特許第6943599号(P6943599)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6943599
(24)【登録日】2021年9月13日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】防食構造及び防食方法
(51)【国際特許分類】
   F16B 37/14 20060101AFI20210927BHJP
   C23F 15/00 20060101ALI20210927BHJP
【FI】
   F16B37/14 J
   C23F15/00
   F16B37/14 C
   F16B37/14 Z
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-78780(P2017-78780)
(22)【出願日】2017年4月12日
(65)【公開番号】特開2018-178186(P2018-178186A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年9月7日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104064
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 岳人
(72)【発明者】
【氏名】坂本 達朗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 実
【審査官】 熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−122278(JP,A)
【文献】 特開2002−295435(JP,A)
【文献】 実開平03−081416(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 37/00−39/12
C23F 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結部材を被覆する被覆部材をこの締結部材によって締結される被締結部材に装着し、この締結部材を密封することによってこの締結部材の腐食を防止する防食構造であって、
前記被覆部材が装着される箇所の前記被締結部材の表層から腐食生成物を除去するために、この被締結部材の表層を切削処理した切削処理部を備え、
前記切削処理部は、前記締結部材の中心線を中心としてこの締結部材を囲むように前記被締結部材の表層に一定半径で円周状に形成されており、この被締結部材の表層に存在する腐食生成物よりも深い下層まで切削されており、
前記被覆部材は、前記切削処理部の底面に装着される装着部を備え、
前記被覆部材と前記締結部材との間を密閉するように、これらの間に充填剤が充填されており、この被覆部材の装着部の全面と前記切削処理部の底面とがこの充填剤によって接着されるとともに、前記被覆部材及び前記被締結部材の表面に塗膜が形成されること、
を特徴とする防食構造。
【請求項2】
部材表面上の防食対象部を被覆する被覆部材をこの部材表面に装着し、この防食対象部を密封することによってこの防食対象部の腐食を防止する防食構造であって、
前記被覆部材が装着される箇所の前記部材表面の表層から腐食生成物を除去するために、この部材表面の表層を切削処理した切削処理部を備え、
前記切削処理部は、前記防食対象部の中心線を中心としてこの防食対象部を囲むように前記部材表面の表層に一定半径で円周状に形成されており、この部材表面の表層に存在する腐食生成物よりも深い下層まで切削されており、
前記被覆部材は、前記切削処理部の底面に装着される装着部を備え、
前記被覆部材と前記防食対象部との間を密閉するように、これらの間に充填剤が充填されており、この被覆部材の装着部の全面と前記切削処理部の底面とがこの充填剤によって接着されるとともに、前記被覆部材及び前記部材表面に塗膜が形成されること、
を特徴とする防食構造。
【請求項3】
締結部材を被覆する被覆部材をこの締結部材によって締結される被締結部材に装着し、この締結部材を密封することによってこの締結部材の腐食を防止する防食方法であって、
前記被覆部材が装着される箇所の前記被締結部材の表層から腐食生成物を除去するために、この被締結部材の表層を切削処理する切削処理工程と、
前記被覆部材の装着部を前記切削処理部の底面に装着する装着工程とを含み、
