(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1には、本発明の実施形態に係る車両搭載用の電力変換装置の構成が示されている。電力変換装置は、力率改善回路10、電圧コンバータ回路14および制御部22を備えている。力率改善回路10には交流電圧源18が接続されている。交流電圧源18は、例えば、商用電源であり、電力変換装置の搭載先の車両がプラグイン機能を有する場合には、ACアウトレットが交流電圧源18となる。電圧コンバータ回路14には負荷回路20が接続されている。負荷回路20は、例えば、車両搭載用バッテリを充電するための充電回路である。制御部22は、力率改善回路10および電圧コンバータ回路14が備える各スイッチング素子をオンオフ制御する。
【0017】
力率改善回路10は、交流電圧源18から流入する電流の時間波形をスイッチングによって調整し、交流電圧源18から電力変換装置側を見た力率を改善する。力率改善回路10および電圧コンバータ回路14はトランスTによって結合されており、交流電圧源18から出力された電力は、力率改善回路10から電圧コンバータ回路14に伝送される。電圧コンバータ回路14は、トランスTの2次巻線T2から得られる交流電圧を直流電圧に変換し、適切な大きさの直流電圧を負荷回路20に出力する。力率改善回路10および電圧コンバータ回路14によれば、交流電圧源18から負荷回路20に効率的に電力が供給される。
【0018】
力率改善回路10の構成について説明する。力率改善回路10は、フィルタコンデンサCin、1次巻線T1、およびUV相スイッチング回路12を備えている。
【0019】
UV相スイッチング回路12は、スイッチング素子S1およびS2によって構成されるハーフブリッジU、スイッチング素子S3およびS4によって構成されるハーフブリッジV、ダイオードD1、ダイオードD2、ならびにバッファコンデンサCbufを備えている。ハーフブリッジUは、スイッチング素子S1の一端と、スイッチング素子S2の一端とを接続したものである。スイッチング素子S1の両端には、スイッチング素子S2との接続点の側をアノードとしてダイオードが接続されている。スイッチング素子S2の両端には、スイッチング素子S1との接続点の側をカソードとしてダイオードが接続されている。スイッチング素子S1およびS2としては、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が用いられる。この場合、スイッチング素子S1としてのIGBTのエミッタと、スイッチング素子S2としてのIGBTのコレクタとが接続される。
【0020】
同様に、ハーフブリッジVは、スイッチング素子S3の一端と、スイッチング素子S4の一端とを接続したものである。スイッチング素子S3の両端には、スイッチング素子S4との接続点の側をアノードとしてダイオードが接続されている。スイッチング素子S4の両端には、スイッチング素子S3との接続点の側をカソードとしてダイオードが接続されている。スイッチング素子S3およびS4としては、例えば、IGBTが用いられる。この場合、スイッチング素子S3としてのIGBTのエミッタと、スイッチング素子S4としてのIGBTのコレクタとが接続される。
【0021】
スイッチング素子S1およびS2の接続点と、スイッチング素子S3およびS4の接続点との間には、1次巻線T1が接続されている。1次巻線T1のセンタータップm(中途接続点)は、電源入力端子24−1に接続されている。
【0022】
なお、1次巻線T1の一端とスイッチング素子S1およびS2の接続点との間に第1のリアクトルが接続され、1次巻線T1の他端とスイッチング素子S3およびS4の接続点との間に第2のリアクトルが接続されてもよい。この場合、第1のリアクトルと第2のリアクトルは磁気的に結合してもよい。また、電源入力端子24−1とセンタータップmとの間にもリアクトルが接続されてもよい。
【0023】
ハーフブリッジUおよびVは並列接続され、フルブリッジを構成している。すなわち、スイッチング素子S1のスイッチング素子S2側とは反対側の端子(図の上側の端子)と、スイッチング素子S3のスイッチング素子S4側とは反対側の端子(図の上側の端子)とが接続されている。また、スイッチング素子S2のスイッチング素子S1側とは反対側の端子(図の下側の端子)と、スイッチング素子S4のスイッチング素子S3側とは反対側の端子(図の下側の端子)とが接続されている。
【0024】
ダイオードD1のアノードはダイオードD2のカソードに接続されている。ダイオードD1のカソードは、ハーフブリッジUおよびVの上側の端子に接続され、ダイオードD2のアノードは、ハーフブリッジUおよびVの下側の端子に接続されている。ダイオードD1およびD2の接続点は、電源入力端子24−2に接続されている。
【0025】
スイッチング素子S1、スイッチング素子S3、およびダイオードD1の接続点と、スイッチング素子S2、スイッチング素子S4、およびダイオードD2の接続点との間には、バッファコンデンサCbufが接続されている。
【0026】
1次巻線T1は、電圧コンバータ回路14が備える2次巻線T2に磁気的に結合し、1次巻線T1および2次巻線T2は、トランスTを構成している。
【0027】
電源入力端子24−1と電源入力端子24−2との間には、フィルタコンデンサCinが接続されている。また、電源入力端子24−1と電源入力端子24−2との間には交流電圧源18が接続されている。交流電圧源18が商用電源である場合には、電源入力端子24−1および24−2には、ケーブルを介して電源用プラグが接続され、その電源用プラグがACアウトレットに差し込まれる。
【0028】
