(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
配管における所定の場所において測定された振動に含まれる外乱振動の成分を、適応信号処理を用いて抑制することによって、前記配管に関する流体漏洩を診断する場合において、
前記配管の特性に関連付けられた、前記外乱振動の成分を抑制する性能が基準を満たすときの前記適応信号処理におけるパラメータの値の分布実績を表す分布情報を取得する取得手段と、
前記分布情報に基づいて、前記性能が基準を満たす前記パラメータの値が存在する確率密度を推定する推定手段と、
前記推定手段により推定された前記確率密度に基づいて、前記適応信号処理における前記パラメータの値を探索する範囲を決定する決定手段と、
を備える流体漏洩診断装置。
前記決定手段は、前記パラメータの値が分布するパラメータ空間を複数の領域に分割し、前記領域ごとに前記確率密度の平均値を算出し、算出した前記平均値に基づいて前記領域ごとの前記探索する範囲を決定する、
請求項1または請求項2に記載の流体漏洩診断装置。
前記決定手段によって決定された前記範囲を探索することによって前記パラメータの値を取得し、取得した前記パラメータの値を用いた前記適応信号処理を行うことによって、前記測定された振動に含まれる前記外乱振動の成分を抑制する抑制手段をさらに備える、
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の流体漏洩診断装置。
複数の前記所定の場所に関する、前記測定された振動に含まれる前記外乱振動の成分が抑制された抑制済振動に基づいて相互相関を算出し、算出した相互相関に基づいて、前記流体漏洩の有無を判定する判定手段をさらに備える。
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の流体漏洩診断装置。
配管における所定の場所において測定された振動に含まれる外乱振動の成分を、適応信号処理を用いて抑制することによって、前記配管に関する流体漏洩を診断する場合において、
情報処理装置によって、
前記配管の特性に関連付けられた、前記外乱振動の成分を抑制する性能が基準を満たすときの前記適応信号処理におけるパラメータの値の分布実績を表す分布情報を取得し、
前記分布情報に基づいて、前記性能が基準を満たす前記パラメータの値が存在する確率密度を推定し、
推定した前記確率密度に基づいて、前記適応信号処理における前記パラメータの値を探索する範囲を決定する、
流体漏洩診断方法。
配管における所定の場所において測定された振動に含まれる外乱振動の成分を、適応信号処理を用いて抑制することによって、前記配管に関する流体漏洩を診断する場合において、
前記配管の特性に関連付けられた、前記外乱振動の成分を抑制する性能が基準を満たすときの前記適応信号処理におけるパラメータの値の分布実績を表す分布情報を取得する取得処理と、
前記分布情報に基づいて、前記性能が基準を満たす前記パラメータの値が存在する確率密度を推定する推定処理と、
前記推定処理により推定された前記確率密度に基づいて、前記適応信号処理における前記パラメータの値を探索する範囲を決定する決定処理と、
をコンピュータに実行させるための流体漏洩診断プログラム。
【背景技術】
【0002】
現代社会においては、インフラの老朽化が重大な社会問題となっている。例えば、水、石油、ガスなどの資源を輸送する配管網において、耐用年数を超えて使用されている配管が多く存在し、これらの配管の劣化に伴う流体漏洩や配管が破裂する事故などが問題となっている。
【0003】
このような問題を早期に発見して被害を未然に防止すると共に、被害が発生した場合でもその被害を最小限に抑えるためには、配管に対して流体漏洩を定期的に診断することが必要である。流体漏洩を診断する一般的な方法の一つとして、配管を伝搬する振動を利用する方法がある。この方法では配管からの流体漏洩により生じた振動が配管を伝搬し、所定の場所まで伝搬した振動を振動センサ等により検出することによって流体漏洩を検知する。このような振動を用いる方法は、流体が漏洩した地点からある程度離れた場所においても、漏洩を検知可能であるという利点がある。しかしながら、配管に対する外乱振動を発生する外乱源(振動発生源)が存在する場合、漏洩に起因する振動に外乱振動が重畳するので、このような方法では漏洩を検知することが困難になるという問題がある。したがって、このような外乱源が存在する環境においても漏洩を検知可能とする技術が期待されている。
