特許第6943419号(P6943419)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6943419
(24)【登録日】2021年9月13日
(45)【発行日】2021年9月29日
(54)【発明の名称】車両における積載質量の推定方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/13 20120101AFI20210916BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20210916BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20210916BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20210916BHJP
   B60W 30/02 20120101ALI20210916BHJP
   G01G 19/03 20060101ALI20210916BHJP
【FI】
   B60W40/13
   F02D29/00 F
   F02D29/00 G
   F02D41/04
   B60W50/14
   B60W30/02
   G01G19/03
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-99101(P2017-99101)
(22)【出願日】2017年5月18日
(65)【公開番号】特開2018-192951(P2018-192951A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2020年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000153122
【氏名又は名称】株式会社ニッキ
(74)【代理人】
【識別番号】100098154
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100092864
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 京子
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 武相
【審査官】 増子 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−233668(JP,A)
【文献】 特開2011−149761(JP,A)
【文献】 特開2010−222987(JP,A)
【文献】 特開2015−052521(JP,A)
【文献】 特開2001−304948(JP,A)
【文献】 特開平09−325065(JP,A)
【文献】 特開2002−286535(JP,A)
【文献】 特開平05−286323(JP,A)
【文献】 特開平09−072776(JP,A)
【文献】 特開平06−201523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 − 10/30
B60W 30/00 − 60/00
F02D 29/00 − 29/06
F02D 41/00 − 41/40
G01G 19/00 − 19/64
F02D 43/00 − 45/00
G01L 5/00 − 5/28
F16H 59/00 − 61/12
F16H 61/16 − 61/24
F16H 61/66 − 61/70
F16H 63/40 − 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される駆動源であるエンジンにおける駆動トルク情報が急変化するタイミングにおいてドライブトレーン系統に発生する共振現象をエンジン回転速度情報より検出して共振周波数を求め、前記共振周波数を予めコンピュータ内に記憶しておいた各積載量時の共振周波数と比較演算して車両積載質量を推定することを特徴とする車両における積載質量の推定方法であって、
前記車両に設置された変速機から検出した現時点で使用しているギア情報がニュートラル位置または前記車両に設置されたクラッチ装置の操作から検知されるクラッチ装置情報がクラッチ非締結位置であってエンジンが駆動しているにも拘わらず走行停止の検知情報が検知された場合に、次に駆動ギア情報または連結したクラッチ装置情報が検知されるまで現時点で使用しているギア情報または連結したクラッチ装置情報による積載質量の比較演算を一時的に停止して元の積載質量情報を保持することにより積載質量の検出精度を向上させることを特徴とする車両における積載質量の推定方法。
【請求項2】
記変速機から検出した現時点で使用しているギア情報を用いて前記共振周波数を修正することを特徴とする請求項1記載の車両における積載質量の推定方法。