前記切削処理工程は、前記締結部材の中心線を中心としてこの締結部材を囲むように前記被締結部材の表層に一定半径で円周状に形成し、この被締結部材の表層に存在する腐食生成物よりも深い下層まで切削する工程を含み、
前記装着工程は、前記被覆部材と前記締結部材との間を密閉するように、これらの間に充填剤を充填するとともに、この被覆部材の装着部の全面と前記切削処理部の底面とをこの充填剤によって接着する工程を含み、この接着工程の後に、この被覆部材及び前記被締結部材の表面に塗膜が形成されること、
を特徴とする防食方法。
【請求項4】
部材表面上の防食対象部を被覆する被覆部材をこの部材表面に装着し、この防食対象部を密封することによってこの防食対象部の腐食を防止する防食方法であって、
前記被覆部材が装着される箇所の前記部材表面の表層から腐食生成物を除去するために、この部材表面の表層を切削処理する切削処理工程と、
前記被覆部材の装着部を前記切削処理部の底面に装着する装着工程とを含み、
前記切削処理工程は、前記防食対象部の中心線を中心としてこの防食対象部を囲むように前記部材表面の表層に一定半径で円周状に形成し、この部材表面の表層に存在する腐食生成物よりも深い下層まで切削する工程を含み、
前記装着工程は、前記被覆部材と前記防食対象部との間を密閉するように、これらの間に充填剤を充填するとともに、この被覆部材の装着部の全面と前記切削処理部の底面とをこの充填剤によって接着する工程を含み、この接着工程の後にこの被覆部材及び前記部材表面に塗膜が形成されること、
を特徴とする防食方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、締結部材を被覆する被覆部材をこの締結部材によって締結される被締結部材に装着し、この締結部材を密封することによってこの締結部材の腐食を防止する防食構造及び防食方法と、部材表面の防食対象部を被覆する被覆部材をこの部材表面に装着し、この防食対象部を密封することによってこの防食対象部の腐食を防止する防食構造及び防食方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のボルトナットキャップは、ボルト及びナットによって接合される接合部材の表面から突出するボルト先端部及びこのボルト先端部に装着されるナットを被覆する柔軟な合成樹脂製の本体部を備えている(例えば、特許文献1参照)。このような従来のボルトナットキャップは、ボルト先端部及びナットを本体部によって被覆した状態でこの本体部の開口部を接合部材の表面に接着して、このボルト先端部及びナットを密封してこれらの腐食を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-213546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
長期間大気中にさらされる鋼構造物では、塗膜が時間とともに劣化し、放置すると鋼材や締結部材の腐食を誘い鋼構造物の寿命を左右することになる。このため、鋼構造物の塗膜が耐用年数を経過して、塗膜が老化し、き裂、はく離及びさびなどが発生したり、塗膜が著しく変色したり、塗膜劣化現象が生じて鋼構造物自体の劣化が懸念されたりする場合に塗替え塗装を実施している。このような塗替え塗装では、塗装による防食を行う上で最も重要な作業の一つである適切な素地調整(ケレン)を行って塗装を行う必要がある。素地調整の目的は、被塗装面の汚れやさびを除去し塗料が均一に付着できる面を作製することであり、素地調整は塗装下地を作るための作業として、塗装塗膜の仕上がりや塗膜耐久性を左右する重要な作業である。
【0005】
鋼構造物では、塗替え塗装時に鋼材表面上に付着した油脂、汚れ、さびなどの塗料の付着性や防錆性に有害な物質をブラスト法、酸洗い、手動又は動力工具などによって除去する素地調整を実施している。素地調整後に鋼材表面を塗装し、ボルトやナットなどの締結部材には必要に応じてボルトナットキャップを装着している。しかし、鋼材表面上に付着したさびなどを素地調整時に完全に除去することは困難であり、ボルトやナットの表面及びこれらの近傍の鋼材表面にさびが残存する可能性がある。このようなさびが残存した箇所にボルトナットキャップを装着すると、ボルトナットキャップの外部からさびの内部を通過してボルトキャップの内部に水分や酸素が浸入しさびが進行してしまう。その結果、ボルトナットキャップによってボルトやナットが被覆されているにもかかわらず、ボルトやナット及びこれらの近傍の鋼材において、さびが残存する箇所での腐食が進行してしまう問題点がある。
【0006】