【0004】
このような技術に関連する技術として、特許文献1には、流体を輸送する地中埋設配管網から流体が漏洩した位置を、振動センサによって検出された漏洩音の信号を用いて検知する漏洩位置検知方法が開示されている。この方法では、配管の一部に間隔をおいて複数の配管設置振動センサを設置するとともに、地盤の振動を測定するために地表または地中に1個以上の地盤設置振動センサを設置する。この方法では、配管設置振動センサが捉えた信号中に含まれる漏洩音以外の雑音を、地盤設置振動センサが捉えた信号を用いて除去する。そして、この方法では、得られた漏洩音の信号が、複数の配管設置振動センサのそれぞれに到達する時間の差を算出することによって、漏洩位置を特定する。
【0005】
また、特許文献2には、漏洩探知をする際において、作業時間や場所にかかわらず、漏洩音以外の外来雑音を除去する雑音除去方法が開示されている。この方法では、地面又は壁面に設置した振動センサにより測定された漏洩音及び外来雑音が混在した信号、及び、地上の適宜位置に設置されたマイクロフォンによる主として外来雑音から成る信号を、各々高速フーリエ変換する。この方法では、フーリエ変換により生成された、周波数成分から成る2つの信号を演算処理することによって、外来雑音成分を減衰させた合成信号を生成する。そしてこの方法では、その合成信号を高速逆フーリエ変換することによって、外来雑音を除去した出力信号を生成する。
【0006】
また、特許文献3には、漏洩音に対してノイズとなる連続音が発生している場合においても、漏洩音とノイズとを切り分けることによって漏洩音を識別する、埋設管路に対する漏洩検出方法が開示されている。この方法では、埋設管路からの流体漏洩によって生じる振動音を検知する第1振動センサと、第1振動センサにより検知された波形情報からノイズ分を差し引くための波形情報を検知する第2振動センサとを備える。そして、第1振動センサは、当該埋設管路の配管部材における露出部に設置されており、第2振動センサは、第1振動センサの近傍であってかつ当該埋設管路の配管部材に接しない場所に設置されている。
【0007】
また、特許文献4には、外来振動の影響を抑制し、漏洩検査の精度を高めるために、第1検知部と第2検知部とを備えた漏洩検知装置が開示されている。この装置において、第1検知部は、流体が流れる配管に設置され、第1方向の振動を検知し、第1方向の振動の大きさを示す第1信号を出力する。第2検知部は、配管に設置され、第1方向とは異なる第2方向の振動を検知し、第2方向の振動の大きさを示す第2信号を出力する。そしてこの装置は、第1信号と第2信号とを利用した演算処理を行う。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本願発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
<第1の実施形態>
図1は、本願発明の第1の実施の形態に係る流体漏洩診断システム1の構成を示すブロック図である。流体漏洩診断システム1は、配管(管路)30に関する流体漏洩を、配管30を伝播する振動に基づいて診断するシステムである。但し、配管30は、例えば水道管、あるいはガス管等である。また、配管30は、例えば、複数の配管に分岐する形状など、
図1に例示する形状よりも複雑な形状を有してもよい。
【0018】
本実施形態に係る流体漏洩診断システム1は、大別して、流体漏洩診断装置10、及び、振動センサ21乃至23(測定部)を有する。流体漏洩診断装置10と、振動センサ21乃至23とは、有線あるいは無線により、通信可能に接続されている。振動センサ21乃至23は、具体的には、例えば、圧電型加速度センサ、動電型加速度センサ、静電容量型加速度センサ、光学式速度センサ、動ひずみセンサ等である。尚、流体漏洩診断システム1が有する振動センサの数は3個に限定されず、例えば4個以上の振動センサを有してもよい。
【0019】