【請求項3】
前記エンジンの駆動トルク情報の急変化するタイミングを車両に設置されているブレーキ装置の操作から検知されるブレーキ情報または前記クラッチ装置の操作から検知されるクラッチ装置情報の少なくとも1つからトルクが急変化したときに表われる共振現象を捉えることによって積載質量検知の比較演算回数を増やして積載質量の精度向上を図ることを特徴とする請求項1または2記載の車両における積載質量の推定方法。
【請求項4】
所定の走行期間中は一定の積載量を積載して走行する場合に所定の走行期間における一定時間以上の車両停止以外では前記比較演算を連続的に起動し、平均化処理を用いて総合的に判定することで共振周波数の検知精度を向上させることを特徴とする請求項1,2または3記載の車両における積載質量の推定方法。
【請求項5】
前記エンジンがエンジン停止(キーオフ)或いは一定時間以上走行停止した状態であることを前記駆動トルク情報により検知したときに前記比較演算した積載質量の情報を初期値にリセットして元の共振周波数を消去させておくことにより、停止をして積載物の積み直しをしたときに元の共振周波数に影響されずに迅速且つ確実に共振周波数を検知させることを特徴とする請求項1,2,3または4記載の車両における積載質量の推定方法。
【請求項6】
前記推定した積載質量の情報を用いて、これをインパネ表示器、もしくは、これに準じた機器で運転者に知らせる手段を設けることにより積載質量の情報を運転者に提供することを特徴とする請求項1,2,3,4または5記載の車両における積載質量の推定方法。
【請求項7】
前記推定した積載質量の情報が確定した後、この積載質量の情報を用いて、前記エンジンの燃料噴射量、もしくは、吸入空気量絞り弁(スロットルバルブ)などのエンジン制御装置を補正することで車両の安定性、運転性向上に役立てることを特徴とする請求項1,2,3,4,5または6記載の車両における積載質量の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源としてエンジンを用いた車両に積載する質量の推定方法に関するものであり、特に荷重計などの直接的な検知手段を用いずに走行中における車両に搭載されるエンジンを含めた各種の走行機器から検出される情報を用いて車両に積載する質量の推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
駆動源としてエンジンを用いる車両においてはエンジンの負荷や自動変速機の制御などにおいて車両や積載される質量に影響され、殊に、積載質量の増減が大きいトラックなどの大型車両では積荷重計などの直接的な検知手段を用いずに走行中に積載質量の変化に対応する必要があり、従来から例えば走行中の車両の駆動力や加速度などに基づいて車両に積載する質量を推定する車載型の積載質量の推定装置が特開平9−72776号公報、特開平9−325065号公報、特開20001−304948号公報などに提供されている。
【0003】
図11は従来の車載型の積載質量の推定装置の例を示すものであり、積載量演算のコンピュータ(CPU)1aに、主たる入力情報として車両に搭載した車速センサ2a、エンジン噴射量センサ3a、エンジン回転センサ4a、アクセルペダル位置センサ5a、クラッチペダル位置センサ6a、ブレーキペダル位置センサ7a、クラッチ締結センサ8a、ギア位置センサ9aおよび勾配センサ10aが接続されており、コンピュータ(CPU)1a内で計算された積載質量情報(mi)は、運転席のインパネなどに設置した表示機11aに出力して運転者に情報提供する機能や、別コンピュータ(図示せず)に情報提供することで車体の制御最適化などに役立てられる。
【0004】
図12は従来の積載質量の推定方法における検知の原理について車両運動の力学的バランスを説明するものであり、mは積載質量、Teはエンジン駆動トルク、Trは走行抵抗トルク、Vsは車速を示す。
【0005】
図13は前記図12における従来方式の積載質量の推定方法におけるアクセル全開で加速したときの検知情報についての時間的な変化を示すものであって、アクセル情報により、アクセルが踏み込まれると同時にエンジン駆動トルク(Te)が増大し、走行抵抗トルク(Tr)より大きくなると加速トルクとなって車体が加速し、図12に示した車速(Vs)が上昇する。
【0006】
そして、積載質量が軽いときは慣性モーメントが小さいために車速は速く上昇し、積載質量が重いときは慣性モーメントが大きいため車速が遅く上昇する。そのため、車速(Vs)を時間で微分した加速度(α)を検知する事で積載質量の識別が可能となる。
【0007】
また、図14に示すように加速トルク(Te−Tr)と加速度(α)の関係は積載質量が一定値ならば加速トルク(Te−Tr)に対して一定の加速度(α)を示す関係となることからα/(Te−Tr)を指標値として単位加速トルク当たりの加速度として定義し、この指標値と積載質量(m)との関係は図15に示すように反比例の相関関係となり、この関係式より積載質量(m)を検出している。