力率改善回路10の動作について説明する。交流電圧源18は電源入力端子24−1および24−2に、正弦波電圧である入力交流電圧Vacを出力する。フィルタコンデンサCinは、力率改善回路10で発生し、交流電圧源18側に流出する高周波電流を抑制する。
【0029】
制御部22は、制御信号Cn1〜Cn4をそれぞれスイッチング素子S1〜S4に出力し、スイッチング素子S1〜S4をオンオフ制御する。制御信号Cniがハイであるときは、スイッチング素子Siはオンとなり、制御信号Cniがローであるときは、スイッチング素子Siはオフとなる。ただし、iは1〜4のうちいずれかの整数である。デッドタイムを除く時間帯で、制御信号Cn2は制御信号Cn1に対してハイおよびローを反転した値となり、制御信号Cn4は制御信号Cn3に対してハイおよびローを反転した値となる。デッドタイムでは、制御信号Cn1およびCn2は共にローとなり、制御信号Cn3およびCn4は共にローとなる。また、制御信号Cn3およびCn4は、それぞれ、制御信号Cn1およびCn2に対して位相が180°遅れている。
【0030】
これによって、スイッチング素子S1およびスイッチング素子S2は、交互にオンオフする。すなわち、スイッチング素子S1がオンからオフになってからデッドタイムが経過した時にスイッチング素子S2がオフからオンになり、スイッチング素子S2がオンからオフになってからデッドタイムが経過した時にスイッチング素子S1がオフからオンになる。同様に、スイッチング素子S3およびスイッチング素子S4は交互にオンオフする。すなわち、スイッチング素子S3がオンからオフになってからデッドタイムが経過した時にスイッチング素子S4がオフからオンになり、スイッチング素子S4がオンからオフになってからデッドタイムが経過した時にスイッチング素子S3がオフからオンになる。このように、デッドタイムが設けられていることで、各ハーフブリッジを構成する2つのスイッチング素子が同時にオンにならず、バッファコンデンサCbufの両端が短絡されてしまうことが回避される。
【0031】
スイッチング素子S1およびS2のオンオフの位相に対し、スイッチング素子S3およびS4のオンオフの位相は180°遅れている。
【0032】
制御部22は、バッファコンデンサCbufの端子間電圧とその目標値との差異、交流電圧源18が出力する入力交流電圧Vac、および、電源入力端子24−1とセンタータップmとを結ぶ経路に流れる入力電流iLに応じて、制御信号Cn1〜Cn4のデューティ比(時比率)を変化させる。これによって、電源入力端子24−1および24−2に流れる電流の時間波形を入力交流電圧Vacの時間波形に近似させ、または一致させると共に、電源入力端子24−1および24−2に流れる電流の位相を入力交流電圧Vacの位相に近似させ、または一致させる。
【0033】
また、制御信号Cn1〜Cn4に従ってスイッチングS1〜S4がオンオフ制御されることで、スイッチング素子S1〜S4、ダイオードD1およびD2が整流回路として動作し、1次巻線T1の端子間電圧Vuvが整流されてバッファコンデンサCbufに印加される。これによって、入力交流電圧Vacに基づいて、バッファコンデンサCbufが充電される。
【0034】
このように、力率改善回路10の動作状態は、制御信号Cn1〜Cn4のそれぞれによって表される。デューティ比の代表値としてのUV相デューティ比は、制御信号Cn1がオンになる時間とデッドタイムとを加算した時間を、制御信号Cn1の周期で除した値として定義される。
【0035】
制御信号Cn1〜Cn4の周期は、入力交流電圧Vacの周期よりも十分短い。電源入力端子24−1および24−2に流れる電流の時間波形は、スイッチング素子S1〜S4のスイッチングによって整形され、力率改善動作が実行される。
【0036】
電圧コンバータ回路14の構成について説明する。電圧コンバータ回路14は、2次巻線T2およびWX相スイッチング回路16を備えている。
【0037】
WX相スイッチング回路16は、スイッチング素子S5およびS6によって構成されるハーフブリッジW、スイッチング素子S7およびS8によって構成されるハーフブリッジX、および出力コンデンサCoutを備えている。ハーフブリッジWは、スイッチング素子S5の一端と、スイッチング素子S6の一端とを接続したものである。スイッチング素子S5の両端には、スイッチング素子S6との接続点の側をアノードとしてダイオードが接続されている。スイッチング素子S6の両端には、スイッチング素子S5との接続点の側をカソードとしてダイオードが接続されている。スイッチング素子S5およびS6としては、例えば、IGBTが用いられる。この場合、スイッチング素子S5としてのIGBTのエミッタと、スイッチング素子S6としてのIGBTのコレクタとが接続される。
【0038】
同様に、ハーフブリッジXは、スイッチング素子S7の一端と、スイッチング素子S8の一端とを接続したものである。スイッチング素子S7の両端には、スイッチング素子S8との接続点の側をアノードとしてダイオードが接続されている。スイッチング素子S8の両端には、スイッチング素子S7との接続点の側をカソードとしてダイオードが接続されている。スイッチング素子S7およびS8としては、例えば、IGBTが用いられる。この場合、スイッチング素子S7としてのIGBTのエミッタと、スイッチング素子S8としてのIGBTのコレクタとが接続される。
【0039】
スイッチング素子S5およびS6の接続点と、スイッチング素子S7およびS8の接続点との間には2次巻線T2が接続されている。
【0040】