振動センサ21は、外乱源31(振動発生源)の近傍に設置され、外乱源31により発生した外乱振動を測定する。振動センサ22及び23は、配管30における流体漏洩の調査対象区間の両端に設置され、配管30を伝播する振動を測定する。配管30に漏洩孔32が存在する場合、配管30を伝播する振動は、漏洩孔32から流体が漏洩することによって発生した振動(漏洩振動)に外乱源31により発生した外乱振動が重畳した振動となる。
【0020】
振動センサ21乃至23は、測定した振動を表すデータ(情報)を、流体漏洩診断装置10へ送信する。流体漏洩診断装置10は、後述する処理を行うために、振動センサ21乃至23から受信した振動データを、受信した時刻(データが測定された時刻)と関連付けて管理する。
【0021】
流体漏洩診断装置10は、取得部11、推定部12、決定部13、抑制部14、及び、判定部15を備える。
【0022】
抑制部14は、振動センサ21により測定された外乱振動を表すデータを用いて、振動センサ22及び23により測定された振動に重畳された外乱振動の成分を、適応信号処理を行うことによって抑制(除去)する。抑制部14は、例えば、代表的な適応信号処理の一つとして知られている最小二乗平均(以降本願では、LMS(Least Mean Square)と称する)法を用いた処理を行う。
【0023】
図2は、本実施形態に係る抑制部14が外乱振動の成分を抑制するために用いるLMSアルゴリズムを説明するブロック図である。抑制部14は、式1及び式2に示す通り、LMSアルゴリズムにおけるフィルタ係数w
kを更新する。但し、kは時系列を表す整数である。
【0025】
但し、式1及び式2において、u
kは、振動センサ21により測定された外乱振動を表すデータベクトル[u
k,u
k−1,・・・,u
k−K+1]
Tであり、Kはフィルタ次数である。式1において、μは、LMSアルゴリズムにおけるステップサイズ(フィルタ係数の更新量を決定する正の定数)である。式1及び式2において、ξ
kは、振動センサ22(あるいは振動センサ23)により測定される振動から外乱振動の成分が抑制された抑制済振動である。式2において、d
kは振動センサ22(あるいは振動センサ23)により測定される振動を表す所望信号である。式2におけるTは転置ベクトルを表す符号である。
【0026】
図1及び
図2に示す通り、外乱源31において発生した(振動センサ21により測定された)外乱振動u
kは、フィルタ係数w
kにより振動の伝播特性が表される、配管30における伝播経路Wによる影響を受けて、振動センサ22(あるいは振動センサ23)まで伝播したのち、w
kTu
kとなる。即ち、振動センサ22(あるいは振動センサ23)によって測定される振動は、w
kTu
kと、漏洩孔32において発生した流体漏洩に起因する漏洩振動l
kとが重なった振動である。したがって、抑制部14は、外乱振動u
kに起因する振動w
kTu
kが所望信号d
kと一致するようなフィルタ係数w^(
図2においては、記号“^”をWの真上に記載)を、LMSアルゴリズムを用いて算出することによって、振動センサ22及び23により測定された振動に重畳された外乱振動の成分を抑制(除去)することができる。
【0027】
抑制部14は、LMSアルゴリズムを用いた処理を行うにあたり、LMSアルゴリズムにおけるパラメータの値を指定する。代表的なパラメータとしては、上述したステップサイズμとフィルタ次数Kとがある。そして、LMSアルゴリズムを用いた処理によって実現される外乱振動の成分を抑制する性能(外乱抑制性能)は、これらのパラメータの値に大きく依存する。
【0028】
例えば、フィルタ次数Kを大きくするほど、外乱源31から振動センサ22(あるいは振動センサ23)までの伝播経路Wが有する振動の伝播特性をより正確に表すことができる一方、フィルタ次数Kを過剰に大きくした場合、外乱抑制性能は、かえって低下することが一般的に知られている。したがって、抑制部14は、フィルタ次数Kを過剰に大きくすることなく、外乱抑制性能を向上させるため、振動センサ21乃至23間において、時間をシフトした適応信号処理を行うようにしてもよい。
【0029】
