(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6943496
(24)【登録日】2021年9月13日
(45)【発行日】2021年9月29日
(54)【発明の名称】回転電子部品
(51)【国際特許分類】
H01R 39/00 20060101AFI20210916BHJP
【FI】
H01R39/00 H
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2020-192956(P2020-192956)
(22)【出願日】2020年11月20日
【審査請求日】2021年4月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593163254
【氏名又は名称】ツバメ無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092808
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 亘
(74)【代理人】
【識別番号】100140981
【弁理士】
【氏名又は名称】柿原 希望
(72)【発明者】
【氏名】今村 昌雄
【審査官】
高橋 裕一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−162314(JP,A)
【文献】
特開2003−005582(JP,A)
【文献】
特開2012−173346(JP,A)
【文献】
実開平04−072598(JP,U)
【文献】
特開平6−84572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、前記ロータを回転可能に収容するケース部と、ロータ側の面に前記ロータの回転軸と同心円の環状電極を有する電極基板と、前記ロータに設置され前記環状電極と接触導通する摺動子と、を備えた回転電子部品において、
前記摺動子は、前記電極基板側に凸の弧状を呈し前記環状電極と接触導通する摺動部と、前記ロータに固定するための固定部と、前記摺動部と固定部とを繋ぐ連結部と、を有し、前記連結部と固定部とは所定の角度で前記電極基板側に屈曲しており、
前記摺動部と前記ロータとの間に柔軟性と吸水性とを有する緩衝部材を設け、その前記緩衝部材と前記摺動部との接触範囲は、前記摺動部の先端部分から前記摺動部の半分の位置とし、さらに前記緩衝部材は前記摺動部の先端よりも長く構成し、前記緩衝部材が前記摺動部を前記環状電極に付勢して前記摺動子の振動を抑制することを特徴とする回転電子部品。
【請求項2】
緩衝部材が、平均気孔径が20μm〜50μmで気孔率が70%〜90%、見かけ密度が0.15g/cm3〜0.25g/cm3のポリウレタン製、もしくはポリビニルアルコール製、もしくはポリオレフィン製の素材で構成されることを特徴とする請求項1に記載の回転電子部品。
【請求項3】
緩衝部材に潤滑剤が含浸していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の回転電子部品。
【請求項4】
緩衝部材の一部が環状電極に接触し、前記緩衝部材が前記環状電極に潤滑剤を塗布するとともに前記環状電極を拭くことを特徴とする請求項3に記載の回転電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動子の摩耗及び金属疲労を低減することで回転寿命を延長した回転電子部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
可変抵抗器やエンコーダ等、摺動子の接触により電気的導通を維持しながら回転する回転電子部品が存在する。このような回転電子部品のうちスリップリングは、産業用ロボット、搬送装置、遊技機、監視カメラの雲台などの回転機構において、固定部側と回転部側との間で電力供給や信号伝達を行う重要な役割を果たすものであり、回転頻度が高く、また常時回転し続ける場合も存在する。このため、特に摺動子の摩耗や金属疲労を低減し回転寿命を延長することが求められている。この問題点に対し、本願発明者らは環状電極の縁にスーホールを設けることで、摺動子の摺動軌道上からスーホールを外し、スルーホールの段差による摩耗及び振動による金属疲労を低減する下記[特許文献1]に記載の発明を行った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−162314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、従来300万回転であった回転寿命を1000万回転にまで伸ばすことが要求され、特に摺動子に対する更なる摩耗対策、金属疲労対策が必要とされている。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、摺動子の摩耗及び金属疲労を低減し従来よりも回転寿命を長寿命化した回転電子部品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