ハーフブリッジWおよびXは並列接続され、出力フルブリッジを構成している。すなわち、スイッチング素子S5の上側の端子とスイッチング素子S6の上側の端子とが接続され、スイッチング素子S7の下側の端子とスイッチング素子S8の下側の端子とが接続されている。ハーフブリッジWおよびXの上側の端子と、ハーフブリッジWおよびXの下側の端子との間には、出力コンデンサCoutが接続されている。また、ハーフブリッジWおよびXの上側の端子には正極負荷端子26Pが接続され、ハーフブリッジWおよびXの下側の端子には負極負荷端子26Nが接続されている。さらに、正極負荷端子26Pと負極負荷端子26Nとの間には負荷回路20が接続されている。
【0041】
電圧コンバータ回路14の動作について説明する。力率改善回路10の1次巻線T1に印加された電圧に応じて2次巻線T2に電圧が発生し、2次巻線T2に発生した電圧がスイッチング素子S5およびS6の接続点と、スイッチング素子S7およびS8の接続点との間に印加される。
【0042】
制御部22は、制御信号Cn5〜Cn8をそれぞれスイッチング素子S5〜S8に出力し、スイッチング素子S5〜S8をオンオフ制御する。制御信号Cniがハイであるときは、スイッチング素子Siはオンとなり、制御信号Cniがローであるときは、スイッチング素子Siはオフとなる。ただし、iは5〜8のうちいずれかの整数である。デッドタイムを除く時間帯で、制御信号Cn6は制御信号Cn5に対してハイおよびローを反転させた値となり、制御信号Cn8は制御信号Cn7に対してハイおよびローを反転させた値となる。また、制御信号Cn7およびCn8は、それぞれ、制御信号Cn5およびCn6に対して位相が180°遅れている。
【0043】
これによってスイッチング素子S5およびS6は交互にオンオフする。すなわち、スイッチング素子S5がオンからオフになってからデッドタイムが経過した時にスイッチング素子S6がオフからオンになり、スイッチング素子S6がオンからオフになってからデッドタイムが経過した時にスイッチング素子S5がオフからオンになる。同様に、スイッチング素子S7およびS8は交互にオンオフする。すなわち、スイッチング素子S7がオンからオフになってからデッドタイムが経過した時にスイッチング素子S8がオフからオンになり、スイッチング素子S8がオンからオフになってからデッドタイムが経過した時にスイッチング素子S7がオフからオンになる。このように、デッドタイムが設けられていることで、各ハーフブリッジを構成する2つのスイッチング素子が同時にオンにならず、出力コンデンサCoutの両端が短絡されてしまうことが回避される。
【0044】
スイッチング素子S5およびS6のオンオフの位相に対し、スイッチング素子S7およびS8のオンオフの位相は180°遅れている。
【0045】
このように、電圧コンバータ回路14の動作状態は、制御信号Cn5〜Cn8のそれぞれによって表される。デューティ比の代表値としてのWX相デューティ比は、制御信号Cn5がオンになる時間とデッドタイムとを加算した時間を、制御信号Cn5の周期で除した値として定義される。制御部22は、電圧コンバータ回路14のWX相デューティ比を、力率改善回路10のUV相デューティ比に一致させる。
【0046】
制御部22は、出力コンデンサCoutの端子間電圧とその目標値との差異に応じて、WX相スイッチング回路16をスイッチングする位相を、UV相スイッチング回路12に対して遅らせる。WX相スイッチング回路16をスイッチングする位相が、UV相スイッチング回路12をスイッチングする位相に対して遅れることで、UV相スイッチング回路12からWX相スイッチング回路16にトランスTを介して電力が伝送される。
【0047】
このように、電力変換装置は、交流電圧源18からの入力電力の力率をスイッチングによって調整する第1スイッチング回路としてのUV相スイッチング回路12と、UV相スイッチング回路12に磁気結合回路としてのトランスTによって結合され、UV相スイッチング回路12からトランスTを介して入力された電力をスイッチングによって調整する第2スイッチング回路としてのWX相スイッチング回路16とを備えている。制御部22は、UV相スイッチング回路12からWX相スイッチング回路16に伝送する電力に応じて、UV相スイッチング回路12およびWX相スイッチング回路16をタイミングをずらして、すなわち、位相をずらして同一のスイッチング周波数でスイッチングする。
【0048】
UV相スイッチング回路12は、並列接続された2つの第1ハーフブリッジであって、直列接続された2つのスイッチング素子をそれぞれが含む、2つの第1ハーフブリッジとしてハーフブリッジUおよびVを備えている。また、UV相スイッチング回路12は、並列接続されたハーフブリッジUおよびVに並列に接続され直流電力を蓄積するバッファコンデンサCbufと、電源入力端子24−1を介して1次巻線T1のセンタータップmに一端が接続された交流電圧源18の他端が接続され、交流電圧源18から出力される交流電力を、UV相スイッチング回路12のスイッチングによって整流してバッファコンデンサCbufを充電する整流部としてのダイオードD1およびD2を有している。
【0049】
WX相スイッチング回路16は、並列接続された2つの第2ハーフブリッジであって、直列接続された2つのスイッチング素子をそれぞれが含む、2つの第2ハーフブリッジとしてハーフブリッジWおよびXを備えている。また、WX相スイッチング回路16は、並列接続されたハーフブリッジWおよびXに並列に接続され、直流電力を蓄積する出力コンデンサCoutとを有している。
【0050】