【0008】
しかしながら、実際の車両においては走行抵抗トルク(Tr)が一定ではなく、様々な外乱因子によって変化するのが実情である。
【0009】
図16は登坂時の車両と走行トルクの力学的バランスを図示したものであるが、タイヤ中心から鉛直方向に架かる荷重(Fa)は勾配センサ(θ)の角度が大きくなるにつれて車両後方側にずれるために、車両を後ろ側に引っ張る荷重(Fb)が大きくなり、これが走行抵抗トルク(Tr)を大きくする要因のひとつとなっている。
【0010】
図17に各勾配を走行したときの走行抵抗トルク(Tr)の変化を示すが、エンジン駆動トルクが一定であったとしても平坦路、登坂路、降坂路によって走行抵抗トルク(Tr)が大きく変化することで加速度に影響を与える結果となり、加えて、図18に示したように平坦路一定速度での走行抵抗トルク(Tr)であっても単純に積載質量(m)が重くなると軸受けやタイヤの摩擦による抵抗も大きくなるため、走行抵抗トルク(Tr)は全体的に大きくなるなどの外乱要因も存在する。
【0011】
このように従来の積載資量の検知技術を実現化するためには実際の環境下で変化する走行抵抗トルク(Tr)を上手く予想することが重要であり、これを考慮するためには勾配センサ(θ)の情報を用いて走行抵抗トルク(Tr)を補正演算することが例えば特開平6−201523号公報などに提示されているように一般的な対応技術となっている。
【0012】
図19はこれらを考慮した制御ブロック図の一例を示すものであり、信号の流れを順に説明すると、燃料噴射量(Ti)とエンジン回転速度(Ne)、アクセル情報(ACP)、ブレーキ情報(BRKP)などからエンジンに発生したトルクを推定し、ここにギア情報(GEAR)、クラッチ情報(CLP)などからタイヤへ最終的に発生するエンジン駆動トルク(Te)を演算する。
【0013】
次に、前記演算した値に勾配センサからの勾配センサ(θ)の情報と車速(Vs)、ギア情報(GEAR)、クラッチ情報(CLP)などからこのとき車両に発生する走行抵抗トルク(Tr)を推定演算し、両者を引き算して加速トルク(Te−Tr)を演算し、これに車速(Vs)を微分処理して加速度(α)を演算し、前述した加速トルク(Te−Tr)と割り算する事で単位加速トルク当たりの加速度(α/(Te−Tr))を算出する。
【0014】
ここにギア毎に設けられたデータに予め予想される積載質量(m)が定義されており、このデータを前述した単位加速トルク当たりの加速度(α/(Te−Tr))から線形補間することにより、積載質量(m)を算出する。また、積載質量(m)の精度を向上させるために、アクセル情報(ACP)やエンジン回転速度(Ne)などの情報からデータが安定する条件を予め定めておき、この条件が成立するときに前述する積載質量推定の演算処理を起動することで積載質量(m)を推定演算している。
【0015】
しかしながら、このような従来の速度(Vs)と加速トルクの関係を元に積載質量を推定する方法においては、走行抵抗が様々な環境条件で変化する可能性があるため、走行抵抗を正しく推測することが難しく、特に勾配センサの情報は必須であり、この勾配センサ(θ)をつけることでコストが上昇するなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平9−72776号公報
【特許文献2】特開平9−325065号公報
【特許文献3】特開20001−304948号公報
【特許文献4】特開平6−201523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は前記従来の問題点に着目してなされたものであって、走行抵抗トルクの影響を受けずに積載質量を推定することで高価な勾配センサなどを廃止することができる車両における積載質量の推定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記課題を解決するためになされた本発明である車両における積載質量の推定方法は、車両に搭載される駆動源であるエンジンにおける駆動トルク情報が急変化するタイミングにおいてドライブトレーン系統に発生する共振現象をエンジン回転速度情報より検出して共振周波数を求め、前記共振周波数を予めコンピュータ内に記憶しておいた各積載量時の共振周波数と比較演算して車両積載質量を推定することを特徴とする。
【0019】
また、本発明において、前記車両に設置された変速機から検出した現時点で使用しているギア情報を用いて前記共振周波数を修正することができる。
【0020】
加えて、本発明は、前記エンジンの駆動トルク情報の急変化するタイミングを車両に設置されているブレーキ装置の操作から検知されるブレーキ情報またはクラッチ装置の操作から検知されるクラッチ装置情報の少なくとも1つからトルクが急変化したときに表われる共振現象を捉えることによって積載質量検知の比較演算回数を増やして積載質量の精度向上を図ることが可能である。