本実施形態に係る取得部11、推定部12、及び、決定部13は、抑制部14がLMS法等を用いた適応信号処理を行う際に、外乱抑制性能が基準を満たす(例えば最大となる)ようにする適切な(最適な)パラメータの値を効率よく取得することを実現する機能を備える。
【0030】
取得部11は、例えば外部から分布情報110を取得する。分布情報110は、例えば、流体漏洩診断装置10の管理者による管理端末装置(不図示)への入力操作によって、取得部11に入力されてもよい。取得部11は、取得した分布情報110を、流体漏洩診断装置10あるいは外部の装置が備える、例えば電子メモリや磁気ディスク等の記憶デバイス(不図示)に格納してもよい。
【0031】
分布情報110は、配管30のタイプ(配管タイプ)と関連付けて、外乱抑制性能が基準を満たすパラメータの値の組み合わせに関する実績を表す情報である。但し、配管タイプとは、配管30が備える物理的な特性に基づく分類を表す。配管30が備える物理的な特性は、例えば、配管30に関する、口径、あるいは材質、あるいは配管長などである。
【0032】
配管30に対する流体漏洩の診断におけるLMSアルゴリズムでは、外乱抑制性能が基準を満たすようにする適切なパラメータは、配管30が備える物理的な特性と関係がある。例えば、フィルタ次数Kは、外乱源31から振動センサ22(あるいは振動センサ23)までの配管30の振動伝播特性と関係がある。そして配管30の振動伝播特性は、上述した配管30が備える物理的な特性に大きく依存する。したがって、外乱抑制性能が基準を満たすパラメータの値は、一般的に、配管タイプ毎に大きく異なる。
【0033】
図3は、本実施形態に係る分布情報110をグラフによって例示した図である。
図3に例示する通り、分布情報110は、外乱抑制性能が基準を満たすようにする適切なパラメータAの値とパラメータBの値との組み合わせに関する実績を、3つの配管タイプと関連付けて示している(プロットしている)。
図3におけるパラメータA及びパラメータBは、例えば、上述したステップサイズμ及びフィルタ次数Kである。
【0034】
推定部12は、分布情報110に基づいて、配管タイプ毎に、外乱抑制性能が基準を満たすようにする適切なパラメータの値の組み合わせが存在する確率密度を表す関数(確率密度関数120)を推定する。推定部12は、例えば、最尤推定法あるいはカーネル密度推定法などを用いることによって、確率密度関数120を推定する。最尤推定法及びカーネル密度推定法は周知の手法であるので、本願ではその詳細な説明を省略する。
【0035】
図4は、本実施形態に係る推定部12が、
図3に例示する分布情報110に基づいて、配管タイプ1に関して推定した確率密度関数120を例示する図である。
図4に例示する通り、推定部12は、例えば、確率密度に関する等高線(確率密度が同じ値となる点の集合により表される複数の線)として表される確率密度関数120を推定する。
図4に例示する確率密度関数120は、等高線を構成する複数の楕円のうち、中心に近くなるほど、確率密度が高くなることを示している。推定部12は、配管タイプ2及び3に関しても、配管タイプ1と同様に、確率密度関数120を推定する。
【0036】
決定部13は、確率密度関数120に基づいて、抑制部14がLMSアルゴリズムを用いた適応信号処理において設定するパラメータの値を探索する範囲(探索範囲130)を決定する。
【0037】
図5は、実施形態に係る決定部13が、
図4に例示する確率密度関数120に基づいて決定した、配管タイプ1に関する探索範囲130を例示する図である。
【0038】
図5に例示する通り、決定部13は、パラメータAの値とパラメータBの値との組み合わせが分布するパラメータ空間を、複数の領域に分割(例えば等分割)する。決定部13は、この際、確率密度関数120が表す等高線が存在する矩形領域を分割対象とすればよく、
図5に示す例では、パラメータ空間を、9個の領域に分割している。尚、本願では以降、パラメータAの値に関する正方向をX軸方向とし、パラメータBの値に関する負方向をY軸方向と定義することによって、分割された9個の領域を、X軸方向及びY軸方向における区間を識別する値により、領域(X,Y)と表すこととする。
【0039】