この発明の課題は、締結部材の腐食を簡単な構造によって防止することができる防食構造及び防食方法を提供するとともに、防食対象部の腐食を簡単な構造によって防止することができる防食構造及び防食方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、図2及び図4に示すように、締結部材(3)を被覆する被覆部材(5)をこの締結部材によって締結される被締結部材(2)に装着し、この締結部材を密封することによってこの締結部材の腐食を防止する防食構造であって、前記被覆部材が装着される箇所の前記被締結部材の表層から腐食生成物(R)を除去するために、この被締結部材の表層を切削処理した切削処理部(7)を備え、前記切削処理部は、前記締結部材の中心線を中心としてこの締結部材を囲むように前記被締結部材の表層に一定半径で円周状に形成されており、この被締結部材の表層に存在する腐食生成物よりも深い下層まで切削されており、前記被覆部材は、前記切削処理部の底面に装着される装着部(5b)を備え、前記被覆部材と前記締結部材との間を密閉するように、これらの間に充填剤(6)が充填されており、この被覆部材の装着部の全面と前記切削処理部の底面とがこの充填剤によって接着されるとともに、前記被覆部材及び前記被締結部材の表面に塗膜(8)が形成されることを特徴とする防食構造(4)である。
【0008】
請求項2の発明は、図10に示すように、部材表面(9)上の防食対象部(10)を被覆する被覆部材(5)をこの部材表面に装着し、この防食対象部を密封することによってこの防食対象部の腐食を防止する防食構造であって、前記被覆部材が装着される箇所の前記部材表面の表層から腐食生成物(R)を除去するために、この部材表面の表層を切削処理した切削処理部を備え、前記切削処理部は、前記防食対象部の中心線を中心としてこの防食対象部を囲むように前記部材表面の表層に一定半径で円周状に形成されており、この部材表面の表層に存在する腐食生成物よりも深い下層まで切削されており、前記被覆部材は、前記切削処理部の底面に装着される装着部(5b)を備え、前記被覆部材と前記防食対象部との間を密閉するように、これらの間に充填剤(6)が充填されており、この被覆部材の装着部の全面と前記切削処理部の底面とがこの充填剤によって接着されるとともに、前記被覆部材及び前記部材表面に塗膜(8)が形成されることを特徴とする防食構造(4)である。
【0009】
請求項3の発明は、図2図4図8及び図9に示すように、締結部材(3)を被覆する被覆部材(5)をこの締結部材によって締結される被締結部材(2)に装着し、この締結部材を密封することによってこの締結部材の腐食を防止する防食方法であって、前記被覆部材が装着される箇所の前記被締結部材の表層から腐食生成物(R)を除去するために、この被締結部材の表層を切削処理する切削処理工程(#120)と、前記被覆部材の装着部(5b)を前記切削処理部の底面に装着する装着工程(#130)とを含み、前記切削処理工程は、前記締結部材の中心線を中心としてこの締結部材を囲むように前記被締結部材の表層に一定半径で円周状に形成し、この被締結部材の表層に存在する腐食生成物よりも深い下層まで切削する工程を含み、前記装着工程は、前記被覆部材と前記締結部材との間を密閉するように、これらの間に充填剤(6)を充填するとともに、この被覆部材の装着部の全面と前記切削処理部の底面とをこの充填剤によって接着する工程を含み、この接着工程の後に、この被覆部材及び前記被締結部材の表面に塗膜(8)が形成されることを特徴とする防食方法(#100)である。
【0010】
請求項4の発明は、図8及び図10に示すように、部材表面(9)上の防食対象部(10)を被覆する被覆部材(5)をこの部材表面に装着し、この防食対象部を密封することによってこの防食対象部の腐食を防止する防食方法であって、前記被覆部材が装着される箇所の前記部材表面の表層から腐食生成物(R)を除去するために、この部材表面の表層を切削処理する切削処理工程(#120)と、前記被覆部材の装着部(5b)を前記切削処理部の底面に装着する装着工程(#130)とを含み、前記切削処理工程は、前記防食対象部の中心線を中心としてこの防食対象部を囲むように前記部材表面の表層に一定半径で円周状に形成し、この部材表面の表層に存在する腐食生成物よりも深い下層まで切削する工程を含み、前記装着工程は、前記被覆部材と前記防食対象部との間を密閉するように、これらの間に充填剤(6)を充填するとともに、この被覆部材の装着部の全面と前記切削処理部の底面とをこの充填剤によって接着する工程を含み、この接着工程の後にこの被覆部材及び前記部材表面に塗膜(8)が形成されることを特徴とする防食方法(#100)である。