(1)ロータ40と、前記ロータ40を回転可能に収容するケース部20と、ロータ40側の面に前記ロータ40の回転軸と同心円の環状電極32を有する電極基板30と、前記ロータ40に設置され前記環状電極32と接触導通する摺動子50と、を備えた回転電子部品において、
前記摺動子50は、前記電極基板30側に凸の弧状を呈し前記環状電極32と接触導通する摺動部50aと、前記ロータ40に固定するための固定部50bと、前記摺動部50aと固定部50bとを繋ぐ連結部50cと、を有し、前記連結部50cと固定部50bとは所定の角度で前記電極基板32側に屈曲しており、
前記摺動部50aと前記ロータ40との間に柔軟性と吸水性とを有する緩衝部材82を設け、
その前記緩衝部材82と前記摺動部50aとの接触範囲は、前記摺動部50aの先端部分から前記摺動部50aの半分の位置とし、さらに前記緩衝部材82は前記摺動部50aの先端よりも長く構成し、前記緩衝部材82が前記摺動部50aを前記環状電極32に付勢して前記摺動子50の振動を抑制することを特徴とする回転電子部品を提供することにより、上記課題を解決する。
(
2)緩衝部材82が、平均気孔径が20μm〜50μmで気孔率が70%〜90%
、見かけ密度が0.15g/cm3〜0.25g/cm3のポリウレタン製、もしくはポリビニルアルコール製、もしくはポリオレフィン製の素材で構成されることを特徴とする上記
(1)に記載の回転電子部品を提供することにより、上記課題を解決する。
(
3)緩衝部材82に潤滑剤が含浸していることを特徴とする
上記(1)または上記(2)に記載の回転電子部品を提供することにより、上記課題を解決する。
(
4)緩衝部材82の一部が環状電極32に接触し、前記緩衝部材82が前記環状電極32に潤滑剤を塗布するとともに前記環状電極32を拭くことを特徴とする上記(
3)に記載の回転電子部品を提供することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る回転電子部品は、摺動子の摺動部とロータとの間に緩衝部材を設けることで摺動部を環状電極側に適度な弾性力で付勢するとともに摺動部を保持する。これにより、摺動部の振動が抑制され摺動子の金属疲労を軽減することができる。また、緩衝部材に潤滑剤を含侵し一部を環状電極に接触させることで、環状電極に潤滑剤を塗布することができる。これにより、摺動部の摺動が滑らかとなり接触部分の摩耗をさらに低減することができる。また、緩衝部材が環状電極面を拭くように機能するため、環状電極上の塵等の異物は集塵され、異物による接触部分への悪影響を防止することができる。これらのことにより、本発明に係る回転電子部品は長寿命化と高い動作信頼性とを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明を適用したスリップリングの電極基板を外した状態のロータ側を示す図である。
【
図2】本発明を適用したスリップリングの電極基板を示す図である。
【
図3】本発明を適用したスリップリングの模式的なX−X断面図である。
【
図4】本発明を適用したスリップリングの摺動部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る回転電子部品の実施の形態について図面に基づいて説明する。尚、ここでは、回転電子部品としてスリップリング80を例に説明を行うが、本発明はスリップリングに限定されるものではなく、可変抵抗器やエンコーダ等、ロータの回転軸と同心円の環状電極と、この環状電極と接触導通する摺動子とを備えた回転電子部品であれば、如何なるものにも適用が可能である。
【0010】
ここで、
図1は本発明を適用したスリップリング80の電極基板30を外した状態のロータ40側を示す図である。また、
図2(a)、(b)は電極基板30の外面側及び内面側(環状電極32側の面)を示す図である。また、
図3は本発明を適用したスリップリング80の電極基板30を設置した状態の模式的なX−X断面図である。また、
図4は本発明を適用したスリップリング80の摺動部分の拡大図である。尚、ここで示す本発明を適用したスリップリング80は本発明を説明するための一例であるから、極数や各部の構造、デザイン、配線パターン、その他に構成は、これに限定されるものではない。