決定部13は、分割された領域毎に、確率密度関数120によって算出される確率密度の平均値を算出する。
図5に例示する確率密度関数120が表す等高線によれば、当該平均値が最も高い領域は、分割対象領域の中心に位置する領域(2,2)である。そして当該平均値が2番目に高い領域は、パラメータ空間を表すXY平面において、領域(2,2)の上下左右に位置する領域(2,1)、領域(2,3)、領域(1,2)、領域(3,2)である。そして当該平均値が3番目に高い領域は、パラメータ空間を表すXY平面において、領域(2,2)の右上に位置する領域(3,1)、及び領域(2,2)の左下に位置する領域(1,3)である。そして当該平均値が最も低い領域は、領域(2,2)の左上に位置する領域(1,1)、及び領域(2,2)の右下に位置する領域(3,3)である。
【0040】
決定部13は、上述の通り算出した確率密度関数120の平均値に基づいて、領域毎に、パラメータ空間における「+」印として表される探索範囲130を決定する。決定部13は、例えば、事前に与えられている、抑制部14がパラメータの値を探索する最大探索数と、領域毎の確率密度関数120の平均値とに基づいて、各領域におけるパラメータの値の探索数(「+」印として表される探索ポイントの数)を決定する。
【0041】
図5に示す例では、当該最大探索数は19個である。決定部13は、各領域の確率密度関数120の平均値と比例するように、19個の探索ポイントを9個の領域に配分する。即ち、決定部13は、領域(2,2)に対しては9個の探索ポイントを配分し、領域(2,1)、領域(2,3)、領域(1,2)、領域(3,2)に対しては2個の探索ポイントを配分し、領域(3,1)、及び領域(1,3)に対しては1個の探索ポイントを配分する。決定部13は、領域(1,1)、及び領域(3,3)に対しては探索ポイントを配分しない。決定部13は、各領域内においては、例えば探索ポイントを、パラメータ空間を表すXY平面において一様に(均等に)配置する。決定部13は、配管タイプ2及び配管タイプ3に関しても、配管タイプ1と同様に、探索範囲130を決定する。決定部13は、配管タイプ毎の探索ポイントを表す探索範囲130を、流体漏洩診断装置10あるいは外部の装置が備える記憶デバイスに格納してもよい。
【0042】
抑制部14は、配管30のタイプが配管タイプ1である場合、
図5における探索ポイント(「+」印)が示すパラメータの値の組み合わせを用いて適応信号処理を行う。そして抑制部14は、外乱抑制性能が基準を満たす(例えば最大となる)結果を採用する。これにより、抑制部14は、振動センサ22によって測定された振動に含まれる外乱振動の成分を抑制した抑制済振動ξ
k22を表すデータを生成し、振動センサ23によって測定された振動に含まれる外乱振動の成分を抑制した抑制済振動ξ
k23を表すデータを生成する。
【0043】
図1に示す判定部15は、抑制部14により生成された、抑制済振動ξ
k22及び抑制済振動ξ
k23を表すデータを用いて、式3に示す通り、抑制済振動ξ
k22と抑制済振動ξ
k23とに関する相互相関R(i)を算出する。
【0044】
但し、式3において、Covは共分散を表し、Varは分散を表す。式3において、iは、時系列kに関する時間差を示す整数である。漏洩孔32から流体が漏洩することによって発生した漏洩振動が、抑制済振動ξ
k22と抑制済振動ξ
k23とに共通して含まれる場合、漏洩孔32から振動センサ22及び23まで漏洩振動が到達する時間差に関する相互相関R(i)の値は高くなる。一方、漏洩振動のような共通する振動が抑制済振動ξ
k22及び抑制済振動ξ
k23に含まれない(即ち、流体漏洩が発生していない)場合、相互相関R(i)の値は低くなる。これにより、判定部15は、算出した相互相関R(i)に基づいて、配管30における流体漏洩の有無を判定する。
【0045】
判定部15は、例えば、流体漏洩の発生が確認されている既存の配管に関する相互相関の実績値と、流体漏洩が発生していない既存の配管に関する相互相関の実績値とに基づく判別分析を行うことによって、流体漏洩の有無を判定することができる。
【0046】
次に
図6及び
図7のフローチャートを参照して、本実施形態に係る流体漏洩診断装置10の動作(処理)について詳細に説明する。
