替え制御の実行を抑制することができる。
【0064】
(第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態における燃料電池システム101の構成の一例を示す構成図である。
【0065】
燃料電池システム101は、加熱装置40において、
図1に示した燃料電池システム100の負圧形成装置44としてエゼクタ44Aを備えるとともに、
図1に示した排出弁45に代えて三方弁45Aを備えている。他の構成については、燃料電池システム100の構成と同一であるため、ここでの説明を省略する。
【0066】
エゼクタ44Aは、コンプレッサ22と燃料電池10との間の酸化剤供給通路21に設けられる。エゼクタ44Aは、燃料電池10に供給される酸化剤ガスの流速を利用して噴霧室43の酸化剤ガスを吸引する。
【0067】
本実施形態のエゼクタ44Aは、コンプレッサ22から空気が供給される供給部A1と、供給部A1から流入する空気の流速を速める構造及びこの構造によって負圧を発生させる空間により噴霧室43の空気が吸引される吸引部A2とを有する。さらにエゼクタ44Aは、吸引部A2から流入する空気を供給部A1からの空気に合流させた空気が燃料電池10に吐出される吐出部A3を有する。
【0068】
三方弁45Aは、コンプレッサ22とエゼクタ44Aとの間の酸化剤供給通路21から分岐した分岐通路211が、エゼクタ44Aの吸引部A2と噴霧室43との間を連通する連通通路411に合流する位置に設けられる。
【0069】
本実施形態のコントローラ50は、噴霧室43に負圧が形成されるようにエゼクタ44Aから噴霧室43の空気を吸引する場合には、三方弁45Aのうち分岐通路側の一つの弁と排出弁46を閉じ、三方弁45Aのうちエゼクタ側及び噴霧室側の二つの弁を開く。
【0070】
そして、コントローラ50は、インジェクタ42から負圧の噴霧室43に液体燃料を噴霧した後、三方弁45Aのうちエゼクタ側の弁を閉じて、三方弁45Aのうち分岐通路側及び噴霧室側の2つの弁と排出弁46とを開く。これにより、コンプレッサ22から噴霧室43に空気が供給されるので、噴霧室43において空気が液体燃料の噴霧ガスと混合され、その混合ガスが燃焼器47に供給される。
【0071】
このように、本実施形態では酸化剤供給通路21にエゼクタ44Aを配置することにより、燃料電池10に空気を供給するコンプレッサ22の動力を有効に利用して噴霧室43に負圧を形成することができる。すなわち、簡素な構成で負圧形成装置44を実現することができる。
【0072】
図6は、本実施形態における燃料電池システム102の負圧噴霧制御方法の一例を示すフローチャートである。
【0073】
この例では、噴霧室43に噴霧室43の内部圧力を検出するセンサが設けられており、そのセンサの検出値がコントローラ50に入力される。
【0074】
ステップS11においてコントローラ50は、負圧噴霧制御方法が開始されると、排出弁46を閉じた状態で三方弁45Aを制御してエゼクタ44Aの吸引部A2と噴霧室43との間の連通通路411を開放する。これにより、噴霧室43の空気がエゼクタ44Aの吸引部A2に吸引される。
【0075】
ステップS21においてコントローラ50は、噴霧室43の内部圧力が所定の負圧閾値以下であるか否かを判断する。負圧閾値は、液体燃料の噴霧粒径が目標値となるように定められた噴霧室43の内部圧力の閾値である。例えば、負圧閾値は、大気圧に対して数百KPa(キロパスカル)だけ低い値に設定される。
【0076】
そしてコントローラ50は、噴霧室43の内部圧力が負圧閾値以下である場合には、噴霧室43に負圧が形成されたと判断する。
【0077】
ステップS31においてコントローラ50は、噴霧室43の内部圧力が負圧閾値以下になった場合には、三方弁45Aを制御して、エゼクタ44Aと噴霧室43との間の連通通路411を閉塞する。これにより、噴霧室43は負圧の状態で閉塞される。
【0078】