【0011】
先ず、本発明を適用したスリップリング80の従来部分の構成を説明する。
図1〜
図3に示すスリップリング80は、ロータ40と、このロータ40を回転可能に収容するケース部20と、このロータ40の回転軸と同心円状の環状電極32を有する電極基板30と、ロータ40に設置され電極基板30の環状電極32と接触導通する摺動子50と、を有している。
【0012】
また、スリップリング80を構成するケース部20は、例えば合成樹脂製でモールド成型等により製造され、内側にロータ収容部21を有している。そして、
図3に示すように、ロータ収容部21の一面側には電極基板30が設置され、他面側はロータ40の径よりも小径のロータ受22となっている。
【0013】
また、ロータ40は、例えば合成樹脂製でモールド成型等によって作製され、中心部には軸孔44を有する軸筒42が双方に突出して形成されている。そして、この軸筒42はロータ40の回転軸として機能するとともに電極基板30を貫通し、少なくとも軸孔44が電極基板30から露出する。また、ロータ40には摺動子50が固定するとともに、摺動子50の後部分にはケーブル収容部47が設けられ、摺動子50と接続したケーブル52が収容されるとともに、このケーブル52は軸筒42の周りに形成されたケーブル通し孔48を通して裏面側のコネクタ10と接続する。
【0014】
また、摺動子50は弾性を有する金属薄板で形成されており、ロータ40に環状電極32と同数設置される。また、摺動子50は、弧状を呈し環状電極32と接触導通する摺動部50aと、ロータ40に固定するための固定部50bと、摺動部50aと固定部50bとを繋ぐ連結部50cと、で主に構成され、連結部50cと固定部50bとは所定の角度で屈曲している。尚、摺動子50のロータ40への固定方法に関しては如何なる手法を用いても良いが、固定部50bに穿孔された固定孔にロータ40側の固定突起を挿入し、接着もしくは熱カシメ等により固定することが好ましい。そして、このスリップリング80は本発明の特徴的な構成として、
図4の拡大図に示すように、摺動子50の摺動部50aとロータ40との間に柔軟性と吸水性とを有する緩衝部材82を有している。尚、この緩衝部材82に関しては後に詳述する。
【0015】
また、電極基板30は中央部にロータ40の軸筒42が回転可能に嵌入するロータ孔36を有し、
図2(b)に示すように、ロータ40側の面にロータ孔36(軸孔44)と略同心円状で径の異なる複数の環状電極32がスリップリング80の極数(本例では8つ)形成されている。また、電極基板30の外面側には、
図2(a)に示すように、環状電極32と一対一対応する引出し電極34が形成されている。そして、電極基板30には環状電極32と引出し電極34とを接続するスルーホール38が穿孔され、このスルーホール38を介して環状電極32と引出し電極34とは導通する。また、引出し電極34はスルーホール38’を介して再度ロータ面側に引き出されコネクタ12の各端子にそれぞれ接続する。
【0016】
そして、ロータ40をケース部20のロータ収容部21内に回転自在な状態で収容し、電極基板30で閉塞する。このとき、ロータ40の軸筒42を電極基板30のロータ孔36に回転自在な状態で嵌入する。これにより、ロータ40はケース部20内で回転自在に軸支される。またこのとき、摺動子50の摺動部50aは自身の弾性力と緩衝部材82の弾性力により、対応する環状電極32側に押圧され、環状電極32と摺動子50とは接触導通する。
【0017】
ここで、本発明の特徴である緩衝部材82に関して説明を行う。緩衝部材82は前述のように、回転電子部品の摺動子50の摺動部50aとロータ40との間に設けられ、柔軟性と吸水性とを有している。尚、このとき緩衝部材82と摺動部50aとの接触範囲は
、摺動部50aの先端部分から摺動部50aの半分の位置
とする。
【0018】
そして、摺動部50aはこの緩衝部材82の弾性力により環状電極32側に適度な力で付勢される。これにより、ロータ40の回転に伴う摺動子50の振動は抑制される。これにより、摺動子50の金属疲労は軽減され、回転電子部品の長寿命化を図ることができる。また、緩衝部材82が摺動部50aを保持するため、摺動部50aの横振れ(径方向の振れ)が防止され、この方向への摺動子50の摩耗及び金属疲労が軽減されるとともに、摺動部50aの環状電極32からの脱線を防止することができる。これにより、回転電子部品のさらなる長寿命化と動作信頼性の向上とを図ることができる。
【0019】