1次巻線T1は、ハーフブリッジUが備える2つのスイッチング素子S1およびS2の接続点と、ハーフブリッジVが備える2つのスイッチング素子S3およびS4の接続点との間に接続されている。2次巻線T2は、ハーフブリッジWが備える2つのスイッチング素子S5およびS6の接続点と、ハーフブリッジXが備える2つのスイッチング素子S7およびS8の接続点との間に接続されている。1次巻線T1および2次巻線T2は磁気的に結合し、磁気結合回路としてのトランスTを形成している。
【0051】
本実施形態に係る電力変換装置では、各ハーフブリッジを構成する2つのスイッチング素子の一方がオンからオフになり、他方がオフからオンになる際にデッドタイムが設けられている。このようなデッドタイムがある場合、後述するように、負荷回路20に出力される電力に寄与しない循環電流が増加することがある。この循環電流は、2次巻線T2の両端の電圧Vwxが0である時間帯に2次巻線T2に流れる電流であり、ジュール熱の発生等によって損失を増加させる。循環電流を抑制するため、制御部22は、UV相デューティ比に補正値を加算した値をWX相デューティ比とし、このWX相デューティ比に従って電圧コンバータ回路14をスイッチングする。
【0052】
図2(a)および(b)には、制御信号Cn1〜Cn4の時間波形が示されている。制御信号Cn1およびCn2の時間波形は実線で示され、制御信号Cn3およびCn4の時間波形は破線で示されている。
【0053】
ハーフブリッジUに対する制御信号Cn1およびCn2の周期はPである。制御信号Cn1がハイになる時間は、デューティ・オン時間Tαからデッドタイムtdを減算した時間(Tα−td)である。ここで、デューティ・オン時間Tαは、仮にデッドタイムtdを0とした場合に、制御信号Cn1がハイになる時間である。制御信号Cn2がハイになる時間は、スイッチング周期Pからデューティ・オン時間Tαを減算し、さらに、デッドタイムtdを減算した時間(P−Tα−td)である。
【0054】
ハーフブリッジVに対する制御信号Cn3およびCn4は、それぞれ、制御信号Cn1およびCn2と同一の時間波形を有し、それぞれ、制御信号Cn1およびCn2に対して位相が180°遅れている。
【0055】
図2(c)および(d)には、制御信号Cn5〜Cn8の時間波形が示されている。制御信号Cn5およびCn6の時間波形は実線で示され、制御信号Cn7およびCn8の時間波形は破線で示されている。制御信号Cn5およびCn6は、それぞれ、制御信号Cn1およびCn2に対しφだけ位相が遅れている。制御信号Cn5のデューティ比(WX相デューティ比)は、制御信号Cn1のデューティ比(UV相デューティ比)に補正値を加算した補正デューティ比である。デューティ比の補正によって、制御信号Cn5のパルス幅は、制御信号Cn1のパルス幅に時間換算補正値Δαを加算した時間となる。制御信号Cn6のパルス幅は、制御信号Cn2のパルス幅に時間換算補正値Δαを加算した時間となる。なお、時間換算補正値Δαは、ラジアンで表されたデューティ比の補正値を時間換算した値である。
図2(c)および(d)に示される例では、Δαは負の値であり、制御信号Cn5のオン時間は制御信号Cn1のオン時間よりも|Δα|だけ短くなっている。また、制御信号Cn6のオフ時間は、制御信号Cn2のオフ時間よりも|Δα|だけ短くなっている。
図2(c)および(d)では、制御信号Cn5およびCn6の補正前の時間波形が点線で模式的に示されている。
【0056】
同様に、制御信号Cn7およびCn8は、それぞれ、制御信号Cn3およびCn4に対しφだけ位相が遅れている。制御信号Cn7のデューティ比は、制御信号Cn3のデューティ比に補正値を加算した補正デューティ比である。デューティ比の補正によって、制御信号Cn7のパルス幅は、制御信号Cn3のパルス幅に時間換算補正値Δαを加算した時間となる。また、制御信号Cn8のパルス幅は、制御信号Cn4のパルス幅に時間換算補正値Δαを加算した時間となる。
図2(c)および(d)に示される例では、Δαは負の値であり、制御信号Cn7のオン時間は制御信号Cn3のオン時間よりも|Δα|だけ短くなっている。また、制御信号Cn8のオフ時間は、制御信号Cn4のオフ時間よりも|Δα|だけ短くなっている。
図2(c)および(d)では、制御信号Cn7およびCn8の補正前の時間波形が点線で模式的に示されている。
【0057】
制御信号Cn1がハイからローに切り換わる時間と制御信号Cn2がローからハイに切り換わる時間との間、および、制御信号Cn2がハイからローに切り換わる時間と制御信号Cn1がローからハイに切り換わる時間との間のそれぞれには、デッドタイムtdが設けられている。制御信号Cn3および制御信号Cn4の組、制御信号Cn5およびCn6の組、ならびに制御信号Cn7およびCn8の組についても、制御信号Cn1およびCn2の組と同様にデッドタイムtdが設けられている。
図2では、各デッドタイムがハッチングによって示されている。
【0058】
バッファコンデンサCbufが一定の電圧Vbに充電されており、出力コンデンサCoutが一定の電圧Vdに充電されているものとして、1次巻線電圧Vuv、2次巻線電圧Vwxおよび2次巻線電流idについて説明する。
図3(a)および(b)には、それぞれ、1次巻線電圧Vuv、2次巻線電圧Vwxの時間波形が示されている。また、2次巻線T2の巻き数に対する1次巻線T1の巻き数の比として定義される巻線比をNとし、Vb=N・Vdの関係が成立しているものとする。
【0059】
スイッチング素子S1およびS4の両者がオンになる時間帯で1次巻線電圧VuvはVbとなり、スイッチング素子S2およびS3の両者がオンになる時間帯で1次巻線電圧は−Vuvとなる。また、スイッチング素子S5およびS8の両者がオンになる時間帯で2次巻線電圧VwxはVdとなり、スイッチング素子S6およびS7の両者がオンになる時間帯で2次巻線電圧Vwxは−Vdとなる。その他の時間帯において、1次巻線電圧Vuvおよび2次巻線電圧Vwxはいずれも0となる。