【0047】
図6は、本実施形態に係る流体漏洩診断装置10が、適応信号処理におけるパラメータの値の探索範囲130を決定する動作を示すフローチャートである。
【0048】
取得部11は、配管30の配管タイプに関する、外乱振動の成分を抑制する性能が基準を満たすときの適応信号処理におけるパラメータの値の分布実績を表す分布情報110を取得する(ステップS101)。推定部12は、分布情報110に基づいて、最尤推定法、あるいは、カーネル密度推定法を用いることによって、パラメータの値が存在する確率密度を表す確率密度関数120を推定する(ステップS102)。
【0049】
決定部13は、適応信号処理におけるパラメータの値が分布するパラメータ空間を、複数の領域に分割する(ステップS103)。決定部13は、確率密度関数120を用いて、領域毎に確率密度の平均値を算出する(ステップS104)。
【0050】
決定部13は、事前に与えられているパラメータの値を探索する最大探索数と、領域毎の確率密度の平均値とに基づいて、各領域におけるパラメータの値の探索数を算出する(ステップS105)。決定部13は、各領域の探索数に基づいて、パラメータ空間に探索ポイントを配置することによって、探索範囲130を決定し(ステップS106)、全体の処理は終了する。
【0051】
図7は、本実施形態に係る流体漏洩診断装置10が、探索範囲130に基づいて適応信号処理におけるパラメータの値を取得することによって、配管30における流体漏洩を診断する動作を示すフローチャートである。
【0052】
流体漏洩診断装置10は、振動センサ21乃至23によって測定された振動データを受信する(ステップS201)。抑制部14は、流体漏洩を診断する対象である配管30の配管タイプを外部から取得する(ステップS202)。抑制部14は、配管30の配管タイプに関する探索範囲130を取得する(ステップS203)。
【0053】
抑制部14は、探索範囲130を探索することによって、適応信号処理におけるパラメータの値を取得する(ステップS204)。抑制部14は、取得したパラメータの値を用いた適応信号処理を行うことによって、受信した振動データに含まれる外乱振動の成分を抑制する(ステップS205)。
【0054】
抑制部14による探索範囲130の探索が終了していない場合(ステップS206でNo)、処理はステップS204へ戻る。抑制部14による探索範囲130の探索が終了した場合(ステップS206でYes)、判定部15は、外乱振動の成分が抑制された抑制済振動を表すデータに基づいて、相互相関を算出する(ステップS207)。判定部15は、相互相関に基づいて、配管30における流体漏洩の有無を判定し(ステップS208)、全体の処理は終了する。
【0055】
本実施形態に係る流体漏洩診断装置10は、配管において測定された振動に含まれる外乱振動の成分を、適応信号処理を用いて抑制することによって配管に関する流体漏洩を診断する場合に、その診断精度を効率的に高めることができる。その理由は、流体漏洩診断装置10は、外乱抑制性能が基準を満たすときの適応信号処理におけるパラメータの値の分布実績に基づいて、当該性能が基準を満たすパラメータの値が存在する確率密度を推定し、推定した確率密度に基づいて、パラメータの値を探索する範囲を決定するからである。
【0056】
以下に、本実施形態に係る流体漏洩診断装置10によって実現される効果について、詳細に説明する。
【0057】
流体漏洩を診断する対象である配管に加えて外乱源にもセンサを設置し、適応ディジタルフィルタを用いた適応信号処理を行い、外乱振動の成分を抑制することによって、漏洩位置を検知する方法がある。この方法では、適応信号処理によって外乱振動の成分を抑制する性能が高くなればなるほど、流体漏洩を診断する精度が高くなる。したがって、流体漏洩を診断する精度を効率的に高めるためには、外乱抑制性能を効率的に高めること、即ち、適応信号処理におけるフィルタ次数やステップサイズ等のパラメータの値を効率的に適切に設定することが課題である。
【0058】
このような課題に対して、本実施形態に係る流体漏洩診断装置10は、取得部11と、推定部12と、決定部13と、を備え、例えば
図1乃至
