(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6943537
(24)【登録日】2021年9月13日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】内燃機関の流体通路接続構造
(51)【国際特許分類】
F01M 1/06 20060101AFI20210927BHJP
F01M 11/02 20060101ALI20210927BHJP
F02F 1/24 20060101ALI20210927BHJP
【FI】
F01M1/06 D
F01M1/06 Q
F01M11/02
F02F1/24 G
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-182191(P2018-182191)
(22)【出願日】2018年9月27日
(65)【公開番号】特開2020-51362(P2020-51362A)
(43)【公開日】2020年4月2日
【審査請求日】2020年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】石本 健二
【審査官】
楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−261614(JP,A)
【文献】
実開平01−046411(JP,U)
【文献】
特開2012−145016(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第102017106066(DE,A1)
【文献】
実開平02−096408(JP,U)
【文献】
実開平05−077523(JP,U)
【文献】
特開平11−081958(JP,A)
【文献】
実開昭59−071907(JP,U)
【文献】
特開2004−150377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/06
F01M 11/02
F02F 1/00〜 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わせて接合されたシリンダヘッド及びシリンダブロックを備え、
前記シリンダヘッド及び前記シリンダブロックの両部材に、前記シリンダヘッド及び前記シリンダブロックの合わせ面と直交した方向から見て互いに重ならない状態にオフセットされた流体通路が形成され、前記シリンダヘッド及び前記シリンダブロックの両方に、前記シリンダヘッド及び前記シリンダブロックの合わせ面と直交した方向から見て、前記シリンダヘッドに形成された第1流体通路と前記シリンダブロックに形成された第2流体通路の両流体通路に重なった連通部が形成されており、
前記連通部は、前記第1流体通路と鈍角を成して交叉した第1傾斜部と、前記第2流体通路と鈍角を成して交叉した第2傾斜部を有し、前記第1傾斜部と前記第1流体通路との連接部、及び、前記第2傾斜部と前記第2流体通路との連接部はそれぞれ湾曲しており、
前記第1流体通路は前記第2流体通路よりも気筒列の外側に位置するようにオフセットされ、前記シリンダヘッドのうち前記第1流体通路の近傍に冷却水ジャケットが形成されており、
前記合わせ面から前記第1傾斜部までの長さは、前記合わせ面から前記第2傾斜部までの長さよりも大きい、
内燃機関の流体通路接続構造。
【請求項2】
前記連通部における前記第1傾斜部及び第2傾斜部の両傾斜部の間の間隔と、前記連通部のオフセット方向の幅である左右幅とは、前記各流体通路の内径の2倍以上の寸法である、
請求項1に記載した内燃機関の流体通路接続構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、内燃機関の流体通路接続構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に
おいて、互いに重なり合った部材に、互いに連通する流体通路を形成することは広く行われている。例えば、オイルパンから圧送されたオイルが流れるオイルギャラリーは、シリンダブロックに設けた部分とシリンダヘッドに設けた部分とが連通するように形成されている。
【0003】
この場合、他の部材のレイアウトの関係などにより、シリンダブロックに形成されている部分とシリンダブロックに形成されている部分とが水平方向にオフセットされる(ずれる)場合がある。このような状況について特許文献1には、シリンダヘッドに形成されている部分をく字形に屈曲させることにより、シリンダヘッドに形成されている部分とシリンダブロックに形成されている部分とを連通させることが開示されている。
【0004】
また、シリンダヘッドの動弁室の底部に流れ落ちたオイルは、シリンダヘッドからシリンダブロックを通じてオイルパンに戻るため、シリンダヘッドとシリンダブロックとに、互いに連通するオイル落とし通路が形成されている。
【0005】
このオイル落とし通路は、シリンダヘッドに形成された部分とシリンダブロックに形成された部分とが一直線に延びている場合もあるが、他の部材との干渉を回避する等のために、シリンダヘッドに形成された部分とシリンダブロックに形成された部分とが水平方向にオフセットされてしまうことがある。
【0006】