ステップS4においてコントローラ50は、インジェクタ42から負圧の噴霧室43に液体燃料を所定量だけ噴霧する。これにより、インジェクタ42から噴霧される液体燃料の圧力が大きくなるので、液体燃料の噴霧粒径を小さくすることができる。
【0079】
ステップS51においてコントローラ50は、インジェクタ42の噴射を停止すると、排出弁46を開いて噴霧室43と燃焼器47との間の燃焼器通路41を開放し、三方弁45Aを制御してコンプレッサ22と噴霧室43との間の分岐通路211を開放する。これにより、噴霧室43に空気が供給されるので、噴霧室43から燃焼器47へ液体燃料の噴霧ガスと空気との混合ガスが供給される。
【0080】
ステップS52においてコントローラ50は、噴霧室43から燃焼器47へ所定量の混合ガスが供給されるように所定の時間だけ待機する。ここにいう所定の時間は、噴霧室43から液体燃料の噴霧ガスが十分に排出されるよう、噴霧室43の体積や、コンプレッサ22から噴霧室43への空気の流量などを考慮して定められる。
【0081】
ステップS53においてコントローラ50は、所定の時間だけ待機すると、三方弁45Aを制御してコンプレッサ22と噴霧室43との間の分岐通路211を閉塞し、排出弁46を閉じて噴霧室43と燃焼器47との間の燃焼器通路41を閉塞する。これにより、噴霧室43への空気の供給が停止されるので、噴霧室43から燃焼器47へ空気の供給が停止される。
【0082】
ステップS6においてコントローラ50は、停止指令信号を取得したか否かを判断する。そしてコントローラ50は、停止指令信号を取得していない場合には、ステップS11の処理に戻り、停止指令信号を取得するまでエゼクタ44Aによる吸引動作とコンプレッサ22による排出動作とを交互に繰り返す。一方、コントローラ50は、停止指令信号を取得すると、燃料電池システム100の負圧噴霧制御方法についての一連の処理を終了する。
【0083】
本発明の第2実施形態によれば、加熱装置40は、燃料電池10に供給される酸化剤ガスの流速を用いて噴霧室43のガスを吸引するエゼクタ44Aを
図1に示した負圧形成装置44として備えている。これにより、噴霧室43の酸化剤ガスを吸引する吸引装置を別個に設ける必要がないので、加熱装置40の製造コスト及びスペースの増加を抑制しつつ、噴霧室43に負圧を形成することができる。
【0084】
(第3実施形態)
図7は、本発明の第3実施形態における燃料電池システム102の構成の一例を示す構成図である。
【0085】
燃料電池システム102は、加熱装置40において、
図1に示した燃料電池システム100の負圧形成装置44としてコンプレッサ22及びフィルタ23を用いるとともに、
図1に示した排出弁45に換えて三方弁45Bを備えている。他の構成については、燃料電池システム100の構成と同一であるため、ここでの説明を省略する。
【0086】
本実施形態では、コンプレッサ22の上流には負圧が生じるため、この負圧を利用して噴霧室43の空気を吸引する。すなわち、コンプレッサ22は、負圧形成装置44の役割を果たす。また、コンプレッサ22の下流には大気圧よりも高い正圧が生じるため、この正圧を利用して噴霧室43の噴霧ガスを排出する。
【0087】
フィルタ23は、コンプレッサ22よりも上流の酸化剤供給通路21に設けられる。フィルタ23は、外気から流入する空気中の異物を取り除くものである。本実施形態のフィルタ23は、外気から酸化剤供給通路21に流入する空気の配管抵抗を大きくする役割を果たす。これにより、フィルタ23とコンプレッサ22との間の酸化剤供給通路21に負圧を形成しやすくなる。なお、コンプレッサ22よりも上流の配管抵抗が十分に大きい場合はフィルタ23を省略してもよい。
【0088】
三方弁45Bは、フィルタ23とコンプレッサ22との間の酸化剤供給通路21から分岐した上流分岐通路412と、コンプレッサ22と燃料電池10との間の酸化剤供給通路21から分岐した下流分岐通路212とが互いに合流する位置に設けられる。三方弁45Bは、下流分岐通路212、上流分岐通路412、及び、噴霧室43に連通する噴霧室通路413にそれぞれ接続される。
