【実施例】
【0028】
図1に示すように、積層鉄心の加熱装置10は、架台ベース11と、この架台ベース11に載せられる門型ベース12と、この門型ベース12に載せられるベースプレート13と、このベースプレート13に載せられる下部プレート14と、この下部プレート14の上方に配置される上部プレート15と、この上部プレート15に載せられるトッププレート16と、このトッププレート16に下向きの力を加える押圧手段17と、鉄心18を囲うように配置される誘導加熱コイル19と、この誘導加熱コイル19の側面を囲うように配置される筒型フェライト21と、この筒型フェライト21の下端から下部プレート14へ延びるように配置される下部フェライト22と、筒型フェライト21の上端から上部プレート15へ延びるように配置される上部フェライト23と、下部プレート14及び上部プレート15で挟まれる鉄心18の位置決めをするセンターガイド24とを備えている。
【0029】
なお、筒型フェライト21の下端から延びる下部フェライト22とは、この下部フェライト22が筒型フェライト21の下端から所定の距離を置いて配置される構造と、下部フェライト22が筒型フェライト21の下端に接触して配置される構造の両方を指す。上部フェライト23についても同様である。
【0030】
センターガイド24は、外径可変チャック機構30である。
外径可変チャック機構30は、例えば、架台ベース11に載せられるレール31と、このレール31に移動可能に嵌められるスライダ32と、このスライダ32を駆動するエアシリンダ33と、スライダ32から上へ延びて門型ベース12、ベースプレート13、下部プレート14、鉄心18及び上部プレート15を貫通する柱状の可動爪34と、この可動爪34に平行に配置されベースプレート13から上へ延びて下部プレート14、鉄心18及び上部プレート15を貫通する柱状の固定爪35とからなる。
【0031】
鉄心18は、0.2〜0.5mm厚さの珪素鋼板(電磁鋼板)であり、内径が50〜150mmで外径が200〜250mmの穴空き板である。
珪素鋼板のコイルからプレスで打ち抜き形成された鉄心18の上下面に、局部的(又は全面的)に数μm厚さの接着剤が塗布され、塗布された穴空き板が所定枚数パイリング(積層)されて、例えば50〜150mm高さの積層鉄心が得られる。
【0032】
接着剤は、加熱により流動化し、180℃程度で硬化する熱硬化性樹脂、例えばエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーンゴム系樹脂でもよく、任意に選択可能である。
【0033】
下部プレート14と上部プレート15は、炭素鋼板である。
好ましくは、固定爪35や可動爪34と、数mm程度の隙間δ1を確保する。この隙間δ1により、下部プレート14と上部プレート15から固定爪35や可動爪34への伝熱を遮断もしくは抑制する。
【0034】
次に、下部フェライト22及び上部フェライト23の有無と、ベースプレート13とトッププレート16の材質について、検討する。
【0035】
〇ケース1:ベースプレート13とトッププレート16とが、炭素鋼製で、下部フェライト22及び上部フェライト23が無い場合:
誘導加熱コイル19で発生した磁束は、筒型フェライト21と、下部プレート14及び上部プレート15と、ベースプレート13とトッププレート16とを通過する。
筒型フェライト21で磁束の活用が促される。
下部プレート14及び上部プレート15は磁束で加熱され、鉄心18へ伝熱される。
【0036】
ベースプレート13及びトッププレート16も磁束で加熱される。この熱は一部が下部プレート14と上部プレート15へ向かうものの、多くが大気へ放熱される。この放熱は鉄心18の加熱効率の低下を招く。
【0037】
〇ケース2:ベースプレート13とトッププレート16とが、ステンレス鋼製で、下部フェライト22及び上部フェライト23が無い場合:
ベースプレート13とトッププレート16とは磁束を通さないため、誘導加熱コイル19で発生した磁束は、筒型フェライト21と、下部プレート14及び上部プレート15とを通過する。
筒型フェライト21で磁束の活用が促される。
下部プレート14及び上部プレート15は磁束で加熱され、鉄心18へ伝熱される。
【0038】
ベースプレート13及びトッププレート16から大気への放熱がなくなる若しくは抑制されため、前記ケース2は、前記ケース1よりも、好ましい。
【0039】
そこで、ベースプレート13とトッププレート16は、磁束を通しにくいステンレス鋼とした。
ステンレスには、オーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系がある。フェライト系とマルテンサイト系は磁性体であり、磁束をよく通すので適当でない。
一方、オーステナイト系(例えば、SUS304)は非磁性体であり、磁束を通しにくいので好適である。
【0040】
以上に説明したケース2の構造を、
図2(a)でさらに説明し、ケース2を改良した構造を、
図2(b)で説明する。すなわち、
図2(a)、(b)に基づいて、筒型フェライト21、下部フェライト22及び上部フェライト23の作用を説明する。