【発明の効果】
【0015】
この発明によると、締結部材の腐食を簡単な構造によって防止することができるとともに、防食対象部の腐食を簡単な構造によって防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明の第1実施形態に係る防食構造が適用される鋼構造物を一例として示す斜視図である。
図2】この発明の第1実施形態に係る防食構造の分解状態を示す斜視図である。
図3】この発明の第1実施形態に係る防食構造の分解状態を示す縦断面図である。
図4】この発明の第1実施形態に係る防食構造の外観図であり、(A)は縦断面図であり、(B)は(A)のIV部分を拡大して示す断面図である。
図5】この発明の第1実施形態に係る防食構造の切削処理部の縦断面図であり、(A)は切削処理部の形成前の状態を示す縦断面図であり、(B)は切削処理部の形成後の状態を示す縦断面図である。
図6】この発明の第1実施形態に係る防食構造の被覆部材の装着後の状態を示す縦断面図である。
図7】この発明の第1実施形態に係る防食構造の被覆部材の塗装後の状態を示す縦断面図である。
図8】この発明の第1実施形態に係る防食方法の工程図である。
図9】この発明の第1実施形態に係る防食方法を説明するための模式図であり、(A)は防食処理前の状態であって被覆部材が装着されていない場合の状態を示す縦断面図であり、(B)は防食処理前の状態であって被覆部材が装着されている場合の状態を示す縦断面図であり、(C)は素地調整工程後の状態を示す縦断面図であり、(D)は切削処理工程後の状態を示す縦断面図であり、(E)は装着工程後の状態を示す縦断面図であり、(F)は塗装工程後の状態を示す縦断面図である。
図10】この発明の第2実施形態に係る防食構造の縦断面図であり、(A)は防食対象部が凸状である場合の縦断面図であり、(B)は防食対象部が凹状である場合の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1に示す鋼構造物1は、鋼材によって構成された固定構造物である。鋼構造物1は、例えば、鉄道車両が走行する線路の下部に空間を確保し列車の荷重を支持する橋梁である。鋼構造物1は、図1に示すように、鋼板と山形鋼とを溶接などによって接合してI形の桁に組み立てた主桁1aを備えており、この主桁1aは主桁1aの下部板を形成する下フランジ1bと、主桁1aの上部板を構成する上フランジ1cと、下フランジ1bと上フランジ1cとを結合する腹板1dなどを備えている。
【0018】
図1及び図2に示す添接板2は、締結部材3によって締結される部材である。添接板2は、鋼構造物1を構成する鋼材同士を突き合わせて接合するときに、この突き合わせ部の側面に接合する継手用の鋼板である。添接板2は、鋼構造物1の現場継手として添接用に用いられる。添接板2は、例えば、一般構造用圧延鋼材、溶接構造用圧延鋼材又は溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材などの鋼材である。
【0019】
図2図7に示す締結部材3は、鋼構造物1に添接板2を締結する部材である。締結部材3は、鋼構造物1及び添接板2の貫通孔に挿入されるボルト3aと、このボルト3aの先端部の雄ねじ部と噛み合いこのボルト3aに装着されるナット3bと、このナット3bと添接板2との間に挟み込まれる座金3cなどを備えている。締結部材3は、例えば、図1に示すように縦横方向に等間隔に複数列及び複数行にわたり複数本配置されている。
【0020】
図1図7に示す防食構造4は、締結部材3を被覆する被覆部材5をこの締結部材3によって締結される添接板2に装着し、この締結部材3を密封することによってこの締結部材3の腐食を防止する構造である。防食構造4は、図1図7に示す被覆部材5と、図3図7に示す充填剤6と、図2図7に示す切削処理部7などを備えている。防食構造4は、被覆部材5と切削処理部7とを充填剤6を介して密着させて、締結部材3の表面をこの被覆部材5によって密封し、この被覆部材5の外部から内部に水分及び酸素が浸入するのを阻止してこの締結部材3の腐食を防止する。
【0021】
図1図7に示す被覆部材5は、締結部材3を被覆する部材である。被覆部材5は、図2図7に示すように、ボルト3a、ナット3b及び座金3cに着脱自在に装着されてこれらの表面を被覆し、これらの表面が腐食するのを防止する。被覆部材5は、締結部材3の表面と嵌合して密着可能なように、この締結部材3の外観形状に沿って凸状に成形されている。被覆部材5は、例えば、軟質塩化ビニル又はエポキシ樹脂などを成形した合成樹脂製のシングルナット用の防錆キャップなどである。被覆部材5は、締結部材3の表面を被覆する本体部5aと、切削処理部7の底面に装着される装着部(フランジ部)5bなどを備えている。被覆部材5は、締結部材3の表面と密着することによって省スペース化を図るとともに締結部材3の緩みを防止する。
