【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明する。本発明は、その要旨を越えない限りこれらの実施例により限定するものではない。
【0038】
図1で示す熱接着テープ1を作製し、評価を行った。なお実施条件および評価結果を下記表1に示す。
〔熱接着テープ1の作製〕
(実施例1)
本実施例では、剥離ライナー2として、厚さ120μmのものを用いた。そして剥離ライナー2の一方の面側に接着層3を以下のようにして形成した。
まず溶剤として酢酸エチルを用い、この溶剤に分岐構造を有するアクリルニトリル−ブタジエンゴム、フェノール樹脂、過酸化物、およびフェノール樹脂架橋剤を投入し撹拌することで溶解させ、固形分濃度40質量%の接着層用溶液を作製した。このとき分岐構造を有するアクリルニトリル−ブタジエンゴムとしては、日本ゼオン株式会社製のNipol(登録商標)1001LGを用いた。またフェノール樹脂としては、荒川化学工業株式会社製のタマノル(登録商標)531を用いた。なお、タマノル531にはフェノール樹脂架橋剤として、ヘキサメチレンテトラミン(ヘキサミン)が9質量%含まれる。また、分岐構造を有するアクリルニトリル−ブタジエンゴムとフェノール樹脂との質量比率は、100/120とした。また過酸化物としては、日油株式会社製のナイパーBMTを用いた。
【0039】
下記化3式の一般式(2)は、ナイパーBMTの構造式である。また、下記化4式の一般式(3)は、ナイパーBMTを加熱して分解させたときの反応式であって、ナイパーBMTの一部の構造である過酸化ベンゾイルが分解したときの反応式である。一般式(3)における過酸化ベンゾイルを加熱すると、酸素−酸素結合が開裂してフェニルラジカルが過酸化ベンゾイルに対して2当量生成し、各々のフェニルラジカルは、安息香酸になる。つまり、過酸化ベンゾイルを熱分解すると、この過酸化ベンゾイルに対して酸が2当量発生する。また、一般式(2)におけるナイパーBMTの他の一部の構造であるベンゾイル−m−メチルベンゾイルペルオキシドを熱分解すると、このベンゾイル−m−メチルベンゾイルペルオキシドに対して酸が2当量発生する。また、一般式(2)におけるナイパーBMTのさらに他の一部の構造であるm−トルオイルペルオキシドを熱分解すると、このm−トルオイルペルオキシドに対して酸が2当量発生する。すなわち、ナイパーBMTを熱分解すると、このナイパーBMTに対して酸が2当量発生する。
なお、ナイパーBMTの半減期温度は、131℃である。また接着層3は、アクリルニトリル−ブタジエンゴムを100質量部としたときに、ナイパーBMTを3質量部含むようにした。
【0040】
【化3】
【0041】
【化4】
【0042】
そして剥離ライナー2の上に接着層用溶液を塗布し、乾燥させることにより接着層3を形成した。そして接着層3の厚さを50μmとした。
以上の工程により本実施例の熱接着テープ1を作製した。
【0043】
(実施例2〜8)
実施例1に対し、表1に示すように変更を行なった以外は、実施例1と同様にして熱接着テープ1を作製した。
つまり実施例2、3、6では、接着層3に含まれる過酸化物の種類を変更したものを使用した。具体的には、実施例2では、日油株式会社製のパーブチルOを使用した。下記化5式の一般式(4)は、パーブチルOとしての2−エチルヘキサノイル−t−ブチルペルオキシドの構造式である。一般式(4)における2−エチルヘキサノイル−t−ブチルペルオキシドを加熱すると、酸素−酸素結合が開裂してラジカルが2−エチルヘキサノイル−t−ブチルペルオキシドに対して1当量生成し、このラジカルは、カルボン酸になる。つまり、パーブチルOを熱分解すると、このパーブチルOに対して酸が1当量発生する。なお、パーブチルOの半減期温度は、134℃である。また接着層3は、アクリルニトリル−ブタジエンゴムを100質量部としたときに、パーブチルOを3質量部含むようにした。