【0060】
1次巻線電圧Vuvは、・・・・Vb,0,−Vb,0,Vb、・・・・というように、時間経過と共にVb,0,−Vb,0の順に値の変化を繰り返す。2次巻線電圧Vwxは、・・・・Vd,0,−Vd,0,Vd、・・・・というように、時間経過と共にVd,0,−Vd,0の順に値の変化を繰り返す。
【0061】
2次巻線電圧Vwxが0からVdに立ち上がる時間は、1次巻線電圧Vuvが0からVbに立ち上がる時間に対し、位相換算でφだけ遅れている。
図3(b)において破線で示されている時間波形は、UV相デューティ比に補正値が加算されていないデューティ比に従って電力変換装置が動作した場合の2次巻線電圧Vwxである。
図3(b)において実線で示されている時間波形は、UV相デューティ比に補正値が加算されたWX相デューティ比に従って電力変換装置が動作した場合の2次巻線電圧Vwxである。
【0062】
図3(c)には、2次巻線T2に流れる電流idの時間波形が示されている。2次巻線電流idは、スイッチング素子S7およびスイッチング素子S8の接続点から、スイッチング素子S5およびS6の接続点に向かって流れる方向を正とする。
【0063】
UVデューティ比およびWXデューティ比に従って電力変換装置が動作した場合について説明する。時間t1〜t2の間は、1次巻線電圧VuvがVbである一方で、2次巻線電圧Vwxは0である。これによって2次巻線T2に誘導電流が流れ2次巻線電流idが増加する。時間t2〜t3の間は、1次巻線電圧VuvはVbを維持し、2次巻線電圧VwxはVdを維持する。Vb=N・Vdが成立するため、2次巻線電流idは過渡的な増減が少なく、時間t2からほぼ一定の値を維持する。時間t3〜t4の間は、2次巻線電圧VwxがVdである一方で、1次巻線電圧Vuvは0である。これによって2次巻線T2に誘導電流が流れ2次巻線電流idが減少する。時間t4〜t5の間は1次巻線電圧Vuvおよび2次巻線電圧Vwxのいずれもが0であるため、idは過渡的な増減が少なく、時間t4から0または0に近い値を維持する。
【0064】
時間t5〜t9の間、1次巻線電圧Vuv、2次巻線電圧Vwxおよび2次巻線電流idは、時間t1〜t5における値の極性を反転したものとなる。時間t9〜t10の間は、時間t1〜t2と同様、1次巻線電圧VuvがVbである一方で、2次巻線電圧Vwxは0である。これによって2次巻線T2に誘導電流が流れ2次巻線電流idが増加する。
【0065】
次に、補正値が加算されていないデューティ比に従って電力変換装置が動作した場合の動作について説明する。WX相デューティ比に従った場合、時間t3から時間t4にかけて2次巻線電流idが減少し0に近付きまたは0となる。これに対し、補正値が加算されていないデューティ比に従った場合、時間t3から時間t4+|Δα|にかけて2次巻線電流idが減少して0になり、向きが逆になって負方向に増加する。その後、時間t4+|Δα|から時間t5までの間、時間t4+|Δα|での値−izが維持される。また、WX相デューティ比に従った場合、時間t7から時間t8にかけて2次巻線電流idが0に近付く。これに対し、補正値が加算されていないデューティ比に従った場合、時間t7から時間t8+|Δα|にかけて2次巻線電流idが0に向かい、向きが逆になって正方向に増加する。その後、時間t8+|Δα|から時間t9までの間、時間t8+|Δα|での値izが維持される。
【0066】
2次巻線電流idのうち、負荷回路20に供給される電力に寄与しない循環電流について説明する。補正値が加算されていないデューティ比に従って電力変換装置が動作した場合、時間t1〜t9の時間帯で2次巻線電圧Vwxが0となるのは、時間t1〜t2の間、時間t4+|Δα|〜t6の間、および時間t8+|Δα|〜t9の間である。これらのゼロ電圧時間帯における2次巻線電流idは、負荷回路20に出力される電力に寄与しない循環電流であり、ジュール熱等の損失を増加させる。
【0067】
ゼロ電圧時間帯のうち時間t4+|Δα|〜t5の間は、時間t4+|Δα|における電流−izが流れ、時間t8+|Δα|〜t9の間は、時間t8+|Δα|における電流izが流れる。したがって、ゼロ電圧時間帯においては、時間t4+|Δα|および時間t8+|Δα|における2次巻線電流idに基づいて定まる循環電流(−izまたはiz)が流れる。
【0068】
一方、WX相デューティ比に従って電力変換装置が動作した場合、時間t1〜t9の時間帯で、2次巻線電圧Vwxが0となるのは、時間t1〜t2の間、時間t4〜t6の間、および時間t8〜t9の間である。これらのゼロ電圧時間帯のうち、時間t4〜t5の間、および時間t8〜t9の間では、2次巻線電流idは0または0に近い値である。したがって、補正値が加算されていないデューティ比に従った場合に比べて循環電流が抑制され、循環電流による損失が抑制される。
【0069】
図4には、制御部22の構成例が示されている。制御部22は、
図4に示されている構成要素をプログラムを実行することによって実現するプロセッサを備えていてもよい。また、各構成要素が、ハードウエアとしての電子回路によって個別に構成されてもよい。
【0070】
制御部22が、各制御信号を生成するに際しては、バッファコンデンサCbufの端子間電圧Vbの計測値Vbm、入力交流電圧Vacの計測値Vim、入力電流iLの計測値IL、および電圧コンバータ回路14から負荷回路20に出力される電圧Vdの計測値Vdmが用いられる。電力変換装置には、これらを計測するための各センサ(図示せず)が設けられている。
【0071】