【0021】
更に、本発明において、前記変速機から検出した現時点で使用しているギア情報がニュートラル位置または前記クラッチ装置の操作から検知されるクラッチ装置情報がクラッチ非締結位置であってエンジンが駆動しているにも拘わらず走行停止の検知情報が検知された場合に、次に駆動ギア情報または連結したクラッチ装置情報が検知されるまで現時点で使用しているギア情報または連結したクラッチ装置情報による積載質量の比較演算を一時的に停止して元の積載質量情報を保持することにより積載質量の検出精度を向上させることができる。
【0022】
更にまた、本発明において、所定の走行期間中は一定の積載量を積載して走行する場合に所定の走行期間における一定時間以上の車両停止以外では前記比較演算を連続的に起動し、平均化処理を用いて総合的に判定することで共振周波数の検知精度を向上させることもできる。
【0023】
本発明において、前記エンジンがエンジン停止(キーオフ)或いは一定時間以上走行停止した状態であることを前記駆動トルク情報により検知したときに前記比較演算した積載質量の情報を初期値にリセットして元の共振周波数を消去させておくことにより、停止をして積載物の積み直しをしたときに元の共振周波数に影響されずに迅速且つ確実に共振周波数を検知させることができる。
【0024】
また、本発明において、前記推定した積載質量の情報を用いて、これをインパネ表示器、もしくは、これに準じた機器で運転者に知らせる手段を設けることにより積載質量の情報を運転者に提供することで運転者は積載質量に応じて適切な安全で省エネな運転を行うことができる。
【0025】
更にまた、本発明において、前記推定した積載質量の情報が確定した後、この積載質量の情報を用いて、前記エンジンの燃料噴射量、もしくは、吸入空気量絞り弁(スロットルバルブ)などのエンジン制御装置を補正することで車両の安定性、運転性向上に役立てることが可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、実際に計量装置を用いることなく、走行中に積載質量を検知推定可能であることは言うまでもなく、従来のこの種の推定装置と比べて走行抵抗トルクの影響を受けずに積載質量を推定することで高価な勾配センサなどを廃止することができる車両における積載質量の推定装置を提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明である好ましい実施の形態に使用する積載質量検知装置システムのブロック回路図。
図2図1に示した積載質量検知装置を用いて積載量推定する方法の原理図および車体を回転体と見なしてモデリングした車体を構成するドライブトレーン。
図3】前記図2に示したドライブトレーンの共振周波数についての周波数と回転変動(振幅)との関係図および前記図2に示したドライブトレーンを1自由度の回転体と見なしたドライブトレーン。
図4図1に示した本実施の形態における共振周波数(ωc)と積載質量に相当する慣性モーメント(Im)の関係図。
図5図1に示した実施の形態を実施する際の積載質量推定の説明。
図6図1に示した実施の形態を実施するための積載質量の推定方法判定処理の制御ブロック図。
図7図1に示した実施の形態を実施するための積車量推定判定の実例についての加速時のエンジン回転速度の時系列データ。
図8図1に示した実施の形態を実施するための実例についての2速ギア加速時のエンジン回転速度の周波数解析データ。
図9図1に示した実施の形態を実施するための実例についての3速ギア加速時のエンジン回転速度の周波数解析データ。
図10図1に示した実施の形態を実施するための実例についての4速ギア加速時のエンジン回転速度の周波数解析データ。
図11】従来の積載質量の推定方法に用いる検知装置システムの一例を示すブロック図。
図12】従来の積載質量の推定方法における積載質量(m)の検知原理を示す説明図。
図13】従来の積載質量の推定方法におけるアクセル全開で加速したときの検知情報についてのエンジン駆動トルク(Te)等の検知情報の時間的な変化を示す説明図。
図14】従来の積載質量の推定方法における、加速度(α)と走行抵抗トルク(Tr)、エンジン駆動トルク(Te)の関係図。
図15】従来の積載質量の推定方法における、単位加速トルク当たりの加速度αと積載質量(m)の関係図。
図16】従来の積載質量の推定方法における、走行抵抗トルク(Tr)についての説明図。
図17】従来の積載質量の推定方法における、各勾配と走行抵抗トルク(Tr)の関係図。
図18】従来の積載質量の推定方法における、平坦路一定速での走行抵抗トルク(Tr)と車速(Vs)の関係図。
図19】従来の積載質量の推定方法における、積載量推定判定処理の一例を示す制御ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0029】