【0022】
図3図7に示す充填剤6は、締結部材3と被覆部材5との間に充填する部材である。充填剤6は、被覆部材5の装着部5bと切削処理部7の底面とを接合する接着剤としても機能する。充填剤6は、例えば、常温硬化し弾力性及び耐水性を有するエポキシ系接着剤などである。充填剤6は、被覆部材5の本体部5aの内側に注入されるとともに、装着部5bの表面に均一に塗布される。
【0023】
図3図7に示すさびRは、添接板2及び締結部材3の表面に発生する酸化物又は水酸化物による腐食生成物である。さびRは、主として大気中に触れている鉄表面に生成する水酸化物又は酸化物を主体とする化合物であり、鉄(Fe)が腐食により水酸化鉄(Fe(OH)2)又は含水水酸化鉄(FeOOH)などの化合物になることで生成される。さびRは、塗膜8内に浸入した水分及び酸素と添接板2及び締結部材3の表面との電気化学的な反応によって塗膜8の下層に生成される。
【0024】
図2図7に示す切削処理部7は、被覆部材5が装着される箇所の添接板2の表層からさびRを除去するために、この添接板2の表層を切削処理した部分である。切削処理部7は、図5に示すように、添接板2の表層に存在するさびRよりも深い下層まで切削して形成された凹部である。切削処理部7は、添接板2の表層のさびRを除去するように、この添接板2の表面から所定の深さで形成されている。切削処理部7は、図4に示すように、被覆部材5の装着部5bの幅よりも広い幅で形成されている。切削処理部7は、図2に示すように、締結部材3を囲むように添接板2の表層に形成されている。切削処理部7は、例えば、締結部材3の中心線を中心として添接板2の表面に一定半径で円周状(同心円状)に形成されている。
【0025】
図4及び図7に示す塗膜8は、添接板2及び締結部材3の腐食を防止する塗料によって形成される部分である。塗膜8は、例えば、防食性、耐候性及び景観性などの異なる性能を有する塗料を塗り重ねて形成された複合塗膜である。塗膜8は、添接板2及び締結部材3の表面(被塗装面)上のさびRなどを除去する素地調整(ケレン)が実施された後に、添接板2及び締結部材3の表面に塗布され形成される。塗膜8は、図4に示すように、添接板2及び締結部材3の表面のさびRを素地調整によって完全に除去できなかったときにはこのさびRの表面にも形成される。
【0026】
次に、この発明の第1実施形態に係る防食構造の作用について説明する。
図4に示すように、被覆部材5の装着部5bと切削処理部7とを充填剤6によって接着すると、被覆部材5の内面と締結部材3の表面との間の隙間が密封される。このため、被覆部材5の外部から内部に水分又は酸素が浸入するのをこの被覆部材5が遮断し、締結部材3及びこの締結部材3の近傍の添接板2にさびRが発生するのをこの被覆部材5が防止する。また、図5に示すように、素地調整作業が不十分であり添接板2の表層や締結部材3の表層にさびRが残存していても、被覆部材5が装着される箇所の添接板2の表層のさびRが除去されて切削処理部7が形成される。このため、被覆部材5の装着部5bと切削処理部7とが充填剤6を介して密着し、被覆部材5の外部から内部に水分又は酸素が供給されるのをこの被覆部材5が遮断する。その結果、締結部材3及びこの締結部材3の近傍の添接板2に残存するさびRの進行を被覆部材5が抑制する。
【0027】
次に、この発明の第1実施形態に係る防食方法について説明する。
図8に示す防食方法#100は、締結部材3を被覆する被覆部材5をこの締結部材3によって締結される添接板2に装着し、この締結部材3を密封することによってこの締結部材3の腐食を防止する方法である。防食方法#100は、例えば、鋼構造物1の塗替え塗装時に実施される。防食方法#100は、素地調整工程#110と、切削処理工程#120と、装着工程#130と、塗装工程#140などを含む。
【0028】