制御部22は、バッファコンデンサCbufの端子間電圧の計測値であるバッファ電圧計測値Vbmとその目標値であるバッファ電圧目標値Vb
*との差異に基づいてUV相デューティ比目標値α0
*およびWX相デューティ比目標値α
*を求める。また、制御部22は、電圧コンバータ回路14から負荷回路20への出力電圧の計測値である出力電圧計測値Vdmとその目標値である出力電圧目標値Vd
*との差異に基づいて、WX相スイッチング回路16をスイッチングする位相を、UV相スイッチング回路12に対して遅らせる各制御信号を生成する。
【0072】
UV相デューティ比目標値α0
*およびWX相デューティ比目標値α
*を求める処理について説明する。減算器28は、バッファ電圧目標値Vb
*からバッファ電圧計測値Vbmを減算して第1誤差を求め、電圧PI制御部30に出力する。電圧PI制御部30は、比例積分制御による第1制御値を求め、乗算器32に出力する。乗算器32は、入力交流電圧Vinの計測値の絶対値|Vim|を第1制御値に乗じ、さらに、入力交流電圧計測値Vimの時間平均値の自乗の逆数を乗じて得られる入力電流目標値iL
*を減算器34に出力する。減算器34は、入力電流目標値iL
*から入力電流計測値ILの絶対値|IL|を減算して第2誤差を求め、電流PI制御部36に出力する。電流PI制御部36は、比例積分制御による第2制御値を求め加算器38に出力する。加算器38は、第2制御値に半周期目標値1−|Vim|/Vbmを加算して調整前目標値α0を求める。半周期目標値1−|Vim|/Vbmは、入力交流電圧Vacが正の半周期の値であるときに、力率改善回路10において力率改善効果が得られるデューティ比としての意義を有する。
【0073】
デューティ比決定部40は、入力交流電圧Vacの測定値Vimが0または正の値であるときは、α0
*=α0としてUV相デューティ比目標値α0
*を求める。また、デューティ比決定部40は、入力交流電圧Vacの測定値Vimが負の値であるであるときは、α0
*=1−α0としてUV相デューティ比目標値α0
*を求める。
【0074】
さらに、デューティ比決定部40は、次の(数1)に従ってUV相デューティ比目標値α0
*を補正してWX相デューティ比目標値α
*を求める。ただし、(数1)で求められるWX相デューティ比目標値α
*の単位はラジアンであり、この値を2πで除した値が1周期Pに占めるオン・デューティ時間Tαの比率を表す値となる。
【0075】
(数1)α
*=α0
*+2π・td・fsw・PL[rad]
【0076】
この式におけるtdはデッドタイムである。fswはスイッチング周波数でありスイッチング周期Pの逆数である。また、PLは極性係数であり、UV相デューティ比目標値α0
*がπ以上であるときは+1、UV相デューティ比目標値α0
*がπ未満であるときは−1の値を有する。
【0077】
(数1)では、UV相デューティ比目標値α0
*がπ以上であるときと、π未満であるときとで、補正項である2π・td・fsw・PLの極性が反転する。これによって、制御部22は、UV相デューティ比目標値α0
*に応じた極性を有する補正値に基づいてUV相デューティ比目標値α0
*を補正し、WX相デューティ比目標値α
*を求める。そして、このWX相デューティ比目標値α
*に基づいてWX相スイッチング回路16を制御して循環電流を抑制する。
【0078】
なお、(数1)の補正値2π・td・fsw・PLの単位はラジアンである。
図2に示されている時間換算の補正値Δαは、(数2)で示されているように、スイッチング周期P(=1/fsw)を乗じて2πで除した値である。すなわち、時間換算の補正値Δαは、デッドタイムtdの極性を極性係数PLに応じて定めたものであり、|Δα|=tdである。
【0080】
WX相スイッチング回路16をスイッチングする位相を、UV相スイッチング回路12に対して遅らせる制御信号を生成する処理について説明する。減算器42は、出力電圧目標値Vd
*から出力電圧計測値Vdmを減算した第3誤差を求め、位相PI制御部44に出力する。位相PI制御部44は、比例積分制御による第3制御値を求め、位相調整部48に出力する。キャリア生成部46は、パルス幅変調を行うためのキャリア信号を位相調整部48に出力する。キャリア信号は、例えば、三角波を時間波形とする信号である。
【0081】
位相調整部48は、さらに、キャリア生成部46から出力されたキャリア信号の位相を、第3制御値に基づいて変化させて、UV相バッファアンプ50に出力する。例えば、位相調整部48は、第3制御値が大きい程、キャリア信号の位相を進める。UV相バッファアンプ50は、位相調整部48から出力されたキャリア信号をU相キャリア信号CUとしてUV相制御信号生成部54に出力する。また、UV相バッファアンプ50は、位相調整部48から出力されたキャリア信号を180°遅延させてV相キャリア信号CVとしてUV相制御信号生成部54に出力する。
【0082】
位相調整部48は、キャリア信号をWX相バッファアンプ52に出力する。WX相バッファアンプ52は、位相調整部48から出力されたキャリア信号をW相キャリア信号CWとしてWX相制御信号生成部56に出力する。また、WX相バッファアンプ52は、位相調整部48から出力されたキャリア信号を180°遅延させてX相キャリア信号CXとしてWX相制御信号生成部56に出力する。
【0083】
ここでは、位相調整部48が、UV相バッファアンプ50に出力する信号の位相を第3制御値に基づいて進める処理について説明したが、位相調整部48が、WX相バッファアンプ52に出力する信号の位相を第3制御値に基づいて遅らせる処理が採用されてもよい。
【0084】