【0089】
本実施形態のコントローラ50は、噴霧室43に負圧が形成されるように上流分岐通路412から噴霧室43の空気を吸引する場合には、三方弁45Bのうち下流分岐通路側の弁と排出弁46を閉じ、三方弁45Bのうち上流分岐通路側及び噴霧室通路側の二つの弁を開く。
【0090】
そしてコントローラ50は、インジェクタ42から負圧の噴霧室43に液体燃料を噴霧した後、三方弁45Bのうち上流分岐通路側の弁を閉じ、三方弁45Bのうち下流分岐通路側及び噴霧室通路側の2つの弁と排出弁46とを開く。これにより、コンプレッサ22からの空気が噴霧室43に供給されるので、噴霧室43において液体燃料の噴霧ガスと空気とが混合され、その混合ガスが燃焼器47に供給される。
【0091】
このように、本実施形態では、燃料電池10に空気を供給するコンプレッサ22の上流に生じる負圧を利用して噴霧室43に負圧を形成し、コンプレッサ22の下流に生じる正圧を利用して噴霧室43の液体燃料の噴霧ガスを燃焼器47に排出する。これにより、簡素な構成で負圧形成装置44及び排出装置を実現することができる。
【0092】
本発明の第3実施形態によれば、燃料電池システム102は、燃料電池10に酸化剤ガスを供給するガス供給装置を構成するコンプレッサ22を含む。このコンプレッサ22は、コンプレッサ22の上流から噴霧室43のガスを吸引する負圧形成装置と、コンプレッサ22の下流のガスにより噴霧室43の液体燃料を燃焼器47に排出する排出装置として機能する。例えば、燃料電池システム102は、コンプレッサ22よりも上流に生じる負圧を用いて噴霧室43に滞留するガスを吸引し、コンプレッサ22よりも下流に生じる正圧を用いて噴霧室43に噴霧された液体燃料を燃焼器47に排出する。
【0093】
このように、燃料電池システム102は、噴霧室43に負圧を形成する負圧形成装置及び噴霧室43から液体燃料の噴霧ガスを排出する排出装置としてコンプレッサ22を兼用する。これにより、燃料電池システム102の製造コスト及びサイズの増加を抑制しつつ、燃焼器47での液体燃料の燃費の低下を抑制することができる。
【0094】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態における燃料電池システムについて説明する。本実施形態の燃料電池システムは、
図1に示した燃料電池システム100と同一の構成である。本実施形態の燃料電池システム100には、噴霧室43の内部温度を検出するセンサが噴霧室43に配置されている。
【0095】
本実施形態のコントローラ50は、燃料電池システム100を停止する場合において、噴霧室43が所定の閉塞温度を上回っているか否かを判断する。ここにいう所定の閉塞温度は、噴霧室43に対して負圧形成可能な噴霧室43の内部温度に設定される。例えば、閉塞温度は、実験結果やシミュレーション結果などを通じて、噴霧室43が常温になったときに噴霧室43の内部圧力が、液体燃料の噴霧粒径が目標値となる圧力まで低下するような噴霧室43の温度に設定される。
【0096】
そして噴霧室43が所定の閉塞温度を上回っている場合には、コントローラ50は、排出弁45及び46を閉じて噴霧室43を閉塞する。これにより、燃料電池システム100の停止後に噴霧室43の温度が低下するにつれて噴霧室43の内部圧力が低下するので、噴霧室43に負圧を形成することができる。
【0097】
このため、燃料電池システム100が起動された場合に、インジェクタ42から負圧の噴霧室43に液体燃料が噴霧されるので、インジェクタ42から噴霧された液体燃料の噴霧粒径を、燃焼器47において噴霧ガスが十分に燃焼するような噴霧粒径に維持することができる。
【0098】
一方、噴霧室43が所定の閉塞温度以下である場合には、コントローラ50は、噴霧室43の閉塞を抑制する。そしてコントローラ50は、燃料電池システム100が起動された場合には、負圧形成装置44を制御して噴霧室43のガスを吸引する。