素地調整工程#110は、添接板2及び締結部材3の表面からさびRを除去する工程である。素地調整工程#110では、図9(C)に示すように、添接板2及び締結部材3の表面に腐食により形成されている凹凸のさびRを除去して、塗料が均一に付着する塗装下地を形成する。素地調整工程#110では、例えば、ショットブラスト、サンドブラスト、ケレンハンマ、グラインダなどの機械的な処理、又は塩酸、硫酸、リン酸などで酸洗いする化学的処理によって、添接板2及び締結部材3の表面上のさび、油脂、汚れ、その他塗料の付着性や防錆に有害な物質が除去される。素地調整工程#110では、例えば、図9(A)に示すように、添接板2及び締結部材3の表面に塗膜8が形成されているときには、塗膜8をはく離した後に添接板2の表層のさびRを除去する。素地調整工程#110では、例えば、図9(B)に示すように、添接板2及び締結部材3の表面に塗膜8が形成されており、この塗膜8の表面に被覆部材5が装着されているときには、被覆部材5を取り外した後に塗膜8をはく離し添接板2の表層のさびRを除去する。素地調整工程#110では、添接板2及び締結部材3の表面から塗膜8、さびR及び汚れなどが手動又は電動工具を使用して除去される。素地調整工程#110では、素地調整作業によって添接板2の表面から鋼材が露出したときに、この露出箇所のみを塗装するタッチアップ作業がこの素地調整作業と並行して実施される。図9(C)に示す素地調整工程#110では、添接板2及び締結部材3の表面の一部にさびRが残存している。
【0029】
切削処理工程#120は、被覆部材5が装着される箇所の添接板2の表層からさびRを除去するために、この添接板2の表層を切削処理する工程である。切削処理工程#120では、締結部材3を囲むように添接板2の表層を切削する。切削処理工程#120では、図5及び図9(D)に示すように、素地調整工程#110後の添接板2の表層を締結部材3の中心線を中心として同心円状に切削し、所定深さの凹状の切削処理部7をこの添接板2の表面に形成する。
【0030】
装着工程#130は、被覆部材5によって締結部材3を被覆した状態でこの被覆部材5を添接板2に装着する工程である。装着工程#130では、図3に示すように、被覆部材5の本体部5aの内部に充填剤6を注入するとともに、この被覆部材5の装着部5bに充填剤6を均一に塗布した後に、被覆部材5の内部から外部に空気が逃げるように、この被覆部材5を締結部材3に被せる。装着工程#130では、図4及び図9(E)に示すように、切削処理工程#120後の切削処理部7の底面に被覆部材5の装着部5bの全面を押圧して、装着部5bの全周から充填剤6がはみ出すまで被覆部材5と切削処理部7とを密着させる。その結果、装着工程#130では、図6に示すように、切削処理部7の底面と被覆部材5の装着部5bとが充填剤6によって接着されて、被覆部材5が添接板2に装着される。
【0031】
塗装工程#140は、添接板2及び被覆部材5の表面を塗装する工程である。塗装工程#140では、図7及び図9(F)に示すように、装着工程#130後の添接板2及び被覆部材5の表面に塗料を塗布して、これらの表面に複数層(例えば3〜4層)の塗膜8を形成する。塗装工程#140では、素地調整工程#110において完全に除去不可能なさびRが残存する添接板2及び締結部材3の表面にも塗膜8が形成されている。
【0032】
この発明の第1実施形態に係る防食構造及び防食方法には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、被覆部材5が装着される箇所の添接板2の表層からさびRを除去するために、この添接板2の表層を切削処理して切削処理部7が形成されている。このため、被覆部材5を装着する箇所の添接板2の表層に存在するさびRを切削処理によって完全に除去することができる。その結果、締結部材3及びこの締結部材3の近傍の添接板2にさびRが発生するのを防止することができるとともに、締結部材3及びこの締結部材3の近傍の添接板2に残存するさびRが進行するのを抑制することができる。
【0033】
(2) この第1実施形態では、切削処理部7が締結部材3を囲むように添接板2の表層に形成されている。このため、被覆部材5の装着部5bと接合する部分の添接板2そのものを削り落とし、被覆部材5と添接板2との間を密閉して被覆部材5によって締結部材3を密封することができる。その結果、被覆部材5の内部に外部から水分又は酸素が浸入するのを防止し、素地調整作業では完全に除去できないさびRの成長を抑制することができる。
【0034】
(第2実施形態)
以下では、図1図9に示す部分と同一の部分については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
図10に示す防食構造4は、部材表面9の防食対象部10を被覆する被覆部材5をこの部材表面9に装着し、この防食対象部10を密封することによってこの防食対象部10の腐食を防止する構造である。防食構造4は、被覆部材5と切削処理部7とを充填剤6を介して密着させて、防食対象部10の表面をこの被覆部材5によって密封し、この被覆部材5の外部から内部に水分及び酸素が浸入するのを阻止してこの防食対象部10の腐食を防止する。