【0044】
【化5】
【0045】
また実施例3では、日油株式会社製のパーブチルZを使用した。下記化6式の一般式(5)は、パーブチルZとしてのt−ブチルベンゾイルペルオキシドの構造式である。一般式(5)におけるt−ブチルベンゾイルペルオキシドを加熱すると、酸素−酸素結合が開裂してラジカルがt−ブチルベンゾイルペルオキシドに対して1当量生成し、このラジカルは、カルボン酸になる。つまり、パーブチルZを熱分解すると、このパーブチルZに対して酸が1当量発生する。なお、パーブチルZの半減期温度は、167℃である。また接着層3は、アクリルニトリル−ブタジエンゴムを100質量部としたときに、パーブチルZを3質量部含むようにした。
【0046】
【化6】
【0047】
また実施例6では、日油株式会社製のパーロイルLを使用した。下記化7式の一般式(6)は、パーロイルLとしてのジドデカノイルペルオキシドの構造式である。一般式(6)におけるジドデカノイルペルオキシドを加熱すると、酸素−酸素結合が開裂してラジカルがジドデカノイルペルオキシドに対して2当量生成し、各々のラジカルは、カルボン酸になる。つまり、パーロイルLを熱分解すると、このパーロイルLに対して酸が2当量発生する。なお、パーロイルLの半減期温度は、116℃である。また接着層3は、アクリルニトリル−ブタジエンゴムを100質量部としたときに、パーロイルLを3質量部含むようにした。
【0048】
【化7】
【0049】
また実施例4、5では、接着層3に含まれる過酸化物の量を変更した。具体的には、実施例4では、アクリルニトリル−ブタジエンゴムを100質量部としたときに、ナイパーBMTを0.4質量部含むようにした。また実施例5では、アクリルニトリル−ブタジエンゴムを100質量部としたときに、ナイパーBMTを6質量部含むようにした。
【0050】
また実施例7、8では、接着層3の厚さを変更した。具体的には、実施例7では、接着層3の厚さを25μmとした。さらに、実施例8では、接着層3の厚さを200μmとした。
【0051】
(比較例1〜3)
実施例1に対し、表1に示すように変更を行なった以外は、実施例1と同様にして熱接着テープ1を作製した。
つまり比較例1では、接着層3に過酸化物が含まれていない。
また、比較例2では、過酸化物の代わりとしての安息香酸が接着層3に含まれている。具体的には、アクリルニトリル−ブタジエンゴムを100質量部としたときに、安息香酸を3質量部含むようにした。
また、比較例3では、過酸化物として、日油株式会社製のパーヘキシル(登録商標)Iを使用した。下記化8式の一般式(7)は、パーヘキシルIとしてのt−ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネートの構造式である。一般式(7)におけるt−ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネートを加熱すると、ラジカルおよび二酸化炭素が生成するが、酸は発生しない。なお、パーヘキシルIの半減期温度は、155℃である。また接着層3は、アクリルニトリル−ブタジエンゴムを100質量部としたときに、パーヘキシルIを3質量部含むようにした。
【0052】
【化8】
【0053】
【表1】
【0054】
実施例1〜8および比較例1〜3についての評価として、保管前の熱接着テープについての接着力の評価(保管前接着力評価)、および、保管前の熱接着テープについての不溶解分の評価(保管前不溶解分評価)を行った。また、保管後の熱接着テープについての接着力の評価(保管後接着力評価)、および、保管後の熱接着テープについての不溶解分の評価(保管後不溶解分評価)を行った。
【0055】
〔保管前接着力評価の方法〕
実施例1〜8および比較例1〜3の熱接着テープについての接着力の評価として、熱接着テープに剪断力を加え、これに対する接着力を評価した。