UV相制御信号生成部54は、UV相デューティ比目標値α0
*、U相キャリア信号CUおよびV相キャリア信号CVに基づいて、
図2に示されるような制御信号Cn1〜Cn4を生成する。WX相制御信号生成部56は、WX相デューティ比目標値α
*、W相キャリア信号CWおよびX相キャリア信号CXに基づいて、
図2に示されるような制御信号Cn5〜Cn8を生成する。
【0085】
このような制御によれば、バッファ電圧計測値Vbmがバッファ電圧目標値Vb
*に満たないときは、UV相デューティ比目標値α0
*が増加し、バッファ電圧計測値Vbがバッファ電圧目標値Vb
*を超えたときは、UV相デューティ比目標値α0
*が減少する。これによって、バッファコンデンサCbufの端子間電圧が電圧目標値Vb
*に近付き、または、一致する。
【0086】
さらに、出力電圧計測値Vdmが出力電圧目標値Vd
*に満たないときは、UV相スイッチング回路12をスイッチングする位相に対し、WX相スイッチング回路16をスイッチングする位相の遅れが大きくなる。また、出力電圧計測値Vdmが出力電圧目標値Vd
*を超えるときは、UV相スイッチング回路12をスイッチングする位相に対し、WX相スイッチング回路16をスイッチングする位相の進みが大きくなる。これによって、出力電圧が出力電圧目標値Vd
*に近付き、または、一致する。
【0087】
なお、上記では、バッファコンデンサCbufの端子間電圧Vbと、出力コンデンサCoutの端子間電圧Vdとの間にVb=N・Vdの関係が成立しているものとして電力変換装置の動作について説明した。電力変換装置が動作を開始してから定常状態となるまでの間や、負荷回路20に出力される電力が変動するときは、Vb=N・Vdの関係が成立しないことがある。この場合、ゼロ電圧時間帯に2次巻線T2に流れる電流が増加することがある。このような課題を解決するため、デューティ比決定部40は、(数1)の右辺に第2の補正項を加算した(数3)に基づいてWX相デューティ比目標値α
*を求めてもよい。
【0088】
(数3)α
*=α0
*+2π・td・fsw・PL
+(2π−α0
*)・(1−Vbm/(N・Vdm))
【0089】
図5(a)、(b)および(c)には、それぞれ、入力交流電圧Vac、UV相デューティ比目標値α0
*、および補正項δ=2π・td・fsw・PLの時間波形が示されている。上述のように、デューティ比決定部40は、入力交流電圧Vacの測定値Vimが0または正の値であるときと、負の値であるときとで異なる数式に従ってUV相デューティ比目標値α0
*を求める。そのため、
図4(a)および(b)に示されているように、入力交流電圧Vacが0となるタイミングで時間波形が不連続となる。
【0090】
図6には、(数1)において、補正項δ=2π・td・fsw・PLの代わりに、極性を一定とした補正項|δ|=2π・td・fswを仮に用いた場合の1次巻線電圧Vuv、2次巻線電圧Vwx、および2次巻線電流idの時間波形が示されている。これらの時間波形はシミュレーションによって求められたものである。
図6(a)には、UV相デューティ比目標値α0
*がπより大きい場合(スイッチング周期Pに対するオン・デューティ時間Tαの比率が0.5より大きい場合)の時間波形が示されている。
図6(b)には、UV相デューティ比目標値α0
*がπより小さい場合(スイッチング周期Pに対するオン・デューティ時間Tαの比率が0.5より小さい場合)の時間波形が示されている。UV相デューティ比目標値α0
*がπより小さい場合については、2次巻線電圧Vwxのゼロ電圧時間帯における循環電流izが0に近付けられている。一方、UV相デューティ比目標値α0
*がπより大きい場合については、ゼロ電圧時間帯における循環電流izが、UV相デューティ比目標値α0
*がπより小さい場合に比べて大きい。このように、補正項として|δ|=2π・td・fswを用いた場合には、UV相デューティ比目標値α0
*がπより大きいときに循環電流による損失が大きくなってしまう。
【0091】
図7には、(数1)を用いた場合の1次巻線電圧Vuv、2次巻線電圧Vwx、および2次巻線電流idの時間波形が示されている。これらの時間波形はシミュレーションによって求められたものである。
図7(a)には、UV相デューティ比目標値α0
*がπより大きい場合の時間波形が示されている。
図7(b)には、UV相デューティ比目標値α0
*がπより小さい場合の時間波形が示されている。UV相デューティ比目標値α0
*がπより小さい場合および大きい場合のいずれについても、ゼロ電圧時間帯における循環電流izが0に近付けられている。
【0092】
本実施形態においては、補正項としてδ=2π・td・fsw・PLを有する(数1)または(数3)を用いてWX相デューティ比目標値α
*が求められる。したがって、ゼロ電圧時間帯における循環電流による損失が抑制される。
【0093】
図8には、本発明の応用実施形態に係る制御部22Aの構成が示されている。
図4に示されている制御部22と同一の構成要素については同一の符号を付してその説明を省略する。この制御部22Aは、
図4に示されている制御部22におけるデューティ比決定部40を、デューティ比制限/決定部58に置き換えたものである。
【0094】
デューティ比制限/決定部58は、入力交流電圧Vacの測定値Vimが0または正の値であるときは、β0
*=α0(加算器38が出力する調整前目標値α0)として制限前のUV相デューティ比目標値β0
*を求める。また、デューティ比制限/決定部58は、入力交流電圧Vacの測定値Vimが負の値であるであるときは、β0
*=1−α0として制限前のUV相デューティ比目標値β0
*を求める。
【0095】