図1は本発明の好ましい実施の形態を実施するための推定装置の一例を示すものであり、基本的には前記従来の図11に示した従来の車載型の積載質量の推定装置の例と同様であり、積載量演算のコンピュータ(CPU)1に、主たる入力情報として車両に搭載した車速センサ2、エンジン噴射量センサ3、エンジン回転センサ4、アクセルペダル位置センサ5、クラッチペダル位置センサ6、ブレーキペダル位置センサ7、クラッチ締結センサ8、ギア位置センサ9が接続されており、コンピュータ(CPU)1内で計算された積載質量情報(mi)は、運転席のインパネなどに設置した表示機11に出力して運転者に情報提供する機能や、別コンピュータ(図示せず)に情報提供することで車体の制御最適化などに役立てられるものであり、本実施の形態では前記図11に示した従来例の勾配センサ(θ)を有していない点が異なる。
【0030】
図2は本実施の形態における本発明である実施の形態に使用する推定装置の積載質量の推定方法における検知の原理について車両運動の力学的バランスをすべて回転体と見なしてモデリングした車体を構成するドライブトレーン12とともに示したものであり、mは積載質量、Teはエンジン駆動トルク、Trは走行抵抗トルク、Vsは車速を示す。
【0031】
そして、前記ドライブトレーン12は、エンジンは比較的軽い慣性モーメント(Im)を持つ回転体13であり、この回転体13からはエンジン駆動トルク(Te)が発生しており、これに対して積載質量(m)に相当する慣性モーメントを持つ回転体14が回されて、これにタイヤなどの車体を構成する回転体15が積載質量に対して比較的軽い慣性モーメント(Im)として回転しており、この末端で走行抵抗トルク(Tr)がエンジン駆動トルクの抵抗になる形で発生している。
【0032】
また、エンジンの回転体13とそれ以外の回転体14,15は比較的剛性の弱いプロペラシャフトやクラッチスプリングなどの回転体16によって接続された構成となっている。
【0033】
ここで回転体全体に影響を与える慣性モーメント(Im)としては積載質量(m)に係る回転体14が一番大きいため、エンジンやその他の回転体13,15をひとつに統合し、これを1自由度の回転体12として定義すると図3に示すようにある共振周波数(ωc)を有する回転体17として考えることできる。
【0034】
更に、共振周波数(ωc)は系の持つバネ成分(k)と慣性モーメント成分(Im)に依存し、バネ成分(k)はドライブトレーン系の仕様やギア減速比によって決定すると考えられ、この共振周波数(ωc)は積載質量(m)による慣性モーメント成分(Im)によって変化する。
【0035】
また、共振周波数(ωc)と積載質量(m)とは図4に示したように積載質量(m)に相当する慣性モーメント(Im)は減速比が一定であれば、積載質量(m)と一定の関係があることから、共振周波数(ωc)と積載質量(m)の関係は逆比例の相関関係を示す。
【0036】
本発明は、このような前記説明した原理を利用して共振周波数(ωc)の情報から積載質量(m)を推定するものである。
【0037】
図5は加速した際に車両において発生するエンジン回転速度の共振現象の一例を示すものであり、加速とともに回転体にはエンジントルク(Te〔Nm〕)が印加され、これに応じてエンジン回転速度に共振現象が表われることが確認される。
【0038】
積載質量(m)が小さいときはエンジン回転速度(Ne〔rpm〕)が比較的高い周波数の変動が表われ(A)、質量増加に伴いこの変動は低い周波数へと変化する(B)(C)。この変動はトルクを印加する方向でも、その逆にトルクを減らす方向でも発生し、周波数は系のバネ定数と慣性モーメントに依存するため、走行抵抗トルクによる影響も受けない。このため、従来方式で用いられるような走行抵抗トルクを推定する必要がなく、勾配などの影響も受けないため、ロバスト性が高い。
【0039】
図6は本発明における積載質量の推定方法を実施する判定処理の制御ブロック図の実施の形態についての一例を示すものであり、エンジントルクを推定演算する処理の部分であるエンジン駆動トルク推定演算処理は従来方式と変わらない。
【0040】
このエンジン駆動トルク(Te)の情報とギア締結およびギア変速段判定からの情報、アクセル情報(ACP)などから積載質量推定にふさわしい条件を起動判定処理内で判断し、この条件が成立するときに共振周波数情報(ωc)を用いて積車量を積載質量推定演算処理部で演算する。
【0041】
共振周波数(ωc)の情報についてはエンジン回転速度(Ne)を高速フーリエ変換(FFT)し、そのピーク周波数から共振周波数(ωc)を検出する。エンジン回転側から見た積載質量と慣性モーメントの関係はギア減速比によって変化するため、ギア情報(GEAR)毎に質量データの異なるテーブルデータを用意して線形補間参照し、この情報より共振周波数(ωc)から積載質量(m)への変換処理を行って積載質量の推定処理を行なうものである。
【0042】