【0099】
なお、固体酸化型燃料電池の場合は、噴霧室43の温度が高温になる。このため、燃料電池システム100を停止する場合に、コントローラ50は、噴霧室43の温度を求めることなく噴霧室43を閉塞するようにしてもよい。これにより、燃料電池システム100のセンサ及びコントローラ50の演算処理などを削減することができる。
【0100】
図8は、本実施形態における燃料電池システム100の停止手法を説明する図である。
【0101】
図8には、実線により噴霧室43の内部圧力が示され、破線により噴霧室43の内部温度が示されており、縦軸が噴霧室43の内部圧力及び内部温度を重ねて示し、横軸が時間を示す。
【0102】
時刻t1において、例えばドライバにより車両のEVキーがOFFに操作されると、コントローラ50は、燃料電池システム100の停止信号を検出し、噴霧室43の内部温度が所定の温度閾値Thを上回っているか否かを判断する。
【0103】
図8に示すように、噴霧室43の内部温度が所定の温度閾値Thを上回っているため、コントローラ50は、排出弁45及び46の各々を閉じる。これにより、時間が経過するにつれて内部温度が外気温に収束するように低下し、これに伴って噴霧室43の内部圧力が低下する。
【0104】
このため、噴霧室43の内部温度が外気温まで低下したときには、噴霧室43には負圧が形成されるので、燃焼器47での燃焼に必要となる噴霧粒径を噴霧室43において確保することができる。
【0105】
本発明の第4実施形態によれば、負圧形成装置44としてコントローラ50は、燃料電池システム100を停止する場合に、噴霧室43を閉塞する閉塞弁に相当する排出弁45及び46を閉じる。
【0106】
これにより、燃料電池システム100が起動されると、噴霧室43が負圧になっているので、1回目のインジェクタ42の噴射の際には、インジェクタ42から噴霧室43に噴霧される液体燃料の噴霧粒径を小さくすることができる。
【0107】
また、本実施形態によれば、排出弁45及び46は、燃料電池システム100を停止する場合において噴霧室43が所定の閉塞温度を示す温度閾値Thを超えるときには、噴霧室43を閉塞する。
【0108】
これにより、1回目のインジェクタ42の噴射の際に、噴霧室43の内部圧力が十分に下っておらず、かえって液体燃料の噴霧粒径が大きくなってしまうという事態を回避することができる。すなわち、確実に1回目のインジェクタ42からの噴霧粒径を小さくすることができる。
【0109】
(第5実施形態)
図9は、本発明の第4実施形態における燃料電池システム103の構成の一例を示す構成図である。
【0110】
燃料電池システム103は、
図4に示した燃料電池システム101を構成する気化器34の空間の一部を噴霧室43として利用する。燃料電池システム103は、燃料電池システム101のインジェクタ42及び噴霧室43を省略し、これらの機能をインジェクタ33、気化器34A、及び開閉弁35に持たせる。
【0111】
気化器34Aは、気化器34Aの一部に負圧形成可能な噴霧室43を形成する。本実施形態の気化器34Aは、負圧形成可能な噴霧室R1を形成する開閉板341を有する。開閉板341は、噴霧室R1と液体燃料を気化する気化室R2とを隔てる板である。
【0112】
気化器34Aの噴霧室R1は、インジェクタ33の先端に配置される。噴霧室R1は、エゼクタ44Aの吸引部A2、コンプレッサ22及び燃焼器47に連通する。本実施形態の噴霧室R1は、エゼクタ44Aの吸引部A2に連通する連通通路411と、コンプレッサ22の吐出口に連通する分岐通路211と、燃焼器47の供給口に連通する燃焼器通路41とに接続される。
【0113】
例えば、開閉板341は、同じ位置に同形状の孔が形成された二枚の板を重ねることにより構成される。そしてコントローラ50は、液体燃料の噴霧ガスを気化する場合に、二枚の板に形成された孔が一致するように一方の板を移動させる。これにより、噴霧室R1と気化室R2とが連通するので、液体燃料の噴霧ガスが気化室R2に流入する。