デューティ比制限/決定部58は、さらに、UV相デューティ比目標値β0
*が、下限値Lw以上、かつ、上限値Up以下であるときは、α0
*=β0
*としてUV相デューティ比目標値α0
*をUV相制御信号生成部54に出力する。また、デューティ比制限/決定部58は、UV相デューティ比目標値β0
*が上限値Upを超えるときは、α0
*=UpとしてUV相デューティ比目標値α0
*をUV相制御信号生成部54に出力し、UV相デューティ比目標値β0
*が下限値Lw未満であるときは、β0
*=LwとしてUV相デューティ比目標値をUV相制御信号生成部54に出力する。これによって、UV相デューティ比目標値α0
*は、下限値Lw以上、上限値Up以下の値に制限される。
【0096】
デューティ比制限/決定部58は、
図4のデューティ比決定部40と同様の処理によって、UV相デューティ比目標値α0
*に基づいてWX相デューティ比目標値α
*を求め、WX相制御信号生成部56に出力する。
【0097】
このような処理によれば、UV相デューティ比目標値α0
*が下限値Lw以上、上限値Up以下の値に制限され、それに従ってWX相デューティ比目標値α
*の範囲も制限される。
【0098】
各ハーフブリッジを構成する各スイッチング素子は、制御信号が急激に変化した場合に確実に動作することが困難な場合がある。そのため、デューティ・オン時間Tαが短い場合、あるいはスイッチング周期Pからデューティ・オン時間Tαを減算した時間が短い場合には、各スイッチング素子のオンオフ制御が困難となることがある。デューティ比制限/決定部58が実行する処理によればUV相デューティ比およびWX相デューティ比の範囲が制限される。そのため、各ハーフブリッジを構成する各スイッチング素子が確実に動作する。
【0099】
図9には、負荷回路20に出力される電力Pout、UV相デューティ比目標値α0
*、および位相差φの時間波形が示されている。位相差φは、U相キャリア信号に対するW相キャリア信号の位相の遅れと共に、V相キャリア信号に対するX相キャリア信号の位相の遅れを示す。これらの時間波形はシミュレーションによって求められたものである。このシミュレーションでは、UV相デューティ比目標値α0
*の上限値Upは0.9とされ、下限値Lwが0は0とされた。
【0100】
このシミュレーション結果では、UV相デューティ比目標値α0
*が極大となるときに、出力電力Poutが低下している。この理由は次の通りである。
【0101】
電力変換装置の出力電力は、2次巻線電圧Vwxが0でない時間帯における2次巻線電圧Vwxと2次巻線電流idとの積で表される。そして、電力変換装置には、UV相スイッチング回路12およびWX相スイッチング回路16のデューティ比を一定とした場合、位相差φが大きい程、出力電力Poutが大きくなる傾向がある。これは、位相差φが大きい程、2次巻線電圧Vwxが0でない時間帯における2次巻線電流idが大きくなり、この時間帯での2次巻線電圧Vwxと2次巻線電流idとの積が大きくなるためである。
【0102】
その一方で、電力変換装置には、UV相スイッチング回路12およびWX相スイッチング回路16のデューティ比が2πまたは0に近いと、位相差φを大きくしても十分な出力電力Poutが得られないことがある。その理由は、UV相スイッチング回路12およびWX相スイッチング回路16のデューティ比が2πまたは0に近い程、位相差φを大きくして2次巻線電流idを大きくしたことによる損失が増加するためである。
図9に示されているように、UV相デューティ比目標値α0
*が極大となるときに、出力電力Poutが低下するのは、この傾向によるものである。
【0103】
そこで、デューティ比制限/決定部58は、出力電力目標値Pout
*に応じて、以下の(数4)に基づいて、UV相デューティ比目標値に対する上限値Upを求め、(数5)に基づいて、UV相デューティ比目標値に対する下限値Lwを求めてもよい。
【0104】
(数4)Up=Up0−k・Pout
*
【0105】
(数5)Lw=Lw0+k・Pout
*
【0106】
ここで、Up0およびLw0は、それぞれ、上限値Upおよび下限値Lwに対する基準値である。基準値Up0は、例えば1であり、基準値Lw0は、例えば0である。kは、ユーザによって設定される任意の定数である。
【0107】
(数4)および(数5)によれば、出力電力目標値Pout
*が大きい程、UV相デューティ比目標値α0
*に対する上限値Upは小さくなり、下限値Lwは大きくなる。そして、出力電力目標値Pout
*が小さい程、UV相デューティ比目標値に対する上限値Upは大きくなり、下限値Lwは小さくなる。これによって、出力電力目標値Pout
*が大きい程、UV相デューティ比目標値α0
*およびWX相デューティ比目標値α
*が取り得る範囲が狭くなり、これらの値は2πおよび0のいずれからも離れる。そのため、位相差φを大きくしても出力電力Poutが十分な値とならないという問題が回避される。
【0108】
なお、UV相デューティ比目標値α0
*が取り得る範囲が狭くなることで、入力電力の力率が最大とならないことも想定される。しかし、力率の低下は必ずしも電力損失を増加させるものではなく、力率は適度な値であればよい。
【0109】
図10には、UV相デューティ比目標値α0
*を出力電力目標値Pout
*に応じて制限した場合について、出力電力Pout、UV相デューティ比目標値α0
*、および位相差φの時間波形が示されている。UV相デューティ比目標値α0
*の上限値Upは0.8とされ、下限値Lwは0とされた。
図9のシミュレーション結果では、
図9のシミュレーション結果に比べて、出力電力Poutの低下が抑制されている。