そして、オイル落とし通路に関して、特許文献1には、シリンダヘッドに形成されている部分をクランク状に形成することが開示されており、この考え方を敷衍して、シリンダヘッドとシリンダブロックとの合わせ面に水平状の連通部を形成すると、シリンダブロックとシリンダヘッドとにオフセットされた状態に形成されているオイル落とし通路を連通させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017−082639号公報
【特許文献2】特開2000−220425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1にしても特許文献2にしても、オイルの流れ機能は当然に備えているが、特許文献2のようなクランク形状の場合は、特にオイルを圧送するギャラリーに適用した場合に圧損が大きくて、燃費悪化の原因になるという問題がある。
【0009】
他方、特許文献1のように流体通路を屈曲させた場合は、クランク形状に比べると圧損は低減できるが、流れ方向が変化することによる圧損は防止できないため、まだ改良の余地があると云える。また、特許文献1のように屈曲した通路は、加工が面倒になる場合も想定される。
【0010】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、内燃機関の流体通路接続構造に関し、請求項1のとおり、
「重ね合わせて接合された
シリンダヘッド及びシリンダブロックを備え、
前記
シリンダヘッド及び前記シリンダブロックの両部材に、前記
シリンダヘッド及び前記シリンダブロックの合わせ面と直交した方向から見て互いに重ならない状態にオフセットされた流体通路が形成され、前記
シリンダヘッド及び前記シリンダブロックの両方に、前記シリンダヘッド及び前記シリンダブロックの合わせ面と直交した方向から見て
、前記シリンダヘッドに形成された第1流体通路と前記シリンダブロックに形成された第2流体通路の両流体通路
に重なった連通部が形成されており、
前記連通部は、
前記第1流体通
路と鈍角を成して交叉した
第1傾斜部と、
前記第2流体通路と鈍角を成して交叉した第2傾斜部を有し、前記第1傾斜部と前記第1流体通路
との連接部、及び、前記
第2傾斜部と前記
第2流体通路との連接部はそれぞれ湾曲
しており、
前記第1流体通路は前記第2流体通路よりも気筒列の外側に位置するようにオフセットされ、前記シリンダヘッドのうち前記第1流体通路の近傍に冷却水ジャケットが形成されており、
前記合わせ面から前記第1傾斜部までの長さは、前記合わせ面から前記第2傾斜部までの長さよりも大きい」
という構成になっている。
【0012】
本願発明は、請求項2の発明も有する。この発明は、請求項1において、
「
前記連通部における前記第1傾斜部及び第2傾斜部の両傾斜部の間の間隔と、前記連通部のオフセット方向の幅である左右幅とは、前記各流体通路の内径の2倍以上の寸法である」
という構成になってい
る。
【発明の効果】
【0013】
本願発明によると、連通部は第1流体通路及び第2流体通路の総和よりも断面積が大きくて膨れているため、流体の圧送通路に適用した場合、流体は、一方の流体通路から他方の流体通路に流れるにおいて、流れ抵抗を著しく低下させた状態で連通部
において方向変換し、他方の流体通路に流入していく。従って、流体の圧損を極力無くして、燃費の向上に貢献できる。
また、連通部に湾曲部を形成しているため、渦流や乱流を防止した状態でオイルをスムースに方向変換させることができる。
【0014】
本願発明は、オイル落とし通路のように液体が自然流下する流路にも適用できる。この場合も、連通部における流れ抵抗を極力無くすことができるため、液体が連通部に溜まることを防止して、溢れ現象を生じることなく液体をスムースに流下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態を示す図で、(A)は第1実施形態においてシリンダヘッドの一部をクランク軸線と直交した平面で切断した部分断面図、(B)は(A)のB−B視断面図、(C)は他の実施形態を示す図であ
る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1).第1実施形態
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1(A)は、エンジンの長手一側部を、タイミングチェーンが配置されている前部寄りにおいてクランク軸線と直交した平面で切断した部分断面図であり、シリンダブロック1とシリンダヘッド2とに、流体通路の一例として、オイルポンプで圧送されたオイルが流れる上下長手のオイルギャラリー3
が、シリンダヘッド2及びシリンダブロック1の合わせ面9と直交した方向に向かうように形成されている。
【0017】
すなわち、オイルギャラリー3は、シリンダブロック1に形成されている下部ギャラリー4と、シリンダヘッド2に形成されている上部ギャラリー5とで構成されており、オイルは下部ギャラリー4から上部ギャラリー5に流れ
る。
本実施形態では、シリンダヘッド2を第1部材として、シリンダブロック1を第2部材としている。従って、上部ギャラリー5が第1流体通路になって、下部ギャラリー4が第2流体通路になるが、上部ギャラリー5と下部ギャラリー4とは、上部ギャラリー5を外側に位置させた状態で、クランク軸線と直交した左右方向(水平方向)に
、両ギャラリー4,5の内径の2倍弱程