【0114】
一方、液体燃料の噴霧ガスを燃焼器47に供給する場合には、コントローラ50は二枚の板の孔が全て塞がれるように一方の板を移動させる。これにより、噴霧室R1と気化室R2とが遮蔽されるので、噴霧室R1に噴霧ガスが滞留する。
【0115】
開閉弁35は、気化器34Aから燃料電池10に燃料ガスを排出する。そして燃焼器47に混合ガスを供給する場合には、開閉弁35は、気化器34Aから燃料電池10への燃料ガスの排出を停止する。
【0116】
インジェクタ33は、燃料電池10に燃料ガスを供給する場合には、気化器34の気化室R2に液体燃料を噴霧する。また、インジェクタ33は、燃焼器47に混合ガスを供給する場合には、気化器34Aの噴霧室R1に液体燃料を噴霧する。
【0117】
本実施形態のコントローラ50は、燃料電池10を暖機するために燃焼器47に混合ガスを供給する場合には、気化器34Aの開閉板341を遮蔽するとともに開閉弁35を閉じる。そしてコントローラ50は、排出弁46を閉じるとともに三方弁45Aを制御して、エゼクタ44Aの吸引部A2から噴霧室R1の空気を吸引し、インジェクタ33から負圧の噴霧室R1に液体燃料を噴霧する。続いてコントローラ50は、排出弁46を開けるとともに三方弁45Aを制御して、噴霧室R1の液体燃料の噴霧ガスを空気とともに燃焼器47に排出する。
【0118】
燃料電池10の暖機が完了した後、コントローラ50は、気化器34Aの開閉板341を開くとともに開閉弁35を開く。そしてコントローラ50は、三方弁45A及び排出弁46を全て閉じて、噴霧室R1の液体燃料の噴霧ガスを気化室R2に排出する。
【0119】
このように、気化器34Aの一部に噴霧室R1を形成することにより、燃焼器47での液体燃料の燃費が低下するのを抑制するとともに、上述の実施形態に比べて燃料電池システム103の配置スペース及び製造コストを削減することができる。
【0120】
本発明の第5実施形態によれば、燃料電池システム103は、燃料電池10に燃料ガスが供給されるよう液体燃料を気化する気化器34Aをさらに含み、インジェクタ33は、負圧形成可能な噴霧室として気化器34Aに液体燃料を噴霧する。
【0121】
これにより、インジェクタ33を、燃焼器47に液体燃料の噴霧ガスを供給するインジェクタとして兼用することができる。したがって、インジェクタ42及び噴霧室43の配置スペースを削減することができる。
【0122】
また、本実施形態によれば、気化器34Aは、噴霧室として負圧形成可能な空間である噴霧室R1を形成する開閉板341を有する。そして気化器34Aの噴霧室R1は、インジェクタ33の先端に配置され、負圧形成装置を構成するエゼクタ44A、排出装置を構成するコンプレッサ22、及び燃焼器47の各々に連通する。これにより、気化器34Aを噴霧室R1として利用しつつ、気化器34Aの気化室R2への空気の混入を低減することができる。
【0123】
なお、本実施形態では
図5に示した燃料電池システム101の気化器34の一部に噴霧室R1を形成する例について説明したが、これに限られるものではない。例えば、
図1に示した燃料電池システム100の気化器34、又は、
図7に示した燃料電池システム102の気化器34の一部に噴霧室R1を形成するようにしてもよい。このような場合であっても本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0124】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述の実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上述の実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0125】
なお、上述の実施形態は、適宜組み合わせ可能である。