具体的には、2枚のガラスクロスを用意し、この2枚のガラスクロスで熱接着テープを挟み、加熱圧着により、2枚のガラスクロスを熱接着テープで接合した。評価に使用したガラスクロスの厚さは0.17mm、破断強度は約300N/10mmである。
なお、2通りの加熱圧着の条件により、ガラスクロスを熱接着テープで接合したものを準備した。具体的には、160℃、1.47×10
5N/m
2の圧力で20秒間押圧を行ってガラスクロスを熱接着テープで接合したものと、170℃、1.47×10
5N/m
2の圧力で10秒間押圧を行ってガラスクロスを熱接着テープで接合したものとを準備した。
【0056】
そして、作製した被着体である2枚のガラスクロスを引張速度200mm/分で引っ張り、この条件においてガラスクロスと熱接着テープとの間に剥がれが生じる前にガラスクロスが破壊されるか否かで剪断力に対する接着力の評価を行なった。即ち、接着力については、ガラスクロスと熱接着テープとの間で剥がれが生じる前に、ガラスクロスが破壊されたときは剪断力がガラスクロスの破断強度より大きいことを意味するため、このときに合格の評価とし、剥がれが生じたときに不合格の評価とした。
【0057】
〔保管前不溶解分評価の方法〕
また、実施例1〜8および比較例1〜3の熱接着テープについての、加熱圧着時において接着層が硬化する速度の評価として、加熱圧着後における熱接着テープの不溶解分を評価した。ここで、熱接着テープの不溶解分とは、熱接着テープの全重量に対する、熱接着テープのうちの溶剤に溶解していない分の重量の割合を意味する。
酸とフェノール樹脂とが反応して生成する生成物は、溶剤に対して不溶の性質を有する。そのため、加熱圧着後における熱接着テープの不溶解分が多いほど、加熱圧着時においてより多くの酸が発生し、反応が進行したと考えられる。加熱圧着時において発生した酸の量が多いほど、接着層が硬化する速度がより速まる。
【0058】
加熱圧着後の熱接着テープの不溶解分の具体的な評価方法として、まず、ポリエチレンテレフタレートからなる剥離ライナーを2枚用意し、この2枚の剥離ライナーで熱接着テープを挟み、加熱圧着により、2枚の剥離ライナーを熱接着テープで接合した。
なお、加熱圧着の条件は、保管前接着力評価における加熱圧着の条件と同様のものとした。すなわち、160℃、1.47×10
5N/m
2の圧力で20秒間押圧を行って剥離ライナーを熱接着テープで接合したものと、170℃、1.47×10
5N/m
2の圧力で10秒間押圧を行って剥離ライナーを熱接着テープで接合したものとを準備した。
【0059】
続いて、熱接着テープから剥離ライナーを剥がし、剥離ライナーを剥がしたこの熱接着テープの重量を測定し、測定値をW1とした。なお、熱接着テープの重量としては、およそ0.1g〜0.2gのものを用いた。
その後、この熱接着テープを溶剤としての10g〜20gのメチルエチルケトンに浸漬し、ミックスローターで24時間攪拌させた。続いて、ステンレスメッシュを用いて溶液を濾過し、熱接着テープの不溶解分を抽出した。ステンレスメッシュは、100meshのものを用いた。なお、このメッシュの未使用時における重量を、重量W2とする。
その後、熱接着テープの不溶解分が残存しているメッシュを、防爆型乾燥機により80℃の環境下で乾燥させ、その後放冷した。続いて、このメッシュの重量を測定し、測定値をW3とした。そして、((W3−W2)/W1)から算出される不溶解分を評価した。なお、実施例1〜8および比較例1〜3の熱接着テープについて、加熱圧着前の不溶解分は、何れも0%であった。
【0060】
〔保管後接着力評価の方法〕
また、実施例1〜8および比較例1〜3の熱接着テープについての、一定期間の保管後における接着力について評価した。