【0041】
図2(a)は比較例を示す図であり、筒型フェライト21は、誘導加熱コイル19が発生する磁束の有効利用を促す役割を果たす。
一部の磁束26は上部プレート15や下部プレート14を介して鉄心18を通過する。また、別の磁束27はベースプレート13やトッププレート16に向かう。ベースプレート13やトッププレート16は、磁束27を遮断する。そのため、磁束27の有効活用が図れない。
【0042】
図2(b)は実施例を示す図であり、磁束27は下部フェライト22及び上部フェライト23で誘導される。上部プレート15及び下部プレート14は炭素鋼板であるため、磁束27を通す。
すなわち、磁束27は、上部プレート15を通り、鉄心18を通過し、下部プレート14を通って、筒型フェライト21に戻る。結果、磁束27の有効活用が図れる。
よって、筒型フェライト21に、下部フェライト22及び上部フェライト23を付設することが有効となる。
【0043】
図3に示すように、外径可変チャック機構30は、平面視で120°ピッチで配置される3個の爪34、35、35を有し、爪の2個は固定爪35、35であり、残りの1個はエアシリンダ33で駆動される可動爪34である。
【0044】
図4に示すように、架台ベース11にレール31が載せられ、このレール31に図面表裏方向へ移動可能にスライダ32が嵌められ、このスライダ32に可動爪34がボルト等により固定されている。好ましくは、レール31とスライダ32との間に鋼球(スチールボール)36を介在させる。鋼球36を介在させると、レール31とスライダ32の間の摩擦係数が大幅に減少し、揺れることなく滑らかにスライダ32及び可動爪34が移動する。
【0045】
なお、1本のレール31を左ガイドバーと右ガイドバーに代え、これらの左ガイドバーと右ガイドバーで、スライダ32をガイドするようにしてもよい。よって、
図4の構造は適宜変更して差し支えなく、要は可動爪34が、振れたり、ガタつくことなく、滑らかに移動する構造であればよい。
【0046】
以上の構成からなる外径可変チャック機構30の作用を、
図5に基づいて説明する。
鉄心をセットする前に、
図5(a)に示すように、固定爪35の外接円37から可動爪34を後退させる。
【0047】
図5(b)に示すように、鉄心18をセットする。このときに、鉄心18の中央穴38は、外接円37からずれるようにする。中央穴38は、3個の爪34、35、35に当たらないようにして、セットすることができる。
【0048】
図5(c)に示すように、可動爪34を前進させる。この可動爪34にはエアシリンダ(
図1、符号33)の前進力を常に付与する。結果、2個の固定爪35と、1個の可動爪34が鉄心18に蜜に当たる。この状態で、加熱し、接着剤を流動化し、硬化させる。
加熱の過程で、鉄心18が、図面左右方向へずれることはない。寸法精度の良好な積層鉄心が得られる。
【0049】
加熱が終わったら、
図5(d)に示すように、可動爪34を後退させ。可動爪34が鉄心18から離れ、固定爪35から鉄心18が離れる。結果、鉄心18は容易に取り外すことができ、作業能率が高まる。
【0050】
次に、本発明に係る変更例を説明する。
図6(a)に示すように、外径可変チャック機構30は、平面視で180°ピッチで配置される2個の爪34、35を有し、爪の1個は固定爪35とし、残りの1個はエアシリンダ33で駆動される可動爪34としてもよい。
固定爪35が1個であるため、外径可変チャック機構30が簡単になる。
【0051】
また、
図6(b)に示すように、外径可変チャック機構30は、平面視で120°ピッチで配置される3個の可動爪34を有し、可動爪34の各々をエアシリンダ33で駆動するようにしてもよい。
また、
図6(c)に示すように、外径可変チャック機構30は、平面視で180°ピッチで配置される2個の可動爪34を有し、可動爪34の各々をエアシリンダ33で駆動するようにしてもよい。
【0052】
また、
図7に示すように、固定爪35に冷却用の冷媒通路35aを設け、可動爪34に冷却用の冷媒通路34aを設けてもよい。冷媒通路34a、35aに、水又は空気を通すことで、固定爪35や可動爪34の温度変化を抑制することができる。
【0053】
冷媒通路34a、35aは必須ではないが、
図1に示す積層鉄心の加熱装置10で、生産サイクルを10回連続すると、固定爪35や可動爪34が徐々に温度上昇する。
対策として、例えば10回の生産サイクルが終わったら、「しばらく冷却時間」を置き、その後に次の10回の生産サイクルを再開することが考えられる。しかし、この対策を講じると、生産性がやや低下する。
図7に示す構造であれば、「しばらくの冷却時間」を置く必要はなくなり、生産性が高まる。
【0054】
なお、
図7において、冷媒通路34aと冷媒通路35aの両方を設けるほか、一方のみを設けることもできる。可動爪34に設ける冷媒通路34aには、フレキシブルホースを接続する必要があり、設備コストが嵩む。冷媒通路34aを設けずに、冷媒通路35aだけを設けるようにすれば、フレキシブルホースが不要となり、設備コストを下げることができる。