図7を参照して上述した通り動作する。即ち、流体漏洩診断装置10は、配管30における所定の場所において測定された振動に含まれる外乱振動の成分を、適応信号処理を用いて抑制することによって、配管30に関する流体漏洩を診断する装置である。取得部11は、配管30の特性に関連付けられた、外乱振動の成分を抑制する性能が基準を満たすときの適応信号処理におけるパラメータの値の分布実績を表す分布情報110を取得する。推定部12は、分布情報110に基づいて、当該性能が基準を満たすパラメータの値が存在する確率密度(確率密度関数120)を推定する。そして決定部13は、推定部12により推定された確率密度に基づいて、適応信号処理におけるパラメータの値を探索する範囲(探索範囲130)を決定する。
【0059】
図10は、上述した確率密度を推定せずにパラメータの値を一様に探索する一般的な流体漏洩診断装置による、パラメータの値の探索範囲を例示する図である。
図10において、「+」印は、パラメータ空間における探索ポイントを表す。
図10にパラメータの値の探索範囲を示す一般的な流体漏洩診断装置は、パラメータ空間において、高い外乱抑制性能が期待できない領域も含めて、パラメータの値を探索する。これに対して、
図5にパラメータの値の探索範囲を示す本実施形態に係る流体漏洩診断装置10は、パラメータ空間において、高い外乱抑制性能が期待できる領域を密に、パラメータの値を探索する。即ち、本実施形態に係る流体漏洩診断装置10は、高い外乱抑制性能が期待できるパラメータの値を効率的に探索する。
【0060】
図11は、推定した確率密度に基づいてパラメータの値を探索した場合(本実施形態に係る流体漏洩診断装置10)と、確率密度を推定せずにパラメータの値を一様に探索した場合(一般的な流体漏洩診断装置)とに関して、パラメータの値の探索数に対する外乱抑制性能を例示するグラフである。
図11に示す通り、本実施形態に係る流体漏洩診断装置10は、一般的な流体漏洩診断装置と比較して、少ない探索数であっても、高い外乱抑制性能を得ることができる。
【0061】
以上のことから、本実施形態に係る流体漏洩診断装置10は、適応信号処理におけるフィルタ次数やステップサイズ等のパラメータの値を効率的に適切に設定することができるので、配管30に関する流体漏洩を診断する精度を効率的に高めることができる。
【0062】
また、本実施形態に係る流体漏洩診断装置10は、パラメータの値が分布するパラメータ空間を複数の領域に分割し、領域ごとに確率密度の平均値を算出し、算出した平均値に基づいて領域ごとの探索する範囲を決定する。これにより、流体漏洩診断装置10は、適応信号処理におけるパラメータの値を適切に設定することを、より効率的に行うことができる。
【0063】
また、上述した本実施形態では、流体漏洩診断装置10がパラメータの値を探索するパラメータ空間は二次元空間であるが、パラメータ空間は3つ以上のパラメータによる多次元空間であってもよい。
【0064】
<第2の実施形態>
図8は、本願発明の第2の実施形態に係る流体漏洩診断装置40の構成を示すブロック図である。
【0065】
本実施形態に係る流体漏洩診断装置40は、配管50における所定の場所において測定された振動51に含まれる外乱振動の成分52を、適応信号処理を用いて抑制することによって、配管50に関する流体漏洩を診断する装置である。
【0066】
本実施形態に係る流体漏洩診断装置40は、取得部41、推定部42、及び、決定部43を備えている。
【0067】
取得部41は、配管50の特性に関連付けられた、外乱振動の成分52を抑制する性能が基準を満たすときの適応信号処理におけるパラメータの値の分布実績を表す分布情報410を取得する。
【0068】
推定部42は、分布情報410に基づいて、当該性能が基準を満たすパラメータの値が存在する確率密度420を推定する。
【0069】
決定部43は、推定部42により推定された確率密度420に基づいて、適応信号処理におけるパラメータの値を探索する範囲430を決定する。
【0070】