【0035】
被覆部材5は、防食対象部10を被覆する部材である。被覆部材5は、防食対象部10に着脱自在に装着されてこの防食対象部10の表面を被覆し、この防食対象部10の表面が腐食するのを防止する。被覆部材5は、防食対象部10の表面と嵌合して密着可能なように、この締結部材3の外観形状に沿って凸状又は凹状に形成されている。被覆部材5は、防食対象部10の表面を被覆する本体部5aと、切削処理部7の底面に装着される装着部5bなどを備えている。充填剤6は、防食対象部10と被覆部材5との間に充填する部材である。
【0036】
さびRは、部材表面9及び防食対象部10の表面に発生する酸化物又は水酸化物による腐食生成物である。さびRは、塗膜8内に浸入した水分及び酸素と部材表面9及び防食対象部10の表面との電気化学的な反応によって塗膜8の下層に生成される。
【0037】
切削処理部7は、被覆部材5が装着される箇所の部材表面9の表層からさびRを除去するために、この部材表面9の表層を切削処理した部分である。切削処理部7は、部材表面9の表層に存在するさびRよりも深い下層まで切削して形成された凹部である。切削処理部7は、部材表面9の表層のさびRを除去するように、この部材表面9の表面から所定の深さで形成されている。切削処理部7は、防食対象部10を囲むように部材表面9の表層に形成されている。切削処理部7は、例えば、防食対象部10の中心線を中心として部材表面9の表面に一定半径で円周状(同心円状)に形成されている。
【0038】
塗膜8は、部材表面9及び防食対象部10の腐食を防止する塗料によって形成される部分である。塗膜8は、部材表面9及び防食対象部10の表面(被塗装面)上のさびRなどを除去する素地調整(ケレン)が実施された後に、部材表面9及び防食対象部10の表面に塗布され形成される。塗膜8は、図4に示すように、部材表面9及び防食対象部10の表面のさびRを素地調整によって完全に除去できなかったときにはこのさびRの表面にも形成される。
【0039】
部材表面9は、防食対象部10を表面に有する部材である。部材表面9は、例えば、金属、合成樹脂、木材又はコンクリートなどの構造物の表面である。防食対象部10は、被覆部材5によって被覆される部分である。防食対象部10は、例えば、さびRが発生する金属製の部材である。防食対象部10は、部材表面9と別部材であり、配管、鉄筋又は溶接部などである。防食対象部10は、10(A)に示すように、部材表面9から突出する凸状部分、又は図10(B)に示すように部材表面9から後退する凹状部分である。
【0040】
次に、この発明の第2実施形態に係る防食方法について説明する。
図8に示す防食方法#100は、部材表面9上の防食対象部10を被覆する被覆部材5をこの防食対象部10によって締結される部材表面9に装着し、この防食対象部10を密封することによってこの防食対象部10の腐食を防止する方法である。
【0041】
素地調整工程#110は、部材表面9及び防食対象部10の表面からさびRを除去する工程である。素地調整工程#110では、図9(C)に示すように、添接板2及び締結部材3の表面に腐食により形成されている凹凸のさびRを除去して、塗料が均一に付着する塗装下地を形成する。素地調整工程#110では、部材表面9及び防食対象部10の表面の一部にさびRが残存している。
【0042】
切削処理工程#120は、被覆部材5が装着される箇所の部材表面9の表層からさびRを除去するために、この部材表面9の表層を切削処理する工程である。切削処理工程#120では、防食対象部10を囲むように部材表面9の表層を切削する。
【0043】
装着工程#130は、被覆部材5によって防食対象部10を被覆した状態でこの被覆部材5を部材表面9に装着する工程である。装着工程#130では、被覆部材5の本体部5aの内部に充填剤6を注入するとともに、この被覆部材5の装着部5bに充填剤6を均一に塗布した後に、この被覆部材5を防食対象部10に被せる。装着工程#130では、切削処理部7の底面と被覆部材5の装着部5bとが充填剤6によって接着されて、被覆部材5が部材表面9に装着される。
【0044】
塗装工程#140は、部材表面9及び防食対象部10の表面を塗装する工程である。塗装工程#140では、装着工程#140後の部材表面9及び防食対象部10の表面に塗料を塗布して、これらの表面に塗膜8を形成する。塗装工程#140では、素地調整工程#110において完全に除去不可能なさびRが残存する部材表面9及び防食対象部10の表面にも塗膜8が形成されている。