度の寸法Eだけオフセットされている(ずれている。)。
従って、上部ギャラリー5と下部ギャラリー4とは、シリンダヘッド2及びシリンダブロック1の合わせ面9と直交した方向から見て互いに重ならない状態にオフセットされている。
【0018】
そこで、シリンダブロック1と上部ギャラリー5とに、傾斜姿勢の連通部6を形成している。連通部6は、シリンダブロック1に形成されているブロック側連通部7と、シリンダヘッド2に形成されているヘッド側連通部8とから成っているが、ブロック側連通部7の外側面7aは上部ギャラリー5の外側面5aと同一面を成して、ヘッド側連通部8の内側面8aは、下部ギャラリー4の内側面4aと同一面を成している。
【0019】
ブロック側連通部7は、シリンダブロック1の外側に向けて膨らんでいると共に、シリンダブロック1の内部方向に膨らんだ出隅湾曲部7bと、シリンダブロック1の内部方向に凹んだ入り隅湾曲部7cとを有している。下部ギャラリー4とブロック側連通部7とは鈍角を成して交叉している。従って、ブロック側連通部7において、両湾曲部7b,7cの間の部位は
第2傾斜部7dになっており、この
第2傾斜部7dは、シリンダブロック1とシリンダヘッド2との合わせ面9に対して20度程度の角度θ1で傾斜している。
【0020】
逆に、ヘッド側連通部8は、シリンダヘッド2の内側に向けて膨らんでおり、シリンダブロック1の外側に向けて膨らんだ出隅湾曲部8bと、シリンダヘッド2の内部方向に凹んだ入り隅湾曲部8cとを有しており、上部ギャラリー5とヘッド側連通部8とは鈍角を成して交叉している。従って、ヘッド側連通部8においても、両湾曲部8b,8cの間の部位は、シリンダブロック1とシリンダヘッド2との合わせ面9に対して20度程度の角度θ2で傾斜した
第1傾斜部8dになっている。
【0021】
ヘッド側連通部8の傾斜面8dとブロック側連通部7の傾斜面7dとの上下高さHは、上下ギャラリー4,5の内径よりも大きい一方、
上下ギャラリー4,5のオフセット寸法Eが内径の約2倍であるため、連通部6の左右幅
Wは上下ギャラリー4,5の内径の総和よりも大きくなっており、Hと
Wとは、上下ギャラリー4,5の内径の
約3倍の寸法になっている。これは、連通部6が、上下ギャラリー4,5の断面積の総和よりも大きい断面積の膨大部(膨らみ部)になっていることを意味している。
【0022】
上記のとおり、本実施形態ではθ1及びθ2が20°程度に設定されているが、傾斜角度は任意に設定できる。上下の連通部8,7の高さ関係を見ると、ヘッド側連通部8の高さが、ブロック側連通部7の高さよりも大きくなっている。従って、ヘッド側連通部8の容積が、ブロック側連通部7の容積よりも大きくなってい
る。
【0023】
図1に符号10で示すのは、冷却水ジャケットの一部であ
り、外側の冷却水ジャケット10は上部ギャラリー54の近傍に位置している。上部ギャラリー5の上端は、
図1(A)に白抜き矢印で示す方向に開口している。オイルは、この開口部からカムの潤滑部やVVT駆動部などに送られる。
【0024】
(2).まとめ
本実施形態は上記の構成であり、オイルは、連通部6を経由して下部ギャラリー4から上部ギャラリー5に流れていくが、連通部6は体積が大きい膨大部(バッファ部)になっているため、オイルが連通部6で方向変換して流れるにおいて抵抗が増大することはない。従って、圧損をほぼゼロにして、上下のギャラリー4,5が一直線に繋がっているのと同様のスムースな流れを実現できる。これにより、燃費の悪化を防止できる。
【0025】
シリンダブロック1もシリンダヘッド2もアルミのような金属の鋳造品であるが、実施形態のように、シリンダブロック1とシリンダヘッド2との両方に連通部7,8を形成すると、連通部7,8を鋳抜きによって容易に形成できる利点がある。
【0026】
また、鋳造に際しては、ギャラリー4,5及び連通部7,8は、それと同じ形態の砂製中子を鋳型内に配置することによって形成されるが、両ギャラリー4,5及び連通部7,8を形成するための中子の端面は面積が大きくなっているため、中子の安定性を向上できる。この点も、本実施形態の利点の一つである。
【0027】
更に、実施形態のように、連通部7,8に湾曲部7b,7b,8b,8bを形成すると、渦流や乱流を防止した状態で、オイルをスムースに方向変換させることができる。
【0029】
(3).他の実施形態
図1(C)に示す第2実施形態では、連通部6は、クランク軸線方向にも膨らませている。従って、連通部6の容積は第1実施形態よりも大きくなってい
る。
【0032】
本願発明は、上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例え
ば、流体はオイルには限らず、冷却水やEGRガスなども対象になり得る。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本願発明は、接続される流体通路を備えた内燃機関に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0034】
1 シリンダブロック(第2部材)
2 シリンダヘッド(第1部材)
3 流体通路の一例としてのオイルギャラリー
4 下部ギャラリー(第2流体通路)
5 上部ギャラリー(第1流体通路)
6 連通部
7 ブロック側連通部
7d 第2傾斜部
8 ヘッド側連通部
8d 第1傾斜部
9 合わせ面
10 冷却水ジャケット