本実施形態に係る流体漏洩診断装置40は、配管において測定された振動に含まれる外乱振動の成分を、適応信号処理を用いて抑制することによって配管に関する流体漏洩を診断する場合に、その診断精度を効率的に高めることができる。その理由は、流体漏洩診断装置40は、外乱振動の成分52を抑制する性能が基準を満たすときの適応信号処理におけるパラメータの値の分布実績に基づいて、当該性能が基準を満たすパラメータの値が存在する確率密度420を推定し、推定した確率密度420に基づいて、パラメータの値を探索する範囲430を決定するからである。
【0071】
<ハードウェア構成例>
上述した各実施形態において
図1、及び、
図8に示した流体漏洩診断装置における各部は、専用のHW(HardWare)(電子回路)によって実現することができる。また、
図1、及び、
図8において、少なくとも、下記構成は、ソフトウェアプログラムの機能(処理)単位(ソフトウェアモジュール)と捉えることができる。
・取得部11及び41、
・推定部12及び42、
・決定部13及び43、
・抑制部14、
・判定部15。
【0072】
但し、これらの図面に示した各部の区分けは、説明の便宜上の構成であり、実装に際しては、様々な構成が想定され得る。この場合のハードウェア環境の一例を、
図9を参照して説明する。
【0073】
図9は、本願発明の各実施形態に係る流体漏洩診断装置を実行可能な情報処理装置900(コンピュータ)の構成を例示的に説明する図である。即ち、
図9は、
図1、及び、
図8に示した流体漏洩診断装置を実現可能なコンピュータ(情報処理装置)の構成であって、上述した実施形態における各機能を実現可能なハードウェア環境を表す。
【0074】
図9に示した情報処理装置900は、構成要素として下記を備えている。
・CPU(Central_Processing_Unit)901、
・ROM(Read_Only_Memory)902、
・RAM(Random_Access_Memory)903、
・ハードディスク(記憶装置)904、
・通信インタフェース905、
・バス906(通信線)、
・CD−ROM(Compact_Disc_Read_Only_Memory)等の記録媒体907に格納されたデータを読み書き可能なリーダライタ908、
・モニターやスピーカ、キーボード等の入出力インタフェース909。
【0075】
即ち、上記構成要素を備える情報処理装置900は、これらの構成がバス906を介して接続された一般的なコンピュータである。情報処理装置900は、CPU901を複数備える場合もあれば、マルチコアにより構成されたCPU901を備える場合もある。
【0076】
そして、上述した実施形態を例に説明した本願発明は、
図9に示した情報処理装置900に対して、次の機能を実現可能なコンピュータプログラムを供給する。その機能とは、その実施形態の説明において参照したブロック構成図(
図1、及び、
図8)における上述した構成、或いはフローチャート(
図6及び
図7)の機能である。本願発明は、その後、そのコンピュータプログラムを、当該ハードウェアのCPU901に読み出して解釈し実行することによって達成される。また、当該装置内に供給されたコンピュータプログラムは、読み書き可能な揮発性のメモリ(RAM903)、または、ROM902やハードディスク904等の不揮発性の記憶デバイスに格納すれば良い。
【0077】
また、前記の場合において、当該ハードウェア内へのコンピュータプログラムの供給方法は、現在では一般的な手順を採用することができる。その手順としては、例えば、CD−ROM等の各種記録媒体907を介して当該装置内にインストールする方法や、インターネット等の通信回線を介して外部よりダウンロードする方法等がある。そして、このような場合において、本願発明は、係るコンピュータプログラムを構成するコード或いは、そのコードが格納された記録媒体907によって構成されると捉えることができる。
【0078】
以上、上述した実施形態を模範的な例として本願発明を説明した。しかしながら、本願発明は、上述した実施形態には限定されない。即ち、本願発明は、本願発明のスコープ内において、当業者が理解し得る様々な態様を適用することができる。
【0079】
この出願は、2018年9月4日に出願された日本出願特願2018−165442を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。