図7は本発明における実施の形態について積載質量の推定処理の結果を示すもので、上方に示したグラフは空車(積載質量が0)のときのエンジン回転速度(Ne)と車速(Vs)の時系列を示しており変速後の加速時にエンジン回転速度の変動が表われている。また、下方に示したグラフは上方に示したグラフと同じ条件の加速を25tの積載質量を加えた状態で行なった時のエンジン回転速度(Ne)と車速(Vs)の時系列を示したグラフであり、同じ加速部分に前記上方に示した空車のときの回転変動とは異なる周波数の回転変動が表われていることが確認できる。
【0043】
また、図8乃至図10は、それぞれ2速ギア、3速ギア、4速ギアの加速ポイントでエンジン回転速度変動成分をFFT解析した結果を示すものであり、2速ギアの加速ポイントでは空車状態(a)で3.1Hzのピークを示しているのに対して、25tの積車状態(b)で1.6Hzを、3速ギアの加速ポイントでは空車状態(a)で2.7Hzのピークを示しているのに対して、25tの積車状態(b)で1.6Hzを、4速ギアの加速ポイントでは空車状態(a)で3.1Hzのピークを示しているのに対して、25tの積車状態(b)で1.6Hzと積車状態の周波数が低下していることが確認できる。
【0044】
このようにして共振周波数(ωc)と積載質量(m)との関係をコンピュータの記憶装置内に予め格納されたテーブルデータから参照して比較演算することにより積載質量(m)を推定することができるものであり、急加速や急減速などエンジントルクが急変するに応じて発生するエンジン回転速度の変動を周波数解析する事で共振周波数の情報を検知して、この周波数の情報とギア情報から車両の積載質量を推測することができ、殊に、走行抵抗トルクの影響を受けずに積載質量を推定する事が可能になり、勾配センサなどを廃止することができる。
【0045】
更に、本発明は図8乃至図10に示したように、使用している変速機のギアを変えることにより各周波数の数値が異なるものであり、車両に設置された変速機から検出した現時点で使用している変速ギアのギア情報を用いて前記共振周波数を修正することにより更に正確な積載質量を推定することができる。
【0046】
加えて、本発明は、前記エンジンの駆動トルク情報の急変化するタイミングを車両に設置されているブレーキ装置の操作から検知されるブレーキ情報またはクラッチ装置の操作から検知されるクラッチ装置情報の少なくとも1つからトルクが急変化したときに表われる共振現象を捉えることによって積載質量検知の比較演算回数を増やして積載質量の精度向上を図ることが可能である。
【0047】
更に、本発明において、前記変速機から検出した現時点で使用しているギア情報がニュートラル位置または前記クラッチ装置の操作から検知されるクラッチ装置情報がクラッチ非締結位置であってエンジンが駆動しているにも拘わらず走行停止の検知情報が検知された場合に、次に駆動ギア情報または連結したクラッチ装置情報が検知されるまで現時点で使用しているギア情報が検出されるまで積載質量の比較演算を一時的に停止して元の積載質量情報を保持することにより積載質量の検出精度を向上させるこができる。
【0048】
更にまた、本発明において、所定の走行期間中は一定の積載量を積載して走行する場合に所定の走行期間における一定時間以上の車両停止以外では前記比較演算を連続的に起動し、平均化処理を用いて総合的に判定することで共振周波数の検知精度を向上させることもできる。
【0049】
加えて、本発明において、前記エンジンがエンジン停止(キーオフ)或いは一定時間以上走行停止した状態であることを前記駆動トルク情報が検知したときに前記比較演算した積載質量の情報を初期値にリセットして元の共振周波数を消去させておくことにより、停止をして積載物の積み直しをしたときに元の共振周波数に影響されずに迅速且つ確実に共振周波数を検知させることができる。
【0050】
また、本発明において、前記推定した積載質量の情報を用いて、これを運転席のインパネなどに設置した表示器11で運転者に知らせる手段を設けることにより積載質量の情報を運転者に提供することで運転者は積載質量に応じて適切な安全で省エネな運転を行うことができる。
【0051】
更にまた、本発明において、前記推定した積載質量の情報が確定した後、この積載質量の情報を用いて、前記エンジンの燃料噴射量、もしくは、吸入空気量絞り弁(スロットルバルブ)などのエンジン制御装置を補正することで車両の安定性、運転性向上に役立てることが可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 コンピュータ(CPU)、2 車速センサ、3 エンジン噴射量センサ、4 エンジン回転センサ、5 アクセルペダル位置センサ、6 ラッチペダル位置センサ、7 ブレーキペダル位置センサ、8 クラッチ締結センサ、9 ギア位置センサ、11 表示機、12 ドライブトレーン、13,14,15,16,17 回転体
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