具体的には、実施例1〜8および比較例1〜3の熱接着テープについて、これらの熱接着テープの作製後、80℃の環境下で1週間保管した。そして、保管前接着力評価の方法と同様の条件での加熱圧着により、2枚のガラスクロスを保管後の熱接着テープで接合し、被着体である2枚のガラスクロスに対して剪断力を加え、これに対する接着力の評価を行った。
【0061】
〔保管後不溶解分評価の方法〕
さらに、熱接着テープを加熱圧着せずに保管しているときにおける接着層の硬化の程度を評価するために、実施例1〜8および比較例1〜3の熱接着テープについての、一定期間の保管後における不溶解分を評価した。
熱接着テープの保管後における不溶解分が多いほど、保管時に、接着層に含まれる過酸化物からより多くの酸が発生し、反応が進行していると考えられる。保管時に多くの酸が発生するほど、加熱圧着前において接着層が硬化する程度が大きくなる。
【0062】
熱接着テープの保管後における不溶解分の具体的な評価方法として、実施例1〜8および比較例1〜3の熱接着テープについて、これらの熱接着テープの作製後に80℃の環境下で1週間保管し、この保管後の熱接着テープの重量をW4とした。
その後、保管前不溶解分評価の方法と同様の方法により、ステンレスメッシュを用いて熱接着テープの不溶解分を抽出した。ただし、保管後不溶解分評価では、保管時において酸が発生した量を評価するため、保管前不溶解分評価とは異なり、加熱圧着していない熱接着テープの不溶解分を抽出している。
そして、メッシュの未使用時における重量を重量W5、熱接着テープの不溶解分が残存しているメッシュの重量を重量W6として、((W6−W5)/W4)から算出される不溶解分を評価した。
【0063】
〔評価結果〕
接着力の評価結果を表1に示す。
表1に示すように、実施例1〜8の熱接着テープ1については、いずれの条件による加熱圧着で作製したものも、保管前の接着力、1週間保管後の接着力のそれぞれに対し全て合格であった。
また、実施例1〜8の熱接着テープ1については、いずれの条件による加熱圧着で作製したものも、保管前の不溶解分が大きく増加しており、加熱圧着時の接着層3の硬化が促進されていると考えられる。さらに、1週間保管後の熱接着テープ1についての不溶解分の増加が抑制されており、保管時の接着層3の硬化が進みにくくなっていると考えられる。
【0064】
対して比較例1および比較例3では、保管前の熱接着テープについて、接着層で凝集破壊が起こり熱接着テープの剥がれが生じた。また、この比較例1および比較例3では、保管前の熱接着テープについて、加熱圧着後の不溶解分が殆ど増加しなかった。
これについて、比較例1では、過酸化物をそもそも用いておらず、また比較例3では、過酸化物は用いているもののこの過酸化物は分解することに起因して酸を発生させない。そのため、この比較例1および比較例3では、いずれも、熱接着テープの加熱圧着の際に酸が発生せず、フェノール樹脂の架橋が十分に進行しておらず、接着層の硬化が不十分であり、これにより、被着体に対する熱接着テープの接着力が十分に得られなかったものと考えられる。
【0065】
また比較例2では、保管前の熱接着テープについての接着力については合格であったが、1週間保管後の熱接着テープについて、被着体で界面破壊が起こり熱接着テープの剥がれが生じた。また、この比較例2では、保管前の熱接着テープについて、加圧圧着後における不溶解分が大きく増加したが、その一方で、1週間保管後の熱接着テープについての不溶解分が大きく増加していた。
これは、熱接着テープを1週間保管している間に、安息香酸とフェノール樹脂とが反応してフェノール樹脂の架橋が進行し、接着層の硬化が進行したものと考えられる。そして、この接着層の硬化が十分に進んだ後に被着体を熱接着テープに加熱圧着しても、被着体に対する熱接着テープの接着力が十分に得られなかったものと考えられる。
【0066】
実施例1〜8および比較例1〜3の結果により、熱接着テープ1の接着層3に、分解することに起因して酸を発生させる過酸化物を含有させることが必要であると確認された。