また、緩衝部材82は摺動部50aの先端よりも長く構成するとともに、緩衝部材82の一部と環状電極32とが適度に接触するように緩衝部材82の厚みを最適化することが好ましい。また、緩衝部材82には接点グリス等の導電性を損なわない潤滑剤を含侵させることが好ましい。この構成では、緩衝部材82と環状電極32とが接触しながらロータ40が回転することで、緩衝部材82に含浸している潤滑剤が環状電極32面に塗布される。これにより、摺動部50aは滑らかな摺動が可能となる。また、摺動ノイズの抑制とロータ40の回転方向の違いによる摺動部50aの摩耗の偏りを小さくすることができる。これにより、摺動部50aのさらなる摩耗の低減を図ることができる。またさらに、緩衝部材82が環状電極32に接触しながら回転することで、緩衝部材82は環状電極32面を拭くように機能する。これにより、環状電極32上のゴミや塵、ホコリ等は緩衝部材82によって集塵され、異物による摺動部50aへの悪影響を防止することができる。そしてこれらのことにより、本発明は回転電子部品の長寿命化と動作信頼性の向上とを図ることができる。
【0020】
尚、緩衝部材8
2は柔軟性と吸水性とを備え
た合成樹脂製の多孔質素材で構成することが好ましい。ただし、過度に脆い材料では長時間の使用により緩衝部材82自体が摩耗して崩れ、異物の原因となる可能性がある。よって、ある程度の強度と密度を持った材料
を用い、特に平均気孔径が20μm〜50μmで気孔率が70%〜90%、見かけ密度が0.15g/cm
3〜0.25g/cm
3程度のポリウレタン製、もしくはポリビニルアルコール製、もしくはポリオレフィン製の素材を用いることが好ましい。
【0021】
次に、本発明を適用したスリップリング80の動作を簡単に説明する。先ず、スリップリング80のケース部20(電極基板30)側を機器の固定部側に固定する。また、スリップリング80のロータ40側を監視カメラ等の回転部側と軸孔44を介して接続する。これにより、スリップリング80のロータ40は機器の回転部とともに回転する。次に、固定部側の配線を電極基板30のコネクタ12に接続する。また、回転部側の配線をロータ40のコネクタ10に接続する。これにより、固定部側の配線と回転部側の配線とは、コネクタ12、スルーホール38’、引出し電極34、スルーホール38、環状電極32、摺動子50、ケーブル52、コネクタ10を介して電気的に接続する。そして、回転部が回転するとスリップリング80のロータ40が回転し、摺動部50aが環状電極32との導通を維持したまま摺動する。
【0022】
このとき、緩衝部材82が摺動部50aを環状電極32側に適度な弾性力で付勢するとともに摺動部50aを保持する。これにより、摺動部50aの振動が抑制され摺動子50の金属疲労が軽減される。また、摺動部50aの横振れが抑制され環状電極32からの脱線が防止される。さらに、緩衝部材82に潤滑剤を含侵し一部を環状電極32に接触させることで、環状電極32に潤滑剤が塗布される。これにより、摺動部50aの摺動が滑らかとなり接触部分の摩耗をさらに低減することができる。また、緩衝部材82が環状電極32面を拭くように機能する。これにより、環状電極32上の塵等の異物は集塵され、異物による摺動部50aとの接触部分への悪影響を防止することができる。このように、本発明を適用した回転電子部品(スリップリング80)の摺動子は緩衝部材82のサポートにより金属疲労と摩耗とが軽減され、長寿命化と高い動作信頼性とを得ることができる。
【0023】
尚、前述のように本発明はスリップリング80に限定されるものではなく、環状電極と接触導通する摺動子を備えた回転電子部品に適用が可能である。また、本発明は本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0024】
20 ケース部
30 電極基板
32 環状電極
40 ロータ
50 摺動子
50a 摺動部
80 スリップリング(回転電子部品)
82 緩衝部材
【要約】
【課題】摺動子の摩耗及び金属疲労を低減し従来よりも回転寿命を長寿命化した回転電子部品を提供する。
【解決手段】この回転電子部品は、摺動子の摺動部とロータとの間に緩衝部材を設けることで摺動部を環状電極側に適度な弾性力で付勢するとともに摺動部を保持する。これにより、摺動部の振動が抑制され摺動子の金属疲労を軽減することができる。また、緩衝部材に潤滑剤を含侵し一部を環状電極に接触させることで、環状電極に潤滑剤を塗布することができる。これにより、摺動部の摺動が滑らかとなり接触部分の摩耗をさらに低減することができる。また、緩衝部材が環状電極面を拭くように機能するため、環状電極上の塵等の異物は集塵され、異物による接触部分への悪影響を防止することができる。これらのことにより、この回転電子部品は長寿命化と高い動作信頼性とを得ることができる。
【選択図】
図3