【0045】
この発明の第2実施形態に係る防食構造及び防食方法には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第2実施形態では、被覆部材5が装着される箇所の部材表面9の表層からさびRを除去するために、この部材表面9の表層を切削処理して切削処理部7が形成されている。このため、被覆部材5を装着する箇所の部材表面9の表層に存在するさびRを切削処理によって完全に除去することができる。その結果、防食対象部10にさびRが発生するのを防止することができるとともに、防食対象部10に残存するさびRが進行するのを抑制することができる。
【0046】
(2) この第2実施形態では、切削処理部7が防食対象部10を囲むように部材表面9の表層に形成されている。このため、被覆部材5の装着部5bと接合する部分の部材表面9そのものを削り落とし、被覆部材5と部材表面9との間を密閉して被覆部材5によって防食対象部10を密封することができる。その結果、被覆部材5の内部に外部から水分又は酸素が浸入するのを防止し、素地調整作業では完全に除去できないさびRの成長を抑制することができる。
【0047】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、被覆部材5と締結部材3との間の隙間、被覆部材5と防食対象部10との間の隙間に充填剤6を充填する場合を例に挙げて説明したが、これらの隙間に充填剤6を充填せずに被覆部材5の装着部5bと切削処理部7の底部との間にのみ充填剤6を塗布してこれらを接着する場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、被覆部材5の表面の全部に塗料を塗布して塗膜8を形成する場合を例に挙げて説明したが、被覆部材5の表面の一部に塗料を塗布して塗膜8を形成する場合についても、この発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、締結部材3及びこの締結部材3の近傍の添接板2にさびRが発生する場合や、防食対象部10及びこの防食対象部10の近傍の部材表面9に錆Rが発生する場合を例に挙げて説明したが、これらのいずれか一方のみにさびRが発生する場合についても、この発明を適用することができる。
【0048】
(2) この実施形態では、装着工程#130において締結部材3に被覆部材5を被せた後に、塗装工程#140において被覆部材5の表面に塗膜8を形成しているが、塗装工程#140において締結部材3の表面に塗膜8を形成した後に、装着工程#130において締結部材3の塗膜8の表面に被覆部材5を被せる場合についても、この発明を適用することができる。また、この第1実施形態では、締結部材3がボルト3a及びナット3bである場合を例に挙げて説明したが、ねじ又はリベットなどの他の締結部材についても、この発明を適用することができる。さらに、この第1実施形態では、ボルト3aの頭部及びナット3bをシングルナット用の被覆部材5によって被覆する場合を例に挙げて説明したが、このような用途の被覆部材5に限定するものではない。例えば、ボルト3aの頭部のみを被覆するボルト頭部用の被覆部材、ナット3bのみを被覆するナット用の被覆部材、又は二重ナット又を被覆するダブルナット用の被覆部材5の場合についても、この発明を適用することができる。
【0049】
(3) この第1実施形態では、塗替え塗装時に切削処理する場合を例に挙げて説明したが、新設時に切削処理する場合についても、この発明を適用することができる。例えば、工場組立後に現場で仮置きしている期間が比較的長い場合であって、締結部材3及びこの締結部材3の近傍の添接板2にさびRが発生しているときには、新設の現場施工時に切削処理を実施することもできる。また、この第2実施形態では、防食対象部10と部材表面9とが別部材である場合を例に挙げて説明したが、防食対象部10と部材表面9とが一体である場合についても、この発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 鋼構造物
2 添接板(被締結部材)
3 締結部材
3a ボルト
3b ナット
3c 座金
4 防食構造
5 被覆部材
5a 本体部
5b 装着部
6 充填剤
7 切削処理部
8 塗膜
9 部材表面
10 防食対象部
R さび(腐食生成物)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10